1. 勤務間インターバル制度とは?目的とメリットを理解しよう
    1. 制度の基本と目的:なぜ今必要なのか?
    2. 企業が得られる多角的なメリット
    3. 導入前に知っておくべき注意点と課題
  2. 導入のステップ:就業規則・規程例・労使協定の整備
    1. 現状把握から制度設計までのロードマップ
    2. 就業規則改定と労使協定のポイント
    3. 助成金を活用した導入促進
  3. 運用を成功させるためのポイント:研修・周知・継続的な見直し
    1. 従業員への丁寧な周知と教育
    2. 効果的な勤怠管理とモニタリング
    3. 継続的な改善と柔軟な運用
  4. 導入事例から学ぶ!成功企業に共通する戦略
    1. 業種別に見る導入事例と効果
    2. 成功企業に共通するマインドセット
    3. 中小企業の導入障壁と克服策
  5. よくある質問:勤務間インターバル制度の疑問を解消
    1. 制度導入の法的な義務と罰則は?
    2. 繁忙期や緊急時の対応はどうする?
    3. 導入時のコストと助成金の利用について
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 勤務間インターバル制度とは具体的にどのような制度ですか?
    2. Q: 勤務間インターバル制度を導入するメリットは何ですか?
    3. Q: 勤務間インターバル制度導入にあたり、どのような準備が必要ですか?
    4. Q: 導入事例を参考にしたいのですが、どのような点に注意すれば良いですか?
    5. Q: 勤務間インターバル制度の導入・運用に関するリーフレットや資料はどこで入手できますか?

勤務間インターバル制度とは?目的とメリットを理解しよう

制度の基本と目的:なぜ今必要なのか?

「勤務間インターバル制度」は、労働者の健康維持と過重労働防止を目的として、2019年4月1日から労働時間等設定改善法において事業主の努力義務とされた制度です。
これは、終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息時間を確保することで、従業員に十分な睡眠時間や私生活の時間を保障するものです。

この制度の核となる目的は、従業員の心身の健康維持、過重労働の防止、そしてワークライフバランス(WLB)の実現にあります。
疲労が蓄積されることで引き起こされる脳梗塞や心筋梗塞といった健康リスクを低減し、従業員がリフレッシュして仕事に臨める環境を整備することが強く求められています。

努力義務であるため、違反しても直接的な法的罰則はありませんが、厚生労働省は2028年までに導入企業割合15%以上、認知度5%未満を目標とするなど、導入が強く推奨されています。
現代社会において、従業員の健康と働きがいは企業の持続的成長に不可欠な要素であり、その基盤を築く上で勤務間インターバル制度は重要な役割を担います。

企業が得られる多角的なメリット

勤務間インターバル制度の導入は、従業員だけでなく、企業にとっても多岐にわたるメリットをもたらします。
まず、最も直接的な効果として、労働者の健康維持・増進が挙げられます。十分な休息は疲労回復を促し、疾病リスクを低減させるため、長期的な視点で見れば医療費の削減や休職率の低下にもつながります。

次に、ワークライフバランスの向上は、従業員のモチベーションとエンゲージメントを高めます。
プライベートの時間が充実することで、仕事への意欲が高まり、精神的なゆとりが生まれるため、結果的に生産性の向上に寄与します。休息により集中力が増し、ミスが減少することも期待できるでしょう。

さらに、働きやすい環境は優秀な人材の確保離職率の低下にも直結します。
従業員の健康やワークライフバランスを重視する企業として社会的な評価を高め、企業イメージの向上にもつながるため、採用市場においても優位性を確立できる可能性があります。

導入前に知っておくべき注意点と課題

多くのメリットがある一方で、勤務間インターバル制度の導入にはいくつかの注意点や課題も存在します。
まず、制度導入やそれに伴う勤怠管理システムの改修、新たな運用ルールの策定など、初期費用が発生する場合があります。
中小企業にとっては、この費用負担が導入の障壁となることも少なくありません。

また、長時間の残業が常態化している企業文化においては、制度が形骸化するリスクもあります。
「残業が当然」という意識が根強い職場では、インターバル時間を確保しようとする意識が働きにくく、制度の効果が薄れてしまう可能性があります。

さらに、繁忙期や突発的な業務が発生した際に、インターバル時間を確保することが物理的に難しくなるケースも想定されます。
このような場合に備え、業務量の管理柔軟な人員配置、そしてインターバルを確保できなかった場合の明確な対応ルールを事前に定めておくことが不可欠です。
制度導入後も業務量や労働時間の管理が不十分なままだと、かえって従業員の負担が増す可能性もあるため、継続的な見直しが重要となります。

導入のステップ:就業規則・規程例・労使協定の整備

現状把握から制度設計までのロードマップ

勤務間インターバル制度を効果的に導入するためには、まず現状の労働環境を正確に把握することから始めます。
従業員の労働時間の実態、残業の発生状況、特にインターバル時間(終業から始業まで)が短くなりがちな部門や職種を詳細に分析しましょう。

この現状把握に基づき、制度導入の具体的な目的(例:特定の部署の残業時間削減、従業員の定着率向上など)を明確に設定します。
次に、以下の要素を検討し、自社に最適な制度設計を進めます。

  • 適用対象: 全従業員に適用するか、あるいは特定の職種や部門に限定するかを決定します。
  • インターバル時間数: 具体的な休息時間として、例えば「9時間以上11時間未満」や「11時間以上」など、明確な時間を設定します。
  • 運用ルール: インターバル時間を確保できない場合の対応策(例:翌日の始業時間の繰り下げ、代替措置)や、申請手続きの方法などを定めます。
  • 労働時間管理方法の見直し: ICカードや勤怠管理システムなど、適切な管理ツールを検討し、導入を推進します。

これらの設計段階で、現場の意見を積極的に取り入れることで、従業員の納得感を高め、スムーズな導入につながります。

就業規則改定と労使協定のポイント

制度設計が完了したら、その内容を法的に有効なものとするために、就業規則の改定が必要となります。
勤務間インターバル制度に関する規定を就業規則に明確に盛り込み、従業員に周知することで、制度が企業内で正式なルールとして機能するようになります。

具体的には、インターバル時間数、適用される従業員の範囲、インターバルが確保できなかった場合の具体的な対応(賃金に関する取り決めや、翌日の始業時間の調整方法など)を明記します。
就業規則の改定に際しては、労働組合がある場合は労働組合の同意、労働者の過半数を代表する者がいる場合はその意見を聴く必要があります。

また、制度内容によっては、労使協定の締結が必要となるケースもあります。
例えば、特別な事情によりインターバル時間を確保できない場合の例外規定を設ける場合などがこれに該当します。
労使協定を締結する際には、従業員代表と十分に協議し、双方の合意形成を図ることが重要です。
これらの手続きを適切に行うことで、制度の公平性と透明性が保たれ、後のトラブル防止にもつながります。

助成金を活用した導入促進

勤務間インターバル制度の導入には、勤怠管理システムの導入費用や就業規則改定のためのコンサルティング費用など、一定の初期投資が必要となる場合があります。
特に中小企業にとっては、この費用が導入の大きな障壁となりがちです。
しかし、国はこのような企業を支援するため、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を提供しています。

この助成金は、中小企業事業主が勤務間インターバル制度を新たに導入、または既に導入している制度を強化(例えば、インターバル時間を9時間から11時間以上に延長する)する際に要した費用の一部を助成するものです。
具体的には、制度導入に必要な機械設備費、コンサルティング費用、人材育成費用、労務管理用ソフトウェアの導入費用などが対象となり、最大120万円が助成されます。

助成金の活用は、企業が制度導入にかかる経済的負担を軽減し、よりスムーズに働き方改革を進めるための強力な後押しとなります。
厚生労働省のウェブサイトや地域の労働局で詳細な情報を確認し、自社が助成金の対象となるか、どのような申請プロセスが必要かを確認することをお勧めします。
制度導入を検討している企業は、この助成金を積極的に活用し、負担を抑えながら健康的な職場環境を構築しましょう。

運用を成功させるためのポイント:研修・周知・継続的な見直し

従業員への丁寧な周知と教育

勤務間インターバル制度を導入しても、従業員がその目的やルールを理解していなければ、効果的な運用は望めません。
そのため、従業員への丁寧な周知と教育が、制度成功の鍵を握ります。
単に就業規則を改定したことを通知するだけでなく、なぜこの制度が必要なのか、導入することでどのようなメリットがあるのかを、経営層から現場まで一貫したメッセージで伝えることが重要です。

説明会を実施したり、社内報やイントラネットで詳細な情報を提供したりするなど、多様な方法で周知徹底を図りましょう。
特に、制度によって業務の進め方が変わる可能性がある管理職やチームリーダーに対しては、インターバル時間の確保を前提とした業務設計や、部下への適切な指示方法に関する研修を強化することが有効です。

また、制度の目的が「強制的な休息」ではなく、「自律的な健康維持とパフォーマンス向上」にあることを理解してもらうことで、従業員自身が積極的に制度を活用しようとする意識が醸成されます。
Q&Aセッションを設けるなど、従業員からの疑問や不安を解消する機会を設けることも、制度への理解と納得感を深める上で非常に効果的です。

効果的な勤怠管理とモニタリング

制度の適切な運用には、効果的な勤怠管理と継続的なモニタリングが不可欠です。
勤務間インターバル時間を正確に把握するためには、ICカードや生体認証、クラウド型勤怠管理システムなどの活用が有効です。
これにより、終業時刻と翌日の始業時刻の間に設定されたインターバル時間が確保されているかどうかが、客観的に確認できるようになります。

インターバル時間が確保できていないケースが頻発する部署や個人に対しては、その原因を深く掘り下げて分析する必要があります。
例えば、特定の業務に負荷が集中していないか、人員配置に問題はないか、あるいは業務プロセス自体に見直すべき点がないかなど、多角的な視点から課題を特定し、改善策を講じます。

また、本格導入前に試行期間を設けることも推奨されます。
試行期間中に得られたデータや従業員からのフィードバックを基に、制度内容の妥当性を確認し、必要に応じて運用ルールを見直すことで、より実態に即した制度へと改善していくことができます。
継続的なモニタリングと改善のサイクルを回すことが、制度を形骸化させずに機能させるための重要なポイントとなります。

継続的な改善と柔軟な運用

勤務間インターバル制度は一度導入したら終わり、というものではありません。
企業の状況や業務内容、従業員のニーズは常に変化するため、継続的な改善と柔軟な運用が求められます。
定期的に制度の効果を評価し、課題を特定し、運用方法をブラッシュアップしていく姿勢が重要です。

例えば、導入当初はインターバル時間を一律に設定していたとしても、特定の部署や時期(繁忙期など)においては、柔軟な対応が必要になるケースも出てくるでしょう。
このような場合、「インターバル時間が確保できない場合の代替措置」や「事前の申請による例外規定」などを就業規則や労使協定に盛り込むことで、制度の柔軟性を高めることができます。

従業員からの意見やフィードバックを定期的に収集する仕組み(アンケート、意見箱、面談など)を設けることも有効です。
現場の声に耳を傾け、制度が働きやすさに本当に貢献しているか、あるいは新たな負担になっていないかを確認し、改善に活かします。
制度をPDCAサイクルに乗せ、企業文化の一部として根付かせることで、従業員の健康と企業の持続的な成長を両立させることが可能になります。

導入事例から学ぶ!成功企業に共通する戦略

業種別に見る導入事例と効果

勤務間インターバル制度の導入は、業種によって異なる課題や成功要因があります。
厚生労働省が公表している「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」には、全業種版の他、IT業種版医療業版など、特定の業種に特化した事例やノウハウが提供されています。
例えば、IT業種ではプロジェクトの納期が集中する時期の対応が課題となることが多く、チーム内での業務分散やスケジュールの早期調整が成功の鍵となります。

医療業においては、夜勤や緊急対応が頻繁に発生するため、シフト制勤務におけるインターバル確保が特に重要です。
ある医療機関では、夜勤明けの医師や看護師の翌日勤務までの休息時間を厳格に管理することで、医療ミス削減や従業員の定着率向上に成功しています。
また、製造業では生産ラインの稼働状況とインターバル確保の両立が求められ、多能工化や人員配置の工夫が有効なケースが多く見られます。

これらの事例から学ぶことは、自社の業種特性や業務フローを深く理解し、それに応じたカスタマイズされた制度設計が重要であるということです。
他社の成功事例を参考にしつつも、自社独自の課題を解決するための工夫を凝らすことが、効果的な制度導入につながります。

成功企業に共通するマインドセット

勤務間インターバル制度の導入を成功させている企業には、いくつかの共通するマインドセットが存在します。
第一に、経営層の強いコミットメントです。
単なる法令遵守の姿勢ではなく、「従業員の健康と働きがいを本気で重視する」という経営トップの明確な意思が、制度を全社的に浸透させる原動力となります。

第二に、従業員への丁寧な説明と対話です。
制度導入によって「残業ができない」「業務が終わらない」といった懸念を抱く従業員もいるため、制度の目的やメリット、そして業務効率化への具体的な支援策を繰り返し伝え、不安を解消する努力が不可欠です。
従業員が「自分たちのための制度」だと感じられるような環境づくりが重要となります。

第三に、柔軟性と継続的な改善の姿勢です。
一度導入した制度が完璧であることは稀であり、運用開始後に生じる課題に対して、柔軟に見直しを行う体制が整っている企業は、制度をより実効性の高いものへと進化させています。
従業員からのフィードバックを積極的に収集し、制度に反映させることで、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。

中小企業の導入障壁と克服策

勤務間インターバル制度の導入は、大企業に比べて中小企業で遅れている傾向があります。
2022年時点で導入企業割合は5.8%に留まり、2023年10月時点でも6.0%と微増にとどまっています。
また、制度を知らない企業の割合が2023年10月時点で19.2%と増加傾向にあることも課題です。
導入予定がなく、検討もしていない企業のうち、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」という理由が51.9%と最も高くなっています。

中小企業が直面する主な障壁としては、人員の少なさからくる業務量の調整の難しさ、導入コスト、そして制度に関する情報不足が挙げられます。
これらの障壁を克服するためには、まず助成金制度を積極的に活用することが重要です。
前述の「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」は、中小企業の導入コストを大きく軽減します。

また、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」や「勤務間インターバル制度導入事例集」といった公的機関が提供する情報を活用し、自社に近い規模や業種の事例を参考にすることも有効です。
限られた人員の中で業務を回すためには、業務の標準化やデジタルツールの導入による効率化、そして社員間の相互協力体制の強化など、組織全体の働き方を見直す視点も不可欠となります。
制度の必要性を経営者自身が深く理解し、従業員と共に課題解決に取り組む姿勢が、中小企業における成功の鍵となります。

よくある質問:勤務間インターバル制度の疑問を解消

制度導入の法的な義務と罰則は?

勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法において事業主の努力義務と定められています。
これは、企業が制度導入に努めるべきであるという国の推奨姿勢を示すものであり、特定の条件下で導入が義務付けられているわけではありません。

したがって、仮に制度を導入していなくても、または導入したもののインターバル時間が確保できなかったとしても、直接的な法的罰則が科せられることはありません
しかし、この「努力義務」という位置づけは、単なる推奨に留まらず、企業の社会的責任として従業員の健康管理とワークライフバランスの向上に取り組むべきであるという強いメッセージを含んでいます。

近年、労働者の健康に対する意識が高まっており、企業が働きやすい環境を整備することは、人材確保や企業イメージ向上に直結します。
罰則がないからといって導入を怠るのではなく、中長期的な視点で企業の競争力強化に繋がる投資として、前向きに検討することが賢明でしょう。
厚生労働省は導入目標を掲げており、今後、法的な位置づけが変更される可能性もゼロではありません。

繁忙期や緊急時の対応はどうする?

勤務間インターバル制度を導入する上で、特に懸念されるのが繁忙期や予期せぬ緊急事態が発生した際の対応です。
原則としてインターバル時間を確保することが求められますが、現実には業務の性質上、常に厳格な適用が難しい場面も存在します。

このような状況に備えるため、制度設計の段階で「インターバル時間が確保できない場合の対応ルール」を明確に定めておくことが非常に重要です。
例えば、以下のような対応策が考えられます。

  • 翌日の始業時間の繰り下げ: インターバル時間を確保できなかった場合、不足時間分を翌日の始業時間を繰り下げることで調整する。
  • 代替休息の付与: やむを得ずインターバル時間が短縮された場合、後日、不足分を補う形で特別な休息時間を付与する。
  • 事前申請・承認制の例外規定: 突発的な業務や繁忙期でインターバル確保が困難な場合、事前に管理職の承認を得た上で、例外的な対応を可能とする。

これらのルールは、就業規則や労使協定に明記し、従業員全員に周知徹底することが必要です。
ただし、例外規定を設けすぎると制度が形骸化するリスクがあるため、あくまでも限定的な運用とし、原則はインターバル確保を徹底する姿勢が求められます。

導入時のコストと助成金の利用について

勤務間インターバル制度の導入には、就業規則の改定にかかる費用、新たな勤怠管理システムの導入費用、従業員への周知・研修費用など、一定の初期コストが発生する可能性があります。
特に、既存の勤怠管理体制が紙ベースであったり、システムが古かったりする企業にとっては、システム刷新の費用が大きな負担となることがあります。

しかし、これらのコストは、長期的に見れば従業員の健康維持による生産性向上、離職率低下、優秀な人材の確保といった形で企業に還元される投資と捉えることができます。
さらに、中小企業事業主に対しては、国が「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を提供しており、この経済的負担を大きく軽減することが可能です。

この助成金は、制度導入に必要な機械設備費、コンサルティング費用、人材育成費用、労務管理用ソフトウェアの導入費用などを対象とし、最大120万円(上限額は導入するインターバル時間数等により変動)が助成されます。
助成金の活用は、中小企業が制度導入に踏み切る大きな後押しとなりますので、自社が対象となるか、どのような申請手続きが必要かなど、積極的に情報収集を行い、活用を検討することをお勧めします。
厚生労働省のウェブサイトや地域の労働局で詳細を確認してください。