1. 「終身雇用」は本当に消滅する?その理由と知っておきたい最新動向
    1. なぜ「終身雇用」は守れないと言われるのか?
      1. 経済構造の変化と人件費の高騰
      2. 少子高齢化がもたらす構造的課題
      3. 労働者の価値観の多様化と成果主義の台頭
    2. それでも「終身雇用」がなくならない意外な理由
      1. 依然として根強い「安定志向」
      2. 企業側の「安定供給」メリット
      3. 実質的な維持と過渡期の日本企業
    3. 「終身雇用」復活の兆しと法律・制度の現状
      1. 新しい「日本型雇用」の模索
      2. 法制度における雇用の保護と課題
      3. 企業が取り組む人材育成とキャリア支援
    4. 「終身雇用」と年功序列・能力主義、労使協調の関係
      1. 年功序列と能力主義のせめぎ合い
      2. 「ジョブ型雇用」への緩やかな移行
      3. 労使協調の伝統とこれからの課題
    5. 非正規雇用や派遣社員、離職率から見る「終身雇用」の未来
      1. 非正規雇用の増加と雇用の二極化
      2. 高まる離職率と若年層の意識変化
      3. テクノロジー進化と求められるスキル
  2. まとめ
  3. よくある質問
    1. Q: 「終身雇用」が守れないと言われる主な理由は何ですか?
    2. Q: それでも「終身雇用」はなくならないと言える根拠はありますか?
    3. Q: 「終身雇用」を法律で守ることは可能ですか?
    4. Q: 「終身雇用」と年功序列・能力主義はどのように関係しますか?
    5. Q: 非正規雇用や派遣社員の増加は、「終身雇用」にどのような影響を与えますか?

「終身雇用」は本当に消滅する?その理由と知っておきたい最新動向

なぜ「終身雇用」は守れないと言われるのか?

経済構造の変化と人件費の高騰

かつて日本の経済成長を支えた終身雇用制度ですが、バブル経済の崩壊以降、その維持は困難になりつつあります。日本経済が長期的な低成長期に突入し、企業の収益が不安定化する中で、終身雇用を前提とした年功序列型の賃金体系は、企業にとって大きな人件費負担となりました。

特に、団塊ジュニア世代が中高年期に入り、人件費が膨らむことは企業の経営を圧迫する要因となっています。この状況は、2019年5月には希望・早期退職者を募る上場企業が27社に上り、前年の12社から倍増したことからも伺えます。企業は生き残りのため、従来の雇用形態からの脱却を模索せざるを得ない状況にあります。

少子高齢化がもたらす構造的課題

少子高齢化は、終身雇用制度の維持をさらに困難にしています。生産年齢人口が減少する一方で、高齢社員の比率が増加するため、企業の人件費構造が大きく変化しています。年功序列型賃金体系では、勤続年数が長くなるほど賃金が上昇するため、高齢社員が増えることは企業全体の給与総額を押し上げます。

若手人材の採用が難しくなる中で、企業は限られたパイの中から優秀な人材を確保し、効率的な人件費運用を行う必要に迫られています。これは、長期雇用を前提とした賃金制度の見直しを促し、終身雇用という日本的雇用の根幹を揺るがす大きな要因となっています。

労働者の価値観の多様化と成果主義の台頭

「終身雇用=安定」という価値観は、もはや絶対的なものではなくなりました。近年では、ワークライフバランスを重視する傾向や、自身のキャリアアップへの関心の高まりから、転職が当たり前という意識が広まっています。

特に若年層を中心に、自身のライフスタイルやキャリアプランに合った働き方を追求する傾向が強まっています。企業側も、従業員の成果を評価に反映させる「成果主義」を導入する動きが加速しており、これは勤続年数に応じて昇給する年功序列とは根本的に異なる考え方です。テクノロジーの進化により求められるスキルが変化する中、企業はより柔軟で多様な人材の確保と育成を迫られています。

それでも「終身雇用」がなくならない意外な理由

依然として根強い「安定志向」

終身雇用が困難になっていると言われる一方で、その安定性への根強い需要は依然として存在します。特に景気の先行きが不透明な現代において、長期的な雇用と安定した収入を望む労働者の心理は、依然として無視できません。

2016年時点の調査では、若い頃に入社して同一企業に勤め続けている従業員の割合は、大卒で約5割、高卒で約3割でした。1995年以降この割合は低下傾向にありますが、それでも多くの労働者が終身雇用のもとで働いている実態を示しています。特に中小企業や地方企業では、人材の流動性が都市部ほど高くないため、終身雇用的な働き方が継続しているケースも多く見られます。

企業側の「安定供給」メリット

企業にとっても、終身雇用にはメリットがあります。一つは、優秀な人材の流出を防ぎ、長期的に育成できる点です。従業員が長期にわたって勤めることで、企業独自の技術やノウハウが蓄積され、組織全体の生産性向上につながります。

また、企業文化や理念を深く共有した従業員が増えることで、組織の一体感が醸成されやすくなります。頻繁な人材の入れ替わりは、採用や研修にかかるコストを増大させるだけでなく、組織内の連携を阻害する可能性もあります。そのため、企業によっては、従業員のエンゲージメントを高め、定着を促すために、実質的な終身雇用に近い制度を維持している場合もあります。

実質的な維持と過渡期の日本企業

「終身雇用は完全に消滅した」とは断言できないものの、その維持が難しくなっているのは事実です。しかし、多くの企業が、名目上は終身雇用を維持しつつ、実態としては制度を柔軟に運用している「過渡期」にあると言えるでしょう。

例えば、成果主義の一部導入や、役職定年制度、希望退職の募集などを組み合わせることで、従来の終身雇用の形を部分的に変えながら、雇用責任を完全に放棄しない姿勢を見せています。前述のデータが示すように、約半数の企業は依然として終身雇用制度を継続しているという調査結果もあり、完全に「消滅」したわけではなく、多様な形で変容していると理解するのが適切です。

「終身雇用」復活の兆しと法律・制度の現状

新しい「日本型雇用」の模索

終身雇用のメリットと、現代の経済状況や労働者のニーズを融合させた、新しい「日本型雇用」が模索されています。これは、欧米型の完全なジョブ型雇用に移行するのではなく、長期雇用を前提としつつも、個人の能力や成果をより適切に評価し、柔軟な働き方を許容する形です。

例えば、社員の主体的なキャリア形成を支援するリスキリングプログラムの導入や、社内公募制度の活性化、多様な働き方を認める制度設計などが進められています。企業は従業員のエンゲージメントを高め、長く働き続けてもらうための新たな価値提案を模索していると言えるでしょう。

法制度における雇用の保護と課題

日本の労働法制は、解雇規制が厳しいことで知られています。労働契約法などの法律が存在するため、企業が一方的に従業員を解雇することは容易ではありません。この法制度は、ある意味で終身雇用の実質的な保護につながっており、企業が安易に雇用契約を終了できない環境を作っています。

一方で、この解雇規制の厳しさが、企業の雇用の流動性を妨げ、新たな人材の採用や事業再編を難しくしているという指摘もあります。終身雇用の維持が困難になった背景には、このような法制度と経済実態との間に生じるギャップも関係していると考えられます。

企業が取り組む人材育成とキャリア支援

終身雇用の変容期において、企業は従業員に対する人材育成とキャリア支援の重要性を再認識しています。AIなどのテクノロジー進化により求められるスキルが変化する中、従業員が時代に合わせた能力を身につけ、市場価値を維持できるよう、企業は積極的な投資を行っています。

具体的には、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のための研修、異動によるジョブローテーションの活性化、社外学習支援などが挙げられます。これは、単に企業が従業員を「使い続ける」だけでなく、従業員が自律的にキャリアを築けるようサポートすることで、長期的な雇用関係を再構築しようとする動きとも言えます。

「終身雇用」と年功序列・能力主義、労使協調の関係

年功序列と能力主義のせめぎ合い

終身雇用制度の根幹をなしていたのが年功序列型の賃金体系でした。これは、勤続年数に応じて賃金が上昇し、安定した生活設計を可能にする一方で、人件費の硬直化や若手社員のモチベーション低下といった課題も抱えていました。

経済状況の変化により、企業は競争力強化のため、従業員の成果をより重視する「能力主義」や「成果主義」の導入を加速させています。これにより、従来の年功序列と新しい能力主義の間で、評価・賃金制度のせめぎ合いが生じています。完全に年功序列を廃止する企業はまだ少数ですが、評価制度に能力主義の要素を強く取り入れることで、実質的な変革を進めています。

「ジョブ型雇用」への緩やかな移行

能力主義の延長線上にあるのが「ジョブ型雇用」です。これは、職務内容を明確化し、その職務の遂行能力や成果に基づいて評価・報酬を決定する雇用形態を指します。日本では、欧米のような厳格なジョブ型への一斉移行ではなく、日本独自の「ハイブリッド型」ジョブ型雇用が模索されています。

具体的には、幹部層や専門職に限定してジョブ型を導入したり、職務記述書を作成しつつも、長期的な育成や配置転換の柔軟性を残したりするケースが多く見られます。これにより、長期雇用と個人の能力・成果を両立させようとする試みがなされています。

労使協調の伝統とこれからの課題

日本の企業文化では、企業と労働組合が協調し、従業員の雇用維持と生活の安定を重視する「労使協調」の伝統が根付いていました。これにより、経済情勢が厳しい局面でも、企業は解雇を避けて配置転換や一時帰休で対応し、終身雇用を実質的に守ってきました。

しかし、非正規雇用の増加や多様な働き方の進展により、労働組合の組織率が低下し、労使協調のあり方も変化を迫られています。今後は、正社員だけでなく、非正規雇用や派遣社員、フリーランスといった多様な働き手の声をどのように労働条件交渉に反映させていくかが、新たな課題となっています。

非正規雇用や派遣社員、離職率から見る「終身雇用」の未来

非正規雇用の増加と雇用の二極化

終身雇用の維持が困難になった要因の一つとして、非正規雇用の増加が挙げられます。企業は人件費を抑制し、経営の柔軟性を高めるために、契約社員、パートタイマー、アルバイトといった非正規雇用を積極的に活用してきました。

これにより、正規雇用と非正規雇用の間で賃金や待遇に格差が生じ、雇用の二極化が進んでいます。非正規雇用は、企業の業績変動に柔軟に対応できるメリットがある一方で、労働者の安定した生活を脅かすリスクも抱えています。この傾向は、従来の「正社員=終身雇用」という図式を大きく変容させています。

高まる離職率と若年層の意識変化

現代の若年層は、従来の終身雇用に対する意識が大きく変化しています。キャリアアップのため、あるいはワークライフバランスを求めて、転職をためらわない傾向が顕著です。

終身雇用を前提とした企業への帰属意識も希薄になりつつあり、自身の市場価値を高めることや、個人の成長を優先する傾向が強まっています。例えば、2019年5月には早期・希望退職者を募る上場企業が27社に上るなど、企業側も雇用の調整を進めており、労働者側も「一つの会社に骨を埋める」という意識から変化していることがうかがえます。これにより、企業は優秀な人材を惹きつけ、定着させるための新たな戦略が求められています。

テクノロジー進化と求められるスキル

AIやRPAなどのテクノロジーが急速に進化する現代において、定型業務の自動化が進み、企業に求められるスキルが大きく変化しています。これにより、既存の職務が消滅したり、新たな職務が生まれたりするため、従業員は常に新しいスキルを習得し続ける必要があります。

企業は、長期雇用を維持しつつも、従業員が時代の変化に対応できるスキルを身につけられるよう、リスキリングやキャリアチェンジを支援する義務を負いつつあります。終身雇用は、もはや「安心」ではなく、「常に学び続ける」ことを前提とした、より柔軟で多様な雇用形態へと進化していくと考えられます。