ストックオプションの税金：利益、申告、納付まで徹底解説

ストックオプションは、従業員や役員が自社株を将来、あらかじめ決められた価格（権利行使価格）で購入できる権利です。これは、企業の成長に貢献することで、将来的に大きな報酬を得られる可能性がある魅力的な制度として、特にスタートアップ企業を中心に広く活用されています。

しかし、このストックオプションによって得られる利益には、税金が複雑にかかってきます。種類や行使・売却のタイミングによって、課税される所得の種類や税率が大きく異なるため、適切な税務処理を理解しておくことが非常に重要です。

2024年度の税制改正により、税制適格ストックオプションの要件が緩和され、より利用しやすくなりました。本記事では、ストックオプションにかかる税金について、最新の情報（2024年度税制改正を含む）を基に、利益の計算から申告、納付までを徹底的に解説します。

ストックオプションを保有している方、あるいはこれから付与される可能性がある方は、ぜひこの記事を参考に、税金に関する知識を深め、スムーズな税務処理を行いましょう。

ストックオプションにおける利益と税金の基本

ストックオプションの基本的な仕組みと種類

ストックオプションの税金を理解する上で、まずその基本的な仕組みと種類を把握することが重要です。ストックオプションは、会社から付与される「権利」であり、この権利を行使して株式を取得し、それを売却することで経済的利益を得ます。税法上、主に「税制適格ストックオプション」と「税制非適格ストックオプション」の二種類に大別され、それぞれ課税のルールが大きく異なります。

税制適格ストックオプションは、一定の要件を満たすことで税制上の優遇を受けられるものです。具体的には、権利行使時には課税されず、株式を売却したときにまとめて「譲渡所得」として課税されます。これにより、権利行使時の資金負担を抑えつつ、売却益に対して一律の税率が適用されるメリットがあります。

一方、税制非適格ストックオプションは、税制適格の要件を満たさないものです。この場合、権利行使時と株式譲渡時の両方で課税される可能性があります。権利行使時の利益は「給与所得」として、株式譲渡時の利益は「譲渡所得」として課税されるため、課税タイミングや税率、納税手続きがより複雑になる傾向があります。

課税タイミングの理解：権利行使時と株式譲渡時

ストックオプションにかかる税金は、主に以下の2つのタイミングで発生します。

1. 権利行使時: ストックオプションの権利を行使して、会社から株式を取得するタイミングです。
2. 株式譲渡時: 権利行使によって取得した株式を売却するタイミングです。

税制適格ストックオプションの場合、権利行使時には課税されず、株式を売却した時に初めて課税されます。この「課税繰り延べ」の恩恵は、実際に現金収入を得るタイミングで税金を支払えるため、納税資金の準備がしやすくなるという大きなメリットがあります。

これに対し、税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時の株価が権利行使価格を上回っていた場合、その差額が「給与所得」として課税対象となります。この時点ではまだ株式を売却しておらず、現金収入がないにもかかわらず納税義務が生じるため、資金繰りに注意が必要です。さらに、その後取得した株式を売却して利益が出れば、その売却益が「譲渡所得」として再び課税されます。

有償ストックオプションは、権利取得時に金銭を支払うため、権利行使時には課税されず、税制適格と同様に株式を売却した際に譲渡所得として課税されます。

利益計算の基礎：税制適格と非適格での違い

ストックオプションの利益計算は、その種類によって大きく異なります。特に税制適格と税制非適格では、課税される所得の種類と計算方法、適用される税率が異なるため、正確な理解が求められます。

【税制適格ストックオプションの利益計算】
税制適格の場合、権利行使時の経済的利益は非課税です。課税は株式を売却した時に行われ、その際の利益は「譲渡所得」として計算されます。

譲渡所得 ＝ 売却価格 － （権利行使価格 ＋ 売却手数料など）

この譲渡所得に対し、申告分離課税が適用され、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税（所得税額の2.1%）の合計約20.315%の税率で課税されます。

【税制非適格ストックオプションの利益計算】
税制非適格の場合、課税は二段階で発生する可能性があります。

1. 権利行使時: 権利行使時の株価 － 権利行使価格 ＝ 給与所得
   この給与所得は、他の給与所得と合算され、超過累進税率（所得税最大45%）が適用されます。住民税は一律10%です。
2. 株式譲渡時: 売却価格 － 権利行使時の株価（取得費） ＝ 譲渡所得
   この譲渡所得に対しては、税制適格と同様に約20.315%の申告分離課税が適用されます。

この二段階課税が、税制非適格ストックオプションの複雑さの主な原因です。特に権利行使時の「給与所得」は、所得全体を押し上げ、高額の所得税を招く可能性があるため、注意が必要です。

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ストックオプションと所得の種類：給与所得・譲渡所得

ストックオプションから生じる利益は、税法上、主に「給与所得」と「譲渡所得」の二種類に分類されます。この所得の種類によって、適用される税率や納税方法が大きく異なるため、正確な区別が不可欠です。

給与所得は、主に税制非適格ストックオプションにおいて、権利行使時に発生します。権利行使価格よりも権利行使時の株価が高い場合、その差額が会社からの経済的利益とみなされ、給与の一部として課税されます。これは、毎月の給与や賞与と同様に、所得税の超過累進税率と住民税10%が適用されるため、権利行使による利益が大きくなると、税率が非常に高くなる可能性があります。

一方、譲渡所得は、税制適格ストックオプションの株式売却時、または税制非適格ストックオプションの株式売却時に発生します。これは、株式を売却した際の売却価格が、その株式の取得費（権利行使価格や権利行使時の時価など）を上回った場合に生じる利益です。譲渡所得には、他の所得とは合算せず個別に税金を計算する「申告分離課税」が適用され、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税（所得税額の2.1%）の合計約20.315%の税率が適用されます。これは、給与所得の累進課税に比べて税率が低いことが一般的です。

税率の具体的な適用：超過累進税率と申告分離課税

ストックオプションの税金は、所得の種類に応じて異なる税率が適用されます。この違いを理解することが、納税額を予測する上で非常に重要です。

【給与所得に適用される税率】
税制非適格ストックオプションの権利行使時に発生する給与所得は、他の給与や賞与と合算され、所得税の「超過累進税率」が適用されます。所得税の税率は、所得金額に応じて5%から最大45%までの7段階に分かれています。これに加えて、住民税が一律10%課税されます。例えば、給与所得が数百万円から数千万円に達すると、所得税率は33%や40%といった高い税率が適用され、住民税と合わせると全体の税負担は50%近くになることも珍しくありません。

【譲渡所得に適用される税率】
税制適格ストックオプションの株式売却時、および税制非適格ストックオプションの株式売却時に発生する譲渡所得には、「申告分離課税」が適用されます。これは、他の所得とは切り離して個別に税金を計算する仕組みです。税率は一律で、所得税15%、住民税5%、そして2037年までの復興特別所得税（所得税額の2.1%）が加算され、合計で20.315%となります。

このように、給与所得は累進課税で税率が変動するのに対し、譲渡所得は分離課税で税率が一定である点が大きな違いです。ストックオプションの利益が大きい場合、どの所得として課税されるかによって、納税額に大きな差が生じることになります。

納税スケジュールと手続き：源泉徴収と確定申告

ストックオプションにかかる税金の納税は、その種類と所得の種類によってスケジュールと手続きが異なります。主な納税方法は、源泉徴収と確定申告の二つです。

【源泉徴収】
税制非適格ストックオプションの権利行使により給与所得が発生する場合、会社がその利益に対して所得税を源泉徴収し、納税することが一般的です。この場合、個人の確定申告は不要となることがあります。しかし、多額の利益が発生し、年末調整だけでは不足する場合には、追加で確定申告が必要になることもあります。

【確定申告】
以下のケースでは、原則として個人で確定申告が必要です。

• 税制適格ストックオプションを売却し、譲渡所得が発生した場合
• 税制非適格ストックオプションを売却し、譲渡所得が発生した場合（ただし、特定口座（源泉徴収あり）を利用している場合は原則不要）
• 税制非適格ストックオプションの権利行使で多額の給与所得が発生し、源泉徴収だけで納税が完了していない場合

確定申告の期間は、原則として利益が発生した年の翌年の2月16日から3月15日までです。この期間内に、所得税および住民税の申告と納付を行う必要があります。必要書類は、申告書第一表、第二表、第三表（分離課税用）、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書など多岐にわたります。確定申告を怠ると、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるため、期限内の正確な申告・納付を心がけましょう。

みなし譲渡・法定調書・臨時報告書の重要性

ストックオプションと法人税の関連性

ストックオプションは、付与された個人だけでなく、発行会社にとっても法人税上の影響があります。特に税制非適格ストックオプションの場合、会社は従業員に経済的利益を与えたとみなされ、その利益相当額を費用として計上できる可能性があります。

具体的には、税制非適格ストックオプションの権利行使時に、従業員が給与所得として課税される差額について、会社側では「給与等」として損金算入できる場合があります。これは、通常の給与と同様の会計処理となり、会社の法人税負担を軽減する効果があります。ただし、その費用計上のタイミングや金額の算定方法については、会計基準や税法上の要件を厳密に遵守する必要があります。

また、ストックオプションの発行自体が、会社の資本政策や財務諸表に影響を与えます。例えば、株式の発行は資本金や資本準備金に影響し、費用計上は損益計算書に反映されます。これらの会計処理は、会社の法人税額の計算に直結するため、税理士や会計士と連携し、適切な処理を行うことが不可欠です。

法定調書と税務署への情報提供

ストックオプションに関わる税務において、会社が税務署に提出する「法定調書」は非常に重要な役割を果たします。法定調書とは、企業が税務署に対し、特定の取引や支払いに関する情報を提供する書類の総称です。ストックオプションに関連する主な法定調書としては、「給与所得の源泉徴収票」や「株式等の譲渡の対価等の支払調書」などが挙げられます。

税制非適格ストックオプションの場合、権利行使時に発生する給与所得は、通常の給与と合算され、会社から税務署に「給与所得の源泉徴収票」が提出されます。ここには、ストックオプションによる経済的利益も含まれており、個人の所得情報が税務署に把握されます。また、証券会社を通じて株式を売却した場合、証券会社は「株式等の譲渡の対価等の支払調書」を税務署に提出し、個人の売却益に関する情報が提供されます。

これらの法定調書によって、税務署は個人の所得情報や株式の取引情報を正確に把握することができます。万が一、個人が確定申告を怠ったり、申告内容に誤りがあったりした場合、法定調書の情報との突合により、無申告や申告漏れが発覚する可能性が高まります。企業側の適切な情報提供が、個人の正確な税務処理を担保する上でも重要です。

臨時報告書と情報開示の義務

上場企業の場合、ストックオプションの発行や行使に関する情報は、金融商品取引法に基づき「臨時報告書」として金融庁に提出され、一般に開示されます。臨時報告書は、投資判断に重要な影響を与える特定の事実が発生した場合に提出が義務付けられるものです。

ストックオプションに関連する臨時報告書では、新たなストックオプションの発行決議、付与対象者、付与数、権利行使価格、権利行使期間などの詳細情報が開示されます。これにより、投資家は会社のインセンティブ制度の状況や、潜在的な株式の希薄化リスクなどを把握することができます。

また、大規模な権利行使が行われた場合にも、発行済み株式数に変動が生じるため、臨時報告書による情報開示が求められることがあります。このような情報開示は、市場の透明性を高め、投資家保護の観点から非常に重要です。企業は、これらの情報開示義務を遵守するとともに、開示された情報が個人の税務処理に間接的に影響を与える可能性も理解しておく必要があります。

無申告・予定納税・前払費用の落とし穴と対策

無申告・申告漏れが招くペナルティ

ストックオプションによって課税対象となる利益が発生したにもかかわらず、確定申告を怠ったり、申告内容に誤りがあったりした場合、重いペナルティが課される可能性があります。これは、税務上の最も大きな落とし穴の一つです。

• 無申告加算税： 期限内に確定申告をしなかった場合に課される税金です。原則として、納付すべき税額に対し、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%が加算されます。税務署の調査によって発覚した場合はさらに重くなることがあります。
• 過少申告加算税： 申告期限内に提出した申告書に記載された税額が実際よりも少なかった場合に課される税金です。不足額に対して10%が加算されます。
• 延滞税： 納付期限までに税金を納めなかった場合に課される利息に相当する税金です。延滞期間に応じて日割りで計算され、税率も比較的高く設定されています。

これらのペナルティは、本来納めるべき税額に加えて課されるため、総納税額が大きく膨れ上がる可能性があります。特に、ストックオプションの利益は高額になる傾向があるため、ペナルティ額も高額になりがちです。税務調査によって無申告や申告漏れが発覚した場合、過去数年分に遡って追徴課税されることもありますので、細心の注意が必要です。

予定納税と納税額の事前把握

ストックオプションによって多額の利益が発生した場合、翌年の所得税において「予定納税」の対象となることがあります。予定納税とは、その年の所得税の一部を、翌年の確定申告を待たずに事前に納付する制度です。

具体的には、前年の所得金額や税額に基づいて、その年の所得税の見込み額が計算されます。そして、その見込み額が一定額（通常15万円）を超える場合、その年の7月と11月に、それぞれ税額の1/3ずつを納税するよう税務署から通知が来ます。ストックオプションの売却益などによって前年の所得が大きく増加した場合、この予定納税の対象となる可能性が高まります。

予定納税の通知が届いたら、無視せず期日までに納付することが重要です。もし、その年の所得が前年よりも大幅に減少することが見込まれる場合は、予定納税額の減額申請を行うことも可能です。しかし、申請には条件があり、手続きも必要となるため、早めに税理士に相談することをおすすめします。納税額を事前に把握し、計画的に資金を準備しておくことが、納税資金の不足による延滞税などのリスクを避けるための重要な対策となります。

前払費用としてのストックオプション：会社の会計処理

「前払費用」という言葉は、本来企業の会計処理で用いられる概念ですが、ストックオプションの文脈では、会社が従業員に付与するストックオプションを費用として計上する際の方法と関連付けて理解できます。特に税制非適格ストックオプションの場合、会社は従業員へのインセンティブとしての価値を費用として認識・計上する必要があります。

これは、ストックオプションを公正価値評価し、その公正価値をサービスの提供期間（通常は権利確定期間）にわたって費用として配分する会計処理を指します。例えば、従業員にストックオプションを付与し、それが4年間で権利が確定する（vestingする）場合、会社はその公正価値を4年間にわたって「ストックオプション費用」として損益計算書に計上していきます。

この費用計上は、従業員側の給与所得課税とは直接的な関係はありませんが、企業側の税務上の損金算入に影響を与えます。適切に費用計上することで、会社の法人税負担を軽減できる可能性があります。しかし、この公正価値の算定や費用配分の方法は複雑であり、専門的な知識が求められます。会社は、ストックオプションの付与が自社の会計と税務にどのように影響するかを正確に把握し、適切な処理を行うための準備を怠らないようにする必要があります。

マイナンバー制度とストックオプション税務の関連性

マイナンバーが税務申告に与える影響

マイナンバー制度は、個人の税務申告において非常に重要な役割を担っています。ストックオプションの利益についても例外ではありません。確定申告書を提出する際には、申告者本人とその扶養親族のマイナンバーの記載が義務付けられています。これにより、国税庁は個人と税務当局、さらには企業や金融機関との情報連携を強化しています。

会社から付与される給与所得の源泉徴収票や、証券会社から発行される年間取引報告書など、個人の所得や取引に関する各種書類には、個人のマイナンバーが記載されています。これらの情報は税務署に提出されるため、マイナンバーを介して、個人のあらゆる所得情報が紐付けられ、国税庁のシステム上で一元的に管理されるようになっています。

この情報連携の強化は、税務申告の正確性を向上させる一方で、無申告や申告漏れに対する監視の目を厳しくすることを意味します。ストックオプションによる利益が発生した場合、マイナンバーによってその情報が税務署に集約されるため、正確な申告を行うことがこれまで以上に重要になっています。

国税庁の情報把握強化と税務調査

マイナンバー制度の導入と情報連携の強化により、国税庁は納税者の所得情報を、より広範かつ正確に把握できるようになりました。これにより、ストックオプションを含む様々な所得に対する税務調査や、無申告・申告漏れの発見が以前よりも容易になっています。

国税庁は、企業が提出する給与支払報告書や法定調書、金融機関が提出する支払調書などの情報をマイナンバーと紐付けて収集・分析しています。ストックオプションの場合、会社から提出される「給与所得の源泉徴収票」には権利行使による給与所得が、証券会社から提出される「株式等の譲渡の対価等の支払調書」には株式売却による譲渡所得が記載され、これらが全て個人のマイナンバーと紐付けられています。

税務署は、これらの情報と個人の確定申告書の内容を比較照合することで、申告内容の不一致や申告漏れを効率的に発見できます。もし、税務調査によって申告漏れや無申告が発覚すれば、本記事で前述した無申告加算税や延滞税といった重いペナルティが課されることになります。透明性の高い現代の税務環境において、正確かつ適時の申告が何よりも重要です。

専門家との連携：税理士への相談の重要性

ストックオプションにかかる税務は、その種類、権利行使や売却のタイミング、そして個人の他の所得状況によって非常に複雑になります。特に、税制非適格ストックオプションの場合の二段階課税や、高額な給与所得に対する超過累進税率の適用は、一般の方には理解しにくい側面が多いでしょう。

このような複雑な税務処理を正確に行い、無申告や申告漏れによるペナルティのリスクを回避するためには、税理士などの専門家への相談が不可欠です。税理士は、お客様の状況に応じて、税制適格・非適格の判断、適切な課税タイミングの特定、利益の計算、適用される税率の確認、そして確定申告書の作成まで、一連のプロセスをサポートしてくれます。

また、ストックオプションの売却益が多額になる見込みがある場合、将来的な納税資金の計画や、特定口座（源泉徴収あり）の活用方法など、節税につながるアドバイスを受けることも可能です。2024年度の税制改正によって要件が緩和された税制適格ストックオプションについても、その適用可能性やメリットを最大限に享受できるよう、最新の情報に基づいた専門家の知見を活用することが賢明な選択と言えるでしょう。早めに専門家と連携し、安心してストックオプションの利益を享受しましょう。