概要: 賞与(ボーナス)の平均額や中央値、何ヶ月分が相場なのかを解説します。特に中小企業における賞与の現状や、賞与が少ない場合の背景、さらに賞与の賢い使い道についても掘り下げます。
賞与(ボーナス)は、働く人にとって日々の努力が報われる特別な報酬です。しかし、その支給額や有無は企業によって大きく異なり、特に日本企業の99.7%を占める中小企業では、大手企業とは異なる実情があります。
「自分はどれくらいもらえるのだろう?」「他の企業や同年代の人はどうなんだろう?」と、疑問や期待を抱いている方も多いでしょう。この記事では、賞与の平均額や中央値、そして中小企業におけるボーナスの現状に焦点を当て、その背景や関連する情報について詳しく解説します。
賞与(ボーナス)の平均額と中央値:何ヶ月分が一般的?
民間企業全体の平均と中小企業の実情
ボーナスの平均額は、企業規模や業種、年齢によって大きく変動します。2025年の夏季賞与の見通しでは、民間企業全体の1人当たりの支給額は前年比+2.2%の42万5,000円と予測されています。これはあくまで民間企業全体の平均であり、中小企業では異なる実情があります。
特に中小企業においては、一般労働者の所定内給与の約1ヶ月分となる30万円が目安となるでしょう。さらに、中小企業全体で見ると、2025年時点のボーナス平均額は約62万円とされていますが、これは年齢や業種による変動を大きく含んだ数字です。
東証プライム上場企業を対象とした調査での平均額が84万6,021円であることと比較すると、中小企業の2024年夏のボーナス平均支給額約35万円は、約50万円もの大きな差があることがわかります。この金額の差は、中小企業と大企業の間の資本力や利益構造の違いを如実に表していると言えるでしょう。
賞与は「基本給の○ヶ月分」が定説?その内訳と計算方法
賞与の支給額は、企業によって算定方法が異なります。大きく分けて「業績連動型賞与」と「基本給連動型賞与」の2種類があり、特に「基本給の○ヶ月分」という形で支給されるのは後者です。
業績連動型は企業の業績や個人の評価に応じて変動するのに対し、基本給連動型は、あらかじめ定められた基本給に一定の月数(例えば2ヶ月分や3ヶ月分)を乗じて計算されます。自分がどちらのタイプか、就業規則や労働契約書で確認することが重要です。
実際に支給される賞与額から引かれるのは、所得税、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料といった社会保険料です。ボーナスにかかる所得税は「(ボーナス支給額 – 社会保険料等)× 所得税率」で算出され、この税率は前月の給与から決定されます。
これらの控除額を差し引いた後の手取り額は、一般的に支給額の70~80%程度が目安となります。例えば、支給額が30万円であれば、手元に残るのは21万円から24万円程度になることを覚えておきましょう。
賞与の支給額を左右する要因:業種・年齢・企業規模
賞与の支給額は、様々な要因によって変動します。特に顕著なのが「業種」と「企業規模」です。
厚生労働省のデータ(2025年発表の令和6年データに基づく)によると、従業員数10~99人の中小企業において、業種別で最も平均賞与額が高かったのは「金融業、保険業」で約150万円でした。一方で、宿泊業や飲食サービス業などでは、平均額が低くなる傾向にあります。これは、業界の利益率や収益構造の違いを反映しています。
また、「企業規模」も重要な要因です。従業員数別の支給率を見ると、30人以上の企業では90%以上が賞与を支給しているのに対し、5~29人の企業では67.3%にとどまります。規模が小さい企業ほど、経営状況が直接的に賞与の有無や額に影響を与えやすいと言えるでしょう。
さらに、年齢や勤続年数によっても支給額は変動します。経験や役職が上がるにつれて、責任範囲の拡大とともに賞与額も増加する傾向にあるのが一般的です。ご自身の業界や企業の状況を把握することが、賞与への理解を深める第一歩となります。
中小企業における賞与の現状:平均額との乖離と「雀の涙」の場合
中小企業のボーナス支給率と3割の壁
中小企業で働く人々にとって、ボーナスが「支給されるかどうか」は大きな関心事です。残念ながら、すべての中小企業がボーナスを支給しているわけではありません。
2023年の調査によると、夏のボーナスが支払われた中小企業は全業種の約66%、冬のボーナスでも同様に約70%の支給率でした。この数字が示すのは、およそ3割の中小企業ではボーナスが支給されていないという厳しい現実です。
特に企業規模が小さいほどその傾向は顕著で、従業員数30人以上の企業では90%以上が賞与を支給しているのに対し、5~29人の企業では67.3%にとどまっています。この「3割の壁」は、中小企業の経営の厳しさや、賞与を出すための経営体力の差を浮き彫りにしています。
ボーナスがない、または少ない企業では、従業員のモチベーション維持や、優秀な人材の確保がより一層難しくなるという課題を抱えています。
大手企業との平均額の大きな差とその理由
中小企業のボーナス平均額と、大手企業(東証プライム上場企業など)のそれとでは、歴然とした差があります。先述の通り、2024年夏のボーナス平均支給額は中小企業で約35万円だったのに対し、東証プライム上場企業では平均84万6,021円と、その差は約50万円にも及びます。
この大きな乖離の背景には、いくつかの理由が挙げられます。まず、大手企業は一般的に潤沢な資本力と大規模な事業展開によって、安定した収益を上げやすい傾向にあります。これにより、従業員への利益還元としての賞与原資を確保しやすいのです。
一方、中小企業は市場の変動や景気の影響を受けやすく、経営状況が賞与額に直結しやすい傾向にあります。また、大手企業に比べて労働生産性や付加価値生産性が低い場合もあり、それが賞与額の差として現れることもあります。このような構造的な問題が、ボーナスの格差を生み出していると言えるでしょう。
「雀の涙」と感じる寸志の背景
「雀の涙」と表現されるような数万円程度の寸志を受け取ることも、中小企業では珍しくありません。なぜこのような少額のボーナスが支給されるのでしょうか。
まず、賞与は法律上、企業が必ず支給しなければならないものではありません。多くの企業では就業規則や労働契約で支給の有無や算定方法を定めていますが、法的義務がない以上、企業の経営判断に委ねられます。
少額の賞与が支給される背景には、企業の業績不振や、経営が厳しい状況が挙げられます。本来であればボーナスを支給したいという経営者の思いはあるものの、全従業員にまとまった額を支給するほどの原資がない場合、寸志という形で感謝の気持ちを示すことがあります。
また、人件費は企業にとって大きなコストであり、将来の事業継続のために賞与を抑制するケースもあります。従業員にとっては期待外れに感じるかもしれませんが、企業側としては、それでも何とか感謝の意を示し、従業員のモチベーションを保ちたいという苦しい事情があることを理解しておく必要があるでしょう。
賞与が少ない・数万円・寸志程度:その背景と違法性の判断
賞与支給の法的義務と企業の裁量
賞与について考える上で、まず押さえておきたいのが、賞与の支給は企業に法的な義務がないという点です。賃金とは異なり、労働基準法などの法律で賞与の支給が義務付けられているわけではありません。
したがって、賞与の有無や支給額は、基本的に企業の裁量に委ねられています。ただし、就業規則や労働契約書、雇用契約書などに「賞与を支給する」「支給基準」などが明記されている場合は、企業はその内容に従う義務が生じます。この場合、契約通りの賞与が支払われないと、契約違反となり違法性が発生する可能性があります。
もし賞与が支払われない、あるいは支給額が大幅に少ないと感じた場合は、まずご自身の労働契約や就業規則を確認することが重要です。そこに賞与に関する具体的な記載がない限り、企業が賞与を支給しなくても、法的には問題がないのが実情です。
「少ない」と感じる賞与の主な理由
「少ない」と感じる賞与の背景には、複数の要因が考えられます。
- 企業の業績不振や経営状況の悪化:最も直接的な理由として、企業の収益が低迷している場合、賞与の原資が確保できません。
- コスト削減や人件費抑制:厳しい経済環境下で、企業がコスト削減策として人件費、特に賞与を抑制するケースがあります。
- 個人の評価・業績:業績連動型賞与の場合、個人の目標達成度や貢献度が低いと評価されれば、その分賞与額も減少します。
- 中小企業特有の事情:大手企業に比べて資本力が小さく、外部環境の変化に影響されやすいため、賞与額が変動しやすい傾向にあります。
これらの理由から、特に中小企業では、ボーナスが期待していたよりも少ない、あるいは寸志程度に留まってしまうことが少なくありません。ご自身の賞与額に疑問を感じたら、これらの背景を考慮し、可能であれば企業に説明を求めるのも一つの方法です。
賞与が寸志・数万円の場合の注意点
賞与が寸志や数万円程度である場合、従業員としては「これは違法ではないのか?」と疑問に思うかもしれません。しかし、前述の通り、就業規則や労働契約に具体的な支給額や算定基準が明記されていない限り、少額であること自体が直ちに違法となるわけではありません。
大切なのは、まずご自身の労働契約書や就業規則をしっかりと確認することです。もしそこに「基本給の2ヶ月分を支給する」といった具体的な記載があるにもかかわらず、それが守られていない場合は、契約違反となります。この場合は、会社に対して説明を求めたり、労働基準監督署に相談することも可能です。
一方で、契約書に賞与に関する明確な記載がない、あるいは「会社の業績による」といった裁量的な表現しかない場合、たとえ寸志程度であっても違法性を問うのは難しいでしょう。この状況は、あくまで企業から従業員への感謝やねぎらいの気持ちとして贈られる「恩恵的なもの」と捉えられることが多いためです。
期待していた金額とのギャップに戸惑うかもしれませんが、まずは契約内容を確認し、その上で今後の働き方やキャリアプランを考えるきっかけとすることが賢明です。
賞与の推移と使い道:貯金や投資、趣味への活用
近年の賞与の推移と経済動向
近年の賞与の推移は、日本経済全体の動向と密接に関連しています。2025年夏の夏季賞与予測では、民間企業全体の1人当たりの支給額が前年比+2.2%の42万5,000円とされています。これは、物価高騰や政府による賃上げ要請などの影響を受け、企業が従業員への還元を強化する動きを示していると言えるでしょう。
特に、大手企業では連合の春闘における満額回答やそれを上回る賃上げが話題となり、賞与にもその影響が波及しています。しかし、中小企業においては、原材料費の高騰や人手不足といった課題も多く、大手企業ほど賃上げや賞与増額の恩恵を受けにくいのが現状です。
景気が良い時期には企業の利益が増加し、賞与も増える傾向にあります。逆に、不景気や企業の業績が悪化すれば、賞与は減少したり、支給が見送られたりすることもあります。このように、賞与は単なる報酬ではなく、経済のバロメーターとしての役割も果たしているのです。
賢い賞与の使い道:貯蓄・投資・自己投資
まとまった金額である賞与は、計画的に使うことで将来の生活を豊かにする大きなチャンスとなります。賢い使い道として、主に以下の3つが挙げられます。
- 貯蓄:まずは緊急時のための貯蓄を確保することが大切です。急な病気や失業など、予期せぬ事態に備えるための資金として、生活費の3ヶ月~半年分を目安に貯蓄しておくと安心です。
- 投資:預貯金だけでは増えにくい時代において、将来の資産形成のために投資を検討するのも良いでしょう。少額から始められるNISAやつみたてNISAなどを活用し、リスクを分散しながら長期的な視点で資産を育てることを検討してみてください。
- 自己投資:自身のスキルアップやキャリアアップに繋がる自己投資も有効な使い道です。資格取得のための学習費用、セミナー参加費用、ビジネス書の購入など、自身の市場価値を高めるための投資は、将来的に賃金アップやキャリアの選択肢を広げることに繋がります。
これらの使い道をバランス良く組み合わせることで、現在の生活の安定と将来の展望の両方を確保することができます。
日々の生活を豊かにする賞与の活用法
賢い使い道だけでなく、賞与を「日々の生活を豊かにするため」に活用することも大切です。頑張った自分へのご褒美や、家族や大切な人との思い出作りなど、精神的な満足度を高める使い方も、モチベーション維持には不可欠です。
- 趣味や旅行:普段は我慢している趣味の道具を購入したり、家族や友人と旅行に出かけたりすることで、リフレッシュやストレス解消に繋がります。
- 高額な買い物:欲しかった家電製品や家具、洋服など、普段は手を出しにくい高額なアイテムを購入する機会としても最適です。
- ローンの繰り上げ返済:住宅ローンや自動車ローンなどがある場合、一部を繰り上げ返済することで、利息負担を軽減し、将来の経済的負担を軽くすることができます。
- 家族へのプレゼント:日頃の感謝を込めて、家族やパートナーにプレゼントを贈ることも、関係性を深め、喜びを分かち合う素晴らしい方法です。
賞与を賢く、そして楽しく使うことで、日々の労働へのモチベーションを維持し、充実した生活を送るための源とすることができるでしょう。
賞与と最低賃金の関連性:知っておくべきポイント
賞与は最低賃金の算定基礎に含まれるか?
賞与と最低賃金は、どちらも労働者の賃金に関するものですが、その算定における扱いは異なります。結論から言うと、賞与は原則として最低賃金の算定基礎には含まれません。
最低賃金の算定対象となるのは、「毎月支払われる基本的な賃金」とされています。具体的には、基本給や役職手当、精勤手当などが該当します。これに対し、賞与(ボーナス)は、支給額が不確定であったり、臨時に支払われたりする性質の賃金であるため、最低賃金の計算には含めないとされています。
これは、最低賃金制度が労働者の生活を保障するための最低限の賃金を確保することを目的としているためです。賞与は企業の業績や個人の評価に左右され、必ずしも安定的に支給されるものではないため、これを算定に含めてしまうと、最低賃金の趣旨が損なわれる可能性があるからです。
賞与の有無が労働者の生活に与える影響
賞与が最低賃金の算定基礎に含まれないとはいえ、その有無が労働者の生活に与える影響は非常に大きいものがあります。
特に最低賃金に近い賃金で働く労働者にとって、賞与の有無は年収に大きく影響し、生活設計の安定性に直結します。賞与があれば、急な出費への備えや、教育費、医療費、あるいは自己投資など、将来に向けた資金計画を立てやすくなります。
一方、賞与が全く支給されない企業で働く場合、月々の給与のみで年間を通じた生活費や貯蓄を賄う必要があり、経済的な余裕が生まれにくい傾向にあります。これは、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下に繋がり、ひいては人材の定着率にも影響を与える可能性があります。
中小企業が賞与を支給するメリットとして、従業員のモチベーション向上やエンゲージメントの向上が挙げられるのは、まさにこの「生活への影響」が大きいからに他なりません。
労働条件としての賞与の重要性
求職者が企業を選ぶ際、労働条件として賞与の有無や支給実績は非常に重要な判断材料となります。特に、優秀な人材を獲得し、長く定着してもらいたいと考える企業にとって、魅力的な賞与制度の構築は不可欠です。
企業側が賞与を導入するメリットは、単に利益を従業員に還元するだけでなく、従業員の「頑張りが報われる」という実感を促し、仕事への意欲を高めることにあります。また、賞与があることで、企業全体のエンゲージメントが向上し、一体感のある組織文化の形成にも繋がります。
労働契約書や求人情報において、賞与に関する明確な記載があることは、企業が労働条件の透明性を確保している証でもあります。求職者は、賞与の有無だけでなく、支給条件や過去の実績なども確認し、自身のキャリアプランやライフプランに合った企業を選ぶことが重要です。
賞与は単なる臨時収入ではなく、労働者の生活と企業の経営、そして労働市場の健全な発展を支える重要な要素と言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 賞与の平均額や中央値は、一般的に何ヶ月分くらいですか?
A: 賞与の平均額は、景気や業種によって変動しますが、一般的には給与の1ヶ月分から数ヶ月分が相場とされています。中央値は平均値よりも実態に近い数値を示すことが多く、より多くの人が実感しやすい数字です。
Q: 中小企業では、大企業と比べて賞与にどのような違いがありますか?
A: 一般的に、中小企業は大企業に比べて業績の変動が賞与に影響しやすく、賞与額も少ない傾向があります。経営状況によっては、賞与の支給自体がなかったり、寸志程度になることもあります。
Q: 賞与が数万円や寸志程度、あるいは「雀の涙」と言えるほど少ない場合、法的に問題はありますか?
A: 賞与は法律で定められた「最低賃金」とは異なり、原則として企業と従業員の間の労働条件(就業規則や労働契約)で定められます。そのため、賞与額が少ないこと自体が直ちに違法となるわけではありません。しかし、就業規則等で定められた支給条件を満たしているか、不利益な変更がないかなどが問題となる場合があります。
Q: 賞与の使い道として、貯金や投資の割合はどのくらいが一般的ですか?
A: 賞与の使い道は個人のライフスタイルや目標によりますが、貯金や投資に回す割合は、将来への備えや資産形成を意識する方が増えています。平均的な割合は一概には言えませんが、3割~5割程度を貯蓄や投資に充てる方が多いようです。
Q: 賞与と最低賃金にはどのような関係がありますか?
A: 賞与は、最低賃金とは直接関係ありません。最低賃金は、労働者が受け取るべき最低限の賃金水準を定めたもので、時間給または月給として定められます。賞与は、業績や貢献度に応じて支払われるもので、最低賃金とは別枠のものです。
