「5類」移行で変わる?特別休暇の現状

新型コロナ5類移行で変わったこと

新型コロナウイルス感染症は、2023年5月8日をもって感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」へと移行しました。
これにより、感染者や濃厚接触者に対する法的な外出自粛要請は撤廃され、私たちの日常生活は大きく変化しました。

企業においても、従業員の健康管理や感染対策に関する対応は、政府からの画一的な要請ではなく、個別の判断が求められるようになりました。
感染した場合の休暇については、年次有給休暇での対応が一般的となっていますが、一部の企業では「コロナ休暇」や特別な「病気休暇」として、特別休暇制度を設けているケースも見られます。

この変化は、企業が従業員の健康と働きがいをどのように両立させるか、その手腕が問われる時代への転換点と言えるでしょう。
従業員一人ひとりの状況に合わせた柔軟な対応が、企業に求められています。

特別休暇制度の基本的な考え方

特別休暇制度とは、年次有給休暇や産前・産後休暇といった法定休暇とは異なり、企業が独自に設けることができる休暇制度のことです。
この制度の最大の特徴は、導入目的や取得条件を企業が柔軟に設定できる点にあります。

従業員の働きやすさを向上させることはもちろん、ワークライフバランスの推進を通じて、企業の成長を促す効果も期待されています。
例えば、病気休暇を設けることで、従業員が安心して治療に専念できたり、リフレッシュ休暇によって心身ともにリフレッシュし、業務へのモチベーションを高めたりすることが可能になります。

特別休暇は、従業員の満足度向上や定着率の向上、さらには優秀な人材の確保に貢献する重要な福利厚生の一つとして、その価値が見直されています。
企業が従業員を大切にする姿勢を示す象徴とも言えるでしょう。

特別休暇制度導入状況のトレンド

特別休暇制度の導入状況は、近年変動が見られます。
厚生労働省の調査によると、令和4年度には58.9%の企業が特別休暇制度を導入していましたが、令和5年度には55.0%と一時的に減少しました。

しかし、最新の令和6年の調査では59.9%と再び増加傾向に転じており、従業員の多様なニーズに応えるために、企業がこの制度の重要性を再認識していることが伺えます。
特に、社会情勢の変化や働き方改革の推進が、このトレンドを後押ししていると考えられます。

特別休暇の種類別に見ると、最も導入されているのは夏季休暇で40.0%(令和6年調査)、次いで病気休暇が27.9%、リフレッシュ休暇が14.7%となっています。
これらのデータから、企業が従業員の休息と健康維持を重視している現状が明確に見て取れます。

感染症以外にも!特別休暇が適用されるケース

病気やリフレッシュのための特別休暇

特別休暇は、新型コロナウイルス感染症のような特定の感染症だけでなく、従業員の心身の健康を多角的にサポートするために活用されています。
その代表的な例が、病気休暇リフレッシュ休暇です。

病気休暇は、従業員が病気や怪我で療養が必要になった際に、年次有給休暇を消化することなく休暇を取得できる制度です。
これにより、従業員は安心して治療に専念でき、長期的なキャリア形成の不安を軽減できます。年次有給休暇を温存できるため、私的な目的で自由に休暇を使えるというメリットもあります。

一方、リフレッシュ休暇は、長期勤続者への感謝や、従業員が日頃の疲れを癒し、心身をリセットすることを目的として導入されます。
これにより、従業員のモチベーション向上や生産性向上につながり、企業にとってもメリットは大きいと言えるでしょう。心身の健康維持は、パフォーマンス向上の基盤となります。

ライフイベントをサポートする休暇

特別休暇は、従業員の多様なライフイベントをサポートする役割も担っています。
代表的なものとして、子の看護休暇介護休暇が挙げられます。これらは、育児や介護と仕事の両立を支援し、従業員が家庭の事情で離職せざるを得ない状況を防ぐために非常に重要です。

また、近年注目されているのが不妊治療休暇です。
不妊治療は、身体的・精神的な負担が大きく、治療期間も不規則になりがちです。この休暇は、デリケートな問題に寄り添い、従業員が安心して治療に取り組める環境を提供します。

さらに、結婚記念日や誕生日といった個人的な記念日を祝うためのアニバーサリー休暇を導入する企業も増えています。
これは、従業員のプライベートを尊重し、仕事だけでなく人生全体の充実を支援するという企業の姿勢を示すものです。例えば、有限会社COCO-LOでは「子の参観休暇」を導入し、家族の行事での有給取得を可能にしています。

社会貢献や自己成長を促す休暇

特別休暇は、従業員の社会貢献活動や自己成長を後押しするためにも活用されています。
ボランティア休暇は、従業員が地域社会への貢献活動に参加することを支援し、企業の社会的責任(CSR)を果たす一助となります。

また、人生の節目には慶弔休暇が不可欠です。結婚、出産、身内の不幸など、重要なライフイベントにおいて、従業員が心置きなく対応できるよう、この休暇は重要な役割を果たします。
賃金が支給される慶弔休暇は、従業員にとって大きな安心材料となります。

自己啓発休暇を導入する企業もあり、従業員がスキルアップや資格取得のための学習に時間を充てることを支援します。
これにより、従業員のキャリア形成が促進されるだけでなく、企業の競争力向上にも寄与します。これらの休暇は、企業と従業員双方にとってメリットの大きい制度設計と言えるでしょう。

有給休暇との違いと賢い使い分け

有給休暇の基本と法的な位置づけ

年次有給休暇(有給休暇)は、労働基準法によって定められた従業員の権利であり、労働者が一定期間勤続し、所定の要件を満たした場合に付与される休暇です。
この休暇は、賃金が支払われるため、安心して取得することができます。

企業には、従業員に年に5日間の有給休暇を取得させる義務があり、これは法律によって厳しく定められています。
有給休暇の取得目的は従業員の自由であり、企業がその目的を問うことは原則としてできません。私的な旅行やリフレッシュ、あるいは急な用事など、様々な目的で活用されています。

従業員にとって、有給休暇は心身の疲労回復や生活の質の向上に不可欠な制度であり、計画的に取得することでワークライフバランスを保つ上で重要な役割を担っています。

特別休暇の特性とメリット

特別休暇は、年次有給休暇とは異なり、企業が独自に定めることができる任意の休暇制度です。
そのため、企業によってその種類、取得条件、有給か無給か、取得回数などが柔軟に設定されています。

この柔軟性が、特別休暇の最大のメリットと言えるでしょう。
例えば、病気休暇、介護休暇、ボランティア休暇、アニバーサリー休暇など、特定の目的のために特化した休暇を設けることで、従業員の多様なニーズにきめ細かく対応することができます。

特別休暇は法定の年次有給休暇とは別に付与されるため、従業員は有給休暇を温存しつつ、特定の事情に対応するための休暇を取得できるという利点があります。
これにより、年次有給休暇の取得をためらうことなく、安心して休暇制度を利用できる環境が整います。

状況に応じた賢い使い分け方

有給休暇と特別休暇は、それぞれの特性を理解し、状況に応じて賢く使い分けることが重要です。
例えば、私的な旅行や個人のリフレッシュを目的とする場合は、基本的に目的が自由な有給休暇を活用するのが一般的です。

一方、病気療養、家族の看護や介護、ボランティア活動への参加など、特定の目的がある場合は、その目的に合わせた特別休暇を利用するのが効果的です。
これにより、有給休暇を温存できるため、いざという時の急な用事や、別の機会でのリフレッシュに備えることができます。

株式会社microCMSでは、年次有給休暇をすべて取得した後に利用できる「アディショナル休暇制度」を導入し、年次有給休暇の取得率を大幅に向上させることに成功しています。
このように、特別休暇を戦略的に活用することで、従業員の休暇取得を促進し、全体的な満足度を高めることが可能です。

特別休暇取得時の注意点と申請方法

制度利用における留意事項

特別休暇制度を利用する際には、いくつかの重要な留意点があります。
まず、特別休暇は年次有給休暇の取得義務に含めることはできません。つまり、企業が従業員に年間5日間の有給休暇を取得させる義務とは別に、特別休暇が付与されると理解しておく必要があります。

また、企業が独自に定めている制度であるため、その内容(取得条件、有給・無給の区分、取得日数など)は企業によって大きく異なります。
必ず自社の就業規則や人事規定を確認し、制度の詳細を正確に把握することが肝心です。不明な点があれば、人事担当者や上司に確認するようにしましょう。

制度が公平性や納得感を持って運用されるよう、企業側も従業員側も制度への理解を深めることが求められます。
不公平感が生じると、制度が従業員満足度の向上に繋がらないだけでなく、かえって不満の原因となる可能性もあります。

スムーズな申請のためのポイント

特別休暇をスムーズに取得するためには、適切な申請手続きを踏むことが不可欠です。
多くの企業では、特別休暇の申請には所定の申請書提出が求められますので、必ず規定のフォーマットに従って記入し提出しましょう。

申請書の提出期限や、事前承認の必要性についても、就業規則で確認し、余裕を持って手続きを行うことが大切です。
特に長期の休暇や、業務に影響が出そうな場合は、早めに上司や関係部署に相談し、業務の引継ぎや調整を進めておくことで、周囲に迷惑をかけることなくスムーズに休暇を取得できます。

また、病気休暇や介護休暇など、種類によっては診断書や証明書など、必要な添付書類がある場合があります。
申請前に必要な書類を確認し、事前に準備しておくことで、手続きの遅延を防ぐことができます。

制度の形骸化を防ぐための企業側の努力

特別休暇制度を導入しても、その存在や利用方法が従業員に十分に周知されていなければ、制度は形骸化し、本来の目的を達成できません。
企業は、制度が従業員に利用されるよう、積極的な周知活動を行う必要があります。

社内報、掲示板、社内ポータルサイトでの情報掲載はもちろん、定期的な説明会の開催や、新入社員研修での説明などを通じて、制度の利用を促すことが重要です。
また、上司が部下の休暇取得を奨励するなど、取得しやすい職場環境や雰囲気作りも欠かせません。

さらに、制度の効果を定期的に評価し、従業員からのフィードバックを元に、制度の内容を見直したり改善したりすることも大切です。
例えば、厚生労働省発行の「特別休暇制度導入事例集2024」のように、他社の好事例を参考にすることも有効な手段となるでしょう。

もしもの時に備える特別休暇の知識

従業員としての心構え

従業員として、自身の健康とワークライフバランスを守るためには、特別休暇に関する知識を身につけておくことが非常に重要です。
「いざ」という時に慌てることのないよう、普段から自社の就業規則や人事規定を定期的に確認する習慣をつけましょう。

どの特別休暇がどのような条件で利用できるのか、有給なのか無給なのか、申請方法はどのようなものかなど、基本的な情報を把握しておくことで、必要な時に迅速かつ適切に対応できます。
不明な点や疑問が生じた際には、一人で抱え込まず、人事部や信頼できる上司に相談することも大切です。

自身の権利と企業の制度を理解し、適切に活用することは、キャリアを長期的に築いていく上で欠かせない自己管理の一環です。
もしもの時に備える知識は、自分自身を守るための貴重な財産となるでしょう。

企業が特別休暇を導入するメリット

特別休暇制度の導入は、従業員にとってはもちろん、企業にとっても多大なメリットをもたらします。
最も顕著なのは、従業員満足度の向上とエンゲージメントの強化です。従業員が安心して休暇を取得できる環境は、企業への信頼感を高め、仕事へのモチベーション向上につながります。

これにより、離職率の低下や、優秀な人材の確保にも寄与します。
特に、子の看護休暇や介護休暇、不妊治療休暇など、ライフイベントに寄り添う制度は、従業員がキャリアを継続しやすい環境を構築し、「従業員を大切にするホワイト企業」としてのイメージアップにも貢献します。

結果として、従業員が心身ともに健康で働くことができるため、生産性の向上や企業競争力の強化にも繋がるでしょう。
レック・テクノロジー・コンサルティング株式会社や岩渕薬品株式会社などの導入事例が示すように、戦略的な特別休暇の活用は企業の成長戦略の一部となり得ます。

今後の特別休暇制度の展望

現代社会は、働き方やライフスタイルが多様化しており、特別休暇制度もこれらの変化に対応していく必要があります。
リモートワークや副業といった新しい働き方が普及する中で、従来の画一的な休暇制度だけでは対応しきれないニーズが増加しています。

今後、企業は、不妊治療休暇やLGBTQ+のパートナーシップ休暇など、より個別具体的なニーズに応えるための、柔軟で多様な特別休暇制度の設計が求められるでしょう。
従業員の多様性を尊重し、それぞれの状況に応じたサポートを提供することが、企業の持続的な成長には不可欠です。

特別休暇制度は、単なる福利厚生に留まらず、従業員の幸福追求と企業の競争力強化を両立させるための重要な経営戦略ツールとなりつつあります。
企業は、時代の変化を捉え、常に制度を見直し、進化させていく姿勢が問われるでしょう。