概要: 雇用保険で失業手当(基本手当)がいくらもらえるのか、平均額や計算方法を分かりやすく解説します。さらに、受給資格に影響する「壁」についても触れ、制度を理解し活用するための情報を提供します。
雇用保険の基本:失業手当(基本手当)の仕組み
退職後の生活を支える大切な制度、それが雇用保険です。
特に、失業中に給付される「基本手当」(一般的には失業保険と呼ばれるもの)は、次の仕事を探す期間の生活費をサポートしてくれます。
しかし、その仕組みは意外と複雑で、「いくらもらえるの?」「いつからもらえるの?」といった疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
失業手当(基本手当)とは?その目的
失業手当(正式名称:雇用保険の基本手当)は、雇用保険に加入していた方が、離職後に再就職を希望するにもかかわらず仕事が見つからない場合に支給される手当です。
この制度の主な目的は、失業中の生活の安定を図り、安心して求職活動に専念できるよう支援することにあります。
支給額は、離職前の給与額、年齢、被保険者期間、そして離職理由といった複数の要素によって個別に計算されます。
まさに、失業期間のセーフティネットとして、私たちの生活を支えてくれる重要な役割を担っているのです。
受給資格と対象者:誰がもらえる?
雇用保険の基本手当を受け取るには、いくつかの条件を満たす必要があります。
まず、ハローワークで求職の申し込みを行い、積極的に就職活動を行っていることが前提です。
次に、離職理由によって被保険者期間の要件が異なります。
自己都合退職の場合は、離職日以前2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上必要となります。
一方、倒産や解雇など会社都合による退職(特定受給資格者)や、契約期間満了などの正当な理由のある自己都合退職(特定理由離職者)の場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば受給対象となります。
これらの条件を満たすことで、失業手当の申請が可能になります。
支給額の基本的な考え方と構成要素
失業手当の支給額は、大きく分けて「基本手当日額」と「所定給付日数」という二つの要素の掛け算で決まります。
基本手当日額は、離職前の賃金に基づいて計算される一日あたりの支給額です。
そして、所定給付日数は、その基本手当が何日間支給されるかを示すもので、離職理由、年齢、雇用保険の加入期間によって変動します。
具体的な計算の基礎となるのは、離職日以前6ヶ月間に支払われた賃金(賞与を除く総支給額)です。
この賃金を元に「賃金日額」が算出され、そこから基本手当日額が決定されます。
最終的な総支給額は、基本手当日額と所定給付日数を乗じることで導き出されます。
雇用保険でもらえる金額の計算方法:平均賃金が鍵
失業手当の金額を理解するには、まず「基本手当日額」と「賃金日額」の関係性を把握することが重要です。
これらは、離職前のあなたの働き方や給与がどれだけ支給額に影響するかを示す指標となります。
漠然と「いくらもらえるんだろう」と考えるよりも、具体的な計算方法を知ることで、より明確な見通しが立つでしょう。
基本手当日額の具体的な計算ステップ
基本手当日額は、まず「賃金日額」を算出することから始まります。
賃金日額は、離職日以前6ヶ月間の総支給額(税金や社会保険料控除前の額で、賞与は含みません)を180日で割ることで求められます。
例えば、月給25万円の方が6ヶ月間勤務した場合、25万円 × 6ヶ月 = 150万円。150万円 ÷ 180日 = 約8,333円が賃金日額となります。
次に、この賃金日額に45%~80%の給付率を乗じて基本手当日額が決定されます。
賃金が低い方ほど給付率が高く設定されており、生活保障の側面が強化されています。
60歳から64歳の方も同様に45%~80%の給付率が適用されます。
年齢と賃金日額による上限・下限額
基本手当日額には、年齢や賃金日額に応じて上限額と下限額が設定されています。
これは、あまりにも高額な給付を抑制しつつ、最低限の生活を保障するための措置です。
例えば、2025年8月1日以降、30歳未満の方の基本手当日額の上限は7,065円、下限は2,295円となる予定です。
年齢が上がると上限額も段階的に引き上げられる傾向があります。
これらの金額は社会情勢に合わせて定期的に見直されるため、最新の情報は厚生労働省のウェブサイトなどで確認することが不可欠です。
ご自身の年齢と賃金日額を当てはめて、おおよその基本手当日額を確認してみましょう。
所定給付日数の決まり方と種類
失業手当が支給される期間、つまり「所定給付日数」は、離職理由、離職時の年齢、そして雇用保険の被保険者期間によって細かく定められています。
自己都合退職の場合、雇用保険の加入期間に応じて90日から150日の範囲で支給されます。
一方、倒産や解雇などの会社都合退職(特定受給資格者)の場合は、加入期間が短い方でも90日、長い方では最大330日まで支給期間が延びる可能性があります。
例えば、雇用保険加入期間8年で30歳の会社都合退職者であれば、120日分の基本手当が支給されます。
これらの日数は、求職者の状況に応じてきめ細やかに設定されており、再就職までの期間を支援する仕組みとなっています。
【具体例】雇用保険でもらえる平均額はいくら?
雇用保険の仕組みは理解できたものの、「具体的に自分はいくらもらえるの?」という疑問が残るかもしれません。
ここでは、具体的なシナリオを想定して、失業手当の支給額をシミュレーションしてみましょう。
ご自身の状況に当てはめて、参考にしてみてください。
これらの計算はあくまで目安であり、実際の支給額は個別の状況によって異なることをご留意ください。
自己都合退職の場合の支給額シミュレーション
例えば、30歳、勤続5年、離職前6ヶ月間の総支給額が月平均25万円(賞与なし)で自己都合退職したケースを考えてみましょう。
まず、賃金日額は25万円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 約8,333円となります。
この賃金日額の場合、基本手当日額は約5,000円〜6,600円程度(給付率60〜80%)となるでしょう。仮に6,000円とします。
自己都合退職、勤続5年の場合、所定給付日数は90日間です。
したがって、総支給額は6,000円/日 × 90日 = 540,000円となります。
ただし、自己都合退職の場合は、7日間の待期期間に加え、2ヶ月(過去5年以内に2回以上自己都合退職している場合は3ヶ月)の給付制限期間があるため、支給開始は最短で2ヶ月と7日後となります。
会社都合退職の場合の支給額シミュレーション
次に、40歳、勤続10年、離職前6ヶ月間の総支給額が月平均30万円(賞与なし)で会社都合退職(特定受給資格者)したケースです。
賃金日額は30万円 × 6ヶ月 ÷ 180日 = 10,000円となります。
この賃金日額の場合の基本手当日額は、例えば6,500円とします。
会社都合退職で勤続10年、40歳の場合、所定給付日数は180日間となります。
したがって、総支給額は6,500円/日 × 180日 = 1,170,000円です。
会社都合退職の場合、7日間の待期期間後すぐに支給が開始されるため、自己都合退職に比べて早期に給付を受けられるメリットがあります。
このように、離職理由や被保険者期間によって支給額や期間に大きな差が出ることが分かります。
所得代替率から見る実質的な補填状況
失業手当の給付率は、離職前の賃金日額の45%~80%とされています。
これは「所得代替率」と呼ばれるもので、失業中の所得が離職前のどの程度補填されるかを示す指標です。
給付率が最大80%に達するのは、主に賃金日額が低い方であり、生活困窮リスクが高い層への手厚い保障が考慮されています。
例えば、賃金日額が上限に近い高所得者の場合、給付率は45%程度に留まることが多く、手取り額を考えると、実質的な所得代替率はさらに低くなる可能性があります。
つまり、失業手当は生活の基盤を支えるものではありますが、離職前の生活水準を完全に維持できるわけではないことを理解しておく必要があります。
給付額は手取り額ではなく、賞与などを除いた総支給額を基に計算される点も覚えておきましょう。
意外と知らない?雇用保険の「壁」とは
雇用保険の基本手当は、失業中の大きな支えとなりますが、実際に受給するまでにはいくつかの「壁」が存在します。
特に自己都合退職の場合、予想以上に支給開始が遅れることがありますし、年齢や再就職のタイミングによっても、受給できる手当の種類や条件が変わってきます。
これらの「壁」を事前に知っておくことで、計画的な準備を進め、安心して次のステップへ進むことができるでしょう。
自己都合退職の「2ヶ月(または3ヶ月)の壁」
自己都合で会社を辞めた場合、失業手当の支給開始には、通常よりも長い期間を要します。
まず、求職の申し込みをしてから7日間の「待期期間」があります。
これに加えて、自己都合退職の場合は「給付制限期間」が設けられ、原則として2ヶ月間、手当の支給がストップします。
もし過去5年以内に2回以上自己都合退職をしている場合は、給付制限期間が3ヶ月間に延長されます。
つまり、最短でも2ヶ月と7日後、最長で3ヶ月と7日後にようやく手当が支給開始されるのです。
この期間の生活費は自己資金で賄う必要があるため、退職前に十分な貯蓄をしておくことが、この「壁」を乗り越える上で非常に重要となります。
65歳以上で退職した場合の「高年齢求職者給付金」の壁
雇用保険の基本手当は、原則として65歳未満の方が対象です。
しかし、65歳以上で退職した方も、条件を満たせば「高年齢求職者給付金」を受け取ることができます。
これは通常の基本手当とは異なり、一時金としてまとめて支給される制度です。
支給額は被保険者期間によって異なり、1年未満の場合は基本手当日額の30日分、1年以上あった場合は50日分が支給されます。
65歳以上で雇用保険に加入していた方は、通常の失業手当とは別の制度が適用されるため、ハローワークで詳細を確認し、適切な申請手続きを行うことが大切です。
老後の生活設計にも関わる重要なポイントと言えるでしょう。
早期再就職時の「再就職手当」という別の壁
失業手当の受給中に早期に再就職が決まった場合、残りの給付日数が一定以上あれば、「再就職手当」を受け取れる制度があります。
これは、求職者の早期の社会復帰を支援するためのもので、再就職を促進する役割を果たします。
再就職手当の支給額は、失業手当の支給残日数によって決まり、支給残日数が多いほど高額になります。
しかし、この手当を受け取ることは、残りの基本手当を放棄することでもあります。
つまり、早く就職すればするほど手当は増えますが、その一方で失業手当としての恩恵は終わるという「壁」と捉えることもできます。
再就職手当の条件やメリットをよく理解し、ご自身のキャリアプランに合わせて賢く選択することが求められます。
雇用保険をもっと活用するために知っておきたいこと
雇用保険は、失業手当だけでなく、様々な形で私たちのキャリアをサポートしてくれる制度です。
その恩恵を最大限に活用するためには、制度の全体像を理解し、適切なタイミングで手続きを行い、積極的に求職活動に取り組むことが不可欠です。
知っているか知らないかで、受けられる支援の幅が大きく変わることもあります。
ここでは、雇用保険をより効果的に活用するためのポイントをご紹介します。
申請手続きの流れと必要書類
失業手当を受け取るには、まず住所地を管轄するハローワークで手続きを行う必要があります。
基本的な流れとしては、離職票の提出から始まり、求職の申し込み、受給資格の決定、初回説明会への参加、そして失業認定日ごとの求職活動実績の申告へと進みます。
必要書類としては、離職票(-1, -2)、本人確認書類(運転免許証など)、マイナンバーカード、写真(縦3cm×横2.5cm)、印鑑、そして預金通帳(本人名義)が一般的に挙げられます。
これらの書類を不備なく揃え、指定された期間内にハローワークへ提出することが、スムーズな受給の第一歩となります。
手続きは複雑に感じるかもしれませんが、ハローワークの職員が丁寧にサポートしてくれますのでご安心ください。
失業中の求職活動のポイント
失業手当の受給には、「積極的に就職活動を行っていること」が必須条件となります。
具体的には、原則として2回以上の求職活動実績を失業認定日までに報告する必要があります。
求職活動と認められる具体的な内容は多岐にわたりますが、ハローワークでの職業相談や職業紹介、求人への応募、再就職に役立つ資格取得のための講座受講などが該当します。
ただ漠然と求人サイトを見るだけでは実績として認められない場合が多いので注意が必要です。
ハローワークでは、職業訓練の紹介や履歴書・職務経歴書の添削、面接対策など、求職活動に役立つ様々な支援を行っています。
これらのサービスを積極的に利用し、効率的に次の仕事を見つけることが、失業手当を最大限に活用する鍵となります。
知っておくと役立つその他の給付金制度
雇用保険は、失業手当や再就職手当だけではありません。
その他にも、特定の条件を満たすことで利用できる様々な給付金制度があります。
例えば、スキルアップやキャリアチェンジを目指す方を支援する「教育訓練給付金」は、厚生労働大臣が指定する講座を受講した場合に、受講費用の一部が支給される制度です。
また、育児や介護のために休業する際に支給される「育児休業給付金」や「介護休業給付金」も雇用保険の制度の一部です。
これらの制度は、労働者の職業生活の安定と向上を目的としています。
ご自身の状況に合わせて、利用できる給付金がないか調べてみましょう。
不明な点があれば、ハローワークや社会保険労務士などの専門家に相談することで、最適な活用方法を見つけることができるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 雇用保険でもらえる失業手当(基本手当)の金額はどのように決まりますか?
A: 失業手当の金額は、離職日以前6ヶ月間の賃金総額を180で割った「平均賃金」と、年齢に応じた給付率(50%〜80%)を掛け合わせて計算されます。ただし、上限額・下限額が設定されています。
Q: 雇用保険で、もらえる金額の平均はどのくらいですか?
A: 雇用保険で支給される基本手当の平均額は、公的な統計データによると、おおよそ月12万円〜14万円程度とされています。ただし、個人の賃金や加入期間によって大きく変動します。
Q: 雇用保険の「壁」とは具体的にどのようなものですか?
A: 雇用保険の「壁」とは、主に自己都合退職の場合に、原則として7日間の待期期間に加えて2ヶ月または3ヶ月の給付制限期間があることを指します。この期間中は失業手当が支給されません。
Q: 雇用保険の受給期間には上限がありますか?
A: はい、雇用保険の基本手当の受給期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。ただし、病気や怪我などで引き続き30日以上働けない場合など、一定の条件を満たす場合は受給期間の延長が認められることがあります。
Q: 雇用保険をもっと理解するために、どこで情報を得られますか?
A: 雇用保険に関する最新の情報や、ご自身の状況に合わせた詳しい説明は、お近くのハローワークで直接相談するのが最も確実です。また、厚生労働省のウェブサイトにも関連情報が掲載されています。