概要: 退職の意思表示をいつまでにしなければならないか、就業規則で定められた期間は様々です。本記事では、一般的な期間や、60歳以降の定年延長に関わる就業規則について解説します。
退職・定年延長の就業規則、いつまでに?【2ヶ月前・3ヶ月前・70歳雇用】
会社を辞める際や、定年後の働き方を考えるとき、「いつまでに会社に伝えればいいのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
特に、近年は高年齢者雇用安定法の改正により、定年延長や70歳までの就業機会確保の動きが加速しています。これに伴い、企業の就業規則も大きく変化しています。
今回は、退職の意思表示のタイミングから、定年延長、70歳雇用における就業規則のポイントまで、最新の法改正情報を交えながら、分かりやすく解説していきます。スムーズな退職や定年延長のために、ぜひ参考にしてください。
退職の意思表示、就業規則で定められた期間とは?
法律上の退職届の提出期間
まず、法律上の退職届提出期間について見ていきましょう。民法では、期間の定めのない雇用契約の場合、退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば雇用契約が終了すると定められています。
つまり、法的には原則として2週間前に退職の意思を伝えれば、退職が可能です。
このルールは、労働者の「職業選択の自由」を保障するために重要なものです。しかし、実際に多くの企業では、就業規則でこの期間とは異なるルールを設けていることがあります。民法の規定はあくまで最低限の期間を定めたものであり、就業規則によってより長い期間が定められている場合があるのです。
そのため、退職を検討する際には、まずご自身の会社の就業規則を確認することが何よりも重要になります。
就業規則が定める期間の法的効力
就業規則に退職の意思表示期間が定められている場合、その規定は法的に有効なのでしょうか。原則として、就業規則に合理的な理由をもって定められた期間であれば、労働者はそれに従う必要があります。
例えば、「退職希望日の1ヶ月前までに申し出る」といった規定は、引き継ぎや後任の確保、会社側の業務調整に必要であると認められ、有効とされることが多いです。
ただし、あまりにも長すぎる期間(例えば半年や1年以上)を定めている場合、労働者の退職の自由を著しく制限するものとして、無効となる可能性もあります。裁判例では、合理性を欠くような極端な長期拘束は認められない傾向にあります。
就業規則は会社のルールですが、労働基準法などの法律の範囲内でなければなりません。もし、就業規則の規定に疑問を感じた場合は、専門家や労働基準監督署に相談することも検討しましょう。
就業規則に退職に関する規定がない場合
もし、お勤めの会社の就業規則に退職に関する明確な規定が一切ない場合はどうなるのでしょうか。このようなケースでは、民法の規定が適用されます。すなわち、退職の意思表示から2週間が経過すれば、雇用契約は終了となります。
これは、労働基準法が就業規則の作成・届出を義務付けているものの、罰則が軽微であるため、小規模な企業や新設の企業では就業規則が整備されていないケースも稀にあるためです。
しかし、就業規則に規定がないからといって、ギリギリのタイミングで退職を伝えるのは避けるべきです。円滑な引き継ぎや会社との良好な関係維持のためには、できるだけ早めに意向を伝え、話し合いを通じて退職日を決定することが望ましいでしょう。
会社側も人員の補充や業務の再配分に一定の時間が必要です。お互いに気持ちよく次のステップに進むためにも、誠実な対応を心がけることが大切です。
「2週間前」「1ヶ月前」「2ヶ月前」「3ヶ月前」…いつが一般的?
一般的な退職届の提出期間とその背景
民法では2週間前と定められていますが、実際に多くの企業で就業規則に規定されているのは、「1ヶ月前」が多い傾向にあります。
これは、後任への業務引き継ぎ、残務処理、未消化の有給休暇の消化、会社側の人材補充や手続きなどを考慮すると、2週間では時間が足りないという実情があるためです。特に、責任ある立場や専門性の高い業務を担当している場合は、引き継ぎにさらに時間を要することもあります。
会社が円滑に事業を継続するためには、ある程度の準備期間が必要です。そのため、多くの企業が1ヶ月という期間を設定し、労使双方にとって現実的な解決策として運用されています。</
この期間を守ることで、円満退職に繋がりやすく、退職後の会社からの問い合わせなども最小限に抑えることができます。
就業規則で長期の通知期間が定められているケース
企業によっては、就業規則で「2ヶ月前」や「3ヶ月前」といった、より長期の退職通知期間が定められているケースもあります。このような規定は、主に以下のような理由で設定されることが多いです。
- 高度な専門職や管理職: 後任の採用や育成に時間がかかり、引き継ぎが複雑になるため。
- 長期プロジェクトの担当者: プロジェクトの進行に大きな影響が出るため、計画的な引き継ぎが必要。
- 会社の規模や業種: 人員の流動性が低く、代替要員の確保が困難な場合。
しかし、前述の通り、あまりにも長すぎる期間は法的な有効性が問われる可能性があります。労働者の退職の自由を不当に制限することはできません。もし、このような長期の通知期間が定められていて、それが不当だと感じる場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することも一つの手です。
一方で、長期の通知期間が必要な職務の場合、余裕を持って会社に意思を伝えることで、会社との信頼関係を維持し、スムーズな引き継ぎを実現することができます。
期間を厳守しなかった場合の注意点
就業規則に定められた退職通知期間を厳守しなかった場合、いくつか注意すべき点があります。
最も大きなリスクは、会社とのトラブルに発展する可能性があることです。例えば、急な退職によって会社に損害が生じたとして、損害賠償を請求される可能性もゼロではありません。ただし、実際に損害賠償が認められるケースは極めて稀で、相当な因果関係と具体的な損害額の証明が必要となります。
また、有給休暇の消化や退職金、失業給付などの手続きに影響が出ることも考えられます。会社との関係が悪化すると、退職手続きがスムーズに進まなかったり、離職票の発行が遅れたりする可能性も出てきます。
何よりも、円満退職が難しくなるという点が挙げられます。退職は、次のステップへの門出です。後腐れなく気持ちよく会社を去るためにも、できる限り就業規則の規定に従い、難しい場合は会社と十分に話し合い、合意形成に努めることが重要です。
60歳以降の定年延長と就業規則:70歳雇用・継続雇用・再雇用について
65歳までの雇用確保義務化の完全適用(2025年4月)
高年齢者雇用安定法は、60歳定年後の働き方について重要な規定を設けています。特に注目すべきは、2025年4月1日から「65歳までの雇用確保」が完全義務化される点です。
これまでは段階的に実施されてきましたが、この日以降は、定年年齢を65歳未満としている全ての企業が、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 定年年齢の引き上げ: 定年を65歳以上とする。
- 継続雇用制度の導入: 希望する従業員を65歳まで雇用し続ける制度(再雇用制度や勤務延長制度)を導入する。この際、希望者全員を対象としなければなりません。
- 定年制の廃止: 定年制度自体をなくし、生涯現役で働けるようにする。
2024年6月1日時点の調査では、既に99.9%の企業が65歳までの雇用確保措置を実施済みです。その内訳は、継続雇用制度の導入が67.4%、定年の引き上げが28.7%、定年制の廃止が3.9%となっています。多くの企業が「継続雇用制度」を選択していることが分かります。
70歳までの就業機会確保は「努力義務」
65歳までの雇用確保が義務である一方で、70歳までの就業機会確保は「努力義務」とされています。これは、2021年4月1日から施行された改正高年齢者雇用安定法によるものです。
企業は、70歳まで従業員が働けるように、以下のいずれかの措置を講じるよう努めなければなりません。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
2024年6月1日時点の調査では、70歳まで働ける企業の割合は31.9%でした。具体的な内訳を見ると、「継続雇用制度の導入」が25.6%と最も多く、次いで「定年制の廃止」が3.9%、「定年の引き上げ」が2.4%となっています。意外にも中小企業(32.4%)の方が大企業(25.5%)よりも実施率が高い傾向にあるのが特徴です。
この数値からもわかるように、70歳雇用への対応はまだ発展途上であり、今後の企業の取り組みが期待されています。
継続雇用制度(再雇用・勤務延長)と賃金・労働条件
多くの企業が導入している「継続雇用制度」には、主に「再雇用制度」と「勤務延長制度」の2種類があります。
- 再雇用制度: 一度定年退職した後、改めて別の雇用契約を結び直す制度。
- 勤務延長制度: 定年後も退職することなく、引き続き雇用契約を継続する制度。
どちらの制度を選ぶかによって、労働条件や賃金体系が大きく変わる可能性があります。特に、60歳以降の賃金制度については、多くの企業で見直しが必要となります。
定年前と全く同じ賃金水準を維持する企業は少なく、役職定年や賃金カーブの変更が一般的です。従業員のモチベーションを維持しつつ、企業全体の賃金バランスを考慮した制度設計が求められます。
また、2025年4月1日以降は、高年齢雇用継続給付金の支給率が縮小される予定です。この給付金は、60歳以降の賃金が低下した場合に支給されるもので、その縮小は従業員の収入に影響を与える可能性があります。企業は、これらの変更も踏まえて、賃金制度の見直しを検討する必要があるでしょう。
就業規則の例から見る、退職・定年延長の留意点
退職に関する就業規則の確認ポイント
ご自身の会社の就業規則を実際に確認する際、退職に関して特に見ておくべきポイントがいくつかあります。主な確認ポイントは以下の通りです。
- 退職の申し出期間: 何日前までに会社に意思表示をする必要があるか。
- 手続き: 退職届の書式や提出先、有給休暇の消化方法など。
- 退職金の規定: 勤続年数や退職理由(自己都合・会社都合)による支給額や条件。
- 有給休暇の取り扱い: 退職時の未消化有給休暇の消化に関するルール。
- 引き継ぎ義務: 業務の引き継ぎに関する明確な指示や期間。
特に、自己都合退職と会社都合退職では、退職金の額や失業給付の受給条件が大きく異なる場合があります。また、懲戒解雇に関する規定も確認しておくと、万が一の際に自身の権利を理解するのに役立ちます。
試用期間中の退職については、本採用後とは異なる特別な規定が設けられていることもあるため、注意が必要です。
定年延長・継続雇用に関する就業規則の整備事例
定年延長や継続雇用に関する就業規則の整備は、企業にとって非常に重要な課題です。法改正に対応するため、以下の点が明確に規定されている必要があります。
- 定年年齢: 正確な定年年齢(例:60歳、65歳)。
- 継続雇用の対象者: 65歳までの雇用確保義務化に伴い、原則として「希望者全員」を対象とする旨。
- 雇用形態: 継続雇用後の雇用形態(正社員、嘱託社員、パートタイムなど)。
- 賃金・労働時間: 60歳以降の賃金体系(例:役職定年後の賃金、時給制への移行)や労働時間(フルタイム、短時間勤務など)。
- 職務内容: 継続雇用後の職務内容や配置転換に関する規定。
これらの規定は、労使間のトラブルを避けるためにも、具体的に、かつ分かりやすく記載されている必要があります。例えば、賃金規定については、具体的な計算方法や手当の有無などを明記することで、従業員が納得して働き続けられる環境を整えることができます。
また、国は65歳以上への定年引き上げや継続雇用制度導入に関する助成金制度を設けています。企業はこれらの助成金を活用しながら、制度整備を進めることも可能です。
就業規則変更時の従業員への周知と意見聴取
就業規則を変更する際には、会社にはいくつかの義務があります。最も重要なのが、労働基準監督署への届出義務と、従業員への周知義務です。
就業規則を変更した場合は、原則として遅滞なく、所轄の労働基準監督署長へ変更届を提出しなければなりません。この際、従業員代表の意見書を添える必要があります。
意見書は、従業員の代表者(労働組合または従業員の過半数を代表する者)が変更案に対してどのような意見を持っているかを示すものであり、会社はその意見に拘束されるわけではありません。しかし、従業員の意見を聞くことは、変更に対する理解を深め、後のトラブルを防ぐ上で非常に重要です。
そして、変更後の就業規則は、全ての従業員に周知する義務があります。具体的には、職場の見やすい場所に掲示する、書面で配布する、社内ネットワークのサーバーに保存して誰でも閲覧できるようにするなどの方法が考えられます。
従業員が自身の働き方や権利に関する会社のルールをいつでも確認できるようにしておくことは、法令遵守の基本です。</
スムーズな退職・定年延長のために、今すぐ確認すべきこと
自身の会社の就業規則をすみやかに確認する
退職を考えている方も、定年後の働き方に関心がある方も、まず最初に行うべきことはご自身の会社の就業規則の確認です。就業規則は、労働者の権利と義務、そして会社のルールを定めた最も重要な文書の一つです。
多くの企業では、就業規則を社内ポータルサイトに掲載したり、人事部門で閲覧できるようにしたりしています。もしどこにあるか分からない場合は、遠慮せずに人事担当者や上司に尋ねてみましょう。
特に、退職に関する規定(申し出期間、手続き、退職金など)と、定年延長・継続雇用に関する規定(定年年齢、継続雇用の条件、賃金体系など)は、隅々まで目を通しておくべきです。不明な点があれば、勝手な判断をせず、人事部門や労働組合に確認してください。
早期に確認することで、余裕を持って計画を立てることができ、予期せぬトラブルを避けることにも繋がります。
退職・定年延長の意思を会社に伝えるタイミングと方法
就業規則を確認したら、次に重要になるのが、会社に意思を伝えるタイミングと方法です。
退職の場合、就業規則で定められた期間(例えば1ヶ月前)を意識しつつ、できるだけ余裕を持って会社に意思を伝えることが望ましいでしょう。早期に伝えることで、引き継ぎの時間を十分に確保でき、会社側も後任探しや業務調整の準備がしやすくなります。これにより、円満退職に繋がりやすくなります。
また、口頭での伝達だけでなく、退職届などの書面で正式に提出することが重要です。これにより、言った・言わないのトラブルを防ぎ、退職の意思表示の証拠を残すことができます。定年延長や継続雇用を希望する場合も、会社が定めた手続きに従い、書面で意思表示を行うことが肝心です。
誠実なコミュニケーションを心がけることで、会社との良好な関係を維持し、退職後も円滑な関係を築くことができるでしょう。
今後のキャリアプランと定年延長制度の活用
定年延長や継続雇用制度を活用して働き続けることを検討している場合は、自身のキャリアプランと会社の制度が合致するかをよく考える必要があります。
継続雇用後の職務内容、勤務地、労働時間、そして最も重要な賃金について、事前に会社と具体的な話し合いを行うようにしましょう。期待していた働き方と現実が異なる、賃金が大幅に下がる、といったギャップが生じないよう、しっかりと確認することが大切です。
場合によっては、会社に相談する前に、社外のキャリアコンサルタントやハローワークの相談窓口などを利用して、自身のキャリアについて客観的なアドバイスをもらうのも有効な手段です。
定年延長は、新たな働き方やセカンドキャリアのチャンスでもあります。自身の希望と会社の制度をしっかりと比較検討し、納得のいく選択ができるよう、計画的に準備を進めていきましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 退職の意思表示は、就業規則でいつまでに伝えるのが一般的ですか?
A: 一般的には、退職希望日の1ヶ月前までに通知するよう定められていることが多いですが、就業規則によっては2週間前、2ヶ月前、3ヶ月前など、より早い期間を定めている場合もあります。
Q: 「2週間前」や「30日前」といった短い期間でも退職は可能ですか?
A: 就業規則で定められた期間を守ることが望ましいですが、やむを得ない事情がある場合は、会社と相談の上、柔軟に対応してもらえる可能性もあります。まずは人事担当者に相談してみましょう。
Q: 60歳以降の定年延長や継続雇用、再雇用に関する就業規則はありますか?
A: はい、あります。多くの会社では、60歳以降の希望者に対して、一定の条件のもとで継続雇用や再雇用制度を設けており、その条件や手続きが就業規則に定められています。
Q: 70歳まで働きたい場合、就業規則でどのような点を確認すべきですか?
A: 70歳での雇用、継続雇用、再雇用に関する規定を確認しましょう。年齢の上限、雇用形態、業務内容、賃金体系、契約期間などが具体的に記載されているはずです。
Q: 就業規則の例はどこで確認できますか?
A: 会社の就業規則は、社内のイントラネットや人事部、総務部などで確認できます。不明な点は、これらの部署に直接問い合わせるのが確実です。