OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務を通じて新入社員や若手社員に必要な知識・スキルを習得させる効果的な人材育成手法です。しかし、OJTを成功させるためには、指導者側のスキルと工夫が不可欠となります。

本記事では、最新の情報に基づいた効果的なOJTの教え方とコミュニケーションのコツ、そして指導者の負担軽減や育成効果を高めるためのポイントをまとめました。OJT指導者として新入社員の成長を最大限に引き出すためのヒントが満載です。

OJT指導者として知っておくべき基本

OJTの目的と意義を明確にする

OJTを始めるにあたり、指導者自身がその目的と意義を深く理解し、新入社員にも共有することが何よりも重要です。OJTは単なる業務の引き継ぎ作業ではありません。それは新入社員が組織の一員として自立し、成長していくための大切なプロセスであり、最終的には組織全体の目標達成に貢献するための戦略的な人材育成投資なのです。

もし指導者がOJTを単なるルーティンワークや「教えること」と機械的に捉えてしまうと、新入社員もその本質を理解できず、業務へのモチベーションの低下や受け身の姿勢に繋がる可能性があります。結果として、早期離職や期待通りの成長が見られないといった事態を招きかねません。OJTの本来の価値を指導者自身が信じ、それを新入社員に情熱を持って伝えることが、成功への第一歩です。

新入社員には、具体的な業務スキルだけでなく、なぜその業務が必要なのか、組織の中でどのような位置づけで、どのように貢献するのかを丁寧に伝えることで、自身の仕事に深い意味を見出し、主体的に取り組むようになるでしょう。例えば、ある製造業の現場では、「この部品を作る目的は、最終製品の品質を保証し、お客様に最高の体験を提供すること。君の作業一つ一つが、お客様の笑顔に直結しているんだ」と伝えたことで、新入社員が単調な作業にも関わらず、高い品質意識を持って責任感を持って取り組むようになった事例があります。

このように、「何のために学び、何のために働くのか」を明確にすることで、新入社員は自身の成長の羅針盤を得て、より積極的にOJTに臨めるようになります。指導者と新入社員の間で、OJTの最終目標を共有し、それが個人の成長と組織の発展にどう繋がるかを明確にすることが、OJT成功の重要な土台となるでしょう。

育成計画の策定と標準化の重要性

効果的なOJTには、明確で詳細な育成計画の策定が不可欠です。まず、新入社員がOJTを通じて最終的にどのような知識・スキルを習得し、どのような状態になってほしいのか、具体的なゴールを設定します。そこから逆算し、段階的な目標設定と具体的な行動計画を立てることで、指導の方向性が明確になり、新入社員も自身の成長プロセスを可視化し、把握しやすくなります。

計画には、習得すべきスキルや知識のリスト、それに伴う実践課題、学習期間、到達度を測る評価基準などを具体的に盛り込みましょう。例えば、「1ヶ月後には〇〇業務を一人で遂行できるレベルになる」「3ヶ月後には〇〇に関するお客様からの問い合わせに、自力で適切な対応ができるようになる」といった形で、客観的に達成度を測れる具体的な目標が有効です。これにより、新入社員は「次に何をすべきか」が明確になり、日々の業務への取り組み意欲やモチベーションの維持にも繋がります。

さらに、指導内容の標準化も非常に重要な要素です。もしOJT指導者が複数いる場合、指導者によって教える内容や順序、レベル感、評価基準にばらつきが生じると、新入社員は戸惑い、成長に偏りが生じる可能性があります。特に複数の新入社員が異なる指導者のもとで育成される場合、不公平感を生んだり、組織全体の育成品質が不安定になったりするリスクがあります。これを防ぐため、共通のマニュアルやチェックリスト、動画教材などを作成し、どの指導者が担当しても一定の品質のOJTが提供できるように整備することが望ましいでしょう。

これにより、新入社員は安心して学習を進められ、指導者も指導内容に迷うことなく、効率的に育成を進めることができます。指導内容の標準化は、OJTの属人化を防ぎ、組織全体の育成効果を均一化し、最終的に新入社員の早期戦力化に大きく貢献する重要なステップです。

PDCAサイクルとフィードバックの活用

OJTの質を継続的に高め、新入社員の着実な成長を促すためには、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)の活用が非常に効果的です。まず、策定した育成計画(Plan)に基づき、新入社員は実際の業務を実践(Do)します。その実践後、指導者は新入社員の業務の進め方や成果を客観的に評価(Check)し、その結果をもとに改善点や次へのアクション(Action)を共に検討します。

このサイクルの中でも特に重要なのが、質の高いフィードバックです。フィードバックは、単に業務の成果だけでなく、業務への取り組み姿勢、思考プロセス、問題解決へのアプローチ、チームとの連携の仕方など、多角的な視点から行いましょう。例えば、「〇〇の資料作成はとても速かったね。特にデータ分析の視点は素晴らしかった。一方で、顧客への説明資料としては、専門用語が少し多かったかもしれない。次回はもう少し平易な言葉で、相手に伝わるように意識してみようか」のように、具体的かつ建設的な内容を心掛けることで、新入社員は自身の行動を深く振り返り、次へと繋がる実践的な学びを得られます。

フィードバックは、実践直後に行うことが最大の効果を発揮します。時間が経ってしまうと、新入社員も自身の行動や状況を明確に思い出しにくくなり、フィードバックの内容が「過去の出来事」として薄れてしまう可能性があります。そのため、業務の区切りや日報の確認時など、タイムリーにフィードバックを行う習慣をつけましょう。これにより、新入社員はすぐに改善行動に移すことができ、学習効果が飛躍的に高まります。

定期的な1on1ミーティングなどを設定し、日々の業務の中で気づいた点をタイムリーに伝え、新入社員が自身の成長を客観的に認識できるようサポートしていくことが重要です。この継続的なPDCAサイクルと適切なフィードバックが、OJTの学習効果を飛躍的に高め、新入社員の自律的な成長を促進する強力なエンジンとなるのです。

効果的なOJT指導のステップとポイント

OJTトレーナー研修とOff-JTの組み合わせ

OJTの効果を最大限に引き出すためには、指導者自身のスキルアップが欠かせません。多くの企業がその重要性を認識し、OJTトレーナー研修を実施しています。この研修では、OJTの目的、効果的な指導方法、新入社員のモチベーション管理、コミュニケーションスキル、新入社員の心理的特性など、指導者として必要な知識とスキルを体系的に学ぶことができます。例えば、参考情報にもあるように、マルハニチロ株式会社やキヤノンITソリューションズ株式会社などの成功事例では、トレーナー研修の実施が共通の成功要因として挙げられています。

指導者研修を通じて、指導の質を均一化し、指導者間のばらつきを減らすことができます。これにより、どの指導者のもとでOJTを受けても、一定水準以上の育成が保証され、新入社員は安心して学習に取り組むことが可能になります。また、指導者自身も自信を持ってOJTに臨めるようになり、指導へのモチベーション向上にも繋がります。

また、OJT(On the Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)を効果的に組み合わせることも非常に効果的です。Off-JTで業務に関する体系的な知識や理論を事前に学び、OJTでそれを実際の業務に適用し、経験を通じてスキルとして定着させる。この両輪がバランス良く回ることで、新入社員は知識と実践のギャップを効率的に埋めながら、より高度な職業能力を迅速に習得することができます。例えば、新入社員研修で業界知識やビジネスマナーなどの基礎知識を学び、配属後にOJTで実践するといった連携が一般的です。

この組み合わせにより、新入社員は理論と実践の両面から深く学び、指導者は基礎知識の説明に費やす時間を削減し、より実践的で個別性の高い指導に集中できるというメリットが生まれます。

eラーニングや動画マニュアルを活用した効率化

OJT指導者の負担を軽減しつつ、育成効果を飛躍的に高めるためには、テクノロジーの活用が非常に有効です。特にeラーニングや動画マニュアルは、指導内容の標準化と効率的な学習環境の提供に大きく貢献します。動画マニュアル「tebiki」のようなツールを活用することで、複雑な業務手順や会社のルール、社内システムの操作方法などを視覚的に分かりやすく伝えることが可能です。

これらのデジタル教材は、指導者が一つ一つ口頭で繰り返し説明する手間を省き、教育担当者の負担を大幅に軽減します。これにより、指導者は基本的な知識伝達ではなく、新入社員の個別の悩み相談や、より深い思考を促す対話、実践的なアドバイスなど、人にしかできない付加価値の高い指導に時間を割くことができるようになります。

また、新入社員にとっては、自分のペースで繰り返し学習できるため、理解度が高まり、不明点も効率的に解消できます。例えば、一度説明された内容でも、後から忘れてしまった時に動画を再視聴することで、いつでも復習が可能です。これにより、指導者への質問内容も、「どこまで理解しているか」というより本質的なものへと変化していくでしょう。

具体的な活用例としては、新入社員がよく質問する定型的な業務フローや社内システムの使い方、製品知識の概要などは動画マニュアルにまとめ、イレギュラーなケースや判断が難しい場面で指導者がサポートするといった役割分担が考えられます。これにより、OJTはより効率的かつ効果的に進み、指導者と新入社員双方にとって質の高い学習体験を提供できるようになります。

組織全体でのOJT推進と効果測定

OJTは指導者一人の責任で行うものではなく、組織全体で新入社員を育成する体制を構築することが、その効果を最大化する上で不可欠です。OJTリーダー制度の導入や、チームメンバー、関係部署への協力依頼を積極的に行いましょう。新入社員は、指導者だけでなく、部署内の様々な先輩社員から教えを受けることで、多様な視点や考え方を吸収し、より早く組織に順応できます。

例えば、指導者以外の先輩社員がランチを共にしたり、休憩中に業務以外の相談に乗ったりするだけでも、新入社員の心理的安全性は高まります。また、部署全体で新入社員の育成をサポートする意識が醸成されることで、指導者にとっても過度な負担が軽減され、孤立感を防ぎ、より質の高い指導に集中できるようになります。

OJTの効果を客観的に把握し、継続的な改善に繋げるためには、効果測定とフィードバックが不可欠です。例えば、「スキル習得率」「独り立ちまでの期間」「テスト・課題のスコア」「OJTに対する新入社員の満足度」「定着率」など、複数の定量的・定性的な指標を用いてOJTの効果を測定しましょう。

測定結果はデータとして可視化し、定期的に評価を行うことで、OJTプログラムの強みと弱みを特定できます。そして、そのデータに基づいたフィードバックを指導者や関係者に還元し、次期のOJTに活かすことで、プログラム全体の質を継続的に高めていくことが可能です。このようなPDCAサイクルを組織全体で回すことで、OJTは形骸化せず、常に進化し続ける人材育成の要となります。

OJTを成功させるコミュニケーション術

傾聴力と質問力で主体性を引き出す

OJTにおけるコミュニケーションの基本は、「傾聴力」「質問力」です。新入社員の話を最後まで丁寧に聞き、彼らが何を伝えたいのか、何に困っているのか、その本質を理解しようとする姿勢は、新入社員に安心感を与え、指導者への信頼感を築く上で不可欠です。途中で話を遮らず、相槌を打ちながら共感を示すことで、「この人は自分の話を真剣に聞いてくれる」というポジティブな印象を与えられます。

ただ単に話を聞くだけでなく、適切な質問を投げかけることで、新入社員自身の主体性や問題解決能力を育成することができます。例えば、新入社員が課題に直面している際に、すぐに答えや解決策を教えるのではなく、「どうしてそう思ったの?」「他にどんな方法が考えられるかな?」「この業務の最終的な目的は何だっけ?」といった問いかけをすることで、新入社員自身が深く考え、自ら答えにたどり着くプロセスをサポートします。

これにより、新入社員は自力で課題を解決する喜びを感じ、自信を深めることができます。また、指導者にとっても、質問を通じて新入社員の理解度や思考プロセス、抱えている真の課題を把握できるため、より的確でパーソナライズされた指導に繋がります。傾聴と質問を組み合わせることで、新入社員は「教えてもらう」だけの受け身な存在から、「自ら学び、解決する」主体的な存在へと変化していくでしょう。このスキルは、OJT期間だけでなく、その後のキャリア形成においても非常に重要な基盤となります。

承認と褒めるスキルでモチベーション向上

新入社員の成長を促し、モチベーションを高く維持するためには、「承認」と「褒める」スキルが非常に重要です。承認には、新入社員の存在そのものを認める「存在承認」、努力や成長の過程を認める「成長承認」、具体的な成果を認める「成果承認」の3つがあります。これらを意識的に使い分けることで、新入社員は自身の価値を実感し、前向きに業務に取り組めるようになります。

例えば、「〇〇さんがチームに加わってくれて嬉しいよ(存在承認)」「この前のプレゼン資料、初めてなのにここまで完成度が高くて驚いたよ。特にデータ収集に時間がかかったんじゃないかな?その粘り強い努力、素晴らしいね(成長承認)」「先週提案した企画が採用されたね!君の貢献度が非常に大きかったよ、ありがとう。この成功体験を次に活かしていこう(成果承認)」といったように、状況や相手の状況に応じて適切に使い分けましょう。ポイントは、具体的な事実に基づいて褒めることです。「すごいね」という漠然とした言葉よりも、「〇〇の点が具体的に素晴らしい」と伝えることで、新入社員は何が評価されたのかを明確に理解し、その行動を再現性を高めることができます。

承認と賞賛は、新入社員の自己肯定感を高め、次への意欲や挑戦心を強く引き出します。小さな成功体験を積み重ねさせることで、「自分にもできる」という確かな自信を育み、困難な課題にも積極的に挑戦する姿勢を養うことができるのです。指導者からの肯定的で具体的なフィードバックは、新入社員にとってかけがえのない成長の糧となり、彼らのパフォーマンスを向上させる強力な原動力となるでしょう。

叱り方の原則と自己開示で信頼関係を深化

新入社員が業務上のミスや問題を起こした際、指導者は「叱る」という行為が必要になることもあります。しかし、感情的に「怒る」のではなく、冷静かつ建設的に「叱る」ことが大切です。「怒る」ことは関係性を悪化させるだけで効果は薄いですが、「叱る」ことは新入社員の成長を促すための重要な機会となり得ます。叱り方の原則として、以下の点を常に意識しましょう。

  1. 感情的にならない: 冷静なトーンで話し、個人的な感情や過去の不満を挟まず、客観的な事実に基づき伝える。
  2. 行動に焦点を当てる: 新入社員の人格を否定せず、問題となった具体的な行動やその結果に焦点を当てて指摘する。
  3. 理由や背景を共有する: なぜその行動が問題なのか、どのような影響があるのかを具体的に、論理的に伝える。
  4. 改善策を共に考える: 叱るだけで終わらせず、次にどうすれば良いかを一緒に検討し、前向きな行動を促す。
  5. 人前では叱らない: 個室などで一対一で話し、新入社員のプライドや尊厳を傷つけないよう配慮する。

例えば、「この報告書、〇〇の数値が間違っているよ。確認を怠ったことが原因だと思うが、この数値が間違っていると取引先に大きな迷惑がかかる可能性がある。次回から、提出前に必ず複数の目でチェックするフローを一緒に考えよう」のように、具体的な事実と影響、そして改善策を提示することが重要です。感情的に「君はいつもミスばかりだ!」と叱りつけるのは絶対に避けましょう。

また、指導者自身の「自己開示」も新入社員との信頼関係を深める上で非常に効果的です。自身の過去の失敗談、キャリアにおける苦労や悩み、それをどのように乗り越えたかといった経験などを共有することで、新入社員は「自分だけではない」という共感を覚え、指導者に対して親近感や安心感を抱きます。これにより、新入社員はよりオープンに自分の悩みや弱みを打ち明けやすくなり、深い人間関係を築くことができます。指導者も完璧な人間ではないことを示すことで、新入社員との間に心理的な橋が架けられ、本音で向き合える関係性を構築できるでしょう。

OJT指導者が陥りがちな失敗と対策

指導者の負担増とスキル不足への対応

OJTが抱える大きな課題の一つに、指導者の負担増が挙げられます。日常業務と並行して新入社員の育成を行うことは、指導者にとって時間的・精神的な負荷が大きく、これがOJTの形骸化や指導の質の低下に繋がるケースも少なくありません。参考情報によると、多くの企業が指導者の負担増を課題として認識しており、特に業務量の多い時期にはこの傾向が顕著になります。

この負担を軽減するためには、まずOJT指導者に過度な業務量を割り当てないよう、組織として業務配分を最適化することが重要です。新入社員の育成計画を考慮に入れた上で、指導者の業務量を調整する必要があります。また、指導者自身のスキル不足も大きな課題です。OJTは単に「業務ができる」ことと「業務を効果的に教えることができる」ことは別物であり、指導者には教育スキルやフィードバックスキル、コミュニケーションスキルが体系的に求められます。これに対応するためには、前述のOJTトレーナー研修の実施が不可欠です。

研修を通じて、指導者が効果的な教え方やフィードバックスキルを習得することで、指導の質が向上し、結果として新入社員の早期戦力化に繋がり、指導者の負担軽減にも寄与します。さらに、eラーニングや動画マニュアルを活用し、基本的な指導内容をデジタル化することで、指導者の説明時間を短縮し、より本質的な指導や個別指導に集中できる環境を整えることも有効な対策となります。これにより、指導者はより効率的に、かつ質の高いOJTを提供できるようになるでしょう。

指導内容のばらつきと育成時間の確保の難しさ

OJTの課題として頻繁に挙げられるのが、指導内容のばらつき育成時間の確保の難しさです。指導者によって教える内容や順序、レベル、評価基準が異なると、新入社員は戸惑い、成長に偏りが生じる可能性があります。特に複数の新入社員がいる場合や、指導者が途中で交代するようなケースでは、指導品質の不均一さが顕在化しやすくなります。

このばらつきを解消するためには、標準化された育成計画とマニュアルの整備が不可欠です。誰が指導しても一定の質が保たれるよう、習得すべきスキルリスト、詳細な業務フロー、明確な評価基準などを文書化し、全指導者が共有できるようにしましょう。動画マニュアルやチェックリストの活用も、指導内容の統一と効率的な学習を促進する上で非常に効果的です。これにより、指導者は毎回一から説明する手間を省け、新入社員も自己学習を進めやすくなります。

また、育成時間の確保は多くの企業が直面する課題であり、参考情報でもその難しさが指摘されています。これには、指導者だけでなく、チーム全体で新入社員を育てるという意識改革が必要です。OJTリーダー制度の導入や、指導者以外の先輩社員が日常業務の中で気軽に質問に答えたり、アドバイスしたりする文化を醸成することで、指導者一人の負担を分散させ、育成時間を創出することができます。

さらに、定期的な1on1ミーティングの時間を勤務時間内に確保し、指導者と新入社員双方が計画的に育成に取り組める体制を整えることも重要です。組織としてOJTを最優先事項の一つと位置づけ、必要なリソースを投じる姿勢が求められます。

ハラスメントへの配慮と指導者の意識変化

近年、OJT指導者を取り巻く環境は大きく変化しており、特にハラスメントへの配慮は、現代の指導者にとって避けて通れない重要な課題です。参考情報によると、指導者がハラスメントへの配慮を意識する割合は5割を超えており、社会的な要請が非常に高まっています。パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメントなど、様々なハラスメントに対する正しい知識を持ち、常に新入社員の心理的安全性に配慮した指導を心がける必要があります。

指導者は、言葉遣いや態度、業務指示の仕方、プライベートな話題への介入など、あらゆるコミュニケーションにおいて慎重さが求められます。ハラスメントを未然に防ぎ、健全な育成環境を確保するためには、定期的なハラスメント研修の実施や、指導者向けの相談窓口の設置など、組織的なサポート体制を強化することが不可欠です。指導者自身が「これはハラスメントに当たるのではないか」と不安に感じた際に、気軽に相談できる環境があることは、安心してOJTを行う上で非常に重要です。

また、「効率的な指導」「指導者の減少」といった指導者の意識変化も進んでいます。現代の指導者には、限られた時間やリソースの中で最大限の育成効果を出すために、デジタルツールの活用や他部署との連携など、これまでのやり方に捉われない柔軟な発想が求められています。新入社員の多様な背景や価値観を理解し、一人ひとりに合わせた最適な指導を行うことも、現代のOJT指導者に求められる重要なスキルとなっています。これらの変化に対応し、指導者自身も成長し続けることが、OJT成功の鍵となるでしょう。

OJTの効果を最大化するためのサポート体制

OJTトレーナー研修の義務化と継続的なスキルアップ

OJTの成功は、指導者であるトレーナーの能力に大きく左右されます。そのため、OJTトレーナー研修の義務化は、育成効果を最大化するための強力な施策となります。この研修は、単にOJTの進め方を教えるだけでなく、新入社員のモチベーション管理、効果的なフィードバックスキル、ハラスメントへの理解と対応、そして実践的な質問力といった、指導者として不可欠なコミュニケーション能力の向上を目指すべきです。

多くの先進企業では既にトレーナー研修を導入しており、それがOJT成功の鍵となっていることが示されています。研修を義務化することで、指導者全員が一定水準の指導スキルを身につけ、指導内容の質の均一化を図ることができます。また、研修は一度きりではなく、定期的なフォローアップ研修や、最新の教育メソッドを取り入れた継続的なスキルアップの機会を提供することが重要です。

例えば、新任指導者向けの基礎研修に加えて、経験者向けの応用研修や、特定の課題解決に特化したワークショップなどを実施することで、指導者自身が常に自身のスキルを見つめ直し、ブラッシュアップできる環境を整えられます。指導者自身が成長を実感できる場があることは、OJTへの意欲向上にも繋がり、結果として新入社員の育成効果を高める好循環を生み出します。組織として指導者の専門性向上に投資することが、長期的な人材育成の基盤となります。

組織全体での育成文化醸成と役割分担

OJTを指導者一人の責任とせず、組織全体で新入社員を育成する文化を醸成することが、OJTの効果を最大化する上で非常に重要です。具体的には、OJTリーダー制度を導入し、OJT担当者を明確にするだけでなく、チームメンバー全員が新入社員のサポーターとなるような役割分担を行いましょう。

例えば、日々の業務の中で、指導者以外の先輩社員も積極的に新入社員に声をかけ、質問に答える、ランチを共にする、メンターとして精神的なサポートを行うなど、多角的な関わりを促します。これにより、新入社員は様々なロールモデルから学び、多様な視点を得ることができます。また、指導者にとっても、チーム全体の協力があることで心理的な負担が軽減され、孤立感を防ぎ、より質の高い指導に集中できるようになります。

上司や人事部門も、OJTの進捗を定期的に確認し、必要に応じて指導者や新入社員へのサポートを行う役割を担います。例えば、指導者向けに定期的な相談会を設けたり、新入社員のメンタルヘルスケアをサポートする窓口を設けたりすることも有効です。職場全体で「新人をみんなで育てる」という意識を共有し、協力体制を構築することが、新入社員の早期戦力化と定着に大きく貢献します。組織の風土として育成を重視する姿勢が根付くことで、OJTはより活発で効果的なものとなるでしょう。

データに基づいた効果測定と改善サイクル

OJTを単なる「経験則」や「感覚」で終わらせず、その効果を最大化するためには、データに基づいた効果測定が不可欠です。具体的には、「スキル習得率」「独り立ちまでの期間」「テスト・課題のスコア」「OJTに対する新入社員の満足度」「定着率」など、複数の定量的・定性的な指標を設定し、定期的にデータを収集・分析しましょう。これらの指標をKPI(重要業績評価指標)として設定し、目標達成度を可視化することが有効です。

収集したデータは、OJTプログラム全体の評価に活用します。例えば、ある業務のスキル習得率が低い場合、その業務の指導方法やマニュアルに改善の余地があるかもしれません。あるいは、独り立ちまでの期間が想定よりも長い場合、育成計画のペースや内容を見直す必要があるでしょう。データは、漠然とした課題感を具体的な改善点へと落とし込むための強力なツールとなり、客観的な根拠に基づいた意思決定を可能にします。

測定結果を基に、OJTプログラムの評価と改善を行うフィードバックと改善のサイクルを組織に組み込むことが重要です。PDCAサイクルを回すことで、OJTは常に最新の状況やニーズに合わせて最適化され、より効果的な人材育成へと進化していきます。この継続的な改善の取り組みこそが、OJTの効果を長期的に最大化し、企業の持続的な成長を支える基盤となるのです。データドリブンなOJT運用によって、人材育成の投資対効果も最大化できるでしょう。

効果的なOJTは、新入社員の早期戦力化だけでなく、指導者自身のスキルアップや組織全体のコミュニケーション活性化にも繋がります。本記事でご紹介した各ポイントを参考に、ぜひ貴社のOJTをより効果的なものへと進化させてください。新入社員一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、組織全体の成長を加速させましょう。