概要: 「介護休暇」を時間単位で取得する方法について、日数や計算方法、中抜けの可否、中小企業での義務化状況などを詳しく解説します。最大30日間の取得や30分単位での取得についても触れ、賢く介護休暇を活用するための情報を提供します。
介護休暇の時間単位取得とは?基本を理解しよう
時間単位取得の導入背景とメリット
2021年1月1日より、育児・介護休業法が改正され、介護休暇が「時間単位」で取得できるようになりました。これは、高齢化の進展に伴い、仕事と介護の両立に悩む労働者が増えている現状を受け、より柔軟な働き方を支援するために導入された制度です。
それまでは半日単位での取得が主流でしたが、短時間の介護や急な通院の付き添いなど、日々の細かな介護ニーズには対応しきれない課題がありました。時間単位取得が可能になったことで、従業員は例えば、朝の出勤前に家族の介護を済ませてから出社したり、勤務中に一時的に介護のために離席し、再び仕事に戻ったりといった、きめ細やかな対応が可能になります。
この制度は、介護を理由とした離職を防ぎ、労働者が長くキャリアを継続できるよう支援することを目的としています。企業側にとっても、貴重な人材の流出を防ぎ、従業員のエンゲージメント向上に繋がるという大きなメリットがあります。
介護休暇の対象となる家族と範囲
介護休暇は、要介護状態にある家族の介護や世話を行うために取得できる休暇です。ここでいう「要介護状態」とは、病気、負傷、身体上・精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態を指します。
対象となる家族の範囲は広く、具体的には以下の通りです。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母
- 子
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
これらの家族が要介護状態になった場合、従業員は介護休暇を取得することができます。例えば、離れて暮らす親が急病で入院した場合や、同居する配偶者の介護が必要になった場合などが該当します。血縁関係だけでなく、事実婚の配偶者も含まれるため、多様な家族形態に対応している点も特徴です。
自身の家族だけでなく、配偶者の父母も含まれるため、介護の範囲が広いことも確認しておきましょう。
時間単位取得の基本的なルールと利用単位
介護休暇の時間単位取得には、いくつかの基本的なルールがあります。</まず、取得単位は原則として1時間単位です。これは、1日の中で必要な時間だけ柔軟に利用できることを意味します。
取得できる時間の上限は、「1日の所定労働時間数に満たない範囲」です。例えば、所定労働時間が8時間の従業員であれば、その日のうちに8時間未満の範囲で介護休暇を取得できます。取得した休暇の合計時間が1日の所定労働時間数に相当するごとに1日分の休暇を取得したものとして扱われます。
例えば、1日の所定労働時間が8時間の人が、ある日に2時間、別の日に3時間、さらに別の日に3時間と時間単位で介護休暇を取得した場合、合計8時間となり、これにより1日分の介護休暇を消化したことになります。
また、介護休暇は年度ごとにリセットされ、未使用分を翌年度に繰り越すことはできません。一般的に、事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までと定められていることが多いですが、企業によっては異なる場合もあるため、就業規則で確認することが重要です。
介護休暇の時間単位取得における日数と期間の目安
取得できる総日数の確認
介護休暇の時間単位取得には、年間で取得できる総日数が定められています。これは、対象となる家族の人数によって異なります。
- 対象家族が1人の場合:1年度につき5日まで取得できます。
- 対象家族が2人以上の場合:1年度につき10日まで取得可能です。
この日数は、時間単位で取得した休暇の合計が1日分として換算された場合の総日数です。例えば、1日の所定労働時間が8時間の従業員が、対象家族が1人の場合、年間で合計40時間(5日 × 8時間)まで介護休暇を取得できる計算になります。2人以上の場合は、年間合計80時間(10日 × 8時間)まで取得可能です。
これらの日数は、あくまで法律で定められた最低限の基準であり、企業によってはさらに手厚い制度を設けている場合もあります。自身の会社の就業規則を確認し、正確な情報を把握することが大切です。
時間単位取得における「1日」の考え方
時間単位で介護休暇を取得する場合、「1日」がどのようにカウントされるのかを理解しておくことは非常に重要です。先に述べたように、取得した介護休暇の合計時間が、自身の1日の所定労働時間数に相当するごとに1日分の休暇を取得したものとして扱われます。
例えば、あなたの1日の所定労働時間が7時間であるとします。この場合、時間単位で介護休暇を合計7時間取得すると、介護休暇の残り日数が1日減ることになります。もし、ある日に2時間、別の日に3時間、さらに別の日に2時間と取得した場合、合計7時間となり1日分を消化したことになります。
この考え方は、残りの介護休暇を把握する上で非常に重要です。勤怠管理システムなどで、自身の取得状況と残日数がどのように表示されているかを確認し、計画的に利用するようにしましょう。
なお、週の所定労働日数が2日以下である短時間労働者については、労使協定により時間単位の介護休暇の対象外とすることも可能です。この点も、自身の雇用形態と会社の就業規則で確認が必要です。
取得期間と注意すべきポイント
介護休暇の取得期間には、いくつか注意すべきポイントがあります。まず、最も重要なのは、介護休暇が「年度ごと」にリセットされるという点です。つまり、その年度内に使い切らなかった介護休暇は、翌年度に繰り越すことができません。
多くの企業では、事業年度を毎年4月1日から翌年3月31日までと定めています。したがって、この期間内に計画的に介護休暇を利用する必要があります。年度末が近づいたら、残りの介護休暇の有無を確認し、必要に応じて利用を検討しましょう。
また、介護休暇は、介護休業とは異なり、「介護休業給付金」の対象外である点も重要な注意点です。介護休業給付金は、一定期間介護のために仕事を休業する場合に支給されるものであり、時間単位の介護休暇には適用されません。
さらに、2021年1月1日以降は時間単位での取得が原則となりましたが、労使協定により時間単位での取得が困難な業務に従事する労働者については、半日単位での取得が可能な場合もあります。これは企業と労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間の協定によって定められるものですので、もし時間単位での取得が難しいと感じる場合は、会社に確認してみると良いでしょう。
時間単位の介護休暇、計算方法と端数処理のポイント
実際の取得時間の計算方法
時間単位の介護休暇を効果的に利用するためには、どのように時間が計算されるのかを正確に理解しておく必要があります。基本的な考え方は、取得した合計時間を、ご自身の1日の所定労働時間で割ることで、何日分の休暇を消化したかを算出します。
具体例を見てみましょう。あなたの1日の所定労働時間が8時間の場合で、以下のように時間単位で介護休暇を取得したとします。
- 月曜日:2時間
- 水曜日:3時間
- 金曜日:3時間
この場合、取得時間の合計は 2 + 3 + 3 = 8時間となります。したがって、8時間分の介護休暇を取得したことで、介護休暇を1日分消化したことになります。
もし、合計が10時間だった場合は、1日と2時間分の消化となります(10時間 ÷ 8時間 = 1日と2時間)。残りの介護休暇を把握し、計画的に利用するためにも、自身が何時間の労働者であるか、そしてすでに何時間分の介護休暇を取得しているかを常に意識しておくことが大切です。
所定労働時間の端数処理と影響
介護休暇の時間単位取得において、特に注意が必要なのが「端数処理」の取り扱いです。これは、1日の所定労働時間に1時間未満の端数がある場合に発生することがあります。
例えば、あなたの1日の所定労働時間が7時間30分(7.5時間)であるとします。この場合、企業によっては、時間単位で休暇を計算する際に「1時間未満の端数がある場合は、時間単位で切り上げる」というルールを適用することがあります。このルールが適用されると、7時間30分が8時間分の休暇として扱われる可能性があります。
つまり、7時間30分分の介護休暇を取得すると、企業は8時間分の休暇を消化したとみなすことになり、実質的に利用できる時間が少なくなる場合があります。
このような端数処理の有無や具体的な方法は、企業によって異なるため、必ず就業規則を確認するか、人事担当部署に問い合わせて確認するようにしてください。知らないままでいると、思わぬ形で介護休暇の残日数が減ってしまう可能性があるため、事前の確認が非常に重要です。
勤怠管理システムと従業員の把握
時間単位の介護休暇制度が導入されたことにより、企業側の勤怠管理の重要性が増しています。多くの企業では、時間単位での取得状況や残日数、残時間を正確に管理するために、勤怠管理システムの導入や改修を行っています。
従業員にとっても、このシステムを活用して自身の介護休暇の取得状況をリアルタイムで把握できることは大きなメリットです。例えば、会社のポータルサイトや勤怠管理アプリを通じて、「現在、時間単位の介護休暇を〇時間取得済みで、残り〇日(または〇時間)利用可能である」といった情報をいつでも確認できると、非常に便利です。
従業員自身も、どれくらいの時間を利用できるのかを把握し、計画的に利用することで、介護と仕事の両立をより円滑に進めることができます。不明な点があれば、遠慮なく会社の担当部署に確認し、システムの使い方や情報の見方について理解を深めましょう。
企業によっては、時間単位の取得が複雑にならないよう、柔軟な対応を検討しているところもあります。自身の会社の制度を積極的に活用し、ストレスなく介護に取り組める環境を整えることが大切です。
中抜けは可能?介護休暇の時間単位取得で知っておきたいこと
「中抜け」制度の法的解釈と企業対応
介護休暇の時間単位取得が導入されたことで、「勤務時間中に一時的に職場を離れて介護を行い、再び戻ってくる」いわゆる「中抜け」が可能かどうかは、多くの労働者が抱く疑問の一つです。
法令上、育児・介護休業法は「中抜け」を義務付けているわけではありません。つまり、時間単位の介護休暇は、1日の所定労働時間の一部を休暇として取得することを認めるものであり、その取得方法(例えば、始業から数時間休む、終業前に数時間休む)は従業員の裁量に委ねられています。
しかし、現実には、介護の必要性に応じて就業時間中に一時的に職場を離れることが求められるケースが少なくありません。そのため、多くの企業では、従業員がより柔軟に介護と仕事を両立できるよう、「中抜け」を認める運用をしている場合があります。
重要なのは、自社の就業規則や人事制度が「中抜け」をどのように扱っているかを確認することです。事前に申請が必要か、業務への影響をどのように考慮すべきかなど、具体的なルールは企業によって異なりますので、必ず勤務先の人事担当者や上司に確認するようにしましょう。
「中抜け」を利用する際のメリット・デメリット
「中抜け」が認められる場合、介護に直面する労働者にとって多くのメリットがあります。
- メリット:
- 急な介護対応: 家族の急な体調不良や通院の付き添いなど、突発的な介護ニーズに迅速に対応できます。
- 柔軟な働き方: 業務の途中で一時的に介護を行い、重要な会議や業務には戻れるため、仕事への影響を最小限に抑えつつ介護が可能です。
- 精神的負担の軽減: 介護のために仕事を諦める必要がなくなり、精神的なストレスが軽減されます。
一方で、デメリットも存在します。
- デメリット:
- 業務の中断: 中抜けによって業務が中断されるため、他の同僚への業務の引き継ぎや調整が必要になる場合があります。
- チームへの影響: 頻繁な中抜けは、チーム全体の業務効率に影響を与える可能性もあります。
- 申請手続きの手間: 毎回申請が必要な場合、手続きが負担となることもあります。
これらのメリットとデメリットを理解した上で、自身の介護状況や業務内容に合わせて、「中抜け」制度を賢く利用することが求められます。
中抜け以外での柔軟な働き方
介護と仕事の両立を支援する制度は、「中抜け」を可能にする時間単位の介護休暇だけではありません。企業は他にも様々な柔軟な働き方を導入しており、これらを組み合わせることで、より効果的な両立が可能になります。
例えば、「テレワーク(リモートワーク)」は、介護のために自宅にいる必要がある場合でも仕事を継続できるため、非常に有効な手段です。2025年4月からは、従業員が要介護状態の家族を介護する場合、テレワークを選択できるよう措置を講じることが企業の努力義務となります。これは、今後さらにテレワークが介護両立支援の柱の一つとなることを示唆しています。
その他にも、時差出勤制度を利用して介護のピーク時間を避けて勤務時間を調整したり、短時間勤務制度を利用して1日の労働時間を短縮したりすることも可能です。これらの制度は、介護休業法や企業の就業規則に基づき提供されています。
自身の状況に合わせて、介護休暇とこれらの制度を組み合わせることで、介護の負担を軽減しつつ、キャリアを継続していく道が開けます。会社の人事担当者や産業カウンセラーなどに相談し、最適な両立支援策を見つけることが重要です。
中小企業でも義務化?介護休暇の時間単位取得の現状
時間単位取得の義務化とその対象企業
介護休暇の時間単位取得は、2021年1月1日に施行された育児・介護休業法の改正により導入されました。この制度は、企業規模に関わらず、原則としてすべての企業に義務付けられています。「中小企業だから関係ない」ということはありません。
法律で定められた制度であるため、従業員からの申し出があった場合、企業は適切に対応する義務があります。これは、大企業だけでなく、従業員数名の小規模な企業であっても例外ではありません。
ただし、一部の労働者については、労使協定により時間単位の介護休暇の対象外とすることが可能です。具体的には、以下のケースが挙げられます。
- 日雇い労働者
- 継続雇用期間が6ヶ月に満たない労働者(ただし、2025年4月からはこの要件は原則撤廃)
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
これらの対象外となる労働者がいる場合でも、企業は労使協定を締結し、その旨を明確にする必要があります。中小企業においても、就業規則の整備や従業員への周知が不可欠です。
2025年4月からの改正と中小企業への影響
育児・介護休業法は、2025年4月1日から再度改正が施行されます。この改正は、中小企業を含むすべての企業に大きな影響を与える可能性があります。
主な改正点は以下の通りです。
- 介護離職防止のための雇用環境整備: 企業は、従業員が介護に直面する前に、早期の情報提供(例:40歳に達する年度など)や、介護休業や介護両立支援制度に関する個別の周知・意向確認が義務付けられます。これは、従業員が介護の必要性に直面した際に、適切な支援を受けられるよう、企業が事前に準備を促すためのものです。
- テレワーク導入の努力義務: 従業員が要介護状態の家族を介護する場合、テレワークを選択できるよう措置を講じることが企業の努力義務となります。これにより、自宅での介護と仕事の両立がよりしやすくなることが期待されます。
- 取得要件の緩和: 介護休暇の取得において、これまで「継続雇用期間6ヶ月以上」とされていた要件が原則として撤廃されます。これにより、入社して間もない従業員でも介護休暇を取得しやすくなります(ただし、週の所定労働日数が2日以下である場合などは、労使協定により対象外とすることが可能です)。
中小企業もこれらの法改正に適切に対応するため、就業規則の見直しや情報提供体制の整備を進める必要があります。早めに準備を始めることが重要です。
企業が対応すべきことと支援制度
介護休暇の時間単位取得および2025年の法改正に対応するため、企業、特に中小企業はいくつかの重要な対応が求められます。
- 就業規則の整備: 時間単位での取得のルール、端数処理、中抜けの可否、賃金の有無など、介護休暇に関する詳細な規定を就業規則に明記し、従業員に周知することが必須です。
- 勤怠管理システムの導入・改修: 時間単位で取得される休暇の残日数・残時間を正確に管理し、従業員が自身の取得状況を把握できる仕組みを整備することが望ましいです。
- 情報提供と相談体制の構築: 2025年4月からの義務化に先立ち、介護に関する制度や利用方法についての情報を従業員に早期に提供し、個別の相談に応じる体制を整えることが求められます。
- 労使協定の締結: 一部の労働者(例:日雇い労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者など)を介護休暇の時間単位取得の対象外とする場合、労使協定の締結が必要です。
- テレワーク環境の検討: テレワーク導入の努力義務に対応するため、可能な範囲でテレワークの導入や利用促進を検討しましょう。
中小企業にとって、これらの対応は負担となる場合もありますが、厚生労働省では、育児・介護両立支援制度の導入を支援する助成金制度なども用意している場合があります。詳細については、厚生労働省のウェブサイトや地域の労働局などで最新情報を確認し、積極的に活用を検討することをお勧めします。従業員が安心して働き続けられる環境を整備することは、企業の持続的な成長にも繋がります。
まとめ
よくある質問
Q: 介護休暇は時間単位で取得できますか?
A: はい、介護休暇は1日単位だけでなく、30分単位など時間単位での取得も可能です。これにより、より柔軟に仕事と介護を両立させやすくなります。
Q: 介護休暇の時間単位取得で、最大何日まで取得できますか?
A: 取得できる介護休暇の期間は、原則として対象となる家族1人につき、通算して30日間です。この30日間を時間単位で分割して取得することができます。
Q: 介護休暇を時間単位で取得する場合、計算はどうなりますか?
A: 時間単位の介護休暇の取得日数は、1日の所定労働時間(例:8時間)を基準に計算されます。例えば、1日8時間労働の場合、10日間の介護休暇を取得すると、合計80時間分ということになります。端数処理については、会社ごとに規定が異なりますので確認が必要です。
Q: 介護休暇の中抜けは可能ですか?
A: 介護休暇の中抜けについては、会社の就業規則によって定められています。基本的には1日単位で取得するものですが、時間単位での取得が認められている場合、柔軟な対応が可能なケースもあります。事前に会社の担当部署にご確認ください。
Q: 中小企業でも介護休暇の時間単位取得は義務化されていますか?
A: 介護休暇の取得自体は、一定の条件を満たす労働者に対して、中小企業を含め法律で義務付けられています。時間単位での取得についても、多くの企業で導入が進んでいますが、義務化というよりは、労働者の利便性を高めるための制度として普及している側面が強いです。導入状況は各企業にご確認ください。