雇用契約書は、新しいキャリアをスタートさせる上で非常に重要な書類です。しかし、「どこでもらえるの?」「どんな内容が書かれているの?」「いつ作成するの?」といった疑問を持つ方も少なくありません。

この記事では、雇用契約書に関するあなたの疑問を解決し、作成のポイントや2024年の法改正による変更点まで、分かりやすく解説します。

安心して新しい一歩を踏み出すために、ぜひ最後までお読みください。

雇用契約書、どこでもらえる?

企業内での作成が一般的

雇用契約書は、一般的に企業の人事部や総務部、または経営者によって作成されます。

これは、企業が労働者を採用する際に、労働条件を明確にし、双方の合意を得るための重要なプロセスだからです。内定が出た後、入社日よりも前に書面で交付されるのが通常の手続きと言えるでしょう。

多くの場合、入社時のオリエンテーションや面談の際に、詳細な説明とともに手渡されます。

労働基準法では、労働条件の明示が義務付けられており、企業は書面または労働者が希望すれば電子的な方法でこれを行う必要があります。このため、企業は入社前に雇用契約書(または労働条件通知書)を準備し、内容を丁寧に説明する責任があります。

これにより、入社後の認識のずれやトラブルを防ぎ、スムーズな雇用関係を築く土台となります。

電子契約サービスの活用

近年、テクノロジーの進化に伴い、雇用契約書の作成・締結方法も多様化しています。

特に、電子契約サービスを利用したオンラインでの作成・締結が急速に普及しています。これは、時間や場所の制約を受けずに契約手続きを進められる点が大きなメリットです。

例えば、遠隔地に住む内定者や、複数の事業所を持つ企業にとって、郵送や対面でのやり取りにかかる時間やコストを大幅に削減できます。

電子契約では、電子署名やタイムスタンプを活用することで、書面契約と同等の法的効力と非改ざん性を確保できます。これにより、契約の信頼性が保たれるだけでなく、文書の保管や管理もデジタル化され、紛失のリスクを減らすことが可能です。

リモートワークが一般化する現代において、電子契約は企業と労働者双方にとって、より効率的でセキュアな契約締結手段として注目されています。

労働条件通知書との違いと兼ね備えた形式

雇用契約書と混同されやすい書類に「労働条件通知書」があります。

両者には明確な違いがありますが、実務上は両方の機能を兼ね備えた「雇用契約書兼労働条件通知書」として作成されることが一般的です。

  • 雇用契約書: 労働者と使用者の双方が労働条件に合意したことを証明する契約書であり、双方の署名・捺印が必要です。
  • 労働条件通知書: 使用者が労働者に対して一方的に労働条件を明示する書類で、労働者の署名・捺印は不要です。

労働基準法では、使用者から労働者への労働条件の明示(労働条件通知書)が義務付けられていますが、雇用契約書の作成は法的な義務ではありません。しかし、後々のトラブル防止のためには、双方が合意した証として雇用契約書を作成することが強く推奨されます。

「雇用契約書兼労働条件通知書」は、この二つの書類の機能を一つにまとめることで、企業側の手続きを簡素化し、労働者側も一つの書類で全ての労働条件を確認できるため、双方にとってメリットが大きい形式と言えるでしょう。

雇用契約書ってどんな内容?

絶対的明示事項とその重要性

雇用契約書には、労働基準法によって必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」があります。

これらは、労働者の基本的な労働条件を明確にし、安心して働ける環境を保証するために不可欠な項目です。

主な絶対的明示事項には、以下のような内容が含まれます。

  • 賃金に関する事項:基本給、各種手当、残業代の計算方法、支払い方法、締め日・支払い日など
  • 労働時間に関する事項:始業・終業時刻、休憩時間、所定労働時間を超える労働(残業)の有無、休日、休暇など
  • 就業場所・業務内容に関する事項:雇用直後の就業場所と業務内容
  • 契約期間に関する事項:期間の定めがある場合はその期間、更新の有無や更新基準
  • 退職に関する事項:退職の事由、手続き、解雇の事由など

これらの項目が明確に記載されていることで、労働者は自身の権利と義務を正確に理解し、企業側も適切な労務管理を行うことができます。不明瞭な点があると、後になってトラブルに発展する可能性もあるため、非常に重要なポイントです。

2024年法改正による変更点

雇用契約書の内容は、法改正によって更新されることがあります。特に、2024年4月1日より労働条件の明示ルールが改正され、雇用契約書(または労働条件通知書)に記載すべき事項が追加・変更されました。

主な変更点は以下の通りです。

  • 就業場所・業務の変更範囲の明示
    雇用直後の就業場所・業務内容に加え、将来的な配置転換などで変更され得る「変更範囲」も明示することが義務付けられました。これにより、労働者は自身のキャリアプランをより具体的に検討できるようになります。
  • 更新上限の有無と内容の明示
    有期雇用契約の場合、契約の更新上限(通算契約期間や更新回数の上限)の有無と具体的な内容を明示する必要があります。
  • 無期転換申込機会・無期転換後の労働条件の明示
    有期雇用労働者に対し、無期転換申込権が発生する旨や、無期転換後の労働条件(勤務地、業務、賃金など)について明示することが求められます。
  • 定年再雇用者への対応
    定年後、継続雇用される労働者についても、労働条件に関する新たな明示ルールが適用されます。

企業はこれらの変更点を踏まえ、最新の法令に則った雇用契約書を作成・交付する必要があります。労働者側も、これらの変更点を理解し、自身の契約書が適切に更新されているか確認することが大切です。

その他、記載すべきポイント

絶対的明示事項以外にも、雇用契約書にはトラブル防止や円滑な雇用関係のために記載すべき重要なポイントがいくつかあります。

例えば、試用期間を設ける場合は、その期間や条件を明確に記載することが不可欠です。試用期間中の給与や、本採用後の待遇についても明記することで、入社後の認識のズレを防ぎます。

また、フレックスタイム制や裁量労働制など、特別な労働時間制度を導入している場合は、その詳細なルールを明示する必要があります。労働時間制度は労働者の働き方に大きく影響するため、具体的な運用方法まで記載することが望ましいでしょう。

さらに、パート・有期雇用労働者に対しては、正社員との待遇差(昇給、賞与、退職金など)について、その理由を含めて説明する義務があります。これは「同一労働同一賃金」の原則に基づくもので、不合理な待遇差をなくすことを目的としています。

雇用契約書は、就業規則よりも優先される場合がありますが、労働基準法に反する内容は無効となります。そのため、法的な観点からも、不明瞭な点がないように注意深く作成・確認することが重要です。

雇用契約書作成にかかる期間は?

一般的な作成時期と手続きの流れ

雇用契約書は、原則として「労働契約の締結時」に作成・交付されるのが一般的です。

これは、内定通知後、実際に入社する日よりも前に行われることが多いです。一般的な手続きの流れとしては、以下のようになります。

  1. 書類選考・面接:応募者が企業から内定を得るまで。
  2. 内定通知・労働条件提示:企業から内定通知書とともに、おおまかな労働条件が提示されます。
  3. 雇用契約書の作成・説明:企業側が労働者の情報に基づき雇用契約書を作成し、内容を説明します。この段階で、不明点があれば質問し、確認することが重要です。
  4. 署名・捺印(または電子署名):労働者が内容に合意すれば、雇用契約書に署名・捺印(または電子署名)を行います。
  5. 入社:正式に雇用契約が締結され、入社日を迎えます。

企業が契約書を作成する期間は、通常数日から1週間程度ですが、労働者の確認期間も含め、余裕を持ったスケジュールで進められることが多いです。もし入社日と実際の記入日が異なる場合でも、「契約締結日」を記入すれば問題ありません。

スムーズな作成のための準備

雇用契約書のスムーズな作成は、企業と労働者双方の協力にかかっています。

企業側としては、まず最新の法改正に対応したテンプレートを用意し、迅速に作成できる体制を整えることが重要です。入社予定者の個人情報(氏名、住所、連絡先、銀行口座情報など)を事前に収集できるよう、入社手続きの案内を丁寧に行うことも有効です。

また、電子契約サービスを導入することで、紙媒体でのやり取りにかかる時間を削減し、迅速な契約締結が可能になります。

一方、労働者側も、自身の希望する労働条件や不明な点を事前に整理しておくことが大切です。提示された契約書の内容をしっかりと読み込み、疑問点があれば遠慮なく質問することで、後々の認識のズレを防ぐことができます。

特に、2024年の法改正で追加された「変更範囲」や「更新上限」などの項目については、自身のキャリア形成に大きく関わるため、細部まで確認することをおすすめします。

緊急時の対応と注意点

急な入社や即日採用など、緊急で雇用契約を締結する必要があるケースもあります。

民法上、雇用契約は口頭でも成立しますが、口頭契約は後々のトラブルに発展しやすいリスクを伴います。例えば、賃金や労働時間について双方の認識が食い違うといった問題が生じる可能性があります。

そのため、緊急時であっても、可能な限り速やかに書面での雇用契約書を作成し、交付することが強く推奨されます。

もし入社前に書面での交付が間に合わない場合でも、入社後速やかに作成し、契約締結日を実際の合意日に遡って記載することで、法的効力を保つことができます。企業側は、こうした緊急時の対応フローを事前に定めておくことが望ましいでしょう。

また、労働者側も、書面での契約書を受け取らないまま働き始めることのリスクを理解し、企業に契約書の交付を求める権利があることを認識しておくべきです。

不備や遅延は、企業と労働者間の信頼関係を損ねる原因にもなりかねません。</

専門家への依頼や代筆は可能?

専門家に依頼するメリット

雇用契約書は、労働基準法をはじめとする複雑な労働法規に基づいて作成されるため、専門的な知識が求められます。

特に、2024年の法改正のように内容が頻繁に更新される現状では、専門家に依頼することで多くのメリットがあります。

まず、法改正への確実な対応が可能となり、法令遵守を徹底できます。これにより、企業はコンプライアンスリスクを低減し、労働者は最新の法規に基づいた適切な労働条件で働くことができます。

また、専門家は過去の判例やトラブル事例にも精通しているため、将来起こりうる紛争を予防するための具体的な条項を盛り込むことができます。例えば、退職時の規定や秘密保持条項など、個別事情に応じた柔軟な契約書作成が可能です。

さらに、企業側の手間と時間の削減にも繋がります。人事担当者が法規調査やテンプレート作成に費やす時間を本業に集中させることができ、業務効率の向上にも貢献するでしょう。

依頼できる専門家と費用相場

雇用契約書の作成を依頼できる専門家としては、主に社会保険労務士(社労士)と弁護士が挙げられます。

  • 社会保険労務士(社労士)
    労働・社会保険に関する専門家であり、労働法規に基づいた雇用契約書や就業規則の作成を得意としています。一般的な雇用契約書であれば、社労士に依頼するのが最も適していると言えるでしょう。
    費用相場は、既存のテンプレートをベースにした作成で数万円から、企業の個別事情に合わせたオーダーメイド作成で10万円以上となることが多いです。
  • 弁護士
    より複雑な法的リスクを伴うケースや、紛争が懸念されるような特殊な雇用契約の場合には、弁護士への依頼も有効です。弁護士は、訴訟対応まで視野に入れた契約書作成が可能です。
    費用は社労士よりも高額になる傾向があり、相談料や着手金が発生します。

多くの企業では、顧問社労士と契約し、継続的に雇用契約書や労務管理全般のサポートを受けています。これにより、常に最新の法規に対応した適切な書類作成と運用が可能となります。

代筆における注意点と責任

「代筆」という言葉を聞くと、他人に自分の代わりに署名してもらうことを連想するかもしれませんが、雇用契約書においては、原則として契約当事者本人(労働者と企業の代表者)または正当な代理人による署名・捺印が必要です。

もし、労働者本人の同意なく第三者が署名を代筆した場合、その雇用契約書は無効となる可能性が高いです。これは、契約の当事者の意思表示が確認できないため、法的な効力を持たないと判断されるためです。

ただし、労働者が病気や怪我などの理由で自筆が困難な場合、正当な代理人を立てて署名・捺印を行うことは可能です。この場合、代理人は委任状を提示し、代理権を証明する必要があります。

企業側が契約書を作成し、労働者がその内容を確認した上で署名・捺印するというのが一般的な流れであり、これを「代筆」とは呼びません。企業は、労働者本人が内容を理解し、自らの意思で合意したことを確認した上で、署名・捺印を求める必要があります。

不明確な代筆は、後々のトラブルや契約の無効を招くリスクがあるため、細心の注意が必要です。

印鑑の種類と作成のポイント

雇用契約書における印鑑の重要性

日本の商慣習において、印鑑は契約の意思表示や合意の証として非常に重要な役割を果たしてきました。

雇用契約書においても、労働者と企業の双方の署名・捺印は、契約内容に合意したことを明確に示す証拠となります。法的には、印鑑がなくても口頭での合意があれば契約は成立しうるとされていますが、書面に印鑑を押すことで、その合意の証拠能力が格段に高まります。

万が一、契約内容に関して後々トラブルが発生した場合、印鑑が押された雇用契約書は強力な証拠となり、双方の主張を裏付ける重要な根拠となります。

特に、労働者と企業の認識の齟齬を防ぎ、信頼関係を築くためにも、署名と合わせて印鑑を押す慣習は、引き続き重要視されています。契約の法的安定性を確保するためにも、適切な印鑑を用いて正確に契約を締結することが肝要です。

認印・実印・法人印の種類と選び方

雇用契約書で使用される印鑑には、いくつかの種類があります。それぞれの印鑑が持つ意味合いと、適切な選び方を知っておくことが大切です。

  • 労働者側の印鑑

    • 認印:役所への登録が不要な、日常的に使用する印鑑です。雇用契約書では一般的に認印で十分とされています。
    • 実印:役所に印鑑登録している印鑑で、法的効力が最も高いとされます。重要な契約や不動産取引などで使用されることが多いですが、雇用契約書で求められることは稀です。

    特別な指定がない限り、労働者は認印を使用するのが一般的です。ただし、企業によっては実印を求める場合もあるため、事前に確認すると良いでしょう。

  • 企業側の印鑑

    • 法人代表者印(会社実印):法務局に登録されている印鑑で、企業の重要な契約書に使用されます。法的効力が最も高く、雇用契約書にもこれを使用することが多いです。
    • 角印:社名が彫られた四角い印鑑で、認印的な役割を果たします。日常の社内文書や請求書などに使用されます。

    企業が雇用契約書に押す印鑑は、一般的に「法人代表者印」です。これにより、企業としての正式な意思表示が示されます。

印鑑の種類を正しく理解し、契約の重要度に応じて適切な印鑑を使用することが、法的トラブルを避ける上でも重要です。

電子署名とオンライン契約の普及

IT技術の進化とリモートワークの普及に伴い、物理的な印鑑を使用せず、電子的に契約を締結する「電子契約」が急速に広まっています。

電子契約では、紙の契約書に印鑑を押す代わりに「電子署名」を利用します。電子署名とは、電子データに対して行われる署名であり、「電子署名法」によってその法的有効性が認められています。

電子署名を用いることで、本人性確認と非改ざん性を確保し、書面契約と同等の法的効力を持つ契約をオンライン上で完結させることが可能です。

電子契約のメリットは多岐にわたります。まず、契約締結までのリードタイムを大幅に短縮できます。また、印紙税が不要となるためコスト削減にもつながり、契約書の管理もデータ化されるため、紛失リスクの低減や検索性の向上も期待できます。

ただし、電子契約サービスを利用する際は、信頼できるサービスを選び、本人認証の仕組みやセキュリティ対策が十分に施されているかを確認することが重要です。この動きは今後さらに加速し、雇用契約書の主流となる可能性を秘めています。

雇用契約書は、あなたの新しいキャリアをスタートさせる上で非常に重要な書類です。

どこで、いつ、どのような内容で作成されるのか、そして2024年の法改正で何が変わったのかを理解することは、安心して働き始めるために不可欠と言えるでしょう。

不明な点はそのままにせず、企業の人事担当者や必要に応じて専門家に相談し、納得した上で契約を締結することが何よりも大切です。

この記事が、あなたの雇用契約書に関する疑問を解決し、スムーズな入社の一助となれば幸いです。