雇用保険の基本から最新情報まで。5人未満の会社でも関係ある？

雇用保険と聞くと、「うちの会社は小さいから関係ない」「手続きが難しそう」と感じる方もいるかもしれません。しかし、雇用保険は労働者の生活を守る重要なセーフティネットであり、実は企業の規模に関わらず、ほとんどの事業所に加入義務があります。

この記事では、雇用保険の基本的な仕組みから、中小企業における具体的な手続き、そして2025年度に予定されている最新の法改正情報までを、分かりやすく解説します。複雑だと思われがちな預り金処理やオンライン申請の方法もご紹介。あなたの会社の雇用保険に関する疑問を、この記事で解決しましょう。

雇用保険の対象となる企業規模とは？～5人未満・50人未満・50人以上を徹底解説～

多くの事業主様が抱く疑問の一つが、「うちの会社の規模でも雇用保険は必要なのか？」という点です。従業員数による違いや、関連する制度について詳しく見ていきましょう。

5人未満の会社でも雇用保険は必須！その理由とは？

「従業員が少ないから関係ない」と思われがちな5人未満の会社ですが、結論から言うと、従業員が一人でもいれば雇用保険への加入は法律で義務付けられています。これは、事業の規模や業種に関わらず適用される普遍的なルールです。

雇用保険は「労働保険」の一部であり、労働保険には労災保険と雇用保険が含まれます。労働者を雇用するすべての事業主は、労働保険の適用事業所として、これらの保険に加入しなければなりません。

たとえ短時間勤務のパートタイマーやアルバイトであっても、週の所定労働時間が20時間以上（2028年10月からは10時間以上）であれば、雇用保険の加入対象となります。加入を怠ると、遡って保険料を徴収されたり、助成金の受給資格を失ったりする可能性もあるため、必ず手続きを行いましょう。

労働者の生活保障と雇用の安定という雇用保険の目的を理解し、適切な手続きを進めることが、健全な企業運営の第一歩です。

「労働保険」って何？労災保険との違いと加入手続き

雇用保険を語る上で欠かせないのが、その上位概念である「労働保険」です。労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称した呼び名であり、労働者を雇用する事業主に加入が義務付けられています。

それぞれの保険の役割は明確に異なります。

• 労災保険（労働者災害補償保険）: 業務中や通勤途中の事故、病気などによる負傷や疾病、死亡に対して保険給付を行います。保険料は全額事業主が負担します。
• 雇用保険: 労働者が失業した場合の生活支援（基本手当）や、育児・介護休業中の収入補填（育児休業給付）、教育訓練を受けた際の費用補助（教育訓練給付）など、労働者の雇用の安定と再就職の促進を目的とした給付を行います。保険料は労働者と事業主が共同で負担します。

これらの保険の加入手続きは、通常、所轄の労働基準監督署（労災保険）とハローワーク（雇用保険）で行います。労働者を雇用した際には、まず労働保険の新規適用事業所としての手続きが必要となります。

企業規模による雇用保険料率の違いと2025年度最新情報

雇用保険料率は、事業の種類によって異なります。2025年度（令和7年4月1日～令和8年3月31日）の最新の雇用保険料率を見てみましょう。

これらの料率は、労働者の賃金総額に乗じて計算されます。例えば、一般事業で月給20万円の労働者の場合、労働者負担分の雇用保険料は以下のようになります。

200,000円（賃金総額） × 0.0055（労働者負担率） = 1,100円

賃金総額には、基本給のほか、各種手当、残業代、賞与など、税込みの給与全般が含まれます。正確な計算と納付を心がけましょう。

雇用保険の預り金処理、意外と知らない仕訳と使わない場合の注意点

雇用保険料の会計処理は、企業の経理担当者にとって重要な業務です。特に、預り金としての処理は間違いやすいポイントでもあります。ここでは、その仕訳方法と、関連する注意点について深掘りします。

雇用保険料の会計処理：仕訳の基本と勘定科目

雇用保険料は、労働者と事業主がそれぞれ負担するため、会計処理もそれぞれ異なります。

• 労働者負担分: 給与から天引きし、会社が一時的に預かる形になります。このため、勘定科目は「預り金」として処理します。
• 事業主負担分: 会社が負担する費用として処理します。勘定科目は「法定福利費」となります。

具体的な仕訳例を見てみましょう。

【給与支給時】
従業員Aさんの月給20万円、雇用保険料（労働者負担）1,100円の場合：

（借方）給与 200,000円　／　（貸方）普通預金など 198,900円
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　預り金（雇用保険料） 1,100円

【雇用保険料納付時】
従業員Aさんの労働者負担分1,100円と、事業主負担分1,800円（20万円×0.009）を合わせて納付する場合：

（借方）預り金（雇用保険料） 1,100円　／　（貸方）普通預金など 2,900円
　　　　法定福利費（雇用保険料） 1,800円

このように、適切に仕訳を行うことで、会社の財務状況を正確に把握することができます。

事業主負担分は経費に計上可能！節税効果とは？

事業主が負担する雇用保険料は、法人税や所得税の計算上、「法定福利費」として経費に計上することができます。これは、企業にとって重要な節税対策の一つとなります。

経費として計上することで、課税所得を減らすことができ、結果として法人税や所得税の負担を軽減することが可能です。これは、雇用保険が単なる義務ではなく、企業経営におけるコスト管理の一環とも言えるでしょう。

個人事業主の場合も同様に、事業主が負担する雇用保険料は「法定福利費」として経費計上できます。ただし、個人事業主自身の健康保険料や国民年金保険料は「社会保険料控除」として所得控除の対象となり、法定福利費とは別の扱いになりますので注意が必要です。

従業員を雇用している企業であれば、この法定福利費をしっかりと計上し、適正な税務処理を行うことが求められます。

雇用保険を「使わない」ケースでの注意点と備え

「雇用保険料を毎月払っているけれど、結局給付を受ける機会がない」と感じる事業主や従業員もいるかもしれません。しかし、雇用保険は万が一に備えるセーフティネットであり、「使わない」ことが必ずしも無駄ではありません。

まず、雇用保険料の納付は法律上の義務であり、「使わない」からといって納付を免除されることはありません。これは、火災保険や自動車保険と同様に、もしもの時のために加入しておく性質のものです。

もし従業員が失業した際や、育児休業、介護休業を取得する際には、雇用保険からの給付がその生活を支える大きな力となります。また、従業員のスキルアップを支援する教育訓練給付金など、積極的に活用できる制度も多く存在します。

「使わない」と考えるのではなく、「いざという時に備えられている」と捉えることが重要です。企業としても、従業員がこれらの制度を必要とした際に、適切に情報提供や手続きのサポートができるよう、制度の内容を把握しておくことが大切です。

雇用保険の内訳と、Webサービス・e-Govを活用したオンライン申請・セミナー活用法

雇用保険料が何に使われているのか、ご存知でしょうか？また、申請手続きを効率化するためのWebサービスや、活用できるセミナー情報についてもご紹介します。

雇用保険料の内訳：失業等給付と育児休業給付、二事業

雇用保険料は、いくつかの目的に応じて配分されています。大きく分けて、以下の3つの柱があります。

1. 失業等給付: 労働者が失業した場合に支給される基本手当や、再就職を支援する様々な手当（再就職手当、就業促進手当など）に充てられます。
2. 育児休業給付: 育児休業中の労働者の生活を支援するための育児休業給付金に充てられます。2025年以降は給付率の引き上げも予定されており、子育て世代への支援が強化されます。
3. 二事業（雇用安定事業・能力開発事業）:
   • 雇用安定事業: 失業の予防、雇用機会の増大、その他雇用の安定を図るための事業です。例えば、雇用調整助成金などがこれに該当します。
   • 能力開発事業: 労働者の職業能力の開発・向上を図るための事業です。教育訓練給付金やキャリアアップ助成金の一部などがこれに該当します。

このように、雇用保険料は単に失業時の手当だけでなく、働く人のキャリア形成や企業の雇用維持・促進にも広く役立てられているのです。

オンライン申請のススメ：e-Govを活用した手続きの効率化

雇用保険に関する手続きは、書類作成や窓口への提出など、手間がかかるイメージがあるかもしれません。しかし、近年ではe-Gov（電子政府の総合窓口）を活用したオンライン申請が普及しており、大幅な効率化が可能です。

e-Govを利用するメリットは多岐にわたります。

• 24時間365日申請可能: 窓口の開庁時間を気にせず、いつでもどこでも手続きができます。
• ペーパーレス化: 書類の印刷・郵送の手間やコストを削減できます。
• 入力支援機能: 誤入力を防ぐためのチェック機能や、過去の申請内容を再利用できる機能があります。

具体的には、従業員の「資格取得届」や「資格喪失届」、離職時の「離職証明書」などの提出がオンラインで可能です。初めて利用する場合は、GビズIDの取得や電子証明書の準備などが必要ですが、一度設定してしまえば、以降の手続きは格段にスムーズになります。

煩雑な手続きに時間を取られることなく、本来の業務に集中するためにも、e-Govの積極的な活用を検討しましょう。

雇用保険関連のセミナー活用法：事業主・労働者双方のメリット

雇用保険制度は複雑であり、常に改正が行われています。最新の情報を把握し、最大限に活用するためには、ハローワークや労働局、各種団体が開催している関連セミナーへの参加が非常に有効です。

事業主向けセミナーでは、以下のようなテーマが扱われます。

• 助成金・給付金制度の活用法: 雇用調整助成金、キャリアアップ助成金、トライアル雇用助成金など、企業が活用できる様々な助成金について詳しく学べます。
• 法改正のポイント: 適用対象の拡大や給付内容の変更など、最新の制度改正について専門家から直接説明を受けられます。
• 労働法規・労務管理: 雇用契約、労働時間、賃金など、労務管理全般に関する知識を深めることができます。

労働者向けセミナーでは、

• 再就職支援: 履歴書・職務経歴書の書き方、面接対策、キャリアコンサルティングなど。
• 教育訓練給付: スキルアップのための資格取得や研修費用に対する給付制度の説明。

などの情報が得られます。これらのセミナーは無料で参加できるものも多く、制度理解を深める絶好の機会です。積極的に活用し、企業と従業員双方のメリットを最大化しましょう。

雇用保険の乙種欄とは？8月・9月改定の最新情報と英語での説明

雇用保険の書類に記載される「乙種欄」について疑問を持つ方もいるかもしれません。また、今後の改定情報や、グローバル化に対応した英語での説明についても触れていきます。

雇用保険の「乙種欄」の役割と記載が必要なケース

雇用保険関連の書類に登場する「乙種欄」は、主に被保険者の特定の属性や状況を示すために使用されます。一般的な事業所ではあまり馴染みがないかもしれませんが、特定のケースでこの欄への記載が求められることがあります。

例えば、建設業など特定の業種において、短期間で事業所を移動する労働者の雇用保険手続きにおいて、一般の「甲種」とは異なる「乙種」として扱われる場合があります。

また、外国人労働者の雇用管理において、その国籍や在留資格、期限などの情報を補足するためにこの欄が活用されるケースもあります。特に、入社・退社の頻度が高い事業所や、多様な雇用形態の労働者を抱える事業所では、これらの欄の適切な理解と記載が重要となります。

記載を求められた場合は、不明な点をハローワークに確認するなどして、正確な情報を記入するようにしましょう。

2025年8月・9月改定の最新情報：適用対象拡大と高年齢雇用継続給付

雇用保険制度は、社会情勢の変化に対応するため、常に見直しが行われています。2025年以降にも、働く人の多様なニーズに応えるための重要な改正が予定されており、これらの中には、実質的に8月や9月ごろに施行・適用される可能性のあるものも含まれます。

特に注目すべきは、2028年10月からの適用対象の拡大です。現在「週の所定労働時間20時間以上」とされている加入要件が、段階的に「10時間以上」に緩和されます。これにより、これまで対象外だった多くのパートタイマーやアルバイトも、雇用保険のセーフティネットの対象となります。

また、2025年4月1日以降に60歳に達する方から、60歳以降も働き続ける方を支援する「高年齢雇用継続給付」の支給率上限が15%から10%に引き下げられます。これは、定年後の働き方や賃金設計に影響を与える重要な変更点です。

これらの改正は、企業の人事労務管理に大きな影響を与えるため、早めに情報をキャッチし、対応を検討することが求められます。

外国人労働者の雇用保険：英語での説明と注意点

日本で働く外国人労働者も、原則として日本の労働関係法令が適用されるため、雇用保険の加入対象となります。これは、国籍や在留資格の種類に関わらず、所定の要件を満たせば義務付けられるものです。

外国人労働者にとっても、失業時の生活保障や、育児・介護休業中の支援は非常に重要です。企業としては、雇用保険制度について英語などで説明し、理解を促すことが望ましいでしょう。

簡単な英語での説明例:

What is Employment Insurance (Koyo Hoken)?
Employment Insurance is a social insurance system in Japan that provides benefits to workers who become unemployed, take childcare leave, or participate in educational training. It aims to stabilize your livelihood and promote re-employment.

Do foreign workers need to join Employment Insurance?
Yes, generally. If you work in Japan and meet the eligibility criteria (e.g., working 20 hours or more per week), your employer must enroll you in Employment Insurance, regardless of your nationality.

言葉の壁がある外国人労働者に対しては、多言語での情報提供や、専門家による相談窓口の紹介など、きめ細やかなサポートが企業の信頼につながります。

雇用保険の写しって何？確認方法と手続きのポイント

「雇用保険の写し」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。これは一体何を指し、どのような場面で必要になるのでしょうか。確認方法や手続きのポイントについて解説します。

雇用保険の「写し」とは？なぜ必要なのか

雇用保険の「写し」という言葉は、主に以下の書類のコピー（写し）を指すことが多いです。

• 雇用保険被保険者証の写し: 雇用保険に加入していることを証明する書類です。
• 雇用保険被保険者離職票の写し（離職票）: 会社を退職した際に発行され、失業給付の申請などに必要な書類です。

これらの写しが必要となる主な場面は多岐にわたります。

• 再就職先の提出書類: 新しい会社に入社する際に、過去の雇用保険加入歴を確認するために提出を求められることがあります。
• 住宅ローンや奨学金などの申請: 自身の雇用状況や収入を証明する公的な書類として、提出を求められる場合があります。
• ハローワークでの各種手続き: 失業給付の申請や、教育訓練給付の申請など、雇用保険に関する手続きの際に原本または写しが必要となります。

自身の雇用保険加入状況を証明する重要な書類であるため、大切に保管し、必要に応じてすぐに提出できるよう準備しておきましょう。

雇用保険被保険者証の確認方法と再発行手続き

雇用保険被保険者証は、労働者が雇用保険に加入した際にハローワークから発行されるものです。通常、会社が従業員に代わって手続きを行い、多くの場合、会社が保管し、退職時に従業員に交付されます。

もし手元に被保険者証がない場合、以下の方法で確認や再発行が可能です。

1. 会社に確認: 在職中であれば、会社の人事・総務担当者に確認してみましょう。
2. ハローワークで照会・再発行: お住まいの地域を管轄するハローワークに行き、「雇用保険被保険者証再交付申請書」を提出することで、その場で照会・再発行してもらうことができます。身分証明書（運転免許証など）と印鑑（または署名）が必要です。
3. e-Govで確認: 電子政府の総合窓口e-Govにログインし、自身の雇用保険情報の一部を確認できる場合があります。ただし、利用にはGビズIDなどの事前の登録が必要です。

被保険者証は、雇用保険に関する様々な手続きで必要になることがありますので、紛失した場合は早めに再発行手続きを行いましょう。

雇用保険資格喪失届・離職票の写し：失業給付申請の要点

会社を退職し、失業給付（基本手当）を受けようとする場合、最も重要となるのが「雇用保険被保険者離職票」（一般的に「離職票」と呼ばれます）の写しです。

離職票は、会社が従業員の退職後、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」をハローワークに提出することで発行されます。その後、ハローワークから会社を経由して退職者に交付される流れが一般的です。

離職票には、離職年月日、離職理由、賃金支払状況などが記載されており、失業給付の受給資格や給付期間、金額を決定する上で非常に重要な情報となります。

手続きのポイント:

• 退職後、会社から離職票が発行されたら、記載内容に誤りがないか必ず確認しましょう。特に離職理由が自己都合か会社都合かは、給付制限期間の有無に大きく影響します。
• 離職票を受け取ったら、速やかに住所地を管轄するハローワークへ持参し、失業給付の申請手続きを行ってください。

離職票の写しは、自身の再出発を支える大切な書類です。手続きの流れを理解し、適切に対応することが、スムーズな失業給付の受給につながります。