賞与の会社負担額と随時改定の基礎知識

従業員にとって楽しみな賞与。しかし、その裏側には、企業が負担する社会保険料という重要なコストが存在します。さらに、給与の変動によって社会保険料が見直される「随時改定」という仕組みも理解しておく必要があります。

この記事では、賞与にかかる会社の負担額の計算方法から、給与の変動に伴う社会保険料の「随時改定」まで、基礎知識をわかりやすく解説します。正確な知識を身につけ、適切な労務管理に役立てましょう。

賞与にかかる会社負担額とは?計算方法を解説

賞与から控除される社会保険料の基本

賞与が支給される際、従業員の給与明細には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満)、そして雇用保険料が差し引かれているのを目にするでしょう。これらの社会保険料は、原則として事業主(会社)と被保険者(従業員)が折半して負担する仕組みになっています。

つまり、従業員が負担する保険料と同額、またはそれに近い金額を会社も負担していることになります。これは、社会保険制度が労使双方の拠出によって成り立っているためです。

正確な知識を持つことで、企業は予期せぬコストに直面することなく、適切な予算計画を立てることができます。また、従業員も自身の給与明細を正しく理解する上で役立ちます。

標準賞与額の計算と上限額

健康保険料や厚生年金保険料を計算する際の基礎となるのが「標準賞与額」です。これは、賞与の額面金額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額を指します。この標準賞与額にそれぞれの保険料率を乗じて、保険料が算出されます。

ただし、標準賞与額には上限が設けられています。

  • 健康保険・介護保険: 年度(4月1日~翌年3月31日)の累計額で573万円が上限です。もし年度内に複数の賞与が支給され、その合計がこの上限を超える場合、超えた部分には保険料はかかりません。
  • 厚生年金保険: 1ヶ月あたり150万円が上限です。同じ月に複数回賞与が支給された場合はそれらの合算額で上限が適用されます。

これらの上限を超えた部分は保険料計算の対象外となるため、高額な賞与を支給する企業は特に注意が必要です。上限額の適用によって、会社負担額も変動する可能性があります。

保険料率と具体的な計算例

賞与にかかる社会保険料の計算には、それぞれの保険料率が適用されます。これらの料率は、加入している健康保険組合や都道府県、年度によって変動することがありますので、常に最新の情報を確認することが重要です。

令和7年度の全国平均的な保険料率を例に、具体的な計算を見てみましょう。

  • 健康保険料率: 全国平均10.00%(会社負担5.00%、従業員負担5.00%)
  • 厚生年金保険料率: 18.3%(会社負担9.15%、従業員負担9.15%)
  • 介護保険料率: 全国一律1.59%(会社負担0.795%、従業員負担0.795%)※40歳以上65歳未満の従業員に適用
  • 雇用保険料率(一般の事業): 1.40%(会社負担0.85%、従業員負担0.55%)

例えば、賞与額が50万円(標準賞与額も50万円と仮定)の従業員(45歳)の場合、会社負担分はおおよそ以下のようになります。

項目 標準賞与額 会社負担率 会社負担額
健康保険料 500,000円 5.00% 25,000円
厚生年金保険料 500,000円 9.15% 45,750円
介護保険料 500,000円 0.795% 3,975円
雇用保険料 500,000円 0.85% 4,250円
合計 78,975円

この計算例からもわかるように、賞与額に対して約15%程度の社会保険料を会社が負担することになります。このコストを正確に把握しておくことが、企業の財務計画において非常に重要です。

賞与の会社負担分、社会保険料はどう計算される?

各保険料の会社負担分の内訳

賞与から控除される社会保険料は、それぞれ会社と従業員で負担の割合が異なります。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は、原則として会社と従業員が折半して負担します。

例えば、健康保険料率が10.00%の場合、会社は5.00%、従業員は5.00%をそれぞれ負担します。同様に、厚生年金保険料率18.3%の場合、会社と従業員がそれぞれ9.15%ずつ負担します。

一方で、雇用保険料は会社と従業員の負担割合が異なります。令和7年度の一般の事業における雇用保険料率は合計1.40%ですが、その内訳は会社負担が0.85%、従業員負担が0.55%となっています。

これらの負担割合を理解することで、賞与支給時の会社の正確な支出額を把握することができます。

賞与支給における事業主の留意点

賞与の支給にあたっては、事業主が特に留意すべき点がいくつかあります。まず、社会保険料の対象となる「賞与」の定義についてです。

賞与の名称は「ボーナス」「一時金」「決算手当」など様々ですが、実質的に労働の対償として年3回以下支給されるものであれば、社会保険料の計算対象となります。年4回以上支給される場合は、月々の給与とみなされ、標準報酬月額の算定基礎に含まれる可能性があります。

また、従業員が賞与支給月の末日を含む育児休業等を取得している場合、その月の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)は免除されます。これは会社負担分も同様に免除となるため、該当する従業員がいる場合は注意が必要です。ただし、雇用保険料は免除の対象外です。

退職時や特殊なケースでの処理

賞与が支給される月に従業員が退職する場合、社会保険料の控除について特殊なルールがあります。原則として、賞与が支給される月の途中で退職した場合、その賞与にかかる健康保険料や厚生年金保険料は控除されません。

社会保険料は、資格喪失日の前月分までが徴収の対象となるため、賞与支給月に退職(資格喪失日が賞与月の月末ではない場合)した場合は、賞与に係る社会保険料は発生しないことになります。これは、会社負担分も同様です。

ただし、雇用保険料は資格喪失日に関わらず、支給された賃金に対して発生するため、退職月の賞与からも控除されます。このようなケースは稀ですが、正確な処理を行うためには、各保険料の計算ルールを理解しておくことが不可欠です。

「賞与 随時とは」?一時金の性質と計算への影響

随時改定の基本概念と目的

「随時改定」とは、被保険者(従業員)の固定的賃金(基本給や役職手当など、毎月固定で支払われる賃金)に大幅な変動があった場合に、社会保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」を実態に即して見直す手続きのことです。この手続きは「月額変更届」とも呼ばれます。

標準報酬月額は、健康保険料や厚生年金保険料の計算に用いられるだけでなく、将来受け取る年金額にも影響を与える重要な要素です。給与が大幅に変動したにもかかわらず、古い標準報酬月額のままだと、従業員の保険料負担が実態と合わなくなるだけでなく、将来の年金受給額にも影響が出てしまいます。

随時改定は、このような不均衡を解消し、社会保険料の公平性を保つことを目的としています。

随時改定の主な要件の詳細

随時改定を行うには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 固定的賃金の変動: 昇給・降給、給与体系の変更、固定的な手当の追加・変更・廃止など、固定的賃金に変動があったこと。残業代のような非固定的賃金の変動だけでは対象になりません。
  2. 等級の差: 固定的賃金が変動した月から3ヶ月間に支払われた報酬(残業代などの非固定的賃金を含む)の平均額に基づいて算出される標準報酬月額が、これまでの標準報酬月額と比べて2等級以上の差が生じたこと。
  3. 支払基礎日数の要件: 変動月から3ヶ月間すべてにおいて、支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)であること。支払基礎日数とは、給与計算の対象となった日数のことです。

これらの要件をすべて満たした場合、事業主は速やかに「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」を管轄の年金事務所または事務センターに提出する必要があります。

賞与は随時改定の対象になるのか?

賞与は、通常、毎月決まって支給される「固定的賃金」ではなく、一時的に支給される「非固定的賃金」とみなされます。このため、原則として賞与の支給自体が、随時改定の直接的な要件とはなりません。随時改定は、あくまで基本給や固定手当といった固定的賃金の変動がトリガーとなります。

しかし、賞与の支給と合わせて基本給の見直しや固定手当の変更が行われた結果、固定的賃金に変動が生じ、かつ上記で説明した「2等級以上の差」や「支払基礎日数」の要件を満たした場合は、その固定的賃金の変動が原因で随時改定の対象となる可能性はあります。

つまり、賞与は直接的な原因ではないものの、給与体系全体の変動の一部として、間接的に随時改定に影響を与えるケースがある、と理解しておきましょう。

賞与の随時改定:年4回チャンス?社会保険料の変動リスク

随時改定の適用時期と注意点

随時改定によって新しい標準報酬月額が決定された場合、その変更はいつから適用されるのでしょうか。原則として、変動後の報酬が初めて支払われた月から起算して4ヶ月目から適用されます。

例えば、4月に昇給があり、その新しい給与が4月中に支払われ始めた場合、4月・5月・6月の報酬に基づいて標準報酬月額が決定され、7月分の社会保険料から新しい標準報酬月額が適用されることになります。

また、年に一度行われる「定時決定」(通常は9月に適用)と随時改定の時期が重なる場合もあります。この場合、随時改定が優先されることになっており、事業主は従業員の給与変動を常に把握し、適切なタイミングで手続きを行うことが求められます。

社会保険料変動が従業員に与える影響

随時改定によって標準報酬月額が変更されると、従業員が毎月支払う社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)の金額が変動します。

例えば、昇給により標準報酬月額が上がれば、従業員の社会保険料負担も増加します。これは手取り額に直結するため、従業員の生活設計にも影響を与える可能性があります。逆に、降給により標準報酬月額が下がれば、社会保険料負担も軽減されます。

さらに、厚生年金保険料の変更は、従業員が将来受け取る年金額にも影響を及ぼします。社会保険料は現在の負担だけでなく、将来の保障にも関わる重要な要素であることを従業員に周知することも大切です。

企業が取るべき対応とリスク管理

企業にとって、随時改定の適切な管理は重要な労務管理業務の一つです。従業員の固定的賃金の変動があった場合は、迅速にその変動を把握し、随時改定の要件を満たすかどうかを確認する必要があります。

要件を満たしているにもかかわらず、月額変更届の提出を怠った場合、従業員は実態と異なる社会保険料を支払い続けることになります。これは、将来の年金額への影響や、場合によっては年金事務所からの追徴金発生のリスクにもつながりかねません。

また、従業員からの信頼を損なう原因にもなり得ます。賞与自体が随時改定の直接的な引き金となることは稀ですが、給与体系の見直しや役職手当の変更など、賞与の支給時期に合わせて固定的賃金が変動する可能性があるため、常に注意深く管理することがリスクを回避する上で不可欠です。

前月給与なしの賞与:計算の注意点と「前月給与とは」

「前月給与なし」とはどのような状況か?

「前月給与なし」とは、賞与が支給される月の前月に、通常の基本給や固定手当などの固定的賃金が支払われていない状況を指します。

このような状況は、主に以下のようなケースで発生します。

  • 新入社員: 入社して間もないため、賞与支給月の前月にまだ通常の月給の支払いがない場合。
  • 長期休職からの復帰者: 育児休業や病気休職などで前月に給与が支払われていなかった期間が長かった従業員が、復帰後に賞与を受け取る場合。
  • 月末退職者の最後の給与: 月末に退職するため、前月に給与が支払われておらず、退職月に賞与のみが支給されるケース。

これらの状況では、通常の給与計算とは異なる注意点が生じると誤解されることがありますが、賞与にかかる社会保険料の計算においては、原則として前月給与の有無は直接的な影響を与えません。

賞与にかかる社会保険料の計算基礎

賞与にかかる社会保険料は、「標準賞与額」を基に計算されます。この標準賞与額は、賞与の額面金額から1,000円未満を切り捨てた額であり、前月給与の有無とは関係なく、支給された賞与そのものの金額が計算基礎となります。

つまり、「前月給与なし」の従業員であっても、賞与が支給されれば、その賞与額に対して健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料が計算され、会社負担分も発生します。

例えば、新入社員が初めての賞与を受け取る場合でも、その賞与額に応じた社会保険料が控除され、会社も同額または所定の割合で負担することになります。月々の給与とは計算のロジックが異なるため、混同しないよう注意が必要です。

随時改定と賞与支給の関連性

「前月給与なし」の状況で賞与が支給されたとしても、それが直接的に随時改定の対象となることはありません。

繰り返しになりますが、随時改定は「固定的賃金の変動」が主要な要件です。賞与は一時的な報酬であり、固定的賃金には含まれません。そのため、前月給与がない状態であっても、賞与の支給のみでは随時改定の要件を満たさないのです。

ただし、新入社員の入社時や休職からの復帰時に、基本給や固定手当が新たに決定された場合、その固定的賃金が後に変動すれば、それが随時改定のトリガーとなる可能性はあります。賞与の支給と随時改定は、それぞれ異なるルールに基づいて処理されることを理解しておくことが、正確な社会保険手続きには不可欠です。