年末調整の「総支給額」とは?基本を理解しよう

総支給額とは何か?

年末調整でよく耳にする「総支給額」とは、税金や社会保険料が差し引かれる前の、1年間の給与・賞与の合計額を指します。これは、あなたの給与明細に記載されている「総支給額」を合計したものと同じ意味です。源泉徴収票では「支払金額」という項目で確認できます。

この金額が、所得税や社会保険料が計算される際のベースとなるため、年末調整において非常に重要な数字となります。正確な総支給額を把握することは、自身が支払うべき税額や、還付される可能性のある金額を理解する第一歩です。

総支給額に含まれる項目

総支給額には、基本給や各種手当(役職手当、住宅手当など)、そして賞与が含まれます。これに加え、会社から現物で支給されるものも収入とみなされる場合があります。例えば、商品やサービスを安価で利用できるベネフィットなども該当することがあります。

また、会社所有の土地や建物を相場より低い家賃で借りている場合や、無利息または低金利で会社からお金を借りている場合も、経済的利益として総支給額に含まれることがあります。ただし、通勤手当や出張旅費など、一定の要件を満たすものは非課税となり、総支給額には含まれません。

源泉徴収票での表示と重要性

あなたの総支給額は、年末に会社から発行される「源泉徴収票」に「支払金額」として明記されています。この支払金額は、所得税や住民税の計算だけでなく、社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)の計算の基礎にもなるため、非常に重要な情報です。

特に、転職した方や年の途中で入社した方は、前職の源泉徴収票と合算して年末調整を行う必要があります。もし複数の会社から給与を受け取っている場合は、全ての支払金額を合計して考える必要があります。源泉徴収票は、確定申告を行う際にも必要となる大切な書類です。

所得金額との違いは?年末調整で考慮される項目

総支給額と所得金額の明確な違い

「総支給額」と「所得金額」は混同されがちですが、これらは明確に異なります。総支給額(収入金額)は、税金や社会保険料が差し引かれる前の収入の総額です。一方、「所得金額」は、この総支給額から「給与所得控除額」などを差し引いた後の金額を指します。

いわば、会社員の「所得金額」は、自営業者でいう「売上から経費を差し引いた利益」のようなものです。所得金額が計算の基準となり、ここからさらに各種所得控除が引かれて「課税所得金額」が算出され、最終的な所得税額が決まります。

給与所得控除の役割と計算

給与所得控除は、会社員が給与を得るためにかかった「経費」とみなされ、収入金額に応じて自動的に差し引かれる制度です。これにより、課税される所得を減らすことができます。給与所得控除額は、収入金額に応じて国税庁が定める速算表に基づいて計算されます。

具体的には、

  • 収入金額(総支給額): 税金・社会保険料控除前の年間の総額
  • 給与所得控除額: 収入金額に応じて定められる、経費に相当する控除額
  • 所得金額(給与所得): 収入金額 – 給与所得控除額

という計算式で算出されます。この控除があることで、会社員も一定の税負担軽減が受けられるのです。

2025年度税制改正の影響(給与所得控除、基礎控除)

2025年度(令和7年度)の税制改正では、給与所得控除と基礎控除に重要な変更があります。まず、給与所得控除の最低保障額が、現行の55万円から65万円に引き上げられます。これは、給与収入が少ない人にとって大きな恩恵となります。

この改正により、給与収入が123万円以下の場合は、基礎控除額58万円と給与所得控除額65万円を差し引いた結果、給与所得がゼロとなり、所得税がかからなくなります。また、基礎控除額も、合計所得金額2,350万円以下の場合に48万円から58万円に引き上げられるため、多くの納税者の税負担が軽減される見込みです。

交通費や通勤手当は総支給額に含まれる?

交通費・通勤手当の課税・非課税区分

通勤手当や交通費は、支給される金額によって課税・非課税の扱いが異なります。一定の限度額内であれば、所得税の課税対象とならない「非課税所得」として扱われます。これは、通勤に必要な実費とみなされるためです。

例えば、公共交通機関を利用する場合や、マイカー・自転車通勤の場合でも、定められた非課税限度額が設けられています。この非課税限度額を超えた部分については、給与所得として課税対象となり、総支給額に含まれてしまいます。

年末調整における交通費の扱い

非課税となる通勤手当は、そもそも給与所得として計算されないため、年末調整の対象となる総支給額(支払金額)には含まれません。つまり、非課税分の交通費は、所得税や住民税の計算には影響しないということです。

会社が支給する通勤手当が非課税限度額内であれば、年末調整で特別な手続きは必要ありません。しかし、もし非課税限度額を超えて支給されている場合は、その超過分が課税対象となり、他の給与と同じように年末調整の計算に組み込まれます。

非課税限度額と超えた場合の注意点

通勤手当の非課税限度額は、通勤方法によって異なります。
例えば、電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合は、1ヶ月あたり15万円までが非課税です。マイカーや自転車で通勤する場合は、通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。

通勤距離 1ヶ月あたりの非課税限度額
片道55km以上 31,600円
片道45km以上55km未満 28,000円
片道35km以上45km未満 24,400円
片道25km以上35km未満 18,700円
片道15km以上25km未満 12,900円
片道10km以上15km未満 7,100円
片道2km以上10km未満 4,200円
片道2km未満 全額課税

(※上記は2024年現在の目安であり、税法改正等により変更される場合があります。)
もし会社からこの限度額を超えて通勤手当が支給されている場合は、その超過分が給与として課税対象となるため、年末調整や確定申告の際には注意が必要です。

年末調整でいくら返ってくる?超過額と追加徴収について

還付金が発生する仕組みと平均額

年末調整で税金が「返ってくる(還付される)」のは、毎月の給与から源泉徴収されていた所得税額が、実際に納めるべき年間の所得税額よりも多かった場合に発生します。毎月の源泉徴収は、扶養親族の数などに基づいて概算で計算されているため、年末に正確な情報で再計算することで差額が生じるのです。

この還付金は、多くの人にとって嬉しい一時金となります。令和5年分の調査によると、年末調整による還付金の平均額は約66,400円と推定されています。この還付金は、通常、12月分の給与と一緒か、翌年1月頃に支給されることが多いです。

還付金が増える主なケースと具体例

還付金は、年の途中で各種控除の対象となる状況が変化したり、新たに控除を申請したりした場合に増える傾向があります。主なケースは以下の通りです。

  • 結婚により配偶者控除や配偶者特別控除が適用される場合。
  • お子様が生まれたり、扶養親族が増えたりして扶養控除が適用される場合。
  • 年末に住宅を取得し、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)の対象となった場合(初年度は確定申告が必要)。
  • 生命保険料控除地震保険料控除など、年末調整で申告できる保険料を支払った場合。
  • 個人で社会保険料を支払った場合や、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入し掛金を支払った場合(小規模企業共済等掛金控除)。
  • 本人や家族が障害者になった場合(障害者控除の適用)。

これらの控除は、課税所得を減らし、結果として納める税額が少なくなるため、還付金が発生しやすくなります。

還付金がもらえないケースと受け取り時期

年末調整を行っても還付金がもらえないケースや、むしろ追加徴収となるケースもあります。

  • 12月31日までに退職し、新しい職場での年末調整が行われなかった場合。
  • 給与所得者でありながら、副業所得が20万円を超えるなど、確定申告が必要な場合。
  • 会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を未提出の場合、または記載内容に誤りがあった場合。
  • 年の途中で扶養親族が減るなどして、控除が減少したのに毎月の徴収額が調整されなかった場合。

還付金は、一般的に12月分の給与と一緒に支払われるか、翌年1月頃に支給されます。もし追加徴収が必要な場合は、12月や1月の給与から不足分が差し引かれることになります。

年末調整と確定申告、税制改正の今後の注意点

年末調整と確定申告、それぞれの役割

年末調整と確定申告は、どちらも所得税を精算するための手続きですが、対象者や目的が異なります。年末調整は、主に会社員が会社を通じて行う手続きで、毎月の給与から天引きされた所得税を年間の正確な税額に調整します。これにより、多くの会社員は確定申告の手間を省くことができます。

一方、確定申告は、原則として納税者自身が税務署に対して行う手続きです。自営業者やフリーランスのほか、会社員でも年末調整だけでは税金が精算できない特定の条件に該当する人が対象となります。

確定申告が必要となる主なケース

会社員であっても、以下のようなケースでは年末調整だけでは完結せず、ご自身で確定申告を行う必要があります。

  • 給与所得が2,000万円を超える場合。
  • 副業での所得が年間20万円を超える場合。
  • 年の途中で退職し、再就職しなかった場合や、年末調整の手続きに間に合わなかった場合。
  • 医療費控除や寄付金控除など、年末調整では申請できない控除を適用したい場合。
  • 住宅ローン控除を初めて利用する場合(2年目以降は年末調整で可能)。
  • 2ヶ所以上の会社から給与を受け取っている場合。
  • 株やFXなどの投資で利益が出た場合(特定口座源泉徴収ありの場合は不要な場合も)。

ご自身の状況を確認し、必要であれば確定申告の手続きを忘れずに行いましょう。

2025年度税制改正と今後の確認ポイント

2025年度(令和7年度)の年末調整では、いくつかの重要な税制改正が適用されます。すでに触れた給与所得控除や基礎控除の引き上げに加え、特定親族特別控除の創設、そして扶養親族等の所得要件の改正などがあります。

これらの変更により、年末調整の計算方法や必要な申告書の様式も変わる可能性があります。税制改正は、個人の税負担に大きな影響を与えるため、毎年最新の情報を確認することが非常に重要です。税務署のウェブサイトや、会社の担当部署からの案内などを積極的にチェックし、ご自身の状況に合わせて適切に対応するように心がけましょう。