企業年金とは?基本を理解しよう

企業年金の役割と種類

企業年金は、公的年金(国民年金や厚生年金)に上乗せされる形で、社員の皆さんの老後生活をより豊かにするための重要な制度です。これは、企業が従業員の福利厚生として導入する私的年金制度であり、老後の生活保障を厚くする役割を担っています。

主な企業年金の種類としては、大きく分けて「確定給付企業年金(DB)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の二つがあります。DBは将来の給付額があらかじめ約束されているのに対し、DCは拠出された掛金を従業員自身が運用し、その運用成果によって将来の給付額が決まるという特徴があります。

どちらの制度に加入しているか、またどのような規約が適用されるかは、皆さんがお勤めの会社によって大きく異なります。かつては「厚生年金基金」という制度もありましたが、これは2014年4月以降新規加入ができなくなり、実質廃止の方向へと進んでいます。

公的年金との違いと上乗せのメリット

公的年金は、日本に住む全ての人が加入する義務のある「国民年金」と、会社員・公務員が加入する「厚生年金」から成り立っています。これらは国が運営する社会保障制度であり、老齢だけでなく、障害や遺族に対しても給付を行う、まさに生活の基盤となる保障です。

一方、企業年金は公的年金に加えて、さらに手厚い保障を提供するために企業が独自に設ける制度です。公的年金だけでは不安が残る老後の生活設計において、企業年金は「もう一段階上の安心」を提供してくれます。

例えば、公的年金では賄いきれない医療費や趣味の費用など、ゆとりのある老後を送るための資金として、企業年金は非常に有効です。企業年金に加入していることで、公的年金だけでは得られない上乗せの給付が期待できるため、将来設計において大きなメリットとなります。

企業年金制度の現状

前述の通り、厚生年金基金は2014年4月以降新規加入ができず、実質的に廃止の方向に向かっています。解散等で制度変更された企業の場合、それまでの年金が一時金形式で支払われるケースも少なくありません。このような制度変更は、皆さんの老後資金計画に直接影響を与える可能性があるため、注意が必要です。

また、現代は転職が当たり前の時代ですが、企業年金には「企業年金通算制度(ポータビリティ制度)」が整備されており、転職してもそれまでの加入期間や給付金を通算できる場合があります。これにより、勤務先が変わってもそれまでの年金資産が無駄にならず、老後資金形成を継続できるという利点があります。

年金制度は常に変化しており、例えば2025年6月13日には年金制度改正法が成立し、一部の規定が見直されています。ご自身の企業年金制度については、会社の担当部署や企業年金基金のウェブサイトで、常に最新の情報を確認することが非常に重要です。

企業年金の受給期間:いつまで受け取れる?

終身年金と確定年金の違い

企業年金の受給期間は、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは「終身年金」で、文字通り一生涯にわたって年金を受け取れる形式です。もう一つは「確定年金」で、こちらは「10年間」「20年間」といったように、一定の期間だけ年金を受け取る形式となります。

終身年金は長生きのリスクに備えることができ、死ぬまで収入が途絶えない安心感があります。ただし、途中で亡くなった場合に未受給分が消滅する可能性もあります(保証期間がある場合を除く)。

一方、確定年金は受給期間が明確なため、期間中の生活設計が立てやすいというメリットがあります。受給期間が満了すれば年金給付は終了しますが、その分、月々の受給額が終身年金よりも高くなる傾向があります。ご自身のライフプランや健康状態に合わせて、どちらの形式が適しているかを検討することが重要です。

確定給付企業年金(DB)の受給期間

確定給付企業年金(DB)は、一般的に60歳以降に受給権が発生し、年金または一時金で受け取ることが可能です。DBにおける年金形式では、「終身年金(20年保証期間つき)」が広く採用されています。

この「20年保証期間つき」とは、年金受給を開始した後20年以内に年金受給者が亡くなった場合、残りの期間に応じた給付金が一時金として遺族に支払われることを意味します。これにより、受給開始直後に万が一のことがあっても、一定の保障が遺族に残る仕組みになっています。

具体的な受給例として、例えば35年間DBに加入し、60歳で受給を開始するケースでは、15年間(75歳まで)年金形式で受け取り、その後は保証期間が終了するといったパターンがあります。また、年金と一時金の割合を25%刻みで選択できる制度もあり、柔軟な受け取り方が可能です。

企業型確定拠出年金(企業型DC)の受給期間

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、積み立てた資産を運用し、その成果に応じて将来の給付額が決まる制度です。受給時には、積み立てた資産を取り崩していく「有期年金」の形式が原則となります。

DCにおける受給期間は、一般的に5年以上20年以下の範囲(1年刻み)で選択することが可能です。例えば、退職後にまとまった期間で資金を受け取りたい場合は5年間を選択したり、より長く生活資金として取り崩したい場合は20年間を選択したりできます。

ただし、この選択可能期間も企業の規約によって異なる場合があるため、ご自身の加入している制度の規定をしっかりと確認する必要があります。DCは運用次第で給付額が変動するため、受給期間だけでなく、日々の運用状況にも目を向けておくことが大切です。

遺族年金との関係:企業年金は遺族にも支払われる?

企業年金における遺族給付の条件

年金受給者が亡くなった場合、その遺族に遺族給付金が支給されることがあります。これは、年金として支払われている期間内に死亡した場合に適用されるのが一般的です。

特に確定給付企業年金(DB)の「20年保証期間つき」の年金を受給している方が、保証期間内(受給開始から20年以内)に亡くなった際には、遺族に残りの期間に応じた給付金が一時金として支給されます。この仕組みは、年金受給者が早世した場合でも遺族に一定の経済的支援がされるように設計されています。

また、年金受給者になる前の「加入者」であった方が亡くなった場合でも、加入者期間が3年以上あれば、遺族に一時金として支払われるケースもあります。これは制度の種類や企業の規約によって異なりますので、確認が必要です。

公的年金と企業年金の遺族年金

遺族年金には、国が運営する公的年金制度に基づくものと、企業年金制度に基づくものがあります。公的年金には、基礎年金に上乗せされる「遺族基礎年金」と、会社員・公務員が加入する厚生年金に上乗せされる「遺族厚生年金」が存在します。

これに対し、企業年金における遺族への給付は、基本的には年金受給者の死亡時に残された年金資産や、保証期間内の未払い分を一時金として支払う形が主流です。参考情報にもある通り、企業年金連合会老齢年金のように、独自の遺族年金制度を持たないケースもありますので、公的年金とは性質が異なる点を理解しておくことが重要です。

公的年金の遺族年金が「遺族の生活保障」を目的とするのに対し、企業年金の遺族給付は「故人の残した年金資産の清算」という側面が強いと言えるでしょう。両者の違いを把握し、遺族給付がどのように受けられるのかを確認することが肝要です。

遺族給付金の計算方法と将来の動向

企業年金における遺族給付金の額は、亡くなった時点の状況によって計算方法が異なります。例えば、企業型確定拠出年金(DC)の場合は、死亡時の「仮想個人勘定残高」、つまり積み立てて運用していた資産の残高が遺族に支払われます。

確定給付企業年金(DB)で年金受給中に亡くなった場合は、本人が受けていた年金額に、保証期間の残りの年数に応じた「年金現価率」を乗じた額が一時金として遺族に支給されるのが一般的です。これらの計算は複雑なため、具体的な金額は企業年金基金や会社の担当部署に問い合わせるのが確実です。

また、公的年金制度の遺族給付についても変化があります。例えば、遺族厚生年金は、見直しにより、5年間の有期給付の額が現在の約1.3倍になる予定です(2028年4月施行予定)。これらの変更は、将来の遺族の生活設計に影響を与える可能性があるため、常に最新情報を確認しておくことが大切です。

企業の事例から見る企業年金の受給期間

DBとDCにおける具体的な受給例

企業年金の受給期間は、DBとDCで特性が大きく異なります。確定給付企業年金(DB)の典型的な例としては、「35年間企業に勤務し、60歳で退職と同時に年金受給を開始。その後、15年間(75歳まで)は年金形式で毎月受け取り、それ以降は公的年金のみとなる」というケースが挙げられます。

この場合、75歳までという期間が明確に定められているため、その期間内の生活設計を具体的に立てることが可能です。一方、企業型確定拠出年金(DC)の場合、60歳で退職後、積み立てた資産を「5年間で集中的に取り崩す」ことも「20年間かけてゆっくりと取り崩す」ことも可能です。

受給期間を短く設定すれば、短期間でまとまった金額を受け取れますが、老後の長期的な資金計画には注意が必要です。逆に、長く設定すれば、月々の受取額は少なくなりますが、より長期にわたって安定した収入を確保できます。

制度変更による影響

企業年金制度は、企業の経営状況や社会情勢の変化によって見直しが行われることがあります。特に、かつての主流であった「厚生年金基金」が実質廃止となった事例は、多くの企業年金加入者に影響を与えました。

厚生年金基金が解散し、他の企業年金制度に移行する際には、それまでの年金が一時金形式で支払われるケースが多く見られました。これにより、当初年金として受け取る予定だった金額が、一度にまとまった額として手渡されることになり、その後の資産運用や税金対策が自己責任となるという変化が生じました。

制度変更は、皆さんの老後資金計画に大きな影響を与える可能性があるため、会社からの通知や企業年金基金からの案内には常に目を通し、不明な点があれば積極的に問い合わせることが重要です。変化の兆しを早めに察知し、対応策を検討することが賢明です。

ポータビリティ制度の活用

現代の働き方において、転職は珍しいことではありません。しかし、転職によって企業年金の権利が失われるのではないか、と不安を感じる方もいるでしょう。ここで役立つのが「企業年金通算制度(ポータビリティ制度)」です。

この制度により、転職先の企業が加入している企業年金制度へ、それまで積み立てていた年金資産を移管したり、個人型確定拠出年金(iDeCo)として積み立てを継続したりすることが可能になります。これにより、勤務先が変わってもそれまでの加入期間や給付金を通算できるため、老後資金の形成が中断することなく続けられます。

ポータビリティ制度を適切に活用することで、複数の企業での勤務経験があっても、一貫した形で老後資金を積み上げていくことが可能となり、キャリアプランの幅も広がります。転職を検討する際は、必ず企業年金通算制度の適用条件や手続きについて確認しましょう。

賢く受け取るためのポイント

ご自身の制度を確認する重要性

企業年金を賢く受け取るための最初のステップは、何よりもご自身が加入している企業年金制度について、正確に理解することです。企業年金の種類(DBかDCか、または両方か)、受給開始年齢、受給期間、年金形式と一時金形式の選択肢、遺族給付の条件など、把握すべき情報は多岐にわたります。

これらの情報は、会社の担当部署や、加入している企業年金基金のウェブサイトで詳細を確認することができます。年に一度送られてくる年金記録の通知書なども、大切な情報源となります。不明な点があれば、遠慮なく質問し、納得できるまで説明を求めることが大切です。

自分の年金制度を理解することは、将来のライフプランを具体的に立てる上で不可欠です。漠然とした不安を抱えるのではなく、具体的な情報を手に入れ、計画的な準備を進めましょう。

受給形式の選択肢と注意点

多くの企業年金では、年金形式で受け取るか、一時金形式で受け取るか、あるいはその両方を組み合わせるかを選択できる場合があります。この選択は、将来のキャッシュフローや税金に大きな影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。

年金形式は、毎月一定額が支払われるため、安定した生活費を確保できるメリットがあります。一方、一時金形式は、退職時にまとまった資金を受け取れるため、住宅ローンの繰り上げ返済や新たな事業の立ち上げなど、大きな出費に充てることができます。

特に企業型DCでは、取り崩し期間を5年から20年の間で選択できるため、ご自身の退職後の生活費の必要性や、他の金融資産とのバランスを考慮して、最適な期間を選ぶことが重要です。税金面での優遇措置なども考慮し、専門家のアドバイスも参考にしながら、最適な受給形式を選びましょう。

年金制度改正の最新情報

日本の年金制度は、少子高齢化の進展や経済状況の変化に応じて、常に改正が行われています。「2025年6月13日に年金制度改正法が成立」したように、数年おきに大きな見直しが行われるのが通例です。

これらの改正は、皆さんの将来の年金受給額や受給条件に直接影響を及ぼす可能性があります。例えば、受給開始年齢の選択肢の拡大や、受給額の計算方法の変更など、多岐にわたる変更が予想されます。

そのため、常に最新の年金制度改正に関する情報を入手し、それがご自身の企業年金計画にどのように影響するかを把握しておくことが非常に重要です。厚生労働省のウェブサイトや年金機構からの通知、信頼できるメディアからの情報などを活用し、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家にも相談しながら、賢く老後資金の準備を進めていきましょう。