企業年金、知っておきたい税金・控除・手続きのすべて

老後の生活を支える大切な柱の一つである企業年金。しかし、「税金ってどうなるの?」「控除って受けられるの?」「手続きは複雑?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

企業年金に関する税金・控除・手続きは、少し複雑に感じるかもしれません。しかし、ポイントを押さえれば賢く活用し、将来の不安を軽減することができます。

この記事では、企業年金に関わる税金や控除、そしていざという時の手続きについて、分かりやすく解説します。ぜひ最後までお読みいただき、あなたの企業年金ライフをより豊かにするヒントを見つけてください。

企業年金で引かれる税金とは?

企業年金は、退職後の生活を支える重要な収入源ですが、公的年金と同様に税金がかかる場合があります。まずは、どのような税金がどのように引かれるのかを理解しましょう。

1. 公的年金等に係る雑所得としての課税

企業年金から受け取る年金は、原則として「公的年金等に係る雑所得」として所得税と復興特別所得税の課税対象となります。これは、国民年金や厚生年金といった公的年金と同様の扱いです。

年金は老後の大切な収入ですが、その一部が税金として徴収されることを認識しておくことが重要です。課税される所得額は、年金収入から後述する「公的年金等控除」を差し引いた金額となります。

このため、年金収入が一定額を超えると、確定申告が必要になる場合もあります。

2. 年金受け取り時の源泉徴収の仕組み

企業年金は、年金が振り込まれる際に、あらかじめ所得税と復興特別所得税が源泉徴収されるのが一般的です。

一般的な源泉徴収税率は、年金額に関わらず一律で7.6575%(所得税7.5% + 復興特別所得税0.21%)です。この復興特別所得税は、平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年分の所得に対して、所得税額の2.1%が課税されるものです。

ただし、確定給付企業年金(DB)でご自身が拠出した掛金がある場合、その掛金相当額は源泉徴収の対象外となることがあります。源泉徴収された金額はあくまで概算であり、確定申告によって最終的な税額が調整され、還付を受けられる可能性もあります。

3. 退職一時金で受け取る場合の税金

企業年金には、年金として受け取る方法と、一時金として一括で受け取る方法があります。

一時金として受け取る場合は、年金とは異なり「退職所得」に分類されます。退職所得には「退職所得控除」が適用され、勤続年数に応じて控除額が計算されます。

この控除額を超えた部分が課税対象となりますが、税額は他の所得とは分離して計算され、さらにその金額に1/2を乗じた金額が課税されるため、一般的に税負担が軽くなる傾向があります。長年勤め上げたご褒美として、税制上の優遇措置が用意されていると言えるでしょう。

知っておきたい!企業年金の非課税枠

企業年金には税金がかかるものの、様々な控除制度を活用することで、課税対象額を減らし、手取り額を増やすことが可能です。ここでは、企業年金に関わる主な控除や非課税枠について見ていきましょう。

1. 公的年金等控除の活用

企業年金を含む公的年金等には、「公的年金等控除」が適用されます。この控除は、年金収入から一定額を差し引くことで、課税対象となる所得額を減らすことができる制度です。

控除額は、あなたの年齢(65歳未満か65歳以上か)や年金収入額によって異なります。ただし、確定給付企業年金から引き継いだ年金の場合、源泉徴収時に「扶養親族等申告書」を提出できないため、年金支給額の25%のみが控除対象となり、その他の各種控除は直接受けられません。

詳細な控除額は国税庁のウェブサイトなどで確認できますので、ご自身の状況に合わせて調べてみましょう。

2. 確定申告で還付を受けられるケース

年金受給者の方で、源泉徴収された税額が実際に納めるべき税額よりも多い場合、確定申告を行うことで還付を受けられる可能性があります。

例えば、医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除など、様々な控除を適用したい場合も確定申告が必要です。特に、年間の医療費が高額になった場合は、医療費控除を適用することで大幅な還付を受けられることがあります。

また、年金以外の所得(給与所得や副収入など)がある場合も、確定申告で全体の所得と税額を精算します。確定申告は面倒に感じるかもしれませんが、税金を取り戻すチャンスでもあるため、ぜひ積極的に活用を検討してください。

3. 定額減税の適用と注意点

令和6年(2024年)に実施された定額減税は、多くの人にとって関心の高い税制改正です。

しかし、残念ながら確定給付企業年金は、直接的な定額減税の対象外とされています。これは、定額減税が主に給与所得者や公的年金受給者を対象としているためです。

ただし、ご安心ください。企業年金以外に公的年金や給与所得があり、それらで定額減税が適用されなかった場合や、他の控除と合わせて確定申告を行うことで、結果的に定額減税の恩恵を受けられる場合があります。

ご自身の状況で定額減税が適用されるか不明な場合は、税務署や税理士、あるいは国税庁の情報を確認することをお勧めします。

企業年金とふるさと納税、賢い活用法

近年、節税対策として人気の高い「ふるさと納税」。企業年金を受け取っている方も、この制度を賢く活用することで、実質的な税負担を軽減しつつ、地域の特産品を受け取ることができます。ここでは、企業年金とふるさと納税の賢い活用法について解説します。

1. 年金収入とふるさと納税の関係

ふるさと納税は、寄付した金額に応じて所得税・住民税から控除される制度です。企業年金も課税所得の一部となるため、企業年金収入がある方も、ふるさと納税の控除上限額を計算し、利用することができます

ご自身の年金収入額や他の所得、適用される控除によって、ふるさと納税で控除される上限額は異なります。インターネット上のシミュレーターを利用したり、税務署や税理士に相談したりして、ご自身の最適な寄付額を知ることが大切です。

控除上限額を把握し、その範囲内で寄付を行うことで、実質2,000円の自己負担で魅力的な返礼品を受け取ることが可能になります。

2. 確定申告での注意点

ふるさと納税には「ワンストップ特例制度」がありますが、企業年金を受け取っていて確定申告が必要な方(年金収入が年間400万円を超える、年金以外の所得が年間20万円を超える、医療費控除を適用するなど)は、ワンストップ特例制度を利用できません

この場合、確定申告を行う際に、ふるさと納税の「寄付金控除」も合わせて申告する必要があります。必要な書類は、寄付した自治体から送付される「寄付金受領証明書」です。

確定申告の期限は原則として翌年の3月15日ですので、必要書類を早めに準備し、忘れずに申告するようにしましょう。

3. 高額所得者の節税シミュレーション

企業年金以外にも高額な給与所得や不動産所得などがある方にとって、ふるさと納税はより効果的な節税手段となり得ます。

高額所得者ほど所得税率が高くなるため、ふるさと納税による税額控除のメリットも大きくなります。例えば、年金収入と給与所得の合計が数百万~千万円単位になる場合、数十万円規模のふるさと納税が可能になり、節税効果も高まります。

医療費控除やiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金控除など、他の控除と組み合わせて活用することで、さらに大きな節税効果が期待できます。ご自身の所得状況に合わせた詳細なシミュレーションは、専門家への相談が最も確実です。

扶養家族がいる場合に知っておきたい企業年金

扶養家族がいる場合、税制上の優遇措置として「扶養控除」や「配偶者控除」などがあります。企業年金を受け取っている方も、これらの控除を適切に活用することで、世帯全体の税負担を軽減できる可能性があります。

1. 扶養控除の適用可否

扶養親族がいる場合、一定の要件を満たせば、所得税や住民税の計算において「扶養控除」を適用することができます。しかし、企業年金からの年金収入がある場合、特に源泉徴収の時点では扶養控除が適用されないケースがあります。

これは、確定給付企業年金の場合、源泉徴収時に「扶養親族等申告書」の提出ができないため、支給額の25%控除のみが適用され、扶養控除が考慮されないためです。

つまり、年金を受け取っている段階では扶養控除分が考慮されていないため、多く税金が引かれている可能性があります。

2. 確定申告と扶養控除

源泉徴収時に扶養控除が適用されなかった場合でも、ご安心ください。企業年金を受け取っている方が確定申告を行うことで、扶養控除や配偶者控除を適用することが可能です。

確定申告書には、扶養親族の情報や配偶者の所得などを記入する欄があります。扶養親族の所得が一定額(一般的に年収103万円以下)以下であることなど、それぞれの控除には要件がありますので、事前に確認が必要です。

扶養控除を適用すれば、課税所得が減り、結果として税金が還付されることがあります。扶養家族がいる場合は、ぜひ確定申告を検討し、控除の恩恵を受けましょう。

3. 世帯全体の税負担を軽減するポイント

扶養家族がいる場合、年金受給者単独ではなく、世帯全体の所得と控除を考慮した節税対策が重要です。

例えば、夫婦ともに年金を受け取っている場合、どちらか一方の所得が低ければ、もう一方がその配偶者を扶養に入れることで、世帯全体の税負担を軽減できる可能性があります。また、お子さんやお孫さんを扶養に入れている場合も同様です。

家族構成やそれぞれの所得状況によって最適な対策は異なりますので、年末調整や確定申告の時期に、ご家族で話し合い、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

企業年金の手続き、無料でもらえる書類は?

企業年金を受け取る際、または確定申告を行う際に必要となる書類や手続きについて解説します。特に、無料で取得できる重要な書類を把握しておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。

1. 年金受け取り時の源泉徴収票

企業年金の支給を受けると、年に一度、年金支給団体から「企業年金等の源泉徴収票」が送付されます。これは、公的年金や給与の源泉徴収票と同様に、その年に支払われた年金額と源泉徴収された税額が記載された、非常に重要な書類です。

この源泉徴収票は、確定申告を行う際に必須となります。もし届かない、または紛失してしまった場合は、速やかに年金支給団体(企業年金基金や会社の人事・経理担当部署など)に連絡し、再発行を依頼しましょう。再発行には時間がかかる場合があるため、早めの確認が大切です。

2. 確定申告に必要な書類

確定申告を行う際には、企業年金等の源泉徴収票以外にも、いくつかの書類が必要になります。主な必要書類は以下の通りです。

  • 企業年金等の源泉徴収票: 年金支給団体から送付されるもの。
  • 公的年金等の源泉徴収票: 公的年金(国民年金・厚生年金)も受給している場合。
  • 給与所得の源泉徴収票: 他に給与収入がある場合。
  • 医療費控除の明細書: 医療費控除を適用する場合。
  • 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書: 各種保険料控除を適用する場合。
  • ふるさと納税の寄付金受領証明書: ふるさと納税をしている場合。
  • マイナンバーカードまたは通知カード、本人確認書類: 申告時に提示または提出が必要。
  • 銀行口座情報: 還付金を受け取るための口座情報。

これらの書類を事前に揃えておくことで、確定申告の手続きをスムーズに進めることができます。

3. 企業年金基金への問い合わせ

企業年金の種類や加入状況は、個々人や会社によって異なります。そのため、個別の具体的な情報や手続きについて不明な点がある場合は、直接企業年金基金会社の担当部署に問い合わせるのが最も確実です。

例えば、「自分の年金は確定給付型か確定拠出型か」「一時金と年金のどちらで受け取るべきか」「源泉徴収票の再発行方法」など、疑問に思ったことは遠慮なく確認しましょう。制度の変更やご自身の状況変化に応じて、定期的に情報を確認することをお勧めします。

【留意事項】
本記事は2025年10月時点の情報に基づいています。税制は変更される可能性があるため、最新の情報は税務署や税理士にご確認ください。また、企業年金基金や会社によって、手続きや取り扱いが異なる場合があります。詳細は、各企業年金基金または会社のご担当者にご確認ください。