概要: 近年、日本の働きがいが低下しているという声が多く聞かれます。本記事では、その背景にある問題点や、それでも私たちが仕事に求めるものを探ります。働きがいを感じられない状況を打開し、より充実した働き方を見つけるためのヒントを提供します。
「働きがい」低下の理由と、それでも仕事に求めるもの
近年、日本では「働きがい」の低下が指摘されています。働き方改革が進み、労働環境は改善されつつある一方で、仕事への満足感や達成感を見出しにくいという声も少なくありません。一体なぜ、このような状況が生まれているのでしょうか? そして、私たち働く人々は、それでも仕事に何を求めているのでしょうか? 最新の調査データや社会の動向をもとに、その実態と未来へのヒントを探ります。
なぜ日本の「働きがい」は低下しているのか
変化する競争環境と若手の「働きがい」
近年、日本の若手社会人の間で「働きがい」が低下しているという指摘が聞かれるようになりました。その背景には、社会全体の競争環境の変化が大きく影響していると考えられています。かつては、学校での成績一覧の張り出しや部活動での熾烈な競争など、「誰かと競う」機会が日常的に存在していました。しかし、現代ではそうした直接的な競争の場面が減少しています。
例えば、オンラインゲームやSNSの普及により、他者との比較が間接的になったり、個人の達成感が重視される傾向が強まったりしています。これにより、若手社員は「他者に勝つこと」や「集団の中で頭角を現すこと」をモチベーションとするよりも、内面的な満足感や自己成長に価値を見出すようになっているのかもしれません。
このような変化は、企業が従業員の「働きがい」を引き出す上でのアプローチにも再考を促しています。単に目標達成を競わせるだけでなく、個人の成長や貢献をどのように可視化し、承認していくかが重要な課題となっているのです。
職場への不満と行動できないジレンマ
「働きがい」の低下は、現在の職場に対する不満とも密接に関連しています。2023年の調査では、驚くべきことに約40%もの人が「現在の職場に満足していない」と回答しています。しかし、この数字以上に注目すべきは、不満を感じながらも「すぐに転職したい」と行動に移す人がわずか10.5%にとどまっている点です。
これは、多くの人が現状に不満を抱きつつも、さまざまな理由から行動を起こせない「ジレンマ」を抱えていることを示唆しています。給与や人間関係、キャリアパスへの不安、あるいは転職活動にかかる労力や精神的負担が、彼らを現状に留めているのかもしれません。
このような状況は、企業側にとっても大きな課題です。従業員のエンゲージメントが低い状態が続けば、生産性の低下や離職リスクの増大につながりかねません。不満の声を吸い上げ、改善に繋げるための具体的な施策が求められています。
「働きやすさ」と「やりがい」の乖離
働き方改革の推進により、多くの企業で「働きやすさ」が改善されたことは事実です。長時間労働の是正、リモートワークの導入、休暇制度の充実など、労働環境は着実に向上しています。しかし、その一方で「やりがいを感じにくくなった」という声が聞かれるようになりました。
これは、「働きやすさ」と「やりがい」が必ずしも連動するものではないことを示しています。例えば、ワークライフバランスが向上し、プライベートの時間が確保しやすくなったとしても、仕事の内容そのものに意義を見出せなければ、「働きがい」を感じることは難しいでしょう。
特に、2024年版「働きがいのある会社」ランキング調査で、「経営・管理者層が重要事項・変化を伝えている」や「従業員の提案・意見を聞いている」といったコミュニケーションに関する設問のスコアが低下していることは深刻です。働きやすさの追求と同時に、従業員が仕事への貢献実感や成長を感じられるような、質的な部分へのアプローチが不可欠なのです。
「働きがい」がない職場・仕事の特徴とは
コミュニケーションの希薄さ
「働きがい」が感じられない職場には、いくつかの共通する特徴が見られます。その一つが、組織内のコミュニケーションの希薄さです。2024年版「働きがいのある会社」ランキング調査で最も低下した設問として、「経営・管理者層が重要事項・変化を伝えている」や「従業員の提案・意見を聞いている」が挙げられていることからも、この問題の深刻さが伺えます。
情報が経営層から一方的に伝達されるだけで、現場の声が吸い上げられない環境では、従業員は自分たちの仕事が組織全体の中でどのような意味を持つのか、何に貢献しているのかを理解しにくくなります。また、意見やアイデアを提案しても聞き入れられないと感じれば、自律性や主体性が失われ、業務へのモチベーションも低下してしまうでしょう。
このようなコミュニケーション不足は、従業員の心理的安全性をも損ねます。安心して発言できない環境では、業務改善の提案や新しいアイデアも生まれにくく、結果として組織全体の停滞を招くことになります。
成長機会の欠如とキャリアの停滞
仕事を通して成長したいという意欲は、多くの人が持っているものですが、それが叶わない職場では「働きがい」を感じにくくなります。参考情報によると、仕事を通して成長したいと考える人は約60.5%に留まるものの、特に50代女性など高い層も存在します。しかし、自身の職場を「成長できる環境」と捉えているかは、年代や性別によって差が見られます。
例えば、スキルアップのための研修制度が不十分だったり、新しい挑戦をさせてもらえなかったり、あるいは単調な業務ばかりが続く環境では、自身の能力が向上している実感を得られません。キャリアパスが不明確で、将来の展望が見えないことも、従業員のモチベーションを奪う大きな要因となります。
「今の仕事に慣れきってしまい、これ以上学ぶことがない」と感じてしまうと、仕事は単なる作業と化し、精神的な満足感を得ることは困難になります。企業は、従業員が自身の成長を実感できるような教育機会やキャリア形成支援を積極的に提供することが求められます。
貢献実感と承認欲求の不満
人は誰しも、自分の存在や努力が認められたいという欲求を持っています。これは仕事においても例外ではありません。参考情報にある通り、特にZ世代は、仕事の規模や成果よりも、周囲からの承認や、関わっている人から頼りにされることを重視する傾向があります。
自分の仕事が会社や顧客、チームにどのように貢献しているのかが不明確であったり、いくら努力してもその成果が適切に評価されたり、認められたりしない職場では、「働きがい」を感じることは難しいでしょう。プロジェクト全体での自分の役割が見えにくい、上司や同僚から感謝の言葉がない、といった状況が続けば、従業員は「自分は必要とされていないのではないか」と感じてしまいます。
また、企業全体で「組織への貢献実感」や「心理的安全性」といった項目で、年次が低い層と高い層との間で差が出ている企業が見られることも、この問題を示唆しています。従業員一人ひとりが、自分の仕事が意味を持ち、他者に貢献しているという実感を得られるような仕組みと文化が不可欠です。
「働きがい」なんて求めるな、という声の背景
仕事への過度な期待が生む疲弊
近年、特に若年層を中心に「仕事は仕事、プライベートはプライベート」と割り切り、「働きがい」を強く求めない、あるいは「働きがい」という概念自体に疑問を呈する声も聞かれるようになりました。その背景には、仕事に対して過度な期待を抱き、それが満たされないことによる疲弊感が挙げられます。
「仕事は人生を豊かにするもの」「天職を見つけるべき」といったポジティブなメッセージが溢れる一方で、現実の仕事は必ずしも理想通りではありません。単調な作業、人間関係の悩み、不条理な上司など、様々な困難に直面します。そうしたギャップに直面したとき、理想を追い求めすぎていた人は深い失望感を味わい、「いっそ期待しない方が楽だ」という思考に至るのかもしれません。
燃え尽き症候群のように、一時的に「働きがい」を感じていた人が、その持続的なプレッシャーや期待に応えきれない状況で、働くことへの意欲を失ってしまうケースも少なくありません。
経済的安定を最優先する現実
「働きがい」を求めないという声の背後には、経済的な安定を最優先する現実的な価値観があります。参考情報によれば、日本人の仕事満足度は「わずか5%」で世界最低という調査もあり、賃上げの他にも必要な改革が指摘されています。これは、多くの日本人が仕事に対して、まず生活の糧を得る手段としての役割を重視していることを示唆しています。
特に不安定な経済情勢の中では、高収入、安定した雇用、充実した福利厚生といった条件が、個人のQOL(Quality of Life)を保障する上で最も重要だと考えられます。たとえ「働きがい」が低くても、十分な給与があればプライベートで充実感を得られると割り切る人々も少なくありません。
こうした層にとって、「働きがい」は二の次であり、精神的な充足よりも現実的な報酬や安定を求める傾向が強いと言えるでしょう。企業側も、単に「働きがい」を訴求するだけでなく、従業員の生活基盤を支える賃金や福利厚生の重要性を再認識する必要があります。
「働きがい」を押し付ける企業文化への反発
かつての日本企業には、従業員に「滅私奉公」を求めるような企業文化が根強く残っていました。時には「働きがい」という言葉が、過剰な労働やサービス残業、ハラスメントを正当化する口実として使われることもあったかもしれません。こうした経験から、「働きがい」という言葉自体にネガティブな印象を抱き、反発する人も存在します。
「働きがい」は本来、従業員が自律的に仕事に意義を見出し、前向きに取り組むための内発的な動機付けであるべきです。しかし、企業側が一方的に「うちの会社は働きがいがある」と押し付けたり、従業員に「やりがい搾取」のような形で労働を強いたりする文化は、現代の多様な価値観と相いれません。
ワークライフバランスを重視し、個人の生活を尊重する現代において、企業が「働きがい」を過度に強調しすぎることは、かえって従業員からの信頼を失い、エンゲージメント低下につながる可能性を秘めているのです。
それでも、私たちは仕事に何を求めるのか
ワーク・ライフ・バランスの絶対的重視
「働きがい」の定義が多様化する中でも、多くの人が仕事に求める共通項として、ワーク・ライフ・バランスの重視が挙げられます。2024年のZ世代を対象とした調査では、約9割もの学生がワークライフバランスを重視していることが明らかになりました。また、同年の「働きがいのある会社」若手ランキングでも、「仕事と生活のバランス」や「休暇の取りやすさ」といった項目がスコアアップしており、この傾向は明らかです。
これは、仕事のためにプライベートを犠牲にするのではなく、健康的な生活や趣味、家族との時間を大切にしながら、仕事にも充実感を見出したいという現代人の願いの表れです。リモートワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方へのニーズも、このワーク・ライフ・バランス重視の考え方から派生しています。
企業は、単に「休みが取れる」だけでなく、従業員が心身ともに健康でいられるような労働環境を提供することが、優秀な人材を引き付け、定着させる上で不可欠な要素となっています。
成長できる環境とスキルアップの機会
「働きがい」は必ずしも高収入や社会的地位のみを指すものではありません。多くの人が、仕事を通して自身の能力を向上させたい、新しいスキルを習得したいという成長意欲を持っています。参考情報によれば、仕事を通して成長したいと考える人は約60.5%にとどまるとはいえ、特に50代女性など高い層も存在し、そのニーズは幅広い世代にわたります。
自分自身の成長を実感できる環境は、日々の業務に新たな意味とモチベーションを与えます。具体的な例としては、新しいプロジェクトへの挑戦機会、外部研修や資格取得支援制度、上司や先輩からの丁寧なフィードバックなどが挙げられます。
企業は、従業員が常に学び続け、自身の市場価値を高められるようなキャリア形成支援を積極的に行うことで、「働きがい」の高い職場を構築できます。単に与えられた業務をこなすだけでなく、将来のキャリアを見据えた成長機会の提供が、従業員のエンゲージメントを高める鍵となります。
承認と貢献実感、心理的安全性
人は、自分の存在や努力が他者から認められ、自分が組織や社会に貢献していると感じるときに、深い満足感を得られます。参考情報にあるように、特にZ世代は、仕事の規模や成果よりも、周囲からの承認や、関わっている人から頼りにされることを重視する傾向があります。また、企業全体で「組織への貢献実感」や「心理的安全性」といった項目で、年次が低い層と高い層との間で差が出ている企業も見られます。
具体的には、上司や同僚からの感謝の言葉、適切な評価、自分の意見が聞かれ、それが業務に反映されることなどが挙げられます。このような経験を通じて、従業員は「自分はここにいても良いんだ」「自分の仕事には意味がある」と感じ、所属意識やモチベーションを高めます。
「心理的安全性」の高い職場では、失敗を恐れずに意見を表明したり、新しいアイデアを提案したりすることができます。このような環境は、個人の能力を引き出すだけでなく、チーム全体の創造性や生産性の向上にも寄与し、結果として「働きがい」に繋がるのです。
「働きがい」のある職場・仕事を見つけるヒント
自己理解を深めるキャリアデザイン
「働きがい」のある職場や仕事を見つける第一歩は、自分自身を深く理解することです。何が自分にとって「働きがい」となるのかは、人それぞれ異なります。参考情報にあるように、「働きがい」の定義は多様化しており、個々人が異なる価値観を持っています。
まずは、自分の強み、弱み、興味関心、そして仕事に求める価値観(例えば、給与、人間関係、成長機会、社会貢献など)を明確にしましょう。これらを棚卸しすることで、自分に合った仕事や職場を具体的にイメージできるようになります。
例えば、キャリアカウンセリングを利用したり、ストレングスファインダーのようなツールを活用したりするのも良いでしょう。自己理解を深めることで、表面的な情報に惑わされることなく、本当に自分にフィットする環境を見つけるための羅針盤を得られます。
企業文化とマッチングを見極める
次に重要なのは、自分の価値観と企業の文化がマッチするかどうかを見極めることです。いくら魅力的な求人であっても、企業文化が合わなければ、長続きせず「働きがい」も感じにくくなります。
企業のウェブサイトや採用情報だけでなく、IR情報、ニュース記事、社員のSNS投稿、あるいは社員の口コミサイトなどを参考に、その企業の「生の声」を探ってみましょう。可能であれば、OB・OG訪問やインターンシップを通じて、実際に働く人々の雰囲気や企業の文化を肌で感じることをお勧めします。
面接の際には、給与や待遇だけでなく、「社員の意見がどのように業務に反映されるか」「どのような人材育成が行われているか」「ワークライフバランスへの考え方」など、自分の求める「働きがい」に関わる具体的な質問を投げかけてみましょう。そうすることで、企業の真の姿と自分の価値観との合致度を測ることができます。
コミュニケーションとフィードバックの質
最後に、「働きがい」を大きく左右する要因として、職場におけるコミュニケーションとフィードバックの質が挙げられます。前述の通り、情報共有の不足や意見を聞かない姿勢は「働きがい」を低下させる大きな原因となります。
「働きがいのある会社」は、経営層から現場までオープンなコミュニケーションが保たれ、従業員の意見が尊重され、適切なフィードバックが定期的に行われる傾向があります。例えば、1on1ミーティングの実施頻度や内容、評価制度の透明性、プロジェクト完了後の振り返り(KPTなど)の有無などを確認すると良いでしょう。
これらの要素は、従業員が自身の成長を実感し、貢献を認められ、安心して働ける心理的安全性の高い職場環境を築く上で不可欠です。面接時や企業研究の段階で、これらのコミュニケーション文化について積極的に情報収集することで、「働きがい」のある職場を見つけるための重要なヒントを得られるはずです。
まとめ
よくある質問
Q: 日本の働きがいが低下している主な原因は何ですか?
A: 長時間労働、低賃金、昇進・昇給の機会の少なさ、評価制度の不透明さ、人間関係のストレスなどが複合的に影響していると考えられます。
Q: 「働きがいがない職場」にはどのような特徴がありますか?
A: 従業員の意見が尊重されない、成長機会が乏しい、目標が不明確、チームワークがない、ハラスメントが横行している、といった特徴が見られます。
Q: 「働きがいなんて求めるな」という意見は、どのような状況から生まれるのですか?
A: 仕事は生活のため、という割り切りや、努力しても報われない経験、過度な期待による疲弊などが背景にあると考えられます。また、SNSなどで共感を求める声も多く見られます。
Q: 「働きがい」以外に、仕事で大切にしたいことは何がありますか?
A: ワークライフバランス、安定した収入、スキルアップ、社会貢献、良好な人間関係、自己成長などが挙げられます。人によって優先順位は異なります。
Q: 「働きがい」を見つけるために、転職を考えるべきでしょうか?
A: 転職は一つの有効な手段ですが、まずは現在の職場で改善できる点がないか探ったり、自身の仕事への価値観を整理したりすることも重要です。それでも見つからない場合に、転職を検討するのが良いでしょう。