概要: OJTが「良くない」「余裕がない」と感じる原因は、担当者の準備不足や受講者の意欲低下など多岐にわたります。本記事では、OJTの悪い例を挙げながら、それがもたらす問題点、そして効果的なOJTを実施するための具体的な改善策について解説します。
OJTでよくある「良くない」例とNG行動
OJT(On-the-Job Training)は、新入社員の即戦力化や人材育成において非常に有効な手法です。しかし、多くの企業で「うまくいかない」と感じているのが現状です。
厚生労働省の「令和3年度能力開発基本調査」によると、計画的なOJTを実施した企業は61.8%に留まっています。裏を返せば、約4割の企業では計画性なくOJTが行われているか、全く実施されていないかのどちらかと言えるでしょう。
ここでは、OJTが失敗に終わってしまう典型的なパターンと、それが引き起こす問題について深く掘り下げていきます。
計画性の欠如と現場任せの弊害
OJTがうまくいかない最大の原因の一つに、計画性の欠如と現場への丸投げが挙げられます。OJTの目的や具体的なゴールが不明確なまま、現場の部署に「あとはよろしく」と任せてしまうケースが非常に多いのです。
これにより、OJTの内容や質に著しいばらつきが生じます。ある部署では手厚い指導が受けられる一方で、別の部署ではほとんど放置状態ということも珍しくありません。結果として、新入社員ごとの育成スピードや習熟度に大きな差が生まれ、組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼします。
特に、ALL DIFFERENT社の「人事部の意識調査(OJT編)」では、9割以上の企業がOJTを実施しているにもかかわらず、「OJT担当者によってOJTのやり方や精度にバラつきがある」という課題を企業規模を問わず高い割合で挙げていることからも、この問題の深刻さが伺えます。
計画がないOJTは、羅針盤を持たない船のようなものです。どこに向かっているのか、どう進めば良いのかが分からず、新入社員もOJT担当者も不安を抱えたまま時間だけが過ぎていくことになります。具体的な目標設定なしに「とりあえず業務を教える」ことに終始してしまい、本来目指すべき「一人前の社員」への道筋が見えなくなるのです。
このような状況では、新入社員は自身の成長実感を持ちにくく、早期離職のリスクを高める要因にもなりかねません。OJTを単なる業務説明の場ではなく、戦略的な人材育成の柱として捉え直すことが急務と言えるでしょう。
指導者依存と指導の質のばらつき
OJTの成功は、その多くがOJT担当者の力量にかかっています。しかし、その担当者へのサポートや育成が不十分なまま、個人のスキルや経験に依存しすぎている企業が多いのが実情です。
「指導者任せで指導にばらつきがある」という問題は、人事部や経営層がOJT全体を統括せず、現場の指導者に丸投げしている状況で発生します。特定の担当者が持つ知識や経験、指導スタイルによって、教育の質が大きく左右されてしまうのです。
ある担当者は懇切丁寧に指導する一方で、別の担当者は感情的に叱責したり、一方的に指示を押し付けたりすることもあります。このような指導のばらつきは、育成対象である新入社員の学習意欲や精神的負担に直結し、成長を阻害する大きな要因となります。
さらに、OJT担当者自身が指導方法を知らなかったり、十分な研修を受けていなかったりすることも、指導の質が低下する原因です。新入社員を「一人前」にするための具体的なプロセスやフィードバックのスキルが不足していると、効果的な指導は望めません。
日本能率協会マネジメントセンターの調査でも、「指導にバラツキがある」(63.6%)、「指導側の意識や能力が不足している」(42.0%)といった課題が上位に挙げられており、この問題が多くの企業で共通していることが分かります。
OJT担当者に対する計画的なトレーニングや、指導内容の標準化がなければ、新入社員は「誰に当たるか」でその後のキャリアが左右されるという、非常に不公平な状況に置かれてしまうでしょう。
評価体制の不備とモチベーション低下
OJT担当者は、自身の本来業務と並行して新入社員の指導に当たります。これは大きな労力と時間を要する役割ですが、その貢献が正当に評価されないと、担当者のモチベーションは大きく低下してしまいます。
多くの企業では、OJT担当者の指導力や新入社員の成長度合いを評価する仕組みが不十分です。そのため、担当者は「指導を頑張っても誰も見ていない」「自分の評価に繋がらない」と感じ、次第にOJTへの意欲を失っていくことになります。
動機づけの欠如は、「なぜ自分がやらなければならないのか」という疑問を生み、結果としてOJTが形骸化する大きな原因となります。目の前の業務を教えることだけが役割と捉えられたり、部署内で育成の文化が希薄であったりすると、育成が放置されがちです。
指導者としての貢献が評価に反映されないことで、OJT担当者は指導方法を改善する機会を失い、自身のスキルアップにも繋がりにくくなります。これはOJTの質の向上を妨げるだけでなく、組織全体の人材育成能力の停滞にも繋がります。
例えば、新入社員の成長度合いやOJT期間中の成果、OJT担当者の積極的な関与度などを評価項目に加えることで、担当者は自身の努力が認められていると感じ、より主体的にOJTに取り組むことができるようになります。
OJT担当者への適切な評価と動機づけは、OJTを成功させるための不可欠な要素です。単に「やらせる」のではなく、「やりがい」を感じてもらえるような制度設計が求められます。
「余裕がない」OJT担当者と受講者の心境
OJTは新入社員にとって会社の顔であり、未来を左右する大切な時間です。しかし、多くの現場ではOJT担当者が多忙を極め、「余裕がない」状況で指導にあたらざるを得ない現実があります。
この担当者の余裕のなさは、指導の質を低下させるだけでなく、新入社員の成長機会を奪い、さらには精神的な負担を増大させる原因にもなりかねません。
OJT担当者も受講者も、それぞれに複雑な心境を抱えながらOJTに臨んでいます。その実態と、それが引き起こす問題について深く掘り下げてみましょう。
本来業務との両立がもたらす疲弊
OJT担当者が直面する最大の課題の一つは、自身の本来業務とOJT指導の両立です。多くの場合、OJT指導は既存の業務に追加される形で発生するため、担当者は物理的にも精神的にも大きな負担を抱えることになります。
日本能率協会マネジメントセンターの調査では、約9割の企業がOJTに「課題がある」と回答しており、その主な課題として「指導側に余裕(時間)がない」(64.7%)が最も高い割合で挙げられています。この数字は、いかに多くのOJT担当者が時間的なプレッシャーの中で指導にあたっているかを物語っています。
時間的余裕がなければ、OJT担当者は新入社員とじっくり向き合う時間を確保できません。結果として、指導は superficial になりがちで、本来伝えるべき業務の背景や意図、会社の文化といった深い部分は疎かになってしまいます。
新入社員からすれば、OJT担当者が常に忙しそうにしていると、質問や相談をためらうようになります。疑問を解消できないまま業務を進めざるを得なくなり、ミスや非効率な作業につながる可能性が高まります。また、安心して相談できる関係性を築くことも難しくなるでしょう。
このような状況が続くと、OJT担当者は疲弊し、モチベーションが低下します。OJTを「面倒な仕事」と感じるようになり、結果としてOJTの質はさらに悪化するという負のサイクルに陥ってしまうのです。OJT担当者の業務負荷を適切に管理し、OJTに専念できる環境を整えることが急務です。
動機づけ不足が招く指導の形骸化
OJT担当者が「余裕がない」と感じる要因は、時間的な制約だけではありません。OJT担当者への動機づけが不足していることも、指導の形骸化を招く大きな原因となります。
「なぜ自分がOJTを担当しなければならないのか」「この指導が自分の評価やキャリアにどう繋がるのか」という疑問が解消されないままでは、担当者はOJTに対して主体性や情熱を持つことができません。
「人事部の意識調査(OJT編)」でも、「制度はあるものの、継続的な指導につながっていない」状態が課題として指摘されています。これは、OJTが単なる形式的な義務となり、本来の目的である人材育成の機能が果たされていないことを意味します。
動機づけが欠如したOJTは、文字通り「形骸化」します。担当者は目の前の業務をとりあえず教えるだけで満足し、新入社員の成長を本気で支援しようという意識が薄れてしまいます。新入社員が困っていても、積極的にサポートの手を差し伸べることが減り、結果的に育成が放置されてしまうのです。
もし部署内で「育成の文化」が根付いていなければ、OJT担当者も周囲からのサポートや理解を得にくくなります。孤立無援の状態でOJTに臨むことになり、ますます動機づけが難しくなるでしょう。
OJT担当者自身の知識・能力向上や、次世代のリーダー育成といった、指導者にとってのメリットを明確に伝え、OJTが単なる「業務」ではなく「自己成長の機会」であると認識してもらうことが重要です。
環境変化に対応できない指導の弊害
近年、テレワークの増加など働き方が大きく変化しています。この環境変化にOJTが適応できていないことも、「余裕がない」状況を悪化させ、OJTの質を低下させる大きな要因となっています。
オフィスに隣り合わせで座っていれば、新入社員のちょっとした疑問や困りごとにすぐに気づき、声をかけることができます。しかし、テレワークではそうはいきません。
OJT担当者は、チャットやWeb会議を通じて新入社員の状態を把握しなければならず、対面よりも多くの労力と注意力を要します。新入社員が抱える課題や心情の変化を察知しにくくなり、適切なタイミングでのサポートが難しくなるのです。
また、新入社員側も、OJT担当者とのコミュニケーションの機会が減ることで、心理的な距離を感じやすくなります。気軽に質問しにくくなり、孤立感を深める原因にもなりかねません。これは、部下が本音で話せる「心理的安全性」の確保を困難にする状況です。
このような環境下では、OJT担当者は通常業務に加えて、オンラインでの効果的なコミュニケーション方法を模索するという新たな負担を抱えることになります。結果として、指導に割ける時間や精神的エネルギーがさらに削られ、「余裕がない」状況が加速してしまうのです。
環境変化に対応できないOJTは、新入社員をデジタル空間に放置し、成長の機会を奪うだけでなく、組織へのエンゲージメントを低下させるリスクも抱えています。デジタルツールを効果的に活用しつつ、オンラインでの心理的安全性を高める工夫が不可欠です。
OJTがない会社・部署の現状と潜在的な問題
「OJTがない」という表現は、必ずしも企業がOJT制度を全く持っていないという意味ではありません。多くの場合、「OJT制度はあるものの、実質的に機能していない」「現場任せで誰も指導をしていないに等しい」といった、形骸化したOJTを指します。
このような状態は、新入社員の成長を阻害するだけでなく、組織全体に深刻な悪影響をもたらす潜在的な問題を抱えています。
OJTが機能しないことによって、企業が失うものは計り知れません。ここでは、OJTがない、あるいは機能していない状況が引き起こす具体的な問題について解説します。
育成の放置と新入社員の孤立
OJTが機能しない環境では、新入社員は文字通り「育成を放置された」状態に置かれます。入社したばかりの彼らは、業務知識も経験も浅く、会社のルールや文化についても手探りの状態です。そのような状況で適切な指導者がいなければ、新入社員は孤立無援となります。
「OJTの形骸化・環境変化への不適応」の項でも触れたように、「制度はあるものの、継続的な指導につながらない」状況は、新入社員が業務のイロハを学ぶ機会を失わせます。目の前の業務をどう進めれば良いのか分からず、試行錯誤を繰り返す中で、非効率な方法で時間を浪費したり、大きなミスを犯したりするリスクが高まります。
本来、OJTは新入社員が安心して質問し、失敗から学ぶ場であるべきです。しかし、OJTがない、あるいは機能しない職場では、新入社員は「質問すると迷惑がられるのではないか」「自分で解決しなければ」とプレッシャーを感じ、疑問や不安を抱え込みがちになります。
このような孤立した状況は、新入社員のモチベーションを著しく低下させます。「この会社では誰も自分を気にかけてくれない」と感じ、会社への不信感を募らせる原因にもなります。結果として、業務への定着が難しくなり、早期離職へと繋がる可能性が非常に高まります。
新入社員の育成を放置することは、未来の組織を担う人材を自ら手放すことに他なりません。OJTは単なる業務指導ではなく、新入社員が組織に安心して溶け込み、成長するための重要なプロセスなのです。
組織全体の成長機会の損失
OJTがない、または機能しない状況は、新入社員の成長機会を奪うだけでなく、実は組織全体の成長機会をも損失させています。OJTは、指導者自身のスキルアップや組織の知識継承に不可欠な役割を果たすからです。
OJT担当者は、新入社員に業務を教える過程で、自身の知識やスキルを再確認し、より深く理解する機会を得ます。また、どのように伝えれば相手に伝わるか、どのようにフィードバックすれば成長を促せるかといった「指導スキル」も磨かれます。
これらのスキルは、将来的にチームリーダーやマネージャーとして活躍する上で非常に重要です。OJTが適切に行われないと、これらの指導機会が失われ、指導層となるべき人材が育ちにくくなります。
さらに、OJTは部署や組織が持つ暗黙知(形式知化されていない経験やノウハウ)を継承する重要な手段でもあります。OJTが機能しないと、これらの暗黙知が属人化し、特定の個人にしか伝わらず、組織全体で共有・蓄積されていきません。
新入社員が自身の成長実感を得られず、会社への貢献意欲が低下すれば、組織全体の生産性や創造性も停滞します。OJTは、新入社員の即戦力化だけでなく、指導者自身のスキルアップや組織全体の知識・ノウハウの継承に不可欠な、まさしく「好循環」を生み出す仕組みなのです。
OJTがない状態は、目先の業務は回せても、長期的な組織力や競争力の低下に直結する深刻な問題と言えるでしょう。
企業文化の継承とエンゲージメントの低下
OJTは単に業務スキルを教えるだけでなく、企業の理念、ビジョン、行動規範といった企業文化を新入社員に伝える重要な役割を担っています。OJTがない、または機能しない場合、この文化の継承が滞り、組織へのエンゲージメント低下につながる可能性があります。
新入社員は、OJT担当者との日々のコミュニケーションや業務を通じて、会社の価値観や「仕事の仕方」を肌で感じ取ります。困った時に誰が助けてくれるのか、ミスをした時にどう対応されるのか、チームとしてどのように働くのか、といった体験が、その後の組織への帰属意識を形成します。
しかし、OJTがない環境では、新入社員は会社の文化を理解する機会が限られてしまいます。業務は教えられるかもしれませんが、その業務に込められた意味や、会社として大切にしていること、チームワークの重要性などを学ぶ機会が失われます。
結果として、新入社員は会社に対して「単なる業務を遂行する場所」という認識しか持てず、深い愛着やコミットメントが育ちにくくなります。組織へのエンゲージメントが低い従業員は、モチベーションが低く、生産性が上がりにくいだけでなく、離職率も高くなる傾向にあります。
企業文化の継承は、組織のアイデンティティを保ち、従業員が共通の目標に向かって協力するための基盤です。OJTがその役割を果たせない場合、組織は一体感を失い、個々の従業員がバラバラに働く「個の集まり」になってしまうでしょう。
OJTを戦略的に設計し、企業文化の醸成とエンゲージメント向上に繋げることは、持続可能な組織成長のために不可欠です。
OJTを通して見えた「夢オチ」と現実
新入社員にとって、OJTは入社前に抱いていた「理想の職場像」と、現実の業務との橋渡しとなる重要な期間です。しかし、多くのOJTが期待通りの効果を上げられず、まるで「夢オチ」のように、理想が現実の厳しさに打ち砕かれる経験をさせてしまうことがあります。
OJTがうまくいかない企業は75%以上というデータが示すように、新入社員が抱く「手厚い指導を受けられる」という夢は、往々にして「放置される現実」に直面します。
ここでは、OJTがもたらす「夢オチ」のメカニズムと、それが新入社員や組織に与える影響について考察します。
理想と現実のギャップが招く失望
多くの新入社員は、入社前から「OJTでしっかり教えてもらえる」「先輩が丁寧にサポートしてくれる」という期待感を抱いています。これは、OJTという制度が持つ本来の目的や、企業が採用活動で発信するメッセージによって形成される「理想のOJT像」です。
しかし、実際にOJTが始まってみると、その理想はあっけなく打ち砕かれることがあります。例えば、OJT担当者が自身の業務で多忙を極め、質問しても「後で」「忙しいから自分で調べて」と言われたり、指導に一貫性がなく、人によって言うことが違う、といった状況です。
参考情報にあるように、「OJTを導入したものの、うまくいかないと感じている企業の割合は75%以上」というデータは、まさにこの理想と現実のギャップが多くの新入社員に失望を与えていることを示唆しています。
新入社員が抱く期待が裏切られる経験は、会社へのエンゲージメントを著しく低下させます。「話が違う」「こんなはずではなかった」という不満は、会社に対する不信感へと繋がり、モチベーションの低下を招きます。また、他の社員への不満や、この会社で働き続けることへの疑問にも発展しかねません。
この失望感は、新入社員が会社に定着せず、早期離職を選択する大きな要因となります。企業側は、入社前の期待値を適切にマネジメントするとともに、現実のOJTがその期待に応えられるよう、制度設計と運用に真剣に取り組む必要があります。
「一人前」の定義が曖昧な目標設定
OJTが「夢オチ」に終わってしまう大きな原因の一つに、「一人前」の定義が曖昧な目標設定があります。OJTの目的やゴールが不明確なまま進められると、新入社員もOJT担当者も、何を目指して、何を習得すれば良いのかが分からなくなります。
参考情報では、OJTを成功させるための打開策として「新入社員が『一人前』とは何かを判断できるよう、定量的で客観的に評価しやすい指標を設定しましょう」とあります。しかし、これが実践されていない企業が多いのが現実です。
例えば、「資料作成ができるようになる」「顧客対応ができるようになる」といった大まかな目標だけでは、「どのレベルまで」「どのような状況で」「いつまでに」達成すべきかが見えません。そのため、新入社員は自身の成長度合いを客観的に把握できず、漠然とした不安を抱えながら業務に当たることになります。
OJT担当者も、明確な評価基準がなければ、適切なフィードバックを与えることが難しくなります。感覚的な評価になりがちで、「まあ、このくらいでいいか」と曖昧なままOJTを終えてしまうことも少なくありません。
このような状況では、OJT期間が終了しても、新入社員は本当に「一人前」になったという自信を持てず、次のステップに進むことに躊躇します。結果として、OJTが単に「期間が過ぎただけ」となり、具体的なスキルや自信が身につかないまま終わる「夢オチ」となってしまうのです。
明確な目標設定と、その達成度を測る客観的な指標は、OJTを形骸化させず、新入社員と担当者が共に成長を実感するための羅針盤となります。
成長実感の欠如と早期離職のリスク
OJTが機能せず、新入社員が十分な指導を受けられなかったり、目標が不明確なままだったりすると、最も深刻な問題は成長実感の欠如です。これは、新入社員が会社を早期に離職する大きな要因となります。
Z世代を中心に、現代の若手社員は「成長できる環境」を重視する傾向があります。OJTは、彼らが自身のスキルアップやキャリア形成の基盤を築くための重要な機会と捉えられています。しかし、この成長実感を得られない場合、「この会社では自分の未来はない」と感じてしまうのです。
OJTがうまくいかないことで、新入社員は「自分は仕事ができない」「周りの期待に応えられない」といった自己肯定感の低下に繋がることもあります。これは、業務への意欲を失わせ、最悪の場合、心身の不調を引き起こす可能性も否定できません。
OJTは、新入社員が組織の一員として認められ、貢献できる喜びを感じるための重要なステップです。適切なOJTを通じて成功体験を積むことで、新入社員は自信をつけ、会社への帰属意識を高めることができます。反対に、それが失われると、会社へのエンゲージメントは著しく低下し、他の企業へと目を向け始めるでしょう。
企業にとって、新入社員の早期離職は、採用コストの無駄だけでなく、既存社員の士気低下や組織文化への悪影響など、計り知れない損失を招きます。OJTを「人材定着率の向上」という視点から見直し、新入社員が確実に成長を実感できる仕組みを構築することが、企業の持続的な発展に不可欠なのです。
OJTを成功させるための具体的なステップ
OJTがうまくいかない原因と、それがもたらす様々な問題について見てきました。しかし、OJTは適切に計画・実行されれば、新入社員の即戦力化、人材定着率の向上、指導者自身のスキルアップなど、多くのメリットをもたらす強力な人材育成手法です。
ここからは、OJTが抱える課題を克服し、成功へと導くための具体的なステップと実践策を解説します。これらのステップを踏むことで、OJTを単なる業務指導から、戦略的な人材育成の柱へと変革させることが可能になります。
OJT制度の「見える化」と仕組み化
OJTを成功させるための最初のステップは、制度の「見える化」と「仕組み化」です。OJTが現場任せになり、指導にばらつきが生じる根本原因は、OJTの全体像や目的、具体的な進め方が不明確であることにあります。
まず、OJTの目的を明確にし、新入社員がOJT期間終了後に「どのような状態になっているべきか」という具体的なゴールを設定しましょう。このゴールは、定量的で客観的に評価しやすい指標を設定することが重要です。「資料作成のAレベル達成」「〇〇顧客への対応を一人で完遂」など、具体的な業務目標と行動目標を組み合わせます。
次に、OJTの実施計画を策定します。期間、内容、使用するツール、評価方法、フィードバックの頻度などを明確に文書化し、新入社員とOJT担当者双方に共有します。これにより、OJTの進捗状況が「見える化」され、担当者ごとのばらつきを減らすことができます。
人事部と現場の連携も不可欠です。人事部がOJTの全体像やゴールを共有し、現場のOJT担当者と定期的にミーティングを持つことで、現状の課題を吸い上げ、OJTプログラムの改善に繋げることができます。
具体的な仕組み化としては、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)の導入が有効です。計画(Plan)に基づいてOJTを実施(Do)し、定期的に効果を測定・評価(Check)し、その結果を基に改善策を講じる(Action)というサイクルを回すことで、OJTの質を継続的に向上させることができます。
また、OJT計画書やチェックリストを作成し、全社で統一的に運用することも、仕組み化の一環として非常に効果的です。
| 項目 | 内容 | 担当 | 期限 | 達成度 |
|---|---|---|---|---|
| OJTの目的 | 〇〇職として一人立ちし、チームの一員として貢献できる | 人事/OJT担当 | – | – |
| 目標 |
|
OJT担当/本人 | 3ヶ月後 | |
| 指導内容 |
|
OJT担当 | ||
| 評価方法 |
|
OJT担当/本人 |
OJT担当者の育成と継続的なサポート
OJTを成功させるためには、OJT担当者への計画的な育成と、継続的なサポート体制の構築が不可欠です。OJT担当者が持つスキルや意欲が、OJTの成否を大きく左右するためです。
まず、OJT担当者に対しては、指導方法、効果的なフィードバックの仕方、新入社員のモチベーション管理、評価の仕方などを教える「指導者研修」を定期的に実施しましょう。これにより、OJT担当者ごとの指導のばらつきを減らし、教育の質を均一化することができます。
研修内容は、新入社員とのコミュニケーションスキル、コーチングスキル、業務知識の伝え方、目標設定の支援方法など、多岐にわたります。ロールプレイング形式で実践的なスキルを習得できる機会を設けるのも良いでしょう。
また、OJT担当者が孤立しないよう、定期的な指導者ミーティングを開催し、悩みを共有し、解決策を検討する場を設けることも非常に重要です。他の担当者との情報交換を通じて、自身の指導方法を客観的に見つめ直し、改善するきっかけにもなります。
さらに、OJT担当者への適切な動機づけも欠かせません。OJT担当者にとってのメリット、例えば「知識・能力の向上」「マネジメントスキルの習得」「信頼獲得」「次世代リーダーとしての成長」などを明確に伝え、OJTが自身のキャリアアップに繋がることを理解してもらいましょう。
OJT担当者の負担を軽減するためには、業務負荷のバランスを考慮し、OJTに十分な時間を割けるようサポート体制を整えることも重要です。必要であれば、一時的にOJT担当者の本来業務の一部を軽減するといった配慮も検討すべきです。
そして、新入社員の成長度合いなどを基にOJT担当者を評価する仕組みを導入することで、担当者のモチベーション向上と指導内容の改善に繋げることができます。OJT担当者の頑張りを正当に評価し、インセンティブを与えることで、OJTへの意欲を高めることができるでしょう。
デジタル活用と心理的安全性の確保
現代の働き方の変化に対応し、OJTをより効果的にするためには、デジタルツールの活用と心理的安全性の確保が重要な鍵となります。
OJTの形骸化や指導のばらつきを防ぐために、動画マニュアルやeラーニングシステムなどのデジタルツールを積極的に導入しましょう。これにより、業務知識や手順を標準化し、新入社員は自分のペースで繰り返し学習できるようになります。OJT担当者も基本的な知識の説明に費やす時間を減らし、より個別具体的な指導やメンタリングに集中できます。
例えば、複雑な操作が必要なシステム業務や、手順の多い作業などは、動画マニュアル化することで理解度が格段に向上します。また、チャットツールやプロジェクト管理ツールを活用することで、新入社員が質問しやすくなり、OJT担当者も進捗状況をリアルタイムで把握しやすくなります。
特にテレワーク環境下では、デジタルツールの活用は必須です。オンラインでの1on1ミーティングを定期的に設定し、OJT担当者と新入社員が密にコミュニケーションを取る機会を確保しましょう。
そして、最も重要なのが心理的安全性の確保です。新入社員がOJT担当者に対して「この人になら何でも相談できる」「失敗しても大丈夫」と思えるような関係性を築くことが、成長を加速させます。
- 定期的な1on1ミーティング:業務内容だけでなく、プライベートな話も交えながら、信頼関係を構築します。
- 質問しやすい雰囲気作り:「どんな質問でも歓迎する」「分からないことはすぐに聞くように」と明確に伝え、実践します。
- ポジティブなフィードバック:良い点を見つけて具体的に褒め、改善点も建設的に伝えます。
- 失敗を許容する文化:失敗を叱責するのではなく、そこから何を学べるかを共に考える姿勢を示します。
- OJT担当者からの積極的な声かけ:新入社員が「放置されている」と感じないよう、積極的に声をかけ、困りごとがないかを確認します。
デジタルツールで効率化しつつ、アナログな心のケアを怠らない。この両輪が揃ってこそ、新入社員は安心して成長し、組織の一員として最大限のパフォーマンスを発揮できるようになるのです。
まとめ
よくある質問
Q: OJTで「良くない」とされる具体的な状況を教えてください。
A: 具体的には、担当者が教える内容を事前に準備していない、質問しにくい雰囲気がある、フィードバックが適切でない、受講者のペースを考慮しないなどが挙げられます。これらは「OJT 悪い例」としてよく見られます。
Q: 「余裕がない」OJT担当者はどうすれば良いですか?
A: まずは、OJTに充てる時間を確保するために、日々の業務の見直しや、他のメンバーとの協力体制を築くことが重要です。また、OJTの目的や期待される成果を明確にし、担当者自身が「OJTは自分事」と捉え直すことも大切です。
Q: OJTがない会社や部署では、どのような問題が起こり得ますか?
A: 新入社員の早期戦力化が遅れたり、社員のスキルレベルにばらつきが出やすくなります。また、部署内でのコミュニケーション不足や、組織全体の成長機会の損失に繋がる可能性があります。「OJT が ない 会社」では、こうしたリスクを考慮する必要があります。
Q: OJTを通して「夢オチ」とはどういう意味ですか?
A: 「OJT 夢オチ」とは、OJTが期待していたような成果に結びつかず、結果的に「理想とはかけ離れていた」という状況を指すことがあります。例えば、憧れの先輩との交流を期待していたのに、実際は単なる業務指示の羅列で終わってしまった場合などが該当します。
Q: OJTを効果的に進めるためのポイントは何ですか?
A: 明確な目標設定、事前準備の徹底、定期的なフィードバック、受講者の状況に合わせた柔軟な対応、そして「OJT ランチ」や「OJT よろしくお願いします メール」のような、コミュニケーションを円滑にする工夫などが挙げられます。これらの要素が組み合わさることで、「OJT を通して」着実な成長が期待できます。
