「年俸制」という言葉を聞くと、「高い給料がもらえる」といったポジティブなイメージを抱く方が多いかもしれません。しかし、実際に手にする「手取り額」は、提示された年俸額と大きく異なることがあります。

年俸制は、成果が給与に反映されやすい魅力的な制度である一方で、その仕組みや手取り計算の複雑さから、誤解や予期せぬトラブルにつながることも少なくありません。

この記事では、年俸制における年収と年俸の違いから、手取り額の具体的な計算方法、さらには最新の税制改正情報まで、年俸制で働くあなたが「損しない」ための知識を網羅的に解説します。契約内容の確認から毎月の給与明細チェックまで、ぜひ参考にしてください。

年俸制とは?年収との違いを理解しよう

年俸制は、その名の通り「1年間で支払われる給与額が事前に決まっている」給与形態です。しかし、この「年俸」が、私たちが一般的にイメージする「年収」と全く同じ意味ではないことをご存存じでしょうか?まずは、この基本的な違いをしっかりと理解することから始めましょう。

年俸制と年収の基本的な定義

年俸とは、企業と従業員の間で交わされる雇用契約に基づき、1年間で支払われる基本給の総額を指します。これは多くの場合、前年度の成果や実績、あるいは期待されるパフォーマンスに応じて個別に設定されます。

一方、年収とは、1年間に得られるすべての収入の合計額を意味します。これには年俸はもちろんのこと、年俸とは別に支給される可能性のある賞与(ボーナス)、残業代、通勤手当、さらには副業などで得た収入なども全て含まれます。

つまり、「年俸制」の従業員であっても、年俸額がそのまま年収額となるわけではないのです。年俸額が1,000万円であっても、別途残業代や業績賞与が加算されれば、その年の年収は1,000万円を超えることになります。この違いを理解することが、年俸制の手取りを考える上で非常に重要になります。

ボーナスの有無による年収への影響

年俸制におけるボーナスの扱いは、企業によって大きく異なります。この違いが、年間の総収入、つまり年収に直接的な影響を与えるため、契約時に必ず確認すべきポイントです。

一般的なパターンとしては、以下の2つが挙げられます。

  • 年俸にボーナスが含まれるケース: この場合、提示された年俸額の中に賞与分がすでに含まれています。例えば、年俸1,000万円の場合、これを12分割して毎月約83万円を支給する、あるいは14分割(月額+夏冬の賞与)や16分割(月額+夏冬の賞与+決算賞与など)として支給し、残りを賞与として支払うといった方法があります。この場合、ボーナス月だけ給与が多く見えますが、年俸の総額は変わりません。
  • 年俸とは別にボーナスが支給されるケース: こちらは、年俸はあくまで基本給として固定され、それとは別に業績に応じて「賞与」が支給されるパターンです。この賞与は、会社の業績や個人の成績によって変動し、年俸額に上乗せされる形で年収を構成します。このタイプの場合、年俸額に加えて賞与の額が加わるため、年収は年俸額よりも高くなる可能性が高くなります。

どちらのケースも、社会保険料や税金の控除対象となりますので、支給方法や金額を事前に確認し、年間の手取り額を正しく把握することが大切です。

年俸制で働くメリット・デメリット

年俸制は、特に成果主義が浸透している企業や専門職で多く採用されていますが、そのメリットとデメリットを理解しておくことで、自身のキャリアプランに合致するかどうかを判断する材料となります。

メリット

  • 長期的なライフプランが立てやすい: 1年間の給与額が確定しているため、住宅ローンや教育費など、長期的な支出計画を立てやすくなります。
  • 成果が給与に反映されやすい: 個人の実績や貢献度がダイレクトに翌年度の年俸額に反映されるため、高いモチベーションを維持しやすい環境です。
  • 提示された年収額が保証される: 原則として、契約時に合意した年俸額が1年間保証されます(ただし、契約内容や企業の経営状況による)。
  • 実力が評価されやすい: 年齢や勤続年数よりも個人の能力や実績が重視されるため、実力次第で早期のキャリアアップや高収入が期待できます。

デメリット

  • 成果がすぐに給与に反映されない場合がある: 成果が翌年の年俸査定に影響するため、頑張りがすぐに手取りに結びつかない場合があります。
  • 実績が低い場合、翌年の年俸額が下がる可能性がある: 成果が出なければ、翌年度の年俸が減額されるリスクも伴います。これはモチベーションの低下につながることもあります。
  • 給与額の変動が大きい場合がある: 業績や個人の評価が大きく変動すると、年俸額も大幅に増減する可能性があります。
  • みなし残業代が採用されている場合、サービス残業となる可能性がある: 年俸の中に一定時間分の残業代が含まれている「みなし残業」の場合、その時間を超える残業をしても別途残業代が支払われない、いわゆるサービス残業になってしまうケースもあります。

これらのメリットとデメリットを総合的に考慮し、自身の働き方や価値観に合うかどうかを見極めることが重要です。

年俸制の手取り額、どう計算する?損しないためのポイント

年俸制の提示額は魅力的ですが、実際に手元に残る「手取り額」は、そこからさまざまな控除が差し引かれた金額になります。この計算方法と、控除される項目を理解しておくことが、損しないための第一歩です。

手取り計算の基本(控除項目)

手取り額は、年俸(総支給額)から、大きく分けて税金社会保険料が差し引かれた金額です。これらの控除項目は、法律によって定められており、年俸制であっても一般的な月給制と同じように適用されます。

控除される主な項目は以下の通りです。

  • 税金
    • 所得税: 個人の所得に対して課される国税。年俸額から各種所得控除を差し引いた課税所得に対して、累進課税制度で計算されます。毎月の給与から源泉徴収され、年末調整で最終的な税額が確定します。
    • 住民税: 居住地の都道府県と市区町村に課される地方税。前年の所得に基づいて計算され、今年の6月から翌年5月までの期間で分割して徴収されます。
  • 社会保険料
    • 健康保険料: 医療費や傷病手当金などに充てられる保険料。会社と従業員が折半して負担します。加入している健康保険組合によって料率が異なります。
    • 厚生年金保険料: 将来の年金給付に充てられる保険料。健康保険料と同様に、会社と従業員が折半して負担します。
    • 雇用保険料: 失業手当や育児休業給付金などに充てられる保険料。料率は業種によって異なり、従業員の負担割合は企業よりも少なくなります。
    • 介護保険料: 40歳以上65歳未満の従業員に課される保険料。健康保険料と合わせて徴収され、将来の介護サービス費用に充てられます。

これらの控除項目を一つ一つ理解することで、自身の年俸からどれくらいの金額が差し引かれるのか、おおよその目安を把握することができます。

手取り計算の具体例と目安

実際に年俸制で働く場合、手取り額はどのように計算されるのでしょうか。具体的な年俸額を例に、手取りの目安を見ていきましょう。

例えば、年収1,000万円の場合、手取りは約730万円程度になると試算されています。これは、年収の約7割程度が手取りになるという一般的な目安と合致します。

ただし、この「730万円」という数字はあくまで一例であり、個人の状況によって大きく変動します。変動要因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 扶養家族の有無: 扶養している配偶者や子供がいる場合、扶養控除が適用され、課税所得が減少するため所得税や住民税が安くなります。
  • 加入している健康保険組合: 健康保険料率は、全国健康保険協会(協会けんぽ)か、企業の健康保険組合かによって異なります。健康保険組合の方が料率が低い場合があります。
  • 住んでいる地域: 住民税の均等割額や所得割の税率は全国一律ですが、自治体によっては独自の税率を定めている場合もあります。
  • 社会保険料率の改定: 社会保険料率は毎年見直される可能性があります。
  • その他控除: 生命保険料控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛け金、医療費控除など、さまざまな所得控除や税額控除によって税負担は変わります。

このように、年俸額が同じでも個人の状況によって手取り額は大きく変わるため、自身の具体的な状況を踏まえてシミュレーションを行うことが重要です。

損しないための契約内容・給与明細確認

年俸制で損をしないためには、契約内容の徹底的な確認と、毎月の給与明細の細かなチェックが不可欠です。提示された年俸額が全てではないことを肝に銘じ、賢く対応しましょう。

契約内容の確認

年俸契約を結ぶ際には、以下の点を特に注意して確認してください。

  • 年俸の構成: 年俸額にボーナスや各種手当(住宅手当、役職手当、家族手当、通勤手当など)が含まれているのか、それとも別途支給されるのかを明確にしましょう。特に、基本給とそれ以外の区分が曖昧な場合は、質問して明確な回答を得ることが重要です。
  • 残業代の扱い: 「みなし残業代」が年俸に含まれているのか、含まれている場合は何時間分なのかを確認します。また、みなし残業時間を超えた分の残業代がどのように計算され、支払われるのかも非常に重要です。
  • 年俸の支払い方法: 年俸が12分割で毎月支給されるのか、それとも14分割(夏・冬の賞与含む)や16分割などの形態で支払われるのかを確認してください。分割方法によって、毎月の手取り額が大きく変わってきます。
  • 昇給・降給の条件: 年俸の査定期間、評価基準、昇給・降給の条件についてもしっかりと把握しておきましょう。

給与明細のチェック

毎月支給される給与明細は、上記で確認した契約内容が正しく反映されているかを確認する重要な書類です。以下の点を重点的にチェックしましょう。

  • 総支給額: 契約時に確認した年俸の分割額と一致しているか、手当が正しく加算されているか。
  • 控除額: 所得税、住民税、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険)が正確に計算されているか。特に、社会保険料の標準報酬月額が適切に設定されているかを確認します。
  • 残業代: みなし残業時間を超えた分の残業代が正しく支払われているか。

不明な点や疑問があれば、すぐに会社の担当部署(人事部や経理部)に問い合わせて、説明を求めましょう。自己責任で確認を怠ると、予期せぬ不利益を被る可能性があります。

年俸制で手取りが減る?月払い・当月払いの仕組みと注意点

年俸制は1年間の給与総額が確定している点が魅力ですが、毎月の手取り額は、年俸の分割方法や社会保険料の仕組みによって大きく変動します。特に、月ごとの手取り額が少なく感じられるケースもあり、注意が必要です。

年俸の分割払い方法とその影響

年俸制で合意された年間給与は、一括で支払われることは稀で、通常は毎月の給与として分割して支給されます。この分割方法が、毎月の手取り額に直接的な影響を及ぼします。

代表的な分割方法は以下の通りです。

  • 12分割: 年俸額を12で割り、毎月均等に支給する最もシンプルな方法です。毎月の収入が安定するため、家計管理がしやすいというメリットがあります。
  • 14分割: 年俸額を14で割り、通常の12ヶ月分の給与に加えて、夏と冬にそれぞれ1ヶ月分を「賞与」として支給するパターンです。この場合、賞与月にまとまった金額が入るため一時的な満足感はありますが、通常の月の手取り額は12分割の場合よりも少なくなります。
  • 16分割(またはそれ以上): 14分割と同様に、年俸をより多くの回数で分割し、残りを賞与や業績連動給として支給するケースです。毎月の基本給はさらに少なくなるため、特に注意が必要です。

例えば、年俸600万円の場合、12分割なら毎月50万円が支給されます。しかし、14分割の場合、毎月の支給額は約42.8万円となり、夏と冬にそれぞれ約42.8万円の賞与が支給されます。この差が、毎月の生活費に影響を与えるため、契約時に分割方法をしっかりと確認することが重要です。

社会保険料の計算基準と手取りへの影響

社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険、介護保険)は、手取り額を計算する上で大きな割合を占める控除項目です。年俸制の場合、この社会保険料がどのように計算されるかによって、手取り額に影響が出ることがあります。

社会保険料は、「標準報酬月額」に基づいて計算されます。この標準報酬月額は、原則として4月から6月までの給与の平均額を基に決定され、その年の9月から翌年8月までの社会保険料に適用されます。

年俸制で賞与が含まれる14分割や16分割の場合、賞与月には支給額が増えるため、一見すると社会保険料も高くなるように思えますが、社会保険料計算上の「報酬」には賞与も含まれるため、年間の総報酬額が変わらなければ、最終的に支払う社会保険料の総額はあまり変わりません。

ただし、賞与からは別途「賞与にかかる社会保険料」が控除されるため、賞与月の手取り額は思ったよりも少なく感じるかもしれません。また、年の途中で年俸額が大幅に上がった場合、標準報酬月額が改定される「月額変更届(月変)」によって、社会保険料の負担が増加し、手取りが一時的に減ることもあります。社会保険料は、年俸の総額をベースに計算されるため、年俸が高いほど負担も大きくなります。この仕組みを理解し、年間の社会保険料の目安を把握しておくことが大切です。

みなし残業代の落とし穴と確認ポイント

年俸制の契約において、特に注意が必要なのが「みなし残業代(固定残業代)」の存在です。これは、年俸の中に一定時間分の残業代があらかじめ含まれているという制度です。

みなし残業の仕組み

例えば、「年俸に月40時間分のみなし残業代が含まれる」といった契約の場合、月に40時間までの残業であれば、別途残業代は支給されません。しかし、もし実際の残業時間が40時間を超えた場合、その超過分については会社は別途残業代を支払う義務があります。

注意点と落とし穴

  • サービス残業につながる可能性: みなし残業時間を超えた分の残業代が支払われない、いわゆるサービス残業が横行しているケースが残念ながら存在します。
  • 基本給が低く見える: 年俸総額が高く見えても、その中にかなりの額のみなし残業代が含まれていると、基本給部分が相対的に低く設定されている場合があります。これは、退職金の計算や、万が一の休職時の傷病手当金などに影響する可能性があります。
  • 残業時間の上限確認: 労働基準法では、月45時間、年360時間が残業時間の上限とされています(特別条項付き協定がある場合を除く)。みなし残業時間がこの上限を超えていないかを確認しましょう。

確認ポイント

  • 契約書・就業規則の確認: 契約書や就業規則に、みなし残業の有無、含まれる残業時間数、超過分の計算方法と支払い方法が明記されているかを必ず確認してください。
  • 残業時間の正確な記録: 毎日、自身の残業時間を正確に記録しておくことが重要です。万が一、超過分の残業代が支払われないなどの問題が発生した場合の証拠となります。
  • 疑問点の解消: 契約前に不明な点があれば、人事担当者や上司に質問し、納得いくまで説明を求めるようにしましょう。

みなし残業代は、一見すると年俸が高いように見えるマジックにかかる可能性があります。実態を正確に把握し、不当な労働を強いられないように十分な注意が必要です。

手当は手取りにどう影響する?扶養手当や通勤手当の確認

年俸制であっても、企業によっては基本の年俸額に加えて、各種手当が支給されることがあります。これらの手当は、年間の総収入(年収)と手取り額に影響を与える重要な要素です。手当がどのように扱われるか、税金や社会保険料との関係を理解しておきましょう。

各種手当の年俸への含まれ方と課税・非課税

企業が従業員に支給する手当には様々な種類があり、年俸制の場合、それらが年俸に含まれるのか、それとも年俸とは別に支給されるのかによって扱いが異なります。

年俸に含まれるケース

年俸契約の中で、「基本給+役職手当+住宅手当を含めて年俸〇〇円とする」といった形で、複数の手当が年俸総額に組み込まれている場合があります。

  • 影響: この場合、各手当が個別の項目として給与明細に記載されることは少なく、年俸の一部として扱われます。結果として、年俸総額は高くなりますが、個別の手当として認識されにくい傾向があります。また、ほとんどの含まれる手当は課税対象となり、社会保険料の計算基礎にも含まれます。

年俸とは別に支給されるケース

年俸は基本給として固定され、それとは別に、福利厚生の一環として手当が支給される場合があります。

  • 課税手当: 役職手当、家族手当、住宅手当などは、原則として給与所得として課税対象となり、社会保険料の計算基礎にも含まれることが一般的です。これらの手当は、手取り額を増やす効果はありますが、税金や社会保険料の控除も発生します。
  • 非課税手当: 一部の手当は、一定の要件を満たす場合に非課税となります。最も一般的なのが「通勤手当」です。非課税手当は、税金や社会保険料の対象外となるため、手取り額を実質的に増やす効果が非常に大きいと言えます。

自身の契約でどのような手当があり、それが課税対象なのか非課税なのかを事前に確認することが、手取り額を正確に把握するために不可欠です。

扶養手当、家族手当と税金・社会保険料

扶養手当や家族手当は、従業員が扶養している家族がいる場合に支給される手当で、福利厚生の一環として多くの企業で導入されています。これらの手当は、基本的に課税対象となり、社会保険料の算定基礎にも含まれることが多いです。

税金への影響

扶養手当や家族手当は、従業員の所得として扱われるため、所得税や住民税の課税対象となります。これにより、年俸額が同じであっても、これらの手当が加算されることで課税所得が増え、結果として税負担が増える可能性があります。

ただし、扶養している家族がいることで適用される「扶養控除」とは別の制度です。扶養手当は会社が任意で支給する手当であり、扶養控除は税法上の制度です。これらを混同しないよう注意が必要です。扶養控除が適用されることで、税負担は軽減されますが、これは手当とは直接関係ありません。

社会保険料への影響

ほとんどの扶養手当や家族手当は、社会保険料(健康保険、厚生年金など)の計算の基礎となる「報酬」に含まれます。これにより、支給される手当の額に応じて標準報酬月額が上がり、それに伴い社会保険料の負担額も増加します。

結果として、手当が支給されて総支給額が増えたとしても、その分税金や社会保険料も増えるため、手当額の全てがそのまま手取りに加算されるわけではありません。自身の年俸契約において扶養手当や家族手当がある場合は、その金額と、それによって増える税金・社会保険料の額を把握し、最終的な手取り額への影響を計算してみることが賢明です。

通勤手当など非課税手当の扱いと確認方法

手当の中でも、特に手取りを増やす効果が高いのが非課税手当です。通勤手当はその代表的な例であり、他にも一定の要件を満たせば非課税となる手当があります。これらの非課税手当は、税金や社会保険料の計算対象外となるため、支給された全額がそのまま手取りに加算されることになります。

非課税通勤手当

通勤手当は、所得税法によって一定の限度額までは非課税とされています。

  • 限度額: 公共交通機関を利用する場合、1ヶ月あたり15万円までが非課税限度額とされています。自家用車や自転車を利用する場合も、通勤距離に応じた非課税限度額が設定されています。
  • 恩恵: この非課税限度額内であれば、通勤手当がどれだけ支給されても、所得税、住民税、社会保険料の全てが控除されません。これは、年俸制の給与から直接控除される他の費用と異なり、手取り額を効率的に増やす非常に大きなメリットです。

その他の非課税手当

通勤手当以外にも、以下のような手当が非課税となる場合があります。

  • 出張旅費: 業務のための出張で支給される宿泊費や交通費など、実費精算されるものは、通常非課税です。
  • 単身赴任手当・転居費用: 会社命令による転勤や単身赴任に伴う費用も、一定の範囲内で非課税となることがあります。

確認方法

これらの非課税手当が自身の年俸契約に含まれているか、または別途支給されるのかは、以下の方法で確認しましょう。

  • 雇用契約書・就業規則: 最も重要なのは、契約書や会社の就業規則に、各手当の支給条件や金額、課税・非課税の扱いが明記されているかを確認することです。
  • 給与明細: 毎月の給与明細には、課税支給額と非課税支給額が明確に区分されて記載されています。非課税通勤手当などが正しく計上されているかを確認してください。
  • 人事担当者への確認: 不明な点があれば、遠慮なく人事担当者に問い合わせて、詳細な説明を求めましょう。

非課税手当は、年俸制の手取りを最大限に活用するために非常に重要な要素です。しっかりと確認し、自身の働き方に合わせて有効活用することが求められます。

年俸制の標準報酬月額と年金、月変の基本

年俸制で働く場合、年間の給与額は決まっていますが、社会保険料の算定基準となる「標準報酬月額」の決定方法や、それが年金にどう影響するのかを理解することは非常に重要です。また、給与変動に伴う「月額変更届(月変)」の仕組みも知っておくことで、手取り額の変化に戸惑わずに済みます。

標準報酬月額の決定方法と年金への影響

社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は、毎月の給与から控除されますが、その計算の基礎となるのが「標準報酬月額」です。これは、毎月の給与額をキリの良い幅で区分した等級表に当てはめた金額です。

標準報酬月額の決定方法

年俸制の場合でも、原則として毎年4月・5月・6月の3ヶ月間の給与(基本給のほか、残業手当や通勤手当、役職手当などの各種手当を含む、税引前の総支給額)の平均額を計算し、それを基に標準報酬月額が決定されます。

  • この決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間適用されます。
  • 年俸制で賞与が含まれる場合(例:14分割)、賞与月を除く4月~6月の給与額が基になるため、毎月の基本給が低いと標準報酬月額も低めに決定されることがあります。ただし、賞与からは別途「標準賞与額」に基づいた社会保険料が控除されます。

年金への影響

厚生年金保険料は、この標準報酬月額に保険料率をかけて計算されます。つまり、標準報酬月額が高いほど、支払う厚生年金保険料も高くなり、将来受け取る厚生年金の額(報酬比例部分)も増えることになります。

  • 年俸制で高収入を得ている場合、その分多くの厚生年金保険料を納めることになり、老後の年金受給額にも良い影響が期待できます。
  • ただし、標準報酬月額には上限が設けられており、どんなに年収が高くても、その上限を超える部分には保険料がかかりません。

自身の標準報酬月額がどの等級に該当し、どれくらいの保険料を支払っているのかを給与明細で確認し、将来の年金受給額の目安として把握しておくことが大切です。

月額変更届(月変)の仕組みと注意点

年に一度の標準報酬月額の見直し(定時決定)以外にも、給与額が大幅に変動した場合には、「月額変更届(月変)」によって標準報酬月額が途中で改定されることがあります。

月額変更届の仕組み

月額変更届は、昇給や降給、手当の変動などにより、固定的賃金(基本給や毎月決まって支給される手当など)に大幅な変動があった場合に提出されます。

  • 変動後3ヶ月間の平均給与額が、以前の標準報酬月額と比べて、2等級以上の差が生じた場合に、会社が年金事務所に提出します。
  • 月額変更届が受理されると、その変動のあった月の4ヶ月目から、新しい標準報酬月額が適用され、社会保険料が改定されます。

例えば、4月に昇給して給与が大幅に上がった場合、4月・5月・6月の給与を基に月額変更届が提出され、7月から新しい標準報酬月額が適用される、といった流れになります。

注意点

  • 手取り額の変化: 昇給によって標準報酬月額が上がれば、社会保険料も増えるため、手取り額は給与の増加分より少なくなることがあります。逆に降給の場合は、社会保険料が減ることで手取り額の減少を若干抑えることができます。
  • いつから適用されるか: 月額変更届による標準報酬月額の変更は、変動後すぐに適用されるわけではなく、数ヶ月のタイムラグがあります。自身の給与変動がいつから手取りに影響するかを把握しておきましょう。
  • 会社側の手続き: 月額変更届の提出は会社が行うため、給与が大きく変動した場合は、会社が適切に手続きを行っているかを確認することも重要です。

年俸制の場合、年度途中に年俸が見直されることは稀ですが、成果に応じた手当が変動したり、役職変更などがあったりする場合には、この月額変更届の対象となる可能性があります。

「年収の壁」と最新の税制改正動向

「年収の壁」は、特に扶養内で働く配偶者や家族がいる場合に、手取り額や社会保険の適用に大きな影響を与える重要なテーマです。近年、この「年収の壁」に関する税制改正や社会保険制度の見直しが活発に行われています。

「年収の壁」とは

「年収の壁」とは、扶養者の配偶者などが特定の年収額を超えると、扶養から外れて社会保険料や税金の負担が生じる境目のことです。代表的な壁として、以下のようなものがあります。

  • 103万円の壁: 所得税の扶養控除が適用されなくなる(パート収入の場合)。
  • 106万円の壁: 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が発生する(企業の規模や労働時間などの条件による)。
  • 130万円の壁: 配偶者などの社会保険の扶養から外れる。
  • 150万円の壁: 配偶者特別控除の満額が適用されなくなる。
  • 201万円の壁: 配偶者特別控除が完全に適用されなくなる。

年俸制で高収入を得ている方が、配偶者を扶養に入れている場合、配偶者の年収がこれらの壁を超えないように調整することは、世帯全体の手取りを最大化する上で重要です。

最新の税制改正動向

参考情報にもある通り、2025年度(令和7年度)の年末調整から、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられます。これは、給与所得者の課税所得が減少する効果があり、特に年収が低い層の手取りが増える可能性があります。

また、2025年3月の税制改正では、「年収の壁」に関する制度変更も行われています。具体的には、基礎控除額の引き上げや、特定の親族がいる場合に税負担を軽減する「特定親族制度」の創設などが検討されています。これらの変更は、世帯の手取り計算に影響を与えるため、最新の情報を常にチェックし、自身の家庭にどのように影響するかを把握しておくことが重要です。

年俸制で働く自身だけでなく、家族全体の収入と控除のバランスを考慮し、最適な働き方や節税対策を検討することをおすすめします。