概要: 年末調整とは、1年間の所得にかかる所得税を最終的に確定させる手続きです。給与所得者であれば原則として会社が行いますが、対象者や時期、手続き内容を理解しておくことが重要です。
年末調整の基本を解説!いつからいつまで?誰がやる?
年末が近づくと、会社員の方にとって切っても切り離せないのが「年末調整」です。毎年なんとなく書類を提出しているけれど、具体的に何のために行われるのか、いつからいつまでに、誰がやるのか、そして2025年の税制改正で何が変わるのか、しっかり理解できていますか?
今回は、そんな年末調整の基本から、2025年実施分の最新情報までを分かりやすく解説します。年末調整をスムーズに乗り切るためのポイントもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
年末調整とは?その目的を分かりやすく解説
そもそも年末調整って何?
年末調整とは、会社が従業員に支払った給与や賞与から源泉徴収(天引き)した所得税額と、本来納めるべき1年間の所得税額との過不足を調整する手続きのことです。
通常、毎月の給与から天引きされる所得税は、扶養親族の数などに基づいて計算された「概算」の金額です。しかし、生命保険料控除や地震保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛け金、住宅ローン控除など、個々人の状況に応じた様々な所得控除を考慮すると、実際に納めるべき所得税額は変わってきます。
この差額を年末に精算し、もし払い過ぎていれば還付され、不足していれば追加徴収されることで、その年の正しい所得税額が確定します。税金の計算というと複雑に感じられますが、会社が代行してくれるため、従業員は指示された書類を提出するだけで手続きが完了する便利な仕組みなのです。
なぜ年末調整が必要なの?その目的
年末調整の最も大きな目的は、「従業員が納めるべき所得税額を正確に計算し、納税を完了させること」にあります。これには大きく分けて二つの側面があります。
一つは、納税者である従業員側の利便性向上です。もし年末調整がなければ、すべての給与所得者が毎年自分で確定申告を行う必要があり、大きな負担となります。年末調整があることで、多くの会社員は確定申告の手間を省き、簡単に納税義務を果たすことができるのです。
もう一つは、税務行政の効率化です。会社が従業員の所得税を一括して管理・調整することで、税務署は個々の納税者から申告を受け付ける手間を大幅に削減できます。これにより、国全体の税務処理がよりスムーズに進むようになっています。また、様々な所得控除を適用することで、個人の経済状況に応じた公平な税負担を実現する役割も担っています。
2025年の年末調整、何が変わる?
2025年(令和7年)の年末調整では、税制改正によりいくつかの重要な変更点があります。特に注目すべきは、「年収の壁」対策として行われる控除の見直しです。
- 基礎控除・給与所得控除の見直し: 基礎控除額が、合計所得金額に応じて従来の48万円から58万円~95万円に引き上げられます。また、給与所得控除の最低保障額も55万円から65万円に引き上げられます。これにより、実質的な「年収の壁」が103万円から160万円まで引き上げられることになります。
 - 扶養親族等の所得要件の改正: 扶養親族の所得要件が「年収103万円以下」から「年収123万円以下」に緩和されます。
 - 特定親族特別控除の創設: 年末時点で19歳以上23歳未満の子を扶養している場合、その子の年収が123万円を超えても188万円まで控除対象となる「特定親族特別控除」が新設されます。
 - 住宅ローン控除の「調書方式」開始: 住宅ローン控除の年末残高証明書について、従来の「証明書方式」に加え、「調書方式」が利用可能になります。
 
これらの改正は、特にパート・アルバイトで働く方や、子育て世帯に大きな影響を与える可能性があります。自身の状況に合わせた変更点をしっかり把握しておくことが重要です。
年末調整は誰がやるの?対象者と対象外になるケース
年末調整の対象者は?
原則として、会社に在籍するすべての給与所得者が年末調整の対象となります。正社員はもちろんのこと、パートやアルバイトの方で、会社から給与を受け取っている方も含まれます。具体的には、その年の1月1日から12月31日までの間に会社から給与の支払いを受け、年末までその会社に在籍している方が該当します。
ただし、月の途中や年末に退職した場合でも、その会社で最後に支払われる給与を受け取る際に年末調整が行われるケースがあります。例えば、12月に退職し、年内に再就職しない場合は、退職時にその会社で年末調整が実施されることがあります。また、年の途中で死亡により退職した場合も、死亡時までに支払われた給与について年末調整が行われます。
会社が従業員の給与から源泉所得税を徴収している以上、年末調整を行うのは会社の義務であり、ほとんどの会社員にとっては避けて通れない大切な手続きと言えるでしょう。
自分で確定申告が必要なケース
多くの会社員は年末調整で納税が完結しますが、以下のような特別な状況にある方は、年末調整の対象外となり、自身で確定申告を行う必要があります。
- 給与収入金額が2,000万円を超える場合: 高額所得者は年末調整の対象外です。
 - 副業などで複数の勤務先から給与を受け取っており、年末調整を受けられない場合: 主たる給与の会社で年末調整を受け、副業分の所得は確定申告で合算して納税します。
 - 年の途中で退職し、年末までに再就職していない場合: 再就職先で前職分と合わせて年末調整を受けることができなければ、自分で確定申告が必要です。
 - 医療費控除や特定支出控除を受けたい場合: 年末調整では対応できない控除のため、確定申告が必要です。
 - 住宅ローン控除を初年度に受ける場合: 住宅ローン控除は初年度のみ確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で手続きできます。
 
上記に該当する場合は、年末調整の時期とは別に、翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署へ確定申告書を提出する必要があります。自分の状況を確認し、適切な手続きを選びましょう。
知っておきたい!扶養親族の所得要件緩和
2025年の税制改正では、扶養親族に関する重要な変更点があります。これまで扶養親族の所得要件は「年収103万円以下」が一般的でしたが、これが「年収123万円以下」に緩和されます。
この変更は、特に配偶者控除や扶養控除を受ける際に影響します。例えば、パートで働く配偶者がいる場合、これまでは年収103万円を超えると扶養から外れることが多かったですが、今後は年収123万円まで扶養対象となるため、世帯収入を増やす選択肢が広がります。
さらに、年末時点で19歳以上23歳未満の子を扶養している家庭向けに、「特定親族特別控除」が新設されます。これは、その子の年収が123万円を超えても、188万円までは控除対象となる制度です。学費を稼ぐ学生や、少し多めに働いている若年層の子どもがいる家庭にとって、家計を支援する大きなメリットとなるでしょう。これらの変更点を把握し、自身の扶養状況に合わせた正確な申告を行いましょう。
年末調整のスケジュール:いつからいつまでに行う?
会社からの書類配布と提出期限
年末調整の手続きは、一般的に10月頃から翌年1月にかけて行われます。まず、従業員が最初に行うのは、会社から配布される各種申告書の記入と提出です。
- 書類の配布: 多くの会社では、10月中旬~下旬頃に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の保険料控除申告書」などの年末調整関係書類が従業員へ配布されます。
 - 書類の提出: 従業員は必要事項を記入し、生命保険料控除証明書や地震保険料控除証明書などの添付書類を添えて、11月上旬頃までに会社へ提出するのが一般的です。
 
提出期限は会社によって異なるため、配布された書類や社内掲示などで必ず確認しましょう。特に、控除証明書の発行時期や、必要な情報の確認に時間がかかることもあるため、早めに準備を始めることがスムーズな提出の鍵となります。
年末調整の対象となる給与期間
年末調整の対象となるのは、「その年の1月1日から12月31日までの1年間で支払われた給与」です。これは「いつの労働に対する給与か」ではなく、「いつ実際に支払われたか」で判断されます。
例えば、12月分の給与が翌年1月に支払われるような場合は、その12月分の給与は翌年の年末調整で精算されることになります。これは、年末調整がその年の所得を確定させる手続きであるため、実際に受け取った金額に基づいて計算されるという原則があるからです。
したがって、年の途中で転職した場合などは、前職と現職の両方で支払われた給与がその年の年末調整の対象となります。通常は、現職の会社が前職の源泉徴収票を取り寄せ、合算して年末調整を行います。自身の年間給与総額を正確に把握するためにも、給与明細や源泉徴収票は大切に保管しておきましょう。
会社の役割と税務署への提出
従業員から提出された年末調整関係書類を受け取った後、会社は重要な役割を担います。会社は、従業員から集めた書類に基づいて所得控除額を計算し、従業員の年間所得税額を再計算します。
この計算により、源泉徴収した税額と本来納めるべき税額との差額を精算します。通常、多くの従業員は税金が還付されることになりますが、不足がある場合は追加で徴収されます。この精算は、12月または翌年1月の給与支払時に行われることが多いです。
会社は年末調整が完了した後、その結果を税務署に報告する義務があります。具体的には、年末調整によって調整された給与所得の源泉徴収票を従業員に交付し、翌年1月31日までに税務署へ「法定調書合計表」と「給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)」などを提出します。これにより、会社としての納税義務が果たされ、個々の従業員の納税も完結します。
年末調整で具体的に何をする?手続きの流れをチェック
提出が必要な主な書類を理解しよう
年末調整をスムーズに進めるためには、どのような書類を提出する必要があるのかを事前に理解しておくことが大切です。主な提出書類は以下の通りです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:
- 扶養親族(配偶者や子どもなど)に関する情報を申告し、扶養控除を受けるための書類です。
 - 2025年からは扶養親族の所得要件が緩和される点に注意が必要です。
 - 通常、その年最初に給与を受け取る際に提出し、扶養親族に変更があった場合に「異動」として再提出します。
 
 - 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書:
- 複数の控除をまとめて申告できる書類です。
 - 基礎控除(全ての納税者に適用)、配偶者控除・配偶者特別控除(配偶者の所得に応じる)、特定親族特別控除(2025年新設)、所得金額調整控除(一部の高額所得者に適用)を申告します。
 - 特に2025年からは、基礎控除額や特定親族特別控除の創設があるので、記入時には最新の情報を確認しましょう。
 
 - 給与所得者の保険料控除申告書:
- 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除(個人的に支払ったもの)などを申告するための書類です。
 - これらの控除を受けるためには、保険会社から発行される「控除証明書」の添付が必須となります。
 
 - 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書:
- 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受ける場合に提出します。
 - ただし、初年度は確定申告が必要で、2年目以降から年末調整で手続きが可能になります。
 - 「住宅借入金等特別控除額の計算明細書」と金融機関が発行する「住宅ローンの年末残高証明書」を添付します。
 
 
これらの書類は、会社の指示に従って正確に記入し、必要な証明書を添付して提出することが重要です。
各書類の記入ポイントと控除の種類
年末調整の書類は多くの項目があり、記入に迷うことも少なくありません。しかし、それぞれの書類がどのような控除に関わるかを理解すれば、スムーズに記入できます。
- 扶養控除等申告書:
- 扶養している家族の氏名、生年月日、所得の見込み額などを正確に記入します。
 - 特に障害者控除や寡婦(夫)控除など、特別な控除を受ける場合は、該当箇所にチェックを入れ、必要事項を記入します。
 
 - 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書:
- 自身の年収から算出した「合計所得金額の見積額」を正確に記入することが重要です。これにより、受けられる基礎控除額や配偶者控除額が決まります。
 - 配偶者控除・配偶者特別控除は配偶者の年収に応じて控除額が変わるため、配偶者の年収見込み額も把握しておく必要があります。
 - 2025年新設の特定親族特別控除は、19歳以上23歳未満の子の所得要件が188万円以下となるため、その範囲内で子の所得を記入します。
 
 - 保険料控除申告書:
- 生命保険、個人年金保険、介護医療保険、地震保険などの保険料を記入し、対応する控除証明書を添付します。
 - 支払った保険料に応じて控除額が計算されます。
 
 
記入に不安がある場合は、会社の担当者や国税庁のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。特に2025年の改正点は影響が大きいので、最新情報を確認しながら記入を進めましょう。
住宅ローン控除の新たな「調書方式」とは?
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けている方にとって、2025年の年末調整における新たな変更点として「調書方式」の開始が挙げられます。これまでは、金融機関から送られてくる「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を添付する「証明書方式」が一般的でした。
調書方式とは、国税庁が金融機関から直接住宅ローン残高の情報を取得し、納税者に代わって税務署に申告する新しい方式です。これにより、納税者は金融機関から送られてくる証明書を管理・提出する手間を省くことができます。
ただし、調書方式の利用には、いくつかの条件や事前の同意が必要となる場合があります。すべての金融機関が対応しているわけではない可能性もありますので、ご自身の利用している金融機関や会社に確認することが重要です。この新しい方式が利用できれば、年末調整の手続きがより一層簡素化されることが期待されます。
年末調整をスムーズに進めるためのポイント
早めの準備がカギ!書類確認と情報収集
年末調整をスムーズに進めるための最も重要なポイントは、「早めの準備」です。年末調整の書類は10月下旬頃から配布されますが、その前に以下のような準備を進めておくことで、記入漏れや添付書類の不足を防ぐことができます。
- 必要書類の確認: 会社から配布される書類の種類を確認し、それぞれの書類でどのような情報が必要になるかを把握しておきます。
 - 控除証明書等の確認: 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、iDeCoの払込証明書、小規模企業共済等掛金払込証明書などは、通常10月~11月頃に各機関から郵送されます。これらが手元に届いているか、内容に間違いがないかを確認しましょう。もし届かない場合は、早めに発行元に問い合わせが必要です。
 - 家族の所得状況の把握: 配偶者控除や扶養控除を受ける場合、配偶者や扶養親族の年収見込み額を把握しておく必要があります。特に2025年からは所得要件が変更されるため、最新の情報を確認しながら、家族と情報を共有しておくことが大切です。
 
これらの準備を早めに行うことで、余裕を持って書類作成に取り組むことができ、間違いのない申告に繋がります。
「年収の壁」対策!税制改正を理解しよう
2025年の税制改正では、「年収の壁」に対する対策が大きく導入されました。これまでの「103万円の壁」や「130万円の壁」などが、今回の改正で実質的に緩和されることになります。具体的には、基礎控除や給与所得控除の見直しにより、「103万円の壁」は実質「160万円の壁」まで引き上げられます。
また、扶養親族の所得要件が103万円から123万円に緩和されたことも、パートタイムで働く配偶者や学生の子どもを持つ家庭にとって大きな変更点です。これにより、これまで扶養を意識して収入を抑えていた方が、より柔軟に働くことができるようになります。
これらの改正は、世帯全体の収入や納税額に直接影響を与える可能性があります。自身の働き方や家族の働き方を考える上で、この税制改正の内容を深く理解し、必要であれば働き方を見直すきっかけにすることもできます。国税庁や自治体のウェブサイトなどで詳細情報を確認し、積極的に情報を収集しましょう。
会社への確認と期限厳守の重要性
年末調整は会社が代行する手続きですが、最終的な責任は納税者である従業員自身にあります。そのため、提出書類の記入漏れや添付書類の不備がないよう、細心の注意を払う必要があります。
- 不明点の確認: 記入方法や控除に関する不明な点があれば、必ず会社の総務部や経理部、あるいは年末調整の担当者に早めに確認しましょう。自己判断で記入すると、誤った申告に繋がる可能性があります。
 - 期限厳守: 会社が定めた提出期限を厳守することも非常に重要です。期限を過ぎてしまうと、会社での年末調整に間に合わず、ご自身で確定申告を行わなければならなくなる場合があります。確定申告は年末調整よりも手間がかかるため、できるだけ期限内に提出するようにしましょう。
 - 源泉徴収票の確認: 年末調整後、会社から交付される「給与所得の源泉徴収票」は、その年の所得と納税額の最終的な証明書です。記載内容に間違いがないか確認し、大切に保管しておきましょう。この源泉徴収票は、住宅ローンを組む際や確定申告が必要になった場合などに使用する重要な書類です。
 
年末調整を適切に行うことで、正確な所得税額を確定させ、安心して新年を迎えることができます。最新の情報を参考に、計画的に準備を進めていきましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 年末調整とは具体的に何をするためのものですか?
A: 年末調整とは、1年間に支払われた給与から源泉徴収された所得税額と、本来納めるべき所得税額との過不足を精算する手続きです。これにより、納めすぎた税金が還付されたり、不足分を追加で納めたりします。
Q: 年末調整は誰がやるのですか?
A: 原則として、給与所得者(会社員やパート・アルバイトなど)が対象となります。ただし、一定の条件を満たす方は年末調整の対象外となる場合があります。
Q: 年末調整はいつからいつまでに行われますか?
A: 年末調整の準備期間は11月頃から始まり、書類の提出や計算を経て、12月末までに完了するのが一般的です。具体的なスケジュールは会社によって異なります。
Q: 年末調整の対象にならない人はどのような人ですか?
A: 年間の給与収入が2,000万円を超える方、2ヶ所以上から給与を得ており、主たる給与以外の給与から源泉徴収された所得税と給与所得以外の所得にかかる所得税額の合計額が10万円を超える方、年の途中で退職された方などが対象外となります。
Q: 年末調整で必要な書類は何ですか?
A: 扶養控除等申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除関連書類など、個々の状況によって異なります。会社から配布される書類の内容をよく確認し、必要書類を準備してください。
  
  
  
  