概要: 雇用契約書の作成や管理に悩んでいませんか?この記事では、エクセルでの作成方法から、Webツールやクラウドサインの活用、英語の雇用契約書作成、そして保管期間や閲覧方法まで、雇用契約書に関する疑問を網羅的に解説します。
雇用契約書作成を効率化!エクセル・Webツール活用術
雇用契約書の作成は、企業の採用活動において避けて通れない重要な業務です。しかし、そのプロセスは時に複雑で時間と手間がかかりがち。特に、法改正への対応や多様な雇用形態への適用など、常に最新の情報にアンテナを張る必要があります。
本記事では、こうした雇用契約書作成業務を劇的に効率化するための具体的な方法を、Excel活用術から最新のWebツール、さらにはAI技術の応用まで幅広くご紹介します。企業の規模や状況に合わせて最適なツールを選び、スマートでコンプライアンスを遵守した契約書作成体制を構築するためのヒントを、ぜひ見つけてください。
雇用契約書作成、何から始める?基本を理解しよう
雇用契約書は、企業と従業員の間で労働条件を明確にし、相互の権利と義務を定めるための重要な書類です。その作成には、労働基準法をはじめとする各種法令の理解が不可欠であり、適切な運用はトラブルの未然防止にも繋がります。
なぜ雇用契約書が必要なのか?
雇用契約書は、使用者と労働者の間で労働条件について合意がなされたことを証明する書類です。労働基準法では、労働契約の締結に際して書面による「労働条件通知書」の交付が義務付けられていますが、雇用契約書はさらに一歩進んで、双方が署名または記名押印することで、その内容に合意したことを明確にする役割があります。
口頭での合意であっても労働契約は成立しますが、後々の認識違いやトラブルを避けるためには、書面で詳細な労働条件を明示し、双方が確認・合意した証拠を残すことが極めて重要です。これにより、給与、労働時間、休日、業務内容、就業場所などの基本的な労働条件はもちろん、退職に関する規定や秘密保持義務といった、企業と従業員の双方にとって重要な事項が明確になります。
法的な義務を果たすだけでなく、円滑な労使関係を構築し、将来的な紛争リスクを低減するためにも、雇用契約書の作成は不可欠なプロセスと言えるでしょう。
2024年4月法改正のポイント
2024年4月には、労働基準法施行規則が改正され、雇用契約書や労働条件通知書に記載すべき事項が追加されました。企業は、これらの変更に迅速に対応し、最新の法令に準拠した契約書を作成する必要があります。
主な追加項目は以下の通りです。
- 就業場所・業務の変更の範囲: 雇入れ直後の就業場所と業務だけでなく、将来的に変更される可能性のある就業場所や業務の範囲を明示する必要があります。これにより、転勤や配置転換の可能性を従業員が事前に把握できるようになります。
 - 契約更新上限の有無と内容: 有期労働契約の場合、契約更新の上限(通算契約期間や更新回数)の有無と、その内容を明示しなければなりません。
 - 無期転換申込機会: 有期労働契約が繰り返し更新され、通算5年を超える場合に労働者が無期労働契約への転換を申し込める「無期転換ルール」について、その申込機会があることを明示する必要があります。
 
これらの改正事項に対応しない雇用契約書は、法令違反となる可能性があります。古いテンプレートを使い続けることはリスクを伴うため、必ず最新の法令に準拠したフォーマットを用いることが重要です。企業としては、この改正を機に契約書作成プロセス全体を見直し、コンプライアンス体制を強化する良い機会と捉えるべきでしょう。
電子契約のメリットと普及の現状
近年、ビジネスシーンにおけるデジタル化の波は、雇用契約書作成にも大きく影響を与えています。電子契約の普及は目覚ましく、そのメリットから導入を検討する企業が増加しています。
参考情報によると、2023年の調査では、従業員数2人以上の国内企業における電子契約の普及率は約74%に達しており、デジタル庁の調査でも、受信者として利用した企業を含めると74.3%と高い水準を示しています。リモートワークの普及も、電子契約の利用率を大きく押し上げる要因となり、特に2020年から2021年にかけてその伸びは顕著でした。市場規模も拡大しており、2021年には約140億円だったものが、2026年度には453億円に達すると予測されています。
電子契約の主なメリットは以下の通りです。
- コスト削減: 印紙税が不要になり、印刷費、郵送費、保管スペースにかかる費用を大幅に削減できます。
 - リードタイム短縮: 契約締結までのプロセスがオンラインで完結するため、郵送や対面でのやり取りが不要になり、契約締結までの時間を劇的に短縮できます。
 - 利便性向上: テレワーク環境でも場所を選ばずに契約締結が可能となり、遠隔地の人材採用にも柔軟に対応できます。
 - 管理の効率化: 電子的に契約書を保管・管理することで、検索性が向上し、必要な書類を迅速に見つけることができます。
 
これらのメリットを享受するためにも、電子契約の導入は現代の企業運営において不可欠な選択肢となりつつあります。
エクセルで手軽に作成!無料テンプレート活用法
特別なシステムを導入する前に、多くの企業で日常的に利用されているExcelを活用して雇用契約書作成を効率化する方法があります。無料テンプレートの活用や簡単な自動化の仕組みを導入することで、手軽に業務改善が可能です。
テンプレート活用の基本とメリット
Excelでの雇用契約書作成において、最も手軽で効果的な効率化策の一つが「テンプレートの活用」です。厚生労働省や労務関連のWebサイトでは、無料の雇用契約書テンプレートが多数公開されており、これらを活用することで、一から作成する手間を省くことができます。
特に重要なのは、最新の法改正に対応したテンプレートを選ぶことです。2024年4月の労働基準法施行規則改正のように、法令の変更は定期的に行われるため、常に最新版のテンプレートを使用するよう心がけましょう。テンプレートには、企業名や従業員名、労働条件などを入力するだけで、基本的な雇用契約書が迅速に作成できるような工夫が凝らされています。
このアプローチのメリットは、主に以下の点が挙げられます。
- 迅速な作成: 定型的な項目はすでに用意されているため、入力作業のみで契約書を完成させることができます。
 - 法務担当者の負担軽減: 法令遵守のチェックがテンプレート段階でされているため、個別の契約書に対する確認作業が軽減されます。
 - 「契約書アレルギー」の緩和: 複雑な契約書作成に対する苦手意識を持つ事業部担当者でも、テンプレートに沿って入力するだけで済むため、心理的なハードルが下がります。
 
無料テンプレートを賢く活用することで、コストをかけずに雇用契約書作成の効率化を図ることが可能です。
Excelによる自動化のコツ
Excelの機能を活用することで、テンプレートをさらに一歩進めて自動化し、より効率的な雇用契約書作成を実現できます。単なる入力作業に留まらず、いくつかの機能を組み合わせることで、手作業によるミスを減らし、作成時間を短縮することが可能です。
具体的な自動化のコツとしては、以下のような方法があります。
- フォーム入力とセル参照: 別のシートに基本情報を入力するフォームを作成し、雇用契約書本体のシートからその情報を参照する仕組みを作ります。例えば、従業員名や住所、基本給などを入力するだけで、契約書の該当箇所に自動的に反映されるように設定できます。
 - プルダウンリストの活用: 選択肢が決まっている項目(例:雇用形態、部署名、休日種類)には、データの入力規則機能でプルダウンリストを設定します。これにより、誤入力を防ぎ、入力作業を簡素化できます。
 - VLOOKUP関数やINDEX+MATCH関数の応用: 職種や役職に応じて給与体系や手当が異なる場合、別のシートにマスタデータを用意し、VLOOKUP関数などを使って自動的に契約書に反映させることで、複雑な条件設定も効率的に行えます。
 - マクロ(VBA)の活用: 高度な自動化を目指す場合は、VBA(Visual Basic for Applications)を使ってマクロを組むことで、ボタン一つで契約書を生成したり、PDFとして出力したりする仕組みを構築することも可能です。
 
これらの機能を組み合わせることで、Excelが単なる表計算ソフトから、強力な契約書作成ツールへと進化し、手作業による編集の手間やミスを大幅に削減できるでしょう。
Excel運用の注意点と限界
Excelを活用した雇用契約書作成は手軽で有効な手段ですが、運用にはいくつかの注意点があり、また限界も存在します。これらの点を理解しておくことで、より適切なツール選択や運用体制の構築に繋がります。
まず、注意すべきはバージョン管理の難しさです。複数の担当者が同じファイルを扱う場合、どれが最新のテンプレートなのか、誰がどの部分を修正したのかが不明確になりがちです。これにより、誤った情報で契約書を作成してしまうリスクが高まります。ファイルの共有方法や命名規則を厳格に定める必要があります。
次に、セキュリティリスクも無視できません。雇用契約書には個人情報や機密情報が多数含まれるため、Excelファイルが不正にアクセスされたり、誤って外部に流出したりした場合の影響は甚大です。パスワード保護だけでは不十分な場合もあり、より強固なセキュリティ対策が必要となります。
さらに、Excel運用には以下のような限界があります。
- 大量契約への対応: 多数の従業員を抱える企業や、頻繁に採用を行う企業では、Excelファイルが肥大化し、管理が複雑になります。
 - 履歴管理の難しさ: 各契約書の作成・更新履歴を詳細に追跡することが困難です。
 - 法改正時のテンプレート更新の手間: 法改正があるたびに、自社でテンプレートの修正・検証を行う必要があり、専門的な知識と時間が必要です。
 
これらの課題を解決するためには、後述するWebツールや専門システムへの移行を検討することも重要です。Excelはあくまで一時的な、あるいは小規模な組織向けの効率化ツールとして位置づけるのが賢明でしょう。
Web化・クラウドサインでさらにスマートに
Excelでの運用に限界を感じたり、さらなる効率化とセキュリティ強化を目指す企業には、Webツールやシステムを活用した雇用契約書作成が有効です。特に電子契約サービスや採用管理システムとの連携は、業務プロセスを劇的に改善します。
電子契約サービスで契約業務をまるごと効率化
近年、多くの企業で導入が進んでいるのが、電子契約サービスです。これは、契約書の作成から締結、管理までの一連の業務をオンライン上で完結できるサービスであり、雇用契約書作成のプロセスを大幅に効率化します。
例えば「クラウドサイン」に代表されるような電子契約サービスは、企業と従業員がオンライン上で契約書に同意・署名(電子署名)を行うことで、法的な効力を持つ契約を締結できます。これにより、従来の紙の契約書で発生していた様々な手間やコストを削減することが可能です。
具体的なメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 印紙税の不要化: 電子契約は印紙税法上の「文書」に該当しないため、収入印紙を貼る必要がなく、大幅なコスト削減に繋がります。
 - 郵送費・印刷費の削減: 紙の契約書を印刷・郵送する必要がなくなるため、関連費用をゼロにできます。
 - 保管スペースの不要化: 物理的な保管場所が不要となり、契約書を探す手間も省けます。
 - リードタイムの短縮: 契約締結までの時間が、数日から数時間、場合によっては数分へと劇的に短縮されます。これにより、採用スピードの向上にも寄与します。
 - テレワーク対応: 従業員がどこにいても契約締結が可能となり、リモートワーク環境下での採用活動を強力にサポートします。
 
電子契約サービスは、単なる効率化だけでなく、契約書の紛失リスクの低減や監査対応の容易化といったセキュリティ・コンプライアンス面でのメリットも提供します。
採用管理システム(ATS)連携の威力
雇用契約書作成をさらにスマートにするためには、採用管理システム(ATS: Applicant Tracking System)との連携が非常に有効です。採用プロセス全体を統合的に管理するATSと、労務管理システムや電子契約サービスを連携させることで、入社手続きや雇用契約締結の効率を劇的に向上させることができます。
通常、採用活動においては、応募者の情報がATSに集約されます。内定者が決定した後、その情報を手動で雇用契約書や労務管理システムに入力し直す作業は、手間がかかる上に人的ミスが発生しやすいポイントです。しかし、ATSと労務管理システムが連携していれば、応募者情報や内定者情報をスムーズに労務管理システムへ自動で取り込むことが可能になります。
例えば、SmartHRのような労務管理システムは、採用管理機能と連携し、内定者の情報から入社手続き書類や雇用契約書を自動生成し、そのままオンラインで締結までを完結させることができます。これにより、人事担当者は手作業による情報入力の二度手間を省き、入社手続きにかかる時間を大幅に削減できます。また、情報の整合性が保たれるため、入力ミスによるトラブルも未然に防ぐことが可能です。
ATS連携は、採用から入社までのオンボーディングプロセス全体を効率化し、人事担当者の業務負担を軽減するだけでなく、新入社員にとってもスムーズな入社体験を提供することに繋がります。
AIを活用した雇用契約書自動生成の最前線
最新のテクノロジーとして、AIを活用した雇用契約書自動生成サービスも登場しており、さらなる効率化と高度なコンプライアンス対応を実現しています。これは、従来のテンプレート入力やシステム連携の枠を超え、より複雑な法的要件や個別状況に応じた契約書作成を可能にするものです。
AIを活用したサービスでは、労働条件通知書の情報や、いくつかの質問に回答するだけで、法的要件を満たした雇用契約書を自動的に生成します。特に、2024年4月の労働基準法施行規則改正によって雇用契約書に記載すべき事項が増加し、複雑さが増した中で、AIはこれらの最新の法改正にも迅速に対応し、抜け漏れのない正確な契約書を作成する上で強力なサポートとなります。
例えば、AIは以下のような処理を行うことができます。
- 法改正対応: 最新の法令情報が常にシステムに反映されているため、ユーザーは法改正を意識することなく、常に適法な契約書を作成できます。
 - 条件分岐の自動化: 契約期間、職種、雇用形態などに応じて、必要な条項を自動で追加・修正します。
 - 個別事情への対応: 特定の労働条件や特約が必要な場合でも、簡単な入力や指示でカスタマイズされた契約書を生成できます。
 
AIによる自動生成は、契約書作成にかかる時間を大幅に短縮し、法務・人事担当者の負担を軽減するだけでなく、法的リスクを最小限に抑える上で非常に有効な手段です。AIの進化により、雇用契約書作成はこれまで以上にスマートで正確なプロセスへと変革されつつあります。
英語の雇用契約書作成と知っておきたい注意点
グローバル化が進む現代において、外国籍人材の採用や海外拠点での事業展開は珍しくありません。このような場合、英語での雇用契約書作成が必要となりますが、日本語の契約書とは異なる法的・文化的な注意点が多数存在します。
英語雇用契約書が必要となるケース
英語での雇用契約書が必要となるのは、主に以下のようなケースです。
- 外国籍人材の採用: 日本国内で外国籍の従業員を採用する場合、母国語が英語であるか、日本語の理解が十分でない場合、英語での契約書が必要となります。日本語と英語の両方で作成し、どちらを正本とするか明記することも一般的です。
 - 海外拠点での雇用: 日本企業が海外に支社や子会社を設立し、現地で従業員を雇用する場合、現地の法規に従い、現地の言語(多くは英語)で契約書を作成する必要があります。
 - グローバル企業における統一書式: 国際的な企業グループでは、グループ全体で雇用契約書の統一書式を英語で定めている場合があります。これにより、グループ内の人事管理基準を統一し、異動などもスムーズに行うことを目指します。
 - 役員や高度専門職の採用: 特定の役職や高度な専門スキルを持つ人材を国際市場から採用する際、英語での交渉が必須であり、それに伴い契約書も英語で作成されることが一般的です。
 
これらのケースでは、単に日本語の契約書を英語に翻訳するだけでなく、対象となる国の労働法規や国際的な商習慣を考慮に入れた契約書を作成することが求められます。
作成時の法的・文化的な注意点
英語の雇用契約書を作成する際には、言語の違いだけでなく、法的・文化的な背景の違いを深く理解しておくことが極めて重要です。これを怠ると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。
最も重要なのは、「準拠法(Governing Law)」の明確化です。契約書がどの国の法律に基づいて解釈されるかを明記する必要があります。例えば、日本で働く外国籍従業員の契約書であれば、日本法を準拠法とすることが一般的ですが、国際的な契約では、特定の国の法律を選択するケースもあります。準拠法が不明確だと、紛争発生時にどの国の裁判所が管轄権を持つのか、どの法律が適用されるのかが曖昧になり、解決が困難になります。
また、文化的な表現の違いにも注意が必要です。例えば、日本における「終身雇用」のような概念は、海外では一般的ではありません。年俸制や成果主義が主流の国では、その文化に合わせた表現や条項が必要となります。曖昧な表現や直訳では意図が正確に伝わらないことも多いため、専門的な知識を持つ翻訳者や弁護士の助言が不可欠です。
さらに、紛争解決条項(Dispute Resolution)も重要なポイントです。万が一の紛争発生時に、どの国の裁判所で解決するのか(裁判管轄)、あるいは仲裁によって解決するのかなどを事前に定めておくことで、将来的なリスクを軽減できます。これらの専門的な項目については、国際的な労務・契約法に詳しい弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることを強く推奨します。
翻訳ツールの活用と限界
英語の雇用契約書を作成する際、Google翻訳やDeepLなどのAI翻訳ツールは非常に便利で、手軽に利用できるため、多くの人が活用を検討するかもしれません。これらのツールは、単語やフレーズの翻訳、文章の骨子の作成において大きな助けとなります。
しかし、法的文書においては、翻訳ツールの活用には重大な限界があることを理解しておく必要があります。雇用契約書は、一言一句が法的な意味を持ち、わずかな誤訳やニュアンスの違いが、後々の解釈や紛争解決に大きな影響を与える可能性があります。AI翻訳ツールは、文脈を完全に理解し、法律専門用語や契約書特有の表現、さらには法的な含意を正確に翻訳する能力にはまだ限界があります。
例えば、日本語の「手当」一つ取っても、英語にはAllowance、Benefit、Bonusなど様々な表現があり、文脈によって使い分けが必要です。また、特定の国の労働法規で定められた概念を、別の国の言葉で正確に表現することは、AIだけでは困難な場合が多いでしょう。
したがって、AI翻訳ツールはあくまで下書きや参考として活用し、最終的な内容については必ずプロの翻訳者や、国際的な契約法に詳しい法務専門家によるチェックを受けるべきです。特に、法的効力を持つ契約書においては、費用を惜しまずに専門家の力を借りることで、将来的なリスクを回避し、企業と従業員双方の信頼関係を損なわないよう努めることが重要です。
雇用契約書の保管期間と閲覧について
雇用契約書は、作成して終わりではありません。重要な個人情報と労働条件が記された書類であるため、法令で定められた期間適切に保管し、必要に応じて閲覧できる体制を整えることが企業の義務です。
雇用契約書の保管期間と法的要件
雇用契約書は、従業員の労働条件に関する重要な書類であり、労働基準法をはじめとする複数の法令によって保管義務が定められています。企業はこれらの法的要件を遵守し、適切に保管しなければなりません。
労働基準法第109条により、使用者(企業)は、労働者の氏名、生年月日、履歴その他労働者の個人に関する事項について記載された書類(労働者名簿、賃金台帳及び雇入れに関する書類など)を、労働者の退職または死亡の日から5年間(当分の間は3年間)保管することが義務付けられています。雇用契約書はこの「雇入れに関する書類」に該当するため、最低でもこの期間の保管が必要です。
また、雇用契約書は個人情報保護法の対象となる個人情報を含むため、情報管理体制も重要です。電子的に保管する場合も、紙媒体で保管する場合も、情報漏洩や紛失、改ざんのリスクを考慮したセキュリティ対策を講じる必要があります。例えば、アクセス権限の設定、バックアップの実施、定期的な監査などが挙げられます。
万が一、保管期間を過ぎて破棄する場合も、個人情報保護の観点から適切な方法で処分することが求められます。シュレッダーによる裁断やデータ消去など、復元不可能な方法で廃棄することが重要です。
安全かつ効率的な保管方法
雇用契約書を安全かつ効率的に保管するためには、紙と電子、それぞれの特性を理解し、適切な方法を選択することが重要です。特に近年は、電子化による保管が主流になりつつあります。
紙媒体での保管:
- ファイリング: 従業員ごとにクリアファイルやバインダーにまとめ、部署や入社年度別に整理します。
 - 施錠可能なキャビネット: 個人情報を含むため、セキュリティを確保するために施錠できるキャビネットや書庫に保管します。
 - 保管場所の管理: 火災や水害などのリスクを考慮し、安全な場所を選定します。
 - 閲覧制限: 担当者以外は閲覧できないように、アクセス制限を厳格に設けます。
 
紙での保管は物理的なスペースが必要となり、検索性が低いという課題があります。
電子データでの保管:
- 電子契約サービス: 電子契約サービスを導入していれば、契約書はサービス内でセキュアに保管され、一元管理が可能です。検索機能も充実しており、必要な契約書を迅速に探し出せます。
 - 雇用契約システム・労務管理システム: これらのシステムには、契約書の作成・締結だけでなく、保管・履歴管理機能も含まれています。データはクラウド上で管理され、紛失リスクが低減します。
 - 社内サーバー・クラウドストレージ: ファイルをPDF化して社内サーバーやセキュリティ対策が施されたクラウドストレージに保管する方法もあります。その際は、フォルダ構成をルール化し、厳重なアクセス制限と定期的なバックアップが不可欠です。
 
電子データでの保管は、検索性の高さ、保管コストの削減、災害リスクの低減といったメリットがあり、現代の主流となりつつあります。ただし、サイバーセキュリティ対策は常に最新の状態に保つ必要があります。
従業員からの閲覧請求への対応
雇用契約書は従業員の個人情報であり、その内容に労働条件が記されているため、従業員が自身の契約書を閲覧したいと請求する場合があります。企業は、この閲覧請求に対して適切に対応する義務があります。
個人情報保護法に基づき、企業は従業員からの自身の個人情報(雇用契約書を含む)の開示請求に応じる必要があります。これは、従業員が自身の労働条件を確認する権利を保護するための重要な要件です。開示請求があった場合、企業は正当な理由がない限り、遅滞なく開示しなければなりません。
適切な対応のためには、以下の点を考慮し、閲覧に関するルールを明確にしておくことが望ましいです。
- 請求窓口の明確化: 誰に、どのような方法で閲覧請求をすればよいのかを従業員に周知します(例:人事部〇〇担当へ書面で請求)。
 - 対応プロセスの確立: 請求があった際の担当者、開示までの期間、開示方法(コピーの提供、オンライン閲覧など)を事前に定めます。
 - 本人確認の徹底: 情報漏洩を防ぐため、閲覧請求者が本人であることを厳格に確認します。
 - 閲覧範囲の限定: 閲覧させるのは、当該従業員自身の雇用契約書に限ります。他の従業員の個人情報が含まれる場合は、マスキング処理などを行います。
 
電子契約システムや労務管理システムを導入している場合、従業員が自身の契約書にいつでもアクセスできるマイページ機能を提供しているサービスもあります。このようなシステムを活用することで、閲覧請求への対応がよりスムーズになり、従業員の利便性も向上するでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用契約書をエクセルで作成するメリットは何ですか?
A: エクセルを使えば、自社の状況に合わせて項目を自由に編集したり、必要に応じて計算式などを組み込んだりできます。また、無料のテンプレートも多く存在するため、コストを抑えて手軽に作成を始められます。
Q: Webで雇用契約書を作成できるサービスにはどのようなものがありますか?
A: クラウドサインのような電子契約サービスを利用することで、Web上で雇用契約書を作成・締結・管理できます。これにより、印刷や郵送の手間が省け、ペーパーレス化も実現できます。
Q: 英語の雇用契約書を作成する際に気をつけるべき点は?
A: 日本の労働法規に準拠させる必要があるため、専門家(弁護士や翻訳会社)に相談することをおすすめします。厚生労働省のサイトなども参考に、正確な表現を心がけましょう。
Q: 雇用契約書の写しは従業員に渡す義務がありますか?
A: はい、雇用契約書の内容を記載した書面(写し)を従業員に交付する義務があります。電子交付も可能ですが、従業員の同意が必要です。
Q: 雇用契約書はいつまで保管する必要がありますか?
A: 原則として5年間保管することが義務付けられています。ただし、就業規則などでそれ以上の期間を定めている場合は、それに従ってください。
  
  
  
  