概要: 企業年金を受け取る際、一時金と年金形式のどちらを選ぶかは、将来の資金計画に大きく影響します。本記事では、それぞれのメリット・デメリットを比較し、あなたにとってより有利な受け取り方を見つけるためのポイントを解説します。
【企業年金】一時金と年金、どちらがお得?受け取り方で変わる手取り額
長年勤め上げた会社を退職する際に受け取る「企業年金」。その受け取り方を「一時金」にするか「年金」にするかで、最終的な手取り額が大きく変わることをご存存じでしょうか?
退職後の大切なセカンドライフを豊かにするためにも、最適な受け取り方を選ぶことは非常に重要です。
今回は、企業年金の一時金と年金のそれぞれの特徴、メリット・デメリット、そして賢い受け取り方について詳しく解説していきます。
企業年金の一時金と年金、それぞれの特徴を理解しよう
一時金と年金、基本的な違いとは?
企業年金の受け取り方には、大きく分けて「一時金」と「年金」の2種類があります。
まず、一時金は、退職時に企業年金の積立金を一括でまとめて受け取る方法です。この場合、税法上は「退職所得」として扱われます。
退職所得には、長年の勤労をねぎらう意味で設けられた「退職所得控除」という強力な税制優遇措置があり、一定額までは非課税、それを超える部分にも低い税率が適用されるのが特徴です。
一方で、年金形式での受け取りは、公的年金と同じように、決まった期間、定期的に分割して受け取る方法です。こちらは「雑所得」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。
どちらの受け取り方も、それぞれ異なる税制上のメリット・デメリットがあるため、自身の状況に合わせて選択することが肝心です。
一時金で受け取るメリット・デメリット
一時金で企業年金を受け取る最大のメリットは、何と言っても「まとまった資金が手元に残る」点にあります。
住宅ローンの返済、新たな事業の立ち上げ資金、あるいは老後の趣味や旅行費用など、まとまった資金を一度に得られることで、その後の人生設計に大きな自由度をもたらします。
また、一時金として受け取る場合は社会保険料がかからないという税制上の優遇もあります。さらに、手元の資金を自分で運用し、さらなる資産形成を目指すことも可能です。
しかし、デメリットも考慮しなければなりません。まとまった資金が一度に手に入るため、計画性なく使いすぎてしまうリスクや、運用に失敗して資産を減らしてしまうリスクも存在します。
インフレの進行により、将来的に資産価値が目減りする可能性も考慮しておく必要があるでしょう。
年金で受け取るメリット・デメリット
年金形式で企業年金を受け取るメリットは、「安定した収入が定期的に確保できる」ことにあります。
公的年金と合わせて、毎月の生活費の足しにすることで、老後の生活設計をより安定させることが可能です。特に長生きリスクが懸念される現代において、終身年金として受け取れる制度であれば、長寿化への備えとして大きな安心感につながります。
デメリットとしては、年金収入が雑所得として課税されるため、毎年所得税・住民税が源泉徴収される点が挙げられます。確定給付企業年金の場合、年金が支払われるたびに所得税が一律7.6575%(復興特別所得税を含む)で源泉徴収されるのが一般的です。
さらに、年金収入が増えることで、健康保険料や介護保険料といった社会保険料が増加する可能性もあります。また、2024年6月から始まった定額減税は、確定給付企業年金には適用されない点にも注意が必要です。
企業年金の一時金受け取り:いくらもらえる?メリット・デメリット
一時金の税金計算の仕組みと退職所得控除
一時金で企業年金を受け取る場合、「退職所得」として税金が計算されます。この退職所得は、他の所得とは分離して計算され、非常に優遇された控除制度が適用されます。
その中心となるのが「退職所得控除」です。この控除額は、勤続年数によって以下のように定められています。
- 勤続年数20年以下の場合:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数20年超の場合:800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
例えば、勤続30年で退職した場合、控除額は「800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 1,500万円」となります。
つまり、1,500万円までの退職金であれば税金がかからないということです。この控除額を差し引いた後の金額のさらに半分に課税されるため、実質的な税負担は非常に軽くなります。
加えて、一時金には社会保険料がかからないため、手取り額が額面に近い金額になるという大きなメリットがあります。
一時金で受け取るメリットを深掘り
一時金での受け取りは、退職後のライフプランに合わせた柔軟な資金活用を可能にします。
例えば、長年の夢だった海外移住の費用に充てる、あるいは自宅のリフォームや新たな住宅購入の頭金にするなど、まとまった資金を必要なタイミングで自由に使うことができます。
また、投資経験がある方にとっては、この資金を元手にNISAやつみたてNISA、iDeCo(確定拠出年金)などで積極的に運用し、さらなる資産増加を目指すことも選択肢の一つです。
特に、老後資金として手元に置いておくことで、急な出費や医療費など、予期せぬ事態にも対応しやすくなります。税制上の優遇が大きい点と、社会保険料の負担がない点は、手取り額を最大化する上で非常に有利と言えるでしょう。
一時金で受け取るデメリットとリスク管理
一時金で受け取る際のデメリットは、主に「資金の管理と運用」に起因します。
一度にまとまった金額が手に入るため、明確な計画なしに使いすぎてしまうと、老後の資金が枯渇してしまうリスクがあります。特に、退職直後は開放感から支出が増えやすい傾向にあるため、注意が必要です。
また、自分で運用する場合には、市場変動による損失リスクを負うことになります。投資の知識や経験が不足している場合、大切な老後資金を減らしてしまう可能性もゼロではありません。
さらに、インフレの進行により、将来的に資金の購買力が低下することも考慮しておく必要があります。これらのリスクを管理するためには、受け取った資金の使途を事前に明確にし、必要であればファイナンシャルプランナーなどの専門家と相談しながら、計画的に運用・管理していくことが求められます。
企業年金の一時金と年金、どっちがお得?シミュレーションで比較
「お得」を左右する税制上のポイント
企業年金の受け取り方で「お得」の基準を考えるとき、最も重要なのは「税制上の優遇措置」と「社会保険料の負担」です。
一時金の場合は、勤続年数に応じて計算される「退職所得控除」が非常に大きく、多額の退職金でも非課税となるケースが多く見られます。また、社会保険料(健康保険料や介護保険料など)もかからないため、手取り額を最大化しやすい傾向にあります。
一方、年金の場合は「雑所得」として扱われ、「公的年金等控除」が適用されますが、退職所得控除ほど優遇されているとは限りません。年金収入が増えると、他の公的年金と合わせて、所得税・住民税の負担が増え、さらには社会保険料も増加する可能性があります。
特に、公的年金との合算額が高額になる場合は、税金や社会保険料で手取り額が大きく減る可能性も考慮が必要です。
具体的なケースで見る損益分岐点
どちらがお得かは、個々人の勤続年数、退職金の総額、他の年金収入(公的年金など)、そして健康状態やライフプランによって大きく異なります。
例えば、勤続年数が長く、退職所得控除を最大限に活用できる方(例:勤続30年以上で退職金が1,500万円以内など)であれば、一時金で受け取る方が税制メリットが大きく、手取り額が多くなる可能性が高いでしょう。
逆に、勤続年数が短く退職所得控除額が小さい方や、他の所得が少なく年金として受け取っても税負担が比較的軽い方は、年金形式の方が生活の安定につながるかもしれません。
また、公的年金以外の所得が多く、年金形式で受け取ると税率が高くなる場合は、一時金の方が有利になることが考えられます。自身の具体的な数字を当てはめて試算することが不可欠です。
一時金と年金の「併用」という選択肢
企業年金の受け取り方として、実は「一時金と年金の併用」という賢い選択肢も存在します。
これは、退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取る方法です。この場合、一時金として受け取る部分は退職所得として、年金として受け取る部分は雑所得として税金が計算されます。
この併用方式の最大のメリットは、退職所得控除を最大限に活用しつつ、年金収入による税負担や社会保険料の増加を抑えることができる点にあります。
例えば、退職所得控除額の範囲内で一時金を受け取り、残りの部分を年金として分散して受け取ることで、全体の税金や社会保険料を最適化し、結果として手取り額を増やすことが期待できます。
併用が可能かどうかは、各企業の年金規約によって異なりますので、必ず事前に確認するようにしましょう。
企業年金受け取りに関する注意点:遺族や打ち切り、口座変更について
万一の場合の遺族への影響
企業年金を受け取っている方が万一亡くなった場合、その企業年金がどうなるのかは、受け取り方や制度の種類によって異なります。
一時金で受け取り済みの場合は、その資金はすでに個人の資産となっており、相続財産として扱われるのが一般的です。相続税の対象となり、遺産分割協議の対象となります。
一方、年金形式で受け取り中に亡くなった場合、残りの年金が遺族に支払われるかどうかは、その企業の年金制度(特に確定給付企業年金や厚生年金基金など)の規約によります。
多くの場合、遺族が一定の要件を満たせば「遺族年金」として引き続き受け取れるか、あるいは一時金として残りの金額が支払われる制度設計になっています。しかし、全ての制度で遺族への支給が保証されているわけではないため、事前に規約を確認しておくことが重要です。
企業年金の「打ち切り」や「減額」のリスク
企業年金、特に確定給付企業年金(DB)は、企業が運用リスクを負う制度です。
原則として約束された給付額が保証されますが、運営している企業の財政状況が著しく悪化したり、制度全体が破綻したりするような事態が発生した場合には、年金が減額されたり、最悪の場合、一部が打ち切られたりするリスクもゼロではありません。
ただし、日本では「企業年金基金」や「企業年金連合会」といった制度で保護されており、直ちに年金が全く受け取れなくなるという事態は稀です。
確定拠出企業年金(DC)の場合は、個人の運用成績によって年金額が変動するため、市場の状況によっては期待通りの金額にならない可能性もあります。将来的なリスクに備えるためにも、自身の年金制度がどのような仕組みで保証されているのかを理解しておくことが大切です。
受取口座の指定と変更手続き
企業年金を滞りなく受け取るためには、正確な受取口座情報の指定が不可欠です。
年金の初回支給時や、定期的な支払いが発生する際に、指定された金融機関口座に振り込まれます。そのため、口座情報に誤りがあったり、口座が解約されていたりすると、年金の受け取りが遅れたり、場合によっては停止してしまうこともあります。
特に、引越しなどで金融機関を変更したり、合併などで支店名が変わったりした際には、速やかに企業年金の運営元(会社の人事担当部署や、企業年金基金など)に連絡し、口座変更の手続きを行う必要があります。
手続き方法は各制度によって異なりますが、一般的には所定の変更届に必要事項を記入し、本人確認書類などとともに提出することになります。定期的に口座情報を確認し、変更がないかチェックする習慣をつけることが賢明です。
企業年金の受け取り頻度とタイミング:あなたに合った方法は?
いつ受け取るのが最適か:タイミングの重要性
企業年金の受け取り開始時期は、多くの場合、退職時や定年退職後すぐに設定されますが、制度によっては受給開始時期を遅らせる「繰り下げ」や、早く受け取る「繰り上げ」が可能な場合があります。
受給開始のタイミングは、その後の手取り額や生活設計に大きく影響します。例えば、公的年金(老齢厚生年金・老齢基礎年金)の受給開始年齢との兼ね合いが重要です。
公的年金を繰り下げて受け取る予定であれば、その間の生活費を企業年金で賄うなど、総合的な資金計画を立てる必要があります。また、退職後の再雇用や再就職によって他の収入がある場合は、企業年金を早く受け取ると税負担が増える可能性があるため、慎重な検討が求められます。
税制優遇措置を最大限に活用するためにも、ご自身の所得状況やライフプランを考慮し、最適なタイミングを見極めることが大切です。
年金の受け取り頻度:月払い?年払い?
年金形式で企業年金を受け取る場合、その「受け取り頻度」も選択肢の一つとなることがあります。
一般的には、毎月の生活費として安定的に受け取れる「月払い」が主流ですが、制度によっては「隔月払い」や「年2回払い」「年1回払い」などが選択できる場合もあります。
月払いは、日々の家計管理がしやすく、生活費のペースを掴みやすいというメリットがあります。一方、年払いや年2回払いでは、一度にまとまった金額が入ってくるため、大きな支出への備えや、計画的な貯蓄・投資に回しやすいという考え方もできます。
ご自身のライフスタイルや、公的年金などの他の収入の入金サイクルに合わせて、最も管理しやすい頻度を選択することが、ストレスなく老後生活を送るためのカギとなります。
自分に合った受け取り方を見つけるためのステップ
企業年金の最適な受け取り方は、十人十色です。自分にとって最も有利な選択をするためには、以下のステップを踏むことをお勧めします。
- 会社の就業規則・年金規約の確認: まずは、ご自身の会社の企業年金制度がどのような仕組みになっており、一時金と年金の選択肢があるのか、併用は可能か、受給開始時期の選択肢はどうかなどを詳しく確認しましょう。
- 自身のライフプランの明確化: 退職後の生活で、どれくらいの費用が必要か、どのような支出を予定しているか、他の貯蓄や投資の状況はどうかなどを具体的に書き出してみましょう。
- 税金・社会保険料のシミュレーション: 一時金で受け取った場合と年金で受け取った場合、それぞれの手取り額がどのように変わるのか、大まかな試算をしてみることが重要です。
- 専門家への相談: 複雑な税制やライフプランの設計については、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをお勧めします。客観的な視点から、あなたに最適なアドバイスをもらえるでしょう。
企業年金は、長年の勤労の結晶です。後悔のない選択をするためにも、時間をかけてじっくりと検討し、納得のいく受け取り方を選んでください。
まとめ
よくある質問
Q: 企業年金の一時金と年金、どちらが一般的に有利ですか?
A: 一般的に、一時金として受け取る場合は、一度にまとまった資金が得られるメリットがありますが、税金や運用によっては年金形式の方が長期的に見て有利になる場合もあります。個々の状況によりますので、シミュレーションが重要です。
Q: 企業年金の一時金として受け取れる金額はどのように計算されますか?
A: 一時金の金額は、企業年金の制度内容、加入期間、掛金、運用状況などによって異なります。具体的な計算方法は各制度の規約や担当部署にご確認ください。
Q: 企業年金を受け取る前に亡くなった場合、遺族はどのように受け取れますか?
A: 企業年金は、加入者が亡くなった場合、遺族に遺族給付金として支払われる制度があります。遺族年金として受け取れる場合や、一時金として一時金として受け取れる場合など、制度によって異なります。詳細は企業年金規約をご確認ください。
Q: 企業年金が途中で打ち切りになることはありますか?
A: 原則として、企業年金は加入期間や年齢に応じて給付されるものですが、会社の経営状況の悪化や制度の変更など、例外的なケースで打ち切りや減額となる可能性がないとは言えません。加入している制度の規約をよく確認しておくことが大切です。
Q: 企業年金の受け取り口座を変更することは可能ですか?
A: はい、企業年金の受け取り口座は原則として変更可能です。ただし、変更手続きには一定の期間がかかる場合や、変更できるタイミングが限られていることもありますので、早めに担当部署にご確認いただくことをお勧めします。