OJTとは?目的と期待される効果を理解しよう

OJTの基本的な概念と重要性

OJTとは「On-the-Job Training」の略称で、実際の業務を通じて必要な知識やスキルを習得する育成手法です。

机上での学習だけでなく、現場で実践的に学ぶことで、より深く、そしてスピーディーに業務を習得できるのが大きな特徴と言えるでしょう。新入社員だけでなく、中途入社者や若手社員のスキルアップにも不可欠な、企業の重要な人材育成戦略の一つです。

企業がOJTに期待する効果

企業がOJTに期待するのは、大きく分けて三つの効果です。

一つは「即戦力化」。現場のニーズに直結したスキルを身につけることで、早期に業務に貢献できる人材を育成します。二つ目は「企業文化への適応」。仕事の進め方だけでなく、社内のルールや企業理念を肌で感じながら理解を深められます。

そして三つ目は「指導者と被指導者の信頼関係構築」。日常的なコミュニケーションを通じて、単なる業務の指導を超えた深い人間関係を築き、エンゲージメント向上にも繋がります。

Off-JTとの違いと連携の重要性

OJTと対をなすのが「Off-JT(Off-the-Job Training)」、つまり座学研修や外部セミナーなど、職場を離れて行う学習です。

OJTは実践、Off-JTは理論と、それぞれ異なる特性を持つため、どちらか一方に偏るのではなく、両者を組み合わせることが効果的な人材育成の鍵となります。例えば、Off-JTで基本理論を学び、OJTで実践力を高める、といった連携が理想的です。

実際に、「Off-JTとの併用」はOJT成功企業の共通点の一つとして挙げられています。

OJTの手順:計画から評価までを徹底解説

目標設定と計画立案のポイント

効果的なOJTの第一歩は、具体的で測定可能な目標設定と周到な計画立案です。

まず「いつまでに何ができるようになってほしいか」を明確にし、会社全体の目標や育成したい人材像と連携させましょう。育成対象者の経験やスキルレベル、特性を事前に把握し、個々に合わせた目標を設定することも重要です。

目標達成に向けた具体的なステップ、スケジュール、さらには想定される課題と対策まで含んだ計画を立てることで、OJTをブレなく進めることができます。

OJTの基本的な4ステップ

OJTは、以下の4つのステップを意識して進めることで、学習効果を最大化できます。

  1. Show(やってみせる):指導者がまず手本を示し、具体的なイメージを共有します。
  2. Tell(説明・解説する):作業の目的、手順、注意点などを丁寧に言葉で説明します。
  3. Do(やらせてみる):被指導者に実際に作業を行わせ、経験を積ませます。
  4. Check(評価・追加指導を行う):実施結果を評価し、良かった点や改善点を具体的にフィードバックします。

このサイクルを繰り返すことで、被指導者は着実にスキルを身につけていきます。

PDCAサイクルとフィードバックの徹底

OJTの質を高め、継続的な成長を促すためには、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)の活用が不可欠です。

計画(Plan)し、実行(Do)したら、必ず評価(Check)を行い、その結果をもとに改善(Action)していくプロセスを回しましょう。特にCheckの段階でのフィードバックは非常に重要です。

「良かった点」と「改善点」を具体的に伝え、なぜそうなるのかを説明することで、被指導者は自身の行動を客観的に見つめ、次の行動に活かすことができるようになります。適切なフィードバックが、彼らの成長意欲と行動変容を促すのです。

OJTを体系化する!年間スケジュールと内容の設計

会社全体の目標とOJTの連携

OJTを単なる現場任せの教育に終わらせないためには、会社全体の目標とOJTの育成目標を密接に連携させることが重要です。

会社が求める人物像や、将来的に育成したい人材像を明確にし、それをOJTの具体的な目標へと落とし込みましょう。上司や人事部門との間で共通認識を持つことで、組織全体で一貫した育成方針を共有できます。

実際、2022年度の調査では正社員に対して計画的なOJTを実施している企業の割合は60.2%と増加傾向にあり、体系化の重要性が認識されています。

育成対象者に合わせた内容設計

画一的なOJTでは、効果は限定的です。育成対象者の経験、スキルレベル、特性、そして配属部署の業務内容に合わせて、柔軟にOJTの内容を設計する必要があります。

新入社員であれば基礎的な業務から、中途入社者であれば会社のルールや固有の業務フローに特化した内容にするなど、個々の状況に応じたカスタマイズが求められます。具体的なスキルリストや業務マニュアルを作成し、進捗に応じて内容を調整していくと良いでしょう。

動画マニュアルやツールの活用

OJTを体系化し、指導者間のバラつきをなくすためには、教育コンテンツの標準化が有効です。

例えば、業務手順を解説する動画マニュアルや、Eラーニングツールなどを活用することで、指導者の負担を軽減しつつ、被指導者は自身のペースで繰り返し学習することが可能になります。これは「トレーナーに聞かなくても繰り返し学習できる体制」を整備する上で非常に効果的です。

これにより、誰が担当しても教育内容が均一になり、OJTの質を一定に保つことができます。

OJT体制の構築:指導者と被指導者の役割

OJTトレーナーの選定と育成

OJTの成功は、指導者であるOJTトレーナーの質に大きく左右されます。

トレーナーは、業務知識だけでなく、コミュニケーション能力が高く、柔軟性があり、何よりも「人を育てたい」という当事者意識を持てる人材を選定することが重要です。選定後は、OJTの目的、トレーナーの役割、効果的な指導方法、フィードバックスキルなどを習得するためのトレーナー研修を必ず実施しましょう

これにより、指導の質が均一化され、トレーナー自身のモチベーション向上にも繋がります。

指導者を支えるフォロー体制

OJTトレーナーが一人で抱え込み、孤立してしまうことは避けなければなりません。組織として指導者を支えるフォロー体制の整備が不可欠です。

例えば、OJTリーダーを配置して相談窓口を設けたり、メンター制度を活用したり、さらにはITツールを導入して業務負担を軽減するなどの工夫が考えられます。多くの企業が「OJT担当者によってやり方や精度にバラつきがある」という課題を感じていますが、このようなフォロー体制があれば、指導者間の連携が促進され、課題解決に繋がります。

被指導者(トレーニー)の心構えと成長

OJTは指導者だけでなく、被指導者であるトレーニーの積極的な姿勢があって初めて大きな成果を生み出します。

人事調査では新入社員の課題として「主体性・積極性」の不足が、若手社員では「成長意欲」「目的・目標の理解」が挙げられています。トレーニーは、「分からないことは積極的に質問する」「教えられたことを実践する」「報連相を徹底する」といった心構えを持つことが重要です。

自身の成長のためには、主体的に学び、フィードバックを素直に受け止める姿勢が何よりも大切だということを伝えましょう。

OJTで成果を出すために大切なこと

OJT成功企業の共通点と課題解決

OJTを成功させている企業には、いくつかの共通点が見られます。

具体的には、「トレーナー研修を実施している」「組織全体で連携してOJTを行う体制を構築している」「OJTとOff-JTやeラーニングを併用している」「誰が担当しても教育内容が均一になるような体制を構築している」「トレーナーに聞かなくても繰り返し学習できる体制(例:動画マニュアル)を整備している」といった点です。

多くの企業が感じる「OJT担当者によってやり方や精度にバラつきがある」という課題も、これらの共通点を参考にすることで解決に近づけるでしょう。

コミュニケーションと主体性の促進

OJTのプロセスにおいて、指導者と被指導者間の密なコミュニケーションは成果を左右する重要な要素です。

日常的に「報連相」を徹底し、被指導者の業務状況や理解度、抱えている悩みなどをきめ細やかに把握しましょう。また、一方的な指示だけでなく、被指導者自身に考えさせ、意見を求めることで、彼らの「主体性・積極性」を引き出すことができます。

良好なコミュニケーションと信頼関係は、被指導者の成長意欲を高め、 OJTの質を向上させる土台となります。

継続的な改善と組織全体の支援

OJTは一度計画したら終わりではありません。常にPDCAサイクルを回し、その内容や方法を継続的に改善していくことが重要です。

また、OJTを現場任せにするのではなく、会社全体で支援する体制を構築することが成功の秘訣です。人事部門は指導者研修の実施やフォロー体制の整備、経営層はOJTの重要性を周知し、リソースを投入するなど、組織全体でOJTをバックアップしましょう。

定期的な成果発表会や成功事例の共有も、組織全体の育成力を高める上で非常に有効です。