【企業年金】加入者が死亡した場合の受け取り方と手続き

企業年金に加入していた方がお亡くなりになった場合、残されたご遺族は様々な手続きに追われることになります。その中でも、企業年金に関する給付金の受け取り方は、公的年金とは異なる複雑さを持つため、戸惑う方も少なくありません。

この記事では、企業年金の死亡時給付金について、遺族が知っておくべき手続きの流れ、必要書類、税金の取り扱い、そして注意点などを、わかりやすく解説していきます。いざという時に慌てないよう、ぜひ参考にしてください。

企業年金加入者が亡くなった場合、遺族はどうすればいい?

企業年金とは何か?その特徴を理解する

企業年金とは、企業が従業員のために国の公的年金に上乗せして設ける私的な年金制度です。主な種類として、会社が運用リスクを負う「確定給付年金(DB)」と、従業員自身が運用指図を行う「確定拠出年金(DC)」があります。

死亡時の給付は、これらの年金制度の種類や、故人が加入していた制度の規約によって大きく異なります。まずは、故人がどの種類の企業年金に加入していたかを確認することが第一歩となります。

亡くなった際の連絡先と初動対応

企業年金加入者が亡くなった場合、まずは故人の勤務先の人事・総務部門、または直接加入していた企業年金基金や年金管理機関(例:企業年金連合会、三井住友信託銀行など)に速やかに連絡を入れる必要があります。

特に確定拠出年金の場合、死亡一時金の請求期限は「相続開始後5年間」と法律で定められています。連絡が遅れると、年金が過払いとなって遺族が返金しなければならないケースや、給付金を受け取れなくなる可能性もあるため、早めの連絡が肝心です。

遺族が受け取れる給付金の種類

企業年金の加入者が亡くなった際に遺族が受け取れる給付金には、主に「遺族一時金」と「遺族年金」の2種類があります。

  • 遺族一時金:年金受給開始前や、保証期間付きの年金で保証期間中に亡くなった場合に、遺族に一時金として支給されます。年金形式で受け取ることはできません。
  • 遺族年金:遺族が年金形式で受け取れる場合もありますが、多くは年金受給者が亡くなった時点で年金の支給が打ち切られ、残額が一時金として次順位の遺族に支払われるケースが多いです。

遺族給付金を受け取ることができる遺族の範囲と順位は、各企業年金制度によって定められており、一般的には配偶者、子、父母などの順で支給されます。

死亡一時金とは?企業年金の種類による違い

企業年金における「死亡一時金」の定義

企業年金における死亡一時金とは、企業年金加入者が死亡した際に、その遺族に対して一時金として支払われる給付金のことです。

これは主に、年金受給開始前に亡くなった場合や、年金受給開始後でも保証期間中に亡くなった場合に適用されます。公的年金制度の「遺族年金」や「死亡一時金」とは異なり、企業年金独自の規定に基づいた給付である点を理解しておくことが重要です。

確定給付年金(DB)の場合

確定給付年金(DB)における死亡一時金の給付額は、加入していた制度の規約によって詳細が異なります。一般的には、故人の勤続年数や退職時の給与水準などに基づき、あらかじめ定められた計算式によって算出されます。

DB制度は企業が運用リスクを負うため、個人の運用状況に左右されることはありません。遺族への給付も、一時金として支払われるか、残存期間の年金として支払われるかなど、制度によって多様な形があります。

確定拠出年金(DC)の場合

確定拠出年金(DC)における死亡一時金(正式には「死亡一時金」と呼ばれることが多い)は、故人が積み立てた掛金と、その運用によって得られた収益の合計額が原則となります。

遺族は、この運用資産を一時金として受け取ることになります。DC制度は加入者自身が運用指図を行うため、運用成果によって死亡一時金の金額は変動します。請求期限は相続開始後5年間と明確に定められているため、期限内の手続きが必須です。

企業年金死亡時の必要書類と手続きの流れ

必要な書類を事前に準備する

企業年金死亡時の手続きには、複数の書類が必要となります。主なものは以下の通りです。

  • 故人の死亡診断書(または死体検案書)
  • 遺族関係を確認するための戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)
  • 遺族の住民票
  • 場合によっては遺族の収入証明書

これらの書類は、取得に時間がかかるものもあるため、早めに準備を始めることが手続きをスムーズに進める鍵となります。企業年金基金から送付される請求案内で、具体的な必要書類を確認しましょう。

手続きの具体的なステップ

企業年金死亡時の手続きは、一般的に以下の流れで進められます。

  1. 故人の勤務先または企業年金基金への連絡:死亡の事実と企業年金加入の旨を伝えます。
  2. 請求書類の受領:「年金受給権者死亡届」などの請求書類一式が送付されます。
  3. 書類の記入・添付:送付された書類に必要事項を記入し、上記で準備した必要書類を添付します。
  4. 書類の返送:指定された期日までに基金等へ返送します。
  5. 審査・給付金受け取り:基金での審査後、指定口座に給付金が振り込まれます。

複数の企業年金に加入していた場合は、それぞれの基金に個別の手続きが必要となるため、注意が必要です。

手続きにおける注意点とトラブル回避策

手続きを進める上で最も重要なのが、請求期限の厳守です。特に確定拠出年金の死亡一時金は、相続開始後5年という期限があります。この期限を過ぎると、給付金を受け取る権利を失う可能性があります。

また、連絡が遅れると、すでに故人に支払われていた年金が過払いとなり、遺族が返還を求められるケースも発生します。書類の不備も手続きの遅延に繋がるため、提出前には必ず内容を確認しましょう。遺族間で意見の相違がある場合は、専門家への相談も検討してください。

企業年金死亡一時金はいくら?相続税はかかる?

給付金額の決定要因

企業年金死亡一時金の金額は、加入していた企業年金制度の種類によって大きく異なります。

  • 確定給付年金(DB):故人の勤続年数や退職時の給与水準、そして制度の規約で定められた計算式に基づいて算出されます。企業年金基金に問い合わせることで、具体的な金額の見込みを知ることができます。
  • 確定拠出年金(DC):故人が積み立てた掛金と、その運用益の合計額がそのまま給付額となります。運用状況によって金額が変動するため、口座の残高を確認することが重要です。

死亡一時金にかかる税金の種類と非課税枠

企業年金の死亡一時金は、税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。

ただし、死亡退職金と同様に「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠が適用される場合があります。この非課税枠は、相続財産から差し引くことができるため、相続税額を軽減する効果があります。しかし、年金受給権そのものを相続する形になる場合など、この非課税枠が適用されないケースもあるため、個別の状況に応じた確認が必要です。

また、死亡した月までの未支給年金で、受給者に支払われていなかった部分は、遺族の一時所得として所得税の課税対象となる場合があります。

準確定申告と相続税申告の必要性

故人が亡くなった年の所得については、遺族が代わって「準確定申告」を行う必要があります。これは、故人の死亡日から4か月以内に行う義務があります。

企業年金の死亡一時金を含む相続財産の合計額が、相続税の基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)を超える場合は、相続税申告も必要となります。これらの税務手続きは複雑なため、税理士に相談して適切な申告を行うことを強くお勧めします。

遺族が知っておきたい企業年金に関する注意点

遺族年金と公的年金との違い

企業年金から支給される遺族給付金(一時金を含む)は、国の制度である国民年金や厚生年金の遺族年金とは異なる私的年金制度です。公的年金の遺族年金は原則として非課税ですが、企業年金の死亡一時金は多くの場合、相続税の課税対象となる点が大きな違いです。

それぞれの制度で手続きや税務上の取り扱いが異なるため、混同しないように注意し、故人が加入していた制度ごとに正確な情報を確認することが重要です。

時効・請求期限と過払い金

企業年金に関する手続きには、請求期限が設けられています。特に確定拠出年金(DC)の死亡一時金の請求期限は「相続開始後5年間」と明確に定められており、この期間を過ぎると給付金を受け取れなくなる可能性があります。

また、手続きが遅れると、すでに故人に支払われていた年金が過払いとして認識され、遺族がその過払い金を返還しなければならない事態に陥ることもあります。このようなトラブルを避けるためにも、できるだけ速やかに手続きを開始することが大切です。

専門家への相談の重要性

企業年金制度は多岐にわたり、個々の制度や加入状況によって給付内容、必要書類、そして税務上の取り扱いが非常に複雑です。遺族の方がご自身だけで全てを正確に把握し、手続きを進めるのは容易ではありません。

不明な点や不安な点がある場合は、遠慮なく故人の勤務先の人事・総務部門加入していた企業年金基金、または税理士ファイナンシャルプランナーといった専門家に相談しましょう。適切なアドバイスを受けることで、スムーズに手続きを進め、遺族の負担を軽減することができます。