概要: 退職を決意した際に必要となる「辞表」。書き方に迷っていませんか?この記事では、手書き・パソコンそれぞれの作成方法、記入すべき項目、用紙の選び方まで、初心者でも迷わないように徹底的に解説します。例文も豊富にご紹介するので、スムーズな退職準備にお役立てください。
辞表とは?退職届との違いを理解しよう
会社を辞める際に提出する書類には、いくつかの種類があります。「退職願」「退職届」「辞表」は、それぞれ異なる目的と意味合いを持つため、自身の状況に合わせて適切な書類を選ぶことが非常に重要です。
退職関連書類の種類と目的
まず、会社に退職の意思を伝える書類は、大きく分けて三つあります。
- 退職願(たいしょくがん):会社に退職を「お願いする」ための書類です。退職の意思を固めた段階で提出し、会社側の承認を得ることで退職日が決定します。あくまで「願い出る」形ですので、会社との合意形成の余地があり、状況によっては撤回も可能です。
 - 退職届(たいしょくどけ):退職が会社によって正式に認められた後、退職を「届け出る」ための書類です。一度受理されると、原則として撤回することはできません。退職が確定した後に提出されることが多く、法的な効力を持つ書類として扱われます。
 - 辞表(じひょう):この書類は、一般社員が使用する「退職願」や「退職届」とは明確に区別されます。主に社長や取締役などの役職者、あるいは公務員が職を辞する際に提出する書類です。役職者としての責任を伴う退職であるため、その重みも異なります。
 
一般の社員が会社を辞める場合は、「退職願」や「退職届」を使用するのが適切です。「辞表」は特別な位置づけにあることを理解しておきましょう。
なぜ違いを知ることが重要なのか
これらの書類の違いを理解することは、スムーズかつ円満な退職を実現するために不可欠です。
例えば、まだ会社との間で退職日などの条件が確定していない段階で「退職届」を提出してしまうと、後から条件交渉が難しくなったり、意図しない形で退職が確定してしまう可能性があります。
反対に、退職が既に決定しているのに「退職願」を出してしまうと、形式的な不備として再提出を求められることも考えられます。
特に「退職届」は、会社に受理された時点で退職の意思表示が完了し、撤回が難しくなるという法的拘束力があるため、提出時期と内容には細心の注意を払う必要があります。正しい書類を適切なタイミングで提出することで、無用なトラブルを避け、円満な退職に繋げることができます。
会社都合・自己都合での使い分け
退職理由によっても、書類の記載内容や提出の考え方が異なります。
「自己都合退職」の場合、多くのケースでは「一身上の都合」と記載します。これは、具体的な退職理由(例:人間関係、給与への不満など)を会社に詳細に伝える必要がない、あるいは円満退社のためにあえて伏せるという慣習があるためです。
エン・ジャパンの調査(2024年)によると、半数以上の人が退職時に企業に伝えなかった「本当の退職理由」があると回答しており、企業に伝えた理由の1位は「別の職種にチャレンジしたい」でしたが、本当の理由の1位は「人間関係が悪い」でした。このように、多くの場合、本音と建前を使い分けるのが一般的です。
一方、「会社都合退職」(部門縮小、リストラなど)の場合、会社から退職を促される形になるため、書類の提出時期や記載内容が異なる場合があります。
会社都合の場合は、具体的な理由を記載することが求められるケースもありますが、基本的には会社の指示に従い、就業規則を必ず確認することが重要です。いずれのケースでも、就業規則で定められた退職に関する規定を事前に確認し、直属の上司と十分に話し合ってから書類を作成・提出するようにしましょう。
手書きで作成する場合の基本マナーと注意点
手書きで辞表(退職願・退職届)を作成することは、会社への誠意を示す有効な方法とされています。しかし、いくつかの基本マナーと注意点を守ることが重要です。
誠意が伝わる手書きのメリットと準備
手書きの書類は、作成に手間と時間がかかる分、提出者の真剣さや誠意が伝わりやすいという大きなメリットがあります。
特に、日本のビジネス文化においては、重要な意思表示を手書きで行うことが尊重される傾向にあります。
準備としては、まず白無地のB5またはA4サイズの便箋を用意しましょう。罫線入りでも構いませんが、ビジネス用途にふさわしいシンプルなデザインを選びます。キャラクターものや派手な便箋は避けましょう。
筆記用具は、黒のボールペンまたは万年筆を使用します。摩擦で消えるボールペンは、文書の改ざんや消失のリスクがあるため、絶対に避けてください。清書する前に、鉛筆などで下書きをしてから丁寧に書き写すことで、誤字脱字を防ぎ、美しい仕上がりを目指しましょう。
記載内容の正しいフォーマットと配置
手書きの辞表(退職願・退職届)は、以下の基本フォーマットに沿って記載します。各項目の配置にも注意しましょう。
- タイトル:「退職願」または「退職届」を用紙の中央上部に大きめに記載します。
 - 書き出し:本文の冒頭に「私儀(わたくしぎ)」と記載します。これは「私事ですが」という意味で、謙譲の意を表します。
 - 退職理由:自己都合退職の場合は「一身上の都合」と記載します。会社都合の場合は、会社の指示に従い具体的な理由を記載することもあります。
 - 退職希望日/退職日:「退職願」では「令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」のように希望日を記載し、「退職届」では「令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。」のように確定した退職日を記載します。年号は西暦・和暦どちらでも構いませんが、社内で統一されている表記があればそれに従いましょう。
 - 提出日:書類を実際に提出する日付を記載します。
 - 宛名:会社名と代表者名(役職とフルネーム)を正確に記載します。「株式会社」などの略称は避け、正式名称で記入します。敬称は「様」または「殿」を使用します。
 - 所属・氏名・捺印:ご自身の所属部署名と氏名を記載し、氏名の下に認印を捺印します。
 
これらの項目を、便箋にバランスよく配置し、丁寧な文字で書きましょう。誤字脱字がないか、複数回確認することが大切です。
封筒の選び方と封入・提出時のマナー
手書きの辞表は、適切な封筒に入れて提出することがマナーです。
封筒は、白無地の縦長封筒(郵便番号枠なし)を使用します。茶封筒や柄入りの封筒はビジネス文書には不適切です。
封筒の表面には、中央に「退職願」または「退職届」と記載します。裏面の左下あたりに、ご自身の所属部署と氏名を記載しましょう。
便箋の折り方にも注意が必要です。便箋は、文字が書かれた面が内側になるように三つ折りにします。便箋の文字が外から見えないように折りたたみ、封筒に入れます。封筒を封をする場合は、のり付けをしてから「〆」マークを記載するのが丁寧です。セロハンテープの使用は避けましょう。
提出時は、直属の上司に直接手渡しするのが一般的です。封筒のまま渡すか、クリアファイルなどに入れて渡すのが良いでしょう。あくまで「お願い」や「届け出」の書類ですので、毅然とした態度で、しかし謙虚な姿勢で提出することが求められます。
パソコンで作成する場合のフォーマットとポイント
近年では、会社の規定で認められている場合や、ビジネス文書の効率化の観点から、辞表(退職願・退職届)をパソコンで作成するケースも増えています。
パソコン作成が認められるケースとメリット
パソコンでの辞表作成は、会社の就業規則で許可されている場合に限られます。事前に必ず人事部や上司に確認を取るようにしてください。
パソコン作成のメリットはいくつかあります。まず、誤字脱字があった場合でも修正が容易であり、何度も書き直す手間が省けます。また、フォントやレイアウトが整っているため、見た目が非常にきれいで読みやすい書類を作成できます。ビジネス文書としての体裁が整いやすく、プロフェッショナルな印象を与えることも可能です。これにより、多忙な中でも効率的に書類を準備できるため、時間的なメリットも大きいと言えるでしょう。
しかし、手書きに比べて「誠意が伝わりにくい」と感じる人もいるため、提出先の文化や会社の慣習を考慮することが重要です。
ビジネス文書としてのレイアウトと書式
パソコンで作成する場合、一般的なビジネス文書のフォーマットに則ることが求められます。
使用するソフトはWordが一般的です。
- フォント:明朝体やゴシック体など、ビジネス文書にふさわしい、読みやすいフォントを選びましょう。奇抜なフォントは避けてください。
 - フォントサイズ:本文は10.5ptから12pt程度が適切です。タイトルは少し大きめにするなど、メリハリをつけると良いでしょう。
 - 余白:上下左右に適切な余白(標準設定で問題ないことが多い)を設定し、全体的にバランスの取れたレイアウトにします。
 - 行間:行間を適切に設定し、詰まりすぎず、開きすぎないように調整します。
 
手書きの場合と同様に、タイトルを中央に配置し、宛名、提出日、所属、氏名などの各項目を適切な位置に配置します。テンプレートを活用すると、より簡単に整った書類を作成できるでしょう。
日付の表記は西暦・和暦どちらでも構いませんが、会社内で使用されている形式に合わせるか、統一された表記にしてください。
署名・捺印のルールと注意すべき点
パソコンで辞表を作成した場合でも、署名と捺印は手書きで行うのが一般的です。
本文をプリントアウトした後、ご自身の氏名を手書きで署名し、その下に認印を捺印します。この際、印鑑がかすれたり、逆になったりしないよう、きれいに押すことが大切です。
最近では電子署名なども存在しますが、退職に関する重要な書類では、物理的な捺印を求める企業がほとんどです。念のため、署名・捺印の具体的なルールについても事前に会社に確認しておくと安心です。
書類が完成したら、誤字脱字がないか、記載漏れがないか、会社の規定に沿っているかなど、複数回にわたって最終確認を行いましょう。特に日付、氏名、捺印は忘れやすい項目ですので、十分に注意してください。
辞表の書き方:項目ごとの記入例と例文集
実際に辞表(退職願・退職届)を作成する際に役立つ、具体的な記入例と例文を紹介します。適切な表現を用いることで、スムーズな手続きに繋がります。
基本フォーマットと各項目の記入例
ここでは、最も一般的な「退職願」の基本フォーマットを示します。退職届も同様の構成ですが、文末の表現が異なります。
                退職願
私儀
今般、一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、
ここにお願い申し上げます。
令和〇年〇月〇日
〇〇〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇 〇〇殿
〇〇部
〇〇 〇〇(印)
各項目の記入例は以下の通りです。
- タイトル:「退職願」または「退職届」を中央に。
 - 書き出し:「私儀(わたくしぎ)」と記載。
 - 退職理由:「一身上の都合」と記載。
 - 退職希望日/退職日:
- 退職願の場合:「令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」
 - 退職届の場合:「令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。」
 
 - 提出日:書類を作成・提出する日付。例:令和〇年〇月〇日。
 - 宛名:正式な会社名と代表取締役社長のフルネーム。例:〇〇〇〇株式会社 代表取締役社長 〇〇 〇〇殿。
 - 所属・氏名・捺印:自身の部署名と氏名を記載し、認印を捺印。
 
自己都合退職と会社都合退職の例文
【自己都合退職の例文】
ほとんどの自己都合退職の場合、以下のように「一身上の都合」と記載するのが一般的です。
                退職願
私儀
今般、一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって退職いたしたく、
ここにお願い申し上げます。
令和〇年〇月〇日
〇〇〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇 〇〇殿
営業部
山田 太郎(印)
実際の退職理由が「人間関係」や「給与への不満」などであったとしても、円満退社のためには詳細を述べず「一身上の都合」とすることが推奨されます。エン・ジャパンの調査でも、多くの人が本当の退職理由を伝えないと回答しています。
【会社都合退職の例文】
会社都合による退職の場合も、多くは「一身上の都合」とすることが多いですが、会社の指示によっては具体的な理由を記載することもあります。その場合でも、簡潔に事実を述べるに留めます。
                退職届
私儀
今般、貴社〇〇事業部門縮小のため、
令和〇年〇月〇日をもって退職いたします。
令和〇年〇月〇日
〇〇〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇 〇〇殿
企画部
鈴木 花子(印)
ただし、会社都合の場合でも、会社側が「一身上の都合」として提出を求めてくることもあります。その場合は指示に従うのが一般的です。不明な点があれば、上司や人事に確認しましょう。
役職者が提出する辞表の例文と特徴
「辞表」は、社長や取締役などの役職者が職を辞する際に提出する特別な書類です。一般社員の退職願・退職届とは異なり、より簡潔で責任を伴う表現が使われます。
                辞表
私儀
今般、一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって取締役を辞任いたしたく、
ここにお届け申し上げます。
令和〇年〇月〇日
〇〇〇〇株式会社
代表取締役社長 〇〇 〇〇殿
取締役
田中 健一(印)
役職者の場合は、会社への貢献への感謝や、後任への配慮を示す一文を添えることもあります。また、単に「辞任届」として提出されることもあります。内容が会社の定款や役員規程に沿っているか、弁護士など専門家と相談して進めることが望ましいでしょう。
辞表用紙の選び方と注意点
辞表(退職願・退職届)を作成する際には、使用する用紙の選択も重要なマナーの一つです。適切な用紙を選ぶことで、相手に与える印象も変わってきます。
市販のテンプレート用紙の活用と注意点
文具店やオンラインストアでは、辞表や退職願のテンプレート用紙が市販されています。これらを利用するメリットは、すでにフォーマットが印刷されており、自分でレイアウトを考える手間が省ける点です。初めて作成する方や、手早く準備したい場合には非常に便利です。
しかし、テンプレート用紙を使用する際にはいくつかの注意点があります。まず、会社の就業規則や慣習に合致しているかを確認しましょう。会社によっては、特定の手書き書式を求められたり、パソコン作成が認められていたりする場合があります。
また、テンプレートによっては表現が固定されているため、自身の状況に合わせた細かな文言の調整が難しいこともあります。最終的には、内容が正確であり、会社の要求を満たしていることが最も重要です。
テンプレートを選ぶ際は、シンプルでビジネスにふさわしいデザインのものを選び、安価すぎるものや品質の低いものは避けるようにしましょう。
自分で便箋を選ぶ際のポイント
市販のテンプレート用紙ではなく、自分で便箋を選んで手書きする場合、以下のポイントに注意して選びましょう。
- サイズと色:白無地のB5またはA4サイズの便箋が基本です。色は白が最も適切であり、ビジネス文書として清潔感があります。
 - 罫線の有無:罫線入りの便箋でも構いませんが、文字がはみ出さないよう、罫線が薄くシンプルなデザインのものを選びましょう。無地の便箋を使用する場合は、下敷きとして罫線入りの紙を敷くことで、まっすぐきれいに書くことができます。
 - 紙質:薄すぎる紙や、透けてしまうような紙は避け、ある程度の厚みがあり、インクが滲みにくい上質な紙を選びましょう。安っぽい印象を与える紙は避けるべきです。
 - デザイン:キャラクターものや派手な模様が入った便箋は、ビジネスシーンには不適切です。あくまで丁寧なビジネス文書であることを意識し、シンプルなものを選びましょう。
 
便箋は1枚に収まるのが理想的ですが、複数枚になる場合は、ホチキスで留めずにクリップなどでまとめるか、封筒にそのまま入れるのが一般的です。
避けるべき用紙と最終確認の重要性
辞表(退職願・退職届)を作成する際に、絶対に避けるべき用紙があります。
例えば、ルーズリーフ、メモ用紙、コピー用紙の裏紙などは、ビジネス文書として不適切であり、提出者の誠意を疑われる原因にもなりかねません。また、摩擦で消えるボールペン(フリクションペンなど)の使用も厳禁です。書類の信頼性を損ねるため、必ず油性または水性の黒ボールペン、または万年筆を使用してください。
用紙を選び、辞表を書き終えたら、提出前に必ず最終確認を行いましょう。以下の点を重点的にチェックしてください。
- 誤字脱字はないか
 - 日付や氏名、捺印が漏れていないか
 - 会社名や代表者名が正確か
 - 退職日(希望日)が正確か
 - 就業規則や会社の指示に沿った内容か
 - 封筒の記載内容(宛名、自分の所属・氏名)は正しいか
 
これらの確認を怠ると、再提出を求められたり、退職手続きが遅れたりする原因となる可能性があります。細部まで気を配り、完璧な状態で提出することで、円満な退職へと繋げましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 辞表と退職届は同じものですか?
A: 厳密には異なります。退職届は「会社都合」や「契約期間満了」など、会社側との合意が必要な場合に提出するものですが、辞表は「自己都合」で退職する場合に、労働者の意思表示として提出するものです。ただし、実務上はどちらの名称でも退職の意思表示として受理されるケースが多いです。
Q: 辞表は手書きとパソコン、どちらが良いですか?
A: どちらでも問題ありませんが、手書きの場合は丁寧な字で、パソコンの場合は一般的なビジネス文書のマナーに沿って作成することが大切です。会社の慣習や上司の意向を確認してみるのも良いでしょう。
Q: 辞表に印鑑は必要ですか?
A: 一般的に、辞表に押印は必須ではありません。ただし、会社の規定や慣習で求められる場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。氏名を手書きする場合は、捺印は省略されることが多いです。
Q: 辞表の用紙サイズに決まりはありますか?
A: 特に厳密な決まりはありませんが、一般的にはA4またはB5サイズの白無地の便箋が適しています。ビジネス文書としてふさわしい、シンプルなものを選びましょう。
Q: 辞表を提出するタイミングはいつが良いですか?
A: 一般的には、退職希望日の1ヶ月前までに提出することが推奨されています。ただし、就業規則で定められた期間がある場合もあるため、事前に確認し、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
  
  
  
  