概要: 雇用保険は原則としてすべての労働者が加入すべき制度ですが、ダブルワークや個人事業主、外国人労働者など、特定のケースでは加入条件が複雑になることがあります。本記事では、雇用保険の基本から、様々な状況における加入条件や注意点、確認方法までを分かりやすく解説します。
雇用保険の加入条件と注意点:ダブルワークや個人事業主でも知っておくべきこと
雇用保険は、働く人々の生活の安定と雇用の促進を目的とした、国が運営する重要な社会保険制度です。
正社員だけでなく、パートやアルバイト、契約社員など、さまざまな雇用形態の人が一定の条件を満たせば加入対象となります。
しかし、ダブルワークをしている場合や、個人事業主・法人の代表者として働いている場合、雇用保険の扱いは少し複雑になることがあります。
この記事では、雇用保険の基本的な加入条件から、ダブルワークや個人事業主が知っておくべき注意点、外国人従業員に関する情報、そして万が一未加入だった場合の対応まで、詳しく解説していきます。
ご自身の働き方に合わせて、雇用保険の制度を正しく理解し、安心して働き続けられるように準備しましょう。
雇用保険の基本:加入は「絶対加入」が原則
雇用保険の目的と主な加入条件
雇用保険は、失業した場合の生活保障だけでなく、育児休業給付や介護休業給付、教育訓練給付金など、働く期間中のさまざまなライフイベントを支援する多岐にわたる目的を持っています。
この制度に加入するための主な条件は、以下の3つです。
- 雇用期間が31日以上見込まれること: 期間の定めがない雇用はもちろん、契約更新の予定が明確で31日以上の雇用が見込まれる場合も含まれます。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること: 雇用契約書や就業規則に定められた、通常の週の勤務時間が基準となります。
- 学生でないこと: 全日制の昼間学生は原則として加入対象外ですが、休学中や卒業後も同じ事業所で勤務を続ける予定がある場合は加入できることがあります。
これらの条件は、雇用形態(正社員、パート、アルバイトなど)に関わらず共通して適用されます。
例えば、週に20時間以上働き、31日以上の雇用が見込まれるアルバイトの方も、雇用保険の加入対象となるわけです。
加入は事業主・労働者の意思に関わらず義務
上記の加入条件を満たした場合、事業主も労働者も、個人の意思に関係なく雇用保険への加入が法律で義務付けられています。
これは、労働者の生活の安定を守るための公的な制度であり、特定の労働者だけが加入しないといった選択は認められません。
事業主は、従業員が加入条件を満たした時点で、速やかにハローワークで加入手続きを行う義務があります。
もし事業主が手続きを怠った場合、法律違反となり、労働者側からの申し出があれば過去に遡って加入させられるだけでなく、場合によっては行政指導や罰則の対象となる可能性もあります。
労働者にとっても、万が一の失業時や育児・介護休業時に給付金を受け取れる重要なセーフティネットとなるため、自身の加入状況を確認しておくことが大切です。
令和7年度の雇用保険料率と計算方法
雇用保険料は、事業主と労働者がそれぞれ負担し、賃金総額に定められた保険料率を掛けて算出されます。
令和7年度(2025年4月1日~2026年3月31日)の雇用保険料率は、前年度から引き下げられることが決定しました。
これは、経済の回復により失業者が減少したことなどが要因とされています。
| 事業の種類 | 労働者負担 | 事業主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業(農林水産業・清酒製造業、建設業以外) | 0.55% | 0.90% | 1.45% |
| 農林水産業・清酒製造業 | 0.65% | 1.00% | 1.65% |
| 建設業 | 0.65% | 1.10% | 1.75% |
「賃金総額」とは、基本給のほか、各種手当(通勤手当、住宅手当など)、残業代、賞与など、税金や社会保険料を控除する前のすべての給与が含まれます。
例えば、一般の事業で月収30万円の場合、労働者負担分は30万円 × 0.55% = 1,650円となります。
雇用保険料は、給与明細で毎月確認することができますので、ご自身の負担額を把握しておきましょう。
ダブルワークの場合の雇用保険、加入条件は?
複数の職場で働く場合の加入原則
近年増加しているダブルワーク(副業)の場合でも、雇用保険の加入条件は単一の職場で働く場合と同様に適用されます。
つまり、それぞれの職場で「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用見込み」という条件を満たせば、理論上は複数の職場で加入資格があることになります。
しかし、雇用保険の特性上、同時に2つの職場で雇用保険に加入することはできません。
雇用保険の加入先は、原則として「主たる職場」の1つに限定されます。
主たる職場とは、一般的に労働時間が最も長い職場、または収入が最も多い職場を指します。
複数の職場で条件を満たした場合、労働者自身がどちらを主たる職場として選択するか、あるいは事業主間で協議して決定することが求められる場合もあります。
失業保険受給中の副業ルールと注意点
ダブルワークをしている方が失業して失業保険(基本手当)を受け取る場合、いくつか厳格なルールがあります。
これらのルールを破ると、給付が停止されたり、不正受給とみなされてペナルティが課されたりする可能性があるため、十分な注意が必要です。
主な条件は以下の通りです。
- 待機期間中はもう一方の仕事をしないこと: 失業保険の受給開始には7日間の待機期間があり、この期間中に一切の労働や収入を得る活動をしてはいけません。
- 給付期間中は、もう一方の仕事に充てる時間を1日4時間未満にすること: 1日に4時間以上の労働を行うと、その日は「就職または就労」とみなされ、失業保険の支給対象外となります。
- もう一方の仕事に充てる時間を週20時間未満にすること: 週に20時間以上の労働は「継続した就労」と判断され、新たな雇用保険の加入義務が発生するため、失業状態ではないとみなされ、失業保険の支給が停止される可能性があります。
失業保険の受給中に副業で収入を得た場合は、必ず失業認定日にハローワークに申告しなければなりません。
申告せずに収入を得ていたことが発覚した場合、不正受給となり、給付金の返還はもちろん、罰金や今後の受給資格剥奪といった厳しいペナルティが課される可能性があります。
65歳以上対象「マルチジョブホルダー制度」
2022年1月からは、65歳以上の労働者を対象とした「マルチジョブホルダー制度」が導入されました。
この制度は、複数の事業所で勤務している65歳以上の労働者が、それぞれの事業所の労働時間が短いために雇用保険の加入条件を満たせない場合でも、2つの事業所の労働時間を合算して雇用保険の被保険者となれる画期的な制度です。
「マルチ高年齢被保険者」として、失業給付や育児介護休業給付の対象となる道が開かれました。
制度を利用するための主な条件は以下の通りです。
- 65歳以上の労働者であること。
- 週の所定労働時間が5時間以上20時間未満の2つの事業所に雇用されていること。
- それぞれの雇用見込みが31日以上であること。
- 労働者本人がハローワークに申請すること。
この制度により、特に高齢で短時間勤務を組み合わせている方が、より安心して働き続けられる環境が整備されました。
例えば、午前中はA社で週10時間、午後はB社で週10時間働き、合計で週20時間の労働をしている65歳以上の方は、この制度を利用することで雇用保険の対象となることができます。
個人事業主・代表取締役でも雇用保険に加入できる?
個人事業主本人は原則対象外
雇用保険は「労働者」を対象とした制度であり、企業や組織に雇用されて労働を提供し、その対価として賃金を受け取る立場の人々に適用されます。
そのため、個人事業主本人は、自らの事業を営む「事業主」であるため、原則として雇用保険に加入することはできません。
これは、法人を設立した場合の代表取締役も同様で、会社との間に雇用関係があったとしても、経営者としての立場が優先されるため、原則として雇用保険の適用対象外となります。
雇用保険の主な目的が失業時の生活保障であることから、自営業者は失業という概念自体が労働者とは異なると考えられているためです。
ただし、労働者としての立場と事業主としての立場を兼ねている場合など、一部例外的なケースも存在します。
従業員を雇用した場合の事業主の義務
個人事業主であっても、従業員を1人でも雇用する場合、その従業員が雇用保険の加入条件を満たせば、事業主として雇用保険への加入手続きが法律で義務付けられます。
例えば、週20時間以上働き、31日以上の雇用が見込まれるアルバイトを雇った場合、そのアルバイトは雇用保険の被保険者となり、事業主はそのための手続きを行う必要があります。
この義務は、事業所の規模や法人か個人事業主かに関わらず発生します。
従業員の雇用保険料は、給与から天引きして労働者負担分を徴収し、事業主負担分と合わせて、事業主が国に納付します。
手続きを怠ると、法律違反となり罰則の対象となるだけでなく、従業員が万が一の事態に陥った際に必要な給付が受けられなくなり、トラブルに発展する可能性もあります。
従業員を雇う際には、社会保険に関する知識をしっかりと身につけ、適切な手続きを行うことが、事業主としての重要な責任です。
個人事業主が失業保険を受け取れる特例ケース
個人事業主本人が直接雇用保険に加入することはできませんが、以下のような特定のケースでは、失業保険を受け取れる可能性があります。
- 雇用保険受給期間の特例を申請した場合: 会社員として雇用保険に加入していた方が、退職後に個人事業主として開業した場合、事業を30日以上継続する予定があり、失業保険の受給期間の末日を過ぎていなければ、廃業後に失業保険を受け取れる可能性があります。この場合、「受給期間延長」の特例を利用することになります。
- 会社員として働きながら副業で個人事業主をしていた場合: 会社員を退職し、退職前に副業として行っていた個人事業も廃業した場合、会社員としての雇用保険加入期間が十分であれば、失業保険の対象となることがあります。ただし、個人事業の売上状況などによっては「就職」とみなされ、給付が制限される可能性もあります。
- 退職後に開業準備と求職活動を並行している場合: 失業保険は「働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず仕事に就けない状態」であることに対して支給されます。もし、退職後に個人事業の開業準備を進めつつも、並行して企業への就職も視野に入れて求職活動を行っている状態であれば、失業保険の受給条件を満たせる場合があります。
いずれのケースでも、失業保険の受給中に個人事業からの収入やアルバイト収入があった場合は、必ず失業認定時にハローワークに申告が必要です。
申告を怠ると不正受給とみなされ、厳しいペナルティが課されるため、不明な点があれば必ず事前にハローワークに相談しましょう。
外国人従業員と雇用保険:在留資格による違い
外国人従業員の雇用保険加入条件
外国人従業員が雇用保険に加入するための条件は、日本人従業員と基本的に同じです。
国籍によって特別な条件が付加されることはなく、「雇用期間が31日以上見込まれること」「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「学生でないこと」の3つの条件を満たせば、雇用保険の被保険者となります。
これは、労働基準法や社会保険法が国籍を問わず日本国内で働くすべての人に適用されるためです。
したがって、外国人従業員を雇用する事業主は、日本人従業員と同様に、加入条件を満たした外国人従業員について雇用保険の加入手続きを行う義務があります。
特に、就労ビザ(在留資格「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」など)を持つ外国人労働者は、通常の労働者としてこれらの条件を満たすことが多いため、雇用保険の適用対象となるケースがほとんどです。
特定の在留資格と雇用保険の関連性
外国人従業員の雇用保険適用を考える上で、在留資格の種類が間接的に影響する場合があります。
例えば、「留学」の在留資格を持つ学生は、原則として学業が本分であるため、雇用保険の「学生でないこと」という条件により対象外となります。
ただし、資格外活動許可を得てアルバイトをしていても、全日制の昼間学生である限り、基本的には雇用保険の適用はされません。
例外として、休学中の学生や、卒業後に同じ事業所で正社員として継続して勤務する予定がある場合は、在学中でも雇用保険に加入できるケースがあります。
また、「家族滞在」の在留資格を持つ配偶者なども、資格外活動許可を得て就労している場合、週20時間以上、31日以上の雇用見込みといった条件を満たせば、日本人と同様に雇用保険の加入対象となります。
企業としては、外国人従業員を雇用する際、その在留資格だけでなく、実際の労働時間や雇用期間の見込みを正確に把握し、適切な雇用保険の手続きを行うことが重要です。
退職・帰国時の手続きと注意点
外国人従業員が退職し、本国へ帰国する際には、雇用保険の資格喪失手続きが必要となります。
これは日本人従業員と同様に事業主が行う手続きです。
もし、失業給付の受給資格(離職日以前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上など)を満たしている外国人従業員が日本での再就職を希望する場合、日本人と同様に失業給付の申請が可能です。
ただし、失業給付は「働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず仕事に就けない状態」にあることが前提であり、日本国内に居住し、ハローワークで求職活動ができる状態であることが求められます。
そのため、退職後すぐに本国へ帰国してしまう場合は、ハローワークでの求職活動が困難となるため、失業給付の受給は難しくなるケースがほとんどです。
万が一、帰国する外国人従業員が失業給付を希望する場合は、退職する前にハローワークに相談し、必要な手続きや要件について確認しておくことが非常に重要です。
また、雇用保険には年金の脱退一時金のような制度はないため、雇用保険料の払い戻しは原則としてありません。
雇用保険の加入・確認方法と、後から加入できるケース
雇用保険の加入手続きと事業主の義務
雇用保険の加入手続きは、原則として事業主の義務であり、労働者自身が行うことはほとんどありません。
事業主は、従業員が雇用保険の加入条件を満たした場合、雇用を開始した日の属する月の翌月10日までに、管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
この際、従業員の氏名、生年月日、性別、被保険者番号(以前雇用保険に加入していた場合)、賃金月額などの情報が必要となります。
事業主が手続きを怠ると、従業員が適切な給付を受けられなくなるだけでなく、事業主自身も法律違反として罰則の対象となる可能性があります。
そのため、事業主は社会保険に関する知識を常に最新の状態に保ち、適切な手続きを行うことが求められます。
被保険者番号の確認とハローワークでの照会
自分が雇用保険に加入しているかどうか、また自身の被保険者番号を知りたい場合は、いくつかの方法で確認できます。
- 雇用保険被保険者証: 雇用保険加入時に事業主から交付される書類です。
- 離職票: 退職時に事業主から交付される書類で、雇用保険に関する情報が記載されています。
- 給与明細: 雇用保険料が天引きされている場合、給与明細にその旨と被保険者番号の一部が記載されていることがあります。
これらの書類が見つからない場合や、自身の加入状況が不明な場合は、管轄のハローワークで直接照会することができます。
その際は、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を持参し、窓口で「雇用保険の加入状況を確認したい」旨を伝えれば、自身の被保険者番号や加入履歴について教えてもらえます。
転職が多い方や、過去に複数の職場で働いた経験がある方は、自身の被保険者番号を控えておくことをお勧めします。
雇用保険の未加入に気づいた場合の対応と時効
「本来雇用保険に加入すべきだったのに、事業主が手続きを怠っていて未加入だった」というケースが稀に発生することがあります。
このような場合、まずは自身の加入条件を満たしていたかを確認し、事業主(会社)にその旨を申し出て、遡って加入手続きを行うよう求めましょう。
事業主が対応しない場合は、労働者自身がハローワークに相談することができます。
ハローワークは、労働者の申し出に基づいて事業主への調査を行い、加入条件を満たしていることが確認されれば、過去に遡って雇用保険の被保険者資格を取得させることができます。
雇用保険料の徴収時効は原則として2年間ですが、悪質なケースや事業主の認識不足によるものであった場合など、ハローワークの判断によっては2年を超えて遡って加入が認められることもあります。
遡って加入が認められた場合、未徴収だった過去の雇用保険料を支払う必要がありますが、失業給付の受給資格を満たせるようになるなど、労働者にとって大きなメリットがあります。
過去の雇用契約書、給与明細、タイムカードなど、雇用関係や労働時間を証明できる書類を準備して相談に臨むことが重要です。
雇用保険は、働くすべての人々の生活の安定を支える重要な制度です。
ダブルワークをしている方や個人事業主の方も、ご自身の働き方や状況に合わせて、雇用保険の加入条件や失業保険の受給資格について正しく理解しておくことが大切です。
もし不明な点や不安な点がある場合は、迷わずハローワークや労働基準監督署などの専門機関に相談することをおすすめします。
適切な知識と準備で、安心して働き続けられる環境を整えましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用保険は、アルバイトでも必ず加入しないといけないのですか?
A: 原則として、週20時間以上かつ31日以上雇用される見込みのある方は、雇用保険の加入が義務付けられています。「絶対加入」が基本です。ただし、学生で一定の条件を満たす場合などは、加入が適用されないケースもあります。
Q: ダブルワークをしていて、それぞれの勤務時間が20時間未満です。雇用保険には加入できますか?
A: 原則として、それぞれの雇用契約における労働時間が週20時間未満の場合、個別の雇用契約では雇用保険の被保険者とはなりません。しかし、複数の事業所で働く場合、それらを合算した労働時間が週20時間以上となる場合は、加入対象となる可能性があります。詳細はハローワークにご確認ください。
Q: 合同会社の代表取締役や、同居の親族でも雇用保険に加入できますか?
A: 合同会社の代表取締役は、原則として労働者とみなされないため、雇用保険の被保険者にはなりません。同居の親族についても、実態が労働者としての雇用関係にない場合は加入できません。ただし、例外的なケースもありますので、個別にハローワークにご確認ください。
Q: 雇用保険に加入できる在留資格は決まっていますか?
A: 在留カードをお持ちの外国人の方でも、一定の在留資格(「短期滞在」「観光・保養」など一部を除く)を有し、日本国内で就労しており、週20時間以上の雇用見込みがあれば雇用保険の被保険者となることができます。在留資格によって加入の可否が異なります。
Q: 以前の職場を退職してから時間が経っていますが、雇用保険に後から加入することはできますか?
A: 雇用保険は、加入条件を満たした時期に遡って加入する制度ではありません。退職後、一定期間内(原則2年間)であれば、再就職先に採用された際に、過去の被保険者期間を合算して失業等給付の受給資格を判断することは可能です。後から加入できるわけではありません。
