企業年金、年末調整と税金の基本を徹底解説

企業年金は、老後の生活を支えるための重要な資産形成手段ですが、税金や年末調整との関係について理解しておくことが大切です。本記事では、企業年金に関する税金の基本、年末調整との関連、そして最新の税制改正情報について詳しく解説します。

企業年金はどんな所得?税金との関係

年金形式で受け取る場合の税金

企業年金を年金形式で受け取る場合、その給付は「公的年金等に係る雑所得」として課税対象となります。これは、国民年金や厚生年金などの公的年金と同様の扱いです。

具体的には、年金が支払われる際に所得税と復興特別所得税が源泉徴収されます。一般的な税率は、年金額に関わらず一律で7.6575%(所得税7.5%+復興特別所得税0.1575%)が適用されることが多く、これは老後の生活設計において重要なポイントとなります。給与所得とは異なり、段階的な累進課税ではなく、この一律税率で天引きされるのが特徴です。

ただし、この源泉徴収税額はあくまで仮の税額であり、その年の最終的な所得税額は、他の所得との合算や各種控除を適用した上で確定します。年金収入が公的年金等控除額を下回る場合や、他に所得がない場合は、確定申告をすることで税金が還付されるケースもあります。ご自身の年金受給額や他の所得状況を把握し、必要に応じて確定申告を検討することが賢明です。

一時金で受け取る場合の税金とメリット

確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(DC)を年金形式ではなく一時金として受け取る選択肢もあります。この場合、給付金は「退職所得」として扱われ、税制上の大きな優遇措置が適用されます。

最大のメリットは、長年の勤続に対する功労金という意味合いから設けられている「退職所得控除」が適用される点です。この控除額は勤続年数によって異なり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。

例えば、勤続20年以下の場合は「40万円 × 勤続年数」、20年を超える場合は「800万円 + 70万円 × (勤続年数-20年)」という計算式で算出されます。この控除を適用した後の残りの金額に対して、さらに2分の1を乗じた金額が課税対象となり、累進課税が適用されるため、結果として税負担が大幅に軽減されることが多いです。一時金受け取りは、まとまった資金が必要な場合に有効な手段であるとともに、税制優遇を最大限に活用できる魅力的な選択肢と言えるでしょう。

積立期間中にかかる税金と課税停止

企業年金の積立金そのものにも、本来であれば「特別法人税」という税金が課される制度が存在します。この特別法人税は、積立金の運用益に対して年間1.173%の税率で課されるもので、企業年金制度の加入者にとっては間接的な負担となり得るものです。

しかし、実際にはバブル崩壊以降の低金利環境などを背景に、この特別法人税は長年にわたって課税停止措置が取られています。現行の制度では、令和8年3月まで課税停止期間が延長されており、少なくとも現時点では積立金への税負担は発生していません。

この課税停止措置は、企業年金制度の健全な運営と、加入者の資産形成を後押しする目的があります。今後、経済状況や税制改正によって課税が再開される可能性もゼロではありませんが、現状では積立期間中の運用益に対して直接的な税金がかからない点が、企業年金制度の大きなメリットの一つと言えるでしょう。

年末調整で知っておきたい企業年金の控除

確定拠出年金(DC)の掛金控除の仕組み

確定拠出年金(DC)は、年末調整において税制優遇を享受できる代表的な企業年金制度です。企業型DCの場合、事業主が拠出する掛金は企業にとっての損金となり、従業員の所得にはなりません。

一方、従業員自身が追加で拠出する掛金(マッチング拠出)や、個人型確定拠出年金であるiDeCo(イデコ)の掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となります。この控除は、所得税や住民税の計算において、課税対象となる所得から掛金全額を差し引くことができるため、その分、税金負担が軽減されます。

例えば、年収500万円の人が年間24万円(月2万円)をiDeCoに拠出した場合、所得税率10%、住民税率10%と仮定すると、年間で約4.8万円(24万円 × (10% + 10%))の税負担が軽減されることになります。これは非常に大きなメリットであり、将来の資産形成と現役時代の節税を両立させる効果的な方法と言えるでしょう。

確定給付企業年金(DB)の掛金控除の活用

確定給付企業年金(DB)の場合も、掛金に対する控除の仕組みが存在します。事業主が拠出する掛金は、企業側で損金として処理されます。

従業員が自身の負担で掛金を拠出している場合、その掛金は「生命保険料控除」の対象となる場合があります。ただし、この控除には上限額が設けられており、2011年12月31日までに契約した旧制度の保険料は年間50,000円、それ以降に契約した新制度の保険料は年間40,000円が所得税の控除限度額となります。住民税の控除限度額はさらに低く、旧制度28,000円、新制度28,000円(合計で35,000円)です。

DBの掛金が生命保険料控除の対象となるかどうかは、加入している制度の規約によって異なりますので、ご自身の企業年金制度の詳細を勤務先の担当部署や制度運営機関に確認することが重要です。年末調整の際には、この控除を適用するために、企業年金から送られてくる生命保険料控除証明書を忘れずに提出する必要があります。

控除を最大限活用するためのポイント

企業年金に関する控除を最大限に活用するためには、ご自身の加入している制度の種類と、それに適用される控除の種類を正確に理解することが不可欠です。例えば、DCであれば小規模企業共済等掛金控除、DBであれば生命保険料控除(適用される場合)というように、制度によって適用される控除が異なります。

特にDCやiDeCoのように全額所得控除の対象となる掛金は、拠出額が大きいほど節税効果も大きくなるため、無理のない範囲で積極的に活用を検討すべきです。また、年末調整の際には、勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」に、企業年金の掛金に関する情報を正確に記入し、必要な証明書を添付することを忘れないようにしましょう。

これらの手続きを適切に行うことで、毎年の税負担を軽減し、老後のための資産形成を効率的に進めることができます。不明な点があれば、勤務先の人事・総務部門や、税理士などの専門家に相談することも有効です。

天引きされる企業年金、地方税との関連性

企業年金から天引きされる住民税の基本

企業年金を年金形式で受け取る場合、所得税や復興特別所得税だけでなく、住民税も源泉徴収(天引き)されます。住民税は地方税の一種であり、都道府県民税と市町村民税で構成され、原則として所得の10%が課されます。

公的年金等に係る雑所得として課税される企業年金も、この住民税の対象となります。所得税と同様に、年金が支払われる際に一定額が自動的に天引きされるため、受給者は改めて納税手続きを行う必要がありません。

ただし、住民税の計算は所得税と異なり、前年の所得に基づいて決定され、翌年の6月以降に適用されます。このため、年金受給が開始されたばかりの時期や、年金以外の所得状況に大きな変動があった場合には、住民税額にずれが生じることがあります。年金から天引きされる住民税額は、市区町村から送付される「公的年金等に係る住民税決定通知書」などで確認することができますので、ご自身の納税状況を定期的に確認することが重要です。

源泉徴収される税金の内訳と確認方法

企業年金から天引きされる税金には、所得税・復興特別所得税と住民税が含まれます。これらの税額は、年金支払通知書や、確定申告の際に必要となる源泉徴収票に詳細が記載されています。年金支払通知書には、支給額とそこから源泉徴収された所得税額、そして住民税額がそれぞれ明記されているのが一般的です。

特に、所得税・復興特別所得税は一律7.6575%で源泉徴収されますが、これはあくまで暫定的なものです。最終的な年間の所得税額は、各種所得控除を適用した上で確定します。もし源泉徴収された税額が実際に納めるべき税額よりも多かった場合、確定申告を行うことで過払い分が還付される可能性があります。

例えば、公的年金等控除額を超える年金収入がある場合や、医療費控除、生命保険料控除などの適用を受けたい場合には、確定申告が必要です。これらの書類を保管し、内容を理解しておくことが、ご自身の税金管理において非常に役立ちます。

定額減税が企業年金に与える影響

2024年度に実施される定額減税は、企業年金の受給者にも影響を与える可能性があります。この定額減税は、所得税3万円、住民税1万円を納税者および扶養親族に対して減税するもので、物価高に苦しむ国民の負担軽減を目的としています。

企業年金を年金形式で受給している場合、その年金収入は所得税や住民税の課税対象となるため、定額減税の対象となります。所得税からの減税は、年金から源泉徴収される税額に反映される形で適用される見込みです。また、住民税についても、徴収される税額から減税分が差し引かれることになります。

ただし、年金収入のみで所得税や住民税の納税額が定額減税額を下回る場合など、減税しきれないケースも考えられます。その場合は、別途調整給付が行われることもありますので、詳細については国税庁や自治体の情報を確認することが重要です。定額減税は一時的な措置ですが、企業年金受給者の手取り額に影響を与えるため、制度の理解を深めておきましょう。

定額減税や遡及受給、知っておくべき制度

2025年度税制改正で変わるiDeCoとDC

2025年度の税制改正では、確定拠出年金(DC)および個人型確定拠出年金(iDeCo)に関して、老後の資産形成をより柔軟にするための重要な変更が予定されています。特に注目すべきは、iDeCoの加入年齢の引き上げです。

現行では65歳未満の国民年金被保険者が対象ですが、改正後は新たに60歳以上70歳未満で、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付金を受給していない人も加入できるようになります。これにより、より長くiDeCoを活用して資産形成を継続する道が開かれます。

また、企業型DCとiDeCoの拠出限度額も引き上げられる方針です。企業型DCの拠出限度額は月額55,000円から月額62,000円に、iDeCoの拠出限度額も企業年金加入者の場合、月額20,000円から62,000円(企業型DCやDB等の掛金相当額を控除した額)に引き上げられる見込みです。これらの変更は、より多くの資金を税制優遇を受けながら積み立てられるようになるため、老後資金準備において大きなメリットとなります。

マッチング拠出の制限撤廃と拠出限度額の活用

企業型DCにおける重要な変更点の一つとして、マッチング拠出の制限撤廃が挙げられます。現行制度では、従業員が追加できる掛金(マッチング拠出)の額が、企業が拠出する掛金の額を超えられないという制限がありました。

この制限が撤廃されることで、従業員は企業の掛金によらず、自身の意思でさらに掛金を増額できるようになります。これは、従業員自身の資産形成の自由度を大きく高めるものであり、先述の拠出限度額引き上げと合わせて、より積極的に老後資金を積み立てたいと考える人々にとって朗報です。

例えば、企業が少額の掛金しか拠出していない場合でも、従業員が上限額まで拠出することで、税制優遇を最大限に享受しながら効率的に資産を増やしていくことが可能になります。自身の家計状況や将来の目標に合わせて、マッチング拠出を戦略的に活用することが求められるでしょう。

企業年金の一時金受け取り「10年ルール」の注意点

確定拠出年金(DC)を一時金で受け取る際の重要な変更点として、「5年ルール」が「10年ルール」に変更される点が挙げられます。これは、退職金とiDeCo等の企業年金の一時金をそれぞれ退職所得として扱ってもらう際に、重複して退職所得控除の満額適用を受けるための期間に関するルールです。

現行の「5年ルール」では、退職金を受け取ってから5年以上経過していれば、iDeCo等の一時金も改めて退職所得控除の適用を受けることができました。しかし、これが「10年ルール」に延長されると、退職金を受け取った後、iDeCo等の一時金を退職所得として優遇を受けるには、10年以上間隔を空ける必要が生じます。

この変更は、退職後のライフプランニングや資金計画に大きな影響を与える可能性があります。退職金と企業年金(DC)一時金の受け取り時期を慎重に検討し、ご自身の勤続年数や退職所得控除額を考慮した上で、最も税負担が少なくなる受け取り方を計画することが非常に重要です。

企業年金の納付要件と退職所得控除の活用法

企業年金制度の加入要件と拠出義務

企業年金制度には、主に確定拠出年金(DC)と確定給付企業年金(DB)の2種類があります。それぞれの制度には、加入するための要件や掛金の拠出に関するルールが定められています。

企業型DCの場合、原則として勤務先の企業が制度を導入しており、その企業の従業員であれば加入対象となります。掛金は事業主が拠出するのが基本ですが、従業員が任意で追加拠出(マッチング拠出)することも可能です。iDeCo(個人型確定拠出年金)は、国民年金の被保険者であれば原則として加入できますが、企業年金に加入している場合はiDeCoの拠出限度額に制限があります。

一方、DBは企業が将来の給付額を約束する制度であり、通常、従業員は自動的に加入対象となります。掛金は事業主が拠出することが多く、従業員自身が掛金を負担するケースは比較的少ないですが、一部の制度では従業員拠出が求められることもあります。自身の勤務先の企業年金制度がどちらのタイプであり、どのような加入要件や拠出ルールがあるのかを、就業規則や制度説明書で確認することが重要です。

退職所得控除の計算方法と適用条件

企業年金を一時金として受け取る際に適用される「退職所得控除」は、税負担を大幅に軽減する非常に強力な制度です。この控除額は、その人の勤続年数(企業年金の加入期間)によって決まります。

具体的な計算方法は以下の通りです。

  • 勤続年数が20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続年数が20年を超える場合:800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

この計算式からも分かるように、勤続年数が長ければ長いほど控除額は大きくなります。例えば、勤続30年の場合は「800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円」もの控除が適用されることになります。退職所得は、一時金の額から退職所得控除額を差し引いた後、さらに2分の1を乗じた金額が課税対象となります。この優遇措置を最大限に活用するためには、ご自身の勤続年数と控除額を事前に把握しておくことが肝要です。

控除を最大限生かすための受け取り戦略

企業年金の受け取り方には、年金形式と一時金形式の2つの選択肢があり、どちらを選ぶかによって税負担が大きく変わります。退職所得控除を最大限に生かすためには、一時金での受け取りを検討することが有効な戦略となります。特に、退職金と企業年金の一時金を合わせて受け取る場合は、先述の「10年ルール」を考慮した上で、受け取り時期を慎重に計画する必要があります。

例えば、退職金と企業年金(DC)の一時金を同一年に受け取ると、勤続年数を合算して退職所得控除が適用されるため、控除額を超える部分に税金がかかりやすくなります。これを避けるためには、一方を退職金として受け取った後、10年以上の期間を空けてからもう一方を一時金として受け取ることで、それぞれの退職所得控除を独立して適用し、税負担を軽減できる可能性があります。

ご自身の退職金制度や企業年金制度、そして将来のライフプランを総合的に考慮し、最も有利な受け取り方を選択することが重要です。複雑なケースや不明な点がある場合は、勤務先の総務・人事担当者、または税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、具体的なシミュレーションを行うことを強くお勧めします。