男性育休取得率の現状をデータで解説

驚異的な伸びを見せる男性育休取得率の最新データ

近年、男性の育児休業(育休)取得率が目覚ましい上昇を見せています。厚生労働省の最新データによると、2023年度(令和5年度)には男性の育休取得率が30.1%に達し、調査開始以来初めて3割を超えました。

これは、2022年10月に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が大きな後押しとなった結果であり、前年度(2022年度)の17.13%から大幅な上昇を記録しています。さらに驚くべきことに、2024年度の調査では40.5%にまで達し、過去最高を更新しました。これは、男性が育児に積極的に関わることへの社会的な関心と企業の取り組みが深まっていることを明確に示しています。

しかし、この数字は女性の育児休業取得率と比較すると、依然として大きな開きがあります。2023年度の女性の取得率は84.1%、2024年度には86.6%であり、男性の取得率は女性の半分にも満たないのが現状です。このギャップは、男性育休をさらに推進していく上で、解決すべき重要な課題であることを示唆しています。

女性育休取得率とのギャップから見る課題

男性育休取得率が3割、4割と上昇したとはいえ、女性の8割超という取得率との間には依然として大きな隔たりがあります。このギャップは単なる数字の違い以上の問題を含んでおり、男性の育児参加がまだ形式的なものに留まっている可能性を示しています。

厚生労働省の2021年度の調査では、男性の育児休業取得者の半数以上が「2週間未満」の取得であったことが明らかになっています。これは、長期的な育児への関与というよりも、短期的なサポートや、制度の取得自体を目的としているケースが多いことを示唆しています。

短い期間の育休では、父親が本格的に育児や家事を担い、子育てのスキルを習得することは難しいのが現実です。育休取得率の上昇は歓迎すべき変化ですが、その「質」を高め、男性がより深く育児に関われるような社会の実現が次のステップとして求められています。取得率だけでなく、期間の長期化も今後の重要な課題となるでしょう。

政府目標と今後の展望:さらなる飛躍を目指して

日本政府は、男性の育児休業取得率向上に向けて明確な目標を掲げています。具体的には、2025年度に50%、2030年度には85%という目標を定めています。

この目標達成に向けて、政府は多角的な施策を打ち出しています。例えば、育児休業給付の引き上げや、育児休業取得率の公表義務の対象拡大(従業員規模100名以上の企業)などが予定されています。これにより、企業には一層の育休取得促進が求められることになります。

男性が育児休業を取得しやすい社会を実現するためには、企業側の積極的な取り組みが不可欠です。具体的には、管理職への研修による意識改革、柔軟な働き方の導入、育児参加を奨励する職場風土の醸成などが挙げられます。また、社会全体として「男性も育児をするのが当たり前」という意識への変革も同時に進めることが、目標達成と持続可能な社会の実現の鍵となるでしょう。

男性育休の義務化はいつから?最新動向

育児休業制度の変遷と「産後パパ育休」

男性の育児休業に関する制度は、近年大きく変化しています。「男性育休の義務化」という言葉を聞くこともありますが、これは厳密には「企業が育休取得を促し、環境を整備する義務」が強化されたと理解するのが正確です。

特に重要なのは、2022年10月に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」です。これは、子が生まれてから8週間以内に4週間までの育休を、分割して取得可能にする制度です。これにより、男性が出産直後の大変な時期に育児に参加しやすくなりました。

また、育児・介護休業法の改正により、企業には従業員への育児休業制度の周知や、取得しやすい雇用環境の整備が義務付けられています。これらは、従業員が育休を「取得すること」自体を義務化するものではなく、「育休を取りたいと思えば取れる状況を企業が作る」義務を課すものです。このような制度の後押しが、男性育休取得率の急上昇に繋がっています。

企業に求められる「義務」:制度周知と環境整備

育児・介護休業法の改正により、企業にはいくつかの具体的な「義務」が課せられています。これらの義務は、男性が育児休業を取得しやすい職場環境を整備するためのものです。

主な義務としては、以下の点が挙げられます。

  • 従業員への育児休業制度の周知(個別周知も含む)
  • 育児休業に関する相談窓口の設置
  • 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備(研修、柔軟な働き方の導入など)

さらに、2023年4月からは、従業員数1,000人を超える企業に対して、男性の育児休業取得率の公表が義務化されました。これは、企業が育休促進にどれだけ力を入れているかを外部に明らかにするもので、企業の社会的責任としても注目されています。政府は今後、この公表義務の対象を従業員数100名以上の企業に拡大する予定であり、より多くの中小企業にも育休促進の波が広がるでしょう。

これらの義務は、企業に育休を「取らせる」ことではなく、育休を「取りたい」と考える従業員がためらいなく取得できるようにすることを目指しています。

「義務化」の背景にある社会的な要請

男性育休取得促進や企業への環境整備の「義務化」の背景には、単なる制度改正以上の、社会的な強い要請が存在します。

まず、喫緊の課題である少子化対策が挙げられます。夫婦で子育てを行う体制が整えば、女性が出産・育児によるキャリアの中断を不安に思うことが減り、第2子、第3子を望む家庭も増える可能性があります。男性が育児に積極的に関わることで、女性の育児負担が軽減され、それがひいては出生率の向上に繋がるという期待があります。

次に、男女共同参画社会の実現です。「男性は仕事、女性は育児」といった固定的な性別役割分業意識を打破し、性別に関わらず誰もが働きやすく、子育てしやすい社会を目指すことは、多様性を尊重する現代社会において不可欠な視点です。

企業にとっても、男性育休の促進は優秀な人材の確保・定着、企業イメージの向上、ひいては組織全体の生産性向上にも繋がります。これらの社会的な要請に応える形で、男性育休を巡る制度や企業の取り組みは今後も進化していくことでしょう。

育休取得を阻む「できない」要因と解決策

企業文化と心理的ハードルの克服

男性育休の取得を阻む大きな要因の一つに、根深く残る企業文化とそれに伴う心理的なハードルがあります。依然として「男性は仕事、女性は育児」といった固定的な性別役割分業意識が残っている職場では、男性が育休を取りたいと申し出ても、上司や同僚からの理解が得られにくい場合があります。

「育休は女性が取るもの」「男が育休なんて…」といった無言のプレッシャーや、育休取得が評価に響くのではないかという不安も、男性が育休を躊躇する心理的な要因となります。このような状況を打破するためには、トップダウンでの意識改革が不可欠です。経営層が男性育休の重要性を発信し、管理職層への研修を通じて育休取得を奨励するマネジメントを浸透させる必要があります。

また、実際に育休を取得した男性社員の体験談を共有したり、ロールモデルを積極的に紹介したりすることも有効です。育休取得がポジティブなキャリア形成に繋がることを具体的に示し、心理的安全性の高い職場環境を醸成することが、これらのハードルを克服する鍵となります。

代替要員確保と業務体制の見直し

特に中小企業において、男性育休の取得を阻む現実的な問題として、代替要員の確保の難しさ業務の属人化が挙げられます。従業員数が少ない企業では、一人の社員が抜けることの影響が大きく、人手不足を理由に育休取得が難しいと判断されるケースが少なくありません。

この課題を解決するためには、育休に入る社員が安心して休めるような業務体制の見直しが不可欠です。具体的には、以下の取り組みが有効です。

  • 業務の標準化とマニュアル整備:誰でも一定の業務を遂行できるようにし、属人化を防ぎます。
  • デジタルツールの活用:コミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールを導入し、情報共有と業務連携をスムーズにします。
  • 柔軟な働き方の導入:育休取得者だけでなく、他の社員も短時間勤務やフレックスタイム制度を活用できる環境を整備し、日頃から協力体制を築きます。
  • 外部リソースの活用:一時的な人手不足に対し、アウトソーシングや派遣社員の活用も検討します。

育休をきっかけに業務プロセスを見直すことは、結果として組織全体の生産性向上やリスク分散にも繋がり、企業の成長に貢献します。育休が「特別」なものではなく「当然」の権利として受け入れられるためには、普段からの業務効率化が重要な基盤となります。

育児休業期間の短さという課題への対応

男性育休の取得率は上昇しているものの、その取得期間の短さは依然として大きな課題です。前述の通り、多くの男性が2週間未満の育休しか取得していない現状では、真に育児に参加し、夫婦で子育てを分担する実感を得ることは難しいでしょう。

短期育休では、家事育児の本格的なスキル習得や、育児中の妻の心身のケアに深く関わることは困難です。この課題に対応するためには、企業と個人の双方からのアプローチが必要です。

企業側は、長期育休を奨励する制度設計や、育休中のスキルアップ支援などを検討すべきです。例えば、育休中にオンライン研修を提供したり、復帰後のキャリアパスを明確に示したりすることで、従業員の不安を軽減できます。また、育休中の社員の業務を代替する従業員へのインセンティブや、長期育休取得企業への助成金活用なども有効です。

個人としても、育休取得を単なる「休暇」ではなく、家族にとってかけがえのない時間と捉え、夫婦で育休の期間や役割分担について具体的に話し合うことが重要です。制度を最大限に活用し、子どもとの絆を深め、パートナーと協力して育児に取り組む期間として育休を捉え直すことが、期間の長期化を促す一歩となるでしょう。

父親が育休を取るメリット・デメリット

父親が育休を取る「家庭」へのメリット

父親が育児休業を取得することは、家庭にとって数えきれないほどのメリットをもたらします。最も直接的なのは、夫婦の家事・育児負担の公平化です。

特に、出産後の女性は身体的・精神的に大きな負担を抱えており、産後うつを発症するリスクも高まります。父親が育休を取得し、育児や家事に積極的に参加することで、母親の負担が軽減され、心身の回復を助けることができます。これにより、母親の産後うつのリスクを低減し、家族全体の幸福度を高めることに繋がります。

また、父親が育休を取ることで、子どもとの絆を早期から深く築くことができます。新生児期というかけがえのない時間を共に過ごすことで、父親の育児スキルが向上し、子どもの発達にも良い影響を与えます。さらに、夫婦で協力して子育てに取り組む経験は、お互いへの理解を深め、夫婦関係をより円満にする効果も期待できるでしょう。家庭全体が笑顔でいられる時間が増えることは、何よりも大きなメリットと言えます。

父親が育休を取る「企業」へのメリット

父親の育休取得は、家庭だけでなく企業にとっても多くのメリットをもたらします。一見すると業務に穴が開くように思われがちですが、長期的に見れば企業の成長に不可欠な要素となり得ます。

まず、従業員のエンゲージメントと定着率の向上が挙げられます。育休制度が充実し、実際に取得しやすい環境が整っている企業は、従業員から「大切にされている」と感じられ、会社へのロイヤリティが高まります。これは離職率の低下に直結し、優秀な人材の確保にも繋がります。

次に、企業イメージの向上です。男性育休の取得促進は、SDGsへの貢献や「ホワイト企業」としてのブランド力強化に繋がり、採用活動においても大きなアドバンテージとなります。多様な働き方を推進する企業として社会からの評価も高まり、新たなビジネスチャンスに繋がる可能性も秘めています。

さらに、育休取得を機に業務の見直しや効率化が進むことで、組織全体の生産性が向上することもあります。育休を「成長の機会」と捉え、柔軟な働き方を促進することは、企業の競争力を高める上で非常に有効な戦略となるでしょう。

父親が育休を取る際の「懸念点・デメリット」とその対策

父親が育休を取得する際には、いくつかの懸念点やデメリットも存在します。これらを事前に把握し、対策を講じることが重要です。

主な懸念点としては、収入の減少が挙げられます。育児休業給付金が支給されるとはいえ、休業前の賃金全額が補償されるわけではないため、家計への影響は避けられません。また、育休中のブランクによるキャリアへの影響や、復帰後の業務キャッチアップへの不安もよく聞かれます。

これらの懸念点に対する対策としては、以下の点が有効です。

  • 家計シミュレーション:夫婦で育休中の収入と支出を具体的に計算し、不安を解消します。
  • 企業との連携:育休中のキャリア相談制度を利用したり、復帰後の業務内容や働き方について事前に話し合ったりします。
  • 情報収集とスキル維持:育休中も業界の情報に触れたり、資格取得を目指したりすることで、復帰への不安を軽減します。
  • 企業文化の醸成:企業側は、育休取得がキャリアにマイナスとならないよう、公正な評価制度や復帰後のサポート体制を構築することが求められます。

デメリットを最小限に抑え、育休が有意義な期間となるよう、事前の準備と情報収集をしっかり行うことが成功の鍵となります。

育休中の税金はどうなる?知っておきたい制度

育児休業給付金と非課税措置

育児休業中の家計を支える重要な制度に「育児休業給付金」があります。これは雇用保険から支給される給付金であり、大きな特徴として非課税である点が挙げられます。

つまり、育児休業給付金には所得税や住民税が課せられません。これは、育休中の家計にとって非常に大きなメリットです。給付金の基本的な計算方法は、休業開始時賃金日額を基に、休業開始から180日目までは67%、それ以降は50%が支給されます(上限額あり)。

期間 給付率(休業開始時賃金日額)
休業開始から180日まで 67%
181日目以降 50%

この給付金が非課税であることは、手取り額が額面通りに近い形で確保されることを意味し、育休中の経済的不安を軽減する大きな支えとなります。また、社会保険料の免除と合わせ、育休中の経済的な負担を大幅に減らす仕組みが整備されているのです。

社会保険料の免除とメリット

育児休業中には、給付金の非課税措置に加えて、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が免除されるという非常に大きなメリットがあります。

この免除は、育児休業期間中に会社と従業員の両方の負担分が免除される仕組みです。将来受け取る年金額が減るのではないかと心配される方もいますが、育休中の社会保険料免除期間は、年金額の計算においては「保険料を納付したもの」として扱われます。そのため、将来の年金受給額が不利になることはありません。

社会保険料が免除されることで、育児休業給付金と合わせて、育休中の手取り収入が想像以上に確保されることが多くあります。この制度は、育休を取得する従業員の経済的負担を軽減し、育児に専念できる環境を整えることを目的としています。免除を受けるためには、育児休業の取得が確認されれば自動的に手続きが進められるケースが多いですが、念のため勤務先に確認することをおすすめします。

所得税・住民税、年末調整について

育児休業中の税金に関しては、いくつか知っておきたいポイントがあります。

まず、前述の通り育児休業給付金は非課税所得となるため、所得税や住民税の計算対象にはなりません。これにより、育休中の所得税の負担はほぼなくなるか、非常に軽くなります。ただし、住民税については注意が必要です。住民税は前年度の所得に基づいて課税されるため、育休に入った年であっても、前年に収入があった場合は、その年の住民税の支払いが発生します。

また、年末調整においては、育児休業給付金は収入とはみなされないため、年末調整の対象には含まれません。年末調整は、その年の1月1日から12月31日までの給与所得に対して行われるため、育休中に給与の支払いが停止していた場合、源泉徴収された所得税が還付されるケースも多いです。

育休中に給与以外の収入(副業など)があった場合や、医療費控除などの確定申告が必要な場合は、別途手続きが必要です。育休中の収入が給付金のみで、かつ年度の途中で育休を終了し給与所得があった場合など、状況によって税金の取り扱いは異なるため、不明な点は勤務先の人事・経理担当部署や税務署に相談するのが最も確実です。