概要: 扶養控除等申告書は、年末調整や源泉徴収税額の計算に不可欠な書類です。入社時、転職時、退職時、そして状況変化があった際の提出・変更手続きについて、新卒・中途入社、妻の退職、産休などのケース別に詳しく解説します。
扶養控除等申告書とは?提出のタイミングと目的
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、通称「マル扶」と呼ばれ、年末調整や毎月の源泉徴収税額の計算に欠かせない重要な書類です。
この申告書は、あなたが扶養している親族の状況を会社に伝え、所得税法上の扶養控除などの適用を受けることで、所得税の負担を軽減する目的があります。給与所得者であれば、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず、扶養親族の有無にかかわらず原則として全員が提出する義務があります。
提出を怠ると、扶養控除が適用されず、源泉徴収される所得税額が本来よりも高くなるため、手取り額が減ってしまう可能性があります。また、2025年度(令和7年度)の税制改正により、将来的に「控除対象扶養親族」の記載欄が「源泉控除対象親族」に名称変更されるなど、制度のアップデートも進んでいます。常に最新の情報を確認し、正確な申告を心がけることが、適切な税負担と個人の家計を守る上で不可欠です。
いつ提出する?具体的なタイミング
「マル扶」の提出には、いくつかの明確なタイミングがあります。
まず、入社・転職時です。新しい会社に入社する際、他の書類とともに提出を求められます。これにより、その会社での給与計算から適切な源泉徴収税額が適用されます。
次に、年末調整時です。通常、毎年10月~1月頃に、その年の12月末時点での扶養状況を反映させるために提出します。この申告書に基づいて、会社が年末調整を行い、年間の所得税額を確定させます。
そして、最も重要なのが、扶養状況に異動があった場合です。例えば、年の途中で結婚・出産により扶養家族が増えたり、または扶養親族が就職して扶養の要件から外れたりした場合などです。このような変更があった際には、速やかに会社に「異動申告書」を提出し、内容を更新する必要があります。
提出が遅れると、毎月の源泉徴収税額が実態と異なり、年末調整で多額の追加徴収や還付が発生する可能性が高まります。なお、2025年分からは、前年の申告内容から変更がない場合に基本情報のみを記載する「簡易な申告書」の提出が可能になり、手続きの効率化が期待されています。
扶養親族の要件と注意点
扶養控除の対象となる「扶養親族」には、所得税法で定められたいくつかの厳格な要件があります。主な要件としては、配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)であること、その年の12月31日時点で16歳以上であること、納税者(申告者)と生計を一にしていること、そして最も重要なのが、年間の合計所得金額が48万円以下であることです(給与収入のみの場合は、年収103万円以下)。また、青色申告者の事業専従者として給与を受けていないことも要件に含まれます。
注意点として、16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)は、所得税の扶養控除の対象外ですが、住民税の算定などに使用されるため、申告書への記入は必要です。また、2023年1月1日からは、国外に居住する親族に対する扶養控除の適用要件が厳格化されています。
さらに、2025年度の税制改正では、「特定親族特別控除」が新設され、19歳以上23歳未満の扶養親族(特定親族)について所得要件が緩和される可能性があります。これにより、子の年収が123万円を超えても、特定親族特別控除の適用により年収150万円まで控除対象となるケースが出てきます。ただし、この「年収の壁」は所得税の話であり、住民税(110万円)や社会保険料(130万円)については別途基準があるため、複合的な視点での確認が必要です。
新卒・中途採用時:扶養控除等申告書の書き方と注意点
人生の節目である入社や転職は、新しい生活のスタートを意味します。その際に必ず提出を求められるのが「扶養控除等申告書」です。特に新卒者にとっては初めての経験で、どのように記入すればよいか戸惑うことも少なくありません。
新卒入社時の基本手続きと記入事項
新卒で会社に入社する際、多くの書類提出が求められますが、「扶養控除等申告書」はその中でも税金に関わる重要な書類です。
主な記入事項としては、あなたの氏名、住所、生年月日、マイナンバーといった個人情報のほか、配偶者の有無、そして扶養親族がいる場合はその方の氏名、生年月日、所得金額などを正確に記載する必要があります。扶養親族がいない場合でも、その旨を「なし」と明記して提出する義務があります。
特にマイナンバーの記載は正確性が求められます。もし不明な点や記入に自信がない箇所があれば、自己判断せずに必ず会社の人事・総務部門に確認しましょう。誤った情報で提出すると、後々の年末調整で税額の過不足が生じたり、最悪の場合、税務署からの指摘を受ける可能性もあります。初めての経験だからこそ、慎重に、そして不明な点はプロに尋ねる姿勢が大切です。
中途採用(転職)時の記入ポイントと源泉徴収票
中途採用(転職)の場合、新卒入社時とは異なり、前職の状況を考慮した記入が求められます。
最も重要なのは、前職から発行された源泉徴収票を新しい会社に提出することです。これにより、前職での給与と新しい会社での給与を合算して年末調整が行われ、年間の所得税額が正しく計算されます。源泉徴収票を提出しなかった場合や、年末調整に間に合わなかった場合は、自身で確定申告を行う必要が生じます。
また、年の途中での入社であっても、その年の年末調整で前職分と合算して申告することが可能です。入社時に扶養状況に変更があった場合は、扶養控除等申告書と合わせて「異動申告書」も提出することを忘れないようにしましょう。なお、2025年分から導入される「簡易な申告書」は、前年の情報がない転職初年度には適用されません。前職の給与と扶養状況を正確に伝え、スムーズな手続きを行うことが重要です。
記入漏れ・誤りのリスクと対処法
扶養控除等申告書の記入漏れや誤りは、税金に直接影響するため、軽視できません。
具体的なリスクとしては、毎月の給与から控除される源泉徴収税額が過不足なく計算されず、年末調整で多額の還付金が受けられなかったり、逆に追加徴収が発生したりする可能性があります。例えば、扶養親族の所得が要件を超えているのに申告しなかった場合、後から税務署に指摘され、追徴課税の対象となることもあります。また、正確な申告ができていないと、年末調整の手間が増えたり、本来不要な確定申告が必要になったりする手間が生じます。
もし記入漏れや誤りに気づいた場合は、速やかに会社の人事・総務担当者に連絡し、訂正・再提出の手続きを行いましょう。特に、2025年度から新設される「特定親族特別控除」のように、子の年収が150万円に近づいた場合の扶養要件の変更などは、見落としがちですが重要なポイントです。早期の対応が、無用な税負担や行政手続きの煩雑さを避けるための鍵となります。
転職・再就職時:前の会社での扶養控除等申告書はどうなる?
転職や再就職は、キャリアの新たな一歩ですが、税金に関する手続きも伴います。特に「扶養控除等申告書」は、前職と新職で異なる扱いを受けるため、その仕組みを理解しておくことが重要です。
前職での扶養控除等申告書の役割と年末調整
前職で提出した「扶養控除等申告書」は、あなたが退職するまでの給与から源泉徴収される所得税額を決定するための基礎となります。年の途中で退職した場合、原則として前職では年末調整は行われません(ただし、12月中に退職し、その年の最終給与支払い後に退職するケースや、年間の給与総額が123万円以下のパートタイマーが退職する場合は、退職する会社で年末調整が行われることがあります)。
最も重要なのは、退職時に必ず会社から「源泉徴収票」を受け取ることです。この源泉徴収票は、あなたのその年の前職での収入と、すでに納めた所得税額を証明する公的な書類です。これは、転職先での年末調整や、もし再就職しなかった場合に自身で確定申告を行う際に不可欠な書類となります。万が一紛失した場合は、速やかに前職に再発行を依頼しましょう。離職票や雇用保険被保険者証とは異なる重要な書類ですので、混同しないように注意が必要です。
転職先での再提出と前職給与の合算
新しい会社に入社したら、再び「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。この際、前職から受け取った源泉徴収票を新しい会社に提出することで、前職と現職の両方の給与を合算して年末調整を受けることができます。
この手続きを行うことで、年間の総所得に対する所得税額が正確に計算され、すでに納めすぎた税金が還付されたり、不足分が徴収されたりします。これにより、自身で確定申告を行う手間を省くことができるという大きなメリットがあります。
もし前職の源泉徴収票を提出しなかったり、提出が間に合わなかったりした場合は、自分で確定申告を行う義務が発生します。また、年の途中で扶養状況に変更があった場合は、異動申告書も合わせて提出しましょう。2025年分から導入される「簡易な申告書」は、前年の情報がない転職初年度には基本的に適用されませんので注意してください。
確定申告が必要になるケースと手続き
転職・再就職時には、状況によっては年末調整だけでは完結せず、自身で確定申告を行う必要が出てくる場合があります。
具体的には、以下のようなケースです。
- 転職先に前職の源泉徴収票を提出しなかった、または提出が間に合わなかった場合。
- 給与所得が年間2,000万円を超える場合。
- 2か所以上から給与所得がある場合(例えば、副業や兼業をしている場合)。
- 年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合。
- 医療費控除、寄付金控除、住宅ローン控除(初年度)など、年末調整では対応できない特定の控除を受けたい場合。
確定申告を行うことで、納めすぎた所得税が還付される可能性があります。手続きは、毎年2月16日から3月15日の間に、税務署に必要書類(源泉徴収票、各種控除証明書など)を提出するか、e-Taxを利用して行います。もし扶養控除の適用漏れがあった場合も、確定申告で遡って是正することが可能です。自身の状況に合わせて、適切な手続きを選択しましょう。
退職・産休時:扶養控除等申告書の取り下げや再提出のケース
退職や産休・育休は、働き方や生活状況が大きく変化する時期であり、扶養控除等申告書に関する手続きも適切に行う必要があります。これらの期間における書類の取り扱いを理解し、後のトラブルを未然に防ぎましょう。
退職時の扶養控除等申告書の扱いと源泉徴収票
会社を退職する際、あなたがそれまでに提出していた「扶養控除等申告書」を特別な手続きで「取り下げる」必要は通常ありません。この申告書は、会社があなたの最終的な給与に対する源泉徴収税額を計算し、その年の「源泉徴収票」を作成する際の基礎情報となります。
退職時において最も重要なのは、会社から必ず「源泉徴収票」を受け取ることです。これは、あなたのその年の所得と納付済みの所得税額を証明する公的な書類であり、転職先での年末調整や、もし年内に再就職しなかった場合の確定申告に不可欠です。源泉徴収票は、通常、最終給与の支払い後、または退職から1ヶ月程度で発行されます。
年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合は、原則として自身で確定申告を行うことで、所得税の過不足を精算する必要があります。退職金は給与所得とは別の計算となるため、扶養控除等申告書とは直接関係ありませんが、これらの税金に関する書類は全て大切に保管するようにしましょう。
産休・育休時の扶養控除等申告書と所得の扱い
産前産後休業や育児休業中も、会社から給与が支払われる場合は、「扶養控除等申告書」の提出が必要です。ただし、産休・育休期間中は給与が支払われない、あるいは減額されるケースが多いため、扶養状況を正確に申告することが大切です。
特に重要な点として、育児休業給付金や出産手当金は、税法上の所得には含まれない非課税所得であるため、扶養控除の要件である「年間の合計所得金額48万円以下」には影響しません。したがって、これらの給付金を受け取っていても、扶養に入ることや扶養親族の要件を満たすことは可能です。
しかし、もし休業中に配偶者や他の家族を扶養に入れることになったり、あるいはあなた自身が家族の扶養に入る場合など、扶養状況に変更があった場合は、速やかに「異動申告書」を会社に提出する必要があります。休業期間が年をまたぐ場合や、年末調整の対象とならない程度の給与しか受け取らなかった場合は、自身で確定申告を行う必要があることも覚えておきましょう。
失業中・再就職までの期間の注意点
退職後、失業状態が続き、再就職までの期間がある場合も、「扶養控除等申告書」に関連する注意点があります。
まず、失業保険(雇用保険の基本手当)も非課税所得であるため、扶養控除の所得要件には影響しません。これは育児休業給付金と同様です。しかし、失業中に生活費のためにアルバイトなどで得た収入は課税所得となり、扶養に入っている家族の「年間合計所得金額48万円以下」(給与収入103万円以下)という要件を超えてしまうと、扶養から外れることになりますので注意が必要です。
再就職までの期間に、ご家族の扶養に入ることを検討している場合は、その家族の会社に「健康保険被扶養者(異動)届」などとともに、あなたの扶養控除等申告書への記入が必要になることもあります。また、住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、失業中であっても住民税の請求が来る場合があります。年をまたいで失業状態が続く場合や、複数回転職・再就職を繰り返した場合は、ご自身で確定申告を行い、所得税の精算を行うことが重要です。
扶養控除等申告書の途中変更:いつ、どのように手続きする?
私たちのライフステージは常に変化します。結婚、出産、子供の成長、親の介護など、家族構成や所得状況が変わるたびに「扶養控除等申告書」の内容も見直す必要があります。これらの変更を適切に反映させることで、正確な税金を納め、無駄な手続きを避けることができます。
扶養状況変更の主なケースと影響
「扶養控除等申告書」の記載内容に変更が生じる「異動」のケースは多岐にわたります。
最も一般的なのは、結婚、出産、または死亡などによる扶養親族の増減です。また、これまで扶養に入れていた家族が就職・転職し、その年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)を超えることが判明した場合も、扶養から外れるため申告が必要です。扶養親族の年齢変更も重要です。例えば、16歳になったら扶養控除の対象となり、19歳になると「特定扶養親族」として控除額が増え、23歳を超えると控除額が減るといった変化があります。さらに、離婚・再婚、別居などによる家族構成の変化も申告の対象となります。
特に、2025年度からの「特定親族特別控除」の新設により、19歳以上23歳未満の子どもの年収が123万円や150万円近辺になった場合など、従来とは異なる判断が必要になる可能性があります。これらの変更は、毎月の源泉徴収税額や年末調整での精算額に直接影響するため、速やかな申告が求められます。
変更手続きの具体的な流れと提出タイミング
扶養状況に変更があった場合、手続きは比較的シンプルです。
まず、会社の人事・総務担当者に、変更があった旨を速やかに伝えます。その後、会社から改めて「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を再交付されますので、変更が生じた箇所(例えば扶養親族欄の追加・削除、所得金額の修正など)に新しい情報を記入し、異動年月日を記載して提出します。
この書類の提出時期に厳密な期日があるわけではありませんが、変更が発生したらできるだけ早く行うことが強く推奨されます。提出が遅れると、毎月の給与から控除される源泉徴収税額が実際の扶養状況と合致しない状態が続き、年末調整で大きな過不足が生じる可能性が高まります。例えば、扶養親族が増えたのに申告が遅れると、余分な所得税が毎月徴収され続けることになります。逆に、扶養親族が扶養から外れたのに申告しなかった場合、税額が不足し、年末調整で多額の追加徴収が発生することがあります。
2025年分から導入される「簡易な申告書」は、変更がない場合に限定されるため、異動があった場合は必ず通常の申告書を提出する必要があります。
変更の遅延による影響と確定申告
扶養控除等申告書の変更手続きが遅れると、様々な不都合が生じます。
最大のデメリットは、毎月の給与から源泉徴収される所得税額が不適切なままとなり、年末調整で思わぬ結果となることです。例えば、扶養親族が扶養から外れたにもかかわらず、その旨を会社に申告しなかった場合、毎月の源泉徴収税額が少なくなり、年末調整で多額の追加徴収を一度に支払わなければならない事態が発生します。これは家計に大きな負担となる可能性があります。逆に、扶養親族が増えたのに申告が遅れると、毎月多く税金を納めすぎていることになり、年末調整で還付はされますが、その間は手取り額が少なくなっています。
また、過去の年度に遡って扶養控除の誤りに気づいた場合は、会社の年末調整では対応できないため、自身で確定申告(還付申告)を行うことで是正する必要があります。これは手間と時間がかかる手続きです。最悪の場合、税務署からの指摘により追徴課税の対象となるリスクもゼロではありません。正確な申告と迅速な手続きは、無用な手間や税負担を避け、適切な納税を行う上で極めて重要です。常に最新の税制改正情報を確認し、自身の状況に合わせて適切に申告しましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 扶養控除等申告書はいつ提出する必要がありますか?
A: 一般的に、入社時や年末調整の時期に提出が求められます。また、扶養家族の状況に変更があった場合も再提出が必要です。
Q: 転職した場合、前の会社で提出した扶養控除等申告書はどうなりますか?
A: 前の会社での提出は完了しています。新しい会社で改めて扶養控除等申告書を提出する必要があります。
Q: 妻が退職した場合、扶養控除等申告書はどうなりますか?
A: 妻が退職し、配偶者控除の対象となる場合は、扶養控除等申告書を提出または変更して、配偶者控除を適用できるように手続きを行います。
Q: 産休に入る場合、扶養控除等申告書に影響はありますか?
A: 産休自体が扶養控除等申告書の直接的な提出・変更事由になることは少ないですが、休業期間中の所得や扶養家族の状況変化によっては、年末調整などで考慮が必要になる場合があります。
Q: 扶養控除等申告書の内容は途中で変更できますか?
A: はい、扶養家族の増減や状況の変化などがあった場合は、年度の途中であっても変更手続きが可能です。速やかに会社に申し出てください。
