老後の生活設計を考える上で、公的年金と並んで重要な柱となるのが「企業年金」です。

会社員として働いていれば、いつの間にか加入していることも多い企業年金ですが、一体いくらくらいもらえるのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。

受給額は加入期間によって大きく変動するため、今回は10年、20年、30年といった期間別に、企業年金の受給額の目安や、金額を増やすためのポイントを解説します。

ご自身の老後資金計画の参考にしてみてください。

  1. 企業年金の加入期間と受給額の目安
    1. 企業年金とは? 公的年金との違い
    2. 主な企業年金の種類と特徴
    3. 受給額に影響を与える主要な要因
  2. 10年加入した場合の企業年金受給額
    1. 10年加入の企業年金、現実的な受給額は?
    2. 短期加入で受給額が少なくなる理由
    3. 10年加入者が受給額を増やすには?
  3. 20年加入した場合の企業年金受給額
    1. 20年加入で期待できる企業年金受給額の目安
    2. 20年加入がもたらす受給額へのプラス効果
    3. 20年加入時の賢い受け取り方と注意点
  4. 30年・40年加入した場合の企業年金受給額
    1. 30年・40年加入:定年まで勤め上げた場合の恩恵
    2. 長期加入が受給額に与える絶大な影響
    3. 長期加入者が最大限に受給額を活用する戦略
  5. 企業年金の受給額を増やすためにできること
    1. 今の企業年金制度を理解する
    2. 企業年金の拠出額を増やす工夫
    3. 運用と受給開始タイミングを最適化する
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 企業年金に10年加入した場合、いくらくらい受け取れますか?
    2. Q: 企業年金に15年加入した場合、受給額は10年加入した場合と比べてどれくらい増えますか?
    3. Q: 企業年金に20年以上加入すると、受給額は大きく変わりますか?
    4. Q: 企業年金で1000万円を目指すことは可能ですか?
    5. Q: 企業年金に30年や40年といった長期で加入した場合、受給額はどのくらいになりますか?

企業年金の加入期間と受給額の目安

企業年金とは? 公的年金との違い

企業年金は、国の公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せされる形で、企業が従業員の老後の資産形成を支援するために設ける私的年金制度です。

公的年金が国によって制度設計され全国民が加入するのに対し、企業年金は各企業が独自に制度を導入し、加入対象となる従業員が加入します。

そのため、受給額は加入している制度の種類、企業の規定、拠出額、勤続年数などによって大きく異なります。

老後の生活資金を考える上で、公的年金だけでは不足する部分を補う重要な役割を担っており、計画的な老後資金準備には欠かせない存在と言えるでしょう。

主な企業年金の種類と特徴

現在、企業年金には主に以下の2種類があります。それぞれの特徴と平均受給額を知っておきましょう。

1. 確定給付企業年金(DB)

企業が掛け金を負担し、資産の運用も行います。将来受け取れる給付額が、あらかじめ規約で定められているのが特徴です。

運用結果に関わらず約束された額が支給されるため、将来の計画が立てやすいというメリットがあります。

参考情報によると、DB全体の老齢給付金の平均受給額(年額)は62万円です。内訳を見ると、基金型DBが平均58.3万円、規約型DBが平均95.2万円となっています。

2. 企業型確定拠出年金(DC)

企業が掛け金を拠出しますが、その掛け金をどのような金融商品で運用するかは、加入者自身が選択し運用します。

運用成績によって将来の受給額が変動するため、自己責任の要素が強い制度です。

しかし、運用がうまくいけばDBよりも多くの給付を受けられる可能性があります。

2021年3月末時点での老齢給付金の一件あたりの平均受給額は、年金で受け取る場合は68万円、一時金で受け取る場合は464万円となっています。

企業年金の種類 主な特徴 老齢給付金の平均受給額(年額)
確定給付企業年金(DB) 企業が運用、給付額が確定 62万円(基金型58.3万円、規約型95.2万円)
企業型確定拠出年金(DC) 加入者が運用、給付額は変動 68万円(年金の場合)、464万円(一時金の場合)

※厚生年金基金は現在新規加入ができず、実質廃止の方向に向かっています。

受給額に影響を与える主要な要因

企業年金の受給額は、一律ではありません。様々な要因が複雑に絡み合い、最終的な金額が決定されます。

特に重要な要因は以下の通りです。

  • 加入期間(勤続年数): 企業年金制度への加入期間が長いほど、企業からの拠出金が積み上がり、運用期間も長くなるため、受給額は多くなる傾向があります。今回のブログのテーマでもあり、最も重要な要素の一つです。
  • 掛金(拠出額): 企業が拠出する掛金の額が多いほど、将来の受給額は増えます。企業型DCの場合、自身で上乗せ拠出(マッチング拠出)ができる制度もあります。
  • 給与水準: 確定給付企業年金(DB)の場合、退職時の給与水準や平均給与に応じて給付額が計算されることが多いため、給与が高いほど年金額も高くなる可能性があります。
  • 企業年金の種類: DBかDCかによって、受給額の計算方法や変動要因が根本的に異なります。
  • 運用実績(企業型DCの場合): 企業型DCでは、加入者自身が選択した金融商品の運用成績が受給額に直結します。市場の状況や選択によって大きく変動します。
  • 受給開始年齢: 受給開始年齢を遅らせることで、年金額が増額される「繰り下げ受給」の選択肢がある場合もあります。公的年金と同様に、この選択も重要です。
  • 予定利率: 確定給付企業年金の設計によっては、年金の積立金がどのくらいの利回りで運用されるかを示す「予定利率」が、受給額に影響を与えることがあります。

これらの要因を理解し、自身の企業年金制度について確認することが、賢い老後資金計画の第一歩となります。

10年加入した場合の企業年金受給額

10年加入の企業年金、現実的な受給額は?

企業年金に10年間加入した場合、一般的に受給できる金額は、残念ながらそれほど大きな額にはならないことが多いでしょう。

特に確定給付企業年金(DB)の場合、勤続年数が給付額の計算に大きく影響するため、10年という期間ではまとまった年金原資が形成されにくい傾向にあります。

例えば、参考情報にある「1,000万円の年金原資があった場合、10年で受け取る場合:年間約100万円 +α(金利)」という試算がありますが、そもそも10年の加入期間で年金原資が1,000万円に達するケースは稀かもしれません。

企業型確定拠出年金(DC)の場合も、10年では拠出総額が限られ、運用期間も短いため、複利効果が十分に発揮されにくいという側面があります。

したがって、10年加入で期待できる年金としての受給額は、数万円から数十万円程度/年となるのが現実的な目安となるでしょう。

短期加入で受給額が少なくなる理由

企業年金の加入期間が短いと、受給額が少なくなる理由はいくつかあります。

まず、企業からの拠出総額が少なくなります。年金は毎月の積み立てによって形成されるため、加入期間が短ければ短いほど、積み立てられる金額は少なくなります。

次に、運用期間が短いという点です。特に企業型確定拠出年金(DC)では、運用益が受給額に直結します。運用期間が短いと、市場の変動リスクを吸収しにくく、複利効果による資産増大の恩恵を十分に受けられません。

さらに、確定給付企業年金(DB)の場合、制度設計上、ある程度の長期加入を前提としていることが多く、勤続年数が短いと給付乗率が低く設定されたり、一時金での受け取りが主になるなど、年金としてのメリットを享受しにくい場合があります。

このように、短期加入は「積み立て不足」と「運用期間不足」という二重のハンディキャップを負うことになります。

10年加入者が受給額を増やすには?

もし企業年金の加入期間が10年程度で、受給額を増やしたいと考えるならば、いくつかの対策を講じることができます。

最も有効なのは、転職先の企業年金への移換(ポータビリティ)を利用することです。

前の職場で積み立てた企業年金の資産を、新しい職場の企業年金制度(企業型DCやiDeCo)に持ち運ぶことで、加入期間を途切れさせずに運用を継続し、資産をさらに増やせる可能性があります。

また、iDeCo(個人型確定拠出年金)を活用し、ご自身で老後資金を積み増すことも非常に有効です。

iDeCoは税制優遇が大きく、積み立てた全額が所得控除の対象となるため、節税しながら資産形成を進めることができます。

企業型DCの場合、運用期間が短い分、ご自身のリスク許容度に応じて積極的に運用を行う選択肢も検討できます。ただし、リスクとリターンは常に表裏一体であることを理解しておく必要があります。

10年加入の場合、受給額が少額であれば一時金として受け取り、その資金をNISAやつみたてNISAなどの非課税制度を活用して、ご自身で運用し直すことも一つの方法です。

20年加入した場合の企業年金受給額

20年加入で期待できる企業年金受給額の目安

企業年金に20年間加入した場合、10年加入と比較して、期待できる受給額は大きく増えます。

会社員として中堅以上のキャリアを積んだ期間に相当するため、企業からの拠出額もそれなりに積み上がり、運用期間も長くなるためです。

確定給付企業年金(DB)の場合、平均的な給与水準で20年勤続すれば、年間の受給額が数十万円程度になることが期待できます。

参考情報のDB全体の老齢給付金の平均受給額(年額62万円)と比較しても、この期間の加入が平均額に近づく、あるいはそれを超える可能性も出てくるでしょう。

企業型確定拠出年金(DC)の場合も、20年間の運用期間があれば、市場の変動を乗り越え、複利効果による資産形成がより期待できるようになります

加入者の運用成績次第ではありますが、年間数十万円、または一時金として数百万円規模の給付を期待できる水準になってくるでしょう。

20年加入がもたらす受給額へのプラス効果

20年という加入期間は、企業年金の受給額にとって様々なプラスの効果をもたらします。

まず、最も大きな効果は「拠出総額の増加」です。

勤続年数が倍になることで、企業からの拠出額が大幅に増え、年金原資そのものが大きくなります。

次に、企業型確定拠出年金(DC)において重要なのが「運用期間の伸長」です。

運用期間が長くなることで、市場の短期的な変動に一喜一憂することなく、長期的な視点での資産形成が可能になります。

複利効果は、運用期間が長ければ長いほど雪だるま式に資産を増やしていくため、20年という期間は、この効果を実感し始めるのに十分な長さと言えるでしょう。

確定給付企業年金(DB)の場合も、制度設計上、長期加入者に有利な計算式が適用されたり、勤続年数に応じた積算率が高くなるなど、長く働くほどメリットが大きくなる仕組みが一般的です。

20年加入時の賢い受け取り方と注意点

20年加入でまとまった金額が期待できるようになるからこそ、受け取り方の選択が非常に重要になります。

企業年金は、一般的に「一時金」として一括で受け取るか、「年金」として分割して受け取るか、あるいはその両方を組み合わせるかを選べます。

一時金は退職所得控除の対象となり税制優遇がありますが、その後の資金管理は自己責任です。

年金形式は公的年金等控除の対象となり、計画的に受け取れますが、受け取り期間が長すぎると年間受給額は少なくなります。

例えば、参考情報にあるように「1,000万円の年金原資があった場合、終身で受け取る場合:年間の受給額は少なくなるが、長生きすればするほど総受給額は大きくなる」といった選択肢も考慮し、ご自身の平均寿命や老後の生活設計に合わせて検討することが重要です。

また、受給開始年齢の選択も大切です。

一般的に60歳や65歳から受給開始となりますが、受給開始を遅らせる「繰り下げ受給」を選択することで、年金額が増額される制度もあります。

税制優遇を最大限に活用しつつ、自身のライフプランに合った最適な受け取り方を検討しましょう。

30年・40年加入した場合の企業年金受給額

30年・40年加入:定年まで勤め上げた場合の恩恵

企業年金に30年、あるいは40年と、ほぼ定年まで勤め上げた場合の加入期間は、企業年金制度の恩恵を最大限に受けられる期間と言えます。

この期間まで加入していれば、確定給付企業年金(DB)であれば、相当まとまった年金原資が形成され、公的年金に加えて老後の生活をしっかりと支える収入源となるでしょう。

参考情報のDB平均受給額(年額62万円)を大きく上回る金額になることも十分に期待できます。

企業型確定拠出年金(DC)においても、30年、40年という超長期の運用期間は、複利効果を極大化させ、運用次第では非常に大きな資産を築ける可能性を秘めています。

市場の波を乗り越え、雪だるま式に資産が増えていく効果を存分に享受できるでしょう。

まさに、老後の安心を盤石にするための期間と言えます。

長期加入が受給額に与える絶大な影響

30年・40年といった長期にわたる企業年金への加入は、受給額に絶大な影響を与えます。

まず、最も顕著なのは「拠出額の最大化」です。

長期間にわたり企業からの拠出が続くため、年金原資の総額が非常に大きくなります。

次に、企業型確定拠出年金(DC)においては「複利効果の極大化」が挙げられます。

短期間では実感しにくい複利の効果も、30年・40年といったスパンで見れば、運用益がさらに運用益を生み、資産を劇的に増やします。

これは「アインシュタインが人類最大の発明」と呼んだとも言われる、資産形成における強力な味方です。

確定給付企業年金(DB)の場合も、長期加入者に対しては、より手厚い給付計算が行われたり、勤続年数に応じた積算率が最高水準に達するなど、制度上のメリットが最大化されます。

このように、長期加入は、企業年金が本来持つ「老後を豊かにする」という目的を最も効率的に達成するための鍵となります。

長期加入者が最大限に受給額を活用する戦略

30年・40年と長く企業年金に加入した方は、受け取れる年金原資も大きくなるため、その活用戦略はより重要になります。

まず、受け取り方法(年金か一時金か、期間設定)の選択肢を、自身の退職後のライフプランや他の金融資産とのバランスを考慮し、慎重に検討することが重要です。

多額の資産を受け取るため、一時金であれば退職所得控除、年金であれば公的年金等控除を最大限に活用し、税制優遇を受けられるように計算しましょう。

また、公的年金の受給開始年齢である65歳以降に企業年金も受け取り始めることで、公的年金と合わせて安定した収入源を確保することができます。

さらに、企業型確定拠出年金(DC)の場合、制度によっては受け取り開始後も運用を継続できるケースがあります。

全額を一度に取り崩すのではなく、計画的に運用を続けながら受け取ることで、寿命が延びた場合のリスクにも対応できるでしょう。

税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、ご自身の状況に合わせた最適な戦略を立てることをお勧めします。

企業年金の受給額を増やすためにできること

今の企業年金制度を理解する

企業年金の受給額を増やすための第一歩は、ご自身が加入している企業年金制度を正確に理解することです。

あなたの勤務先が確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)のどちらを導入しているのか、あるいは両方なのかを確認しましょう。

制度の種類によって、年金額の計算方法、拠出限度額、運用選択肢などが大きく異なります。

まずは、勤務先の人事部や総務部に問い合わせるのが最も確実な方法です。

また、多くの企業年金制度では、ウェブサイト上で受給額を試算できるシミュレーションツールを提供しています。

これらを活用して、ご自身の現在の加入状況で将来どれくらいの年金が受け取れるのか、具体的な目安を把握しましょう。

制度の理解を深めることで、次の一手が見えてきます。

企業年金の拠出額を増やす工夫

企業年金の受給額を増やす最も直接的な方法は、拠出額を増やすことです。

もしあなたの勤務先が企業型確定拠出年金(DC)を導入しており、マッチング拠出制度があるならば、ぜひ活用を検討してみてください。

マッチング拠出とは、企業が拠出する掛金に加えて、加入者自身が任意で掛金を上乗せして拠出できる制度です。

拠出した掛金は全額が所得控除の対象となり、所得税や住民税の負担が軽減されるという大きな税制優遇があります。

これにより、手取りを減らさずに効率的に老後資金を積み増すことが可能です。

また、確定給付企業年金(DB)の場合は、給与水準が年金額に影響することが多いため、スキルアップや昇進を通じて給与を上げる努力をすることが、間接的に受給額増加につながる可能性があります。

運用と受給開始タイミングを最適化する

企業型確定拠出年金(DC)の場合、受給額を増やす上で、運用商品の選択は非常に重要です。

ご自身のリスク許容度に応じて、適切な国内外の株式、債券、不動産投資信託(REIT)などのバランスを考えたポートフォリオを構築し、定期的に見直しを行いましょう。

相場状況に応じて、運用商品を入れ替える「スイッチング」や、今後の掛金の配分を変える「配分変更」を積極的に活用することも有効です。

また、受給開始タイミングの最適化も重要です。

一般的に、受給開始年齢を遅らせる「繰り下げ受給」を選択することで、年金額が増額される制度が多くあります。

参考情報にもあるように、「受給開始年齢を遅らせることで、年金額が増額されることもあります」。

公的年金の繰り下げ受給と合わせて、企業年金の受け取り方も、ご自身の健康状態や他の資産状況を考慮し、最もメリットの大きい形を検討しましょう。