概要: ダブルワークを始める前に、労働時間の上限や労働基準法、労災保険、そして複雑な割増賃金のルールを理解しておくことが重要です。特に複数のアルバイトを掛け持ちする場合、それぞれの雇用主との間で賃金負担がどうなるか確認が必要です。
ダブルワークを安全に!労働時間・労災・割増賃金の注意点
働き方の多様化が進む現代において、ダブルワーク(副業・兼業)は多くの人にとって身近な選択肢となっています。
しかし、安全かつ効果的にダブルワークを継続するためには、労働時間の上限、労災保険の適用、そして割増賃金の計算方法について正確な知識を持つことが不可欠です。
ここでは、ダブルワークで損をせず、安心して働くための重要なポイントを解説します。
ダブルワークの労働時間上限と労働基準法
本業と副業の労働時間は通算される
労働基準法では、原則として1日の労働時間は8時間、週40時間以内(法定労働時間)と定められています。ダブルワークをしている場合、この法定労働時間は本業と副業の労働時間を合算して計算されます。
つまり、両方の職場で働く時間を合計し、週40時間、1日8時間を超えないように管理する必要があるのです。
労働基準法第38条には、事業場が異なっても労働時間は通算されると明記されています。例えば、A社で3時間、B社で5時間働いた場合、その日の労働時間は合計8時間としてカウントされます。
もし、この通算された労働時間が法定労働時間を超える場合は、雇用主は労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で36協定(時間外労働協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。知らずに法定労働時間を超えてしまうと、企業側も労働者側も思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があるため、自身の労働時間を正確に把握することが極めて重要です。
「管理モデル」で簡便な労務管理
ダブルワークにおける複雑な労働時間管理の負担を軽減するため、厚生労働省は「管理モデル」という簡便な方法を提示しています。
これは、各事業場で働く時間をそれぞれ上限設定し、他の事業場の実労働時間を個別に把握することなく、労働基準法を遵守できるようにするものです。
具体的には、例えば本業の会社が週30時間を上限とし、副業の会社が週10時間を上限とする、といった形で契約を交わします。このモデルを導入した場合、副業先は労働時間全体を法定外労働時間とみなし、割増賃金を支払うことになります。
企業側の労務管理の負荷を軽減し、労働者にとっても安心して副業ができるよう設計されていますが、これはあくまで簡便な管理方法です。労働者自身も、自身の健康管理や、それぞれの職場での労働時間を適切に把握し、過重労働にならないよう意識することが求められます。
労働時間規定が適用されないケース
労働基準法に定められている労働時間の上限規定は、すべての働き方に適用されるわけではありません。
例えば、フリーランスや個人事業主として働く場合、企業に雇用されている「労働者」とはみなされないため、労働基準法の労働時間に関する規定は適用されません。
この場合、労働時間の上限は存在しないことになりますが、その分、自己責任で働く時間を調整し、自身の健康管理を徹底する必要があります。また、企業における管理監督者など、一部の業種や職種も労働時間や休憩・休日に関する規定が適用除外となる場合があります。
ご自身の働き方がどのカテゴリーに属するのかを事前に確認し、適用される法規を理解しておくことが重要です。自身の働き方によっては、時間管理の責任がより一層大きくなることを認識しておきましょう。
ダブルワークで労災が発生した場合の保険と手続き
複数の就業先の賃金が合算される給付基礎日額
ダブルワーク中に万が一の労災事故が発生した場合、その補償内容は2020年9月の労災保険法改正により大きく改善されました。
以前は、労災が発生した職場の賃金のみを基に給付額が算定されていましたが、改正後は、複数の会社で働く労働者の場合、労災給付額の算定基準となる「給付基礎日額」が、すべての就業先の賃金を合算して計算されるようになりました。
例えば、本業の月給が20万円、副業の月給が10万円の場合、労災給付は合計30万円を基に算定されます。これにより、ダブルワーカーがより手厚い補償を受けられるようになり、安心して働くためのセーフティネットが強化されたと言えます。
従業員が1人でもいる事業所には労災保険への加入が義務付けられているため、ダブルワークをしている従業員も当然その対象となります。
「複数業務要因災害」で労災認定基準が変化
脳・心臓疾患や精神障害など、特定の疾患については、従来の労災認定基準が大きく見直され、「複数業務要因災害」として認定されるようになりました。
これは、複数の事業場での労働時間や業務負荷を総合的に評価し、労災認定を行うというものです。以前は個別の事業場での負荷のみが評価対象でしたが、改正後は、すべての就業先での労働時間や心理的負荷などを合算して判断されるようになりました。
この見直しにより、本業と副業での過重労働が複合的に健康被害を引き起こした場合でも、より公正に労災として認定される可能性が高まりました。
ダブルワークによる長時間労働やストレスが原因で健康を害してしまった際に、適切な補償を受けられる道が開かれたと言えるでしょう。
複数の事業場間移動も通勤災害に
通勤災害についても、ダブルワークを行う労働者にとって重要な変更がありました。
複数の事業場を掛け持ちしている労働者が、事業場間を移動中に事故に遭った場合、その移動も「通勤」とみなされ、「通勤災害」として扱われることがあります。
例えば、本業の職場から副業の職場へ向かう途中で事故に遭った場合などです。この場合も、給付基礎日額は各事業場での賃金を合算して算定されるため、手厚い補償が期待できます。
ただし、移動が「通勤」とみなされるためには、通常の通勤経路や方法であること、また移動の目的が業務に関連していることなどが考慮されます。万が一の事故に備え、移動経路や移動時間を記録しておくことも有効です。
これにより、ダブルワーク中の移動リスクに対する不安が軽減され、より安心して仕事に取り組めるようになったと言えるでしょう。
ダブルワークにおける割増賃金の複雑なルール
割増賃金の基本的な計算方法
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働した場合、労働者には割増賃金(いわゆる残業代)が支払われる必要があります。
割増賃金の計算方法は、労働の種類によって異なります。具体的には、
- 時間外労働: 法定労働時間を超えた労働には、25%(1.25倍)の割増賃金が発生します。特に、月に60時間を超える時間外労働には、50%(1.5倍)の高い割増率が適用されます。
- 休日労働: 法定休日に労働した場合は、35%(1.35倍)の割増賃金が発生します。
- 深夜労働: 午後10時から午前5時までの深夜に労働した場合は、25%(1.25倍)の割増賃金が発生します。深夜労働と時間外労働が重複する場合は、50%(1.5倍)の割増率となります。
例えば、時給1,000円の人が法定労働時間を超えて深夜に1時間勤務した場合、通常は1,000円 × 1.5倍 = 1,500円となります。複数の割増率が重複する場合の計算は複雑になるため、自身の労働時間がどの割増に該当するかを正確に把握しておくことが重要です。
割増賃金の請求先はどこになる?
ダブルワークで通算労働時間が法定労働時間を超え、割増賃金が発生した場合、その支払い義務を負うのは原則として後から労働契約を締結した会社(副業先)です。
これは、副業先が、労働者がすでに他の職場で働いているという実態を認識した上で労働契約を結ぶべきである、という考え方に基づいています。後から契約を結んだ会社が、労働者全体の労働時間を把握し、法定労働時間を超えないように管理する責任を負うというわけです。
しかし、例外もあります。先に労働契約を締結した会社(本業先)も、労働者の通算した労働時間が法定労働時間に達していることを認識していながら、さらに労働時間を延長させた場合、割増賃金の支払い義務を負うことがあります。どの会社が支払い義務を負うかは状況によって判断が異なるため、不明な点があれば専門家への相談を検討しましょう。
「管理モデル」利用時の割増賃金
前述した厚生労働省の「管理モデル」を導入している企業でダブルワークをしている場合、割増賃金の考え方に少し特徴があります。
管理モデルでは、副業先の会社は、労働者全体の労働時間を把握することなく、副業先での労働時間すべてを法定外労働時間として扱い、割増賃金を支払うことになります。
これは、副業先が、本業の労働時間を考慮せずに契約したリスクを負うという形です。労働者としては、自分の労働時間を正確に申告することが、適正な割増賃金を受け取るために非常に重要です。たとえ管理モデルが導入されている職場であっても、自身の労働時間を日々記録し、確認することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
管理モデルが適用されているかどうか、またその場合の割増賃金の計算方法についても、事前にそれぞれの雇用主に確認しておくことをお勧めします。
タイミーでのダブルワークと割増賃金の注意点
タイミーを含む日雇い・スポットワークでの労働時間管理
タイミーのような日雇い・スポットワークも、労働基準法の対象となる「労働時間」として扱われます。したがって、本業とタイミーでの労働時間を合算し、1日8時間、週40時間という法定労働時間の上限を守る必要があります。
スポットワークは短時間で多様な業務に就ける魅力がありますが、その分、全体の労働時間を把握しにくくなる傾向があります。例えば、平日の本業後に数時間、週末に数時間と複数のタイミー案件をこなした場合、気づかないうちに法定労働時間を超過してしまう可能性があります。
自身の健康を守り、適切な賃金を受け取るためにも、本業とタイミーを含むすべての業務の労働時間を常に把握し、記録しておくことが不可欠です。スマートフォンアプリや手帳などを活用し、日々の労働時間を細かく管理する習慣をつけましょう。
複数の業務での割増賃金発生の可能性
タイミーでの労働が、本業と合わせて法定労働時間を超えた場合、割増賃金が発生する可能性があります。
この場合、原則として「後から労働契約を締結した会社」が割増賃金の支払い義務を負うため、タイミーの案件がその対象となることがあります。
また、タイミーの案件には、午後10時から午前5時までの深夜帯に働くものも少なくありません。深夜労働には25%の割増賃金が発生するため、本業とタイミーの両方で深夜に働く場合、深夜割増が重複して適用される可能性もあります。
例えば、本業で既に深夜手当が発生している上で、タイミーでさらに深夜労働を行うと、合計の労働時間が法定労働時間を超えることで、本業またはタイミーでの賃金に割増が上乗せされることがあります。
タイミーで働く際は、案件の勤務時間だけでなく、本業との兼ね合いも考慮し、割増賃金が発生しうるタイミングを意識しておくことが重要です。
労働時間の正確な申告がカギ
タイミーのようなスポットワークでは、特に労働者自身が労働時間を正確に申告・記録する責任が重くなります。
タイミーのシステム上、勤務開始・終了時刻の打刻は行われますが、その情報が本業の雇用主に自動的に共有されるわけではありません。そのため、自身の労働時間を総合的に管理し、もし割増賃金が発生する状況になった場合に、それを雇用主に適切に伝えるためには、労働者自身による正確な記録が不可欠です。
不正確な申告は、適切な割増賃金を受け取れない原因になるだけでなく、自身の健康障害のリスクを高めたり、雇用主との信頼関係を損ねる可能性もあります。
タイムシートや記録アプリなどを活用し、日付、開始・終了時刻、休憩時間を明確に残すことを強く推奨します。これにより、自身の労働状況を客観的に把握し、適切な権利を主張するための証拠にもなり得ます。
ダブルワークで損しないための確認事項
就業規則の確認と健康管理の重要性
ダブルワークを始める前に、まず本業の会社の就業規則を必ず確認しましょう。副業が禁止されている企業や、許可制になっている企業も少なくありません。
無断で副業を行った場合、懲戒処分の対象となるリスクがあるため、必ず事前に確認し、必要であれば許可を得る手続きを行いましょう。トラブルを避けるための第一歩です。
また、ダブルワークは心身にかかる負担が非常に大きくなります。過労は生産性の低下だけでなく、深刻な健康問題につながる可能性があります。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、徹底した健康管理が何よりも重要です。
「自分は大丈夫」と思わず、定期的に自身の体調と心の状態をチェックし、無理をしない働き方を心がけましょう。健康あってこそのダブルワークです。
労働時間の正確な申告と記録
ダブルワークで損をしないためには、本業と副業、すべての労働時間を正確に記録・管理することが非常に重要です。
法定労働時間を超える可能性のある週や日は、特に意識して労働時間を確認し、もし超過している場合はその事実を認識しておく必要があります。これにより、適切な割増賃金を受け取れるだけでなく、自身の健康リスクを把握し、過重労働を未然に防ぐことにもつながります。
日々の労働時間を記録する習慣は、万が一の労災や賃金トラブルが発生した際に、自身の労働状況を客観的に証明する強力な証拠となります。スマートフォンアプリやスプレッドシートなどを活用し、日付、勤務先、開始・終了時刻、休憩時間を詳細に記録するよう心がけましょう。
最新情報の把握と専門家への相談
労働基準法や労災保険法、割増賃金に関するルールは、社会情勢や働き方の変化に合わせて改正されることがあります。
そのため、常に最新の情報を把握しておくことが、安全にダブルワークを継続するための鍵となります。厚生労働省のウェブサイトや労働基準監督署の広報などを定期的にチェックする習慣をつけましょう。
また、ダブルワークに関するルールは複雑であり、個々の状況によって適用が異なる場合があります。もし、ご自身の状況で不明な点や不安な点、あるいはトラブルに直面した場合は、自己判断せずに労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家のアドバイスは、トラブルを未然に防ぎ、安心してダブルワークを続けるための大きな助けとなるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: ダブルワークの合計労働時間の上限はありますか?
A: 直接的な上限はありませんが、1日の実労働時間が8時間を超える場合や、週40時間を超える場合は、労働基準法により割増賃金が発生します。また、長時間労働は健康を害するリスクも高まります。
Q: ダブルワーク中に労災事故にあった場合、労災保険は適用されますか?
A: はい、適用されます。労災事故は、どの職場での事故でも労働者災害補償保険(労災保険)の対象となります。複数の職場に雇用されている場合でも、それぞれの職場での労働時間中に発生した事故は原則として給付対象です。
Q: ダブルワークで残業代(割増賃金)はどのように計算されますか?
A: 割増賃金は、原則として1日の実労働時間が8時間を超える場合、または週40時間を超える場合に発生します。それぞれの勤務先で労働時間を合算して計算するのではなく、各勤務先ごとに規定に基づいて計算されるのが一般的です。
Q: タイミーのような単発バイトを複数した場合、割増賃金はどのように扱われますか?
A: タイミーのような単発バイトでも、労働基準法は適用されます。1日の労働時間が8時間を超えたり、週40時間を超えたりした場合には、雇用主は割増賃金を支払う義務があります。ただし、勤務先ごとに労働時間が管理されるため、個別の勤務での超過分に対して発生します。
Q: ダブルワークで割増賃金はどちらの会社が支払うのですか?
A: 原則として、割増賃金は労働基準法で定められた労働時間を超えた勤務に対して、その労働時間が発生した勤務先の事業主が支払う義務があります。複数の勤務先でそれぞれ法定労働時間を超えた場合に、それぞれの勤務先から割増賃金を受け取ることができます。