概要: 扶養控除等申告書は、年末調整や確定申告で税金が還付されるために重要な書類です。本記事では、申告書の基本的な書き方から、独身・妻帯者・出生といったケース別の記入例、さらには続柄や個人番号などの注意点まで、分かりやすく解説します。
扶養控除等申告書とは?提出する目的と基本
申告書の概要と重要性:年末調整の要となる書類
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、すべての給与所得者が毎年勤務先に提出する重要な書類です。
この申告書は、年末調整を通じて所得税の各種控除を受けるために不可欠であり、日々の給与から源泉徴収される税額を決定する基礎となります。
正しく提出することで、所得税や住民税の負担が軽減される可能性があります。
たとえ扶養する家族がいない独身者であっても、原則として提出が義務付けられています。
提出しない場合、毎月の源泉徴収額が高くなり、年末調整で還付される税金が少なくなるか、追加で納税が必要になることもあります。
パートやアルバイトの方も、勤務先から求められたら必ず提出しましょう。
2025年税制改正のポイント:控除額と「年収の壁」の変更
2025年(令和7年)の年末調整からは、税制改正によるいくつかの重要な変更点があります。
これらは、扶養控除等申告書の記入や控除額に大きく影響するため、必ず確認が必要です。
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基礎控除・給与所得控除の見直し:給与所得控除の最低保証額が55万円から65万円に、基礎控除額が48万円から58万円にそれぞれ引き上げられます。
これにより、所得税の「年収の壁」が従来の103万円から123万円に引き上げられる見込みです。 -
特定親族特別控除の創設:19歳から22歳の大学生など、特定扶養親族の年収上限が103万円から150万円に引き上げられます。
さらに、「特定親族特別控除」が新設され、年収188万円までであれば扶養控除の対象となる可能性が出てきます。 - 扶養親族等の所得要件の改正:扶養親族の合計所得金額の要件が、従来の48万円以下から58万円以下に引き上げられます(給与収入の場合、従来の103万円以下から123万円以下に相当)。
これらの変更は、より多くの人が扶養控除の恩恵を受けられるようにすることを目的としています。
ご自身の状況や扶養親族の収入を確認し、正確に申告することが重要です。
「生計を一にする」の考え方:同居・別居は問わず
扶養控除の対象となる親族は、「生計を一にする」ことが要件の一つです。
この「生計を一にする」とは、必ずしも同居している必要はありません。
例えば、親元を離れて暮らす大学生の子どもに仕送りをしている場合や、病気療養中の親に生活費を送金している場合なども、「生計を一にする」と認められます。
具体的には、生活費、学資金、療養費などを常に送金している場合や、勤務、修学、療養などのために別居している場合でも、余暇には起居を共にしている場合などが該当します。
ただし、扶養親族として申告できるのは、納税義務者であるあなた自身が扶養している者に限られます。
他の所得者がすでに同じ親族を扶養控除の対象としている場合は、重複して申告することはできません。
【ケース別】扶養控除等申告書の記入例:独身・妻帯者・出生
独身者の記入例とポイント:扶養親族がいなくても提出は必須
独身で、扶養する家族がいない場合でも、扶養控除等申告書は必ず提出が必要です。
この場合、記入する項目は限られてきますが、いくつか注意すべきポイントがあります。
まず、氏名、住所、生年月日、個人番号(マイナンバー)といった自身の基本情報を正確に記入します。
「世帯主の氏名」と「あなたとの続柄」の欄には、あなたが世帯主であれば自身の氏名を記入し、「本人」と記載します。
親と同居している場合は、親が世帯主であればその氏名を記入し、続柄を「子」と記載します。
また、「A 源泉控除対象配偶者」や「B 控除対象扶養親族」などの欄は、該当者がいないため空欄のまま、または「なし」と記入します。
「C 障害者、寡婦・ひとり親又は勤労学生」の欄も、自身が該当する場合のみチェックを入れ、詳細を記入してください。
重要なのは、扶養親族がいないからといって提出を怠らないことです。
提出しないと、本来受けられるはずの税控除が受けられず、毎月の給与から多くの税金が源泉徴収されてしまう可能性があります。
配偶者・控除対象扶養親族がいる場合の記入例:A欄・B欄の活用
配偶者や扶養親族がいる場合、申告書の該当欄に詳細を記入します。
特に「A 源泉控除対象配偶者」と「B 控除対象扶養親族」の欄は慎重に記入しましょう。
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A 源泉控除対象配偶者:配偶者の氏名、個人番号、生年月日、所得の見積額などを記入します。
配偶者の合計所得金額が、2025年からは58万円以下(給与収入123万円以下)であることが条件となります。
また、申告者本人の合計所得金額が1,000万円以下である必要があります。 -
B 控除対象扶養親族:16歳以上の扶養親族(子、親など)がいる場合に記入します。
扶養親族一人ひとりの氏名、個人番号、続柄、生年月日、所得の見積額などを記載します。
2025年からは、扶養親族の合計所得金額が58万円以下(給与収入123万円以下)であることが条件です。
特定の年齢(19歳以上23歳未満)の扶養親族は「特定扶養親族」となり、控除額が大きくなります。
なお、16歳未満の扶養親族は、所得税の扶養控除の対象外ですが、住民税の計算に必要なため、「住民税に関する事項」の欄に記入が必要です。
漏れがないように、家族全員の情報を確認しながら記入を進めましょう。
扶養親族の出生や異動があった場合の対応:異動申告書と個人番号
年度の途中で家族構成に変化があった場合(お子様の出生、結婚、離婚、扶養親族の所得変動など)、扶養控除等申告書の記載内容を速やかに変更する必要があります。
このような場合は、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出します。
特にお子様が生まれた場合は、その子の氏名、生年月日、あなたとの続柄、そして個人番号(マイナンバー)を新たに記入して提出します。
個人番号は、行政機関が情報を正確に把握するために必要な情報であり、記載が義務付けられています。
扶養親族の個人番号は、事前に確認しておきましょう。
また、扶養親族の収入が扶養控除の要件を超えてしまった場合なども、速やかに異動申告書を提出して変更を届け出る必要があります。
正確な情報を提供することで、適切な税額計算が行われ、将来的なトラブルを防ぐことができます。
扶養控除等申告書で特に注意すべき項目:続柄・世帯主・個人番号
世帯主と続柄の正しい記載:住民票との整合性を確認
扶養控除等申告書の冒頭にある「世帯主の氏名」と「あなたとの続柄」欄は、意外と間違いやすい項目です。
この情報は、住民票の内容と一致している必要があります。
あなたが一人暮らしで賃貸契約を結んでいる場合でも、自身が世帯主であれば氏名と「本人」と記載します。
実家で親と同居している場合は、住民票上の世帯主が親であればその氏名を記入し、続柄は「子」と記載します。
間違った情報を記載すると、税務署からの問い合わせや、年末調整のやり直しが必要になる可能性もあります。
不明な場合は、住民票を確認するか、会社の担当部署に確認するようにしましょう。
特に、事実婚や内縁関係の場合など、法的な婚姻関係がない場合は、配偶者控除の対象とはなりません。
正確な情報を記載することが、スムーズな年末調整の第一歩です。
個人番号(マイナンバー)の取り扱い:記載の必須性と管理
扶養控除等申告書には、申告者本人だけでなく、扶養親族の個人番号(マイナンバー)の記載も必須です。
個人番号は、納税者識別番号として、正確な所得税・住民税の計算や、行政機関での情報連携に用いられます。
記載漏れがあると、提出を受け付けてもらえない場合や、年末調整の手続きが滞る可能性があります。
扶養親族の個人番号を記入する際は、事前に本人に確認し、正確な番号を記載してください。
会社は提出された個人番号を厳重に管理する義務があります。
万が一、家族の個人番号が分からない場合は、会社に相談して指示を仰ぎましょう。
多くの場合、個人番号が未記載でもいったん受け付けられ、後日改めて提出を求められることになります。
しかし、スムーズな手続きのためには、記載して提出することが望ましいです。
他の控除との重複や併用について:配偶者控除・国外居住親族
扶養控除の他にも、様々な所得控除が存在します。
特に「配偶者控除」や「配偶者特別控除」との関係は複雑に感じられるかもしれません。
これらの控除は、扶養控除とは適用要件が異なります。
- 配偶者控除:配偶者の合計所得金額が2025年から58万円以下(給与収入123万円以下)の場合に適用。
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配偶者特別控除:配偶者の合計所得金額が58万円超133万円以下(給与収入123万円超195万円以下)の場合に、申告者本人の所得に応じて段階的に適用されます。
つまり、配偶者の収入が扶養控除の範囲を超えても、一定の条件を満たせば配偶者特別控除を受けられる可能性があります。
また、国外居住親族への扶養控除も注意が必要です。
2023年1月以降、国外に住む親族への扶養控除の適用要件が厳格化されました。
特定の年齢要件や、送金関係書類の提出など、一定の要件を満たさないと扶養控除が適用されません。
該当する場合は、国税庁のウェブサイトなどで最新情報を確認してください。
扶養控除等申告書をスムーズに書くためのチェックリスト
記入前の準備事項:必要書類と最新情報の確認
扶養控除等申告書をスムーズに、かつ正確に記入するためには、事前の準備が重要です。
以下のリストを参考に、記入を始める前に必要なものを揃え、情報を確認しましょう。
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マイナンバーカードまたは通知カード:本人および扶養親族全員の個人番号(マイナンバー)が必要です。
扶養親族の番号が手元にない場合は、事前に確認しておきましょう。 -
扶養親族の情報:氏名、生年月日、あなたとの続柄、所得の見積額などを把握しておきます。
特に、扶養親族にパート収入などがある場合は、その年間の収入見込み額を概算しておくことが大切です。 -
最新の申告書様式:毎年、税制改正に伴い申告書の様式が変更されることがあります。
特に2025年(令和7年分)は大きな改正があるため、必ず最新の様式を入手し、記入するようにしましょう。
勤務先から配布されるものが最新版であることがほとんどです。 - 源泉徴収票(前年度):前年の情報を参考にすることで、記入漏れや間違いを防ぎやすくなります。
これらの準備を整えることで、記入作業が格段にスムーズになり、間違いのリスクも低減できます。
記載漏れ・誤りを防ぐポイント:所得要件と1社提出の原則
申告書には多くの項目がありますが、特に記載漏れや誤りが起こりやすいポイントがいくつかあります。
以下の点をチェックしながら記入を進めましょう。
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所得要件の確認:扶養親族の合計所得金額が、2025年からは58万円以下(給与収入123万円以下)であることを再度確認してください。
特定親族については、特定親族特別控除により188万円まで対象となる可能性がある点も頭に入れておきましょう。 -
16歳未満の扶養親族の記載:所得税の扶養控除対象外ですが、住民税に関する事項の欄には必ず記載が必要です。
この欄の記入漏れもよくある間違いです。 - 「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」の欄:扶養親族を他の所得者(配偶者など)と重複して申告していないか確認しましょう。
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1社提出の原則:扶養控除等申告書は、原則として主たる給与の支払者である1社にしか提出できません。
複数の勤務先から給与を受け取っている場合は、最も収入の多い勤務先に提出しましょう。
不明な点があれば、自己判断せずに会社の担当部署や税務署に問い合わせることが重要です。
提出後の確認と保管:控えの重要性と変更時の対応
扶養控除等申告書を提出した後も、いくつか確認しておくべき点があります。
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控えの保管:会社によっては、提出した申告書の控えを渡してくれる場合があります。
控えは、後日内容を確認する際や、税務署からの問い合わせがあった場合に必要となることがありますので、大切に保管しておきましょう。 -
給与明細の確認:提出後、毎月の給与明細で源泉徴収税額が適切に計算されているかを確認しましょう。
扶養控除等が反映されていないように思える場合は、速やかに会社に確認してください。 -
扶養状況の変更があった場合:年度の途中で、結婚、出産、離婚、扶養親族の収入増など、扶養状況に変化があった場合は、速やかに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を再提出する必要があります。
これにより、その後の源泉徴収税額が調整され、年末調整時の大きな差額を防ぐことができます。
変更を放置すると、年末調整で多額の追加納税が必要になるケースもありますので注意が必要です。
扶養控除等申告書に関するよくある質問
扶養控除と家族手当の違い:目的と支給主体の理解
「扶養控除」と「家族手当」は、どちらも家族がいる場合に受けられる恩恵ですが、その性質は大きく異なります。
それぞれの違いを正しく理解しておきましょう。
扶養控除:
- 目的:税法上の所得控除であり、納税者(あなた)の所得税・住民税の負担を軽減するために設けられています。
- 支給主体:国や地方自治体による税制上の制度であり、直接金銭が支給されるわけではありません。
- 条件:税法で定められた要件(生計を一にする、所得要件など)を満たす必要があります。
家族手当:
- 目的:企業が独自に定める福利厚生の一環として、従業員の扶養家族の生活を補助するために支給される手当です。
- 支給主体:勤務している企業から直接金銭が支給されます。
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条件:企業ごとに支給条件が異なり、配偶者の収入制限(103万円や130万円未満)を設けている企業が多いです(2024年時点で約8割の企業が導入)。
近年では、共働き世帯の増加に伴い、配偶者手当を廃止し、子育て支援に重点を置く企業も増えています。
つまり、扶養控除は「税金が安くなる制度」、家族手当は「会社からもらえる手当」と考えると分かりやすいでしょう。
年収の壁と控除対象扶養親族:2025年改正でどう変わる?
「年収の壁」という言葉は、扶養控除や社会保険の適用などに関わる収入のボーダーラインを指します。
2025年の税制改正により、この年収の壁が扶養控除の面で大きく変わります。
これまで、所得税上の扶養控除の対象となる扶養親族の年収上限は、合計所得金額が48万円(給与収入103万円)でした。
しかし、2025年からは基礎控除と給与所得控除の見直しにより、扶養親族の合計所得金額が58万円以下(給与収入123万円以下)に引き上げられます。
これにより、「年収103万円の壁」が「年収123万円の壁」になると言われています。
さらに、19歳から22歳の特定扶養親族については、年収上限が150万円に引き上げられ、「特定親族特別控除」の創設により年収188万円まで扶養控除の対象となる可能性があります。
これにより、大学生などのお子さんがアルバイトでより多くの収入を得ても、扶養控除の恩恵を受けられる機会が増えることになります。
ご家族の収入状況に合わせて、最適な選択ができるよう、改正内容をしっかり把握しておきましょう。
年度途中に扶養状況が変わった場合:異動申告書の提出タイミング
扶養控除等申告書は、年末調整のために年末に提出するだけでなく、年度の途中で扶養状況に変化があった場合にも提出が必要です。
これを「異動申告書」と呼びます。
具体的に異動申告書の提出が必要となるケースは以下の通りです。
- 結婚や出産により、配偶者や扶養親族が増えた場合
- 離婚や扶養親族の死亡により、扶養親族が減った場合
- 扶養親族の収入が増加し、扶養控除の対象外となった場合(例:アルバイト収入が123万円を超えた場合など)
- 障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生に該当することになった、あるいは該当しなくなった場合
- 扶養親族が国外居住者から国内居住者になった、またはその逆の場合
これらの変更があった場合は、速やかに勤務先に申し出て、異動申告書を提出しましょう。
異動申告書を提出することで、その後の給与からの源泉徴収税額が適切に調整されます。
提出が遅れると、年末調整で大幅な追加納税や還付金の不足が生じる可能性がありますので注意が必要です。
変更があった際は、躊躇せずに会社の人事・経理担当者に相談してください。
まとめ
よくある質問
Q: 扶養控除等申告書はいつまでに提出すれば良いですか?
A: 一般的に、年末調整のために会社に提出する場合は、その年の12月上旬頃までが提出期限となります。具体的な期日は勤務先にご確認ください。
Q: 独身の場合、扶養控除等申告書の書き方はどうなりますか?
A: 独身で配偶者も扶養親族もいない場合は、申告書の「源泉控除対象配偶者」や「扶養親族」の欄は空欄となります。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「本人」に関する項目を正確に記入することが重要です。
Q: 妻が扶養に入る場合、申告書の書き方の注意点は?
A: 妻が所得の合計額が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であれば、扶養親族として申告できます。「源泉控除対象配偶者」の欄に、配偶者の氏名、マイナンバー、生年月日などを記入します。
Q: 子供が生まれたばかりの場合、扶養控除等申告書の書き方は?
A: 子供が生まれた年であっても、その年の所得が一定額以下であれば扶養親族として申告できます。生計を一にしていることを証明するため、続柄や生年月日などを正確に記入してください。
Q: 扶養控除等申告書で「続柄」や「世帯主」の欄を空欄にしてはいけませんか?
A: 「続柄」は、申告者本人と扶養親族の関係を示す重要な情報です。「世帯主」は、生計を一にしているかの判断材料となる場合があります。基本的には正確に記入し、不明な場合は税務署や勤務先に確認することをおすすめします。空欄にすると、控除が適用されない可能性があります。
