概要: 年末調整で重要な扶養控除等申告書。全員提出が義務であること、提出を忘れた場合の対処法、提出先や原本保管、税区分など、知っておくべき基本事項を解説します。
扶養控除等申告書とは?全員提出が義務?
そもそも扶養控除等申告書って何?
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、会社員やパート・アルバイトとして給与を受け取るすべての方が、所得税の控除を受けるために提出する大切な書類です。この申告書を提出することで、所得税の源泉徴収額が適切に調整され、毎月の給与から天引きされる税金が軽減されます。
単に「扶養控除申告書」と呼ばれることも多いですが、正式名称にある「異動」の文字が示す通り、年の途中で扶養家族の状況が変わった場合にも更新して提出する義務があります。この書類は、あなたが「甲欄」という比較的低い税率で源泉徴収されるための根拠となるもので、提出しない場合は「乙欄」という高い税率が適用されてしまいます。
2016年以降は、本人だけでなく、控除対象となる配偶者や扶養親族の個人番号(マイナンバー)の記載も必須となりました。これにより、税務行政の効率化と正確性が図られています。給与を受け取るすべての人が提出義務を負っており、たとえ扶養親族がいなくても「扶養親族なし」として申告する必要があります。
なぜ提出が必要なの?あなたの税金が変わる理由
扶養控除等申告書を提出することは、あなたの税負担を適正に、そして有利に保つために不可欠です。この書類を提出することで、所得税の計算において様々な「所得控除」を適用できるようになります。代表的なものには、配偶者控除、扶養控除、障害者控除、勤労学生控除などがあります。
これらの控除が適用されると、所得税を計算する際のベースとなる「課税所得」が減少し、結果として所得税額が軽減されます。所得税は累進課税制度であるため、課税所得が少なくなればなるほど、適用される税率も低くなる可能性があります。
もしこの申告書を提出しないと、これらの控除が一切適用されないため、本来よりも高い税率で毎月の給与から源泉徴収されることになります。これは一時的に手取りが減るだけでなく、年末調整で還付を受ける機会を失い、自身で確定申告を行う手間が発生する原因にもなります。正確な申告は、自身の納税額を最適化し、不必要な手続きを避けるための第一歩なのです。
誰が、いつまでに提出するの?
扶養控除等申告書の提出義務者は、給与を受け取るすべての給与所得者です。正社員、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず、勤務先から給与を受け取る方は全員が対象となります。たとえ年間の給与収入が103万円以下で源泉徴収税額が発生しない見込みであっても、将来的な状況変化や住民税計算のために提出が推奨されています。
提出先は、従業員自身が給与の支払者である「勤務先」(具体的には会社の人事部や総務部など)です。税務署長宛ての書式になっていますが、直接税務署に提出するわけではありません。会社は従業員から提出された申告書を預かり、税務調査時などに備えて保管する義務があります。
提出期限は、原則としてその年の最初に給与が支払われる日の前日までとされています。年の途中で転職や入社があった場合は、入社後、最初に給与が支払われる日の前日までが期限です。また、年の途中で扶養親族の状況に変動があった場合(結婚、出産、扶養親族の就職など)は、その都度、速やかに勤務先に再提出し、年末調整で最終的な調整が行われることになります。会社によって年末調整の書類提出期限が11月中旬から下旬に設定されていることが多いので、期限を逃さないよう確認が必要です。
提出し忘れた・出してない!どうなる?
提出忘れのデメリット1:毎月の手取りが減る?「乙欄」にご注意
扶養控除等申告書を提出し忘れると、最も直接的な影響として、毎月の給与から源泉徴収される所得税額が増えてしまいます。これは、申告書が提出されない場合、所得税の源泉徴収において「乙欄」が適用されるためです。
「甲欄」は申告書を提出し、配偶者控除や扶養控除といった各種控除が適用された比較的低い税率で税金が天引きされるのに対し、「乙欄」はこれらの控除が考慮されない高い税率が適用されます。そのため、本来であれば適用されるはずの控除が反映されず、必要以上に多くの所得税が毎月天引きされてしまうのです。
特に、パートやアルバイトで複数の勤務先から給与を受け取っている場合、主たる勤務先で「甲欄」を適用し、他の勤務先では「乙欄」を適用するのが一般的です。もし主たる勤務先への提出を忘れてしまうと、毎月の手取り額が大きく減少する可能性があります。これは税金を多く前払いしている状態であり、結果的に年末調整や確定申告で還付されることになりますが、一時的に使えるお金が減ってしまうことは大きなデメリットと言えるでしょう。
提出忘れのデメリット2:年末調整が受けられないとどうなる?
扶養控除等申告書を提出していない場合、勤務先は従業員の年末調整を行うことができません。年末調整とは、その年の1月1日から12月31日までに支払われた給与の総額に対し、正確な所得税額を計算し、毎月の源泉徴収額との過不足を精算する手続きです。これにより、多くの場合は納めすぎた税金が還付されます。
この重要な手続きを受けられないということは、本来受けられるはずだった所得控除(生命保険料控除、地震保険料控除、iDeCoの掛金控除など)が適用されず、過払いになった税金の還付を受ける機会を会社経由で失うことになります。会社は申告書がない状態では、正確な控除情報を把握できないため、年末調整の計算を進めることができないのです。
結果として、従業員は、自身で確定申告を行わなければ、払いすぎた税金がそのままになるか、不足分があれば追徴課税の対象になる可能性もあります。年末調整は非常に便利な税務手続きであり、その機会を逃すことは、時間と労力を要する確定申告を行う必要が生じるため、避けるべき状況と言えるでしょう。
提出忘れに気づいたら?慌てずに取るべき行動
もし扶養控除等申告書の提出を忘れてしまったことに気づいたら、慌てずに以下の行動を速やかに取るようにしましょう。
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速やかに会社の人事・総務部に相談する:
年末調整の計算が始まる前であれば、会社が特例として提出を受け付けてくれる可能性があります。まずは、勤務先の担当部署に連絡を取り、状況を説明し、指示を仰ぐことが最善の策です。会社によっては、年末調整の処理に間に合うように対応してくれる場合があります。 -
自身で確定申告を行う:
会社の年末調整の期限に間に合わなかった場合や、会社で年末調整ができなかった場合は、ご自身で確定申告を行うことになります。確定申告は、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。この手続きにより、納めすぎた所得税の還付を受けたり、不足していた税額を精算したりすることが可能です。
還付申告であれば、確定申告期間外でも、税金を納めすぎた年の翌年1月1日から5年間は提出が可能です。国税庁のウェブサイトでは、確定申告書等の作成・提出が可能なe-Taxも利用できますので、自宅からでも手続きができます。
いずれにせよ、提出を忘れたことに気づいたら放置せず、早めに行動を起こすことが、余計な手間や不利益を避けるために非常に重要です。
扶養控除等申告書の提出先はどこ?税務署長宛て?
最終的な提出先は税務署長、でもあなたは勤務先へ
扶養控除等申告書の書式を見ると、確かに「○○税務署長」という宛名が記載されています。そのため、税務署に直接提出する書類だと誤解されがちですが、一般の給与所得者が直接税務署にこの申告書を提出することはありません。
従業員は、勤務する会社の給与の支払者である「勤務先」(人事部や総務部など)に提出します。会社は、従業員から受け取った申告書を適切に保管し、税法上の規定に基づいて処理します。そして、会社が従業員から提出されたこれらの申告書を保管している状態をもって、税法上は、その会社を経由して「所轄税務署長」に提出されたものとみなされるのです。
この仕組みは、個々の納税者が煩雑な手続きを直接行わなくても済むように、税務行政の効率化を図るために設けられています。したがって、あなたは税務署ではなく、日頃から給与を受け取っている勤務先に提出すればよい、ということを覚えておきましょう。
勤務先が預かる「原本」の重要性
勤務先は、従業員から提出された扶養控除等申告書の「原本」を、非常に重要な書類として厳重に保管する義務を負っています。この原本は、会社が従業員の給与から所得税を源泉徴収する際の法的根拠となる書類です。
税務調査が行われた際には、会社はこれらの原本を提示し、自身が源泉徴収義務を適正に果たしていたことを証明する必要があります。もし原本が紛失してしまった場合、会社は源泉徴収の根拠を失い、税務上の問題が生じる可能性があるため、従業員に再提出を求めることもあります。
また、申告書には従業員本人や扶養親族のマイナンバーなどの個人情報が記載されているため、会社は情報漏洩がないよう、細心の注意を払って管理しなければなりません。従業員としても、自身がどのような内容を申告したか確認できるよう、提出前に控えを取っておくことが推奨されます。
税務署への提出を求められるケースとは?
会社は通常、従業員から提出された扶養控除等申告書を、個別に税務署に提出することはありません。しかし、特定の状況下では、税務署への提出が求められることがあります。
最も一般的なケースは、税務調査が入った場合です。税務調査官は、会社が適切に源泉徴収を行っていたかを確認するため、保管されている扶養控除等申告書の原本の提出を会社に求めることがあります。これは、会社が所得税法に基づいて義務を履行しているかを確認するための一環です。
また、従業員が特定の控除(例えば、住宅ローン控除で確定申告が必要な場合など)を受ける際に、会社が発行する源泉徴収票に、扶養控除等申告書の内容が反映された情報が記載されます。この源泉徴収票は、従業員が確定申告を行う際に税務署に提出されることになります。
つまり、従業員が直接税務署に扶養控除等申告書を提出する場面はほとんどなく、あくまで勤務先を通じて情報が税務当局に伝わる仕組みとなっていることを理解しておくことが大切です。
「原本」の保管と「税区分」について
会社が保管する「原本」の役割と期間
勤務先が従業員から受け取る扶養控除等申告書は、その写しではなく「原本」が極めて重要です。この原本は、会社が従業員の給与から所得税を源泉徴収する際の、所得控除の適用を証明する法的根拠となります。会社は、この申告書に基づいて毎月の源泉徴収額を計算し、年末調整を実施するため、その適正性を担保する上で不可欠な書類なのです。
税務調査が入った際には、会社はこれらの原本を提示し、自社の源泉徴収業務が法律に基づいて適正に行われていたことを証明する責任があります。このため、法律により会社には、従業員から提出された扶養控除等申告書を原則として7年間保管する義務が課せられています。これは、税法の時効期間や追徴課税の可能性などを考慮した期間です。
申告書にはマイナンバーなどの機密性の高い個人情報が含まれるため、会社は情報漏洩のリスクを最小限に抑えるため、厳重な管理体制の下で保管することが求められます。従業員が退職した場合でも、この保管義務は継続されます。
知っておきたい源泉徴収票の「甲欄」「乙欄」
源泉徴収される所得税額は、扶養控除等申告書を提出しているか否かによって、適用される税率が大きく異なります。この違いは、源泉徴収票の「甲欄」「乙欄」として表示される税区分によって識別できます。
「甲欄」は、扶養控除等申告書を勤務先に提出している場合に適用される税率です。この税率表に基づいて源泉徴収される所得税は、配偶者控除や扶養控除など、従業員が受けられる各種控除が考慮された上で計算されるため、比較的低い税額が天引きされます。
一方、「乙欄」は、扶養控除等申告書を提出していない場合に適用される税率です。この場合、各種控除が考慮されないため、甲欄よりも高い税率で所得税が源泉徴収されます。例えば、複数の会社から給与を受け取っている場合、主たる勤務先には甲欄を、副業先には乙欄を適用するのが一般的です。源泉徴収票に記載された税区分を確認することで、自身の給与がどちらの税率で天引きされているかを把握できます。乙欄適用は、毎月の手取り額を減らし、年末調整を受けられないため、確定申告で還付を受ける手間を発生させます。
共働き家庭は要注意!重複申告を防ぐポイント
共働き世帯の場合、夫婦それぞれが給与所得を得ているため、扶養親族(多くは子ども)をどちらの扶養に入れるかという点で注意が必要です。税法上、同一の扶養親族を複数の所得者が重複して申告することは認められていません。これは、二重に所得控除を受けることを防ぐための重要なルールです。
例えば、夫婦のどちらか一方が子どもを扶養親族として申告した場合、もう一方は同じ子どもを扶養親族とすることはできません。どちらの扶養に入れるかを決める際は、一般的に「所得の高い方が扶養に入れる」のが有利とされています。所得が高い方が扶養控除を受ければ、その分課税所得が大きく減少し、結果として世帯全体での節税効果が高まるからです。
年末調整や確定申告の時期が来る前に、夫婦間でしっかりと話し合い、どちらが扶養親族として申告するかを明確にしておくことが非常に重要です。もし誤って重複申告が発覚した場合、税務署から修正申告を求められたり、場合によっては過少申告加算税などのペナルティが課されたりする可能性もありますので、十分に注意しましょう。
扶養控除等申告書、よくある疑問を解決!
Q1: 扶養親族がいないのに提出は必要?
「自分には扶養親族がいないから、わざわざ扶養控除等申告書を提出しなくても良いだろう」と考える方は少なくありません。しかし、これは誤解であり、扶養親族の有無にかかわらず、給与を受け取るすべての人がこの申告書を提出することが義務付けられています。
たとえ扶養親族がいなくても、申告書には「扶養親族なし」と記載して提出する必要があります。この手続きによって、勤務先はあなたが「主たる給与の支払先で働く唯一の勤務先」であると認識し、所得税の源泉徴収において「甲欄」を適用することができます。
もし提出を怠ると、扶養親族がいない場合であっても「乙欄」が適用されてしまい、本来よりも高い税率で源泉徴収されることになります。これは毎月の手取り額が少なくなるだけでなく、年末調整で還付を受けられず、後からご自身で確定申告を行う手間が発生することにもつながります。したがって、扶養親族がいない場合でも、必ず勤務先に提出するようにしましょう。
Q2: マイナンバーはなぜ必要?記載しないとどうなる?
2016年(平成28年)以降、扶養控除等申告書には、従業員本人、控除対象配偶者、および扶養親族等の個人番号(マイナンバー)の記載が義務付けられています。これは、行政機関が納税者の所得や控除に関する情報をより正確かつ効率的に把握し、税務手続きの簡素化を図るために導入されました。
マイナンバーを記載することで、税務署での処理がスムーズになり、納税者の利便性向上にも寄与します。もし従業員がマイナンバーの記載を拒否した場合、勤務先はマイナンバーなしで税務署に提出することになります。しかし、会社側には税法に基づき従業員に対してマイナンバーの提供を求める義務があり、正当な理由なく提供されない場合は、会社が税務署から指導を受ける可能性があります。
従業員がマイナンバーを提出しないことによる直接的な罰則は現時点では設けられていませんが、会社によっては対応を求められたり、税務上のトラブルにつながる可能性もゼロではありません。通常、会社はマイナンバーの収集・管理について適切な手順と説明を行いますので、指示に従って記載し、提出するようにしましょう。
Q3: 年の途中で家族構成が変わったら?(結婚・出産など)
扶養控除等申告書は、原則としてその年の最初に提出するものですが、年の途中で家族構成や扶養親族の状況に変動があった場合は、速やかに会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を再提出する必要があります。この「異動」とは、例えば以下のようなケースが挙げられます。
- 結婚により配偶者が扶養親族になった場合
- 出産や養子縁組により子どもが生まれた場合
- 配偶者や扶養親族が就職や収入増により扶養から外れる場合
- 離婚により扶養親族の状況が変わった場合
これらの異動があった際に申告書を再提出することで、その後の給与から源泉徴収される税額が、新しい家族構成に合わせて正しく調整されます。もし年の途中で異動があったにもかかわらず再提出しなかった場合、年末調整時にまとめて調整されることにはなりますが、その間、源泉徴収額が実際の状況と乖離したままになってしまいます。
スムーズな税務処理と正確な源泉徴収のためにも、家族構成や扶養親族の状況に変化があった際には、ためらわずに勤務先の人事・総務担当者に相談し、必要な手続きを行いましょう。
まとめ
扶養控除等申告書は、給与所得者が税負担を軽減するために不可欠な書類です。提出を忘れると、毎月の手取りが減ったり、年末調整で還付を受けられず、後で確定申告の手間が発生したりする可能性があります。現時点では提出忘れに関する具体的な数値データは見つかっていませんが、これらのデメリットを考慮すると、正確な申告と期限内の提出がいかに重要であるかがわかります。
期限内に正確に記入し、勤務先に提出することが重要です。もし提出を忘れてしまった場合は、速やかに会社に相談するか、自身で確定申告を行い、適切な税額精算を行いましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 扶養控除等申告書は、本当に全員提出しないといけないのですか?
A: 扶養控除等申告書は、源泉徴収の対象となる給与所得者や公的年金等の受給者であれば、原則として全員が提出する必要があります。これは、扶養親族がいるかいないかに関わらず、所得税の計算の基礎となるためです。
Q: 扶養控除等申告書を提出し忘れてしまった場合、どうなりますか?
A: 提出を忘れた場合、本来受けられるはずの扶養控除などが適用されず、源泉徴収される所得税額が多くなる可能性があります。後から年末調整のやり直しや確定申告で修正できる場合もありますが、早めの対応が重要です。
Q: 扶養控除等申告書は、どこに提出すれば良いのですか?
A: 扶養控除等申告書は、勤務先や年金事務所など、給与や公的年金等の支払者(会社や年金機構など)に提出します。税務署長宛てに直接提出するものではありません。
Q: 扶養控除等申告書の「原本」とは何ですか?保管は必要ですか?
A: 扶養控除等申告書の「原本」とは、あなたが手書きで作成・署名した申告書のことです。原則として、提出した側(会社など)が一定期間保管します。ご自身で控えを保管しておくことをお勧めします。
Q: 扶養控除等申告書の「税区分」とは何ですか?
A: 「税区分」とは、扶養控除等申告書において、扶養親族の状況(障害者、同居扶養親族など)や、配偶者の所得状況などを区分するための項目です。これにより、控除額が変動するため、正しく記載することが重要です。
