概要: 企業年金を受け取る際に発生する「雑所得」についての税金について、税率や控除、計算方法までを分かりやすく解説します。確定申告の必要性や、住民税、贈与税、脱退一時金、分割受給についても触れ、企業年金にかかる税金全般を網羅します。
老後の生活資金として重要な役割を果たす企業年金。しかし、その受け取り方や種類によって税金の種類や金額が大きく異なることをご存知でしょうか?
この記事では、企業年金にかかる税金の基本である「雑所得」の仕組みから、知っておきたい税率と控除、具体的な計算方法、さらには確定申告の要否まで、最新の情報と数値を交えて徹底的に解説します。
企業年金を賢く受け取り、税金の負担を軽減するための知識を身につけましょう。
企業年金と雑所得の関係:税金の基本をおさらい
企業年金が「雑所得」になる理由とは?
企業年金は、原則として受け取る際に「雑所得」として課税対象となります。これは、国民年金や厚生年金といった公的年金と同様の扱いです。
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得以外の所得の総称を指します。
年金形式で継続的に受け取る場合、その性格上、事業や給与とは異なる「その他の所得」に分類されるため、雑所得に該当するのです。
ただし、企業年金の種類や受け取り方によっては、後述する「退職所得」や「一時所得」として扱われる場合もあります。この所得区分の違いが、税金の計算に大きな影響を与えるため、ご自身の受給方法がどの所得に該当するのかを正確に把握することが重要です。
確定拠出年金(DC・iDeCo)の積立時・運用時の優遇税制
確定拠出年金(DC:企業型確定拠出年金、iDeCo:個人型確定拠出年金)には、他の金融商品にはない大きな税制優遇が設けられています。
1. 積立時(掛金)の税制優遇:全額所得控除
- 拠出した掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税と住民税の負担を軽減できます。
- 例えば、年間掛金が24万円の場合、所得税率10%、住民税率10%と仮定すると、年間約48,000円(復興特別所得税は除く)の節税効果が見込めます。
- 企業型DCの場合、事業主掛金は給与とみなされず、社会保険料の対象にもならないため、社会保険料の負担軽減にも繋がります。
2. 運用時(運用益)の税制優遇:非課税
- 通常、株式や投資信託などの金融商品の運用益には、約20.315%の税金がかかります。
- しかし、確定拠出年金では、運用によって得た利益が全額非課税となります。これにより、運用益をそのまま再投資できるため、雪だるま式に資産が増える「複利効果」を最大限に享受できます。
これらの税制優遇は、長期的な資産形成において非常に大きなメリットとなります。
受取方法で変わる!企業年金の所得区分
企業年金の受け取り方には、大きく分けて「年金形式」と「一時金形式」の2種類があります。この受取方法によって、適用される所得区分と税金の計算方法が異なります。
1. 年金形式で受け取る場合
- 公的年金(国民年金・厚生年金)と同様に、「公的年金等に係る雑所得」として課税対象となります。
- この場合、「公的年金等控除」が適用され、税負担が軽減されます。
2. 一時金形式で受け取る場合
- 原則として「退職所得」として扱われます。
- 退職所得には「退職所得控除」という優遇措置があり、他の所得とは分離して計算されるため、税負担が大きく軽減される可能性があります。
どちらの受け取り方がご自身の状況にとって有利かは、他の所得の有無や金額、勤続年数、将来のライフプランなどを総合的に考慮して判断する必要があります。場合によっては、一時金と年金を組み合わせて受け取る「分割受給」も選択肢となります。
知っておきたい!企業年金にかかる税率と控除
年金受給時に適用される「公的年金等控除」とは?
企業年金を年金形式で受け取る場合、その所得は「公的年金等に係る雑所得」として扱われます。この雑所得の計算において重要なのが、「公的年金等控除」です。
公的年金等控除とは、年金収入から一定額を控除することで、課税対象となる所得を減らす制度のこと。これにより、年金受給者の税負担を軽減する目的があります。
控除額は、受給者の年齢(65歳未満か65歳以上か)と年金収入の合計額によって異なります。一般的に、年金収入が少ないほど控除額の割合が大きくなり、税負担が軽減される仕組みです。
例えば、65歳以上で公的年金等の収入が100万円の場合、控除額は100万円となりますが、収入が330万円であれば控除額は110万円となり、計算後の雑所得は220万円となります。この控除を適用した後の金額が、他の所得と合算され、所得税や住民税の計算の基礎となります。
一時金受給の味方!「退職所得控除」の計算方法
企業年金を一時金として受け取る場合、原則として「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」が適用されます。この控除は、勤続年数に応じて計算され、大きな節税効果をもたらします。
退職所得控除の計算式は以下の通りです。
- 勤続年数が20年以下の場合:
40万円 × 勤続年数(ただし、80万円に満たない場合は80万円) - 勤続年数が20年を超える場合:
800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)
例えば、30年間企業年金を積み立ててきた場合を考えてみましょう。勤続年数20年超の計算式が適用され、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円」となります。
この控除額は、他の退職金がない限り、最大1,500万円まで非課税で受け取ることが可能であることを意味します。退職所得控除は非常に優遇された制度であり、一時金受取の大きなメリットの一つです。
所得税・住民税の税率と計算のポイント
企業年金にかかる所得税と住民税は、それぞれ国の税金と地方の税金です。税率は、所得の種類や金額、適用される控除によって変動します。
所得税:
- 公的年金等に係る雑所得は、他の所得と合算されて課税総所得金額が算出され、累進課税制度が適用されます。所得金額に応じて5%から45%の税率がかけられます。
- 退職所得は、退職所得控除を差し引いた額のさらに1/2に課税され、他の所得とは分離して計算されます。この分離課税により、税負担が軽減されることが多いです。
住民税:
- 原則として、所得割10%と均等割が課税されます。所得税の確定申告を行うと、その情報に基づいて住民税も計算されます。
- 公的年金等に係る雑所得の場合、所得税と同様に公的年金等控除が適用されます。
確定申告で医療費控除や扶養控除など様々な所得控除を適用することで、課税される所得金額を減らし、結果として所得税・住民税の負担を軽減することができます。
企業年金の受給額、どう計算する?計算方法を解説
年金として受け取る場合の課税所得計算ステップ
企業年金を年金として受け取る場合、その年金収入は「公的年金等に係る雑所得」として、以下のステップで課税所得が計算されます。
- 年金収入額の確認: 1年間に受け取った企業年金(他の公的年金も含む)の総額を確認します。
- 公的年金等控除額の算出: 年齢(65歳未満か65歳以上か)と年金収入額に基づいて、公的年金等控除額を算出します。
- 公的年金等に係る雑所得の計算: 「年金収入額 - 公的年金等控除額 = 公的年金等に係る雑所得」を算出します。
- 他の所得との合算: 公的年金等に係る雑所得と、給与所得や不動産所得など他の所得を合算します。
- 所得控除の適用: 基礎控除、社会保険料控除、医療費控除、扶養控除などの各種所得控除を差し引きます。
- 課税所得の算出: 「合算所得 - 所得控除 = 課税所得」となります。この課税所得に所得税率を乗じて、所得税額が計算されます。
住民税も同様に、上記の計算プロセスを経て課税所得が算出され、地方税率が適用されます。
一時金として受け取る場合の退職所得計算ステップ
企業年金を一時金として受け取る場合、原則として「退職所得」として扱われ、税額は以下のステップで計算されます。
- 一時金収入額の確認: 受け取った企業年金の一時金の総額を確認します。
- 退職所得控除額の算出: 勤続年数に応じて、前述の計算式(20年以下:40万円×勤続年数、20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年))を用いて退職所得控除額を算出します。
- 退職所得の算出: 「一時金収入額 - 退職所得控除額 = 退職所得」を算出します。もし退職所得が0以下になる場合は、課税されません。
- 1/2課税の適用: 算出された退職所得をさらに1/2にします(退職所得は1/2課税という優遇措置があります)。これが課税対象となる退職所得金額です。
- 所得税・住民税の計算: 課税対象となる退職所得金額に、所得税率と住民税率をそれぞれ乗じて税額を計算します。
例えば、勤続30年で企業年金を1,800万円の一時金として受け取った場合、退職所得控除額は1,500万円でした。この場合、「1,800万円 - 1,500万円 = 300万円」が退職所得となり、さらにその1/2である150万円が課税対象となります。他の所得とは合算されずに分離課税されるため、税負担は大幅に抑えられます。
受給方法の選択が税負担を大きく左右する理由
企業年金の受け取り方を「年金形式」にするか「一時金形式」にするか、あるいは「分割受給」にするかによって、税負担は大きく変わります。
年金形式の場合:
- 公的年金等控除が適用されますが、他の公的年金(国民年金、厚生年金)や給与などと合算され、累進課税が適用されるため、年金収入が多いと税率が高くなる可能性があります。
- ただし、毎年一定額を受け取ることで、計画的な家計運営が可能です。
一時金形式の場合:
- 退職所得控除が非常に大きく、さらに課税対象額が1/2になるため、税制上の優遇が最も大きい選択肢の一つです。特に、他の退職金と合わせた合計額が退職所得控除の範囲内であれば非課税で受け取れる可能性もあります。
- 一方で、一度にまとまった金額を受け取るため、その後の資産管理が重要になります。
ご自身の「勤続年数」、「他の所得の金額」、「退職金の有無」、「老後の生活資金計画」などを総合的に考慮し、最も有利な受け取り方を選択することが、手取り額を最大化するための鍵となります。必要に応じて、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
確定申告は必要?企業年金にかかる住民税や贈与税
企業年金受給者が確定申告をすべきケース・不要なケース
企業年金を受け取っていても、必ずしも確定申告が必要というわけではありません。ご自身の状況に合わせて、確定申告の要否を確認しましょう。
確定申告が必要となる主なケース:
- 企業年金が源泉徴収されていない場合。
- 公的年金等(企業年金を含む)の収入が年間400万円を超える場合。
- 公的年金等に係る雑所得以外の雑所得が年間20万円を超える場合(会社員で給与所得以外に20万円超の雑所得がある場合も該当)。
- 医療費控除、住宅ローン控除、寄付金控除など、各種所得控除を適用して還付を受けたい場合。
確定申告が不要な主なケース:
- 公的年金等(企業年金を含む)の収入が年間400万円以下で、かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が年間20万円以下の場合。
確定申告には、年金に関する源泉徴収票、マイナンバーカード、確定申告書などが必要になります。自身の状況が複雑な場合は、税務署や税理士に相談することをお勧めします。
住民税の計算と納付:所得税との違い
企業年金を受け取ると、所得税だけでなく住民税も課税されます。住民税は、所得税とは異なる地方税であり、その計算方法や納付方法にも違いがあります。
住民税の計算:
- 住民税は、所得税の課税所得を基に計算されるため、所得税の確定申告を行うことで、自動的に住民税も計算されます。
- 所得税と同様に、公的年金等に係る雑所得には公的年金等控除が適用され、退職所得には退職所得控除と1/2課税が適用されます。
- 住民税には、所得に応じた「所得割(通常10%)」と、所得にかかわらず定額で課される「均等割」があります。
住民税の納付:
- 年金を受給している場合、住民税は原則として年金からの「特別徴収(天引き)」によって納付されます。
- ただし、年金からの特別徴収が開始されるまでの間や、年金以外の所得が大きい場合は、自宅に送付される納付書で自分で納める「普通徴収」となることがあります。
所得税の確定申告が不要なケースでも、住民税の申告が必要な場合もあるため、注意が必要です。
企業年金に贈与税がかかるケースとは?
企業年金そのものに贈与税が直接かかることは基本的にありません。しかし、特定の状況下では、贈与税が発生する可能性があります。
贈与税がかかる可能性のある主なケース:
- 年金受給権を他者に譲渡した場合:
企業年金の受給権を、対価なしに家族や他人に譲渡した場合、その受給権の評価額に対して贈与税が課せられることがあります。 - 死亡一時金の受取人が法定相続人以外の場合:
企業年金制度によっては、加入者が死亡した際に「死亡一時金」が支払われることがあります。この死亡一時金が、加入者の意思や規定により、法定相続人(配偶者、子など)以外の特定の人(内縁の妻や友人など)に支払われた場合、その受取人に対して贈与税または相続税が課される可能性があります。ただし、多くの場合、生命保険金と同様に相続税の対象となりますが、状況によっては贈与とみなされることもあり得ます。
これらのケースは一般的なものではなく、特殊な状況に限定されます。通常、ご自身が積み立てた企業年金を自らが受け取る限り、贈与税について心配する必要はありません。
企業年金脱退一時金や分割受給の税金についても解説
脱退一時金と税金:一時所得として課税される場合
企業年金から受け取る一時金は、原則として退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。しかし、退職に起因しない喪失による一時金は「一時所得」として課税される場合があります。
例えば、企業年金に加入していた会社を退職したものの、一定の条件(例えば、勤続年数が短すぎる、特定年齢での退職ではないなど)を満たさないために退職金としてではなく、単なる脱退時の払い戻しとして一時金を受け取るケースがこれに該当します。
一時所得の計算方法は以下の通りです。
(一時金額 - 支出した金額 - 特別控除額(最高50万円)) × 1/2 = 課税対象となる一時所得
一時所得は、他の所得と合算して課税されますが、50万円の特別控除と1/2課税という優遇措置があります。しかし、退職所得と比較すると控除額が少ないため、税負担が大きくなる可能性があります。ご自身の脱退一時金がどの所得区分になるのか、事前に確認することが重要です。
分割受給のメリットと税制上の扱い
企業年金の受給方法には、全額を一時金で受け取る、全額を年金で受け取る、そして「一時金と年金を組み合わせた分割受給」の3つの選択肢があります。分割受給は、税負担の最適化や柔軟な資金計画に役立つ可能性があります。
分割受給のメリット:
- 税負担の平準化: 一時金として受け取る部分には退職所得控除が適用され、年金として受け取る部分には公的年金等控除が適用されます。これにより、特定の年に集中する税負担を軽減し、複数年にわたって税金を分散させることが可能です。
- 資金計画の柔軟性: 退職時にまとまった資金が必要な場合は一部を一時金で受け取り、残りを老後の生活費として年金で受け取るなど、個人のライフプランに合わせて調整できます。
分割受給を選択する際は、ご自身の退職金や他の年金収入の状況、退職後の生活設計などを踏まえ、どの割合で一時金と年金を受け取るのが最も有利かを検討することが重要です。専門家と相談しながら、最適なプランを立てることをお勧めします。
気になる特別法人税と今後の動向
企業年金制度の資産には、本来、「特別法人税」という税金がかかることがあります。これは、年金資産の運用益に対して課される法人税の一種です。
しかし、景気変動や低金利環境などの影響を受け、現在、特別法人税は2026年3月末まで課税が凍結されています。
この課税凍結は、企業年金制度の健全な運営を支援し、年金受給者の給付水準を維持することを目的としています。凍結が解除された場合、企業年金資産の運用益に課税が再開される可能性があり、それは企業年金制度の運用や、将来の給付に影響を与える可能性があります。
現時点では凍結されていますが、今後の動向については、常に最新の情報を確認しておくことが大切です。これは、企業年金加入者にとっては直接的な影響は少ないかもしれませんが、制度全体の持続可能性に関わる重要な側面と言えるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 企業年金はどのような所得に区分されますか?
A: 企業年金は、一般的に「雑所得」として区分されます。これは、公的年金等以外の年金収入を指します。
Q: 企業年金にかかる税率はいくらですか?
A: 企業年金(雑所得)にかかる税率は、所得税の累進課税率が適用されます。所得が高くなるほど税率も高くなります。住民税は所得にかかわらず一定の税率が適用されます。
Q: 企業年金で利用できる控除はありますか?
A: 雑所得には、公的年金等控除のような年金に特化した控除はありませんが、給与所得など他の所得と合算して、各種所得控除(基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除など)を適用することができます。
Q: 企業年金の雑所得はどのように計算しますか?
A: 企業年金の雑所得の計算は、収入金額から必要経費を差し引いて行います。必要経費として認められるものは限定的ですが、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
Q: 企業年金を受け取っていても確定申告は必要ですか?
A: 企業年金(雑所得)の収入金額が一定額を超える場合や、他の所得がある場合は確定申告が必要になることがあります。また、任意で確定申告をすることで、納めすぎた税金が還付される場合もあります。