概要: 賞与(ボーナス)から差し引かれる所得税の計算方法に悩んでいませんか?この記事では、賞与の源泉所得税の基本的な計算方法から、所得税額表の見方、端数処理、さらにはQ&Aまで、分かりやすく徹底解説します。
賞与の所得税、なぜ計算が複雑? 基本を理解しよう
毎月の給与との違いとは?
賞与(ボーナス)にかかる所得税は、毎月の給与から天引きされる所得税とは、計算方法が大きく異なります。
毎月の給与では「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」が使われるのに対し、賞与では「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」という別の表を参照します。
この違いは、賞与が一時的な、変動の大きい収入であるという特性を考慮しているためです。
毎月の給与は比較的安定していますが、賞与は企業の業績や個人の評価によって金額が大きく変わることがあります。
そのため、毎月の給与とは異なるアプローチで公平な税負担を求める必要があるのです。
この複雑さを理解することが、賞与の手取り額を把握する第一歩となります。
所得税計算のキーポイント:社会保険料控除
賞与にかかる所得税を計算する上で、非常に重要なのが「社会保険料控除」です。
所得税の計算式では、賞与の支給額からまず社会保険料が差し引かれた後の金額が課税対象となります。
この社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳から64歳まで)、雇用保険料が含まれます。
これらの社会保険料は、それぞれ独自の計算式に基づいて算出され、賞与の支給額に応じて変動します。
つまり、賞与の額が大きくなれば社会保険料も増え、その結果として所得税の課税対象額も変わってくるのです。
所得税を計算する前に、これらの社会保険料がいくら差し引かれるのかを正確に把握することが不可欠です。
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の役割
賞与の源泉徴収税率を決定するために用いられるのが、国税庁が公表している「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」です。
この表は、賞与の税率がどれくらいになるかを判断するための、いわば羅針盤のようなものです。
この表を参照するには、主に二つの情報が必要となります。
一つは、「賞与支給月の前月の給与額(社会保険料控除後)」です。
これは、通常の給与水準に基づいて税率を決定するための基準となります。
もう一つは、「扶養親族等の数」です。
扶養している家族が多いほど税負担が軽減されるという税制の考え方が、この表にも反映されています。
これらの情報が組み合わされることで、適用される正確な源泉徴収税率が導き出されるため、計算が複雑に見える原因の一つとなっています。
賞与の源泉所得税、計算方法と計算式を分かりやすく解説
基本的な計算式とその構成要素
賞与から差し引かれる源泉所得税の基本的な計算式は、以下のようになります。
源泉所得税額 = (賞与支給額 – 社会保険料)× 源泉徴収税率
この式はシンプルに見えますが、それぞれの構成要素を正しく理解することが重要です。
まず「賞与支給額」は、税金や社会保険料が差し引かれる前の、会社から提示されるボーナスの総額です。
次に「社会保険料」は、前述の通り健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料の合計額を指します。
最後に「源泉徴収税率」が最も変動しやすい要素で、これは後述するプロセスで決定されます。
この計算は、社会保険料控除後の金額に対して税金がかかるという原則に基づいています。
源泉徴収税率の決定プロセスを詳解
賞与の源泉徴収税率を決定するプロセスは、以下のステップで進められます。
- 前月の給与額(社会保険料控除後)の確認: 賞与が支給される月の前月に支払われた給与の総額から、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)を差し引いた金額を算出します。これが、税率を決定するための基本的な基準となります。
- 扶養親族等の数の確認: 従業員が扶養している配偶者やその他の親族の数を把握します。扶養親族の数が多いほど、税率が低くなる傾向があります。
- 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の参照: 上記2つの情報を基に、国税庁が提供する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照し、該当する税率を特定します。この表は縦軸と横軸で構成されており、適切な欄を探し出すことで税率が判明します。
この複雑なプロセスを経て、個々の状況に応じた源泉徴収税率が決定され、所得税額が計算されるのです。
特殊なケースでの計算:前月に給与がない場合や高額賞与の場合
賞与の所得税計算には、いくつかの特殊なケースが存在します。
例えば、賞与支給月の前月に給与の支払いがない場合です。
このケースでは、通常の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使うことができません。
その代わりに、賞与支給額から社会保険料等を差し引いた金額を6で割り、その金額を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめて税額を算出します。
その後、算出した税額に6を掛けたものが、最終的な賞与の所得税額となります。
また、賞与額が前月の給与額の10倍を超えるような非常に高額な賞与の場合も、通常の計算方法とは異なります。
この場合も「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」が使われますが、計算方法に若干の違いがあります。
具体的には、賞与支給額から社会保険料を引いた額を6で割り、さらに賞与支給月の前月の給与から社会保険料を引いた額を足して「基準額」を算出します。
この基準額に基づいて税額を求めることになり、専門的な知識が必要とされる場面も少なくありません。
賞与の所得税額表の見方と、前月の給与との関係
税額表の構造と読み解き方
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」は、賞与から差し引かれる所得税の税率を決定するための重要なツールです。
この表は、縦軸に「扶養親族等の数」、横軸に「前月の社会保険料控除後の給与等の金額」が配置されています。
例えば、扶養親族が0人の場合と2人の場合では、同じ前月の給与額でも適用される税率が異なります。
具体的な読み解き方は、まず自身の扶養親族の数を確認し、表の縦軸から該当する列を選びます。
次に、賞与支給月の前月の給与額(社会保険料控除後)を算出し、表の横軸からその金額が当てはまる範囲を見つけます。
これら二つの情報が交差する箇所に示されているのが、賞与に適用される源泉徴収税率となります。
この税率を、社会保険料控除後の賞与額に掛けることで、源泉所得税額が算出される仕組みです。
前月の給与額が税率に与える影響
「賞与支給月の前月の給与額(社会保険料控除後)」は、賞与の源泉徴収税率を決定する上で極めて重要な要素です。
この金額が低いほど、賞与にかかる源泉徴収税率も低くなる傾向があります。
これは、所得が少ない人には税負担を軽減するという税制の基本的な考え方に基づいています。
例えば、前月の給与が20万円(社会保険料控除後)のAさんと、30万円のBさんがいたとします。
二人とも扶養親族の数が同じで、同じ額の賞与を受け取ったとしても、Aさんの方が適用される源泉徴収税率が低くなる可能性があります。
このように、毎月の給与額が賞与の所得税に間接的に影響を与えるため、月々の給与変動にも注意を払うことが大切です。
扶養親族の有無と人数の重要性
源泉徴収税率の決定において、扶養親族の有無やその人数は非常に大きな影響を与えます。
扶養親族とは、生計を一つにしている配偶者や子供、親族などを指し、税法上の要件を満たす場合にカウントされます。
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」では、扶養親族の数が多いほど、適用される源泉徴収税率が低く設定されています。
これは、扶養家族が多い世帯の税負担を軽減するための措置です。
例えば、扶養親族が0人の場合と、配偶者と子供2人を扶養している4人家族の場合では、同じ給与と賞与額でも後者の方が所得税額が少なくなることが一般的です。
年末調整などで扶養親族の申告を正確に行うことは、適正な税負担につながるため、非常に重要です。
端数処理や電子計算機による計算、知っておきたいポイント
計算における端数処理のルール
所得税額の計算では、途中で生じる端数(1円未満の金額)の処理が非常に重要です。
一般的に、源泉所得税の計算における端数処理は、1円未満の端数を切り捨てるというルールが適用されます。
このルールは、国税庁の指針や税法に基づいており、全ての企業で統一して適用されるべきものです。
例えば、計算結果が15,345.67円となった場合、切り捨てによって15,345円が所得税額となります。
わずかな差に見えるかもしれませんが、多数の従業員に適用される賞与計算では、この端数処理が全体の税額に影響を及ぼす可能性があります。
会社によっては、内部規定で異なる処理を行う場合もあるかもしれませんが、基本的には切り捨てが原則であることを覚えておくと良いでしょう。
会社が用いる電子計算機システムの役割
現代の企業では、給与や賞与の計算はほとんどの場合、電子計算機システム(給与計算ソフトや人事・給与システム)によって自動的に行われています。
これらのシステムは、複雑な税額表の参照、社会保険料の計算、端数処理といった一連のプロセスを正確かつ迅速に処理するために不可欠です。
電子計算機システムを利用することで、ヒューマンエラーのリスクを大幅に削減し、従業員一人ひとりの状況に応じた正確な所得税額を算出することが可能になります。
従業員自身が手計算する必要はありませんが、システムがどのようなルールに基づいて計算しているかを理解しておくことで、自身の給与明細や賞与明細の記載内容をより深く理解できるようになります。
年末調整で最終調整されることの理解
賞与から天引きされる所得税は、あくまで「源泉徴収」であり、いわば所得税の「仮払い」に過ぎません。
年間の正確な所得税額は、その年の全ての所得や控除が確定した後に、年末に行われる「年末調整」によって最終的に計算されます。
年末調整では、毎月の給与や賞与から徴収された所得税の合計額と、本来納めるべき年間の所得税額とを比較し、過不足が生じた場合に還付や追加徴収が行われます。
例えば、年の途中で生命保険料控除の対象となる保険に加入したり、医療費控除の対象となる支出があったりした場合、年末調整で税金が還付されることがあります。
令和7年(2025年)の税制改正では、賞与に対する源泉徴収税率自体に変更はありませんが、基礎控除や給与所得控除の見直しが継続されており、高所得者層では年末調整で追加納税が発生する可能性もあります。
このように、源泉徴収はあくまで途中経過であり、最終的な税額は年末調整で確定することを理解しておくことが重要です。
知っておきたい!賞与の所得税に関するQ&A
Q1: 賞与の所得税を減らす方法はありますか?
賞与の所得税を直接的に減らす特効薬はありませんが、合法的な手段で税負担を軽減する方法はいくつか存在します。
最も効果的なのは、社会保険料控除を最大限に活用することです。
例えば、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入すれば、その掛金全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税の負担を減らすことができます。
また、生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除なども年末調整や確定申告で活用することで、年間の所得税額全体を減らすことが可能です。
扶養親族の正確な申告も重要で、扶養家族が多い場合は税負担が軽減されます。
これらの控除制度を適切に利用することで、結果的に賞与にかかる所得税相当額も実質的に軽減されることになります。
Q2: 賞与の所得税は年末調整で還付されることがありますか?
はい、賞与の所得税が年末調整で還付されることは十分にあり得ます。
源泉徴収はあくまで「仮払い」であるため、年間の所得税額が確定する年末調整で、源泉徴収された金額が必要な税額を上回っていた場合、その差額が還付されます。
還付が発生しやすいケースとしては、以下のような状況が考えられます。
- 年の途中で結婚・出産などにより扶養親族が増えたが、会社への申告が遅れた場合。
- 生命保険料やiDeCoなど、所得控除の対象となる支払いをしたが、年末調整で控除の申請が漏れていた、あるいは途中で始めた場合。
- 年の途中で退職し、年間の所得が減少したため、それまでに源泉徴収された税額が多かった場合。
- 多額の医療費を支払い、医療費控除の対象となった場合(この場合は確定申告が必要です)。
これらのケースに該当しないか、自身の状況を確認してみましょう。
Q3: 税制改正は賞与の所得税にどう影響しますか?
令和7年(2025年)の税制改正においては、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」自体に変更はありません。
したがって、賞与から直接差し引かれる源泉徴収税率に、直ちに大きな影響が出ることは想定されていません。
しかし、税制改正は常に動いており、基礎控除や給与所得控除の見直しは継続して議論されています。
これらの見直しは、毎月の給与や賞与からの源泉徴収額には直接影響しなくとも、年末調整で年間の所得税額を確定する際に影響が出る可能性があります。
特に、高所得者層においては、所得控除の調整によって年末調整で追加の納税が必要となるケースも考えられます。
最新の正確な情報や詳細な計算については、国税庁のウェブサイトや税理士などの専門家にご確認いただくことを強くお勧めします。
まとめ
よくある質問
Q: 賞与にかかる所得税とは具体的に何ですか?
A: 賞与にかかる所得税とは、給与所得に対して課される所得税のうち、賞与(ボーナス)から天引きされる税金のことです。正式には「源泉所得税」と呼ばれます。
Q: 賞与の源泉所得税の計算方法を教えてください。
A: 賞与の源泉所得税は、原則として「(賞与の金額 – 社会保険料の合計額)× 所得税率」で計算されます。所得税率は、前月の給与から社会保険料を差し引いた金額によって決まる「賞与の源泉所得税額表」を参照して決定されます。
Q: 賞与の源泉所得税額表では、前月の給与とは何を参照しますか?
A: 賞与の源泉所得税額表で参照する「前月の給与」とは、前月に支払われた給与から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)を差し引いた金額のことを指します。この金額によって、賞与の所得税率が決まります。
Q: 賞与の源泉所得税の計算で端数処理はどのように行われますか?
A: 賞与の源泉所得税の計算において、計算結果に1円未満の端数が出た場合は、切り捨てられるのが一般的です。ただし、具体的な端数処理の方法は給与計算システムや会社の規定によって異なる場合があります。
Q: 電子計算機(コンピューター)で賞与の所得税を計算する場合、注意点はありますか?
A: 電子計算機で賞与の所得税を計算する場合、最新の税法や源泉所得税額表に基づいて正確にプログラムされているか確認することが重要です。また、計算方法や端数処理についても、システムの設定を確認しておくと良いでしょう。
