概要: OJTの担当者・受講者として、経験年数や年代、異動といった様々な状況で悩むことは少なくありません。本記事では、経験年数別にOJTを成功させるための具体的なノウハウを解説します。40代・50代のベテラン層や、異動してきた方にも役立つ実践的なアドバイスをお届けします。
2年目・3年目のOJT担当者・受講者が知っておくべきこと
OJT(On-the-Job Training)は、多くの企業で人材育成の要とされていますが、特にキャリアの初期段階にある2年目・3年目の社員にとっては、その成否が今後の成長を大きく左右します。
この時期のOJT担当者は、自身もまだ学びの途中にありながら指導するという難しい役割を担い、一方の受講者は、社会人としての基礎を固めながら独り立ちを目指す重要なフェーズにいます。
ここでは、そんな若手のOJT担当者・受講者が直面しやすい課題を解決し、互いに成長を加速させるための秘訣を深掘りしていきます。
若手OJT担当者が直面する「指導のばらつき」問題とその対策
多くの企業では、入社3~6年目の社員がOJTトレーナーに任命される傾向にあり、特に2年目・3年目の社員は、初めての指導経験に戸惑うことも少なくありません。参考情報でも、約半数の企業(49.7%)が「OJTトレーナーの指導にばらつきがある」ことを課題として挙げています。
若手トレーナーが経験不足から指導内容が属人化したり、一貫性を欠いたりすることは珍しくありません。この「ばらつき」を防ぎ、質の高いOJTを提供するためには、まず「明確な目標設定」が不可欠です。企業や人事、現場が一体となって、育成したい人物像や達成すべきスキルレベルを具体的に定め、OJT開始前に受講者と共有しましょう。
また、指導内容を標準化するための「トレーナー研修の実施」も極めて有効です。効果的なフィードバックの方法、業務の教え方、進捗管理のコツなどを体系的に学ぶことで、若手トレーナーも自信を持って指導に臨めるようになります。さらに、近年では動画マニュアルなどのデジタルツールを活用し、指導内容を可視化・標準化する企業も増えています。これらを活用すれば、指導の質を担保しつつ、トレーナー自身の業務負担も軽減できるでしょう。
経験が浅いOJT受講者が効率よく成長するための心得
2年目・3年目のOJT受講者は、基本的な業務知識やスキルを習得し、徐々に独り立ちしていくことが求められます。この時期に効率的に成長するためには、ただ指示を待つだけでなく、積極的に学び、実践する姿勢が重要です。
まず、OJTと並行してOFF-JT(Off-the-Job Training:集合研修など)を組み合わせることが、長期的な成長に大きな効果をもたらすことが示されています。ある研究では、OJTとOFF-JTを両方受けた場合、受講後2年で賃金上昇の有意な効果が見られたとのこと。座学で基礎知識を学び、OJTで実践することで、理解が深まり、スキルの定着が加速します。
自身の成長を客観的に把握するためには、KPI(重要業績評価指標)の活用も有効です。例えば「スキル習得率(例: 83%)」や「独り立ちまでの期間(目標3ヶ月に対し実績2.5ヶ月)」といった具体的な指標をトレーナーと共有し、定期的に進捗を確認しましょう。自身がどのレベルに到達しているのか、何が課題なのかを数値で把握することで、目標達成へのモチベーションを維持しやすくなります。
また、積極的にメンター制度を活用したり、周囲の先輩社員に質問したりすることも大切です。疑問点を放置せず、その都度解消していくことで、業務理解を深め、より早く独り立ちできるようになります。丁寧なフィードバックを素直に受け入れ、改善に活かす姿勢も忘れてはなりません。
成長を加速させる!効果的なフィードバックの受け方・与え方
OJTの成功には、建設的なフィードバックが欠かせません。2年目・3年目のOJT担当者・受講者双方が、効果的なフィードバックの技術を身につけることで、互いの成長を加速させることができます。
<OJT担当者からのフィードバック>
定期的な1on1面談の機会を設け、受講者の進捗状況を確認し、具体的な行動に結びつくフィードバックを心がけましょう。フィードバックの際は、「Good(良かった点)」と「More(さらに改善できる点)」を具体例を交えて伝えることが重要です。例えば、「この資料のこの部分は論理が明確で非常に分かりやすかった(Good)」、「次はこの部分について、もう少し根拠となるデータを加えると、さらに説得力が増すでしょう(More)」といった具体的な指摘は、受講者の次なる行動を促します。
また、カークパトリックモデルの「反応」「学習」の段階を意識し、受講者がOJTに対してどのように感じているか(反応)、何を学んだか(学習)を確認することも有効です。受講者の心理的安全性を確保し、質問しやすい雰囲気を作ることも、率直な意見を引き出す上で重要です。
<OJT受講者からのフィードバックの受け方>
フィードバックは、自身の成長のための貴重な機会と捉え、真摯に受け止めましょう。指摘された内容が不明瞭な場合は、具体例を求めるなど、積極的に質問して理解を深めることが大切です。メモを取り、後で振り返れるように整理する習慣もつけましょう。
また、ただ受け止めるだけでなく、フィードバックを受けて「次にどう改善するか」をトレーナーに伝えることで、自身の学びを深め、改善への意欲を示すことができます。「フィードバック・リフレクション」を習慣化し、自ら課題解決に取り組む姿勢を見せることで、トレーナーとの信頼関係も深まり、より質の高い指導を受けられるようになるでしょう。
OJT経験4年目以上!ベテラン担当者・受講者の視点
OJT経験が4年目以上になると、担当者も受講者も、より高度な視点と戦略的なアプローチが求められます。担当者はチームや組織全体の生産性向上を見据え、受講者は自身の専門性を深めながら、新たな役割への適応を果たす時期です。
ここでは、ベテラン社員がOJTを通じて、いかに自身のキャリアをさらに発展させ、組織に貢献していくか、その秘訣を探ります。
中堅OJT担当者が持つべき「全体最適」の視点
OJT経験が4年目以上の中堅社員は、単に個人のスキルを教えるだけでなく、組織全体の目標達成に貢献する視点を持つことが求められます。参考情報でも述べられているように、OJTを単なる現場任せにせず、組織全体で育成を支援する文化を醸成することが重要です。中堅トレーナーは、この「組織全体での連携」の要となる存在です。
自身の担当業務だけでなく、人事部門や他部署の社員を巻き込むことで、より多角的な視点から育成を支援できます。例えば、新人研修の企画段階で人事と連携し、OJTで実践する内容とOFF-JTで学ぶ内容の整合性を高めることができます。また、新人教育が特定のトレーナーに業務過多(37.6%の企業が課題)とならないよう、チーム内での役割分担や、デジタルツールの活用(動画マニュアルなど)を積極的に提案・導入するリーダーシップも期待されます。
中堅トレーナーの貢献度は、KPIとして「新人の成長」だけでなく、「トレーナーの貢献」として評価されるべきです。例えば、OJT受講者の独り立ちまでの期間短縮への貢献度や、新入社員の離職率低下への影響などが指標となり得ます。自身のOJTがチームや組織にどのような好影響をもたらしているのかを客観的に捉え、さらなる改善に繋げる視点を持つことが、ベテラントレーナーとしての価値を高めるでしょう。
経験者がOJTで新たなスキル・知見を獲得する方法
OJTは新入社員だけのものではありません。経験豊富な社員が、異動や昇進、あるいは新たなプロジェクト参画によってOJTを受ける機会も多々あります。特に中途入社者にとっては、その企業独自の文化や業務フローを習得するためにOJTは不可欠です。
この場合、自身のこれまでの業界経験や職種経験、習得スキルレベルを正確に把握し、それをOJT担当者と共有することが重要です。単にゼロから学ぶのではなく、既存のスキルや知識を新しい環境でいかに活かすか、いかに応用するかという視点を持つことで、OJTの質は格段に向上します。例えば、営業経験者であれば、新たな商材の知識はOJTで補いつつ、既存の顧客対応スキルや提案力はすぐに戦力として活かすことができるでしょう。
OJTを通じて、自身の専門分野をさらに深掘りしたり、隣接する領域の知識を獲得したりすることも可能です。業務の背景にあるビジネスモデルや意思決定プロセスを深く理解しようと努め、積極的に質問を投げかけることで、単なる作業スキルに留まらない、より本質的な知見を得られます。カークパトリックモデルの「行動」「結果」の段階を意識し、OJTで得た知識を行動に移し、具体的な成果(生産性向上、品質改善など)を出すことを目標にすることで、経験者はさらなる成長を遂げられます。
チーム全体の生産性を高めるOJTマネジメント
経験4年目以上のベテラン社員は、OJTマネジメントを通じてチーム全体の生産性を向上させる責任を担います。これは、個々のOJTの質を高めるだけでなく、チームメンバー全員が円滑に業務を遂行できるよう、全体を俯瞰した育成戦略を立てることを意味します。
まず、OJT計画書の事前作成は必須です。育成対象者の現状(経験年数、スキルレベルなど)を詳細に把握し、個々に合わせた育成内容を計画することで、新入社員の成長度合いのばらつき(34.4%の企業が課題)を抑制できます。計画書には、達成すべき具体的な目標、期間、評価方法などを明記し、OJT担当者と受講者双方で合意形成を図りましょう。これにより、曖昧な指導や進捗の遅れを防ぎ、効率的な育成が可能になります。
さらに、OJTがチームの生産性に与える影響を「組織への影響」というKPIで常に意識しましょう。例えば、「担当業務の処理件数」「エラー率の低下」「目標達成率」などの生産性指標や、「顧客満足度アンケートのスコア」「クレーム件数の減少」といった品質指標、そして「新人の離職率の低下」「採用・育成コストの削減」といったコスト指標を通じて、OJTがチームに与える貢献度を可視化します。これにより、OJTが単なる「教育」ではなく、「投資」としてチームの成長に不可欠であることを明確に示し、チーム全体の意識を高めることができます。
40代・50代のOJT:年代別の悩みと効果的な進め方
キャリアを重ねた40代・50代の社員がOJTに関わる場合、若手とは異なる特有の課題と強みがあります。担当者としては豊富な経験をどう伝えるか、受講者としては長年の習慣をどう変化させるか、といった悩みが生じやすい年代です。
ここでは、40代・50代の社員がOJTにおいて直面するであろう状況と、それを乗り越え、最大限の成果を出すための効果的な進め方について考察します。
経験豊富なOJT担当者が直面する「指導方法のギャップ」
40代・50代のOJT担当者は、長年の経験から培った豊富な知識とスキルを持っています。しかし、その経験が時に「指導方法のギャップ」を生むことがあります。自身の成功体験や業務遂行の「当たり前」を、そのまま若手社員に押し付けてしまうと、現代の働き方や価値観との齟齬が生じ、かえって受講者の成長を阻害する可能性があります。
この年代のトレーナーに必要なのは、自身の経験を「翻訳」する能力です。過去の事例を単に語るだけでなく、なぜその判断に至ったのか、当時の背景と現在の状況の違いを明確に伝え、若手が自分事として応用できるよう導くことが重要です。また、現代のデジタルネイティブ世代の学習スタイルや、最新のITツール・業務プロセスへの理解を深める努力も欠かせません。自身の経験に固執せず、新しい知識や技術を積極的に学び取り入れることで、指導の幅が広がり、若手からの信頼も得やすくなります。
「OJTトレーナーの指導にばらつきがある」(49.7%)という課題は、経験豊富なトレーナーにとっても無関係ではありません。自身の指導方法が客観的に適切かを見直すため、トレーナー研修への参加や、他のトレーナーとの情報交換を通じて、指導の標準化と最新化を図る意識が求められます。
40代・50代でOJTを受ける際の心構えと適応のコツ
キャリアの転換期や部署異動、中途入社などで40代・50代の社員がOJTを受ける場合、長年の経験があるからこそ、戸惑いやプライドが邪魔をしてしまうことがあります。しかし、この時期のOJTは、新たなスキルセットを獲得し、自身の市場価値を高める絶好の機会です。
最も重要なのは、「謙虚な姿勢」と「柔軟な適応力」です。これまでの成功体験は貴重な財産ですが、新しい環境では通用しないルールや文化があることを認識し、素直に新しい知識を吸収する心構えが求められます。若いOJT担当者からの指導であっても、その企業の文化や最新の業務プロセスを学ぶ機会として積極的に受け入れましょう。特に、OJTとOFF-JTの組み合わせは、体系的な知識を効率的に学ぶ上で有効です。新しい分野のeラーニングや集合研修とOJTを並行して進めることで、理解が深まります。
また、積極的にコミュニケーションを図ることも適応のコツです。疑問点はその場で質問し、自身の経験や視点も適宜共有することで、OJT担当者との間に良好な関係を築けます。自身の強みをアピールしつつ、学ぶ意欲を示すことで、早期にチームの一員として認められ、新たな役割への適応をスムーズに進めることができるでしょう。自身のKPI(スキル習得率や独り立ちまでの期間)を意識し、具体的な目標を持ってOJTに臨むことも効果的です。
多様な年代が活躍するチームでOJTを成功させるには
現代の企業は、多様なバックグラウンドと年代の社員が共に働く「多世代チーム」が主流です。このような環境でOJTを成功させるには、年代間の相互理解と協力体制が不可欠です。40代・50代のOJT担当者は、チーム全体のダイバーシティマネジメントの視点を持つことが求められます。
まず、世代間の価値観や働き方の違いを理解し、尊重することが出発点です。例えば、若手はデジタルツールを使いこなす一方で、対人コミュニケーションに課題を抱えるかもしれません。逆に、ベテランは経験値は豊富でも、新しい技術習得に時間がかかる場合があります。それぞれの強みを活かし、弱みを補完しあえるようなOJT計画を立てることが重要です。
OJTを特定の担当者に任せきりにせず、組織全体で育成を支援する文化を醸成しましょう。例えば、ピアラーニング(同僚からの学び)の機会を設けたり、メンター制度を導入して、OJT担当者以外のベテラン社員が若手の相談に乗る機会を作ったりするのも良いでしょう。これにより、OJT担当者の業務過多を軽減しつつ、若手社員が多角的な視点から学びを得られるようになります。
定期的なチームミーティングや1on1を通じて、各年代のOJTにおける悩みや期待を共有し、オープンなコミュニケーションを促進することも大切です。これにより、OJTトレーナーの指導のばらつきを防ぎ、チーム全体として一貫性のある育成方針を共有できるようになります。多様な年代が互いに学び合う「ラーニングカルチャー」を育むことが、多世代チームでのOJT成功の鍵となります。
異動者がOJTを成功させるためのポイント
社内異動や中途入社によって新しい部署や役割に就く場合、これまでの経験はあっても、その部署特有の業務や文化、人間関係を学ぶためのOJTが不可欠です。異動者は、新入社員とは異なる状況にあり、そのOJTには特有の課題と成功の秘訣があります。
ここでは、異動者が新しい環境でスムーズに立ち上がり、早期に戦力となるためのポイントと、組織側が提供すべきサポート体制について掘り下げていきます。
新しい部署でのOJT:早期戦力化のためのステップ
異動者が新しい部署でOJTを受ける場合、最大の目標は「早期戦力化」です。そのためには、異動者の持つ既存スキルを最大限に活かしつつ、新しい部署で不足しているスキルや知識を効率的に補完する計画が求められます。
まず、OJT担当者は、異動者のこれまでの職務経歴やスキルレベルを正確に把握し、それを踏まえた個別最適化された育成計画を策定することが重要です。例えば、営業経験者であれば、既存の営業スキルは共通項とし、新しい商材知識やターゲット顧客層へのアプローチ方法に特化したOJTを組むといった工夫が考えられます。
また、新しい部署の業務マニュアルや動画マニュアルといったデジタルツールの活用を積極的に促し、自己学習をサポートしましょう。これにより、OJT担当者がつきっきりで指導する時間を減らしつつ、異動者は自分のペースで基礎知識を習得できます。加えて、部署独自の専門用語や略語、暗黙のルールなど、文化的な側面についても丁寧に説明し、組織へのスムーズな適応を支援することが早期戦力化に繋がります。
OJTの効果測定では、「独り立ちまでの期間」を短縮することや、「新しい業務のスキル習得率」を高めることをKPIとして設定し、定期的に進捗を確認しながら、必要に応じて計画を柔軟に見直していくことが成功の鍵となります。
異動者自身がOJTを「活用」する積極的な姿勢
異動者がOJTを成功させるには、組織からのサポートだけでなく、異動者自身の積極的な姿勢が不可欠です。与えられたOJTメニューをこなすだけでなく、「活用する」という意識を持つことが、早期のキャッチアップと成長を促します。
まず、受け身にならず、積極的にOJT担当者や周囲のメンバーに質問や意見交換を行うことが重要です。これまでの自身の経験を共有しつつ、新しい部署での業務プロセスや意思決定の背景について深く理解しようと努めましょう。自身の既存スキルや経験が、新しい部署でどのように貢献できるかを示唆することで、チームへの貢献意欲をアピールし、信頼関係の構築にも繋がります。
また、OJT担当者だけでなく、部署内の様々なメンバーとのコミュニケーションを意識的に図り、部署全体の業務内容や人間関係を把握することも大切です。ランチや休憩時間などを活用して、気軽に話せる関係性を築くことで、非公式な情報交換を通じて、より早く部署に馴染むことができます。必要であれば、自分からメンターとなる先輩社員を希望するなどの行動も有効です。
自身のOJTにおける明確な目標設定と、それに対する進捗状況を自身からも定期的にOJT担当者に報告することで、自身の成長へのコミットメントを示すことができます。この積極的な姿勢が、OJTの質を高め、自身のキャリアアップにも繋がるでしょう。
異動者のOJTにおける組織側のサポート体制
異動者のOJTを成功させるためには、組織全体としての手厚いサポート体制が不可欠です。特に、異動者が「放置されている」と感じることなく、スムーズに新しい環境に溶け込めるような配慮が求められます。
まず、人事部門と異動先部署は、配属前に異動者の詳細な情報(これまでのスキル、経験、異動理由、キャリアプランなど)をOJT担当者と共有することが必須です。これにより、OJT担当者は異動者の状況を十分に理解した上で、最も効果的な育成計画を立てることができます。また、異動者の既存スキルを活かせる業務からアサインし、成功体験を積ませることで、自信を持って新しい業務に取り組めるよう促しましょう。
定期的な面談(1on1)を通じて、異動者の進捗確認だけでなく、困りごとや不安を丁寧にヒアリングし、心理的なサポートも行いましょう。異動者は、これまでの人間関係がリセットされることで孤独感を感じやすいものです。部署全体で歓迎ムードを醸成し、ランチに誘う、気軽に声をかけるといった小さな配慮が、早期の適応に繋がります。
OJT担当者自身の「業務過多」(37.6%の企業が課題)にならないよう、OJTのタスクをチーム内で適切に分散させることも重要です。例えば、特定の専門分野の指導は、その分野に詳しい他の社員に一時的に担当してもらうなど、チーム全体で異動者を育成する意識を持つことで、OJTの質を保ちつつ、担当者の負担を軽減できます。
OJTをさらに効果的にするためのヒント
OJTは、単なる業務指導にとどまらず、社員一人ひとりの成長を促し、ひいては組織全体の活性化に貢献する重要な人材育成施策です。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、常に改善を繰り返し、より戦略的な視点で取り組む必要があります。
ここでは、OJTをさらに洗練させ、持続的な成果を生み出すための具体的なヒントを紹介します。
データに基づいたOJT効果測定と改善サイクル
OJTの効果を感覚的な評価から脱却させ、客観的なデータに基づいて測定し、改善に繋げることは、現代のOJTにおいて不可欠です。漠然と「効果があった」と感じるだけでなく、具体的な数値でその価値を可視化しましょう。
まず、OJT開始前に具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。例えば、以下のような指標が考えられます。
- 新人の成長: スキル習得率(例: 83%)、独り立ちまでの期間(目標3ヶ月に対し実績2.5ヶ月)、テスト・課題のスコア。
- トレーナーの貢献: OJTトレーナーの活動がどれだけ効果的だったかを評価する指標(例: 担当新人の目標達成率、エンゲージメントスコア)。
- 組織への影響: 生産性(担当業務の処理件数、エラー率の低下、目標達成率)、品質(顧客満足度アンケートのスコア、クレーム件数の減少)、コスト(新人の離職率の低下、採用・育成コストの削減)。
これらのKPIに加え、カークパトリックモデルを活用して、OJTの効果を「反応」「学習」「行動」「結果」の4段階で多角的に評価することも有効です。受講者のアンケート(反応)、テスト結果(学習)、業務遂行の変化(行動)、そして組織への具体的な影響(結果)を定期的に測定し、その結果を次のOJT計画にフィードバックするPDCAサイクルを回しましょう。これにより、OJTは常に最適化され、より高い成果を生み出す施策へと進化します。
OJTとOFF-JTの最適な組み合わせ戦略
OJT単独では達成しにくい学習効果も、OFF-JT(Off-the-Job Training)と組み合わせることで、飛躍的に向上させることができます。参考情報でも、OJTとOFF-JTを両方受けた場合、受講後2年で賃金上昇の有意な効果が見られたという研究結果が示されており、この組み合わせの重要性が裏付けられています。
最適な組み合わせ戦略を立てるには、それぞれのトレーニング手法の強みを理解することが鍵です。
| トレーニング手法 | 強み | 役割 |
|---|---|---|
| OJT | 実践的なスキル習得、応用力、個別指導、リアルタイムフィードバック | 現場での即戦力化、実践的な課題解決能力の育成 |
| OFF-JT | 体系的な知識習得、多角的な視点、専門知識、異業種交流 | 理論的基盤の確立、汎用スキルの獲得、マインドセット形成 |
例えば、新入社員には、集合研修(OFF-JT)でビジネスマナーや業界の基礎知識を学び、その後OJTで具体的な業務実践を通して応用力を高める、という流れが効果的です。中堅社員には、OJTで得た課題意識を基に、外部研修(OFF-JT)で専門知識を深め、それを再びOJTで実践することで、より高度なスキルを習得させることができます。
OJTとOFF-JTを有機的に連携させることで、学習効果を最大化し、社員の多角的な成長を促進することができるでしょう。
組織全体で「育成文化」を醸成するための取り組み
OJTは、一部のOJT担当者や人事部門だけの責任ではありません。OJTの効果を最大化し、持続的な人材育成を実現するためには、組織全体で「育成文化」を醸成することが不可欠です。
「OJTトレーナーの業務過多」(37.6%)や「指導のばらつき」(49.7%)といった課題は、OJTが特定の個人に依存している状況で発生しやすくなります。これを解決するためには、まず経営層が人材育成へのコミットメントを明確に示すことが重要です。経営層からの強いメッセージは、社員一人ひとりの育成意識を高める大きな力となります。
次に、人事部門がOJTの設計、トレーナー研修の企画・実施、効果測定、そして現場との連携を強力に推進しましょう。現場任せにせず、組織全体でOJTのPDCAサイクルを回すための支援体制を構築することが求められます。例えば、OJTの成功事例を社内報や社内SNSで共有し、優れたトレーナーを表彰するなど、ナレッジマネジメントとモチベーション向上に繋がる施策も有効です。
また、部署やチームを超えた「組織全体での連携」も重要です。OJT担当者同士の横の繋がりを強化する交流会を設けたり、異動先の部署との情報共有を密にしたりすることで、OJTをよりスムーズかつ効果的に進められるようになります。社員全員が「教えること」「学ぶこと」に積極的に関わる風土を育むことが、強い組織を築く土台となるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: OJT2年目ですが、受講者とのコミュニケーションで悩んでいます。どうすれば良いですか?
A: 2年目であれば、まだ完璧を目指す必要はありません。まずは受講者の話をよく聞き、共感する姿勢を示すことが大切です。わからないことは正直に伝え、一緒に調べる姿勢も信頼につながります。先輩担当者に相談するのも良いでしょう。
Q: OJT3年目となり、そろそろ独り立ちさせたいのですが、どこまで任せるべきでしょうか?
A: 3年目であれば、ある程度の裁量を持たせ、自ら考え行動する機会を増やすことが重要です。しかし、完全に任せきりにするのではなく、適度なフォローやフィードバックを欠かさないようにしましょう。成長度合いを見ながら、徐々に任せる範囲を広げていくのが理想です。
Q: OJT経験4年目になります。後輩指導に加えて、チーム全体の育成を意識するにはどうしたら良いですか?
A: 4年目ともなれば、自身の経験を活かし、チーム全体の視点でOJTを捉えることが求められます。後輩担当者へのアドバイスや、OJTプログラムの改善提案など、より戦略的な関わり方を意識してみましょう。チーム全体のスキルマップを作成するのも有効です。
Q: 40代で異動し、初めてOJT担当になりました。部下との年齢差が気になります。どう接すれば良いですか?
A: 年齢差を意識しすぎる必要はありません。まずは相手を一人のビジネスパーソンとして尊重し、フラットな関係性を築くことを心がけましょう。これまでの経験や知識を惜しみなく伝えつつ、新しい視点や考え方にも耳を傾ける柔軟性も大切です。
Q: 50代でOJTの対象者となりました。若い担当者から指導されることに抵抗感はありませんか?
A: 50代でOJTの対象者となる場合、これまでの経験や知識を活かしつつ、新しいスキルや知識を吸収する前向きな姿勢が重要です。若い担当者の指導を素直に受け入れ、疑問点は積極的に質問することで、より効果的な学びにつながります。
