概要: 雇用保険の加入義務化について、対象者、要件、いつから義務化されるのかを詳しく解説します。フリーランスや学生、外国人、会社役員、NPO法人、酪農、技能実習生、ワーキングホリデーなど、様々なケースにおける雇用保険の加入についても触れ、加入しない選択肢についても解説します。
雇用保険とは?知っておきたい基本
雇用保険の目的と役割
雇用保険は、働く人々の生活と雇用の安定を目的とした、日本の重要な社会保険制度の一つです。失業した際の生活を支援する「失業等給付」だけでなく、育児休業中の生活を支える「育児休業給付金」や、専門的な知識やスキルを習得するための「教育訓練給付金」など、多岐にわたる給付を通じて、働く人々をサポートしています。
これは、単に失業時のセーフティネットとしてだけでなく、労働者が安心して働き続け、キャリアアップを目指せる環境を整備するための基盤ともいえるでしょう。特に、予期せぬ理由で職を失った際や、人生の節目で大きなライフイベントを迎えた際に、経済的な不安を軽減し、早期の再就職や円滑な社会復帰を支援する役割を担っています。
企業にとっても、雇用保険は労働者の福利厚生の一環として、従業員の定着やモチベーション向上に繋がる重要な要素となります。まさに、労働者と企業双方にとって欠かせない制度と言えるでしょう。
加入対象となる労働者
雇用保険の加入対象者は、雇用形態(正社員、パート、アルバイトなど)に関わらず、以下の3つの条件をすべて満たす労働者です。これは法律で定められた義務であり、企業は対象となる労働者を雇用した場合、必ず加入手続きを行う必要があります。
- 雇用期間: 31日以上雇用される見込みがあること
- 労働時間: 所定労働時間が週20時間以上であること
- 学生でないこと: 原則として昼間部の学生は対象外ですが、通信制や夜間部、休学中の学生などは例外的に加入できる場合があります。
これらの条件は、労働者の安定した雇用を確保し、保険制度の公平性を保つために設けられています。特に、短時間労働者であるパートやアルバイトであっても、上記の条件を満たせば雇用保険の対象となるため、自身の働き方が加入要件に当てはまるかを確認することが大切です。
なお、後述しますが、この加入要件は2028年10月からさらに緩和される予定です。
雇用保険料の仕組みと負担
雇用保険料は、労働者と事業主(会社)がそれぞれ負担する形で成り立っています。この保険料は、給与額に一定の料率をかけて計算され、主に「失業等給付・育児休業給付の保険料」と「雇用保険二事業の保険料」の2種類で構成されています。
特に、失業等給付と育児休業給付の保険料は、労働者と事業主が共に負担します。一方、雇用保険二事業(雇用安定事業や能力開発事業など)の保険料は、事業主のみが負担します。これにより、労働者の生活安定だけでなく、企業活動を通じた雇用促進や労働者のスキルアップも支援されています。
参考として、2025年度(令和7年度)の一般の事業における雇用保険料率は以下のようになります。この料率は、景気や雇用情勢によって変動する可能性があります。
区分 | 内訳 | 料率 | 負担者 |
---|---|---|---|
失業等給付・育児休業給付 | 労働者負担 | 0.55% (5.5/1,000) | 労働者 |
事業主負担 | 0.55% (5.5/1,000) | 事業主 | |
雇用保険二事業 | 雇用保険二事業 | 0.35% (3.5/1,000) | 事業主のみ |
合計料率 | 1.45% (14.5/1,000) |
なお、業種によっては料率が異なる場合があり、例えば農林水産・清酒製造の事業や建設の事業では、一般の事業よりも料率が高めに設定されています。また、2025年度からは雇用保険料率が引き下げられる予定であり、企業・労働者双方の負担が軽減される見込みです。
雇用保険の加入義務があるのは誰?条件と対象者を詳しく
雇用保険の「義務」とは何か
雇用保険は、労働基準法や健康保険法などと同様に、社会保障制度の一つとして法律で定められています。このため、企業が一定の条件を満たす労働者を雇用している場合、その企業には雇用保険への加入手続きを行うことが法的に義務付けられています。これを「強制適用事業」と呼びます。
この義務は、労働者の生活を守るためのセーフティネットを社会全体で維持するという目的から発生しています。企業側が任意で加入を決められるものではなく、対象となる労働者を一人でも雇用していれば、必ず加入手続きを行い、保険料を納める責任があります。
この義務を果たすことで、労働者は万一の失業時や育児休業取得時などに、経済的な支援を受けることが可能になります。企業にとっても、適切な手続きを行うことは、法令遵守の観点から非常に重要です。
具体的な加入条件と例外
先にも述べたように、雇用保険の加入対象となるのは、以下の3つの条件をすべて満たす労働者です。これらの条件は、労働者の雇用形態(正社員、パート、アルバイトなど)によって変わることはありません。
- 雇用期間: 31日以上雇用される見込みがあること
- 労働時間: 所定労働時間が週20時間以上であること
- 学生でないこと: 原則として昼間部の学生は対象外ですが、通信制や夜間部、休学中の学生などは例外的に加入できる場合があります。
これらの条件は、雇用保険の給付対象となる労働者の範囲を明確にするために設定されています。例えば、短期のアルバイトや、ごく短時間の勤務であれば対象外となることがあります。
しかし、この条件は社会の変化に合わせて見直しが進んでいます。特に注目すべきは、2028年10月から週の所定労働時間が10時間以上であれば雇用保険の加入対象となるように、加入要件が緩和される予定である点です。この改正により、これまで対象外だった多くのパートやアルバイトの方々、約500万人が新たに雇用保険の対象となると見込まれています。
これにより、より多くの短時間勤務の労働者が雇用保険のセーフティネットの恩恵を受けられるようになります。
企業が加入を怠った場合の罰則
雇用保険の加入は、要件を満たす労働者を雇用する企業にとって法律上の義務です。もし、企業がこの加入義務があるにもかかわらず、手続きを行わなかったり、意図的に加入を避けたりした場合、雇用保険法に基づき厳しい罰則が科される可能性があります。
具体的には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。これは企業だけでなく、その代表者や担当者が責任を問われる可能性もあるため、非常に重い処分と言えるでしょう。
罰則のリスクだけでなく、加入を怠った場合、その企業の労働者は失業手当や育児休業給付金など、本来受け取れるはずの給付金を受け取れなくなります。これは労働者にとって非常に大きな不利益であり、企業は労働者からの信頼を失うことにも繋がります。
さらに、未加入が発覚した際には、過去に遡って保険料を徴収されるだけでなく、延滞金が課されることもあります。企業は法令遵守の観点からも、社会的な責任からも、適切な雇用保険の手続きを行うことが不可欠です。
「義務化はいつから?」雇用保険の最新動向
週10時間労働者への対象拡大
雇用保険制度は、多様化する働き方に対応するため、常に進化を続けています。その中でも特に大きな変更点として、2028年10月から、週の所定労働時間が10時間以上であれば雇用保険の加入対象となるよう、要件が緩和される予定です。
現在の加入要件は週20時間以上ですが、この改正によって、より多くの短時間勤務のパートタイム労働者やアルバイトが、雇用保険のセーフティネットの対象となります。これにより、約500万人の労働者が新たに雇用保険の保障を受けられるようになると見込まれており、万一の失業時や育児休業取得時にも、経済的な支援を受けやすくなります。
この変更は、非正規雇用で働く人々の雇用の安定を図り、労働者の生活基盤を強化することを目的としています。企業側も、この変更に備え、対象となる労働者の洗い出しや、必要な手続きの準備を進める必要があります。
自己都合離職者の給付制限期間短縮
雇用保険のもう一つの重要な改正として、2025年4月1日から、自己都合で会社を辞めた場合の失業給付の制限期間が短縮されることが決定しています。現状では、正当な理由のない自己都合による離職の場合、失業給付が受けられるまでに2ヶ月間の給付制限期間が設けられています。
しかし、この改正後は、給付制限期間が1ヶ月に短縮されます。これにより、自己都合で離職した労働者も、より早く失業給付を受け取れるようになり、生活の立て直しや再就職活動への移行がスムーズになることが期待されます。
この変更は、労働者が新しい働き方やキャリア形成に挑戦しやすい環境を整えることを目的としています。特に、再就職に向けた準備期間の経済的な負担を軽減し、早期の社会復帰を支援する狙いがあります。労働者にとっては、安心してキャリアチェンジを検討できる材料の一つとなるでしょう。
新たな給付制度の創設
労働者のキャリアアップやスキルアップを支援するため、2025年10月1日からは、「教育訓練休暇給付金」という新たな給付制度が創設される予定です。
これは、労働者が自らの意思で教育訓練やリスキリングに取り組むために休暇を取得した場合、その期間の賃金の一部を雇用保険から給付するという制度です。具体的な給付条件や給付額については、今後の詳細な発表が待たれますが、労働者が自己投資しやすい環境を整えることを目的としています。
現代社会では、技術の進歩や産業構造の変化が著しく、労働者に求められるスキルも常に変化しています。この給付金制度の創設は、そうした変化に対応し、労働者が生涯にわたって学び続け、市場価値を高めるための後押しとなるでしょう。
企業にとっても、従業員のスキルアップは生産性向上やイノベーション創出に繋がるため、この制度は労働者と企業双方にとってメリットのある施策と言えます。
加入義務がないケースや、加入しない選択肢について
雇用保険の対象外となるケース
雇用保険は多くの労働者を対象としていますが、全ての人が加入義務を負うわけではありません。以下のようなケースでは、雇用保険の対象外となることがあります。
- 週の所定労働時間が基準未満の労働者: 現在は週20時間未満、2028年10月以降は週10時間未満の労働者は原則として対象外です。
- 法人代表者や取締役: 原則として雇用保険は「労働者」を対象とするため、会社の経営を担う立場にある法人代表者や取締役は対象外です。ただし、労働者としての要件(雇用契約があり、労働の対価として賃金を得ているなど)を同時に満たす場合は、例外的に加入できることもあります。
- 特定の学生: 原則として昼間部の学生は対象外です。これは、学業が本分であり、雇用保険の給付対象となる「失業」の概念に当てはまらないとされているためです。しかし、通信制や夜間部、休学中の学生などは、例外的に加入できる場合があります。
- その他: 高齢者の継続雇用制度において、特定の条件を満たさない場合や、季節労働者で短期間の雇用を繰り返す場合など、個別の事情によって対象外となるケースもあります。
ご自身の状況がこれらに該当するかどうか不明な場合は、ハローワークや専門家への相談をおすすめします。
労働者側で「利用しない」という選択肢
雇用保険の加入は、要件を満たせば企業に義務付けられているため、労働者側から「加入しない」という選択肢は法的に認められていません。つまり、条件を満たす労働者は、原則として全員が被保険者となります。
しかし、「加入しない」という言葉が指す意味合いによっては、労働者自身が雇用保険の給付(例えば失業手当)を「利用しない」という選択をすることは可能です。
例えば、会社を退職後すぐに次の再就職先が決まっている場合や、当面の生活費に困らず、敢えて失業手当を受給する必要がないと判断するケースなどがこれに当たります。失業手当を受給するためには、ハローワークで求職の申し込みを行い、積極的に求職活動を行う義務がありますが、これらの活動を行わないことで、実質的に失業手当を利用しないという状況になります。
ただし、保険料は加入義務のある期間は支払われます。利用しないことで保険料の払い戻しがあるわけではありませんので、その点は理解しておく必要があります。
加入しない場合のメリット・デメリット
先にも述べたように、法的には「加入しない」という選択肢はありませんが、もし仮に何らかの理由で雇用保険に加入しない状況になった場合、あるいは給付金を利用しない選択をした場合、以下のようなメリット・デメリットが考えられます。
メリット
- 保険料負担がない(未加入の場合): 雇用保険料は給与から天引きされるため、未加入であればその分の手取り額は増えます。
デメリット
- 失業手当が受け取れない: 職を失った際に、経済的な支援が全く得られなくなります。これにより、生活が不安定になるリスクが高まります。
- 育児休業給付金が受け取れない: 育児休業期間中の収入補填がなくなるため、子育てと仕事の両立が経済的に困難になる可能性があります。
- 教育訓練給付金が利用できない: スキルアップやキャリアチェンジのための教育訓練を受ける際に、費用の補助が受けられなくなります。
- 介護休業給付金が受け取れない: 家族の介護のために休業した場合の給付金も対象外となります。
- 加入期間がリセットされる可能性: 一度雇用保険の被保険者資格を喪失し、一定期間が経過すると、それまでの加入期間がリセットされ、再度受給資格を得るまでに新たな加入期間が必要になる場合があります。
これらのデメリットを考えると、雇用保険への加入は、労働者にとって万が一の備えとして非常に重要であることがわかります。保険料の負担はありますが、それ以上の安心と保障が得られる制度だと言えるでしょう。
雇用保険に関するよくある質問
パート・アルバイトでも加入できる?
はい、パートやアルバイトの方でも、雇用保険の加入要件を満たせば加入できます。雇用保険は雇用形態に関わらず、労働時間や雇用期間などの条件に基づいて加入が決まります。
現在の主な加入要件は以下の通りです。
- 31日以上雇用される見込みがあること
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 原則として学生でないこと(例外あり)
もしこれらの条件を満たしているにもかかわらず、雇用保険に加入できていない場合は、勤めている会社の人事・労務担当者に確認するか、ハローワークに相談してみることをお勧めします。
さらに、2028年10月からは、週の所定労働時間が10時間以上であれば雇用保険の加入対象となるように要件が緩和されます。これにより、これまで対象外だった多くのパート・アルバイトの方々も、新たに雇用保険のセーフティネットの恩恵を受けられるようになるでしょう。
学生でも加入できるケースは?
原則として、昼間部の学生は雇用保険の対象外とされています。これは、学業が本分であり、雇用保険が想定する「失業」の概念に当てはまらないと解釈されているためです。
しかし、以下のような場合は、例外的に学生でも雇用保険に加入できる可能性があります。
- 通信制の学校に通う学生: 昼間部の学生とは異なり、学業と仕事を両立していると見なされるケースが多いため、加入できることがあります。
- 夜間部の学生: 同様に、夜間に学業を行い、日中に就労している場合も対象となることがあります。
- 休学中の学生: 学業を一時中断し、就労活動を行っている場合は、一時的に加入対象となることがあります。
- 卒業見込みの学生: 卒業後も引き続き同じ事業所で働くことが内定しており、かつ卒業前に加入条件を満たす場合は、特例的に加入が認められることがあります。
学生の身分で雇用保険の加入について不明な点がある場合は、自身の雇用条件と照らし合わせ、学校の担当部署やハローワークに相談すると良いでしょう。
加入状況を確認する方法は?
自分が雇用保険に加入しているかどうか、また加入期間がどのくらいあるかを確認する方法はいくつかあります。もしご自身の状況が不明な場合は、以下の方法で確認してみましょう。
- 雇用保険被保険者証を確認する: 雇用保険に加入すると、会社から「雇用保険被保険者証」が交付されます。通常は入社時に渡されるか、会社が保管している場合もあります。この証書には、雇用保険の番号などが記載されています。
- 給与明細を確認する: 毎月の給与明細に「雇用保険料」の項目があり、そこから保険料が天引きされていれば、加入していることになります。
- ハローワークで照会する: 最も確実な方法として、最寄りのハローワークで「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出し、自分の雇用保険の加入状況を照会することができます。身分証明書が必要となります。
- 会社の人事・労務担当者に確認する: 勤務先の人事部や労務担当者に直接問い合わせて確認することも可能です。
特に転職や退職を検討している場合、雇用保険の加入期間は失業手当の受給資格や給付日数に影響するため、正確な情報を把握しておくことが非常に重要です。早めに確認し、もし未加入であったり不明な点があったりする場合は、適切な対応を取りましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用保険の加入義務がないのはどのような場合ですか?
A: 原則として、一定時間以上働く労働者は雇用保険の加入義務がありますが、週20時間未満の労働者や、一定の要件を満たす学生、フリーランスなどは加入義務がありません。
Q: フリーランスは雇用保険に加入できますか?
A: フリーランスは原則として雇用保険の被保険者にはなりませんが、任意で「特定受給資格者」や「特定理由離職者」として雇用保険に加入できる制度もあります。ただし、条件があります。
Q: 外国人でも雇用保険に加入できますか?
A: 在留資格や雇用形態によりますが、日本で就労する外国人は、一定の条件を満たせば雇用保険の被保険者となることが可能です。技能実習生やワーキングホリデーの方も、条件次第で加入対象となります。
Q: 会社役員は雇用保険に加入義務がありますか?
A: 原則として、役員報酬を受けている会社役員は雇用保険の被保険者にはなりませんが、一定の条件を満たす場合は加入できる場合があります。業務委託で働く方も同様に、雇用関係の有無で加入要件が変わります。
Q: NPO法人の理事長や酪農従事者は雇用保険に加入できますか?
A: NPO法人の理事長は、役員報酬の有無や常勤性などによります。酪農従事者も、雇用関係があれば雇用保険の加入対象となる可能性があります。個別のケースについては、ハローワークにご確認ください。