近年、副業を解禁する企業が増加し、「副業解禁」は働き方の多様化を象徴するキーワードとなっています。政府の後押しもあり、副業は多くのビジネスパーソンにとって身近なものになりつつあります。

終身雇用制度の揺らぎや人生100年時代を見据えたキャリア形成の必要性が高まる中、従業員は収入改善やスキルアップ、キャリアの幅を広げたいと関心を寄せ、企業側も優秀な人材の確保や組織活性化の観点からメリットを見出しています。

本記事では、副業解禁の背景にある理由、企業・従業員双方にとってのメリット・デメリット、そして最新の動向についてまとめました。この大きな波を理解し、自身の働き方や企業の戦略に活かすためのヒントをお届けします。

  1. なぜ今、副業が解禁されるのか?背景にある働き方改革
    1. 1. 終身雇用制度の変革とキャリア形成の多様化
    2. 2. 政府主導の「働き方改革」とその狙い
    3. 3. 従業員と企業の双方に生まれるニーズの変化
  2. 副業解禁の法律とガイドライン:知っておくべきポイント
    1. 1. 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」とは
    2. 2. 就業規則と労働契約上の注意点
    3. 3. 労働時間と社会保険、税金に関する基礎知識
  3. 副業解禁の理由:個人と企業に訪れる変化
    1. 1. 従業員のスキルアップとキャリアパスの多様化
    2. 2. 企業のイノベーションと組織活性化への貢献
    3. 3. 経済的安定と柔軟な働き方の実現
  4. 副業解禁のメリット・デメリット:成功への道筋
    1. 1. 企業視点でのメリット・デメリットとその対策
    2. 2. 従業員視点でのメリット・デメリットとその心構え
    3. 3. 副業を成功させるための実践的なアドバイス
  5. 副業解禁の現状と未来:上場企業の動向から読み解く
    1. 1. 企業における副業容認率の最新動向と数値
    2. 2. 副業実施者の現状と人気の職種・収入
    3. 3. 副業解禁の今後の展望と企業・個人の役割
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 副業が解禁される背景には何がありますか?
    2. Q: 副業解禁に関する法改正はありますか?
    3. Q: 副業を始める上でのメリットは何ですか?
    4. Q: 副業を始める上でのデメリットはありますか?
    5. Q: 上場企業における副業解禁の動向はどうなっていますか?

なぜ今、副業が解禁されるのか?背景にある働き方改革

1. 終身雇用制度の変革とキャリア形成の多様化

日本企業に長く根付いてきた終身雇用制度が揺らぎを見せる中、多くのビジネスパーソンが自身のキャリアについて再考を迫られています。人生100年時代と言われる現代において、一つの企業での経験だけで定年まで安泰という考え方は過去のものとなりつつあります。

これに伴い、従業員は自身の市場価値を高めるために、本業以外の場所でのスキルアップや経験獲得の機会を求めるようになりました。副業は、この新たなキャリア形成のニーズに応える有効な手段として注目されています。

厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、副業・兼業を後押ししていることも、個人の多様なキャリア形成を支援する政府の方針の表れと言えるでしょう。自己成長への意欲が、副業解禁の大きな原動力となっています。

2. 政府主導の「働き方改革」とその狙い

政府が推進する「働き方改革」は、労働力人口の減少や生産性向上といった日本の抱える課題への対応を目的としています。この改革の一環として、柔軟で多様な働き方を可能にすることが掲げられ、その中で副業・兼業の促進が重要な柱の一つとされています。

副業を後押しすることで、従業員は自身のスキルや経験を多方面で活かし、新たな知識や人脈を獲得することができます。これは個人の成長だけでなく、結果的に社会全体の生産性向上やイノベーション創出にも繋がると期待されています。

企業側も、従業員の副業を容認することで、自社だけでは得られにくい専門性や新たな視点を取り入れ、組織の活性化を図ることが可能になります。政府の後押しは、企業が副業解禁に踏み切るための環境整備を促す重要な役割を果たしています。

3. 従業員と企業の双方に生まれるニーズの変化

副業解禁の流れは、従業員と企業の双方から生まれる新たなニーズの変化によって加速しています。従業員側は、収入の増加による経済的安定、自身のスキルアップやキャリアの幅を広げたいという自己成長への意欲、あるいは新しい経験や人脈を獲得したいという願望を強く持っています。

一方、企業側も、優秀な人材の確保と定着、従業員のスキルアップを通じた組織全体の底上げ、そして多様な人材が活躍することで組織にイノベーションをもたらしたいというニーズを抱えています。副業容認は、企業の魅力を高め、採用競争力を強化する手段としても有効です。

このように、個人の多様な働き方への志向と、企業の組織力強化への願いが合致することで、副業解禁は単なるブームではなく、現代の働き方のスタンダードとして定着しつつあります。双方にとってのメリットが明確である点が、この大きな変化を後押ししています。

副業解禁の法律とガイドライン:知っておくべきポイント

1. 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」とは

厚生労働省は、企業が副業・兼業を円滑に導入・運用できるよう、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を定めています。このガイドラインは、副業を原則禁止とせず、労働者の請求があれば許可することを促すもので、企業が副業に関する就業規則を整備する際の指針となります。

主な目的は、労働者のキャリア形成支援と企業の競争力強化を両立させることです。具体的には、労働時間管理のルール、健康管理への配慮、情報漏洩防止措置、競業避止義務の考え方などが示されており、企業はこれらを参考に適切な制度設計が求められます。

2020年にはモデル就業規則が改定され、副業・兼業を「原則禁止」から「原則容認」へと大きく転換しました。このガイドラインの存在が、企業が副業解禁に踏み切る際の法的・制度的なハードルを下げ、安心して導入できる環境を整えています。

2. 就業規則と労働契約上の注意点

企業が副業を解禁するにあたっては、就業規則の整備が不可欠です。副業の許可手続き、禁止・制限する場合の条件、報告義務などを具体的に明記することで、従業員とのトラブルを未然に防ぐことができます。特に、競業避止義務や秘密保持義務については、本業への影響や機密情報の流出リスクを考慮し、明確な規定を設ける必要があります。

また、労働契約上の企業側の配慮義務も忘れてはなりません。従業員が副業を行うことで過重労働にならないよう、労働時間の管理や健康状態の把握に努める必要があります。副業が本業に支障をきたす場合や、企業の信用を損なうような活動は制限できることを就業規則に定めることも重要です。

企業は、副業を認めることで生じる可能性のある法的リスク(例:競業避止義務違反)や労務管理の複雑化に対応するため、専門家と相談しながら慎重にルールを策定し、従業員への周知徹底を図ることが求められます。

3. 労働時間と社会保険、税金に関する基礎知識

副業を行う上で、従業員と企業双方が理解しておくべきなのが、労働時間、社会保険、税金に関するルールです。労働基準法では、本業と副業の労働時間は合算して管理されるため、副業によって法定労働時間を超える場合、本業の企業にも時間外労働の手当支払い義務が発生する可能性があります。

社会保険については、主な生計を維持する事業所(本業)で健康保険や厚生年金に加入し、副業先での労働時間や収入によっては、副業先でも社会保険の加入が必要になる場合があります。特に、複数の事業所で働く場合の社会保険料の計算は複雑になりがちです。

税金に関しては、副業による所得が年間20万円を超えると確定申告が必要です。住民税についても、副業収入に応じて増額されるため、従業員は自身の税務上の義務を理解しておく必要があります。企業は、従業員への適切な情報提供を通じて、これらの複雑なルールに対する認識を高めることが重要です。

副業解禁の理由:個人と企業に訪れる変化

1. 従業員のスキルアップとキャリアパスの多様化

副業は、従業員にとって自身のスキルを向上させ、キャリアパスを多様化させる絶好の機会を提供します。本業で培った専門知識や経験を別の分野で活用することで、新たな視点や思考法を獲得し、本業では得られないスキルを習得することが可能です。

例えば、本業が営業職の人が副業でWebライティングを始めることで、文章力やマーケティング知識を深めることができます。また、プロジェクトマネジメントのスキルを持つ人が、スタートアップ企業の立ち上げ支援に関わることで、新たな業界での実践的な経験を積むこともできるでしょう。

これにより、従業員は自身の市場価値を高め、将来的なキャリアの選択肢を広げることができます。特定の企業に依存しない、より自律的なキャリア形成が可能となり、転職や独立への足がかりを築くことも期待できます。

2. 企業のイノベーションと組織活性化への貢献

従業員の副業は、企業に対しても大きなメリットをもたらします。従業員が社外で得た知識、経験、そして人脈は、本業に還元され、新たなアイデアやイノベーションの創出に繋がる可能性があります。

例えば、副業を通じて最新の技術動向や市場ニーズに触れた従業員が、その知見を本業の業務改善や新サービス開発に活かすケースも考えられます。また、多様なバックグラウンドを持つ従業員が増えることで、組織内のコミュニケーションが活性化し、固定観念に囚われない柔軟な発想が生まれやすくなります。

副業を容認することは、従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。会社が個人の成長を支援しているというメッセージは、従業員のモチベーションを高め、結果として組織全体の生産性や創造性を向上させることにつながるでしょう。

3. 経済的安定と柔軟な働き方の実現

副業は、従業員にとって経済的な安定をもたらすだけでなく、より柔軟な働き方を実現する手段となります。収入源を複数持つことで、万が一の事態に備えることができ、経済的な不安を軽減することが可能です。これは、人生100年時代において、長期的なライフプランを立てる上で非常に重要な要素となります。

また、自身のライフステージやライフスタイルに合わせて働き方を選択できる柔軟性も副業の魅力です。例えば、育児や介護と両立しながら働くために、時間や場所に縛られない副業を選ぶ人もいます。これにより、自身のペースで仕事を進めながら、ワークライフバランスを向上させることが可能になります。

自己成長や自己実現の機会を得ながら、経済的な安定と柔軟な働き方を手に入れることは、従業員のQOL(Quality of Life)向上に大きく貢献し、結果として企業へのエンゲージメントを高める好循環を生み出すでしょう。

副業解禁のメリット・デメリット:成功への道筋

1. 企業視点でのメリット・デメリットとその対策

企業にとって副業解禁は、優秀な人材の確保・定着、社員のスキルアップ支援、組織の活性化、イノベーション促進といった多大なメリットをもたらします。社外での経験を通じて従業員が成長し、その知見が本業に還元されることで、企業の競争力向上に繋がります。

一方で、デメリットも存在します。機密情報やノウハウの流出リスク、労働時間の長期化による従業員の健康問題、本業への支障、そして従業員の退職・独立につながるリスクなどが挙げられます。労務管理の複雑化や競業避止義務違反などの法的リスクも考慮しなければなりません。

これらのデメリットを最小限に抑え、メリットを最大化するためには、企業側の周到な準備が不可欠です。具体的には、就業規則の整備とルールの明確化、情報セキュリティ対策の強化、労働時間や健康管理体制の構築、そして従業員との丁寧なコミュニケーションが成功への鍵となります。

2. 従業員視点でのメリット・デメリットとその心構え

従業員にとっての副業のメリットは、収入の増加や経済的安定はもちろん、スキルアップ、キャリアの多様化、新しい経験や人脈の獲得、自己成長・自己実現といった多岐にわたります。自身の可能性を広げ、人生の選択肢を増やす機会となるでしょう。

しかし、デメリットも無視できません。最も懸念されるのは、疲労の蓄積や健康管理の問題です。本業と副業の両立による時間的制約や精神的負担は大きく、収入の不安定さや単価の低さといった経済的な課題もあります。予期せぬリスク(情報漏洩など)を副業先で負う可能性も考えられます。

副業を成功させるためには、自身の体調と時間を管理する強い意志が必要です。安易に始めるのではなく、目的を明確にし、無理のない範囲で、自身のスキルアップやキャリア形成に繋がる副業を選ぶ心構えが重要となります。本業とのバランスを常に意識し、必要であれば調整する柔軟性も求められます。

3. 副業を成功させるための実践的なアドバイス

副業を始める前に、まずは自身の目的と目標を明確にしましょう。収入増が目的なのか、スキルアップやキャリアチェンジが目的なのかによって、選ぶ副業は大きく変わります。

次に、本業との両立を考慮した時間管理術を身につけることが重要です。副業に充てる時間を具体的に決め、休息を適切に取ることで、疲労の蓄積を防ぎ、本業への集中力を維持できます。自身のキャパシティを過信せず、無理のない範囲で計画を立てましょう。

また、副業先での情報セキュリティ意識の徹底、本業の企業への適切な報告とルールの遵守も忘れてはなりません。副業を通じて得たスキルや経験を本業に活かす視点を持つことで、相乗効果を生み出すことも可能です。自分にとって最適な副業を見つけ、賢く活用することが、成功への道筋となります。

副業解禁の現状と未来:上場企業の動向から読み解く

1. 企業における副業容認率の最新動向と数値

副業解禁は、もはや一部の企業だけの動きではありません。2022年の経団連調査によると、自社社員の副業・兼業を「認めている」「認める予定」と回答した企業の割合は70.5%に達しています。

特に、常用労働者数5,000人以上の大企業では83.9%と高い水準を示しており、大企業を中心に副業容認の動きが加速していることが分かります。さらに、2024年5月発表の調査では、従業員の兼業・副業を認める制度が「ある」と回答した企業の割合は60.7%と、依然として増加傾向にあります。

これらの数値は、副業が企業戦略の重要な一部として位置づけられ始めていることを示唆しています。企業は、優秀な人材の獲得・維持、組織の活性化、従業員の成長支援といった観点から、副業解禁を積極的に進めているのです。

2. 副業実施者の現状と人気の職種・収入

企業側の容認率が高まる中、実際に副業を実施しているビジネスパーソンの割合も増加傾向にあります。2024年1月のdodaの調査では、副業を「している」と答えた人の割合は8.4%でしたが、2024年5月発表の調査では10.7%に上昇。

さらに、2025年8月の調査では、会社員の副業経験者は39.2%に達し、未経験者の7割超が関心を示しているという結果も出ています。副業を始める主な理由としては、やはり「収入増・経済的安定」が最も多く挙げられます。

副業による平均月収は65,093円(2024年1月doda調査)ですが、収入の分布を見ると「1万円~5万円未満」が最も多く、次いで「1万円未満」となっています。人気の職種は「サービス業(接客・販売)」が21.3%、次いで「株/FX」が18.4%、「ネットビジネス」が10.6%でした。

3. 副業解禁の今後の展望と企業・個人の役割

副業解禁の流れは今後も加速し、多様な働き方がより一層浸透していくと予測されます。企業は、この変化に対応するため、以下のような準備を着実に進める必要があります。

  • 就業規則の整備: 副業に関する規定を明確にし、必要に応じて改定する。
  • ルールの明確化: 許可手続き、禁止・制限する場合の条件、報告義務などを具体的に定める。
  • 労働時間の管理: 本業と副業の労働時間を合算して管理し、過重労働を防ぐ体制を構築する。
  • 社員の健康管理: 副業による健康への影響を考慮し、健康相談窓口の設置や情報提供を行う。
  • 情報セキュリティ対策: 機密情報や個人情報の漏洩リスクに対する対策を講じる。

個人においても、副業を「当たり前」の選択肢として捉え、自身のキャリア形成や自己実現のために賢く活用する意識が求められます。副業解禁は、従業員の多様な働き方を支援し、組織全体の活性化につながる可能性を秘めています。メリットを最大化し、リスクを最小限に抑えるためには、企業側と従業員側の双方で理解と準備を進めることが不可欠です。