概要: 企業年金は、退職や転職の際にどうなるか、ご存知ですか?早期退職、中途退職、転職など、様々なケースにおける企業年金の扱い、一時金や移管などの選択肢、そして必要となる手続きについて分かりやすく解説します。
退職・転職時の企業年金、あなたは大丈夫?
企業年金ってどんな種類があるの?基本を再確認!
企業年金と一言で言っても、実はいくつかの種類があることをご存知でしょうか?
主に、企業が運用や給付の責任を負う「確定給付企業年金(DB)」と、従業員自身が運用方法を選び、その実績によって将来の受給額が変わる「確定拠出年金(DC)」の2種類が日本の企業年金の主流です。
確定給付企業年金(DB)は、将来受け取れる年金額があらかじめ決まっているため、安定志向の方には安心感があります。
一方、確定拠出年金(DC)は、自分で選んだ金融商品で運用するため、積極的な資産形成を目指したい方に向いています。
退職や転職時には、ご自身の加入していた年金がどちらのタイプだったのかをまず確認することが、その後の手続きをスムーズに進める上で非常に重要になります。
ご自身の企業年金制度について、会社の規約や人事担当者に確認しておきましょう。
それぞれの特徴を理解しておくことで、退職・転職後の選択肢をより適切に判断できるようになります。
退職・転職で年金資産が放置されるリスクとは?
退職や転職をすると、これまで勤めていた会社の企業年金の加入資格を失います。
この際、もし適切な手続きを怠ってしまうと、年金資産が「自動移換」という状態になってしまうリスクがあることをご存知でしょうか。
自動移換とは、企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産が、国民年金基金連合会に自動的に移される状態を指します。
この状態になると、大切な年金資産は運用されずに眠ってしまい、本来得られるはずの運用益を得る機会を失ってしまいます。
さらに、管理手数料だけが毎月引かれ続けるため、知らぬ間に資産が目減りしていくという、非常に大きなデメリットがあります。
参考情報でも指摘されているように、この状態は資産の運用ができず、手数料がかかるなどのデメリットがあります。
そのため、退職・転職の際には、自分の年金資産が自動移換されてしまわないよう、速やかに適切な手続きを行うことが極めて重要です。
「ポータビリティ」って何?あなたの資産を守る大切な仕組み
企業年金、特に確定拠出年金(DC)には「ポータビリティ」という非常に重要な仕組みがあります。
これは、退職や転職によって会社の企業年金制度から離れることになっても、これまでに積み立てた年金資産を、別の年金制度へ移し替えることができる制度のことです。
あたかも自分の資産を持ち運ぶように、退職後もその資産を運用し続けることが可能になります。
例えば、転職先の企業に企業型DCがあれば、そこに資産を移換できますし、なければ個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移換するという選択肢もあります。
このポータビリティの仕組みを理解し、活用することで、退職・転職でキャリアが変わっても、老後資金の形成を中断することなく継続できます。
資産を途切れさせることなく運用し続けることで、複利効果を最大限に享受し、将来の年金額を大きく増やすことも期待できます。
あなたの年金資産を守り、育てる上で、このポータビリティは非常に頼りになる味方となるでしょう。
企業年金、退職・転職したらどうなる?選択肢を理解しよう
選択肢1:転職先の企業型DCへの移換
転職先の企業が「企業型確定拠出年金(企業型DC)」制度を導入している場合、これが最もスムーズな選択肢の一つとなります。
前職で積み立てた企業型DCの年金資産を、転職先の企業型DCへそのまま移換することができます。
この「ポータビリティ」の仕組みを活用することで、資産を途切れることなく運用し続けることが可能になります。
転職先の企業型DCに移換する最大のメリットは、運用を継続しながら、企業が提供する運用商品の中から選択できる点です。
また、企業によってはマッチング拠出(従業員自身も掛金を上乗せすること)が可能となる場合もあり、さらなる資産形成のチャンスが広がります。
移換手続きは、転職先の企業の人事担当者を通じて行われることが一般的ですので、入社時に必ず確認するようにしましょう。
この選択肢は、資産を一つの制度にまとめて管理できるため、管理の手間を減らしたい方にもおすすめです。
選択肢2:個人型DC(iDeCo)への移換
もし転職先に企業型DC制度がない場合や、自社の企業型DCには加入しないという選択をする場合でも、大切な年金資産を活かし続ける方法があります。
それが、「iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)」への移換です。
iDeCoは国民年金の被保険者であれば、ほとんどの人が加入資格を持つ私的年金制度で、ご自身で金融機関を選び、運用商品を選定します。
参考情報にもあるように、「iDeCoへの移換は、現在最も多い資産移換のパターンの一つ」であり、多くの人が活用している実績があります。
iDeCoに移換するメリットは、ご自身で運用商品を選べる自由度が高いこと、そして掛金が全額所得控除の対象となるなど、税制優遇が大きいことです。
ただし、企業型DCと比べて、ご自身で金融機関を選び、手数料を負担する必要がある点には注意が必要です。
退職・転職で企業型DCの加入資格を失う方にとって、iDeCoは資産形成を継続するための強力な選択肢と言えるでしょう。
選択肢3:企業年金連合会(通算企業年金)への移換
確定給付企業年金(DB)や、かつて存在した厚生年金基金に加入していた方が退職・転職した場合、その年金資産は「企業年金連合会」へ移換するという選択肢もあります。
この制度は「通算企業年金」と呼ばれ、これまでの企業年金加入期間が短く、脱退一時金を受給する条件を満たさない場合や、一時金として受け取らずに将来年金として受け取りたい場合に利用されます。
企業年金連合会に移換することで、将来一定の条件を満たせば、連合会から年金として受け取ることができます。
これは、脱退一時金として受け取ってしまうと、その場で課税対象となり、老後資金として確保しておくことが難しくなる可能性があるため、特に退職金と合わせて年金として受け取りたいと考える方には有効な選択肢です。
手続きは、退職した会社を通じて行うか、直接企業年金連合会に問い合わせて進めることになります。
ご自身の加入していた制度と、将来の受給計画に合わせて、最適な選択肢を検討しましょう。
知っておきたい!企業年金の中途脱退・一時金・移管手続き
中途脱退と一時金受給の考え方
企業年金からの「中途脱退」とは、原則として年金受給開始年齢に達する前に、企業年金制度から脱退することを指します。
この際、多くの方が検討するのが「脱退一時金」の受給です。
脱退一時金とは、企業年金制度から一時金としてまとめて資産を受け取る制度で、加入期間が短い場合や一定の条件を満たした場合に選択できることがあります。
しかし、一時金として受け取る際には注意が必要です。
受け取った一時金は「退職所得」として扱われ、退職所得控除の対象となりますが、控除額を超える部分には税金がかかります。
また、老後の資産形成という観点からは、一度一時金として受け取ってしまうと、将来の年金資産が減ってしまいます。
安易な一時金受給は、結果的に将来の生活設計に影響を与える可能性があるため、慎重な検討が必要です。
できれば、iDeCoなどへの移換を検討し、老後資金として運用を継続することをお勧めします。
移換手続きの具体的な流れと必要書類
企業年金の資産を移換する手続きは、選択する移換先によって多少異なりますが、基本的な流れは共通しています。
まず、退職・転職が決まったら、加入していた企業年金制度の運営管理機関(多くは証券会社や銀行)または会社の退職金・年金担当部署に連絡を取り、移換に関する資料や必要書類を入手します。
次に、移換先の制度(転職先の企業型DCやiDeCoなど)を選択し、その制度を提供する金融機関または担当部署に加入申し込みや移換の申請を行います。
必要となる書類としては、個人情報や年金に関する情報が記載された「個人別管理資産移換依頼書」や、本人確認書類、場合によっては退職証明書などが挙げられます。
書類に不備があると手続きが滞るため、指示に従い正確に記入し、期限内に提出することが重要です。
疑問点があれば、遠慮なく関係機関に問い合わせて解決しましょう。
自動移換を防ぐ!期限と注意すべきポイント
最も避けたいのは、年金資産が「自動移換」されてしまうことです。
参考情報にもあるように、企業型DCの資産を移換する場合、退職後6ヶ月以内に手続きを完了させる必要があります。
この6ヶ月という期間は、あっという間に過ぎてしまうため、退職・転職が決まったらすぐに情報収集と手続きの準備に取り掛かることが肝心です。
もし期限内に手続きを怠ると、資産は国民年金基金連合会に自動的に移換されてしまいます。
自動移換された資産は、運用されずに預貯金のように保持されるため、インフレリスクにさらされるだけでなく、管理手数料が毎月差し引かれることで資産が目減りしていくという大きなデメリットがあります。
また、自動移換された資産を再びiDeCoなどに移す際には、追加の手続きと手数料が発生することもあります。
「たかが6ヶ月」と軽視せず、大切な年金資産を守るためにも、この期限は厳守し、計画的に手続きを進めましょう。
早期退職、中途退職、転職…それぞれのケースで企業年金はどう変わる?
早期退職の場合の年金戦略
早期退職は、キャリアプランの一環として選択されることが増えていますが、企業年金の扱いは特に慎重な検討が必要です。
早期退職の場合、年金受給開始年齢までまだ期間があるため、それまでの資産の運用方法を考えることが重要です。
例えば、退職金と合わせて、企業年金も一時金として受け取るか、iDeCoなどに移換して運用を継続するかという大きな選択があります。
一時金として受け取る場合、退職所得控除の対象となりますが、退職後の生活資金に充てることで老後資金が不足するリスクも考慮しなければなりません。
一方、iDeCoに移換して運用を継続すれば、所得控除や運用益非課税といった税制優遇を受けながら、受給開始まで資産を育てることができます。
さらに、iDeCoには原則60歳から年金として受け取れるだけでなく、受け取り時期を遅らせる「繰り下げ受給」の制度もあり、より有利な形で年金を受け取れる可能性があります。
ご自身の退職後のライフプランと照らし合わせ、最適な年金戦略を立てましょう。
中途退職者が考えるべき企業年金の選択
自己都合、会社都合を問わず、中途退職した場合も企業年金の取り扱いを速やかに検討する必要があります。
特に、退職後すぐに再就職しない場合、年金資産が放置されやすい傾向にあります。
しかし、先にも述べたように、退職後6ヶ月以内に適切な手続きを行わないと、年金資産は自動移換されてしまい、手数料がかかる上に運用もできません。
中途退職の場合の有力な選択肢は、やはりiDeCoへの移換です。
失業期間中でもiDeCoに加入して資産運用を継続できますし、所得がない期間でも、拠出した掛金は将来の所得から控除される可能性があり、税制メリットを享受できる場合があります。
再就職が決まれば、転職先の企業型DCへの移換も可能です。
退職の理由にかかわらず、年金資産はあなたの将来の大切な財産です。
退職が決まったら、すぐに会社の年金担当者や金融機関に相談し、今後の手続きについて確認することをお勧めします。
転職先での企業年金制度の違いと対応
転職の場合、転職先の企業がどのような企業年金制度を導入しているかによって、取るべき対応が変わってきます。
転職先の企業も企業型DCを導入していれば、前職の企業型DC資産をそちらへ移換するのが最も自然な流れです。
この場合、転職先の企業の人事担当者を通じて手続きを進めることになります。
もし転職先が確定給付企業年金(DB)制度を導入している、あるいは企業年金制度自体がない場合、前職の企業型DC資産はiDeCoへ移換するのが現実的な選択となります。
DB制度は将来の給付額が保証されるメリットがありますが、前職のDC資産をDB制度に移換することは原則としてできません。
また、企業年金制度がない会社に転職した場合、自らiDeCoに加入することで、老後資金の形成を継続できます。
転職先の企業年金制度を事前にしっかりと確認し、ご自身の資産形成に最適な選択肢を見つけるための情報収集を怠らないようにしましょう。
企業年金の手続き、いつまで?どこに提出?不安を解消
手続きの期限を厳守!6ヶ月ルールを忘れずに
企業年金の手続きにおいて、最も重要で、かつ見落とされがちなのが「期限」です。
特に企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合、退職後6ヶ月以内に年金資産の移換手続きを完了させる必要があります。
この6ヶ月という期間は、退職後の慌ただしい中で意識していないと、あっという間に過ぎ去ってしまいます。
この期限を過ぎてしまうと、あなたの年金資産は「国民年金基金連合会」に「自動移換」されてしまいます。
自動移換されると、資産は運用されずに凍結された状態となり、その間も管理手数料が差し引かれ続けてしまいます。
これは、せっかく積み立てた老後資金が目減りしていくことを意味します。
また、自動移換された資産を再びiDeCoなどに移す際には、追加の手続きと手数料が発生することもあり、二度手間となってしまいます。
退職日が確定したら、すぐにでも年金資産の移換手続きの準備に取り掛かることを強くお勧めします。
誰に相談する?手続きの連絡先と情報源
企業年金の手続きは複雑に感じられるかもしれませんが、相談できる場所は複数ありますのでご安心ください。
まず、退職前であれば、会社の退職金・年金制度を担当している人事部や総務部が最も身近な相談先です。
制度の詳細や手続きに必要な書類について教えてもらえるでしょう。
退職後や具体的な移換先について相談したい場合は、以下の機関が情報源となります。
- 国民年金基金連合会:自動移換に関する情報やiDeCoへの加入に関する相談が可能です。
- 企業年金連合会:通算企業年金への移換に関する相談ができます。
- 運用管理機関(証券会社や銀行など):企業型DCやiDeCoの口座を開設している金融機関の窓口やコールセンターでも相談に乗ってくれます。
- ファイナンシャルプランナー(FP):個別の状況に応じた最適な年金戦略について、専門的なアドバイスを受けられます。
一人で抱え込まず、積極的にこれらの窓口を活用し、疑問を解消しながら手続きを進めましょう。
移換に伴う手数料と税金、損しないための知識
企業年金資産の移換や受け取り方には、必ず手数料と税金が関わってきます。
これらの費用を理解しておくことで、結果的に「損をしない」選択が可能になります。
まず、移換手続き自体には、金融機関や制度によって所定の手数料がかかる場合があります。
これは、移換元の制度からの移管手数料や、移換先の制度への加入手数料などが該当します。事前に確認しておきましょう。
また、移換せずに自動移換となってしまった場合にも、国民年金基金連合会に管理手数料を支払う必要があります。
税金については、年金資産を一時金として受け取るか、年金として受け取るかで扱いが大きく異なります。
一時金として受け取る場合は退職所得控除の対象となりますが、控除額を超える部分には課税されます。
一方、iDeCoなどで年金として受け取る場合は、公的年金等控除の対象となります。
これらの税制優遇を最大限に活用し、手数料を最小限に抑えることが、資産を効率的に増やす上で非常に重要です。
ご自身の状況に合わせて、税理士やFPなどの専門家にも相談し、最適なプランを立てることをお勧めします。
まとめ
よくある質問
Q: 退職したら、企業年金はどうなりますか?
A: 退職すると、企業年金は原則として受け取る権利が発生しますが、受け取り方にはいくつかの選択肢があります。ご自身の年金制度の種類や会社の規定によって異なりますので、まずは会社にご確認ください。
Q: 転職する場合、企業年金はどうすれば良いですか?
A: 転職する場合、企業年金は「移管」という手続きで新しい企業年金制度に持ち運ぶか、一時金として受け取る(条件による)などの選択肢があります。移管しない場合は、脱退一時金として受け取れる場合もあります。
Q: 企業年金の中途脱退とは何ですか?
A: 企業年金の中途脱退とは、退職や転職などの理由で、本来の受給開始年齢よりも前に企業年金制度から脱退し、一時金として受け取ることを指します。ただし、制度によっては脱退一時金が受け取れない場合や、税金がかかる場合があります。
Q: 企業年金の一時金と年金形式での受け取り、どちらが得ですか?
A: 一時金として受け取るか、年金形式で受け取るかは、ご自身の年齢、健康状態、資金計画、税金など、様々な要因によって有利不利が変わります。専門家や会社の担当者に相談し、ご自身にとって最適な方法を検討することをおすすめします。
Q: 企業年金の手続きは、いつまでにどこに提出すれば良いですか?
A: 企業年金の手続き期限や提出先は、加入している企業年金制度の種類や会社の規定によって異なります。退職や転職が決まったら、速やかに会社の担当部署(人事部や総務部など)に確認し、案内に従って手続きを進めてください。