雇用契約書の変更・間違い・紛失時の対応と注意点

雇用契約書は、会社と従業員の間に交わされる重要な約束事であり、労働条件や権利義務を明確にするものです。

しかし、一度締結した雇用契約書の内容が変更になったり、記載ミスが見つかったり、あるいは紛失してしまったりと、予期せぬ事態が発生することもあります。

そのような時、どのように対応すれば良いのか、慌てずに適切な措置を取るための知識を深めていきましょう。

本記事では、雇用契約書の変更、間違い、紛失といったそれぞれのケースにおける具体的な対応策と注意点を詳しく解説します。

  1. 雇用契約書の変更:知っておくべき3つのポイント
    1. 変更は原則「双方の合意」が不可欠
    2. 変更時の手続きと記録の重要性
    3. 法令遵守と従業員保護の視点
  2. 雇用契約書に間違いがあったら?修正・無効の可能性
    1. 軽微な誤りなら「訂正印」で修正可能
    2. 重要な誤り・相違がある場合の対応
    3. 契約の無効や再締結を検討すべきケース
  3. 雇用契約書が守られない!会社側の義務と従業員の権利
    1. 会社が雇用契約書の内容を守らない場合の対応
    2. 労働基準法と雇用契約書の優先順位
    3. 労働者が権利を行使するための相談窓口
  4. 雇用契約書を紛失・破棄された!冷静な対処法
    1. 雇用契約書を紛失した場合の「企業側」の対応
    2. 雇用契約書を紛失した場合の「従業員側」の対応
    3. 紛失・破棄を防ぐための予防策と保管ルール
  5. 雇用契約書に関するよくある疑問を解決!
    1. 雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?
    2. 保管期間と2024年法改正の影響
    3. 雇用契約書がない場合はどうなる?
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 雇用契約書の内容に変更があった場合、どのような手続きが必要ですか?
    2. Q: 雇用契約書に誤記を見つけた場合、どのように修正すればよいですか?
    3. Q: 雇用契約書が会社側によって破棄された場合、無効になりますか?
    4. Q: 雇用契約書を紛失してしまいましたが、どうすればよいですか?
    5. Q: 雇用契約書の内容が守られない場合、どのような対抗策がありますか?

雇用契約書の変更:知っておくべき3つのポイント

雇用契約書の内容を変更する場合、会社側も従業員側も慎重な対応が求められます。特に、労働条件は従業員の生活に直結するため、法的な側面と円滑な労使関係の両方を考慮に入れることが不可欠です。

変更は原則「双方の合意」が不可欠

雇用契約書の内容を変更するには、原則として会社と従業員の双方の合意が必要です。これは、雇用契約が当事者間の合意に基づいて成立する契約であるため、その内容を変更する際も同様に合意が求められるからです。

特に、従業員にとって賃金の減額、勤務地の変更、業務内容の変更、正社員から契約社員への変更など、不利となる条件の変更を提案する場合は、より丁寧な説明と合意形成の努力が求められます。

会社は、変更の必要性、背景、そして変更が従業員に与える影響について明確に伝え、理解を得る必要があります。この「同意」は、外的な強制や脅迫がなく、従業員が自身の自由な意思に基づいて行ったものであることが極めて重要です。

もし同意が不十分であった場合、後になって変更の効力が認められない可能性もあるため、十分な配慮が必要です。ただし、合理的な理由がある場合、就業規則の変更によって労働条件を変更できるケースもありますが、これも厳格な要件が定められています。

合意形成のプロセスを丁寧に踏むことで、トラブルを未然に防ぎ、良好な労使関係を維持することができます。

変更時の手続きと記録の重要性

変更内容について双方の合意が得られたら、その内容を書面で明確に記録することが極めて重要です。

具体的には、「変更契約書」または「覚書」を作成し、会社と従業員の双方が署名または記名押印して締結します。変更契約書は、元の雇用契約書と同じように全ての項目を記載して作り直す形式ですが、覚書は変更点のみを記載する形式のため、手間を省きつつ法的効力を持たせることが可能です。

作成する際には、変更後の条件が労働基準法や会社の就業規則に違反していないか、また変更前の労働条件通知書との整合性が保たれているかを十分に確認する必要があります。

万が一、従業員からの同意が得られない場合は、原則として会社は一方的に変更を行うことはできません。しかし、客観的に合理的な理由があり、かつ従業員への周知や意見聴取の手続きを踏んで就業規則を変更した場合には、その就業規則に基づいて労働条件が変更されることもあります。

これらの手続きを適切に行うことで、将来的な紛争のリスクを低減し、変更内容の確実な証拠を残すことができます。

法令遵守と従業員保護の視点

雇用契約書の変更に際しては、法令遵守と従業員保護の視点が常に求められます。

労働基準法をはじめとする労働関係法令は、労働者の最低限の労働条件を保障するものです。したがって、雇用契約書を変更した結果、変更後の労働条件がこれらの法令や就業規則に定められた基準を下回ることは許されません。

例えば、最低賃金法を下回る賃金に変更したり、法定労働時間を超える勤務を一方的に命じたりすることはできません。また、会社は従業員に対して、安全配慮義務やハラスメント防止義務など、様々な法的義務を負っています。

従業員にとって不利な変更を提案する際は、その必要性だけでなく、変更が従業員の生活やキャリアに与える影響を十分に考慮し、可能な限り緩和措置を講じるなど、真摯な対応が求められます。従業員が自由な意思に基づいて同意したと認められるためには、十分な情報提供と納得のいく説明が不可欠です。

会社が法令を遵守し、従業員の権利を尊重する姿勢を示すことは、健全な労使関係を築き、企業の社会的信用を高める上でも極めて重要となります。

雇用契約書に間違いがあったら?修正・無効の可能性

雇用契約書は重要な書類ですが、人間が作成するものである以上、誤りが発生する可能性はゼロではありません。誤字脱字から、賃金や勤務地といった重要な記載内容の間違いまで、その程度は様々です。

間違いが見つかった場合の適切な対応を知り、速やかに修正することが肝要です。

軽微な誤りなら「訂正印」で修正可能

雇用契約書に誤字脱字や軽微な記載内容の間違いがあった場合は、関係者全員が契約書に押印した印鑑と同じ印鑑を「訂正印」として押印することで修正が可能です。

訂正の方法には、主に以下の2種類があります。

  • 直接方式:誤りの箇所に二重線を引いて訂正し、その上から訂正印を押印します。欄外に正しい内容を記載します。
  • 間接方式:誤りの箇所に二重線を引いた後、その横(または欄外)に正しい内容を記載し、訂正印を押印します。

いずれの方法でも、訂正箇所が明確に分かり、かつ関係者全員の合意の上で修正されたことが記録として残ることが重要です。

例えば、氏名の漢字が一文字間違っていたり、住所の番地を誤って記載していたりといったケースがこれに該当します。この際、修正後の内容が当初合意した内容と相違ないことを、関係者全員が確認し、納得した上で行うことが不可欠です。

安易な修正は後々のトラブルに繋がりかねませんので、丁寧な手続きを心がけましょう。

重要な誤り・相違がある場合の対応

軽微な誤りとは異なり、賃金額、勤務場所、業務内容など、雇用契約の根幹に関わる重要な記載内容に間違いや相違があった場合は、訂正印での修正では対応しきれないことがあります。

このような重要な誤りが判明した場合は、まず当事者間で事実関係を正確に確認し、何が当初の合意内容であったのかを明確にすることが不可欠です。

もし、実際の労働条件と契約書の内容に大きな齟齬がある場合、その誤りが意図的なものであったか、単なるミスであったかによって対応は異なりますが、最悪の場合、契約そのものが無効と判断される可能性も出てきます。

特に、賃金の誤りについては、遡って訂正・返還請求が可能なケースもあります。例えば、合意した賃金よりも低い金額が契約書に記載されており、実際にその低い金額が支払われていた場合、従業員は差額の支払いを会社に請求できます。

このようなケースでは、当事者間で再度協議を行い、改めて正しい内容の契約書を作成し、再締結することが最も確実な方法となります。必要であれば、専門家である弁護士や社会保険労務士に相談し、法的なアドバイスを求めることも検討しましょう。

契約の無効や再締結を検討すべきケース

雇用契約書に記載された重要な事項に、当事者間の合意と大きく異なる内容があった場合、契約の無効や再締結を検討する必要があります。

民法では、「錯誤」という概念があり、契約内容の重要な部分に認識の食い違いがあった場合、その契約を無効にできる可能性があります。例えば、ある特定の職務を前提に合意したが、契約書には全く異なる職務が記載されていた、といったケースです。

このような場合、単に訂正印で修正するだけでは不十分であり、将来的にトラブルの火種となりかねません。まずは、当事者間で誠実に話し合いの場を持ち、本来の合意内容を確認することが第一歩です。

その上で、現在の契約書に記載された内容が、真の合意内容と乖離していることが明らかであれば、改めてその合意内容を反映した新たな雇用契約書を作成し、再締結することが望ましいでしょう。この際、元の契約書のどの部分が修正されたのか、その修正がいつから適用されるのかを明確に記載しておくことが重要です。

再締結に至らない場合でも、少なくとも「覚書」を作成し、当初の契約書の一部を修正・追加する形で対応することも可能です。いずれにせよ、双方の意思が一致した状態を明確な書面で残すことが、法的な安定性と円滑な労使関係のために不可欠です。

雇用契約書が守られない!会社側の義務と従業員の権利

雇用契約書は、会社と従業員が互いに守るべき約束を明文化したものです。しかし、残念ながら、会社側が契約内容を守らないケースも発生します。そのような状況に直面した際、従業員はどのように対応し、会社側はどのような義務を負うのでしょうか。

会社が雇用契約書の内容を守らない場合の対応

会社が雇用契約書の内容、例えば、賃金や労働時間、勤務場所、業務内容などの条件を守らない場合、従業員は自身の権利を守るために適切な行動を取る必要があります。

まず、従業員は、会社が契約内容に違反している具体的な事実関係を整理し、客観的な証拠を集めることが重要です。例えば、残業代が支払われない場合はタイムカードや給与明細、賃金が契約より低い場合は契約書と給与明細などを保管しましょう。

次に、直接会社の人事担当者や上司と話し合い、改善を求めるのが一般的な手順です。この際、一方的な要求ではなく、冷静に事実を伝え、契約内容の履行を求める姿勢が大切です。話し合いの経緯や結果も記録しておくことをお勧めします。

話し合いで解決しない場合や、会社が誠実な対応をしない場合は、外部の専門機関への相談を検討します。具体的には、後述する労働基準監督署や弁護士、労働組合などがあります。

会社が契約を守らない行為は、契約違反だけでなく、労働基準法違反に該当する可能性も高く、従業員は毅然とした態度で自身の権利を主張することが求められます。

労働基準法と雇用契約書の優先順位

雇用契約書の内容は、労働基準法や会社の就業規則よりも優先されることはありません

日本の労働法制では、労働者の保護を目的として、労働基準法が定める最低限の労働条件が全ての雇用契約に適用されます。これは、労働基準法が「強行法規」であるためです。

つまり、たとえ雇用契約書や就業規則に労働基準法を下回る内容が記載されていたとしても、その部分は無効となり、労働基準法の規定が優先して適用されます。例えば、労働基準法が定める最低賃金以下の賃金で雇用契約を締結しても、その賃金に関する部分は無効となり、会社は最低賃金以上の支払いを義務付けられます。

優先順位としては、一般的に「法令 > 就業規則 > 雇用契約書」となります。会社は就業規則を定める義務がありますが、その内容は法令に違反してはなりません。

また、雇用契約書は就業規則の内容に反してはならず、就業規則に違反する雇用契約書の条項は無効となります。

この優先順位を理解しておくことは、従業員が自身の権利を主張する上でも、会社が適切な労務管理を行う上でも非常に重要です。

労働者が権利を行使するための相談窓口

会社が雇用契約書の内容や労働基準法を守らない場合、従業員は一人で悩まず、専門の相談窓口を利用して権利を行使することができます。

主な相談窓口は以下の通りです。

  1. 労働基準監督署:
    • 労働基準法など労働関係法令の違反に関する相談を受け付け、会社への是正勧告や指導を行います。賃金不払いや長時間労働、解雇に関する問題など、幅広い労働問題に対応しています。
    • 具体的な証拠を持参して相談に行くと、よりスムーズに進みます。
  2. 弁護士:
    • 法的な紛争解決の専門家であり、会社との交渉代理や、訴訟など法的手続きを通じて問題解決を図ります。未払い賃金の請求や不当解雇の撤回など、複雑な案件に適しています。
    • 費用はかかりますが、個別の状況に応じた具体的な法的アドバイスが得られます。
  3. 労働組合:
    • 労働者の団体であり、会社との交渉を通じて労働条件の改善や紛争解決を目指します。社内に労働組合がない場合でも、地域労働組合(ユニオン)に加入して相談することが可能です。
    • 団体交渉という形で、個人で交渉するよりも強い影響力を持つことがあります。

これらの機関を適切に利用することで、従業員は泣き寝入りすることなく、自身の正当な権利を守ることができます。自身の状況に合った窓口を選び、積極的に相談しましょう。

雇用契約書を紛失・破棄された!冷静な対処法

雇用契約書は、会社と従業員の双方にとって重要な証拠書類です。もし、この大切な書類を紛失してしまったり、誤って破棄されてしまったりした場合でも、慌てずに冷静な対処法を知っておくことが重要です。

雇用契約そのものは書面がなくても成立するため、契約が無効になるわけではありませんが、トラブルの原因になりうるため、速やかな対応が求められます。

雇用契約書を紛失した場合の「企業側」の対応

会社が雇用契約書を紛失した場合、速やかに以下の対応を取る必要があります。

  1. 徹底的な社内捜索:
    • まず、契約書が保管されているべき場所や、他の書類に紛れていないか、あるいは別の担当者が保管していないかなど、社内をくまなく探します。
  2. コピーや電子ファイルの確認:
    • 紛失した契約書のコピーが他の場所に保管されていないか、PDFなどの電子ファイルとしてデータが残っていないかを確認します。電子データが見つかれば、それが証拠となります。
  3. 再作成・再発行:
    • 社内での確認や電子データが見つからない場合は、当初の契約内容に基づき、速やかに契約書を再作成し、従業員と再度締結します。
    • この際、再作成した日付を記載するとともに、雇用開始日は当初の入社日を明記することが重要です。これにより、雇用関係の継続性を明確にします。
  4. 従業員への説明と協力依頼:
    • 従業員に紛失の事実を誠意をもって説明し、再締結への協力を依頼します。丁寧な説明と対応は、従業員との信頼関係維持に不可欠です。

会社には、従業員の労働条件を明示する義務があり、雇用契約書は重要な証拠となります。紛失によるトラブルを避けるためにも、迅速で誠実な対応が求められます。

雇用契約書を紛失した場合の「従業員側」の対応

従業員が自身の雇用契約書を紛失してしまった場合、会社に対して再発行を依頼することになりますが、会社には法的な再発行義務はありません

しかし、良好な労使関係を維持するため、多くの企業は誠実に対応してくれることが期待されます。従業員は、以下の点を踏まえて会社に依頼しましょう。

  1. 会社への依頼:
    • 人事担当者や上司に、契約書を紛失した旨を伝え、会社が保管している控えのコピーを提供してもらえないか相談します。
  2. コピーの受け取りと確認:
    • 会社がコピーを提供してくれる場合、それが「写し」であることを明記してもらいましょう。不正利用を防ぐため、「COPY」などのスタンプを押印してもらうとより安心です。
    • 受け取ったコピーの内容が、当初締結した契約内容と相違ないかをしっかりと確認することが重要です。

万が一、会社が再発行やコピーの提供を拒否した場合でも、雇用契約そのものは口頭の合意でも成立しているため、すぐに不利益を被るわけではありません。しかし、労働条件の確認が困難になるため、給与明細や就業規則、会社のウェブサイトなど、他の資料から自身の労働条件を確認できるようにしておくことが大切です。

また、労働条件通知書は会社に交付義務があるため、それが手元にあれば、最低限の労働条件は確認できます。

紛失・破棄を防ぐための予防策と保管ルール

雇用契約書の紛失や誤廃棄を防ぐためには、適切な保管ルールを定め、厳格に運用することが最も効果的です。

  • 保管ルールの徹底:
    • 契約書の閲覧・持ち出しルールを明確に定め、アクセスできる担当者を限定するなどのアクセス管理を徹底します。
    • 閲覧記録簿を作成し、いつ、誰が、何のために閲覧・持ち出しを行ったかを記録することも有効です。
    • 物理的な保管場所は、施錠できるキャビネットなど、安全な場所に保管しましょう。
  • 電子化の推進:
    • 紙の契約書を減らし、PDF化して電子データとして管理したり、電子契約システムを導入したりすることは、紛失リスクを大幅に低減し、検索性や業務効率も向上させます。
    • 電子契約の場合は、クラウド上で安全に管理され、バックアップも自動的に行われるため、紛失の心配が格段に少なくなります。

また、雇用契約書を含む重要な人事関係書類の保管期間は、2020年4月1日の労働基準法改正により、原則として5年となりました。これは、民法改正により賃金請求権の消滅時効が5年に延長されたことに伴うものです。

ただし、当面の間は3年とする経過措置が講じられていますので注意が必要です。保管期間の起算日は、従業員が退職した日、または在職中に死亡した日です。

この保管義務に違反した場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性もあるため、適切な保管管理体制を構築することが企業には求められます。

雇用契約書に関するよくある疑問を解決!

雇用契約書は多くの人にとって身近な書類ですが、その取り扱いには様々な疑問がつきものです。ここでは、雇用契約書に関してよく聞かれる疑問について、分かりやすく解説します。

雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?

「雇用契約書」と「労働条件通知書」は混同されがちですが、それぞれ異なる性質を持つ書類です。

項目 雇用契約書 労働条件通知書
法的性質 会社と従業員の「双方の合意」を示す契約書。双務契約。 会社が従業員に「一方的に労働条件を通知する」書面。
交付義務 法律上の交付義務はない。(ただし、実務上は重要) 労働基準法第15条により、会社に交付が義務付けられている。
書面形式 会社と従業員の署名・押印が必要。 会社の署名・押印があれば足り、従業員の署名・押印は不要。
目的 会社と従業員間の労働条件合意の証拠。 労働者保護のため、労働条件を明確に伝える。

最も大きな違いは、労働条件通知書には会社からの交付義務がある点です。労働条件通知書は、賃金、労働時間、就業場所、業務内容など、労働基準法で定められた主要な労働条件を明示するものであり、書面または従業員の希望に応じて電磁的方法で交付されます。

雇用契約書は、これらの労働条件に加え、就業規則の遵守義務や秘密保持義務など、会社と従業員が合意した詳細な事項を記載し、双方の署名・押印によって契約が成立したことを証明するものです。

実務では、労働条件通知書の必要な記載事項を盛り込んだ上で、雇用契約書として双方で締結する「労働条件通知書兼雇用契約書」という一体型の書面が広く利用されています。

保管期間と2024年法改正の影響

雇用契約書を含む労働者に関する重要な書類には、適切な保管期間が定められています。

前述の通り、雇用契約書の保管期間は、2020年4月1日の労働基準法改正により、原則として「5年」と延長されました。ただし、当面の間は3年とする経過措置が講じられています。この起算日は、従業員が退職した日、または在職中に死亡した日となります。

適切な保管を怠り、保管義務に違反した場合には、30万円以下の罰金が科される可能性がありますので、企業は厳重な管理体制を維持する必要があります。

さらに、2024年4月1日からは、労働条件通知書の記載事項に関する重要な法改正が施行されています

この改正により、会社は以下の事項を労働条件通知書(雇用契約書を兼ねる場合も含む)に明示することが義務付けられました。

  • 就業場所・業務の変更の範囲:「限定なし」「本社、〇〇支店」「〇〇部門の業務」など、将来的に見込まれる就業場所や業務の変更の範囲を具体的に明示する必要があります。
  • 有期雇用労働者に関する事項:
    • 更新上限の有無と内容(有りの場合はその理由)
    • 無期転換申込機会
    • 無期転換後の労働条件(無期転換ルールにより無期雇用契約に転換した場合の労働条件を明示)

この法改正に伴い、多くの企業で既存の雇用契約書や労働条件通知書のひな型を改定する必要が生じています。従業員にとっても、将来の働き方に関する情報がより明確に提示されることで、自身のキャリアプランを立てやすくなるというメリットがあります。

雇用契約書がない場合はどうなる?

「雇用契約書がないと、雇用契約は成立しないのでは?」と心配される方もいますが、安心してください。雇用契約は、会社と従業員の合意によって成立するものであり、必ずしも書面での契約書がなくても成立します

つまり、口頭での合意だけでも、雇用契約は法的に有効です。

しかし、書面による雇用契約書がないことには、いくつかのデメリットやリスクが伴います。

  • 証拠の不足:労働条件について会社と従業員の認識に食い違いが生じた場合、書面がないと「言った」「言わない」の水掛け論になりやすく、客観的な証拠がないため解決が困難になる可能性があります。
  • 労働条件通知書の未交付:雇用契約書がない場合、労働基準法で義務付けられている「労働条件通知書」も交付されていない可能性が高いです。これは労働基準法違反となり、会社は罰則の対象となることがあります。
  • トラブルの温床:賃金、労働時間、休日、退職に関する事項などが不明確なままでは、様々なトラブル(未払い賃金、不当解雇、ハラスメントなど)が発生しやすくなります。

会社側は、労働条件通知書の交付義務がありますので、雇用契約書を作成しない場合でも、少なくとも労働条件通知書は必ず交付しなければなりません。

従業員側も、自身の労働条件を明確に把握するため、会社に労働条件通知書の交付を求めたり、口頭で合意した内容をメモとして残したりするなど、自身の権利を守るための行動を取ることが重要です。

雇用契約書がない場合でも、雇用関係自体は存在しますが、トラブルを避けるためにも、書面での契約締結が強く推奨されます。