概要: 結婚や子供を扶養に入れる際の扶養控除等申告書の書き方、所得の見積額の計算方法、個人番号や捺印など、記入で迷いがちなポイントを網羅的に解説します。申告書の修正・訂正方法や、よくある疑問にもお答えします。
扶養控除等申告書:結婚・子供の扶養、所得見積額の計算まで徹底解説(2025年度最新情報)
毎年、年末調整の時期が近づくと耳にする「扶養控除等申告書」。しかし、「何をどう書けばいいの?」「扶養の範囲って変わったの?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。
特に、2025年度(令和7年分)の税制改正では、扶養控除の範囲や申告書の様式に重要な変更点がありました。本記事では、この「扶養控除等申告書」について、結婚や子どもの扶養、所得見積額の計算方法、そして最新の税制改正ポイントまで、徹底的に解説します。
この記事を読めば、あなたの疑問が解消され、スムーズに申告書を提出できるようになるはずです。
扶養控除等申告書の基本:誰が、いつ、なぜ必要?
1-1. 扶養控除等申告書とは?提出義務者と目的
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、通称「マル扶(まるふ)」と呼ばれ、給与所得者が扶養控除や障害者控除、寡婦(ひとり親)控除などの所得控除を受けるために、勤務先に提出する重要な書類です。
この書類を提出することで、毎月の給与から差し引かれる源泉所得税が適切に計算され、年末調整で最終的な税額が確定します。提出義務があるのは、正社員、パート、アルバイトなど、給与所得があるすべての従業員です。
たとえ扶養親族が一人もいない場合でも、「控除対象者がいない」ことを会社に伝えるために提出が求められます。提出を怠ると、扶養控除などが適用されず、毎月の給与から高い税率で源泉徴収されてしまう可能性があるため、必ず提出しましょう。
正確な税負担で給与を受け取るために、マル扶の提出は欠かせません。
1-2. 2025年度(令和7年分)税制改正の背景とポイント
2025年度(令和7年分)の税制改正では、特に「年収の壁」対策として、扶養の範囲が大きく見直されました。これは、最低賃金の上昇に伴い、扶養内で働く人々がより働きやすい環境を整えることを目的としています。
主なポイントとしては、まず扶養親族の所得要件が引き上げられたことが挙げられます。具体的には、配偶者や扶養親族の合計所得金額の上限が従来の48万円以下から58万円以下に、給与収入に換算すると103万円以下から123万円以下に拡大されました。これにより、より多くの方が扶養控除などの対象となる可能性が高まります。
また、19歳以上23歳未満の「特定親族」に対する扶養控除が拡充され、新たに「特定親族特別控除」が導入されました。これにより、子どもの年収が150万円を超えても、一定の範囲内(188万円まで)であれば控除を受けられるようになります。
さらに、給与収入190万円以下の給与所得者については、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられ、税負担の軽減が図られています。これらの改正点を理解し、ご自身の状況に合わせて適切に申告することが重要です。
1-3. 申告書の提出時期と提出しなかった場合のリスク
扶養控除等申告書の提出時期は、通常、その年の最初の給与が支給される前までとされています。多くの場合、年度初めや入社時に会社から提出を求められます。また、年の途中で結婚や出産、配偶者との離婚・死別などで扶養親族の状況が変わった場合は、速やかに「異動申告書」として提出し直す必要があります。
提出し忘れてしまうと、どのようなリスクがあるのでしょうか。最も大きな影響は、扶養控除や配偶者控除などが適用されず、毎月の給与から差し引かれる源泉所得税が高くなってしまうことです。本来であれば控除されるはずの金額が考慮されないため、手取り額が減少し、家計に影響が出る可能性があります。
この場合、最終的には確定申告を行うことで過払い分を取り戻すことは可能ですが、手間と時間がかかります。年末調整は、こうした確定申告の手間を省くための制度ですので、適切な時期に忘れずに提出することが大切です。
結婚・扶養家族がいる場合の書き方:子供の続柄や生年月日
2-1. 配偶者を扶養に入れる際のポイントと改正点
結婚して配偶者がいる場合、「扶養控除等申告書」には配偶者に関する情報を記入します。ここで適用されるのが「配偶者控除」または「配偶者特別控除」です。
配偶者控除は、配偶者の年間合計所得金額が一定額以下の場合に適用され、納税者本人の税負担を軽減します。2025年度(令和7年分)の税制改正により、配偶者控除の対象となる配偶者の年収上限が、従来の103万円以下から123万円以下(合計所得金額58万円以下)に引き上げられました。これは、パートで働く配偶者が「年収の壁」を気にすることなく、より柔軟に働けるよう配慮された重要な変更点です。
また、納税者本人の合計所得金額が900万円以下(給与収入のみの場合は1,120万円以下)であることも要件の一つです。配偶者の所得が123万円を超えても、133万円以下(合計所得58万円超95万円以下)であれば、段階的に控除額が減額される「配偶者特別控除」が適用される可能性があります。これらの要件をしっかり確認し、該当する控除を申告しましょう。
2-2. 子供や親を扶養に入れる場合の要件と記入例
子どもや親などを扶養親族として申告する場合、いくつかの要件を満たす必要があります。2025年度の税制改正後、扶養親族となるための主な5つの要件は以下の通りです。
- 控除を受ける年の12月31日時点の年齢が16歳以上であること。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)であること。
- 納税者と生計を一にしていること。
- 年間の合計所得金額が58万円以下(給与収入の場合、123万円以下)であること。
- 青色申告者の事業専従者として給与を受けていない、または白色申告者の事業専従者でないこと。
扶養控除額は、扶養親族の年齢によって異なります。
- 一般の控除対象扶養親族(16歳~18歳):38万円
- 特定扶養親族(19歳~22歳):63万円(一般より25万円加算)
- 老人扶養親族(70歳以上):48万円(同居の場合は58万円)
なお、16歳未満の扶養親族は、所得税・住民税ともに扶養控除の対象外ですが、住民税の算定などに用いられるため、申告書への記入は必要です。
2-3. 複数人で扶養控除を分ける際の注意点
共働き世帯などで、夫婦それぞれに扶養親族がいる場合や、複数の兄弟姉妹が両親を扶養しているケースなど、同一の扶養親族を複数人が同時に扶養控除の対象とすることはできません。
これは「重複申告の禁止」というルールによるものです。例えば、夫婦のどちらもが子どもを自分の扶養に入れていると申告したり、兄弟姉妹がそれぞれ同じ両親を扶養親族として申告したりすることは認められていません。
このような状況では、どちらか一方の納税者が扶養控除を受けることになります。通常は、所得の高い方が扶養控除を受けた方が、世帯全体の節税効果が高くなることが多いですが、どの納税者が扶養控除を申告するかは、ご家庭や親族間で話し合い、決定する必要があります。
扶養控除は、税負担に大きく影響する制度ですので、重複して申告しないよう十分注意しましょう。
所得の見積額を正確に計算!年金収入の場合も解説
3-1. 所得見積額の基本概念と重要性
扶養控除等申告書には、扶養親族の「その年の所得の見積額」を記載する欄があります。この「所得の見積額」とは、その年に得られると見込まれる各種収入金額から、必要経費や給与所得控除額、公的年金等控除額などを差し引いた金額の合計額を指します。
扶養親族の所得見積額は、扶養控除が適用されるか否かを判断する上で極めて重要な要素です。2025年度の税制改正により、扶養親族の合計所得金額の上限が従来の48万円以下から58万円以下に引き上げられました。この基準を超える所得がある場合、原則として扶養控除の対象外となります。
所得の種類(給与所得、事業所得、年金所得など)によって計算方法や控除額が異なるため、正確な見積もりが必要です。特に、パートやアルバイトで働く配偶者や学生の子ども、年金を受給している親などを扶養に入れる場合は、この所得見積額をしっかりと計算することが、適切な税額計算の第一歩となります。
3-2. 給与所得者の所得見積額計算例(2025年度改正対応)
給与所得者の所得見積額は、給与収入から「給与所得控除」を差し引いて計算します。2025年度の税制改正で、この所得上限が変更されましたので、注意が必要です。
扶養親族の給与収入のみの場合、以下の計算例を参考にしてください。
- 給与収入が123万円以下の場合:
- 給与収入123万円 - 給与所得控除65万円 = 所得金額58万円
- この場合、所得金額は58万円以下となるため、扶養控除の対象となります。
- 給与収入が160万円以下の場合:
- 給与収入160万円 - 給与所得控除65万円 = 所得金額95万円
- 配偶者控除の対象からは外れますが、配偶者特別控除や特定の扶養控除の要件によっては、一部控除が適用される可能性があります。
給与所得控除額は、給与収入の金額によって異なりますが、最低保障額は2025年度から65万円となっています。給与明細や源泉徴収票で収入額を確認し、正確に計算しましょう。
3-3. 公的年金受給者の所得見積額計算例と注意点
公的年金を受給している方を扶養に入れる場合も、年金収入から「公的年金等控除」を差し引いて所得見積額を計算します。公的年金等控除額は、受給者の年齢によって異なります。
65歳未満の公的年金受給者の場合:
- 年金収入が118万円以下の場合:
- 年金収入118万円 - 公的年金等控除60万円 = 所得金額58万円
- この場合、所得金額は58万円以下となるため、扶養控除の対象となります。
- 年金収入が163万3,334円以下の場合:
- 年金収入163万3,334円 - 公的年金等控除(最大683,333.5円) = 所得金額95万円以下
- 配偶者特別控除などの対象となる場合があります。
65歳以上の公的年金受給者の場合:
- 年金収入が168万円以下の場合:
- 年金収入168万円 - 公的年金等控除110万円 = 所得金額58万円
- この場合、所得金額は58万円以下となるため、扶養控除の対象となります。
- 年金収入が205万円以下の場合:
- 年金収入205万円 - 公的年金等控除110万円 = 所得金額95万円
- 配偶者特別控除などの対象となる場合があります。
【注意点】
上記の計算は公的年金等のみの収入の場合です。所得の種類(給与所得、事業所得、不動産所得など)が複数ある場合は、それぞれの所得を合算して計算する必要があります。
所得の見積額の計算が複雑で不明な場合は、日本年金機構のウェブサイトや、最寄りの税務署、税理士に相談することをお勧めします。正確な計算が、適正な税負担につながります。
個人番号、捺印、名前だけ?扶養控除等申告書の注意点
4-1. 個人番号(マイナンバー)記載の義務と取り扱い
扶養控除等申告書には、納税者本人だけでなく、扶養親族全員の個人番号(マイナンバー)を記載することが義務付けられています。
これは、行政手続きにおける特定個人情報利用の一環として、税務署が正確な情報を把握するために必要なものです。マイナンバーの記載がない場合、原則として扶養控除が適用されない可能性があり、年末調整の手続きに支障が生じることがあります。
会社は、従業員から提出されたマイナンバーを含む個人情報を厳重に管理する義務があります。個人番号を記載する際は、誤りのないよう住民票やマイナンバーカードで確認し、正確に記入するようにしましょう。
4-2. 令和8年分以降の様式変更と「簡易な申告書」の活用
税制改正に伴い、扶養控除等申告書の様式も変更されます。特に注目すべきは、令和8年分以降の申告書では、「控除対象扶養親族」の名称が「源泉控除対象親族」に変更される点です。これにより、書類の記載内容をより正確に反映した名称となります。
さらに、年末調整の手続きを簡素化するため、「簡易な申告書」が導入されることになりました。これは、前年に提出した申告書の内容から変更がない場合、申告書の余白にその旨を記載するだけで提出を省略できるという画期的な仕組みです。
この簡易な申告書を活用すれば、毎年手書きで全てを記入する手間が省け、従業員と会社双方の負担が軽減されます。ただし、簡易な申告書を利用できるかどうか、またその具体的な記載方法については、勤務先の指示に必ず従うようにしてください。変更があった場合は、従来通り詳細を記入した申告書を提出する必要があります。
4-3. その他の控除(障害者控除・寡婦控除など)の申告
扶養控除等申告書には、扶養控除以外にも様々な所得控除を申告する欄があります。代表的なものとして、「障害者控除」「寡婦控除」「ひとり親控除」が挙げられます。
- 障害者控除:納税者本人や配偶者、扶養親族に障害者がいる場合に適用されます。障害者手帳の有無や等級などを確認し、該当する区分にチェックを入れて申告します。
- 寡婦控除・ひとり親控除:配偶者と離婚・死別し、特定の要件を満たす場合に適用される控除です。特に注意が必要なのは、これらの控除は重複して適用できない点です。要件を満たす方を慎重に選択し、いずれか一方を記入するようにしましょう。
これらの控除は、適用されると税負担を大きく軽減できる可能性があります。ご自身の状況やご家族の状況をよく確認し、該当する控除は漏れなく申告するようにしましょう。不明な点があれば、会社の担当部署や税務署に確認することをお勧めします。
扶養控除等申告書の修正・訂正方法とよくある質問
5-1. 申告内容に変更があった場合の訂正手続き
扶養控除等申告書は、一度提出したら終わりではありません。年の途中で扶養親族の状況に変化があった場合は、速やかに内容を訂正し、勤務先に再提出する必要があります。
具体的に訂正が必要となるケースとしては、以下のような状況が挙げられます。
- 扶養親族の増減:子どもが生まれた、結婚した、親を扶養に入れることになった、子どもが就職して扶養を外れた、扶養親族が亡くなった、など。
- 結婚・離婚:配偶者控除の対象が変わるため、変更が必要です。
- 扶養親族の所得変更:パートやアルバイトの収入が増減し、所得見積額が変わった場合。
- その他:障害の状態が変化した、同居から別居になった(老人扶養親族の場合)など。
これらの変更があった場合は、通常、会社から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の用紙を改めて受け取り、変更箇所を訂正・追記して再提出します。速やかな対応が、源泉徴収税額の適切な計算につながります。
5-2. 訂正後の書類提出先と再提出のタイミング
申告内容に訂正や変更が生じた場合の再提出先は、必ず勤務先です。経理や人事担当部署に連絡し、必要な書類の取得と提出を行いましょう。
再提出のタイミングは、「変更が生じた時点」が基本です。例えば、年の途中で子どもが生まれた場合は、その時点で扶養親族が増えたことになりますから、速やかに申告書を訂正して提出します。これにより、変更後の状況が反映された源泉徴収が行われることになります。
もし、年末調整の時期まで変更を伝えずにいた場合でも、年末調整時に改めて正しい情報を申告すれば、その年の最終的な税額は調整されます。しかし、毎月の源泉徴収税額が適切でない状態が続くことになります。また、年末調整後に扶養親族の状況が変更になった場合は、翌年の確定申告で税金の調整を行うことになります。いずれにしても、変更があった際にはできるだけ早く会社に連絡し、指示に従って手続きを進めることが重要です。
5-3. よくある質問:年末調整後の扶養変更、過去分の訂正など
扶養控除等申告書に関して、よくある質問とその対応策についてまとめました。
Q1: 年末調整が終わった後に扶養親族の状況が変わった場合はどうすればいいですか?
A: 年末調整後に扶養親族に変動があった場合、その年の税額調整は年末調整ではできません。翌年の確定申告を行うことで、正しい税額に修正し、払いすぎた税金があれば還付を受けることができます。確定申告の期間は通常、翌年の2月16日から3月15日までです。
Q2: 過去に提出した申告書の内容に誤りがあったことに気づきました。今から訂正できますか?
A: 過去の申告書に誤りがあった場合、その年度の年末調整がすでに終了していれば、原則として確定申告を通じて訂正を行います。税務署に相談し、更正の請求を行うことで、過払い分の税金を取り戻すことができる可能性があります。
Q3: 扶養控除等申告書はどのくらい保管すればよいですか?
A: 会社は提出された扶養控除等申告書を、法令で定められた期間(通常7年間)保管する義務があります。従業員自身も、念のため提出した控えやコピーを保管しておくことをお勧めします。特に、税務調査などがあった際に、提出内容を証明する資料として役立ちます。
これらの情報が、あなたの扶養控除等申告書に関する疑問解決の一助となれば幸いです。2025年度の税制改正を正しく理解し、適切な手続きを行いましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 結婚した場合、扶養控除等申告書はどのように書けばいいですか?
A: 配偶者控除や扶養控除の対象となる家族がいる場合、該当する欄に配偶者やお子さんの氏名、生年月日、個人番号、続柄などを正確に記入します。結婚相手を扶養に入れる場合は、その旨を明記します。
Q: 子供を扶養に入れる際の「続柄」はどのように書きますか?
A: 本人から見た続柄を記入します。例えば、子供であれば「子」、配偶者から見た子供であれば「子」となります。「夫」や「妻」など、関係性を明確に記入してください。
Q: 所得の見積額はどのように計算すればいいですか?
A: その年の1月1日から12月31日までの1年間の所得の見積額を計算します。給与所得、事業所得、公的年金等所得などを合算します。給与所得者は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」などを参考に、その他の所得は収入から必要経費などを差し引いて計算します。
Q: 年金収入がある場合、所得の見積額はどうなりますか?
A: 公的年金等所得がある場合は、年金収入から公的年金等控除額を差し引いた金額を所得の見積額に含めます。控除額は年齢によって異なりますので、国税庁のウェブサイトなどで確認してください。
Q: 扶養控除等申告書を間違って書いてしまった場合、修正や訂正はできますか?
A: 原則として、提出済みの扶養控除等申告書は訂正できません。もし誤りを見つけた場合は、会社(給与支払者)に連絡し、新しい申告書を提出するか、年末調整の際に訂正してもらう必要があります。税務署への提出期限を過ぎている場合は、確定申告で修正することになります。
