概要: OJTのばらつきは、育成担当者によって指導内容に差が出てしまう課題です。本記事では、このばらつきを解消し、効果的なOJTを進めるための具体的な方法と、パワハラと誤解されないための注意点について解説します。
OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務を通して実践的なスキルや知識を習得できるため、多くの企業で採用されている人材育成手法です。しかし、「OJTのばらつき」は多くの企業が抱える共通の課題であり、育成の質に差が生じる原因となっています。
本記事では、OJTのばらつきを解消し、効果的な進め方と注意点について、最新の情報を基に解説します。
OJTにおける「ばらつき」とは?その原因と影響
OJTのばらつき、その実態と課題感
OJTの「ばらつき」とは、主にトレーナー(指導者)によって指導内容や方法、評価基準に差が生じ、結果としてトレーニー(指導を受ける人)のスキル習得度や成長スピードに偏りが出ることです。
このばらつきは、企業が人材育成において直面する共通の課題であり、その根本にはいくつかの原因が潜んでいます。例えば、指導する側のスキルや経験、教え方によって、育成される側のスキルや知識習得に差が生じることは少なくありません。ベテラントレーナーと若手トレーナーでは、教える内容の網羅性やフィードバックの質に違いが出てしまうのは自然なことです。
実際、多くの企業がこの課題を認識しており、調査によると「指導のばらつきに課題感を持つ企業は49.7%にのぼります」。半数近くの企業がこの問題に頭を悩ませている状況は、OJTの効果を最大化するためには避けて通れない問題であることを示しています。
OJTの目的や進め方が明確に標準化されていない場合も、担当者ごとに育成内容が異なり、ばらつきの原因となります。育成の質に差が生じることで、企業の競争力低下にも繋がりかねません。
属人化を招く「現場任せ」OJTの落とし穴
OJTのばらつきが生じる大きな原因の一つに、OJTが「現場任せ」になっている状況があります。
「現場任せ」とは、体系的な人材育成計画がなく、各部署やトレーナー個人の判断にOJTの全てが委ねられている状態を指します。これにより、OJTにかけられる時間や人的リソースが部署や時期によって大きく異なり、結果として育成の質に大きな影響を与えてしまいます。例えば、繁忙期には十分な指導時間が確保できなかったり、特定のトレーナーに負担が集中したりすることがあります。
また、組織全体でOJTを管理・支援する体制が整っていないと、トレーナーはOJTの進め方や評価方法について相談する場所がなく、属人的な育成になりがちです。これにより、指導の質が特定のトレーナーの経験やスキルに依存し、他のトレーナーとの間で大きな差が生じてしまうのです。
このような状況では、個々の対象者の成長度合いを適切に把握できていないことも多く、画一的な指導になりがちで、個人の特性を活かした育成が難しくなります。結果として、OJTの効果が薄れ、期待したような人材育成が実現できないという悪循環に陥る可能性があります。
ばらつきが企業にもたらす具体的な損失
OJTのばらつきは、単に個々のトレーニーの成長に影響を与えるだけでなく、企業全体に多大な損失をもたらす可能性があります。
まず、OJTの質に差があることで、トレーニーは「なぜ自分だけ指導が手薄なのだろう」「他の部署の同期はもっと進んでいるのに」といった不公平感やモチベーションの低下を感じやすくなります。これは早期離職のリスクを高め、新たな人材採用・育成コストの増加につながります。
次に、スキル習得のばらつきは、組織全体の生産性低下に直結します。特定の業務を遂行できる人材が限られたり、業務品質にムラが生じたりすることで、事業のスムーズな運営が妨げられる可能性があります。結果として、顧客満足度の低下や企業ブランドの毀損にも繋がりかねません。
さらに、計画性のないOJTは、トレーナーにとっても大きな負担となります。本来の業務と並行してOJTを行う中で、明確なガイドラインやサポート体制がないことは、トレーナー自身の疲弊やストレスの原因となり、指導の質をさらに低下させる悪循環を生み出します。
参考情報によれば、「正社員に対して計画的なOJTを実施している事業所の割合は60.2%」に留まっており、まだ約4割の企業が計画的なOJTを実施できていない現状があります。この数字は、多くの企業がばらつきの解消に向けて、体系的なOJTの導入が急務であることを示唆しています。
OJTの「ばっかり」を避ける!主体的な学びを促す方法
「やってみせる」だけじゃない!能動的な学習を促す指導法
OJTにおける「ばっかり」という言葉は、「トレーナーが一方的に教えるばかりで、トレーニーは聞いているばかり」「あるいは、簡単な業務ばかりを任されて、実践的な学びが少ない」といった状況を指すことがあります。このような一方的なOJTは、トレーニーの主体的な学びを阻害し、成長を停滞させてしまいます。
効果的なOJTでは、単にトレーナーが「やってみせる」だけでなく、トレーニーが能動的に関わる機会を多く作ることが重要です。そのための指導プロセスとして、「4段階職業指導法」が非常に有効です。
- やってみせる:まずトレーナーが模範を示し、全体像を理解させる。
- 説明する:次に、なぜそうするのか、ポイントはどこかなどを詳しく解説する。
- やらせてみる:そして、トレーニーに実際にやらせてみる。これが最も重要なステップです。失敗を恐れずに挑戦させる環境が大切です。
- 評価する(見守る・改善させる):トレーニーの取り組みを評価し、具体的なフィードバックを与える。必要であれば、改善点を指摘し、再度挑戦させる。
特に「やらせてみる」段階では、トレーナーは過度な手出しをせず、適度な距離で見守ることが大切です。トレーニー自身が試行錯誤する中で、本質的な学びや問題解決能力が培われます。そして、具体的な行動に対するポジティブなフィードバックや、改善に向けた建設的なアドバイスを通じて、トレーニーの主体性を引き出し、次の行動を促すことができるのです。
目標設定と計画策定でトレーニーの学習意欲を引き出す
主体的な学びを促すためには、OJTの初期段階で明確な目標設定と計画策定を行うことが不可欠です。
「会社や人事部門が現場責任者や上司と協力し、OJTの目標や期待される人物像を明確に定義します。」これにより、トレーニーは「何のためにOJTを受けているのか」「最終的にどのような状態を目指すのか」を具体的に理解することができます。目標が不明確なOJTは、目的意識の欠如につながり、「やらされ感」が強くなってしまいがちです。
次に、「育成計画書を作成し、トレーニーとトレーナー双方の役割と責任を明確にします」。この計画書には、習得すべきスキルリスト、各スキルの習得目標時期、評価基準、そしてOJTの具体的な進め方などを盛り込みます。この際、計画策定の段階でトレーニー自身の意見やキャリアパスへの希望も聞くことで、目標へのコミットメントを高め、学習意欲を引き出すことができます。
例えば、「〇ヶ月後までに〇〇の業務を一人で完遂できるようになる」「〇〇の資格取得に向けた学習を並行して進める」といった具体的な目標を設定し、それに基づいたステップを計画に落とし込むことで、トレーニーは自身の成長を実感しやすくなります。
明確な目標と計画は、トレーニーが主体的にOJTに取り組むための羅針盤となり、トレーナーにとっても一貫した指導を行う上での強力な指針となるのです。
デジタルツールの活用で自律的な学びを支援
現代のOJTにおいて、トレーニーの主体的な学びを支援する強力なツールとして、デジタル技術の活用が注目されています。
「動画マニュアルの活用や学習プラットフォームの導入により、いつでもどこでも学習できる環境を整備し、指導の標準化や効率化を図ることができます。」トレーナーが常に傍にいることができない状況でも、トレーニーは必要な情報を自身のペースで、繰り返し学習することが可能です。
例えば、複雑な機械の操作手順や社内システムの利用方法などを動画で提供することで、視覚的に理解を深めることができます。また、eラーニングシステムを活用すれば、業務知識に関する理解度テストや進捗管理も容易に行えます。これにより、トレーニーは自身の学習状況を客観的に把握し、不足している部分を自ら補う「自律的な学習」を促進することができます。
さらに、デジタルツールは学習データの収集・分析にも役立ちます。どのコンテンツがよく視聴されているか、どのテストで多くの間違いがあるかなどを分析することで、OJTコンテンツ自体の改善や、個々のトレーニーに合わせたパーソナライズされた学習パスの提案が可能になります。これにより、トレーナーはより効率的に、かつ効果的にトレーニーの主体的な学びをサポートできるのです。
「約4社に1社はOJTへの取り組みを強化する意向を示しています」というデータが示すように、今後デジタルツールの導入はOJTの標準化と効率化の鍵となるでしょう。
OJTが「パワハラ」にならないために:信頼関係構築の秘訣
コミュニケーションの質を高めるトレーナーの役割
OJTはトレーニーの成長を促す貴重な機会ですが、一歩間違えれば、指導と称したパワハラに発展してしまうリスクも孕んでいます。OJTがパワハラにならないためには、トレーナーのコミュニケーションの質が極めて重要です。
トレーナーは、単に業務知識を教えるだけでなく、トレーニーが安心して質問できる、意見を言えるような心理的安全性の高い環境を築く役割を担います。そのためには、一方的な指示や高圧的な態度を避け、傾聴の姿勢を持つことが不可欠です。トレーニーの話に耳を傾け、彼らの悩みや不安、疑問を理解しようと努めることが、信頼関係の第一歩となります。
また、フィードバックの与え方にも注意が必要です。人格を否定するような言葉ではなく、具体的な行動や業務内容に焦点を当てた建設的なフィードバックを心がけましょう。例えば、「なぜこんなこともできないんだ」ではなく、「この部分については、〇〇のやり方を試してみてはどうだろうか」といった具体的な改善策を提示することが求められます。
参考情報でも「トレーナーへの研修とサポート」の中で「コミュニケーションスキル」の重要性が挙げられています。トレーナー自身が適切なコミュニケーションスキルを身につけ、それをOJTの中で実践することが、パワハラ防止と健全な育成環境の構築に繋がります。
定期的な1on1が「パワハラ」防止と成長の鍵
トレーニーとの信頼関係を深め、OJTがパワハラにならないための有効な手段として、定期的な1on1ミーティングが挙げられます。
「定期的な面談(1on1)などを実施し、トレーニーの進捗状況を把握し、個別具体的なフィードバックを行います」とあるように、1on1は単なる業務の進捗報告の場ではありません。これは、トレーニーが抱えている課題、業務における悩み、キャリアパスに関する不安などを打ち明けられる貴重な機会です。トレーナーはここで、トレーニーの言葉に真摯に耳を傾け、共感し、必要に応じて適切なアドバイスやサポートを提供することができます。
この対話を通じて、トレーナーはトレーニーの状況を深く理解し、無理な業務量を与えていないか、精神的なプレッシャーを与えていないかなどを確認することができます。また、トレーニーが「パワハラかもしれない」と感じるような言動があった場合にも、早期にその兆候を察知し、対応することが可能になります。これにより、問題が深刻化する前に解決を図り、健全な育成関係を維持することができます。
1on1の実施は、トレーニーが「自分は気にかけてもらえている」と感じ、安心感を持ってOJTに取り組むことにもつながります。信頼関係が構築されていれば、多少厳しいフィードバックであっても、トレーニーはそれを成長の糧として受け止めやすくなります。
OJTマネジメント体制の強化で安心感を醸成
OJTが「パワハラ」と捉えられないためには、個々のトレーナーの努力だけでなく、組織全体としてのOJTマネジメント体制の強化が不可欠です。
参考情報では「組織的なOJTマネジメント体制の欠如」がばらつきの原因として挙げられていますが、これはパワハラ発生のリスクにも直結します。体系的なOJTの計画やガイドラインがないまま、OJTが現場に丸投げされていると、トレーナーは自身の経験や価値観に基づいて指導せざるを得ません。その結果、意図せず不適切な指導になってしまったり、トレーナー自身の負担が大きくなったりする可能性があります。
組織としては、まずOJTトレーナーに対する適切な研修を実施するべきです。指導スキルやコミュニケーションスキルはもちろんのこと、ハラスメントに関する教育も必須です。具体的には、どのような言動がハラスメントに当たるのか、問題が発生した場合の対処法などを明確に伝える必要があります。
また、トレーナーがOJTを進める上で困った際に相談できる窓口やサポート体制を設けることも重要です。トレーナー自身のストレスや悩みを軽減し、適切な指導ができるよう支援することで、健全なOJT環境を維持できます。さらに、トレーニーからの相談窓口を設置し、匿名でハラスメントの報告ができる仕組みを設けることで、安心してOJTに取り組める環境を醸成することができます。
このように組織全体でOJTの質の向上とリスク管理に取り組むことで、トレーナーとトレーニー双方が安心して育成に取り組める土台が築かれ、「パワハラ」を未然に防ぎ、効果的なOJTを実現できるのです。
OJTの「パフォーマンス評価」を効果的に行うには?
評価の「ばらつき」をなくす標準化された評価基準
OJTのパフォーマンス評価において、指導のばらつきと同様に問題となるのが「評価のばらつき」です。
トレーナーや評価者によって評価基準が異なると、トレーニーは正当な評価を受けていないと感じ、不信感やモチベーションの低下につながります。これを解消するためには、OJTの評価基準を明確に標準化し、誰が評価しても公平な結果が得られるようにすることが不可欠です。
まず、習得すべきスキルリストを具体的に定義し、それぞれのスキルについて「どのレベルに達すれば習得とみなすか」を詳細に記述します。例えば、「顧客対応スキル」であれば、「電話応対で敬語を適切に使い、相手の要望を正確に聞き取り、社内関係部署へ連携できる」といった行動目標と具体的な評価項目を設定します。この際、評価項目は、知識、スキル、態度など多角的な視点から設定すると良いでしょう。
次に、評価者全員がこれらの基準を正しく理解し、適用できるよう、評価者研修を実施することが有効です。研修では、評価基準の説明だけでなく、実際に評価シミュレーションを行い、評価の目線を合わせるトレーニングを行います。これにより、評価者の主観によるばらつきを最小限に抑え、公平で納得感のあるパフォーマンス評価を実現できます。
「OJTの目的、進め方、評価基準などを標準化し、誰が担当しても一定の品質が保たれるようにします」という参考情報の通り、評価の標準化はOJT全体の質を高める上で極めて重要な要素です。
客観的なデータに基づく多角的な効果測定
OJTのパフォーマンス評価を効果的に行うためには、客観的なデータに基づいた多角的な効果測定が不可欠です。主観的な印象だけでなく、数値や事実に基づいた評価を行うことで、より公平で信頼性の高い評価が可能になります。
参考情報で挙げられているように、OJTの効果を測定するためには、以下のような指標が有効です。
- スキル習得率:OJT計画書で定めたスキルリストのうち、期間内に習得できた割合を数値で評価します。例えば、20項目中15項目を習得した場合は75%といった形で客観的に示します。
- 独り立ちまでの期間:指導なしで主要業務を一人で遂行できるようになるまでの期間を計測します。当初の目標期間と比較することで、OJTの効果を測ることができます。
- テスト・課題のスコア:業務知識に関する理解度テストや、OJT期間中に与えられた課題、成果物の評価点数も重要な指標です。これは、知識の定着度や応用力を測る上で役立ちます。
これらの定量的な指標に加えて、トレーナーやチームメンバーからの定性的なフィードバックも組み合わせることで、トレーニーの成長度合いや課題をより深く理解することができます。例えば、積極性やチームへの貢献度といった、数値化しにくい側面を評価することも重要です。
「デジタルツールの活用」によって、学習データの収集・分析を行うことも、客観的な効果測定をより効率的かつ正確に行う上で有効です。これにより、個々のトレーニーの強みや弱みをデータに基づき把握し、よりパーソナルな育成計画へと繋げることができます。
カークパトリックモデルを活用した包括的評価
OJTのパフォーマンス評価をより包括的かつ戦略的に行うためには、「カークパトリックモデル」の活用が非常に有効です。
このモデルは、研修や教育プログラムの効果を「反応」「学習」「行動」「結果」の4段階で評価するフレームワークであり、OJTにも応用できます。単なるスキル習得度だけでなく、OJTが組織にもたらす最終的な成果までを測ることを可能にします。
以下に、カークパトリックモデルの各段階をOJTに適用した例を示します。
| 段階 | 評価の焦点 | OJTにおける具体例 |
|---|---|---|
| 反応 (Reaction) | OJTに対するトレーニーの満足度や意見 | 「OJTは有益だったか」「トレーナーの指導は分かりやすかったか」などのアンケート結果 |
| 学習 (Learning) | 知識、スキル、態度の習得度 | 業務知識テストのスコア、スキル習得率、OJT期間中の課題提出物評価 |
| 行動 (Behavior) | OJTで得た学びが実際の業務で行動変容に繋がったか | OJT終了後の業務パフォーマンス改善、独り立ちまでの期間、チームへの貢献度(上司や同僚からの評価) |
| 結果 (Results) | OJTが組織の具体的なビジネス成果に貢献したか | 生産性向上、顧客満足度向上、エラー率低下、コスト削減など、OJT対象者の活躍による事業成果 |
このモデルを導入することで、OJTの効果を多角的に評価し、単なる学習効果だけでなく、それが実際の業務パフォーマンスや組織全体の目標達成にどのように貢献しているかを可視化できます。
特に「結果」の段階まで評価を行うことは、OJTが単なるコストではなく、企業にとって重要な投資であることを示す上で非常に強力な根拠となります。この包括的な評価を通じて、OJTプログラム自体の改善点も明確になり、次年度以降のOJTの質向上に繋げることが可能になります。
OJTの「成果」を最大化する評価コメントの書き方
成長を促すフィードバックの基本原則
OJTのパフォーマンス評価において、点数や等級付けだけでなく、トレーニーの成長を促すための「評価コメント」は極めて重要です。効果的なコメントは、トレーニーの自己認識を高め、今後の学習・行動変容へと繋がります。
成長を促すフィードバックの基本原則は以下の通りです。
- 具体的な行動に焦点を当てる:「頑張っていた」という抽象的なコメントではなく、「〇〇の業務で、△△の資料作成において、迅速かつ正確に対応できていた」のように、具体的な行動と状況を記述します。
- ポジティブな側面から始める:まずトレーニーの良い点や成長を認め、褒めることから始めましょう。これにより、トレーニーは安心して耳を傾けることができます。
- 改善点は建設的に伝える:「〇〇ができていない」という指摘だけでなく、「〇〇の部分については、△△のように工夫することで、さらに効果が期待できる」といった具体的な改善策やヒントを提示します。
- 「私」を主語にする:「あなたは〇〇だ」ではなく、「私は〇〇の行動を見て、△△だと感じた」という「I(アイ)メッセージ」を使うことで、相手に受け入れられやすくなります。
- タイミングを逃さない:評価の時期だけでなく、日々の業務の中で気づいた点も、なるべくタイムリーにフィードバックすることが重要です。
これらの原則を守ることで、トレーニーは自身の評価を客観的に受け止め、次にどうすれば良いかを具体的にイメージできるようになります。評価コメントは、単なる結果報告ではなく、未来の行動を導く羅針盤となるべきです。
具体的な行動と成果に焦点を当てたコメント例
効果的な評価コメントは、トレーニーの具体的な行動とそれによって得られた成果に焦点を当てることで、納得感と成長への意欲を引き出します。
例えば、次のようなコメントが考えられます。
良いコメント例:
- 「〇〇プロジェクトにおける顧客ヒアリングでは、事前に想定質問を複数準備し、お客様の潜在ニーズまで引き出すことができていました。その結果、提案内容の具体性が大幅に向上し、最終的な受注に大きく貢献しました。素晴らしい成果です。」
- 「報告書作成において、当初は情報整理に時間を要していましたが、OJTで学んだフレームワークを積極的に活用し、短時間で要点をまとめる力が格段に向上しました。特に図解を多用することで、視覚的な分かりやすさも両立できており、資料の品質が大きく改善されています。」
- 「チーム内での情報共有において、常に自ら率先して状況を共有し、必要なサポートを申し出ていました。特に新人への声かけはチーム全体の雰囲気を和ませ、円滑なコミュニケーションに貢献しています。チームワークを重視するあなたの姿勢は非常に評価できます。」
避けるべきコメント例:
- 「全体的によく頑張っていた。今後もこの調子で。」(具体性がなく、次につながりにくい)
- 「もう少し積極性が欲しい。」(抽象的で、どう行動すれば良いか不明)
- 「〇〇の業務が遅い。」(ただ指摘するだけでなく、改善策の提示がない)
良いコメントは、トレーニーが自身の強みや成長した点を具体的に認識し、自信を持って次のステップに進むための原動力となります。また、改善点を指摘する際も、具体的な状況と行動に結びつけて伝えることで、人格否定ではなく、あくまで「業務上の課題」として受け止めてもらいやすくなります。
次のステップにつながる建設的なアドバイス
評価コメントの真価は、過去の評価だけでなく、トレーニーの今後の成長に繋がる建設的なアドバイスが含まれているかどうかで決まります。
トレーニーは評価コメントを通じて、自身の現在地と、次に目指すべき方向性を明確に理解する必要があります。そのため、具体的な課題や改善点に対しては、単に「〜が不足している」と指摘するだけでなく、その課題を乗り越えるための具体的な行動計画や、利用できるリソースを提示することが求められます。
例えば、「〇〇の業務知識については、まだまだ深掘りが必要です。来月中にオンライン学習プラットフォームの△△講座を受講し、不明点は××の先輩に積極的に質問してみましょう。」といった形で、具体的な学習方法や相談相手を示すことができます。
また、新たな挑戦やスキルアップを促すためのアドバイスも有効です。「これまでの成長を踏まえ、今後は〇〇のプロジェクトに挑戦し、リーダーシップを発揮する機会を創出していきましょう。」と、一段上の目標設定を促すことで、トレーニーのモチベーションをさらに高めることができます。
OJTの「成果」を最大化するためには、評価コメントを単なる形式的なものとして終わらせず、トレーニーのキャリアプランや成長目標に寄り添い、具体的な次のステップを示すことが重要です。これにより、トレーニーは常に前向きな姿勢で自己成長に取り組み続け、企業にとっても貴重な人材へと育っていくことが期待されます。
「OJTの実施状況に関する調査では、70.0%以上の企業がOJTを実施しており、約4社に1社はOJTへの取り組みを強化する意向を示しています。」この意向を実現するためにも、評価の質を高めることは不可欠な要素と言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: OJTのばらつきとは具体的にどのような問題ですか?
A: 育成担当者によって指導内容やレベルに差が出てしまい、指導される側の成長に偏りが生じることを指します。経験豊富な担当者からは多くのことを学べる一方、経験の浅い担当者からは十分な指導を受けられないといった状況が起こり得ます。
Q: OJTで「ばっかり」という状況はどういう意味ですか?
A: OJT担当者が一方的に教えたり、指示したりするだけで、新入社員が自分で考えたり、主体的に行動したりする機会が奪われている状態を指します。これでは、新入社員の自律的な成長を妨げてしまいます。
Q: OJTがパワハラにならないための注意点は?
A: 指導内容が一方的にならないよう、相手の理解度を確認しながら進めること、人格否定や威圧的な言動を避けること、プライベートな詮索をしないことなどが重要です。指導者と被指導者の間に良好な信頼関係を築くことが基本となります。
Q: OJTのパフォーマンス評価では何を重視すべきですか?
A: 単に業務の遂行能力だけでなく、課題解決能力、コミュニケーション能力、チームワークへの貢献度、成長意欲なども含めて多角的に評価することが望ましいです。具体的な行動や成果に基づいて評価することが客観性を高めます。
Q: OJTの評価コメントで役立つポイントは?
A: 具体的な行動や成果に言及し、良かった点、改善点、今後の期待を明確に伝えることが重要です。単なる抽象的な表現ではなく、例を挙げて説明することで、被指導者は自分の強みや課題を理解しやすくなります。
