雇用契約書の期間、更新、退職について徹底解説!

雇用契約書は、会社と従業員が労働条件について合意した重要な書面です。しかし、「期間の定めって何?」「契約更新は必ずされるの?」「退職したいときはどうすればいい?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

2024年4月1日には労働条件の明示に関するルールが改正され、さらに理解を深める必要性が高まっています。本記事では、雇用契約書の「期間」「更新」「退職」に関する基本から最新の法改正まで、わかりやすく解説します。

雇用契約書の「期間の定め」とは?基本を理解しよう

雇用契約書には、労働契約に期間の定めがあるかないかを明示する項目があります。この「期間の定め」の有無によって、労働者の権利や会社の義務は大きく変わってきます。

期間の定めがある契約とない契約の違い

雇用契約は大きく分けて、期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)と、期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の2種類があります。

無期雇用契約は、一般的に「正社員」と呼ばれる形態で、定年年齢まで、または定年制がなければ永久的に雇用される契約です。原則として労働者側からいつでも解約を申し入れ、退職することができます(民法第627条)。一方、会社側からの解雇は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされ、非常に厳しく制限されています。

対して、有期雇用契約は、あらかじめ契約期間が定められており、契約更新がない場合はその期間の満了とともに契約が終了します。「契約社員」「パート・アルバイト」「派遣社員」などに多い形態です。期間が定められているため、原則として契約期間中の退職や解雇は「やむを得ない事由」がない限り認められません。

2024年4月1日の法改正により、すべての従業員に対し、入社直後の就業場所・業務内容に加え、将来的な配置転換などにより変更となりうる「就業場所・業務の変更の範囲」を明示することが義務付けられました。これは、労働者が自身のキャリアパスをより明確に理解し、安心して働ける環境を整えるための重要な変更点です。

有期雇用契約の期間の原則と特例

有期雇用契約の期間には、法律で原則的な上限が設けられています。これは、期間の定めのある契約が更新を繰り返すことで、実質的に期間の定めのない契約と変わらない状態になることを防ぎ、労働者の雇用を安定させるためです。

原則として、有期雇用契約の契約期間の上限は3年です。この3年を超える契約は無効となり、期間の定めのない契約とみなされる可能性があります。

ただし、いくつかの特例が存在します。

  • 高度な専門的知識等を有する労働者: 医師、弁護士、公認会計士など、特定の専門職に就く労働者については、最長5年まで契約期間を設定することが認められています。
  • 60歳以上の労働者: 高齢者の雇用安定を図る観点から、60歳以上の労働者との有期雇用契約も、最長5年まで設定することが可能です。

これらの特例は、労働者の専門性や高齢での就労ニーズに応えるためのものであり、企業が柔軟な雇用形態を構築する上で重要な要素となります。雇用契約書や労働条件通知書には、この「労働契約の期間」を明確に記載することが、法律で義務付けられている絶対的明示事項の一つです。期間の満了は、自動的に雇用が終了する可能性を意味するため、労働者は自身の契約期間を正確に把握しておく必要があります。

期間の定めがある契約での退職・解雇の原則

有期雇用契約は、期間が定められているからこそ、その期間中は原則として労働者からの退職も、使用者からの解雇も簡単にはできません。

労働者が契約期間中に退職を希望する場合、原則として「やむを得ない事由」がなければ認められません。例えば、病気や家族の介護など、契約を継続することが困難な客観的な理由が必要となります。しかし、例外として、1年を超える有期雇用契約の場合、契約期間が1年を経過すれば、労働者はいつでも退職の申し入れができるようになります。この点は、長期の有期契約を結んでいる労働者にとって重要な権利です。

一方、使用者側から期間中の労働者を解雇することも非常にハードルが高いです。無期雇用契約の場合よりもさらに厳しい「やむを得ない事由」が必要とされ、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限られます。これは、労働者が定められた期間働くことを期待して契約を結んでいるため、その期待を保護するためです。

ただし、契約期間満了時に更新を行わない「雇止め」という形での雇用終了はあり得ます。しかし、この雇止めにも法的な規制があり、過去の契約更新の実績や労働者の期待などによっては、雇止めが無効となる「雇止め法理」が適用される場合があります。2024年4月からは、労働条件通知書に「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」を明示することが引き続き義務付けられており、企業はこれらの情報を正確に伝える責任があります。

契約期間の長さ、変更、更新の有無はどう決まる?

雇用契約の期間や更新に関するルールは、労働者の生活やキャリアに直結する重要な要素です。特に有期雇用契約の場合、その長さや更新の有無によって将来の見通しが大きく変わります。ここでは、契約期間の決定方法や、契約更新に関する具体的なルール、そして2024年の法改正による変更点について詳しく見ていきましょう。

契約期間の長さのルールと法的制約

有期雇用契約の期間の長さは、法律によっていくつかの制約があります。先に述べた通り、原則として契約期間は最長3年です。この制限は、労働者が長期にわたって不安定な有期雇用契約で働き続けることを防ぎ、無期雇用への転換を促すためのものです。

しかし、特定の条件を満たす場合には、この原則とは異なる特例が適用されます。

  • 高度な専門的知識、技術等を有する労働者: 専門性の高い業務に従事する方々(例:医師、弁護士、ITエンジニアなど)については、その専門性を活かすために、最長5年まで契約期間を設定することが認められています。これは、特定のプロジェクトや研究開発など、長期的な視点が必要な業務に対応するためです。
  • 満60歳以上の労働者: 少子高齢化が進む日本において、高齢者の就労を支援する目的で、60歳以上の労働者との有期雇用契約も、最長5年まで可能です。これは、定年後の再雇用や継続雇用において、柔軟な契約期間設定を可能にするものです。

企業がこれらのルールを遵守することはもちろん、契約期間の決定にあたっては、業務の性質や労働者の意向を十分に考慮することが求められます。不適切な期間設定は、後々の労使トラブルにつながる可能性があるため、契約締結時には慎重な検討が必要です。

2024年4月法改正による契約更新の明示義務

2024年4月1日より施行された労働基準法の改正により、有期雇用契約の更新に関するルールが大きく変更され、企業は以下の2つの事項を労働条件通知書に明示することが義務付けられました。

  1. 更新上限の有無と内容: 契約更新回数や通算契約期間に上限を設ける場合、その上限の有無と具体的な内容を明示しなければなりません。例えば、「契約更新は3回まで」「通算契約期間は5年まで」といった具体的なルールを事前に知らせる必要があります。これにより、労働者は将来的な雇用継続の可能性を事前に把握し、キャリアプランを立てやすくなります。
  2. 無期転換申込機会・無期転換後の労働条件: 無期転換ルールが適用される更新のタイミングごとに、労働者に無期転換の申込機会があること、および無期転換後の労働条件について明示することが義務付けられました。これは、労働者が無期転換の権利を適切に行使できるよう、企業が積極的に情報提供を行うことを促すものです。無期転換後の労働条件については、賃金や就業場所、業務内容などが有期契約時とどう変わるのかを明確にする必要があります。

これらの明示義務を怠った場合、企業は罰金を課される可能性があり、企業の信用問題にも関わります。法改正は、有期雇用労働者の雇用安定を図り、雇用契約に関する透明性を高めることを目的としています。

契約更新の有無と判断基準、無期転換ルール

有期雇用契約は、期間満了とともに終了するのが原則ですが、実態として更新を繰り返すケースが多く見られます。契約更新の有無やその判断基準は、労働者の雇用継続に直結するため、非常に重要な事項です。

企業は、契約更新の可否を判断する基準を、雇用契約書や労働条件通知書、就業規則などで労働者に明示・周知する義務があります。例えば、「業務遂行能力」「勤務態度」「会社の経営状況」などが判断基準となり得ます。これらの基準を変更した場合は、速やかに労働者に周知しなければなりません。

また、有期雇用契約において特に重要なのが「無期転換ルール」です。これは、同一の使用者との間で、有期雇用契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる権利が発生する制度です。この申込みがあった場合、使用者は拒否できません。

  • 対象: 2013年4月1日以降に開始した有期労働契約がカウントの対象となります。
  • 効果: 労働者は雇用期間の定めのない契約となり、雇用の安定が図られます。
  • 企業への影響: 無期転換ルール適用後の人材育成や配置転換を考慮した経営戦略が必要となります。

この無期転換ルールは、有期雇用労働者の雇用安定を図るための重要な制度として、その周知と利用促進が進められています。企業は、2024年4月の法改正により、無期転換申込機会や無期転換後の労働条件を明示する義務を負うため、より一層の対応が求められます。

退職に関する事項:いつまでに伝えれば良い?

仕事を辞めるという決断は、人生において大きな転機です。円満な退職を実現するためには、適切な時期に会社へ意向を伝え、必要な手続きを踏むことが重要です。ここでは、雇用形態別に退職のルールと、会社にいつまでに伝えれば良いのかについて詳しく解説します。

無期雇用契約の場合の退職ルール

期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)の労働者、いわゆる正社員は、民法第627条の規定により、いつでも退職の申し入れをすることが認められています。これは、労働者の職業選択の自由を保障するための重要な原則です。

具体的には、退職の申し入れから2週間が経過すれば、雇用契約は終了するとされています。多くの会社の就業規則では、「退職希望日の1ヶ月前までに申し出ること」といった規定が設けられていることがありますが、民法上の効力としては2週間で退職が成立します。ただし、円満退職を目指すのであれば、就業規則の規定に沿って早めに申し出を行い、業務の引き継ぎ期間を十分に確保することが望ましいでしょう。

退職に関する事項は、労働条件通知書に必ず記載が必要な「絶対的明示事項」の一つです。企業は、就業規則の定年制や解雇に関する事項と合わせて、退職に関するルールを従業員に明確に示しておく必要があります。特に、定年制を設けている企業では、2025年4月から65歳までの雇用確保が義務付けられるため、継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の運用と合わせて、退職に関するルールを総合的に見直す企業が増えることが予想されます。

有期雇用契約の場合の退職ルール

期間の定めのある労働契約(有期雇用契約)の労働者は、無期雇用契約とは異なり、原則として契約期間中の任意退職は認められていません。これは、労働者と使用者が特定の期間働くことに合意しているため、その契約を途中で一方的に解除することはできない、という考え方に基づいています。

しかし、全く退職できないわけではありません。以下のような場合には、期間中の退職が認められることがあります。

  • 「やむを得ない事由」がある場合: 病気や家族の介護、転居など、契約を継続することが客観的に困難な事情がある場合です。この場合、労働者は契約期間の途中であっても退職を申し入れることができます。ただし、その理由が本当に「やむを得ない」と言えるかどうかが重要となり、会社との間で協議が必要になることもあります。
  • 1年を超える有期雇用契約の場合: 労働基準法では、1年を超える期間の定めのある有期雇用契約の場合、契約期間が1年を経過すれば、労働者はいつでも退職の申し入れができると規定されています。これは、長期の有期契約で労働者を過度に拘束しないための配慮です。

有期雇用契約の場合、使用者側からの契約期間中の解雇も、「やむを得ない事由」がなければ認められず、無期雇用契約よりもさらに厳しい条件が課されます。労働者は、自身の契約期間や更新の有無をしっかりと確認し、退職を検討する際には、まずは契約内容と就業規則を熟読することが重要です。

退職に関する重要明示事項と2024年4月改正

退職に関する事項は、雇用契約を結ぶ際に必ず労働条件通知書に明示しなければならない「絶対的明示事項」の一つです。これには、退職の申し出に関する規定だけでなく、解雇の事由も含まれます。

2024年4月1日の労働基準法改正では、特に退職に関する事項そのものに大きな変更があったわけではありません。しかし、労働条件の明示義務が全体的に強化されたことで、企業はより正確で詳細な情報提供が求められるようになりました。これにより、労働者は自身の退職に関する権利や会社のルールを、これまで以上に明確に把握できるようになっています。

企業が明示すべき「退職に関する事項」には、具体的に以下の内容が含まれます。

  • 定年制: 定年年齢の有無と、その年齢。
  • 継続雇用制度: 定年後の継続雇用制度(再雇用制度や勤務延長制度)がある場合、その対象者となる基準。
  • 自己都合退職に関する規定: 退職を申し出る際の予告期間や手続き。
  • 解雇の事由: どのような場合に会社から解雇される可能性があるのか、具体的な理由。

特に、少子高齢化が進む中で、高齢者の雇用確保は社会的な課題となっています。2025年4月からは、企業は希望する従業員全員に対し、65歳までの雇用を確保する義務が生じます。これに伴い、定年延長や継続雇用制度の導入・見直しが進むため、退職に関する事項もそれらの変更を適切に反映したものである必要があります。労働者は、これらの情報を確認し、自身のキャリアプランを長期的に考える上での参考にすべきです。

解雇事由の記載例と注意点

雇用契約は、労働者と企業双方の合意に基づいて成立するものですが、時には企業側から契約の解除、つまり「解雇」を検討せざるを得ない状況が生じることもあります。しかし、労働者の生活に直結する解雇は、法律によって厳しく制限されており、企業は慎重な対応が求められます。ここでは、解雇事由の明示義務とその注意点について解説します。

解雇事由の明確な明示義務

企業が労働者を解雇する可能性がある場合、どのような理由で解雇されるのかを、あらかじめ労働条件通知書に明確に明示することが法律で義務付けられています。これは、「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」として、労働契約の絶対的明示事項の一つとされています。

なぜ解雇事由の明確な記載が重要なのでしょうか?

  • トラブルの防止: 解雇は労働者にとって重大な不利益となるため、労使間で争いになりやすい事項です。事前に解雇事由を明確にしておくことで、不必要な誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。
  • 労働者保護: どのような行為や状況が解雇につながる可能性があるのかを労働者が把握することで、自身の行動を律し、安心して職務に専念できるようになります。不明確な解雇理由での一方的な解雇は、労働基準法違反となる可能性があります。
  • 企業の透明性: 解雇に関するルールを明確にすることは、企業のコンプライアンス意識の高さを示し、透明性の確保にも繋がります。

記載にあたっては、抽象的な表現ではなく、具体的にどのような状況が解雇事由となり得るのかを記載することが求められます。例えば、「会社の秩序を著しく乱した場合」だけでなく、「無断欠勤が○日以上継続した場合」「業務命令に正当な理由なく複数回違反した場合」といった具体的な例を挙げることで、より理解が深まります。

解雇が認められるための厳しい要件

日本では、企業が労働者を解雇するには、「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」であると認められる必要があります。この要件は、労働契約法第16条に定められており、解雇権濫用法理と呼ばれます。具体的には、以下の3つの解雇の種類ごとに、厳しい要件が課されます。

  1. 普通解雇: 労働者の能力不足や勤務態度不良、傷病による労務提供不能などが理由となる解雇です。会社は、改善の機会を与え、教育指導を行うなどの努力を尽くした上で、それでも改善が見られない場合にのみ、解雇が認められる可能性があります。
  2. 懲戒解雇: 労働者の重大な規律違反や犯罪行為など、企業秩序を著しく乱したことを理由とする解雇です。例えば、横領、暴行、機密情報の漏洩などが該当します。この場合でも、就業規則に懲戒事由と懲戒の種類が明記されていること、弁明の機会を与えることなど、適正な手続きが求められます。
  3. 整理解雇: 会社の経営上の都合(経営不振、事業縮小など)により人員を削減する必要がある場合の解雇です。この場合、「人員削減の必要性」「解雇回避努力(配置転換、希望退職募集など)」「人選の合理性」「手続の妥当性」という、いわゆる「整理解雇の4要件」をすべて満たす必要があります。

さらに、有期雇用契約の場合、契約期間中の解雇は、無期雇用契約よりも一層厳しく、「やむを得ない事由」がなければ認められません。解雇は、労働者の生活基盤を奪うため、企業は最後の手段としてのみ検討すべきであり、その判断は極めて慎重に行う必要があります。

不当解雇を避けるための企業の注意点

解雇は、企業にとって大きなリスクを伴う行為です。不適切な解雇は、不当解雇として労働審判や訴訟に発展し、企業の時間、費用、そして信用を大きく損なう可能性があります。企業が不当解雇を避けるためには、以下の点に細心の注意を払う必要があります。

  • 明確な根拠と証拠の確保: 解雇理由を裏付ける客観的な事実や証拠(勤務記録、業務報告、警告書、面談記録など)を十分に収集・保管しておくことが不可欠です。
  • 手続きの適正性: 就業規則に定められた解雇手続き(弁明の機会の付与、懲戒委員会の開催など)を厳格に遵守することが重要です。また、解雇の30日前までに解雇予告を行うか、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
  • 解雇回避努力: 解雇以外の手段(配置転換、休職制度の活用、希望退職の募集など)を尽くしたかどうかが問われます。特に整理解雇の場合、この努力が極めて重要視されます。
  • 専門家への相談: 解雇を検討する際は、事前に弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談し、法的なアドバイスを受けることが強く推奨されます。

また、有期雇用契約における「雇止め」も、無期転換ルールや雇止め法理により、実質的に解雇とみなされ無効となるケースがあります。企業が労働条件の明示義務を怠った場合も罰金が課される可能性があるため、雇用契約書や労働条件通知書への正確な記載と、これらの法改正への確実な対応が、企業の法的リスクを軽減し、信用を守る上で不可欠です。

研修期間と雇用契約書の関連性

多くの企業では、従業員を本採用する前に「研修期間」や「試用期間」を設けています。この期間は、企業が新入社員の適性や能力を評価し、従業員側も企業文化や業務内容が自分に合っているかを見極めるための大切な期間です。しかし、この研修期間と雇用契約書がどのように関連し、どのような法的な意味を持つのか、十分に理解している人は少ないかもしれません。

研修期間(試用期間)の法的性質とは

「研修期間」や「試用期間」は、法律上「解約権留保付き労働契約」と位置づけられます。これは、従業員を本採用することを前提としつつも、企業側が一定期間、その従業員の能力や適性、勤務態度などを評価し、不適格と判断した場合には、契約を解除できる権利(解約権)を留保している状態の労働契約を意味します。

つまり、研修期間中であっても、すでに労働契約は成立しています。期間の定めのない契約と誤解されやすいですが、試用期間はあくまで本採用前の評価期間であり、原則として最長でも1年程度が一般的です。これは、労働者を不必要に不安定な状態に置くことを避けるためです。

この期間中も、労働者には通常の労働契約と同様に労働基準法が適用されます。例えば、賃金の支払い、労働時間、休憩、休日などの労働条件は、研修期間中であっても遵守されなければなりません。研修期間が終了し、企業が本採用を決定すれば、原則として期間の定めのない労働契約へと移行するのが一般的です。

労働条件通知書には、試用期間の有無、その期間、そして試用期間中の労働条件が本採用後と異なる場合には、その内容を明確に記載する義務があります。これにより、労働者は自身の雇用状況を正確に理解し、安心して業務に取り組むことができます。

研修期間中の解雇のハードルと条件

研修期間(試用期間)は、本採用前の評価期間であるため、通常の解雇と比較すると、解雇のハードルはやや低いとされています。しかし、決して自由に解雇できるわけではありません。試用期間中の解雇(本採用拒否)も、法的には解雇権濫用法理が適用され、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。

具体的には、企業は以下の点を証明する必要があります。

  • 適格性の欠如: 業務遂行能力が著しく低い、協調性がない、勤務態度が極めて不良であるなど、本採用を継続することが困難な具体的な理由が必要です。
  • 改善の機会の付与: 能力不足の場合には、企業が指導や教育を行い、改善の機会を十分に与えたにもかかわらず、改善が見られなかったことを示す必要があります。
  • 証拠の確保: 不適格であると判断した客観的な事実や証拠(業務評価、面談記録、注意指導記録など)を明確に残しておくことが重要です。

また、試用期間中に労働者を解雇する場合にも、原則として30日前までに解雇予告を行うか、30日分以上の解雇予告手当を支払う義務があります。ただし、試用期間開始から14日を超えて雇用された場合にのみこの義務が生じます。14日以内の解雇であれば、解雇予告や手当は不要です。

企業が試用期間を延長することも可能ですが、その場合も、延長の理由と延長期間を労働者に明確に伝え、合意を得る必要があります。曖昧な理由での延長や、不当な延長はトラブルの原因となるため注意が必要です。

研修期間に関する雇用契約書への明示事項

研修期間(試用期間)を設ける場合、雇用契約書や労働条件通知書には、その期間に関する詳細な情報を明確に記載することが義務付けられています。これにより、労働者は自身の雇用条件を正確に理解し、安心して働き始めることができます。

具体的に明示すべき事項は以下の通りです。

  1. 試用期間の有無: まず、試用期間があるかないかを明記します。
  2. 試用期間の長さ: 「採用の日から3ヶ月間」のように、具体的な期間を記載します。
  3. 本採用の条件: 試用期間満了後に本採用となるための基準や条件を明確にします。例えば、「試用期間中の勤務評価に基づき、会社が本採用を決定する」といった内容です。
  4. 試用期間中の労働条件: 賃金、手当、就業場所、業務内容などが本採用後と異なる場合は、その内容を詳細に記載します。例えば、「試用期間中は基本給が本採用後より〇〇円少ない」「試用期間中は○○部署での勤務となる」といった具体的な情報です。
  5. 試用期間中の解雇に関する規定: 試用期間中に解雇となる可能性のある事由について、一般的な解雇事由に加えて、試用期間特有の理由があれば明記します。
  6. 就業場所・業務の変更の範囲: 2024年4月1日の法改正により、将来的な配置転換などにより変更となりうる就業場所・業務内容の範囲を明示することが義務付けられました。試用期間中に限定的な業務を行う場合でも、本採用後の変更の範囲を明確に記載する必要があります。

これらの情報を正確に明示することは、労働者と企業の双方にとって、後に発生しうるトラブルを未然に防ぎ、健全な労使関係を築く上で極めて重要です。企業は、最新の法改正にも対応した適切な雇用契約書、労働条件通知書の作成と交付を徹底する必要があります。