近年、働き方改革の推進とともに注目を集めている「勤務間インターバル制度」。労働者の健康維持や生産性向上に寄与するこの制度は、海外ではすでに広く義務化されていますが、日本ではまだ導入途上にあります。この記事では、勤務間インターバル制度の基本的な理解から、海外の動向、そして日本での効果的な導入・活用法までを詳しく解説します。持続可能な働き方を実現するためのヒントを見つけましょう。

  1. 勤務間インターバル制度とは?基本の理解
    1. 制度の定義とその目的
    2. 日本における法的位置づけと現状
    3. 制度導入がもたらす企業と従業員双方のメリット
  2. 海外(EU)における勤務間インターバル制度の現状
    1. EU労働時間指令による義務化
    2. 主要国の具体的な制度と事例
    3. 海外の制度から学ぶ日本の課題と示唆
  3. 日本での勤務間インターバル制度導入のポイント
    1. 導入ステップと適切な制度設計
    2. 導入を阻む課題への対応策
    3. 国や自治体の支援制度の活用
  4. フレックスタイム制との連携と副業への影響
    1. フレックスタイム制との相乗効果
    2. 副業・兼業を行う従業員への影響と配慮
    3. 「つながらない権利」との関連性
  5. 出張や地域ごとの導入事例:愛知県・岡山県などを中心に
    1. 出張が多い職種での適用と工夫
    2. 愛知県・岡山県など先進地域の取り組み
    3. 地方企業における導入の現状と期待
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 勤務間インターバル制度とは何ですか?
    2. Q: EUでは勤務間インターバル制度はどのように導入されていますか?
    3. Q: 日本で勤務間インターバル制度を導入するメリットは何ですか?
    4. Q: 勤務間インターバル制度は、フレックスタイム制や副業とどう関係しますか?
    5. Q: 愛知県や岡山県など、地域ごとの勤務間インターバル制度の導入状況について教えてください。

勤務間インターバル制度とは?基本の理解

制度の定義とその目的

勤務間インターバル制度とは、労働者の心身の健康維持と過重労働の防止を目的として、1日の勤務終了後から翌日の始業時までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設ける制度です。

この制度の核となるのは、労働者が仕事から完全に離れ、十分な睡眠や生活時間を確保すること。これにより、疲労回復やストレス軽減が図られ、仕事と私生活のバランス、すなわちワーク・ライフ・バランスの向上が期待されます。

OECDの調査によると、日本人の平均睡眠時間は加盟国中最下位であり、睡眠不足による経済損失も試算されています。このような現状において、勤務間インターバル制度は、単なる休息時間の確保にとどまらず、労働者の健康増進、ひいては企業全体の生産性向上にも不可欠な要素として注目されています。

従業員が十分な休息を取ることで、集中力や判断力が高まり、ミスの減少や作業効率の向上につながるため、企業にとっても長期的なメリットは大きいと言えるでしょう。

日本における法的位置づけと現状

日本では、2018年に成立した働き方改革関連法により、2019年4月から勤務間インターバル制度が「努力義務」として位置づけられました。これは、企業に対し、制度の導入を「努力するよう努める」ことを求めるもので、法的な強制力はありません。

この「努力義務」という位置づけが影響してか、制度の導入率は依然として低いのが現状です。2024年時点(令和6年就労条件総合調査)で、常用労働者数30人以上の企業における導入率はわずか6.0%に留まっています。

さらに、「導入予定はなく、検討もしていない」と回答した企業が81.5%にも上り、その理由として最も多いのが「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じない」(53.5%)でした。次いで「制度を知らなかった」(19.2%)という認知度の低さも課題として浮上しています。

政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で、2028年までに導入企業割合を15%以上、制度を知らなかった企業割合を5%未満とする目標を掲げていますが、現状はこの目標値から大きく乖離しています。

制度導入がもたらす企業と従業員双方のメリット

勤務間インターバル制度の導入は、企業と従業員の双方に多岐にわたるメリットをもたらします。

まず、従業員の健康維持・向上という点が挙げられます。十分な休息時間は、ストレス反応の軽減や疲労回復を促進し、心身の健康を保つ上で極めて重要です。

次に、生産性の向上です。疲労が軽減されることで、従業員の集中力や作業効率が向上し、結果として業務の質が高まり、ヒューマンエラーの減少にも繋がります。

さらに、従業員の定着・確保にも効果的です。ワーク・ライフ・バランスが重視される現代において、働きやすい環境は従業員満足度を高め、優秀な人材の離職率低下や新たな人材の獲得に貢献します。

企業側のリスク低減という側面も見逃せません。過労死などの労災認定事案において、「勤務間インターバルが短い勤務」は主要な要因の一つとされています。制度を導入することで、このような労災リスクや訴訟リスクを低減し、企業の社会的責任(CSR)を果たすことにも繋がります。

具体的なメリットをまとめると以下の通りです。

  • 心身の健康維持・増進とストレス軽減
  • 集中力・作業効率向上による生産性アップ
  • ワーク・ライフ・バランスの実現による従業員満足度向上
  • 離職率低下と優秀な人材の定着・確保
  • 過労死等の労災リスク、企業訴訟リスクの低減
  • 企業イメージの向上とブランディング

海外(EU)における勤務間インターバル制度の現状

EU労働時間指令による義務化

勤務間インターバル制度は、海外、特にEU諸国において、その重要性が高く認識され、法的に義務化されています。

その根拠となっているのは、1993年に制定されたEU労働時間指令です。この指令に基づき、EU加盟国では原則として「24時間につき11時間の休息期間付与」が労働者に対して義務付けられています。

この指令は、労働者の健康と安全を保護し、十分な休息を確保することを目的としています。加盟国によっては、さらに基準を超える休息時間を設けている場合もあります。例えば、ギリシャやスペインでは12時間の休息時間が義務付けられており、労働者保護への意識の高さがうかがえます。

EUの多くの国々では、労働者の権利として休息が保障されており、これが労働環境全体の質の向上に寄与していると考えられます。

主要国の具体的な制度と事例

EU労働時間指令の影響は広く、多くの国で具体的な法制度に落とし込まれています。

例えば、イギリスはEUを離脱しましたが、現在もEU指令と同様に「11時間の休息付与」を定めた法律があり、状況に応じて代替措置も設けられています。

フランスでは、1日11時間の休息が義務付けられているほか、法定労働時間は週35時間と定められており、時間外労働を含めても週48時間の上限が設定されています。これらの厳格なルールは、フランスの労働文化において「仕事以外の時間」がどれほど重視されているかを示しています。

一方で、アメリカでは、連邦レベルでの勤務間インターバル制度の法制化は進んでいません。しかし、ニューヨーク市で条例案が提出されるなど、大都市を中心に休息確保の重要性が議論されており、今後の動向が注目されます。

これらの海外の事例から、休息確保が国際的な労働基準として認識されつつあることが分かります。

海外の制度から学ぶ日本の課題と示唆

海外の制度と比較すると、日本の勤務間インターバル制度は「努力義務」という位置づけであり、導入率の低さも相まって大きなギャップがあることが明らかです。

EU諸国のように休息時間を法的に義務化することで、企業は必然的に業務フローや人員配置の見直しを迫られ、結果的に労働者の健康保護と生産性向上を両立させる仕組みを構築しています。

この違いは、日本の企業が制度の必要性を感じる機会が少ないこと、あるいは制度自体を知らないこと、といった根本的な課題に繋がっています。

海外の事例から学ぶべきは、単に休息時間を義務化するだけでなく、労働者の心身の健康が企業活動の持続可能性に直結するという考え方を組織全体で共有することの重要性です。

また、海外では「つながらない権利」(勤務時間外に仕事関連の連絡に応答する義務を負わない権利)も議論されており、勤務間インターバル制度と合わせて、労働時間外の自由な時間を保障する動きが加速しています。

日本が今後、国際的なスタンダードに近づき、より持続可能な社会を築くためには、こうした海外の先進的な取り組みを参考にし、制度の義務化も含めた抜本的な検討が必要となるでしょう。

日本での勤務間インターバル制度導入のポイント

導入ステップと適切な制度設計

日本で勤務間インターバル制度を導入する際、最も重要なのは、自社の実情に合わせた適切な制度設計を行うことです。

まず、現状の残業状況や業務フローを詳細に把握し、制度導入によってどのような影響があるかを評価します。その上で、厚生労働省が推奨する「9時間以上のインターバル」という目安を参考にしつつ、自社の業種や業務内容、従業員のニーズを考慮して、最適なインターバル時間を設定します。

導入にあたっては、就業規則の変更や、労働者代表との労使協定の締結が必要となる場合があります。制度の具体的な適用対象者、例外規定(緊急時など)、違反時の対応などを明確に定めることが不可欠です。

また、いきなり全社導入が難しい場合は、特定の部署や期間でパイロット導入を行い、その効果と課題を検証しながら、段階的に適用範囲を広げていく方法も有効です。

制度設計の際には、以下のポイントを検討しましょう。

  • インターバル時間の設定(例:9時間、11時間など)
  • 適用対象者(全従業員、特定の部署や職種など)
  • 例外規定(緊急対応、災害時など)
  • 制度違反時の対応
  • 労使協定の内容
  • 勤怠管理システムの改修

導入を阻む課題への対応策

勤務間インターバル制度の導入には、いくつかの課題が伴いますが、これらには具体的な対応策が存在します。

最大の課題の一つである導入率の低さや認知度不足に対しては、国や地方自治体の提供する情報や支援を積極的に活用することが重要です。厚生労働省は「働き方・休み方改善ポータルサイト」を通じて、制度の周知や導入事例の紹介、企業向けの無料相談窓口を設けています。

また、中小企業を対象とした助成金制度も用意されており、導入コストの障壁を軽減できます。制度導入に伴う業務フロー・体制の見直しは避けられませんが、これは業務効率化のチャンスでもあります。

例えば、ICTツールの導入によるペーパーレス化や自動化、業務のアウトソーシングなどを検討し、長時間労働を前提としない体制を構築することが求められます。

テレワークの普及による勤務時間の境界の曖昧化も課題ですが、これには明確な就業規則の整備と勤務スケジュールの適正管理が不可欠です。

例えば、テレワーク中の休憩時間や終業時刻を明確にし、従業員が勤務時間外に業務連絡に対応しない「つながらない権利」を尊重する文化を醸成することも重要です。</

国や自治体の支援制度の活用

勤務間インターバル制度の導入を検討している企業、特に中小企業にとっては、国や自治体が提供する支援制度を最大限に活用することが成功の鍵となります。

厚生労働省では、働き方改革に取り組む中小企業を支援するための「働き方改革推進支援助成金」を設けており、勤務間インターバル制度の導入・運用に必要な経費の一部を補助しています。

この助成金は、インターバル導入に向けた機器導入費用や専門家によるコンサルティング費用などに充てることができ、導入コストの負担軽減に大きく貢献します。

助成金の活用には申請要件や手続きが必要ですが、地域の労働局や社会保険労務士などの専門家に相談することで、スムーズに進めることが可能です。

さらに、多くの自治体でも、地域独自の働き方改革推進事業や助成金制度を設けている場合があります。これらの情報は、各自治体のウェブサイトや産業振興担当部署で確認できます。

国や自治体の支援制度を積極的に活用することで、ノウハウ不足や費用面での課題を克服し、自社に最適な勤務間インターバル制度を無理なく導入・定着させることができるでしょう。

フレックスタイム制との連携と副業への影響

フレックスタイム制との相乗効果

勤務間インターバル制度は、他の柔軟な働き方制度、特にフレックスタイム制と組み合わせることで、より高い相乗効果を発揮します。

フレックスタイム制は、従業員が日々の始業・終業時刻を自律的に決定できる制度であり、自身の都合に合わせて業務時間を調整できるため、プライベートとの両立がしやすくなります。

これに勤務間インターバル制度を連携させることで、従業員は「自分の裁量で働き方を調整しつつ、十分な休息も確保できる」という、より理想的な働き方を実現できます。

例えば、育児や介護のために早朝から勤務を始めた場合でも、勤務間インターバル制度が適用されれば、翌日の始業までに必要な休息が保障されます。これにより、従業員の疲労蓄積を防ぎながら、多様なライフスタイルに対応した働き方が可能になります。

この二つの制度の組み合わせは、従業員の満足度とエンゲージメントを向上させ、結果として企業全体の生産性向上や優秀な人材の定着にも大きく貢献するでしょう。

柔軟性と健康確保の両立は、現代の企業にとって不可欠な要素と言えます。

副業・兼業を行う従業員への影響と配慮

近年、多くの企業で副業・兼業が許可されるようになりましたが、勤務間インターバル制度を導入する際には、副業・兼業を行う従業員への影響と配慮が重要になります。

主業の勤務終了後から翌日の主業開始までのインターバルだけでなく、主業と副業の間の休息時間も確保されるべきか、という点が論点となります。

労働基準法における労働時間規制は、複数の事業場での労働時間を合算して適用されます。そのため、企業は従業員が副業を行っている場合、その副業の労働時間も把握し、全体の労働時間が過重にならないよう注意を払う必要があります。

企業が副業・兼業を認める際には、従業員に対し、自身の健康管理のために主業と副業の間でも十分な休息時間を確保するよう促すこと、そしてそのためのガイドラインやルールを明確に設定することが求められます。

従業員自身も、主業と副業の労働時間を適切に管理し、自身の健康を最優先に考えた働き方を心がけることが重要です。

必要に応じて、労働時間管理のツールを活用したり、企業に相談したりするなど、積極的に自身の働き方をデザインしていく意識が求められます。

「つながらない権利」との関連性

勤務間インターバル制度を考える上で、現代のデジタル化社会において重要性を増しているのが「つながらない権利」です。

これは、労働時間外に仕事関連の連絡(メール、電話、チャットなど)に応答する義務を負わない権利を指します。勤務間インターバル制度が物理的な休息時間を保障するのに対し、「つながらない権利」は精神的な休息と、仕事から完全に解放される自由を保障するものです。

この二つの権利は密接に関連しており、勤務間インターバル制度が導入されていても、時間外に頻繁に仕事の連絡が入るようでは、実質的な休息が阻害されてしまいます。

企業が「つながらない権利」を従業員に保障するためには、就業規則に明確に定めるだけでなく、管理職を含めた全従業員がこの権利を尊重する企業文化を醸成することが不可欠です。

具体的には、緊急時を除いて時間外の連絡を控える、メールの返信は翌営業日とする、といったルールを設けることが考えられます。

勤務間インターバル制度と「つながらない権利」を合わせて推進することで、従業員は仕事とプライベートの境界線を明確にし、真にリフレッシュできる時間を確保できるようになります。これは、心身の健康維持だけでなく、創造性や生産性の向上にも繋がる重要な取り組みです。

出張や地域ごとの導入事例:愛知県・岡山県などを中心に

出張が多い職種での適用と工夫

出張、特に遠隔地や海外出張が多い職種では、勤務間インターバル制度の適用に特有の課題が生じます。

移動時間、時差の調整、宿泊を伴う出張など、通常の勤務とは異なる状況での休息時間の確保が求められるため、柔軟かつ実情に合わせた工夫が必要です。

例えば、長時間の移動を伴う場合は、その移動時間を休息時間として考慮する、あるいは移動日を休息日と見なすといった対応が考えられます。また、出張先での業務終了時刻が遅くなった場合でも、翌日の業務開始時刻をインターバル時間に応じて調整する必要があります。

企業は、出張規程や就業規則に勤務間インターバル制度の特例を設けることで、従業員が安心して出張業務を行えるよう配慮すべきです。

具体的には、出張前の事前申請で休息計画を盛り込む、出張後の報告で休息取得状況を確認する、といった運用が考えられます。フレックスタイム制との組み合わせにより、出張後の疲労回復のための時間調整を可能にすることも有効な手段です。

愛知県・岡山県など先進地域の取り組み

日本全国で勤務間インターバル制度の導入が進む中、地域によっては先行して制度の普及に力を入れている自治体も存在します。

例えば、愛知県や岡山県などでは、地域の中小企業を対象に、制度導入を後押しする独自の取り組みを展開しています。

これらの自治体では、以下のような支援策が実施されていることがあります。

  • 独自の助成金制度: 国の助成金に上乗せしたり、独自の要件で導入費用を補助したりする。
  • 専門家によるコンサルティング: 制度設計や就業規則の見直し、運用方法に関する無料相談や個別支援。
  • 普及啓発セミナー・ワークショップ: 制度のメリットや導入事例を紹介し、企業への理解を促進。
  • 導入事例発表会: 実際に制度を導入した企業の成功事例を共有し、導入を検討する企業の参考とする。

これらの地域レベルでの取り組みは、中小企業が抱える「ノウハウ不足」や「導入コスト」といった課題を軽減し、地域全体の働き方改革を加速させる重要な役割を担っています。

地域の特性に応じたきめ細やかな支援は、制度の定着に不可欠と言えるでしょう。

地方企業における導入の現状と期待

地方企業における勤務間インターバル制度の導入状況は、大都市圏と比較して遅れている傾向にあります。

その背景には、人手不足による業務の属人化、制度に関する情報へのアクセス不足、助成金制度の認知度の低さなど、地方特有の課題が存在します。

しかし、だからこそ地方企業における勤務間インターバル制度の導入は、地域経済の活性化や人材確保において大きな期待が寄せられています。

働きやすい環境を整備することは、都市部からのUターン・Iターン人材の呼び込みや、地域で働く若者の定着に繋がります。

制度を導入し、従業員の健康とワーク・ライフ・バランスを重視する姿勢を示すことで、企業イメージが向上し、結果として地域社会からの信頼獲得にも繋がります。

地方企業が勤務間インターバル制度を積極的に取り入れ、従業員が心身ともに健康で働ける環境を整備することは、持続可能な地域社会を築く上で不可欠な要素となるでしょう。