雇用保険は、働く人々の生活を支え、企業の雇用を安定させるための重要な社会保険制度です。しかし、その仕組みや会社負担、加入対象者については「よくわからない」と感じる方も少なくないでしょう。

2025年度の雇用保険料率が発表され、改めて雇用保険への関心が高まっています。本記事では、この重要な制度について、会社負担の計算方法から、誰が支払義務を負うのか、さらには複雑な適用区分や手続きまで、経営者や人事担当者が知っておくべきポイントを徹底的に解説します。

最新の情報を基に、雇用保険の基本から応用までを分かりやすくひも解いていきましょう。

  1. 雇用保険とは? 会社負担と加入対象者を理解しよう
    1. 雇用保険の基本的な目的と役割
    2. 会社と労働者の負担割合:2025年度料率を詳しく
    3. 誰が加入対象? パート・アルバイト、65歳以上も
  2. 雇用保険、誰が払う? 経営者、個人事業主、専従者のケース
    1. 事業主が負う雇用保険の「支払義務」とは?
    2. 経営者・役員は雇用保険に加入できる?
    3. 個人事業主や家族専従者の特殊なケース
  3. 公務員や建設業、組合は? 雇用保険の適用区分を解説
    1. 事業の種類で異なる雇用保険料率
    2. 公務員や特殊法人職員の雇用保険適用
    3. 労働組合や協同組合における雇用保険
  4. 雇用保険設置届と変更届:必要な手続きと添付書類
    1. 雇用保険適用事業所設置届の提出
    2. 被保険者資格取得届の提出と注意点
    3. 事業所の情報変更や区分変更の手続き
  5. 雇用保険の産業分類と区分変更:知っておくべきポイント
    1. 雇用保険における産業分類の重要性
    2. 区分変更が発生する具体的なケースと影響
    3. 区分変更の手続きとハローワークへの相談
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 雇用保険の会社負担額はいくらですか?
    2. Q: 雇用保険は誰が払う義務がありますか?
    3. Q: 経営者や個人事業主は雇用保険に加入できますか?
    4. Q: 公務員や建設業、組合は雇用保険の適用対象外ですか?
    5. Q: 雇用保険設置届や区分変更届はいつ、どのように提出しますか?

雇用保険とは? 会社負担と加入対象者を理解しよう

雇用保険の基本的な目的と役割

雇用保険制度は、働く人々の安定した生活と雇用の促進を目的とした、日本の社会保険制度の一つです。失業した際に支給される「失業等給付」や、育児休業中に支給される「育児休業給付」などが主な給付金として知られています。

これらの給付金は、労働者が予期せぬ事態に直面した際の経済的な不安を軽減し、安心して再就職活動に専念できる環境を整える役割を担っています。

さらに、雇用保険には「雇用安定事業」や「能力開発事業」といった「雇用保険二事業」も含まれています。これらは、失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力向上などを支援する目的で実施されており、企業が従業員の教育訓練を行う際などに助成金が支給されることがあります。これにより、企業の人材育成や生産性向上も間接的にサポートされています。

会社と労働者の負担割合:2025年度料率を詳しく

雇用保険料は、労働者と事業主(会社)がそれぞれ負担しますが、その割合は事業の種類によって異なります。2025年度(令和7年度)の雇用保険料率は、以下の通りです。

事業の種類 労働者負担 事業主負担 合計
一般の事業 5.5/1,000 9/1,000 14.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 6.5/1,000 10/1,000 16.5/1,000
建設の事業 6.5/1,000 11/1/000 17.5/1,000

この料率は、「失業等給付・育児休業給付」と「雇用保険二事業」の合計です。特に注目すべきは、「失業等給付・育児休業給付」の保険料率は労働者と事業主がそれぞれ2分の1ずつ負担するのに対し、「雇用保険二事業」の保険料率は事業主のみが負担するという点です。

そのため、事業主負担の合計料率は、労働者負担分よりも高くなるのが一般的です。例えば、一般の事業で賃金総額が月20万円の場合、労働者負担分は200,000円 × 0.0055 = 1,100円となります。一方、事業主負担分は200,000円 × 0.009 = 1,800円となり、労働者負担より大きくなります。

誰が加入対象? パート・アルバイト、65歳以上も

事業主には、一定の要件を満たす従業員を雇用保険に加入させる義務があります。この要件は、正社員だけでなく、パートやアルバイト、さらには65歳以上の労働者にも適用されるため、注意が必要です。

原則として、以下の3つの条件をすべて満たす従業員は、雇用保険の加入対象となります。

  • 31日以上雇用される見込みがある
  • 週20時間以上働いている
  • 学生でない(一部例外あり)

例えば、週に20時間以上働き、数ヶ月以上の契約が見込まれるパートタイマーは、雇用形態にかかわらず加入対象となります。また、65歳以上の高齢者も、これらの条件を満たせば雇用保険に加入する義務が生じます。

事業主が加入義務のある労働者を雇用保険に加入させなかった場合、法律違反となり、罰則が科される可能性もあります。従業員を雇用した際は、速やかにこれらの加入要件を確認し、適切な手続きを行うことが重要です。

雇用保険、誰が払う? 経営者、個人事業主、専従者のケース

事業主が負う雇用保険の「支払義務」とは?

雇用保険料の「支払義務者」は、事業主です。これは、事業主が雇用している従業員の雇用保険料を、給与から天引きして徴収し、さらに自身の負担分と合わせて国に納付する義務があることを意味します。

労働保険料(雇用保険と労災保険)は、労働者の賃金から控除することが法律で認められている数少ない項目の一つです。そのため、会社は従業員の給与計算時に、労働者負担分の雇用保険料を正確に計算し、控除する必要があります。

徴収した労働者負担分と、会社負担分を合算した保険料は、定められた期日までに所轄の公共職業安定所(ハローワーク)または労働局を通じて納付しなければなりません。

この支払義務を怠り、未加入や滞納があった場合、遡って保険料の納付を求められるだけでなく、追徴金や罰則が科される可能性もあります。従業員の生活保障に関わる重要な義務ですので、事業主は責任をもって対応する必要があります。

経営者・役員は雇用保険に加入できる?

会社の代表取締役や取締役といった経営者、すなわち会社の役員は、原則として雇用保険の被保険者となることはできません。これは、雇用保険が「労働者」を対象とした制度であり、役員は会社と雇用関係にある「労働者」ではなく、会社を経営する「使用者」の立場にあると見なされるためです。

ただし、例外も存在します。例えば、役員でありながら、同時に従業員として労働者としての実態がある「従業員兼務役員」の場合です。この場合、労働者としての報酬が明確に区分され、指揮命令関係の下で労働に従事していると判断されれば、雇用保険の加入が認められることがあります。

しかし、その判断は非常に厳格であり、実態に応じて個別に判断されるため、安易に自己判断せず、不明な点はハローワークや社会保険労務士に相談することが賢明です。

個人事業主や家族専従者の特殊なケース

個人事業主自身は、従業員を雇用していない限り、雇用保険の加入対象とはなりません。これは、法人化された会社と同様に、事業主は「使用者」の立場にあるためです。しかし、個人事業主が従業員を一人でも雇用した場合は、その従業員を雇用保険に加入させる義務が生じます。

この場合、個人事業主は「雇用保険適用事業所」となり、従業員の雇用保険料を徴収し、事業主負担分と合わせて納付する必要があります。手続きも法人と同様に、ハローワークへの届け出が必要です。

また、個人事業主の事業を手伝う配偶者や子などの「家族専従者」についても、原則として雇用保険の対象外です。これは、通常、家族専従者と事業主の間には明確な雇用関係や指揮命令関係がないと見なされるためです。

ただし、家族専従者であっても、他従業員と同様に労働者としての実態(労働時間、賃金の支払い、指揮命令関係の存在など)が明確に認められる場合は、例外的に加入対象となることがあります。この判断も複雑なため、疑問があれば専門家やハローワークに相談しましょう。

公務員や建設業、組合は? 雇用保険の適用区分を解説

事業の種類で異なる雇用保険料率

雇用保険料率は、先ほども触れた通り、事業の種類によって大きく異なります。これは、各産業の雇用形態や離職率、雇用の安定性といった特性を反映しているためです。主な事業の種類と2025年度の料率は以下の通りです。

  • 一般の事業: 労働者負担 5.5/1,000、事業主負担 9/1,000
  • 農林水産・清酒製造の事業: 労働者負担 6.5/1,000、事業主負担 10/1,000
  • 建設の事業: 労働者負担 6.5/1,000、事業主負担 11/1,000

特に「建設の事業」の料率が高いのは、季節性の要因やプロジェクトごとの雇用形態、屋外作業による事故のリスクなどが背景にあり、一般の事業と比較して雇用の安定性が低いと判断されるためです。

事業主は、自社の事業がどの区分に該当するかを正確に把握し、適切な料率で雇用保険料を計算・納付する義務があります。複数の事業を行っている場合は、主たる事業の分類が適用されるのが原則ですが、事業内容によっては判断が難しいケースもあります。

公務員や特殊法人職員の雇用保険適用

公務員(国家公務員、地方公務員)は、原則として雇用保険の適用対象外です。これは、公務員が失業した場合に「国家公務員共済組合法」や「地方公務員共済組合法」に基づき、共済組合から失業給付に相当する手当が支給されるためです。

公務員は、一般企業とは異なる特別な身分保障がされているため、雇用保険制度の適用から除外されています。

しかし、近年増加している非正規雇用の公務員(臨時職員、非常勤職員など)については、民間企業の労働者と同様に雇用保険の加入要件を満たす場合、雇用保険の適用対象となることがあります。週の労働時間や雇用期間の見込みなど、一般的な加入条件に照らして判断されます。

また、国立大学法人や独立行政法人といった「特殊法人」の職員についても、法人形態や雇用契約の内容によっては雇用保険の対象となる場合があります。これらの判断は個別性が高いため、関係機関への確認が不可欠です。

労働組合や協同組合における雇用保険

労働組合や協同組合(農業協同組合、漁業協同組合、生活協同組合など)も、法人格を持つ組織であり、そこで働く従業員が存在します。これらの従業員については、通常の企業と同様に雇用保険の加入義務が発生します。

例えば、労働組合の専従職員や、協同組合の事務所で働く事務員などは、一般的な労働者と同じく、雇用保険の加入対象となります。事業主である労働組合や協同組合は、雇用保険適用事業所としてハローワークに届け出を行い、従業員の雇用保険料を徴収・納付する義務を負います。

この場合も、適用される雇用保険料率は、その組合の主たる事業活動の内容によって決定されます。例えば、農業協同組合であれば「農林水産・清酒製造の事業」の料率が適用される可能性があり、労働組合の事務職員であれば「一般の事業」の料率が適用されるのが一般的です。

組織の形態にかかわらず、労働者を雇用する以上は、雇用保険に関する法令遵守が求められます。

雇用保険設置届と変更届:必要な手続きと添付書類

雇用保険適用事業所設置届の提出

事業主が新たに会社を設立したり、従業員を初めて雇用したりして雇用保険の適用事業所となった場合、「雇用保険適用事業所設置届」を所轄のハローワークへ提出する必要があります。この届出は、雇用保険の加入義務が発生した日から10日以内に行うことが義務付けられています。

提出が遅れたり、怠ったりすると、過去に遡って保険料を徴収されたり、助成金が受けられなくなったりするなどの不利益が生じる可能性があります。

提出時には、以下の書類の添付が求められることが一般的です。

  • 法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  • 事業所の所在地を確認できる書類(賃貸借契約書など)
  • 事業内容がわかる書類(定款、会社案内など)
  • 労働者名簿、賃金台帳

これらの書類を事前に準備し、迅速かつ正確に手続きを進めることが、事業主の責務です。</

被保険者資格取得届の提出と注意点

事業所で新たに雇用保険の加入要件を満たす従業員を雇用した場合、その都度「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出する必要があります。この届出は、従業員を雇用した月の翌月10日までに行うとされています。

この届出によって、従業員は雇用保険の被保険者となり、将来の失業給付などの権利が確保されます。

資格取得届の提出時には、以下の書類を添付することが求められます。

  • 雇用契約書や労働条件通知書
  • 賃金台帳
  • 労働者名簿
  • 出勤簿
  • 身元確認書類(運転免許証など)

特に重要なのは、従業員のマイナンバーを正確に記載することです。また、氏名、生年月日、雇用年月日、賃金などの情報に誤りがないよう、細心の注意を払って記入しましょう。誤った情報で登録されると、将来の給付手続きに支障が生じる可能性があります。

事業所の情報変更や区分変更の手続き

事業所の名称、所在地、事業主の氏名や代表者の変更、さらには事業の種類が変更になった場合などには、「雇用保険適用事業所情報変更届」をハローワークに提出する必要があります。これらの変更が発生した日から10日以内に届け出るのが原則です。

特に重要なのが、事業の種類の変更です。例えば、これまで「一般の事業」として届け出ていた会社が、新たに「建設の事業」を主たる事業として行うようになった場合、適用される雇用保険料率が変わるため、この変更届が不可欠となります。

事業の種類変更を届け出ずにいると、本来支払うべき保険料と実際の支払額にずれが生じ、後に追徴金が発生する可能性もあります。変更届の提出には、変更内容を証明する書類(例:登記簿謄本、賃貸借契約書、事業計画書など)の添付が必要です。

事業内容や組織体制に変化があった際は、速やかにハローワークに相談し、必要な手続きを確認することが重要です。

雇用保険の産業分類と区分変更:知っておくべきポイント

雇用保険における産業分類の重要性

雇用保険制度において「産業分類」は、事業主が負担する雇用保険料率を決定する上で極めて重要な要素となります。雇用保険法では、事業を大きく「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに分類しており、それぞれに異なる料率が適用されます。

この分類は、各産業の雇用状況や事業の特性を考慮して設定されており、例えば建設業は季節性や短期雇用が多い特性から、他の事業よりも高い料率が設定されています。事業主は、自社がどの産業分類に属するかを正確に把握することで、適正な保険料を計算し、納付することができます。

誤った産業分類で届け出をしてしまうと、過大な保険料を支払うことになったり、逆に過少申告として後に追徴金が発生したりするリスクがあります。そのため、設立時や事業内容に変化があった際には、自身の事業がどの分類に該当するかを慎重に確認する必要があります。

区分変更が発生する具体的なケースと影響

事業主は、一度届け出た産業分類が永続するとは限りません。事業内容が変化した場合、雇用保険の産業区分変更の手続きが必要となることがあります。

具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 製造業(一般の事業)が、新たに住宅建築事業(建設の事業)を主力事業として開始した場合。
  • 農業法人(農林水産・清酒製造の事業)が、農産物加工・販売事業(一般の事業)を主たる事業に転換した場合。
  • 複数の事業を兼営しており、主たる事業の割合が変わった場合。

これらの区分変更が発生すると、最も直接的な影響として適用される雇用保険料率が変動します。料率が変われば、当然ながら毎月の事業主負担額が変化し、企業の経営計画にも影響を及ぼします。

また、変更を届け出ずにいると、過去に遡って差額の保険料を徴収されたり、助成金の受給資格に影響が出たりする可能性もあるため、注意が必要です。

区分変更の手続きとハローワークへの相談

事業内容の変化により、雇用保険の産業分類が変更となる場合は、速やかに「雇用保険適用事業所情報変更届」を所轄のハローワークへ提出する必要があります。

この届出には、変更後の事業内容がわかる書類や、事業内容の変更を証明する書類(例:定款の変更、事業計画書、決算報告書、新たな取引契約書など)の添付が求められます。これらの書類を通じて、事業の主たる内容がどのように変化したかを明確に示す必要があります。

事業の産業分類は、自己判断が難しいケースも少なくありません。特に複数の事業を兼営している場合や、新分野に進出した場合など、どの区分に属するかの判断に迷うこともあるでしょう。そのような場合は、必ず所轄のハローワークに事前に相談し、適切な区分を確認することをおすすめします

正しい区分で届け出を行い、適切に保険料を納付することは、事業主の義務であると同時に、従業員の雇用保険に関する権利を守るためにも非常に重要です。