概要: 企業年金は、加入している企業が倒産・破綻・廃止した場合、どうなるのか不安に思う方もいるでしょう。本記事では、万が一のケースにおける企業年金の受給額や、相続、年金分割など、知っておくべき情報を分かりやすく解説します。
企業年金、もしもの時のために知っておくべきこと
人生100年時代と言われる現代において、老後の生活資金として公的年金だけでは不足する可能性が指摘されています。そこで、公的年金に上乗せされる「企業年金」の重要性が増しています。企業年金は、企業が福利厚生の一環として設けるもので、加入している企業に勤務する従業員が、退職後の生活のために給付を受け取れる制度です。
企業年金には主に、確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)の2種類があります。どちらの制度に加入しているかによって、万が一の際の取り扱いが大きく異なります。
企業年金が突然なくなる?倒産・破綻・廃止のリスク
企業経営悪化による確定給付企業年金(DB)のリスク
確定給付企業年金(DB)は、従業員と企業があらかじめ給付額を取り決めておく制度です。運用のリスクは原則として企業が負うため、安定性が高いと感じるかもしれません。しかし、企業の経営状況が著しく悪化したり、倒産したりした場合には、給付額が減額されたり、最悪の場合、制度自体が廃止されたりする可能性もゼロではありません。
DBには、企業が法人格を持った「企業年金基金」を設立する「基金型」と、企業が生命保険会社や信託銀行と契約して制度を運営する「規約型」があります。いずれのタイプでも、企業の財務状況や運用実績が制度に影響を与えることを理解しておくことが重要です。
万が一の事態に備え、ご自身の加入しているDB制度の規約や、企業の財務状況に関心を持つことが求められます。
企業型確定拠出年金(DC)の運用リスクと自己責任
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が拠出した掛金とその運用益の合計額に基づいて将来の給付額が決まる制度です。DBとは異なり、企業の倒産リスクとは直接連動しないため、この点での安心感は高いと言えます。
しかし、DCは加入者自身が運用方法を選択するため、その運用結果が将来受け取れる年金額に直接影響します。つまり、運用次第では元本割れのリスクも存在します。運用商品には、元本が保証される「元本確保型」と、株式や投資信託などで元本が変動する「価格変動型」があります。
リスクを低減させるためには、複数の運用商品を組み合わせる「分散投資」が基本原則です。運用対象、銘柄、投資タイミングなどを分散させることで、リスクを管理しながら資産形成を進めることが重要になります。
かつての厚生年金基金の廃止と制度移行
かつて多くの企業で導入されていた厚生年金基金は、法改正により新規での加入はできなくなり、実質的に廃止されています。多くの厚生年金基金は、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金へと移行を完了しました。
この制度移行の背景には、積立不足の深刻化など、厚生年金基金が抱える財政的な問題がありました。移行に際しては、加入者の権利保護のために様々な措置が取られましたが、移行先の制度の特性を理解しておくことは非常に大切です。
現在企業年金制度を導入している企業は、退職金制度がある企業のうち全体の47.8%と、約半数にのぼります。ご自身の企業年金がどのような制度に移行したのか、または現行の制度が何であるかを正確に把握することが、将来の安心につながります。
万が一の時、企業年金はいくらもらえる?
確定給付企業年金(DB)の給付額決定と変動要因
確定給付企業年金(DB)は、その名の通り、将来受け取る給付額があらかじめ定められていることが最大の特徴です。この給付額は、勤続年数や退職時の給与など、企業の規約で定められた計算式に基づいて決定されます。そのため、将来の見通しが立てやすいというメリットがあります。
しかし、全く変動がないわけではありません。企業の業績不振や、年金資産の運用実績が当初の想定を下回った場合などには、企業が給付額の減額を検討することがあります。また、物価変動によっては、実質的な価値が目減りする可能性も考慮しておく必要があります。
給付額の安定性はあるものの、企業の財政状況や経済全体の動向が影響を与える可能性があることを理解し、定期的に企業の年金制度に関する情報を確認することが大切です。
企業型確定拠出年金(DC)の給付額の決まり方
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、将来の給付額が、企業が拠出した掛金と加入者自身の運用益の合計額によって決まります。つまり、年金加入者自身がどのような運用商品を選び、どれだけの運用実績を上げられたかが、最終的な給付額に直結します。
運用結果が良ければ予定よりも多くの年金を受け取れる可能性がある一方で、運用に失敗すれば元本割れを起こし、当初の掛金よりも受け取る年金額が減ってしまうリスクも存在します。このため、DCの加入者は、積極的に運用に関心を持ち、リスクとリターンを考慮した商品選択を行うことが求められます。
具体的な給付額は、退職時の運用資産総額を、年金として受け取る場合は規定された期間や方法で分割した額、一時金として受け取る場合は全額が一括で支払われる形となります。ご自身の運用状況を定期的にチェックし、必要に応じてポートフォリオの見直しを検討しましょう。
企業年金連合会からの給付と支払い調整
厚生年金基金や確定給付企業年金を脱退した方、または制度が終了した企業年金に加入していた方の中には、企業年金連合会から年金が支給されるケースがあります。企業年金連合会は、これらの企業年金から年金原資を引き継ぎ、将来にわたる年金支払いを確保するために資産運用を行っています。
連合会からの給付額は、もともと加入していた企業年金制度の規約に基づいて計算されますが、制度移行時の調整や、連合会の運用実績などによって、元の制度で予定されていた給付額と全く同じではない場合があります。特に、厚生年金基金の代行部分については、公的年金(厚生年金)と合わせて連合会から支給される形になることがあります。
ご自身の企業年金の履歴が複雑な場合や、複数の企業年金に加入していた経歴がある場合は、企業年金連合会からの通知や案内をよく確認し、不明な点があれば問い合わせて詳細を把握することが重要です。
企業年金は相続できる?亡くなった場合の手続き
遺族給付金の種類と相続財産との関係
年金受給者が亡くなった場合、企業年金から遺族に対して給付金が支払われることがあります。これは主に遺族一時金や遺族年金の形で支給されます。公的年金にも遺族年金がありますが、企業年金の遺族給付金は、その制度の規約によって有無や条件が異なります。
遺族給付金は、亡くなった方の死亡によって発生する権利であり、法律上、相続財産とはみなされない場合があります。しかし、税法上は「みなし相続財産」として相続税の対象となることもあります。特に遺族年金については、非課税扱いとなるケースが多いですが、具体的な税務上の取り扱いは専門家に確認することをおすすめします。
どの制度の遺族給付金であるか、またその規約によって扱いが異なるため、一概には言えません。ご自身の加入している企業年金制度の規約を事前に確認しておくことが非常に重要です。
遺族給付の受給条件と手続きの重要性
企業年金から遺族給付金を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。一般的に、受給対象者は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹など、亡くなった方との関係や生計維持の状況に応じて定められています。これらの条件は、公的年金の遺族年金と同様に、企業年金ごとに規約で詳細に規定されています。
遺族給付金を受け取るためには、所定の手続きが必要です。死亡届の提出後、速やかに企業年金の運営機関(企業年金基金、生命保険会社、信託銀行など)に連絡し、必要書類や請求期限を確認しましょう。通常、戸籍謄本、住民票、所得証明書などの提出が求められます。
手続きが遅れると、給付金を受け取れなくなる可能性もありますので、万が一の事態に備え、事前に規約で確認した情報を家族と共有しておくことが賢明です。
死亡時のDC資産の取り扱いと特定受給者について
企業型確定拠出年金(DC)の加入者が亡くなった場合、積み立てていた運用資産は、死亡一時金として遺族に支給されます。DCは個人の資産として運用されているため、死亡時にはその資産が遺族に引き継がれることになります。
この死亡一時金も、前述の遺族給付金と同様に「みなし相続財産」として相続税の課税対象となりますが、一定の非課税枠が設けられています(「500万円 × 法定相続人の数」が非課税)。受け取りの請求は、原則として死亡日の翌日から5年以内に行う必要があります。
DCの遺族給付を受け取ることができる「特定受給者」は、規約や法によって定められた範囲の遺族(配偶者、子、父母など)です。これらの遺族が複数いる場合は、受給順位が定められています。生前中に、ご自身のDC資産の取り扱いについて家族に伝え、万が一の時の手続きについて話し合っておくことをお勧めします。
離婚や配偶者への影響:年金分割は可能?
企業年金における年金分割の基本
離婚の際には、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を分割することが一般的です。この財産分与の対象には、公的年金(厚生年金・共済年金)だけでなく、企業年金も含まれる可能性があります。企業年金の年金分割は、公的年金の年金分割制度とは異なる仕組みを持つため、注意が必要です。
企業年金の種類によって、年金分割の可否や方法が大きく異なります。確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)では、制度設計や資産の性質が異なるため、分割の考え方や手続きも別物となります。
離婚が成立する前に、ご自身の加入している企業年金が年金分割の対象となるのか、どのような方法で分割されるのかを具体的に確認し、理解しておくことが非常に重要です。
確定給付企業年金(DB)と企業型DCの年金分割
確定給付企業年金(DB)の場合、原則として婚姻期間に対応する部分の年金について、将来受け取る給付の一部を分割することが可能です。しかし、その算定方法や、実際に分割された年金をどのように受け取るか(例えば、元配偶者への支払い方法や時期)は、各DB制度の規約によって異なります。また、制度自体が複雑なため、分割の算定には専門的な知識が必要となることが多いです。
一方、企業型確定拠出年金(DC)は、加入者個人が運用する資産であるため、離婚時の財産分与の対象となりやすいです。具体的には、婚姻期間中に積み立てた掛金と運用益の合計額を、離婚協議や裁判によって定めた割合で分与することになります。DCの場合は、現物(運用資産の一部)を移換する形や、評価額を現金で分与する形などが考えられます。
どちらの企業年金であっても、分割の対象となる期間や金額、支払い方法などを明確にし、トラブルを避けるためにも書面で合意しておくことが不可欠です。
手続きの複雑性と専門家への相談の重要性
企業年金の年金分割は、公的年金の年金分割に比べて、その手続きが非常に複雑になる傾向があります。まず、自身の加入している企業年金制度が、どのような年金分割に対応しているのかを正確に把握する必要があります。この情報開示には、企業年金の運営機関への問い合わせが必要です。
次に、具体的な分割額の算定や、合意書の作成、そして実際に年金を分割するための手続きなど、多岐にわたる作業が発生します。これらの手続きには、法律や年金制度に関する専門知識が求められるため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで、適切な情報収集、正確な算定、そして将来のトラブルを未然に防ぐための合意形成が可能となります。離婚を検討されている場合は、早めに専門家へ相談し、ご自身の企業年金に関する情報を整理しておきましょう。
企業年金に関する最新ニュースと今後の動向
制度移行の加速と加入者への影響
かつての厚生年金基金の財政難を受け、法改正により多くの厚生年金基金が確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)への移行を完了しました。この制度移行はほぼ一巡し、現在では、従業員が自身で運用商品を選択するDC制度が、新たな企業年金制度の主流になりつつあります。
制度移行の加速は、加入者一人ひとりの資産形成に対する意識を高めるきっかけとなりました。DC制度では、運用成果が直接将来の年金額に影響するため、これまで以上に投資教育や情報提供の重要性が増しています。企業は従業員に対する金融リテラシー向上支援の役割を担うことになります。
従業員側も、自身のライフプランやリスク許容度に応じて運用商品を適切に選択し、定期的に見直すことが、老後資金の確保に直結するようになりました。
人生100年時代に向けた企業年金の役割強化
「人生100年時代」と言われる現代において、公的年金だけでは不安な老後生活資金を補完する企業年金の役割は、今後ますます重要性を増していくでしょう。企業年金は、従業員の長期的な資産形成を支援し、安心して働き続けられる環境を提供する上で不可欠な福利厚生制度となりつつあります。
企業側も、優秀な人材の確保や定着のため、魅力的な企業年金制度の導入や拡充を検討する動きが見られます。特に、投資教育の充実や、より柔軟な運用商品の提供など、従業員の多様なニーズに応える制度設計が求められるようになります。
政府も、私的年金の普及促進や税制優遇措置の見直しなど、企業年金制度がより多くの人々に利用され、老後生活の安定に貢献できるよう、さまざまな施策を講じていくことが予想されます。
企業年金連合会の役割拡大と将来展望
企業年金連合会は、厚生年金基金や確定給付企業年金を脱退した方、または制度が終了した企業年金に加入していた方から年金原資を引き継ぎ、将来にわたる年金支払いを確保するという重要な役割を担っています。
今後も、企業年金制度の変遷や多様化に伴い、連合会が果たす役割はさらに大きくなると考えられます。特に、複雑な年金加入履歴を持つ個人に対して、確実に年金を支給するための情報管理や、長期にわたる安定的な資産運用が、連合会の主要なミッションとなります。
また、連合会は、企業年金に関する情報提供や相談窓口としての機能も強化していくことが期待されています。私たちが自身の企業年金の状況を把握し、将来にわたる安心を得るためにも、企業年金連合会の動向には引き続き注目していく必要があります。
まとめ
よくある質問
Q: 企業が倒産したら、加入している企業年金はどうなりますか?
A: 企業年金の種類によって異なります。確定給付企業年金(DB)の場合は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPII)によって一定額が保全されます。確定拠出企業年金(DC)の場合は、資産は個人に帰属するため、原則として影響はありません。
Q: 企業年金が廃止された場合、受け取れる金額は減りますか?
A: 原則として、廃止されたとしても、それまでに積み立てられた資産や運用益は、定められたルールに基づいて受給できます。ただし、早期廃止など、特定の条件下では受給額に影響が出る可能性もあります。
Q: 企業年金は、亡くなった場合、遺族に相続されますか?
A: はい、企業年金は相続対象となります。受給権者が亡くなった場合、遺族(配偶者や子など)に遺族給付金として支払われるのが一般的です。ただし、具体的な手続きや受給割合は、年金制度によって異なります。
Q: 離婚した場合、企業年金は年金分割できますか?
A: 確定給付企業年金(DB)については、原則として年金分割の対象外となります。一方、確定拠出企業年金(DC)については、規約で定められていれば年金分割が可能です。詳しくはお勤めの企業や年金制度にご確認ください。
Q: 懲戒解雇された場合、企業年金はどうなりますか?
A: 懲戒解雇の場合でも、それまでに積み立てられた企業年金資産は、原則として受給できます。ただし、退職金規定や企業年金規約によって、一時金での受け取りや、受給開始時期に制限がかかる場合があります。
