1. 雇用保険料の基本:会社負担と労働者負担の割合
    1. 雇用保険料とは?その目的と特徴
    2. 2024年度の雇用保険料率:一般事業の場合
    3. なぜ会社と労働者が分担するのか?その法的根拠
  2. 会社負担分の雇用保険料、どう計算する?
    1. 基本的な計算式:賃金総額×雇用保険料率
    2. 賞与にも発生する雇用保険料
    3. 納付時期と方法:年に一度のまとめ払い
  3. 雇用保険料の月額賃金とランクについて
    1. 雇用保険料の対象となる「賃金」の範囲
    2. 賃金総額とは?計算における注意点
    3. 高齢労働者の雇用保険料:2020年4月以降の変更点
  4. 現物給与や累進課税は雇用保険料にどう影響する?
    1. 「現物給与」が雇用保険料に与える影響
    2. 累進課税と雇用保険料の関連性
    3. 事業の種類による料率の違い:あなたの会社はどの区分?
  5. 雇用保険料、会社負担分で悩まないためのポイント
    1. 正しい料率の確認と情報収集の重要性
    2. 専門家(社会保険労務士)への相談
    3. 定期的な賃金計算の見直しと確認
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 雇用保険料の会社負担と労働者負担の割合はどうなっていますか?
    2. Q: 会社負担分の雇用保険料はどのように計算されますか?
    3. Q: 雇用保険料の「月額賃金」と「ランク」とは何ですか?
    4. Q: 現物給与や累進課税は雇用保険料の計算に影響しますか?
    5. Q: 会社負担分の雇用保険料を計算する上で、特に注意すべき点は何ですか?

雇用保険料の基本:会社負担と労働者負担の割合

雇用保険料とは?その目的と特徴

雇用保険は、失業時の生活保障、育児休業や介護休業中の収入補填、そして能力開発支援など、働く人々の安定した生活と雇用の促進を目的とした重要な社会保険制度です。この制度は、労働者と事業主(会社)が共に保険料を負担することで成り立っています。

労働者が安心して働き続けられる環境を整える上で、雇用保険はセーフティネットとしての役割を担い、企業の持続的な成長にも寄与します。会社にとっては、従業員の福利厚生を充実させるだけでなく、社会貢献の一環としても位置づけられます。

雇用保険料は、毎月の給与や賞与から算定されるため、経理担当者は正確な計算と適切な納付が求められます。この保険制度が、従業員のキャリアと生活を多角的に支えていることを理解することが、適切な運用への第一歩となるでしょう。

2024年度の雇用保険料率:一般事業の場合

2024年度(令和6年度)の雇用保険料率は、前年度(2023年度)と同率が適用されています。事業の種類によって異なりますが、ここでは一般的な事業における料率を解説します。

雇用保険料は、大きく分けて「失業等給付・育児休業給付」と「雇用保険二事業」の二つの目的で徴収されます。それぞれの内訳と合計料率は以下の通りです。

区分 労働者負担 事業主負担 合計
失業等給付・育児休業給付 6/1,000 (0.6%) 9.5/1,000 (0.95%) 15.5/1,000 (1.55%)
雇用保険二事業 3.5/1,000 (0.35%) 3.5/1,000 (0.35%)
合計(一般の事業) 6/1,000 (0.6%) 13/1,000 (1.3%) 19/1,000 (1.9%)

上記の表から分かるように、一般の事業では事業主が賃金総額の1.3%を負担します。なお、農林水産・清酒製造の事業や建設の事業では料率が異なるため、自社の事業区分を正確に把握することが極めて重要です。

なぜ会社と労働者が分担するのか?その法的根拠

雇用保険は、雇用保険法に基づいて運営される強制加入の社会保険制度です。この法律により、労働者と事業主双方に保険料の負担が義務付けられています。この仕組みは、単にコストを分担するだけでなく、社会全体で雇用の安定と労働者の生活を支えるという相互扶助の精神に基づいています。

会社が負担する雇用保険料は、従業員の生活保障と雇用の安定に繋がり、ひいては企業全体の生産性向上にも寄与する重要な投資と捉えることができます。労働者が安心して働き、能力を発揮できる環境を構築するためには、会社と労働者双方の貢献が不可欠なのです。

この分担によって、万が一の事態が発生した際に、個人だけでなく社会全体でリスクを分かち合う仕組みが構築されています。これにより、企業は社会的な責任を果たすと共に、従業員のエンゲージメント向上にも繋がると言えるでしょう。

会社負担分の雇用保険料、どう計算する?

基本的な計算式:賃金総額×雇用保険料率

会社が負担する雇用保険料の計算は非常にシンプルです。「賃金総額 × 事業主負担の雇用保険料率」という基本式で算出されます。この「賃金総額」には、基本給だけでなく、通勤手当、残業手当、各種手当なども含まれます。

例えば、一般の事業で月給25万円の従業員がいる場合の計算を見てみましょう。2024年度の一般事業における事業主負担の雇用保険料率は1.3%(失業等給付・育児休業給付の0.95%と雇用保険二事業の0.35%の合算)です。

計算例:月給25万円の従業員の場合(一般の事業)

  • 賃金総額: 250,000円
  • 事業主負担の雇用保険料率: 1.3%
  • 事業主負担の雇用保険料 = 250,000円 × 1.3% = 3,250円

このように、従業員一人ひとりの賃金総額に応じて、会社が負担する雇用保険料が決定されます。計算は比較的容易ですが、賃金総額に何を含めるかを正確に判断することが重要です。

賞与にも発生する雇用保険料

雇用保険料は、月々の給与だけでなく、従業員に支給される賞与(ボーナス)にも発生します。賞与にかかる保険料も、給与と同様に賃金総額に保険料率を乗じて計算されます。

ただし、注意すべきは、給与と賞与は合算せずに、それぞれ個別に計算する必要があるという点です。これは、雇用保険料の計算期間が異なるため、混同しないよう管理することが求められます。賞与は多くの場合、年に数回、特定の月に支給されるため、その都度、賃金総額を正確に把握し、保険料を算出する必要があります。

賞与の支給は会社の業績や個人の評価に連動することが多いため、支給額の変動に合わせて雇用保険料も変動します。正確な計算を行うためには、賞与支給の都度、賃金総額を正確に把握し、適切に計上することが不可欠です。

納付時期と方法:年に一度のまとめ払い

従業員が負担する雇用保険料は、毎月の給与から天引きされ、会社がまとめて国に納付します。一方、会社が負担する雇用保険料は、通常、年に一度、「労働保険料の確定申告(年度更新)」の際にまとめて納付します。

この年度更新の手続きは、前年度(4月1日~3月31日)に支払われた賃金総額に基づいて計算され、その年の6月1日から7月10日までの間に申告・納付を行うのが一般的です。労働保険料には、雇用保険料の他に労災保険料も含まれるため、一括して手続きを行うことになります。

この年度更新の手続きは、会社の経理・総務部門にとって非常に重要な業務の一つであり、期限内の正確な申告・納付が求められます。適切な計画と準備を行うことで、スムーズな納付が可能となるでしょう。

雇用保険料の月額賃金とランクについて

雇用保険料の対象となる「賃金」の範囲

雇用保険料を計算する際の「賃金」とは、労働の対価として支払われるすべてのものを指します。具体的には、以下のようなものが賃金に算入されます。

  • 基本給: 月々の固定給
  • 賞与: 定期的に支給されるボーナス
  • 通勤手当: 課税・非課税を問わず、交通費として支給される手当
  • 残業手当・深夜手当: 時間外労働や深夜労働に対して支払われる手当
  • 扶養手当・家族手当: 扶養家族がいる場合に支給される手当
  • 各種手当: 技能手当、住宅手当など、労働の対価として支払われるもの

一方で、恩恵的な一時金(例:金一封、大入り袋)や、休業補償、傷病手当、退職金などは、労働の対価とはみなされないため、雇用保険料の計算対象となる賃金には含まれません。この区別を正確に理解しておくことが、適切な保険料計算の第一歩です。

賃金総額とは?計算における注意点

雇用保険料の計算において、「賃金総額」とは、期間内に従業員に支払われた上記「賃金」に算入される給与や手当の合計額を指します。この総額に雇用保険料率を乗じることで、保険料が算出されます。

特に注意すべきは、一時的な恩恵として支給される金銭は賃金総額には含まれないという点です。例えば、会社の創立記念品としての金銭や、突発的な売上達成を祝う「大入り袋」などは、労働の対価とはみなされません。これらの支給は、雇用保険の計算からは除外されることを覚えておきましょう。

また、雇用保険料の計算は、健康保険や厚生年金保険のように「標準報酬月額」というランク分け(等級)に基づいて行われるわけではありません。支払われた実際の賃金総額に直接料率を乗じて計算されるため、より実態に即した負担額となります。

高齢労働者の雇用保険料:2020年4月以降の変更点

以前は65歳以上の労働者には雇用保険の加入義務がありませんでしたが、2020年4月1日以降、一定の条件を満たす65歳以上の高齢労働者も「高年齢被保険者」として雇用保険への加入が義務付けられています。これにより、高齢者も失業給付や育児休業給付などの対象となり、より安定した雇用環境を享受できるようになりました。

会社としては、65歳以上の従業員に対しても、他の従業員と同様に雇用保険料の計算・納付が必要となります。高年齢被保険者の雇用保険料率も、他の被保険者と同じ料率が適用されます。

少子高齢化が進む日本において、高齢者の就労を支え、セーフティネットを強化する重要な制度改正の一つと言えるでしょう。この変更点を見落とさないよう、適切に対応することが企業には求められます。

現物給与や累進課税は雇用保険料にどう影響する?

「現物給与」が雇用保険料に与える影響

雇用保険料の計算対象となる「賃金」は、原則として現金で支払われるものを指します。そのため、会社から提供される「現物給与」(例:社員食堂での食事の提供、社宅の貸与など)は、基本的に雇用保険料の計算対象となる賃金には含まれません

しかし、一部例外として、厚生労働大臣が定めるものについては現物給与であっても賃金として算入される場合があります。例えば、通勤定期券などの金銭で評価できる現物支給は、賃金に含めるケースがあります。この点は、健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額の算定においては現物給与が評価されて含まれる場合があるため、混同しないよう注意が必要です。

雇用保険は「現金で支払われる賃金」が基本であると覚えておきましょう。不明な点があれば、所轄のハローワークや社会保険労務士に確認することが賢明です。

累進課税と雇用保険料の関連性

雇用保険料は、所得税や住民税のように所得の多寡に応じて税率が段階的に上がる「累進課税」の仕組みは採用していません。賃金総額に対して、定められた一定の保険料率(一般の事業主負担は1.3%)が一律に適用されます。これは、全ての被保険者が同じ制度のもとで公平に負担し、恩恵を受けられるようにするためです。

そのため、従業員の給与額が高くなっても、雇用保険料率が変動することはありません。支払われた賃金総額に、定められた料率を乗じることで雇用保険料は常に一定の割合で計算されます。

ただし、雇用保険料は社会保険料控除の対象となるため、所得税や住民税の計算においては課税所得を減らす効果があります。間接的に税負担の軽減に寄与する側面はありますが、雇用保険料自体の計算方法には累進課税の考え方は影響しません。

事業の種類による料率の違い:あなたの会社はどの区分?

雇用保険料率は、全ての事業で一律ではありません。特に「農林水産・清酒製造の事業」や「建設の事業」では、一般の事業とは異なる料率が適用されます。これは、これらの事業が持つ固有の労働環境やリスクを考慮して設定されているためです。

例えば、建設の事業では、雇用保険二事業の事業主負担率が一般の事業の0.35%に対し、0.45%と高めに設定されています。これは、建設事業の特殊性や労働者の雇用安定を図るための措置と言えるでしょう。

自社の事業がどの区分に該当するかを正確に確認することは、適切な雇用保険料の計算と納付を行う上で非常に重要です。誤った料率を適用すると、追徴金が発生したり、逆に過払いが生じたりする可能性があるため、不明な場合は管轄のハローワークや社会保険労務士に確認しましょう。

雇用保険料、会社負担分で悩まないためのポイント

正しい料率の確認と情報収集の重要性

雇用保険料率は、法改正によって変更される可能性があります。特に、参考情報にもあったように、2025年度から育児休業給付の支給増に伴い、雇用保険料率が引き上げられる可能性が示唆されています。このような法改正の情報は常にチェックしておく必要があります。

常に最新の料率情報を厚生労働省やハローワークのウェブサイトで確認し、自社の事業区分に合った正しい料率を適用することが不可欠です。情報のアップデートを怠ると、過不足が生じ、税務調査などで指摘を受けるリスクがあります。

会社の経理・人事担当者は、定期的に関連情報を確認し、変更があった際には速やかに計算に反映させる体制を整えておくべきでしょう。これにより、法令順守を徹底し、企業の信頼性を高めることができます。

専門家(社会保険労務士)への相談

雇用保険料の計算や手続きは、一見シンプルに見えても、従業員の状況(育児休業、介護休業など)や会社の事業内容によって複雑になることがあります。特に、法改正への対応や、個別の賃金体系における賃金総額の判断など、迷う点も少なくありません。

そのような場合は、社会保険労務士のような専門家への相談を検討しましょう。専門家は最新の法令知識と豊富な実務経験を持っており、正確な計算方法や適切な手続きについて的確なアドバイスを提供してくれます。

専門家を活用することで、計算ミスによるトラブルを回避し、時間と労力を節約できるだけでなく、コンプライアンスの強化にも繋がります。安心して企業活動を行うためにも、専門家の知見を積極的に活用することをおすすめします。

定期的な賃金計算の見直しと確認

雇用保険料は「賃金総額」に基づいて計算されるため、従業員に支払われる手当や給与体系に変更があった場合は、必ず賃金総額の計算対象を見直す必要があります。例えば、新たに導入された手当が雇用保険の賃金対象となるのか、それともならないのかを正確に判断することが重要です。

また、育児休業や介護休業中は無給となるため、その期間の雇用保険料は発生しませんが、雇用保険の資格は維持される点も覚えておきましょう。このような休業中の取り扱いについても、事前に確認しておくことが大切です。

定期的に賃金計算のプロセスと対象範囲を確認し、常に最新かつ正確な状態で管理することで、会社負担分の雇用保険料に関する悩みを解消し、円滑な企業運営に貢献できます。これにより、従業員の信頼も得られることでしょう。