社員旅行「行きたくない」の本音と賢い断り方

社員旅行「行きたくない」の本音と賢い断り方

近年、多くの企業で社員旅行のあり方が見直されています。かつては会社の恒例行事として楽しまれていた社員旅行も、今や「行きたくない」と感じる人が増えているのが実情です。

この記事では、なぜ社員旅行に行きたくないと感じるのか、その本音を徹底的に掘り下げるとともに、新入社員や若手が抱える戸惑い、そして賢い断り方までを具体的に解説します。さらに、社員旅行がパワハラや強制にならないための企業側の注意点、そして賢く乗り切るための解決策まで、多角的な視点から社員旅行との向き合い方を考えていきます。

なぜ社員旅行に行きたくないのか？その理由を徹底解剖

社員旅行に対するネガティブな感情は、決して個人的なわがままだけではありません。現代の働き方や価値観の変化に伴い、様々な要因が複雑に絡み合って生じています。ここでは、社員旅行への参加をためらう具体的な理由を深掘りしていきましょう。

プライベート時間の侵害と金銭的負担

社員旅行が「行きたくない」と感じる最大の理由の一つは、やはりプライベート時間の侵害です。特に休日を利用しての旅行となると、家族や友人との大切な時間、あるいは純粋な休息の時間を削られることへの抵抗感は大きいものがあります。

現代ではワークライフバランスが重視され、個人の時間を尊重する風潮が強まっています。そんな中で、会社のイベントのためにプライベートな予定を調整したり、自由な行動が制限されたりすることは、大きな負担に感じられるのです。また、社員旅行には金銭的な負担も伴います。旅行費用の一部自己負担や、現地での飲食代・お土産代など、個人的な出費が増えることへの懸念も、参加をためらう大きな要因となります。社員旅行が「業務の延長」のように感じられてしまうと、リフレッシュどころかストレス源になってしまうことも少なくありません。

人間関係のストレスと団体行動への抵抗感

普段の業務ではあまり接点のない同僚や上司と長時間行動を共にすること、これが人間関係のストレスに繋がるケースも非常に多く見られます。

特にZ世代においては、約6割が「上司や先輩への配慮が求められるから」という理由で社員旅行に抵抗を感じているというデータもあります。仕事中は役割分担が明確ですが、旅行中はプライベートな部分で気遣いが必要となり、それが精神的な疲労に繋がります。さらに、団体行動への抵抗感も挙げられます。自分の興味に合わない企画への参加が求められたり、自由な行動ができなかったりすることに不満を感じる人も少なくありません。せっかくの旅行なのに、常に他人に合わせて行動しなければならないという状況は、ストレス以外の何物でもないと感じる人も多いのです。

変化する価値観と企業の実施状況

働き方改革が進み、個人の自由や多様な働き方が尊重される現代において、一律参加を求める従来の社員旅行は、一部の人々にとって「時代遅れ」と感じられることがあります。

かつては社員の一体感を高める有効な手段とされていましたが、現代ではその価値観も変化しています。実際、社員旅行を実施している企業の割合は2019年時点で27.8%と決して高くなく、コロナ禍を経てさらに実施率は低下傾向にあります。社員旅行の平均参加率は一般的に50%～70%程度と言われており、特に大企業や国際的な企業では参加率が低い傾向が見られます。これは、従業員の多様なバックグラウンドや価値観を反映した結果とも言えるでしょう。企業側も、こうした価値観の変化を認識し、社員旅行の目的や形式を再考する必要がある時代に来ていると言えます。

新入社員や若手が抱える社員旅行への戸惑い

「行きたくない」という本音は、特に新入社員や若手の間で顕著に見られます。彼らは会社に馴染もうとする一方で、社員旅行という特殊な環境で様々な戸惑いやプレッシャーを感じています。

上司や先輩への「気遣い」疲れ

新入社員や若手にとって、社員旅行は普段以上に上司や先輩への「気遣い」が求められる場となりがちです。Z世代の約6割が上司や先輩への配慮が理由で参加したくないと答えているように、普段の業務とは異なる環境で、より一層気を使い続けることは、想像以上に精神的な負担となります。

旅行中、常に上司の機嫌を損ねないか、失礼な行動がないか、といった心配を抱えながら過ごすことは、本来リフレッシュであるはずの旅行を「プライベートな接待」のような感覚に変えてしまいます。職位や年齢の差がある中で、遠慮なく自分の意見を言ったり、自由に振る舞ったりすることは難しく、結果として「疲労感」だけが残ってしまうのです。このような経験は、新入社員のエンゲージメント低下にも繋がりかねません。

SNS時代の「プライベート」の境界線

SNSが生活に深く浸透している現代において、新入社員や若手はプライベートと仕事の境界線を明確にしたいと強く考えています。社員旅行のような環境では、意図せず自分のプライベートな姿が写真に撮られ、SNSに共有される可能性があります。

これは彼らにとって、自分のプライバシーが侵害されるような抵抗感を抱かせる原因となります。会社の人間とプライベートな空間を共有すること自体に抵抗がある人も多く、オフの時間を会社の延長のように感じてしまうことに不満を感じます。オンとオフの切り替えを重視する彼らにとって、社員旅行は「オフの時間にまで会社に縛られる」という感覚を与え、それが参加意欲の低下に繋がってしまうのです。個人の価値観を尊重する企業文化が求められています。

「強制参加」と感じるプレッシャー

新入社員や若手は、まだ社内での立場が確立されていないため、社員旅行への参加を断ることに大きなプレッシャーを感じます。断ることで会社での評価が下がったり、人間関係に悪影響が出たりするのではないかという不安から、「強制参加」のように感じてしまうのです。

特に、上司や先輩が「全員参加で」といった雰囲気を出している場合、断る選択肢がないと感じてしまいがちです。業務ではない社員旅行が、あたかも業務の延長であるかのように扱われることで、本来任意であるはずの参加が、新入社員にとっては断れない義務のように映ってしまいます。このような心理的プレッシャーは、社員旅行の目的である親睦を深めるどころか、逆に参加者の会社への不信感や不満を募らせる原因となってしまう可能性があります。

「行きたくない」を伝えるための具体的な断り方

社員旅行に参加したくないと感じても、なかなか正直に「行きたくない」とは言いにくいものです。しかし、伝え方やタイミングを工夫することで、波風を立てずにスマートに断ることが可能です。ここでは、具体的な断り方とその心構えについて解説します。

断る際の心構えとタイミング

社員旅行への参加を断る際、最も大切なのは相手への配慮と感謝の気持ちを伝えることです。まず「お誘いいただきありがとうございます」といった感謝の言葉を添えることで、相手に敬意を示し、断る行為そのものの角が立ちにくくなります。

また、断りの連絡はできるだけ早めに行うことが重要です。ギリギリになって伝えるのではなく、社員旅行の企画が持ち上がった段階や、参加確認が始まった直後など、できるだけ早い段階で伝えることで、企画側も人数調整や準備を進めやすくなります。これは誠実な姿勢として受け取られ、今後の人間関係にも良い影響を与えるでしょう。理由は詳細に説明する必要はなく、シンプルかつ簡潔に伝えることを心がけましょう。正直すぎる必要はありませんが、嘘をつくのは避けた方が賢明です。

スマートな理由付けと伝え方のポイント

断る理由としては、具体性に欠けるものの波風の立たないものがスマートです。例えば「家庭の事情で難しい」「体調が思わしくない」「どうしても外せない私用があり」といった理由が有効です。

これらの理由は、相手に深掘りされにくく、かつ納得しやすいものです。特に「家庭の事情」は、多くの場合、それ以上詮索されることがありません。また、体調を理由にする場合は、無理に参加を促されることも少ないでしょう。直接言いづらい場合は、メールで丁寧に断ることも有効な手段です。メールであれば、文章を推敲する時間が持て、感情的にならずに冷静なトーンで伝えられます。件名に「社員旅行参加見送りのお詫び」などと入れ、一目で内容がわかるようにすることも親切です。

そのまま使える！具体的な例文集

以下に、社員旅行への参加を断る際の具体的な例文をいくつかご紹介します。状況に合わせて適宜調整してご活用ください。

• 上司や先輩に口頭で伝える場合：

  「〇〇さん（〇〇部長）、社員旅行にお誘いいただきありがとうございます。誠に申し訳ございませんが、当日はどうしても外せない私用があり、今回は参加を見送らせていただきたく存じます。皆さんと親睦を深める貴重な機会であることは重々承知しておりますが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。」

• メールで伝える場合：

  件名：社員旅行参加見送りのお詫び（氏名）

  〇〇部〇〇様（またはご担当者様）

  いつもお世話になっております、〇〇です。

  この度は、社員旅行のご案内をいただき、誠にありがとうございます。

  大変恐縮ながら、家族の都合により、今回は参加を見送らせていただきたく存じます。皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

  皆様にとって実り多い社員旅行となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

  今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

  署名

• 体調不良を理由にする場合：

  「社員旅行のご案内ありがとうございます。大変申し訳ございませんが、現在少し体調が優れず、皆様にご迷惑をおかけしては申し訳ないため、今回は辞退させていただきたく存じます。皆様と楽しい時間を過ごせなくて残念ですが、また次の機会にはぜひ参加させていただきたいです。」

これらの例文を参考に、感謝の気持ちと簡潔な理由を伝えることを忘れず、誠実な姿勢で対応しましょう。

社員旅行がパワハラや強制にならないための注意点

社員旅行は本来、社員同士の親睦を深め、リフレッシュを図るためのものです。しかし、その実施方法によっては、参加者に不必要なプレッシャーを与えたり、場合によってはパワハラとみなされたりするリスクもあります。企業側はどのような点に注意すべきでしょうか。

「業務」か「懇親」か？法的な線引き

社員旅行が法的に「業務」とみなされるか「懇親」とみなされるかによって、従業員の参加義務の有無が大きく異なります。業務の一環として労働時間内に行われる社員旅行は、参加義務が生じる場合があります。

この場合、参加しないことは業務命令違反とみなされ、懲戒処分の対象となる可能性もあります。ただし、この際には旅費の請求や、時間外・休日労働に対する手当の支給が必要です。一方で、勤務時間外や休日に実施される純粋な懇親目的の社員旅行には、基本的に参加義務はありません。会社が任意参加としている場合、参加しない従業員は通常通り出勤するか、休日を過ごすことが可能です。この線引きを従業員に明確に伝えることが、無用なトラブルを避ける上で極めて重要です。

参加を強制するリスクと企業側の配慮

任意参加であるはずの社員旅行への参加を、会社側が暗黙の了解やプレッシャーによって強制することは、パワハラとみなされるリスクを伴います。参加しないことによる人事評価への不利益な取り扱いや、参加を執拗に迫る行為は、従業員の自由意思を侵害するものです。

企業は、社員旅行の参加が完全に任意であることを明確に伝え、従業員が安心して断れる雰囲気を作るべきです。参加しない従業員に対して、参加者と比較して不公平な扱いをしたり、疎外感を与えたりするような行為は厳に慎む必要があります。福利厚生の一環として企画される社員旅行が、かえって従業員のエンゲージメントを低下させるようなことがあっては本末転倒です。全ての従業員が安心して働ける職場環境を維持するためには、一人ひとりの選択を尊重する姿勢が不可欠です。

多様な働き方に合わせた柔軟な企画

現代の多様な働き方や価値観に対応するためには、一律参加型の社員旅行だけではなく、より柔軟な企画を検討することが企業には求められます。

例えば、日帰りでのイベントや、部署ごとの小規模な懇親会、あるいはオンラインを活用した交流会など、社員旅行以外の親睦イベントを複数用意するのも一つの方法です。従業員が本当に何を求めているのかを知るために、匿名でのアンケート調査を実施し、その結果を企画に反映させることも有効でしょう。全員が同じイベントに参加するのではなく、複数の選択肢の中から自分の興味や都合に合うものを選べるような仕組みを導入することで、参加意欲の向上に繋がり、結果としてより多くの従業員が満足できる親睦の機会を提供できるはずです。社員旅行の形式も、時代に合わせて進化させていく必要があります。

賢く乗り切る！社員旅行の「行きたくない」を解決する方法

社員旅行への「行きたくない」という感情は、企業と従業員の双方にとって避けて通れない課題となりつつあります。この問題を単なる個人のわがままと捉えるのではなく、建設的に解決するための方法を考えていきましょう。

企業が考えるべき「魅力ある社員旅行」の条件

企業側は、なぜ社員が社員旅行に行きたがらないのか、その本質的な理由を深く理解する必要があります。そして、単なる「恒例行事」ではなく、従業員が心から参加したいと思える「魅力ある社員旅行」の条件を追求するべきです。

具体的には、従業員の意見を企画段階から積極的に取り入れ、目的地やアクティビティ、期間などを柔軟に検討することが重要です。強制感を排除し、自由度の高い内容にすることで、参加者はリラックスして楽しめるようになります。また、旅行にかかる費用負担の透明化や、福利厚生としての価値を明確にすることも、参加意欲を高める要因となります。単に参加率だけを追うのではなく、参加した社員がどれだけ満足し、リフレッシュできたかを重視する視点を持つことが、これからの社員旅行には不可欠です。

参加する場合の心構えと楽しみ方

もし、どうしても社員旅行への参加を避けられない場合でも、自身の心持ち一つで、その経験をより良いものに変えることができます。まずは、「割り切って参加する」という姿勢を持つことが大切です。

ネガティブな側面ばかりに目を向けるのではなく、普段は話す機会のない部署の人と交流したり、仕事では見られない同僚の一面を発見したりする機会として捉えてみましょう。意外な共通の趣味が見つかったり、新しい気づきがあったりするかもしれません。また、旅行中の短い時間と割り切り、メリハリをつけて楽しむことも有効です。例えば、自由時間には自分の好きな場所に行ったり、食事を楽しんだりするなど、自分なりの楽しみ方を見つけることで、ストレスを軽減できるでしょう。一時的なものと捉え、終わればまた自分のプライベートに戻れると考えることで、気持ちも楽になるはずです。

社員旅行に代わる親睦イベントの提案

社員旅行だけが社員の親睦を深める唯一の方法ではありません。従業員のニーズやライフスタイルに合わせた、より効果的な代替案を検討することも重要です。

例えば、月に一度のランチ会や、部署ごとの小規模な懇親会、あるいはテーマを決めたオンライン交流会なども、コミュニケーションを活性化させる有効な手段となり得ます。運動会やボランティア活動など、共同作業を通じて連帯感を育むイベントも考えられます。重要なのは、従業員が本当に望む「リフレッシュ」や「親睦」がどのような形であれば実現できるのかを、企業側が真摯に問い直すことです。多様な選択肢を提供することで、社員一人ひとりが自分に合った形で会社との繋がりを感じられるような、新しい親睦の形を創造していきましょう。