概要: 雇用契約書は、働く上での重要な取り決めを明記する書類です。アルバイト、パート、正社員といった雇用形態ごとに注意すべき点や、契約内容の変更、そして印鑑の有無や種類、押し方まで、雇用契約書に関する疑問を解消します。
雇用契約書の書き方と印鑑の基本を徹底解説!
新しい職場でのスタートや、従業員を迎える際に必ず登場するのが「雇用契約書」です。
しかし、「どんな項目を記載すればいいの?」「印鑑は本当に必要なの?」といった疑問を持つ方も少なくないでしょう。
本記事では、2024年の法改正も踏まえ、雇用契約書の基本から、雇用形態別の注意点、印鑑の取り扱い、そして電子契約の最新動向までを徹底的に解説します。
労使双方が安心して働ける関係を築くために、ぜひ本記事を参考にしてください。
雇用契約書とは?基本のキ
雇用契約書の役割と労働条件通知書との違い
雇用契約書は、労働者と事業主の間で交わされる、労働条件に関する約束事を明確にした文書です。
これは、労働基準法に基づき、事業主が労働者に対して労働条件を明示する義務を果たすための重要な手段となります。
よく似た書類に「労働条件通知書」がありますが、これは企業からの一方的な通知であるのに対し、雇用契約書は労使双方が内容に合意し、その証拠となる書類です。
実務上では、両方の機能を兼ね備えた「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成されることが一般的で、これにより手続きの簡素化が図られています。
雇用契約書を作成することで、賃金や労働時間、休日などの基本的な条件はもちろんのこと、万が一のトラブル発生時にも、双方の権利と義務を明確に参照できるため、円滑な解決に繋がりやすくなります。
まさに、労使間の信頼関係を築く土台となる文書と言えるでしょう。
2024年法改正のポイントと背景
2024年4月1日より、労働条件の明示ルールが改正され、雇用契約書に記載すべき重要事項が増えました。
特に注目すべきは、これまでの「就業場所」と「業務の内容」に加え、「就業場所・業務の変更の範囲」も明示することが義務付けられた点です。
この改正は、従業員が将来的な配置転換や業務内容の変更の可能性について、事前に具体的に理解できるようにすることを目的としています。
例えば、「入社当初はA支店勤務で営業職だが、将来的にB支店への異動や、企画職への配置転換の可能性もある」といった情報を、入社時に明確に伝える必要があります。
これにより、従業員は自身のキャリアプランを立てやすくなり、企業側も将来的な組織変更や人員配置の柔軟性を確保しつつ、従業員との間の認識齟齬を防ぐことができます。
この変更は、現代の多様な働き方やキャリアパスに対応するための、重要な一歩と言えるでしょう。
電子契約の普及とメリット
近年、紙の契約書に代わり、電子契約サービスを導入する企業が急速に増えています。
ある調査(2024年1月の調査)によると、国内企業の電子契約普及率は77.9%にも達しており、これはもはや一般的なビジネスインフラとなりつつあることを示しています。
電子契約の最大のメリットは、その効率性とコスト削減効果です。
紙代や印刷代、郵送費、さらには契約書を保管するための物理的なスペースも不要となり、大幅なコストダウンに繋がります。
また、契約締結までの時間も大幅に短縮され、書類の管理もデータ化されるため容易になります。
さらに、電子契約はテレワークとの相性も抜群です。
場所や時間に制約されることなく契約締結が可能となり、遠隔地の従業員との契約もスムーズに行えます。
プロセスの透明性が向上し、内部統制が強化されるというコンプライアンス上のメリットも無視できません。
電子契約の導入は、企業の生産性向上と持続可能な経営に大きく貢献する現代的な選択肢と言えるでしょう。
雇用形態別!アルバイト・パート・正社員の雇用契約書
正社員の雇用契約書:長期雇用を前提とした設計
正社員の雇用契約書は、原則として期間の定めのない長期雇用を前提として作成されます。
そのため、契約期間の開始日のみを記載し、終了日は定めないのが一般的です。
正社員の雇用契約書では、職務内容の詳細や転勤の可能性、福利厚生に関する規定、そして長期的なキャリアパスに関する事項などを、より具体的に明記することが求められます。
特に、2024年の法改正により義務付けられた「就業場所・業務の変更の範囲」は、将来の配置転換やジョブローテーションを考慮し、広範な可能性を記載しておくことが重要になります。
例えば、「国内外の事業所への転勤の可能性あり」や「会社の定める業務全般」といった記載がこれに該当します。
これにより、会社は将来的な組織変更や事業展開に対して柔軟な対応が可能となり、従業員も自身のキャリアにおける変化の可能性を事前に理解した上で合意することになります。
長期的な視点に立った、詳細かつ包括的な内容が正社員の雇用契約書には必要不可欠です。
アルバイト・パートの雇用契約書:有期雇用と条件の明確化
アルバイトやパートの雇用契約書は、多くの場合、有期雇用契約となります。
そのため、契約期間の開始日と終了日を明確に記載することが最も重要なポイントの一つです。
契約更新の有無や条件についても、具体的に明記し、従業員との認識の齟齬を防ぐ必要があります。
賃金については、時給制が一般的であるため、基本時給に加え、時間外労働や深夜労働、休日労働に対する割増賃金の計算方法や適用条件も詳細に記載します。
また、シフト制で働くことが多いアルバイト・パートの場合、所定労働時間や休憩時間、休日の定め方を、就業規則や個別の労働条件通知書と連動させて明確にすることが重要です。
業務内容や勤務地は、正社員に比べて限定的である場合が多いため、その範囲を具体的に記載し、予期せぬ業務変更や勤務地変更が発生しないよう注意が必要です。
有期雇用の特性を理解し、契約期間、賃金、労働時間、業務内容を具体的に明示することで、労使双方にとって透明性の高い雇用関係を築くことができます。
試用期間・副業兼業に関する記載
雇用契約書には、試用期間に関する規定を設ける場合も多くあります。
試用期間を設定する際は、その期間(例:採用の日から3ヶ月間)や、本採用の条件、期間中の賃金や労働条件が本採用後と異なる場合の具体的な内容を明記する必要があります。
近年増加している副業・兼業についても、雇用契約書または関連する就業規則で明確にしておくことが重要です。
従業員が副業を希望する場合、まずは自社の就業規則で副業に関する規定を確認させることが大切です。
会社によっては、従業員に副業内容などを記載した「副業・兼業に関する届出」の提出を求める届出制を導入している場合もあります。
特に注意が必要なのは、副業・兼業先の労働時間も、一定の条件下で本業の労働時間と通算される場合がある点です。
これにより、割増賃金の支払い義務など、企業側が負う責任が発生する可能性もあるため、副業・兼業を認める場合は、その条件やルールを明確に定めておくことがトラブル防止に繋がります。
雇用契約書に記載すべき必須項目
契約期間と就業場所・業務内容の明示
雇用契約書において、まず最初に明確にすべきは「契約期間」です。
期間の定めがある場合は、開始日と終了日を具体的に記載します。
正社員のように期間の定めがない場合は、開始日のみを記載し、終了日がない旨を明記します。
次に重要なのが「就業場所および従事すべき業務の内容」です。
これは、従業員が実際に勤務する場所(例:本社オフィス、〇〇支店)と、担当する業務内容(例:営業職、経理業務、システム開発)を具体的に記載します。
さらに、2024年4月の法改正により、これらに加えて「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が義務付けられました。
これは、将来的に配置転換や異動、業務内容の変更が発生する可能性がある場合に、その範囲を事前に示すものです。
例えば、「会社の定める全ての事業所および業務」といった包括的な表現や、「〇〇部門のいずれかの業務」といった具体的な範囲を記載することで、労使間の予見性を高め、後のトラブルを未然に防ぐことができます。
賃金と労働時間・休憩・休日に関する詳細
雇用契約書では、「賃金」に関する事項を最も詳細に記載する必要があります。
基本給の金額はもちろんのこと、時間外労働、深夜労働、休日労働に対する割増賃金の計算方法や割合、通勤手当や住宅手当などの各種手当の詳細も具体的に明記します。
また、賃金の支払日、支払方法(銀行振込、手渡しなど)、そして控除される社会保険料や税金についても説明が必要です。
「労働時間、休憩、休日」に関する項目も非常に重要です。
始業時刻と終業時刻、所定労働時間(1日の労働時間)、休憩時間とその取得方法、そして週休2日制や国民の祝日、年末年始休暇などの休日について明確に記載します。
変形労働時間制やフレックスタイム制を導入している場合は、その旨と詳細なルールを記載することが求められます。
これらの項目は、従業員の生活に直結する重要な情報であり、具体的な記載がなければ、誤解や不満の原因となり得ます。
不明瞭な点がなく、誰もが理解できる表現で記述することが不可欠です。
退職・解雇、その他重要な事項
雇用契約書には、労働関係の終了に関する事項も明確に記載しておく必要があります。
具体的には「退職・解雇に関する事項」として、定年年齢の有無、自己都合退職をする場合の会社への通告期限(例:退職希望日の1ヶ月前まで)、そして解雇の理由や条件(試用期間中の解雇を含む)などを明確に記載します。
これにより、万が一の際に、労使双方が取るべき行動が明確になります。
また、「試用期間」を設定する場合は、その期間(例:3ヶ月間)や、試用期間中の労働条件、本採用の条件などを具体的に記載します。
試用期間中の解雇は、本採用後の解雇よりも広い範囲で認められる傾向にありますが、それでも客観的・合理的な理由が必要であり、社会通念上相当でなければなりません。
その他、企業によっては「転勤」の可能性や条件、賞与・退職金の有無と算定方法、健康保険や厚生年金などの社会保険の加入に関する事項なども記載することがあります。
これらの項目を漏れなく、かつ正確に記載することで、後々のトラブルを未然に防ぎ、透明性の高い労使関係を構築することができます。
雇用契約書の印鑑:種類、必要性、そして正しい押し方
印鑑の法的必要性と日本の慣習
雇用契約書において「印鑑(押印)」は、実は法的に必須ではありません。
労働契約は、当事者の「合意」があれば成立するため、印鑑がなくても契約そのものが無効になるわけではないのです。
口頭での合意であっても契約は成立しますが、後々のトラブルを防ぐためには書面で残すことが不可欠です。
しかし、日本ではビジネス慣習として、契約の証拠として書面に押印が行われることが非常に一般的です。
特に重要な契約においては、印鑑が押されていることで、その契約が当事者の意思に基づいて確かに締結されたという「証拠力」が高まると考えられています。
押印は、契約内容の最終確認と合意の意思表示を視覚的に示すものであり、心理的な重みも持ちます。
そのため、法的な義務ではないとはいえ、特に書面で雇用契約を締結する際には、印鑑の使用が推奨されることが多いのが現状です。
電子契約の普及によりこの慣習も変化しつつありますが、紙媒体での契約では依然として重要な役割を担っています。
企業側と従業員側の印鑑の種類と選び方
雇用契約書に押す印鑑には、企業側と従業員側でそれぞれ適切な種類があります。
企業側の印鑑としては、会社の認印としての「角印(社印)」を使用するのが一般的です。
角印は、社名が彫られた四角い印鑑で、日常的な業務における書類や契約書に広く使用されます。
一方で、会社の最も重要な印鑑である「丸印(代表者印、実印)」は、登記されている実印であり、法的な重要性が非常に高いため、厳格な管理が必要です。
そのため、一般的な雇用契約書においては、角印の使用が適しており、丸印を使用することは稀です。
従業員側の印鑑は、認印で問題ありません。
認印とは、役所に登録されていない個人の印鑑のことで、多くの場面で使用されます。
実印を押す必要はなく、ご自身の氏名が彫られた印鑑であれば問題ないとされています。
印鑑を持っていない場合は、後述する代替手段を検討することも可能です。
印鑑の代替手段と電子契約での印鑑不要論
もし印鑑がない、あるいは押印に抵抗がある場合でも、雇用契約は有効に成立します。
印鑑の代替手段としては、まず「署名のみ」でも契約は有効です。
本人が自筆で氏名を記入すれば、それが合意の証拠となります。
さらに証拠力を高めたい場合は、「拇印」や「サイン」も代替手段として検討できます。
これらも本人の意思表示とみなされますが、偽造のリスクなどを考慮すると、やはり印鑑や電子署名の方が証拠力は高いとされます。
そして最も効率的な代替手段として注目されているのが「電子署名」です。
電子契約サービスを利用すれば、雇用契約書に印鑑を物理的に押す必要がなく、電子的な署名やタイムスタンプによって契約の真正性を担保できます。
これにより、契約締結プロセスを大幅に効率化し、前述したようなコスト削減や業務効率化のメリットを享受できるのです。
印鑑の代替手段として、電子署名付きの電子契約は今後ますます主流となっていくでしょう。
雇用契約書の内容変更について
労働条件変更の原則と合意の重要性
雇用契約書に一度記載された労働条件は、原則として労使双方の合意がなければ変更することはできません。
これは、労働契約法第8条で「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められていることからも明らかです。
特に、賃金の引き下げや職務内容の重大な変更など、労働者にとって不利益となる変更(不利益変更)を行う場合は、より慎重な手続きが求められます。
労働者の同意を得ることが大原則であり、もし同意が得られない場合は、就業規則の変更や合理的な理由に基づく変更であることなど、厳しい条件を満たす必要があります。
企業は労働条件を変更しようとする場合、その内容や理由を十分に説明し、労働者の理解と同意を得るための努力を惜しんではなりません。
文書による合意書の作成や、変更後の雇用契約書の再締結など、明確な手続きを踏むことが、後の紛争防止に繋がります。
2024年法改正がもたらす変更の予見性
2024年4月1日の法改正により義務付けられた「就業場所・業務の変更の範囲」の明示は、将来の労働条件変更、特に配置転換やジョブローテーションに対する従業員の予見性を飛躍的に高めるものです。
これにより、入社時に将来起こりうる変化の可能性を具体的に把握できるようになります。
例えば、入社時に「将来的に部署異動や、会社の定める全拠点への転勤の可能性がある」といった記載があれば、従業員はそれを承知の上で雇用契約を締結することになります。
このため、いざ配置転換や異動が命じられた際に、「聞いていない」「納得できない」といった不意の変更によるトラブルが減少することが期待されます。
企業側も、事前に変更の範囲を明示しておくことで、組織変更や事業展開に応じた人員配置がより円滑に進められるようになります。
法改正は、労働条件の変更に関する透明性を向上させ、労使間の健全なコミュニケーションを促進する重要な役割を果たすと言えるでしょう。
副業・兼業を始める際の労働条件変更
副業・兼業を希望する従業員が増える中で、これらが実質的な労働条件の変更に繋がり得る点には注意が必要です。
副業を始める際には、まず自社の就業規則で副業に関する規定を確認し、会社への届出が必要な場合は、適切に手続きを行うことが求められます。
特に重要なのは、副業・兼業先の労働時間も、一定の条件下で本業の労働時間と通算される場合がある点です。
労働基準法上の労働時間は、本業と副業を合算して判断されることがあるため、本業で法定労働時間を超える時間外労働が発生した場合、副業先での労働時間と合算して割増賃金の支払い義務が生じる可能性があります。
企業は従業員から副業・兼業に関する届出を提出させることで、副業の有無や内容、労働時間を把握し、適切な労務管理を行う必要があります。
これにより、従業員の健康状態の悪化や、本業への支障、情報漏洩のリスクなどを未然に防ぎ、労働条件の変更に伴う新たなトラブルを避けることができるのです。
雇用契約書は、労使双方の権利と義務を明確にし、安心して働くための土台となる非常に重要な書類です。
2024年の法改正内容を踏まえ、必要事項を正確に記載することはもちろん、時代とともに変化する働き方や電子契約の普及にも対応していくことが求められます。
本記事が、雇用契約書に関する疑問を解消し、より良い労使関係の構築に役立つことを願っています。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用契約書とは何ですか?
A: 雇用契約書とは、労働者と使用者の間で、労働条件や業務内容などを明記した書面のことです。労働基準法で作成・交付が義務付けられています。
Q: アルバイトの雇用契約書は正社員と違うのですか?
A: 基本的な記載事項は同じですが、アルバイトの場合は特に、労働時間、休憩時間、休日、賃金(時給、支払日)、契約期間などの条件を具体的に明記することが重要です。
Q: 雇用契約書に印鑑は必ず必要ですか?
A: 必ずしも印鑑が必要とは限りませんが、一般的には実印または認印が押印されることが多いです。シャチハタなどのスタンプ印は、耐久性や改ざん防止の観点から避けるべきとされる場合があります。契約内容によっては印鑑が不要なケースもあります。
Q: 雇用契約書の内容を変更したい場合はどうすれば良いですか?
A: 雇用契約書の内容を変更する場合は、原則として双方の合意が必要です。変更内容を明記した新たな雇用契約書を作成するか、変更点を追記した覚書などを交わすことになります。口頭での合意だけでは後々トラブルになる可能性があるため、書面で残すことが重要です。
Q: 雇用契約書に印鑑を押す位置は決まっていますか?
A: 特に法的に定められた位置はありませんが、一般的には署名・捺印欄に、署名とセットで押印するのが一般的です。契約書全体の整合性を保つために、所定の位置に押印するようにしましょう。
