概要: 本記事では、近年注目されている勤務間インターバル制度について、その目的や努力義務、最新の導入状況を解説します。さらに、制度導入によるメリット・デメリット、具体的な運用方法、そして助成金や罰則についても詳しくご紹介します。
勤務間インターバル制度の導入状況とメリット・デメリットを徹底解説
働き方改革が推進される中で、従業員の健康維持と生産性向上を両立させるための制度として注目されているのが「勤務間インターバル制度」です。
しかし、その導入状況は依然として低い水準にとどまっており、多くの企業が制度のメリットやデメリット、具体的な導入方法について情報を求めています。
この記事では、勤務間インターバル制度の基本的な解説から、最新の導入状況、企業が直面するメリット・デメリット、そして具体的な導入・運用方法や活用できる助成金まで、徹底的に解説していきます。
勤務間インターバル制度とは?目的と努力義務について
制度の基本的な定義と目的
勤務間インターバル制度とは、「1日の勤務終了後、翌日の始業までに一定時間以上の休息時間を設ける制度」のことです。
例えば、「終業時刻から翌日の始業時刻まで最低9時間以上の休息時間を確保する」といったルールを企業が定めることで、従業員は仕事から離れ、心身をリフレッシュする時間を確保できます。
この制度の最も重要な目的は、従業員の健康維持・増進です。過度な労働による疲労の蓄積を防ぎ、脳・心臓疾患などの健康リスクを低減することを目指しています。
さらに、十分な休息は従業員の集中力やモチベーションを高め、結果として生産性や業務効率の向上にも繋がると考えられています。
努力義務化の背景と意義
勤務間インターバル制度は、2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」により、企業の努力義務として位置づけられました。
これは、長時間労働の是正や過労死の防止といった社会的な課題への対策として、政府がその普及を強く推奨しているためです。
努力義務化の背景には、欧州諸国などで既に導入されている勤務間インターバル制度が、労働者の健康保護に効果を上げている実績があります。
日本においても、労働者がプライベートの時間を確保し、ワークライフバランスを向上させることで、より働きがいのある社会を実現する重要な手段とされています。
他の労働時間規制との違い
勤務間インターバル制度は、労働基準法で定められている「時間外労働の上限規制」や「週40時間労働」などの制度とは異なる視点から労働時間を規制します。
時間外労働の上限規制が「総労働時間」に着目し、残業時間を制限するのに対し、勤務間インターバル制度は「休息時間」に着目し、次の勤務までの間に十分なインターバルを設けることを重視します。
これにより、たとえ残業時間が法定内であっても、連日の長時間勤務が続くことで休息が不十分になる状況を防ぐことが可能です。
両制度はそれぞれ異なるアプローチで労働者の健康と生活を守るためのものであり、組み合わせることでより包括的な労働環境改善が期待されます。
勤務間インターバル制度の導入状況と現状
最新の導入率と政府目標
勤務間インターバル制度は企業の努力義務とされてから数年が経ちますが、導入率は依然として低い水準にとどまっています。
厚生労働省の調査によると、2023年時点での導入率は6.0%でした。これは前年の5.8%からわずかに上昇したものの、政府が掲げる目標には遠く及ばない現状です。
政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の中で、以下の目標を設定しています。
- 2025年までに、常用労働者30人以上の企業での導入率を15%以上に
 - 2028年までに、常用労働者30人以上の企業での導入率を15%以上、制度を知らない企業割合を5%未満に
 
これらの目標達成のためには、今後さらなる制度の周知と導入促進が不可欠となります。
制度認知度の課題
導入率が伸び悩む要因の一つとして、制度自体の認知度の低さが挙げられます。
2023年の調査では、常用労働者30人以上の民営企業のうち、19.2%が「制度を知らなかった」と回答しています。
これは、約5社に1社が制度の存在自体を認識していない状況を示しており、制度の重要性やメリットが十分に企業に伝わっていないことが大きな課題です。
特に中小企業においては、情報収集の機会や専門知識を持つ人材が限られるため、制度への理解が進みにくい傾向にあります。
政府は認知度向上を目標に掲げていますが、企業側も自主的に情報収集に努め、制度への理解を深めることが求められます。
中小企業における導入の壁
勤務間インターバル制度の導入には、就業規則の改定、業務フローの見直し、人員配置の調整など、一定の労力とコストがかかる場合があります。
これらの負担は、特に経営資源が限られる中小企業にとって大きな導入の壁となっています。
大企業に比べて人員に余裕がなく、特定の従業員に業務が集中しがちな中小企業では、インターバル時間の確保が困難なケースも少なくありません。
また、制度導入に関するノウハウや情報が不足していることも、中小企業が二の足を踏む要因となっています。
政府は中小企業向けの助成金制度などを設けていますが、これらの支援策がより広く活用されるような周知徹底と、個別の企業実情に合わせたきめ細やかなサポートが今後の課題と言えるでしょう。
勤務間インターバル制度導入のメリット・デメリット
導入による従業員と企業へのメリット
勤務間インターバル制度の導入は、従業員と企業双方に多くのメリットをもたらします。
まず、従業員にとっては、健康維持・増進に直結します。十分な休息時間の確保は、疲労の蓄積を防ぎ、脳・心臓疾患などの健康リスクを低減する効果が期待できます。
また、プライベートな時間を充実させることでワークライフバランスが向上し、従業員の満足度やエンゲージメントが高まります。
企業側にとっても、リフレッシュした状態で業務に取り組む従業員の生産性・効率の向上は大きなメリットです。集中力やモチベーションが高まることで、ミス削減や創造性の向上に繋がる可能性があります。
さらに、健康経営や働きやすい職場環境を重視する企業としてのアピールは、優秀な人材の確保・定着に寄与し、企業の競争力強化にも繋がります。
加えて、企業が従業員の健康と安全に配慮する義務である安全配慮義務の履行という観点からも、制度導入は非常に有効な手段です。
企業が直面するデメリットと課題
一方で、勤務間インターバル制度の導入には、企業が直面するデメリットや課題も存在します。
最も懸念されるのは、「残業が評価される」文化のある企業での形骸化です。制度を導入しても、実態として残業が美徳とされる企業文化が残っている場合、実質的な効果が得られない可能性があります。
また、制度導入に伴い、一時的な業務フローの見直しや体制構築が必要となるケースが多く、これには時間とコストがかかります。
終業時刻を早めるために、業務を自宅に持ち帰って行う「持ち帰り残業」が発生してしまう可能性も指摘されています。これでは制度導入の本来の目的が達成されません。
さらに、業務が集中する繁忙期には、インターバル時間の確保が困難になるという課題もあります。業種や職種によっては、顧客対応などで時間の確保が難しい場合もあるでしょう。
最近ではテレワークの普及により、勤務時間の境界が曖昧になり、制度の適用や管理が難しくなるケースも指摘されており、新たな運用方法の検討が求められています。
実質的な効果を発揮するためのポイント
勤務間インターバル制度を導入し、その実質的な効果を最大化するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、単に制度を導入するだけでなく、経営層から従業員まで、制度の目的と意義を深く理解し、浸透させることが不可欠です。
特に、「残業が評価される」ような企業文化がある場合は、人事評価制度や業務慣行の見直しを含めた企業文化の変革に踏み込む必要があります。
具体的な運用においては、業務量の平準化や効率化に向けた取り組みが重要です。不要な会議を削減したり、ITツールを活用して業務を自動化・効率化することで、インターバルを確保しやすくなります。
また、持ち帰り残業を防止するためには、業務の持ち帰り原則禁止を徹底し、万が一発生した場合には適切な労働時間として管理・支給する仕組みが必要です。
繁忙期や突発的な業務に対応するためには、人員配置の見直しや複数人での業務分担、あるいは代替要員の確保なども検討し、無理なく制度を運用できる体制を構築することが肝要です。
勤務間インターバル制度の具体的な導入・運用方法
制度導入前の準備と検討事項
勤務間インターバル制度を効果的に導入するためには、事前の綿密な準備が不可欠です。
まず、企業は自社の労働実態を正確に把握する必要があります。現状の労働時間、残業の発生状況、特にインターバル確保が難しい部署や業務などを詳細に分析します。
次に、インターバル時間の設定を検討します。推奨されるのは9時間や11時間ですが、企業の業務特性に合わせて現実的な時間を設定することが重要です。
同時に、制度の対象となる従業員の範囲や、やむを得ない場合の適用除外(例外)規定についても明確にしておく必要があります。
これらの検討結果を踏まえ、就業規則の改定を行い、労働組合や従業員代表との協議を経て、労使協定を締結することが一般的です。これにより、制度導入の法的根拠と合意形成がなされます。
従業員への十分な説明と周知も欠かせません。制度の目的、具体的なルール、期待される効果などを丁寧に伝え、理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
効果的な運用と業務フローの見直し
制度を導入しただけでは、その効果を十分に発揮できません。効果的な運用のためには、業務フローの根本的な見直しが求められます。
例えば、日々の業務においては、優先順位付けの徹底や会議時間の短縮、メールやチャットの利用ルールの明確化などにより、無駄な時間を削減します。
また、ITツールを活用した業務の自動化や効率化も有効な手段です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入や、プロジェクト管理ツールの活用などが挙げられます。
特定の業務が特定の従業員に集中しないよう、業務の属人化を解消し、複数人で対応できる体制を構築することも重要です。
加えて、管理職がインターバル時間を意識した適切な業務指示を行い、従業員が終業時刻を意識して業務を終えられるようサポートする役割も大きいです。
定期的な制度の効果測定と見直しを行い、従業員の意見も取り入れながら、より実情に合った運用へと改善していくPDCAサイクルを回すことが重要です。
テレワーク環境での適用と課題解決
テレワークの普及は、勤務間インターバル制度の適用において新たな課題を生み出しています。
自宅での勤務では、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすく、実質的な休息時間が確保されにくいという問題があります。
これを解決するためには、まず労働時間の管理をより厳格に行うことが必要です。PCのログオン・ログオフ時間、業務システムの利用状況などを活用し、客観的な労働時間を把握します。
また、テレワークにおける始業・終業時刻を明確化し、その時間外での業務連絡を原則禁止するなど、企業側の働きかけも重要です。
従業員に対しても、セルフマネジメントの意識を高める研修や、仕事から離れるための具体的な方法(例えば、特定の時間以降はPCをシャットダウンするなど)を伝えることが有効です。
定期的なオンライン面談やアンケートを通じて、テレワークにおける従業員の勤務状況や健康状態を把握し、個別の状況に応じたサポートを行うことも求められます。
テレワークはメリットも多いですが、インターバル制度を機能させるためには、より丁寧な運用設計と従業員への働きかけが不可欠です。
勤務間インターバル制度導入を後押しする助成金と罰則
働き方改革推進支援助成金の活用
政府は、勤務間インターバル制度の導入を促進するため、特に中小企業を対象とした助成金制度を設けています。
その代表的なものが「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」です。この助成金は、新規導入や、既に導入している場合でもより長いインターバル時間へ延長する企業を支援するものです。
助成対象となるのは、労務管理用機器の導入費用、人材確保のための費用、労務管理コンサルタント費用、就業規則作成費用など、制度導入にかかる幅広い経費です。
助成金を活用することで、企業は制度導入に伴う経済的な負担を軽減し、よりスムーズに働き方改革を進めることができます。
申請には一定の要件や手続きが必要ですが、厚生労働省のウェブサイトや各都道府県の労働局で詳細を確認し、積極的に活用を検討することをお勧めします。
労働局による相談・支援体制
勤務間インターバル制度の導入や運用に関して、企業が抱える疑問や課題を解決するため、国による相談・支援体制が整備されています。
厚生労働省は「働き方・休み方改善ポータルサイト」を通じて、制度の概要や導入事例、助成金情報などを提供しています。
また、各都道府県の労働局には「働き方・休み方改善コンサルタント」が配置されており、企業の実情に応じた具体的なアドバイスや支援を受けることが可能です。
これらのコンサルタントは、就業規則の改定方法、業務フローの見直し、従業員への説明方法など、多岐にわたる相談に対応し、企業の円滑な制度導入をサポートします。
特に中小企業にとっては、専門家からのアドバイスは貴重なリソースとなるため、これらの相談窓口を積極的に利用することが推奨されます。
労災認定基準と今後の展望
勤務間インターバル制度は現時点では努力義務ですが、その重要性は法的な側面からも示唆されています。
2021年には、脳・心臓疾患の労災認定基準に「勤務間インターバルが短い勤務」が追加されました。
これは、勤務間インターバルが十分に確保されていない状況が、過労による健康被害に繋がるリスクとして明確に認識されたことを意味します。
企業が勤務間インターバル制度を導入しない場合でも直ちに罰則があるわけではありませんが、従業員の健康を害する事態が発生した場合、安全配慮義務違反として企業の責任が問われる可能性が高まります。
政府は導入率目標を掲げており、今後の社会情勢や労働者の意識の変化によっては、将来的に義務化への動きが進む可能性も十分に考えられます。
企業としては、努力義務に留まらず、積極的に制度導入を進め、従業員の健康と働きがいを両立させる「健康経営」の一環として捉えることが、持続可能な企業成長に繋がるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 勤務間インターバル制度とは何ですか?
A: 勤務間インターバル制度とは、労働者が次の仕事を開始するまでに、一定の休息時間を確保することを義務付ける制度です。これにより、過重労働による健康障害を防ぎ、ワークライフバランスを改善することを目的としています。
Q: 勤務間インターバル制度の「努力義務」とはどういう意味ですか?
A: 勤務間インターバル制度は、現時点では法的な「義務」ではなく「努力義務」とされています。これは、企業に対して制度導入を奨励するものの、違反しても直ちに罰則があるわけではない、という意味です。ただし、将来的には義務化される可能性も指摘されています。
Q: 勤務間インターバル制度を導入するメリットは何ですか?
A: 主なメリットは、従業員の健康増進、疲労軽減による生産性向上、離職率の低下、企業イメージの向上などが挙げられます。また、ワークライフバランスの改善により、従業員のモチベーション向上も期待できます。
Q: 勤務間インターバル制度を導入するデメリットや注意点はありますか?
A: デメリットとしては、シフト制の勤務や多忙な業界では導入が難しい場合があること、制度導入・運用にかかるコスト、従業員間の公平性の問題などが考えられます。また、就業規則への明記など、事前の準備が必要です。
Q: 勤務間インターバル制度の推奨される休息時間は何時間ですか?
A: 現在、推奨されているのは「9時間」ですが、より効果的な健康管理や疲労回復のためには「11時間」以上の休息時間を確保することが望ましいとされています。
  
  
  
  