企業年金とは?基本を理解しよう

日本の年金制度における企業年金の位置づけ

日本の年金制度は、一般的に「3階建て」と表現されます。

1階部分が全国民が加入する国民年金、2階部分が会社員や公務員が加入する厚生年金です。そして、その上に位置する3階部分が、今回ご紹介する企業年金にあたります。

企業年金は、公的年金である国民年金や厚生年金に加えて、企業が従業員の退職後の生活をより豊かにするために設ける任意の制度です。

これにより、従業員は公的年金だけでは不足しがちな老後資金を、企業からの支援によって手厚く確保できるようになります。まさに、老後の生活設計における「プラスアルファ」の安心材料と言えるでしょう。

企業年金導入の目的と意義

企業が企業年金制度を導入する目的は多岐にわたりますが、最も重要なのは従業員の退職後の生活保障です。

企業は従業員が安心して働き続けられるよう、福利厚生の一環として年金制度を提供します。これにより、従業員のモチベーション向上や企業への定着率向上にも繋がり、優秀な人材の確保にも貢献するのです。

また、企業年金は単に退職後の資金を提供するだけでなく、企業が従業員の将来に責任を持つという姿勢を示すことにもなります。これは、企業と従業員の間の信頼関係を深め、健全な企業文化を醸成する上で非常に重要な意義を持っています。

特に、従業員にとって公的年金だけでは不安が残る時代において、企業年金は企業からの大切なメッセージとも言えるでしょう。

企業年金加入のメリット・デメリット

企業年金に加入することには、従業員にとって大きなメリットと、いくつかの注意すべきデメリットが存在します。

主なメリットとしては、まず公的年金に上乗せされることで、老後の生活資金が手厚くなる点が挙げられます。これにより、より安心感を持って老後を迎えることができます。

また、特に企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合、掛金や運用益に税制優遇が適用されるため、効率的に資産形成を進めることが可能です。

一方でデメリットも存在します。企業型DCの場合、将来受け取る年金額は加入者自身が運用を行うため、運用成績によっては積立額を下回るリスクがあります。

したがって、加入者は自身のリスク許容度に応じた適切な運用方針を立てる必要があります。また、制度の導入や運営には一定のコストがかかる場合があることも、企業側のデメリットとして考慮される点です。

企業年金の分類:第一年金・第二年金

確定給付企業年金(DB)の仕組み

企業年金の一つである「確定給付企業年金(DB:Defined Benefit plan)」は、将来受け取る年金額があらかじめ定められているのが最大の特徴です。

企業が年金規約に基づき、計算式に従って掛金を拠出し、その掛金は専門機関によって運用されます。従業員は、運用結果にかかわらず、規約に定められた年金額を受け取ることが保証されます。

つまり、運用リスクは基本的に企業側が負うことになります。受給の際には、年金形式で毎月受け取る方法と、退職時に一時金としてまとめて受け取る方法のどちらか、または両方を併用できる場合もあります。

従業員にとっては、老後の受給額が明確であるため、将来設計がしやすいという安心感があります。厚生年金基金が解散・代行返上を進める中で、その受け皿としても機能してきました。

確定拠出年金(DC)の仕組みとその種類

もう一つの主要な企業年金が「確定拠出年金(DC:Defined Contribution plan)」です。DBとは異なり、企業があらかじめ定められた額の掛金を拠出し、その掛金を加入者(従業員)自身が選択した金融商品で運用します。

したがって、将来受け取る年金額は、この運用成績によって変動するという特徴があります。運用成果が良ければ受給額は増え、悪ければ減る可能性があるため、運用責任は加入者自身が負います。

DCには主に二つの種類があります。

  • 企業型確定拠出年金(企業型DC):企業が福利厚生として実施する制度です。掛金は基本的に企業が拠出し、従業員は運用指図を行います。
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo):自営業者や企業年金制度のない会社員、企業型DCのない会社員などが個人で加入できる制度です。掛金は加入者自身が拠出し、運用します。

企業型DCに加入している会社員でも、条件を満たせばiDeCoとの併用も可能です。DCは、税制優遇を受けながら自らの手で資産形成ができるというメリットがあります。

過去の制度:厚生年金基金の現状

現在主流の確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)がそれぞれ2002年、2001年にスタートする以前から存在していたのが「厚生年金基金」です。

厚生年金基金は、国の厚生年金の一部(厚生年金保険の報酬比例部分)を企業が代行して運用し、上乗せ部分と合わせて給付を行うという特徴がありました。しかし、バブル崩壊後の運用環境の悪化や少子高齢化の進展により、多くの基金で積立不足が発生し、財政難に陥るケースが相次ぎました。

このため、2014年には制度が改正され、厚生年金基金は原則として2014年4月以降、新しい設立が認められなくなり、既存の基金も解散するか、確定給付企業年金(DB)などの別の制度へ移行を進めることになりました。

現在では、多くの厚生年金基金が代行返上や解散を終え、新しい企業年金制度への移行が進んでいます。これにより、企業年金制度全体の安定化が図られています。

企業年金と厚生年金・退職金との違い

公的年金(厚生年金)との明確な違い

企業年金と厚生年金は、どちらも老後の生活資金を支える年金ですが、その性質には明確な違いがあります。

厚生年金は、国が運営する公的年金制度の一部であり、原則として会社員や公務員は全員加入が義務付けられています。保険料は給与から天引きされ、国が管理・運用し、老齢・障害・遺族の3種類の給付を行います。

これに対し、企業年金は、企業が従業員の福利厚生として任意で設ける私的年金制度です。国の制度に上乗せして設けられる「3階部分」にあたり、加入するかどうかは企業の判断に委ねられます。

企業年金は、企業が掛金を拠出することで、従業員の老後の生活資金をさらに手厚くすることを目的としています。したがって、厚生年金が全国民共通のセーフティネットであるのに対し、企業年金は企業ごとの特色が出る追加的な保障と言えるでしょう。

退職金制度との比較と選択肢

企業年金と並んで、従業員の退職後の生活を支えるものに「退職金制度」があります。これら二つは混同されがちですが、受け取り方や税制、そして制度の性質において違いがあります。

退職金は、一般的に勤続年数や退職時の役職などに応じて、退職時に一時金としてまとめて支給されることが多いです。これは、退職後の新しい生活の準備資金や住宅ローンの返済などに充てられることが多いでしょう。

一方、企業年金は、原則として退職後に年金形式で定期的に受け取るのが主流です。もちろん、確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)の制度によっては、一時金として受け取る選択肢や、年金と一時金の併用が可能な場合もあります。

企業によっては、退職金と企業年金の両方を導入しているところもあれば、どちらか一方のみという場合もあります。従業員にとっては、これらの選択肢を理解し、自身のライフプランに合った受け取り方を選ぶことが重要です。

企業年金と退職金、それぞれの税制上の特徴

企業年金と退職金では、受け取り方だけでなく、税制上の取り扱いにも大きな違いがあります。この違いを理解することは、将来の資金計画を立てる上で非常に重要です。

退職金(一時金として受け取る場合)は、「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」という優遇された控除制度が適用されます。この控除額が非常に大きいため、実際に課税される所得が少なくなり、税負担を大幅に軽減できるのが特徴です。

一方、企業年金を年金形式で受け取る場合は、「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」が適用されます。この控除額は、退職所得控除と比較すると一般的に小さいため、年金として受け取る際には税負担が生じやすい傾向にあります。

ただし、確定拠出年金(DC)の場合、掛金拠出時と運用益に税制優遇があるなど、制度ごとの細かな違いも存在します。どの方法で受け取るのが最も有利かは、その時の税制や個人の所得状況によって変わるため、専門家への相談も検討すると良いでしょう。

企業年金の「プラスアルファ」と財政再計算

企業年金における「プラスアルファ」の意味

企業年金は、日本の「3階建て」年金制度において、公的年金に上乗せされる「3階部分」として位置づけられます。

この「上乗せ」こそが、企業年金における「プラスアルファ」の最大の意味です。国民年金や厚生年金だけでは不足しがちな老後の生活資金を、企業が従業員のために追加で保障してくれる、という考え方です。

特に確定給付企業年金(DB)においては、企業が将来の給付額を約束し、そのために必要な掛金を拠出し、運用責任を負います。従業員は、運用成績に左右されずに安定した年金給付を受けられるため、公的年金だけでは得られない大きな安心感を得られます。

このプラスアルファは、企業の従業員に対する長期的な配慮を示すものであり、従業員のエンゲージメント向上や、優秀な人材の獲得・維持にも繋がる重要な要素となります。

確定給付企業年金(DB)の財政運営と企業のリスク

確定給付企業年金(DB)は、企業があらかじめ定めた給付額を約束するため、その財政運営には企業が大きな責任を負います。

企業は、将来の給付に必要な資金を確保するため、計画的に掛金を拠出し、運用機関を通じて資産を運用します。しかし、景気変動や市場環境の悪化により、運用利回りが当初の予定を下回ることがあります。このような場合、企業は約束した給付水準を維持するために、追加で掛金を拠出する必要が生じます。

これが、DB制度における企業にとっての財政リスクとなります。追加拠出は企業の財務状況に影響を与える可能性があるため、企業は慎重な資産運用計画と、定期的な財政状況のチェックが求められます。

一方で、従業員にとっては、企業が運用リスクを負担してくれるため、自身の運用スキルに関わらず、安定した老後資金が確保されるというメリットがあります。

財政再計算の重要性と企業年金制度の安定性

確定給付企業年金(DB)の健全性を維持するためには、定期的な「財政再計算」が不可欠です。

財政再計算とは、数年ごとに行われる制度の見直しで、年金資産の運用状況や加入者の人数構成、平均寿命の変化などを踏まえ、将来の給付に必要な掛金水準が適切であるかを確認するプロセスです。

もし、将来の給付に必要な積立金が不足していると判断された場合、企業は掛金を引き上げるか、あるいは給付水準を見直すなどの措置を検討する必要があります。この再計算を怠ると、将来的に積立不足が深刻化し、制度そのものの安定性が損なわれるリスクがあります。

企業は、この財政再計算を通じて、将来にわたって従業員への約束を果たすための責任を果たします。透明性のある情報開示と適切な財政運営は、企業年金制度の信頼性を高め、従業員の安心感を支える上で極めて重要な要素となります。

企業年金のバランスシートと別途積立金

企業年金資産が企業のバランスシートに与える影響

企業年金制度、特に確定給付企業年金(DB)は、企業の財務諸表、特にバランスシートに大きな影響を与えます。

企業会計基準では、将来の従業員への退職給付に備えて積み立てられている資金を「退職給付に係る負債」(退職給付債務)として計上します。同時に、その負債を賄うために社外に積み立てられている年金資産は、企業の資産として認識されます。

これにより、企業年金資産は企業の貸借対照表(バランスシート)上の「資産の部」に、退職給付債務は「負債の部」にそれぞれ計上されることになります。これらの金額は、企業の財務健全性を評価する上で重要な指標となります。

年金資産の運用状況が悪化し、積立不足が生じた場合、企業の負債が増加し、自己資本比率の低下など、財務体質が悪化していると見なされる可能性があります。そのため、企業は年金資産の適切な管理と運用に細心の注意を払う必要があります。

別途積立金の役割と会計処理

企業年金制度において「別途積立金」という言葉が用いられることがあります。これは、年金制度の財政の健全性を保つために、法令や規約に基づいて積み立てられる資金を指します。

特に確定給付企業年金(DB)の場合、将来の給付に備えて、必要な準備金を確保しておく必要があります。この別途積立金は、退職給付債務に対して年金資産が十分であることを示すための重要な指標であり、万が一の運用悪化や予定外の支出に備えるクッションの役割も果たします。

会計処理上、この別途積立金は、退職給付会計における年金資産として扱われ、企業の貸借対照表上に計上されます。その額は、定期的な財政計算に基づいて見直され、必要に応じて追加拠出が行われることもあります。

別途積立金を適切に管理することは、企業が従業員への年金給付義務を確実に履行するための基盤であり、企業のガバナンスの観点からも重要です。

年金制度健全化のための企業の取り組み

企業年金制度の長期的な健全性を確保するためには、企業による継続的な取り組みが不可欠です。

これには、まず適切な運用方針の策定と見直しが含まれます。年金資産の運用は、リスクとリターンのバランスを考慮し、専門家と連携しながら市場環境に合わせて柔軟に見直していく必要があります。

次に、定期的な財政検証と掛金水準の調整です。確定給付企業年金(DB)では、数年ごとに財政再計算を行い、年金債務と資産のバランスを確認し、必要に応じて掛金の見直しを行います。これにより、将来の積立不足を防ぎ、制度の持続可能性を高めます。

また、従業員への情報提供と教育も重要です。特に確定拠出年金(DC)の場合、従業員自身が運用を行うため、投資教育を通じて金融リテラシーを高める支援が求められます。企業がこれらの取り組みを怠ると、年金制度の信頼性が損なわれ、従業員の不利益に繋がる可能性があります。

企業は、従業員の老後の安心を支えるという社会的責任を果たすためにも、年金制度の健全な運営に努める必要があります。